JP4674091B2 - 内面コーティング方法および内面コーティング装置 - Google Patents

内面コーティング方法および内面コーティング装置 Download PDF

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Description

この発明は、内面コーティング方法および内面コーティング装置に関し、特に例えば筒状の被処理物の内面(中空部の壁面)にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって被膜を形成する内面コーティング方法および内面コーティング装置に関する。
パイプ等の筒状の被処理物の内面に被膜を形成する技術として、従来、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来技術によれば、真空槽内に配置された試料(被処理物)の開口部中央に、接地電位(GND)に接続された棒状の補助電極が挿入される。そして、真空槽内が排気された後、当該真空槽内に炭素を含むガスが導入され、この状態で、試料に接地電位を基準とする高周波電圧または負の直流電圧が印加される。これによって、試料の開口部を含む真空槽内にプラズマが発生し、当該開口部の内面に硬質炭素膜(カーボン膜)が形成され、つまり内面コーティングが施される。また、開口部中央に補助電極が挿入されることで、ホロー放電(Hollow Cathode
Discharge Plasmas)と呼ばれる一種の異常放電の発生が抑制され、当該硬質炭素膜の密着性が良好になる旨が、開示されている。
特開2000−119853号公報
しかし、上述の従来技術では、試料の開口部内面のみならず、補助電極にも炭素膜が付着する。この補助電極に付着する炭素膜は、軟質(Polymer
Like)であるため、密着性が低く、コーティング中に剥離することがある。この場合、剥離した炭素(粉)が、開口部内面に再付着し、当該開口部内面が汚染されてしまう。かかる不具合を防止するには、補助電極を適宜洗浄し、または新品に交換する必要があり、そのためのメンテナンスの手間および費用が掛かる、という問題がある。
また、従来技術では、補助電極(外周壁)と開口部内面との間にプラズマ形成領域としての隙間を設ける必要があり、当該隙間の大きさを5[mm]程度とするのが好ましい、とされている。つまり、開口部の直径(内径)は、少なくとも当該隙間の大きさ(5[mm]×2)と補助電極の直径(少なくとも数[mm])とを足し合わせた寸法、例えば数十[mm]以上であることが必要とされる。従って、それよりも直径の小さい開口部にはコーティングを施すことができない、という問題もある。
そこで、この発明は、従来よりも簡単かつ安価に、しかも小さな内径の被処理物にも内面コーティングを施すことができる内面コーティング方法および内面コーティング装置を提供することを、目的とする。
かかる目的を達成するために、この発明は、筒状の被処理物の内面にプラズマCVD法により被膜を形成する内面コーティング方法であって、内部に被処理物が設置された真空槽の当該内部を排気する排気過程と、真空槽内に放電用ガスを導入する放電用ガス導入過程と、当該放電用ガスを放電させるための放電用電力を被処理物に供給する電力供給過程と、放電用ガスが放電することによって被処理物の中空部に当該中空部の両端間にわたって略均一な分布のホロー放電が生じるように真空槽内の圧力を制御する圧力制御過程と、被膜の材料となる材料ガスを真空槽内に導入する材料ガス導入過程と、を具備することを特徴とするものである。
即ち、この発明では、真空槽内に、筒状の被処理物が設置され、この真空槽内が、排気過程において排気される。そして、この排気後、放電用ガス導入過程において、真空槽内に放電用ガスが導入され、電力供給過程において、被処理物に放電用電力が供給される。これによって、放電用ガスの粒子(分子または原子)が放電(電離)し、プラズマが発生する。また、この放電に伴って、被処理物の中空部にホロー放電が生じる。このホロー放電は、一種の異常放電であるが、この発明では、当該ホロー放電を積極的に利用することで良好な内面コーティングを実現する。即ち、このたび、実験により、真空槽内の圧力を適宜制御することによって、被処理物の中空部に当該中空部の両端間にわたって略均一な分布(略一定の形状)の言わば安定したホロー放電を生じさせ得ることが、判明した。そこで、圧力制御過程において、かかる安定したホロー放電が生じるように、真空槽内の圧力が制御される。そして、材料ガス導入過程において、被膜の材料となる材料ガスが真空槽内に導入されると、被処理物の内面に被膜が形成され、つまり内面コーティングが施される。
なお、被処理物が、例えば円筒状のものである場合には、圧力制御過程において、当該被処理物の内径が小さいほど真空槽内の圧力を高くするのが、好ましい。
具体的には、被処理物の内径をd[mm]とし、真空槽内の圧力をP[Pa]とすると、圧力制御過程において、当該圧力Pの下限をP=k・d−2として制御を行うようにする。ここで、kは、放電用ガスの種類によって決定される係数、言わば圧力制御系数である。この圧力制御係数kは、放電用ガスの分子量(質量)が大きいほど小さくなる傾向にある。
さらに具体的には、例えば放電用ガスがアルゴン(Ar)ガスであるときは、上述の圧力制御係数kを1000とする。そして、圧力制御過程において、当該圧力制御係数k(=1000)と被処理物の内径dとによって導き出される圧力Pを下限として制御を行えば、被処理物の中空部に安定したホロー放電を生じさせることができる。
また、材料ガスとして、炭素を含むガス、例えばアセチレン(C)ガス等の炭化水素系のガスを用いれば、被処理物の内面にDLC(Diamond
Like Carbon)膜等の非晶質硬質炭素膜を形成することができる。
この発明によれば、上述した従来技術における補助電極のようなものを必要とせず、ホロー放電を積極的に利用することで、内面コーティングが実現される。従って、当該補助電極を必要とする従来技術に比べて、簡単かつ安価に、しかも内径の小さい被処理物にも内面コーティングを施すことができる。
この発明の一実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
図1に示すように、この実施形態に係る内面コーティング装置10は、両端が閉鎖された概略円筒形の真空槽12を備えている。この真空槽12は、当該円筒形の両端を、上下に位置させた状態、つまり上面および下面とした状態で、設置されている。なお、この真空槽12の内部空間の直径(内径)は、例えば約600[mm]であり、高さ寸法は、例えば約500[mm]である。また、真空槽12は、耐食性および耐熱性の高い金属、例えばSUS304等のステンレス製とされており、その壁部は、接地電位に接続されている。
そして、真空槽12の壁部の適宜位置、例えば側壁の或る部分には、排気口14が設けられており、この排気口14には、図示しない排気管を介して、真空槽12の外部に設けられた排気手段としての真空ポンプ16が結合されている。なお、図には詳しく示さないが、当該真空ポンプ16は、メカニカルブースタポンプとロータリポンプとで構成されている。
さらに、排気口14と対向するように、真空槽12の側壁には、当該真空槽12内に放電用ガスおよび材料ガスを導入するためのガスノズル18が設けられている。具体的には、放電用ガスとして、アルゴンガスおよび水素(H)ガスが用いられ、材料ガスとして、TMS(Tetra
Methyl Silane;Si(CH)ガスおよびアセチレンガスが用いられる。そして、これらのガスは、それぞれ専用のガス配管20,22,24および26と当該ガスノズル18とを介して、真空槽12内に導入される。なお、図には示さないが、各ガス配管20,22,24および26には、それぞれを流通するガスの流量を調整するための流量調整手段、例えばマスフローコントローラと、当該各ガス配管20,22,24および26内を開閉する開閉手段、例えば開閉バルブとが、設けられている。
そしてさらに、真空槽12内には、横方から見ると概略櫛形に形成された言わば櫛形電極28が設けられており、この櫛形電極28に、被処理物としての複数のパイプ30,30,…がセットされる。なお、各パイプ30,30,…は、両端が開放された円筒形のもの(円管)であり、互いに同一寸法とされている。
具体的に説明すると、櫛形電極28は、1本の丸棒状の支柱32と、この支柱32に取り付けられた複数枚、例えば4枚の円板状の基板台34,34,…とで、構成されている。このうち、支柱32は、その一端側が後述する高圧導入端子36によって支持された状態で、真空槽12内の略中央において垂直方向に延伸するように設けられている。なお、支柱32は、耐食性および耐熱性に優れた金属、例えばステンレス製またはアルミニウム合金製とされている。そして、この支柱32の長さ寸法、厳密には真空槽12内の底面から支柱32の上方端(他端)までの距離は、当該真空槽12内の高さ寸法よりも少し小さく、例えば400[mm]とされている。また、支柱32の直径は、基板台34の大きさやパイプ30の個数等によって変わるが、例えば10[mm]〜50[mm]とされている。
一方、基板台34,34,…もまた、ステンレス製或いはアルミニウム合金製とされている。そして、これらの基板台34,34,…は、支柱32を中心として同軸状に、かつ当該支柱32の長さ方向(垂直方向)において互いに略一定の間隔Dを置いた状態で、取り付けられている。さらに、それぞれの基板台34には、図2からも判るように、その両主面間を貫通する複数の円形の貫通孔38,38,…が設けられている。なお、各基板台34,34,…は、互いに同一寸法とされており、それぞれの直径は、セットされるパイプ30の直径(外径)や個数等に応じて、例えば200[mm]〜500[mm]とされている。また、それぞれの基板台34の厚さ寸法tは、パイプ30の長さ寸法Lよりも小さく、例えば5[mm]〜10[mm]とされている。さらに、各基板台34,34,…間の間隔Dは、パイプ30の長さ寸法Lよりも大きく、例えば当該パイプ30の長さ寸法Lの1.2倍〜1.5倍程度とされる。この間隔Dは、任意に調整可能とされているが、当該間隔Dが小さ過ぎるとガスの回り込みが悪くなって後述するホロー放電が発生せず、大き過ぎると1バッチ当たりのパイプ30の処理数が減少する(生産性が低下する)。従って、間隔Dは、上述の如くパイプ30の長さ寸法Lの1.2倍〜1.5倍程度が適当である。
そして、各貫通孔38,38,…のそれぞれに、パイプ30が、当該貫通孔38の上方から挿入された状態でセットされる。このため、貫通孔38の直径は、パイプ30の外径よりも少し、例えば1[mm]〜2[mm]ほど大きい。また、それぞれのパイプ30の上方端には、その周縁から外方に向かって張り出した概略鍔状のフランジ40が設けられており、このフランジ40が貫通孔38の周縁部分と干渉することで、当該パイプ30は固定される。なお、フランジ40の外径が貫通孔38の直径よりも大きいことは、言うまでもない。
さらに、それぞれのパイプ30には、基板台34および支柱32を介して、真空槽12の外部に設けられた電力供給手段としてのパルス電源装置42から、放電用電力としての非対称パルス電力が供給される。具体的には、パルス電源装置42は、支柱32の一端(下端)と接地電位との間に接続されている。そして、このパルス電源装置42から支柱32(櫛形電極28)に対し、接地電位を基準とする非対称パルス電力、詳しくはハイレベル(Hレベル)の電圧値が+37[V]、ローレベル(Lレベル)の電圧値が−37[V]以下の、いわゆる負パルス電力が、供給される。なお、この非対称パルス電力の周波数は、10[kHz]〜250[kHz]の範囲で任意に調整可能とされている。また、当該非対称パルス電圧のデューティ比(1周期に対するハイレベル期間の比率)およびローレベルの電圧値も、任意に調整可能とされている。そして、これら周波数,デューティ比およびローレベル電圧値を調整することで、各パイプ30,30,…に供給される総合的な電力値が決定される。
なお、上述した高圧導入端子36は、支柱32と真空槽12の壁部とを電気的に絶縁するためのいわゆる絶縁碍子であり、真空槽12の下面の略中央において当該下面を貫通するように設けられている。そして、この高圧導入端子36を介して、支柱32(櫛形電極28)とパルス電源装置42とが接続される。勿論、この高圧導入端子36と真空槽12の下面との接触部分、および当該高圧導入端子36と支柱32との接触部分は、シール材により封止されている。
このように構成されたコーティング装置10によれば、パイプ30,30,…の内面に被膜を形成するという内面コーティングを実現することができる。具体的には、真空槽12内の圧力P[Pa]を調整することで、パイプ30,30,…内(中空部)に安定したホロー放電を故意に発生させ、このホロー放電を利用することで、当該パイプ30,30,…の内面に良質な被膜を形成できることが、実験により確認された。
即ち、まず、真空槽12内(櫛形電極28)にパイプ30,30,…がセットされた状態で、当該真空槽12内が真空ポンプ16によって高真空状態、例えば2×10−3[Pa]以下にまで排気される。そして、この排気後、真空槽12内に放電用ガス、例えばアルゴンガスが、導入される。この状態で、パルス電源装置42から櫛形電極28に例えば100[W]〜500[W]の非対称パルス電力が供給されると、この非対称パルス電力の供給により真空槽12内のアルゴンガスの粒子が電離して、当該真空槽12内にプラズマが発生する。さらに、真空槽12内の圧力Pが或る一定の条件を満足すると、各パイプ30,30,…内に濃いプラズマが発生する、つまり安定したホロー放電が生じることが、目視により確認された。なお、真空槽12内の圧力Pは、例えば真空ポンプ16を構成する上述のメカニカルブースタポンプによる排気速度を制御することで、調整される。
図3に、安定したホロー放電が生じている状態をデジタルカメラで撮影した画像を示す。この図3において、筒状に見える複数の物体がパイプ30,30,…である。そして、特に同図の(a)において、各パイプ30,30,…の内側に白っぽく見える部分が、安定したホロー放電(ホロープラズマ)を示す。
このように真空槽12内の圧力Pを調整することで安定したホロー放電を発生させる、換言すれば当該ホロー放電を安定化させるという実験を、様々な内径dのパイプ30,30,…について行ったところ、図4に示すような結果が得られた。この図4は、内径dが6.00[mm],9.53[mm],19.05[mm],42.70[mm],60.50[mm]および100.00[mm]のパイプ30,30,…のそれぞれについて、安定したホロー放電が生じる圧力Pの下限値を測定した結果を表すグラフであり、同図において実線X(黒塗りの四角模様)で示される値が、放電用ガスとしてアルゴンガスが用いられたときの当該下限値を表す。なお、圧力Pは、上述した排気管内にバラトロン型の真空計を設けることで、測定した。
この図4の実線Xによれば、パイプ30,30,…の内径dが小さいほど、安定したホロー放電が生じる圧力Pの下限値が高くなる。そして、内径dが大きいほど、当該下限値は低くなることが、判る。
ここで、実線Xを数式で表すと、次の式1のようになる。
《式1》
P=4234.9d−2.0714
さらに、この式1を近似式で表すと、次の式2のようになる。
《式2》
P=k・d−2
この式2において、kは、内径dと共に圧力Pを決める係数、言わば圧力制御係数であり、図4の実線Xによれば、放電用ガスがアルゴンガスである場合には、当該圧力制御係数kの値は、1000、好ましくは2000、より好ましくは3000が、適当である。
つまり、放電用ガスとしてアルゴンガスが用いられる場合には、式2における圧力制御係数kに1000、好ましくは2000、より好ましくは3000という値を代入し、その算出結果を下限として圧力Pを制御すれば、安定したホロー放電を生じさせることができる。なお、ここで言う安定したホロー放電とは、例えば図5に点線模様50で示すように、それぞれのパイプ30内の両端間にわたって略一様な分布(略一定の形状)となる概略円柱状の放電を言う。このように略一様な分布の安定したホロー放電が生じることは、後述する実施例1および実施例2において略均一な膜厚分布が得られることからも、推察される。
そして、かかる安定したホロー放電が生じている状態で、真空槽12内に材料ガスが導入されると、当該材料ガスの種類に従う被膜がパイプ30,30,…の内面に形成され、つまり内面コーティングが施される。
なお、安定したホロー放電を生じさせるための圧力Pの上限値もまた、上述した式2により規定される。即ち、式2における圧力制御係数kとして10、好ましくは5×10、より好ましくは10という値を代入し、その算出結果を当該圧力Pの上限値とする。そして、この上限値と上述した下限値との間で圧力Pを調整すれば、安定したホロー放電を生じさせることができる。
また、放電用ガスとして水素ガスが用いられた場合に、安定したホロー放電を生じさせるための圧力Pの下限値についても、測定してみた。その結果を、図4に点線Yで示す。
この点線Yから判るように、放電用ガスとして水素ガスが用いられた場合も、上述のアルゴンガスが用いられた場合(実線X)と同様に、パイプ30,30,…の内径dが小さいほど、安定したホロー放電が生じる圧力Pの下限値が高くなり、内径dが大きいほど、当該下限値は低くなる。ただし、いずれの内径dにおいても、水素ガスが用いられた場合の圧力Pの下限値は、アルゴンガスが用いられた場合よりも高くなる。
ここで、実線Yを数式で表すと、次の式3のようになる。
《式3》
P=141151d−1.7710
そして、この式3もまた、上述した式2の近似式で表すことができる。この場合、圧力制御係数kの値は、例えば2×10、好ましくは3×10、より好ましくは4×10が、適当である。
また、圧力Pの上限値も、当該式2によって規定される。即ち、圧力制御係数kとして、例えば2×10、好ましくは3×10、より好ましくは4×10という値を代入し、その算出結果を圧力Pの上限値とする。そして、この上限値と上述の下限値との間で圧力Pを調整すれば、放電用ガスとして水素ガスが用いられた場合でも、安定したホロー放電を生じさせることができる。
さらに、参考までに、放電用ガスとして窒素(N)ガスが用いられたときの圧力Pの下限値についても、測定した。その結果を、図4に一点鎖線Zで示す。
この一点鎖線Zから判るように、放電用ガスとして窒素ガスが用いられた場合も、アルゴンガスまたは水素ガスが用いられた場合(実線Xおよび点線Y)と同様に、パイプ30,30,…の内径dが小さいほど、安定したホロー放電が生じる圧力Pの下限値が高くなり、内径dが大きいほど、当該下限値は低くなる。そして、いずれの内径dにおいても、窒素ガスが用いられた場合の圧力Pの下限値は、アルゴンガスが用いられた場合よりも高く、水素ガスが用いられた場合よりも低くなる。
ここで、実線Zを数式で表すと、次の式4のようになる。
《式4》
P=5908.8d−1.7872
そして、この式4もまた、式2の近似式で表すことができる。この場合、圧力制御係数kの値は、例えば5000、好ましくは10、より好ましくは2×10が、適当である。
また、圧力Pの上限値も、式2によって規定される。即ち、圧力制御係数kとして、例えば2×10、好ましくは10、より好ましくは5×10という値を代入し、その算出結果を当該圧力Pの上限値とする。そして、この上限値と上述の下限値との間で圧力Pを調整すれば、放電用ガスとして窒素ガスが用いられた場合にも、安定したホロー放電を生じさせることができる。
より具体的な実施例1として、真空槽12内に、内径dが100[mm]、長さ寸法Lが100[mm]のステンレス製のパイプ30を2本セットし、それぞれのパイプ30の内面にDLC膜をコーティングする実験を行った。なお、このDLC膜のコーティングに先立って、それぞれのパイプ30の内面を放電洗浄するという放電洗浄処理、および当該内面とDLC膜との密着性を向上させるべく中間層としての炭化珪素(SiC)膜を形成するためのコーティング処理を、この順番で行う。
即ち、まず、真空ポンプ16によって、真空槽12内を2×10−3[Pa]以下の高真空状態にまで排気する。そして、この排気後、真空槽12内に50[SCCM]の流量でアルゴンガスを導入すると共に、100[SCCM]の流量で水素ガスを導入する。さらに、真空ポンプ16によって、真空槽12内の圧力Pを7[Pa](式2においてk=7×10の状態)に維持し、この状態で、パルス電源装置42から櫛形電極28に400[W]の非対称パルス電力を供給する。すると、アルゴンガスおよび水素ガスの粒子が電離され、プラズマが発生する。そして、それぞれのパイプ30内にも、安定したホロー放電が発生する。このホロー放電に含まれるアルゴンイオンおよび水素イオンは、パイプ30の内面に衝突し、これによって当該内面が放電洗浄(エッチング)される。かかる放電洗浄処理を、20分間にわたって行う。
そして、この放電洗浄処理の後、上述した中間層(炭化珪素膜)を形成するためのコーティング処理を行う。即ち、アルゴンガスおよび水素ガスに加えて、TMSガスを30[SCCM]の流量で真空槽12内に導入する。そして、真空槽12内の圧力を8[Pa](式2においてk=8×10の状態)とする。さらに、非対称パルス電力の電力値を100[W]とする。これによって、それぞれのパイプ30内を含む真空槽12内において、TMSガスもプラズマ化される。そして、パイプ30の内面に、中間層としての炭化珪素膜が形成される。かかる中間層のコーティング処理を5分間にわたって行うことで、炭化珪素膜の膜厚は0.2[μm]となった。
続いて、DLC膜のコーティング処理に入る。即ち、真空槽12内への水素ガスの導入を停止すると共に、TMSガスの流量を5[SCCM]とする。さらに、アセチレンガスを50[SCCM]の流量で導入する。そして、真空槽12内の圧力を5[Pa](式2においてk=5×10の状態)とすると共に、非対称パルス電力の電力値を150[W]とする。これによって、それぞれのパイプ30内を含む真空槽12内において、アセチレンガスもプラズマ化される。そして、パイプ30の内面に、DLC膜、詳しくはシリコンが含有されたDLC膜が、形成される。そして、このDLC膜のコーティング処理を、20分間にわたって行う。
当該DLC膜のコーティング処理の終了後、非対称パルス電力の供給、および全てのガスの導入を、停止する。そして、約20分間の冷却期間を置いた後、真空槽12を開けて、それぞれのパイプ30を取り出す。
ここで、それぞれのパイプ30の内面に形成されたDLC膜の膜厚を測定したところ、両端(開口部)に近い部分の膜厚が2[μm]であり、中央部分の膜厚が1.8[μm]であった。つまり、当該内面に形成されたDLC膜の膜厚のバラツキ(膜厚の中間値に対する最大値と最小値との差の比率)は、±約5.3[%]であり、比較的に均一な膜厚分布が得られることが、証明された。また、成膜レートは、6[μm/h]であり、DLC膜のコーティングとしては比較的に高い成膜レートが得られた。さらに、DLC膜の表面粗さを測定したところ、Ra=0.005[μm]であり、例えばエンジン用部品として十分に適用可能な平滑さを得ることができた。
そしてさらに、当該DLC膜の機械的特性を測定したところ、硬度は1800[HK]であり、摩擦係数μは0.1であった。つまり、一般にDLC膜と呼ばれるのに必要とされる条件(硬度1000[HK]以上、摩擦係数μ=0.1以下)を、全て満足した。また、公知のボールオンディスク試験によって当該DLC膜の剥離荷重を測定したところ、200[kgf]であった。つまり、上述のエンジン用部品として十分に適用可能な高い密着性を得ることができた。
次に、実施例2として、真空槽12内に、内径dが8[mm]、長さ寸法Lが20[mm]のステンレス製のパイプ30を200本セットし、それぞれのパイプ30の内面にDLC膜をコーティングする実験を行った。なお、この実施例2においても、上述の実施例1と同様に、当該DLC膜のコーティングに先立って、放電洗浄処理、および中間層としての炭化珪素膜を形成するためのコーティング処理を、この順番で行う。
即ち、まず、真空ポンプ16によって、真空槽12内を2×10−3[Pa]以下の高真空状態にまで排気する。そして、この排気後、真空槽12内に100[SCCM]の流量でアルゴンガスを導入すると共に、100[SCCM]の流量で水素ガスを導入する。さらに、真空ポンプ16によって、真空槽12内の圧力Pを100[Pa](式2においてk=3600の状態)に維持し、この状態で、パルス電源装置42から櫛形電極28に300[W]の非対称パルス電力を供給する。この条件による放電洗浄処理を、20分間にわたって行う。
そして、放電洗浄処理の終了後、中間層を形成するためのコーティング処理を行う。即ち、アルゴンガスおよび水素ガスに加えて、TMSガスを10[SCCM]の流量で真空槽12内に導入する。そして、真空槽12内の圧力を120[Pa](式2においてk=4320の状態)とする。さらに、非対称パルス電力の電力値を200[W]とし、この条件によるコーティング処理を5分間にわたって行う。
続いて、DLC膜のコーティング処理に入る。即ち、真空槽12内への水素ガスの導入を停止すると共に、TMSガスの流量を3[SCCM]とする。そして、アセチレンガスを30[SCCM]の流量で導入する。さらに、真空槽12内の圧力を80[Pa](式2においてk=2880の状態)に維持し、非対称パルス電力の電力値を300[W]とする。そして、この条件によるDLC膜のコーティング処理を10分間にわたって行う。
当該DLC膜のコーティング処理の終了後、非対称パルス電力の供給、および全てのガスの導入を、停止する。そして、約20分間の冷却期間を置いた後、真空槽12を開けて、パイプ30,30,…を取り出す。
ここで、200本のパイプ30,30,…のうちの10本を無作為に選択し、この選択された10本のパイプ30,30,…について膜厚測定をしたところ、いずれも、両端に近い部分の膜厚が1[μm]であり、中央部分の膜厚が1.2[μm]であった。つまり、膜厚のバラツキは、±約9.1[%]であり、比較的に均一な膜厚分布が得られることが、証明された。なお、この実施例2では、パイプ30の内径dが8[mm]と小さいため、機械的特性については測定することができなかった。ただし、当該パイプ30の内面を所定硬さの工具で削ったところ、実施例1のものと同様の感触を得た。つまり、内径dが8[mm]という比較的に細いパイプ30についても、その内面に、実施例1と同様の機械的特性を有するDLC膜を形成することができた。
以上のように、この実施形態によれば、各パイプ30,30,…内にホロー放電を意図的に生じさせ、このホロー放電を積極的に利用することで、当該パイプ30,30,…への内面コーティングを実現する。そして、この方法により、良質なDLC膜を形成できることが、実験により証明された。従って、補助電極を必要とする上述した従来技術とは異なり、当該補助電極を必要としないので、その分、簡単かつ安価に、しかも内径dの小さいパイプ30にも内面コーティングを施すことができる。
なお、この実施形態では、被処理物として円筒形のパイプ30を用いる場合について説明したが、これに限らない。いわゆる角パイプのような円筒形以外のパイプを、被処理物として用いてもよい。
また、パイプ30は、フランジ40を有するものとしたが、当該フランジ40は無くてもよい。この場合、例えばパイプ30の周囲に針金のような線状物を捲着し、この線状物を上述した貫通孔38の周縁部分に固定させることで、当該パイプ30をセットするようにしてもよい。勿論、これ以外の方法で、パイプ30をセットしてもよい。
さらに、パイプ30の両端が上下に位置するように当該パイプ30を言わば縦置きにセットしたが、これに限らない。例えば、パイプ30の両端が水平方向に位置するように当該パイプ30を言わば横置きに(横倒しの状態で)セットしてもよいし、斜めに傾けてセットしてもよい。
そしてさらに、櫛形電極28を1つのみ設けたが、これを複数設けてもよい。また、当該櫛形電極28を構成する基板台34の枚数を4枚としたが、これ以外の枚数としてもよい。そして、櫛形電極28以外の構造の電極を採用し、この電極によってそれぞれのパイプ30を支持してもよい。ただし、それぞれのパイプ30と真空槽12の壁部との間には、少なくとも100[mm]程度の空間を設けるのが、望ましい。
また、真空ポンプ16を構成するメカニカルブースタポンプの排気速度を制御することで、真空槽12内の圧力Pを調整したが、これに限らない。例えば、当該真空ポンプ16を構成するロータリポンプの回転数により当該圧力Pを調整してもよい。また、このような真空ポンプ16による制御ではなく、例えば上述したマスフローコントローラによってガスの流量を制御することにより、圧力Pを調整してもよい。さらに、上述した排気管にコンダクタンスバルブを設け、このコンダクタンスバルブによって当該圧力Pを調整してもよい。
そして、この実施形態においては、被膜としてDLC膜を形成する場合について説明したが、当該DLC膜以外の被膜を形成する場合にも、この発明を適用することができる。
そして、かかる発明は、例えば耐食性が要求される配管や、耐摩耗性および低摩擦係数が要求されるエンジンシリンダライナや燃料供給インジェクタスリーブ等のエンジン用部品等への応用が、期待される。
さらに、被処理物である各パイプ30,30,…に対して非対称パルス電力を供給したが、これに代えて、例えば周波数が13.56MHzの高周波電力を供給してもよい。具体的には、被処理物がステンレス等の金属である場合には、非対象パイプ電力を供給し、被処理物がセラミックス等の絶縁物である場合には、高周波電力を供給する。なお、高周波電力を採用する場合には、被処理物との間でインピーダンスを整合させるためのマッチングボックスが必要となる。
また、上述した図3、特に同図(b)によれば、各パイプ30,30,…の側面間の空間(隙間)も白っぽく見える。これは、当該空間にもホロー放電が生じていることを示す。このように各パイプ30,30,…間に生じているホロー放電は、内面コーティングに何ら寄与しないので、その分、ガスおよび電力等のエネルギが無駄に消費されることになる。そこで、例えば図6に示すように、各パイプ30,0,…の側面が隠れるよう各基板台34,34,…の厚さ寸法tを大きく(パイプ30の長さ寸法Lと略同等に)すれば、かかる無駄なエネルギの消費を抑制することができる。また、このように基板台34,34,…の厚さ寸法tを大きくするのではなく、各パイプ30,30,…間の空間を何らかの手段(物品)によって塞いでもよい。
なお、この実施形態における真空槽12等の各構成要素の形状や寸法、材質等は、飽くまでこの発明を実現するための一例であって、ここで説明した内容に限定されるものではない。
この発明に係る内面コーティング装置の一実施形態の概略構成を示す図解図である。 同実施形態における櫛形電極の外観を示す図解図である。 同実施形態において真空槽内にプラズマが発生している状態を示す図解図である。 同実施形態において安定したホロー放電が生じているときの被処理物の内径と真空槽内の圧力の下限値との関係を示すグラフである。 同実施形態において被処理物の中空部に安定したホロー放電が生じている状態を示す図解図である。 同実施形態の別の例を示す図解図である。
符号の説明
10 内面コーティング装置
12 真空槽
16 真空ポンプ
18 ガスノズル
20,22,24,26 ガス配管
28 櫛形電極
30 パイプ
42 パルス電源装置

Claims (3)

  1. 筒状の被処理物の内面にプラズマCVD法により被膜を形成する内面コーティング方法において、
    内部に上記被処理物が設置された真空槽の該内部を排気する排気過程と、
    上記真空槽の内部に放電用ガスを導入する放電用ガス導入過程と、
    上記放電用ガスを放電させるための放電用電力を上記被処理物に供給する電力供給過程と、
    上記放電用ガスが放電することによって上記被処理物の中空部に該中空部の両端間にわたって略均一な分布のホロー放電が生じるように上記真空槽の内部の圧力を制御する圧力制御過程と、
    上記真空槽の内部に上記被膜の材料となる材料ガスを導入する材料ガス導入過程と、
    を具備し、
    上記被処理物は円筒状のものであり、
    上記被処理物の内径をd[mm]とし、
    上記圧力をP[Pa]とし、
    上記放電用ガスの種類によって決定される所定係数をkとしたとき、
    上記圧力制御過程において上記被処理物の内径dが小さいほど上記圧力Pを高くすると共に該圧力Pの下限をP=k・d −2 として制御を行うこと、
    を特徴とする内面コーティング方法。
  2. 上記放電用ガスはアルゴンガスを含み、
    上記所定係数kは1000である、
    請求項1に記載の内面コーティング方法。
  3. 上記材料ガスは炭素を含む、請求項1または2に記載の内面コーティング方法。
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