JP6014941B2 - プラズマ処理装置及び成膜方法 - Google Patents

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本発明は、プラズマ処理装置及び基材の表面処理方法に係わり、特に、生産コストを低くできるプラズマ処理装置及び基材の表面処理方法に関し、また生産コストを低くでき、且つ下地との密着性を向上させたプラズマ処理装置及び基材の表面処理方法に関する。
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜は、高硬度、低摩擦、低摩耗、化学的に不活性等の他の硬質皮膜にない優れた特性を有している。DLC膜の作製方法としては、イオン蒸着法、プラズマCVD(chemical vapor deposition)法、スパッタリング法等が用いられることが多い。
しかしながら、上述したDLC膜の作製方法の量産化技術は、まだ十分に確立していないため、生産コストが高く、特殊な用途で用いられているのが現状である。さらに、DLC膜は上述した成膜方法のいずれによっても高い内部応力を有するため、その密着強度が低いことで問題となることが多い。従って、密着強度に優れたDLC膜を低コストで生産できる量産化技術を確立することができれば、生産効率の向上によりDLC膜の低価格化が可能となり、DLC膜の市場が拡大すると期待される。
最近、金型・機械部品・工具等に硬質皮膜であるDLC膜を成膜する製品の下地処理として、イオン窒化、ラジカル窒化、ラジカル浸炭等を施して皮膜の密着強度を向上させる複合硬化処理が広く行われるようになった(例えば特許文献1〜3参照)。
特開2005−068499号公報 特開2004−250746号公報 特開2000−120870号公報
しかしながら、上述したイオン窒化、ラジカル窒化、ラジカル浸炭には長時間の処理が必要である上、DLC膜の成膜には下地処理とは別の装置であるPVD装置やCVD装置を用いる必要がある。つまり、これらの複合硬化処理では、複数の処理装置を設備しなくてはならない上に、それぞれの処理装置において長時間の真空引き、加熱、排気、成膜処理、冷却の時間が必要となり、その結果、生産コストが高くなる。
また、前述したように従来のDLC膜の作製方法では、量産化技術が十分に確立していないため、生産コストが高くなる。例えば、従来技術では、DLC膜の成膜速度が遅いため、生産コストが高くなるという問題がある。また、上述した成膜方法のいずれによって成膜されたDLC膜でも高い内部応力を有するため、その密着強度が低いという問題がある。
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、生産コストを低くできるプラズマ処理装置及び基材の表面処理方法を提供することにある。また本発明の他の目的は、生産コストを低くでき、且つ下地との密着性を向上させたプラズマ処理装置及び基材の表面処理方法を提供することにある。
プラズマCVD法の長所は、真空排気系、高周波電源、原料ガス供給装置のシンプルな構造でプラズマを形成し、付き回りの良い成膜が可能な点であり、メンテナンスもPVD法と比較すると簡単である。しかしながら、プラズマCVD装置においてその電源は、直流電源か周波数13.56MHzの高周波電源を使用するのが一般的であるが、どちらも一長一短があり工業的に使いやすい電源とは言えない。そこで、直流電源と13.56MHzの高周波電源の性質を兼ね備えた周波数50〜500kHzの高周波電源を用いれば、工業的にも取り扱いやすく量産化が容易になると考えられる。また、50〜500kHzの高周波電源ではイオン注入効果も期待できるので、基材の表面改質も同じ電源で可能となる。
従来の技術は、金型、機械部品、工具等の基材の表面を硬化する方法であって、表面層をエッチング除去し、窒化層、浸炭層、浸炭窒化層等を形成して表面改質を行った後、該基材の表面にDLC膜を成膜する複合硬化処理を行うためには、複数の処理装置が必要であった。例えば、表面改質を行う際に用いる処理装置とは別の処理装置でDLC膜を成膜する必要があった。このように複数の処理装置を用いる理由は、それぞれの処理装置において異なる電源を使用するためであった。これに対し、本発明の処理装置では、50〜500kHzの高周波電源を用いることにより一つの処理装置(即ち一つの電源)で処理することが可能となり、密着強度と生産性に優れ、高い品質のDLC膜を低価格で製造することができる。
また、本発明のプラズマ処理装置では、一つの50〜500kHzの電源で処理条件を変えることにより、エッチング処理、イオン注入処理、成膜処理及びアッシング処理が可能となる。
前述した課題を解決するため、本発明に係るプラズマ処理装置は、チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基材を保持する基材ホルダーと、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内に処理ガスを導入するガス導入経路と、
前記チャンバー内に50〜500kHzの高周波出力を供給する高周波電源と、
を具備し、
前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内に前記処理ガスのプラズマを発生させて前記基材にプラズマ処理を行うことを特徴とする。
本発明に係るプラズマ処理装置は、チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基材を保持する基材ホルダーと、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内にイオン注入用の処理ガスを導入する第1ガス導入経路と、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内に成膜用の処理ガスを導入する第2ガス導入経路と、
前記チャンバー内に50〜500kHzの高周波出力を供給する高周波電源と、
を具備し、
前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内に前記処理ガスのプラズマを発生させて前記基材にプラズマ処理を行うことを特徴とする。
また、本発明に係るプラズマ処理装置において、前記イオン注入用の処理ガスが窒化用処理ガス、浸炭用処理ガス、浸炭窒化用処理ガス及び珪素イオン注入用処理ガスのいずれか一の処理ガスであり、前記成膜用の処理ガスがDLC成膜用処理ガスであり、
前記プラズマ処理は、前記チャンバー内に前記一の処理ガスのプラズマを発生させて前記基材の表面を窒化又は浸炭又は浸炭窒化又は珪素イオン注入した後に、前記チャンバー内に前記DLC成膜用処理ガスのプラズマを発生させて前記基材の表面にDLC膜を成膜する処理であることも可能である。
上記プラズマ処理装置によれば、50〜500kHzの高周波電源を用いるため、DLC膜の成膜速度を従来技術に比べて速くすることができ、その結果、生産コストを低くすることができる。
また、前記DLC成膜用処理ガスが珪素を含有するガスであり、前記基材の表面に成膜するDLC膜が珪素含有DLC膜であることも可能である。
また、本発明に係るプラズマ処理装置において、前記イオン注入用の処理ガスが窒化用処理ガス、浸炭用処理ガス、浸炭窒化用処理ガス及び珪素イオン注入用処理ガスのいずれか一の処理ガスであり、前記成膜用の処理ガスが珪素化合物ガス及びDLC成膜用処理ガスであり、
前記プラズマ処理は、前記チャンバー内に前記一の処理ガスのプラズマを発生させて前記基材の表面を窒化又は浸炭又は浸炭窒化又は珪素イオン注入した後に、前記チャンバー内に前記珪素化合物ガスのプラズマを発生させて前記基材の表面に珪素化合物膜を成膜し、前記珪素化合物ガス及び前記DLC成膜用処理ガスのプラズマを発生させて前記珪素化合物膜上に珪素含有DLC膜を成膜する処理であることも可能である。
本発明に係るプラズマ処理装置は、チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基材を保持する基材ホルダーと、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内に第1及び第2の珪素化合物ガス、DLC成膜用処理ガスを導入するガス導入経路と、
前記チャンバー内に50〜500kHzの高周波出力を供給する高周波電源と、
を具備し、
前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内に前記第1の珪素化合物ガスのプラズマを発生させて前記基材の表面に珪素化合物膜を成膜した後に、前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内に前記第2の珪素化合物ガス及び前記DLC成膜用処理ガスのプラズマを発生させて前記珪素化合物膜上に珪素含有DLC膜を成膜するプラズマ処理を行うことを特徴とする。
尚、第2の珪素化合物ガスは第1の珪素化合物ガスと同一のガスであっても良いし、異なるガスであっても良い。
また、本発明に係るプラズマ処理装置において、前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内にエッチング用の処理ガスを導入する第3ガス導入経路をさらに具備することも可能である。
また、本発明に係るプラズマ処理装置において、前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内にアッシング用の処理ガスを導入する第4ガス導入経路をさらに具備することも可能である。
また、本発明に係るプラズマ処理装置において、前記高周波電源は300kHz以下の高周波電源を供給するものであることも可能である。
本発明に係る基材の表面処理方法は、50〜500kHzの高周波出力によってエッチング用の処理ガス、イオン注入用の処理ガス、成膜用の処理ガス及びアッシング用の処理ガスのいずれか一つの処理ガスのプラズマを発生させることにより、基材の表面をプラズマ処理することを特徴とする。
本発明に係る基材の表面処理方法は、50〜500kHzの高周波出力によってイオン注入用の処理ガスのプラズマを発生させることにより、基材にイオン注入を行う第1工程と、
50〜500kHzの高周波出力によって成膜用の処理ガスのプラズマを発生させることにより、前記基材上に薄膜を成膜する第2工程と、
を具備することを特徴とする特徴とする。
本発明に係る基材の表面処理方法は、窒化用処理ガス、浸炭用処理ガス、浸炭窒化用処理ガス及び珪素イオン注入用処理ガスのいずれか一の処理ガスのプラズマを50〜500kHzの高周波出力によって発生させることにより、基材の表面の窒化又は浸炭又は浸炭窒化又は珪素イオン注入を行う第1工程と、
DLC成膜用処理ガスのプラズマを50〜500kHzの高周波出力によって発生させることにより、前記基材の表面にDLC膜を成膜する第2工程と、
を具備することを特徴とする。
また、前記DLC成膜用処理ガスが珪素を含有するガスであり、前記基材の表面に成膜するDLC膜が珪素含有DLC膜であることも可能である。
本発明に係る基材の表面処理方法は、50〜500kHzの高周波出力によって珪素イオン注入用の処理ガスのプラズマを発生させることにより、基材の表面に珪素イオンを注入することを特徴とする。
本発明に係る基材の表面処理方法は、50〜500kHzの高周波出力によって珪素化合物ガスのプラズマを発生させることにより、基材の表面に珪素化合物膜を成膜することを特徴とする。
本発明に係る基材の表面処理方法は、第1の珪素化合物ガス又は珪素イオン注入用の処理ガスのプラズマを50〜500kHzの高周波出力によって発生させることにより、基材の表面に珪素化合物膜を成膜するか、又は珪素イオンを注入する第1工程と、
第2の珪素化合物ガス及びDLC成膜用処理ガスのプラズマを50〜500kHzの高周波出力によって発生させることにより、前記珪素化合物膜上又は前記基材上に珪素含有DLC膜を成膜する第2工程と、
を具備することを特徴とする。
また、前記第1工程の前に、窒化用処理ガス、浸炭用処理ガス、浸炭窒化用処理ガス及び珪素イオン注入用処理ガスのいずれか一の処理ガスのプラズマを50〜500kHzの高周波出力によって発生させることにより、前記基材の表面の窒化又は浸炭又は浸炭窒化又は珪素イオン注入を行う工程をさらに具備することも可能である。
また、本発明に係る基材の表面処理方法において、前記第1工程の前に、50〜500kHzの高周波出力によってエッチング用の処理ガスのプラズマを発生させることにより、前記基材の表面層を除去するエッチング工程をさらに具備することも可能である。
また、本発明に係る基材の表面処理方法において、前記第2工程の後に、50〜500kHzの高周波出力によってアッシング用処理ガスのプラズマを発生させることにより、前記薄膜をアッシングにより除去するアッシング工程をさらに具備することも可能である。
以上説明したように本発明によれば、生産コストを低くできるプラズマ処理装置及び基材の表面処理方法を提供することができる。また、他の本発明によれば、生産コストを低くでき、且つ下地との密着性を向上させたプラズマ処理装置及び基材の表面処理方法を提供することができる。
本発明の実施の形態1によるプラズマ処理装置を概略的に示す構成図である。 250kHzの高周波電源を用いてプラズマ窒化した基材表面のGDS分析結果を示す図である。 250kHzの高周波電源を用いてプラズマ浸炭処理した基材表面のGDS分析結果を示す図である。 DLC膜のヌープ硬さと基材の窒化処理の影響を示す図である。 DLC膜のヌープ硬さと基材の浸炭窒化処理の影響を示す図である。 下地の窒化処理の有無及び浸炭窒化処理の有無それぞれにおけるDLC膜と下地との密着強度を、スクラッチテスターを用いて求めた結果を示す図である。 窒化処理無しサンプル31及び窒化処理有りサンプル32それぞれのDLC膜の摩擦係数を測定した結果である摩擦係数とすべり距離との関係を示す図である。 浸炭窒化処理無しサンプル33及び浸炭窒化処理有りサンプル34それぞれのDLC膜の摩擦係数を測定した結果である摩擦係数とすべり距離との関係を示す図である。 珪素含有DLC膜及び無添加DLC膜それぞれの摩擦係数とすべり距離との関係を示す図である。 250kHzの高周波電源を用いて珪素をイオン注入した基材表面のGDS分析結果を示す図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1によるプラズマ処理装置を概略的に示す構成図である。
このプラズマ処理装置は処理チャンバー1を有しており、この処理チャンバー1内には基材2を保持する基材ホルダー3が配置されている。この基材ホルダー3には、整合器(図示せず)を介して50〜500kHzの高周波電源(RF電源)4が接続されており、基材ホルダー3はRF電極としても作用する。この高周波電源4は整合器及び基材ホルダー3を介して基材2に高周波を印加するものである。つまり、このプラズマ処理装置は、高周波電源4によって、50〜500kHzの高周波電流を、整合器を介して基材ホルダー3に供給して、基材2の上方に処理ガスのプラズマを発生させるようになっている。
尚、本実施の形態では、周波数50〜500kHzの高周波電源を用いているが、周波数300kHz以下の高周波電源を用いることがより好ましく、周波数が250kHz以下の高周波電源を用いることがさらに好ましい。300kHz以下の高周波電源を用いた場合、マッチングトランスなどを用いた低価格な整合器でマッチングをとることができる利点がある。また、高周波電源の周波数が50kHzより低くなると、基材に誘導加熱が生じるという問題が発生する。また、高周波電源の周波数が500kHzを超えると、基材に加えられるバイアスが低下し、絶縁体膜が成膜されにくいといった問題が発生する。
また、基材ホルダー3の周囲にはヒーター5が配置されており、このヒーター5によって基材2が加熱されるようになっている。なお、基材2は、種々の材質及び種々の形状のものを用いることが可能である。
処理チャンバー1には反応ガスを導入するガス導入口10が設けられている。このガス導入口10には、処理チャンバー1内に反応ガスを導入するガス導入経路(図示せず)が繋げられている。ガス導入経路はガス配管(図示せず)を有している。このガス配管には、ガス流量を計測する流量計(図示せず)及びガス流量を制御するガスフローコントローラー(図示せず)が設けられている。流量計により適量のアルゴンガス、窒素ガス、メタンガス、炭化水素系ガス、酸素ガス及び原料ガスそれぞれがガス導入口より処理チャンバー1内に供給されるようになっている。また、処理チャンバー1には、その内部を真空排気する真空ポンプ13が接続されている。このポンプは、高価でメンテナンスの煩雑なターボ分子ポンプや拡散ポンプを用いず、安価でメンテナンスの簡単なメカニカルブースターポンプとロータリポンプで構成されている。このような簡単な構成のポンプでは1Pa程度の真空度しか得られないが、本発明による方法では、このような低真空でも高品質の皮膜を製造することが可能である。
上記プラズマ処理装置における50〜500kHzの高周波電源は、直流電源と高周波電源の長所を兼ね備えており、50〜500kHzという工業的にも取り扱いやすい周波数を用いているという利点があり、また低真空でも生産性に優れるという利点がある。また、50〜500kHzの高周波電源の場合、従来の13.56MHzの高周波電源に比べて基材へのバイアス効果を高めるという利点があり、それによってプロセスの低真空化及び高速化を実現できる利点がある。この利点は低コスト化につながるものである。
次に、図1のプラズマ処理装置を用いて基材表面をエッチング処理する方法について説明する。このプラズマ処理装置では、例えば周波数250kHzの高周波電源4を用い、アルゴンガスを処理ガスとして用いる。
まず、基材2としてオーステナイト系ステンレス鋼(例えばSUS304、サイズ;60mm×100mm×1.5mm)を用意し、この基材2をアセトン中にて30分間の超音波洗浄を行った後、基材ホルダー3上に装着する。
次いで、基材2をヒーター5によって120℃に加熱し、真空ポンプ13によって処理チャンバー1内を1Pa以下まで排気し、ガス導入口10からアルゴンガスを60cc/分の流量で処理チャンバー1内に導入する。次いで、300Wの出力で高周波電源4を用いて基材ホルダー3に250kHzの高周波電流を供給することにより、基材2の上方にアルゴンプラズマを形成する。これにより、基材2の表面が強力なイオンの作用によりイオンエッチングされ、基材2の表面の酸化物層が除去される。尚、エッチング処理時間は20分間である。
一般に、ステンレスの最表面はクロムの酸化物を主体とした酸化物層に覆われている。この酸化物層を除去するためには、活性水素ガスにより還元除去する方法や濃硝酸による酸洗いによる除去法が行われている。これらの除去法は取り扱いが危険であったり後処理が必要である。また、従来の周波数13.56MHzの高周波電源を用いたイオンエッチングでは、ステンレスの酸化物(酸化皮膜)を除去することができない。これに対し、本実施の形態では、50〜500kHzの高周波電源を用いた強力なイオンエッチングであるため、ステンレス基材表面の酸化皮膜を安全で後処理も不要なプラズマエッチング方法により除去することが可能となる。
(実施の形態2)窒化処理
以下、本発明の実施の形態2による基材の表面処理方法について説明する。この基材の表面処理方法は、図1に示すプラズマ処理装置を用いることにより基材の表面に窒化層を形成するものである。このプラズマ処理装置における高周波電源4は例えば250kHzの周波数を用い、処理ガスとしては窒素ガス又はアンモニアガス又はアンモニアと水素の混合ガス等を用いる。
まず、実施の形態1と同様のオーステナイト系ステンレス鋼からなる基材2に対して、実施の形態1と同様の方法で、超音波洗浄を行った後、基材2の表面の酸化物層をエッチングにより除去する。
この後、ヒーター5によって基材2の温度を120℃に維持し、真空ポンプ13によって処理チャンバー1内の圧力を1Pa以下に維持し、ガス導入口10から窒素ガスを60cc/分の流量で処理チャンバー1内に導入する。次いで、300Wの出力で高周波電源4を用いて基材ホルダー3に250kHzの高周波電流を供給することにより、基材2の上方に窒素プラズマを形成する。これにより、基材2の表面に窒素がイオン注入され、基材2の表面が窒化される。250kHzの高周波電源4は、従来用いられていた周波数13.56MHzの高周波電源よりも直流に近い特性を示すので、イオン化された窒素は高いエネルギー状態で基材表面に衝突し、さらに注入されるため、基材表面には窒化層が形成される。尚、ステンレス基材表面の酸化皮膜を強力なイオンエッチングにより十分に除去しているため、基材表面に質の高い窒化層を形成することが容易となる。
上述した基材表面の窒化処理(イオン注入)を120分間行った場合、ヌープ硬さ(荷重10gf)がHK924の窒化層が基材表面に形成された。このときの基材表面の窒素の分布をGDS(グロー放電発光分析法)によって測定した結果を図2に示す。
図2は、基材表面からの距離と含有する元素の濃度との関係を示す図である。この図に示すように、オーステナイト系ステンレス鋼からなる基材表面より0.7μm付近まで窒素が分布しており、基材表面が窒化されていることが確認された。
(実施の形態3)浸炭処理
以下、本発明の実施の形態3による基材の表面処理方法について説明する。この基材の表面処理方法は、図1に示すプラズマ処理装置を用いることにより基材の表面に浸炭層を形成するものである。このプラズマ処理装置における高周波電源4は例えば250kHzの周波数を用い、処理ガス(原料ガス)としてはメタンガス、アセチレンなどの炭化水素系ガス及びアルゴンガスを用いる。
まず、実施の形態1と同様のオーステナイト系ステンレス鋼からなる基材2に対して、実施の形態1と同様の方法で、超音波洗浄を行った後、基材2の表面の酸化物層をエッチングにより除去する。
この後、ヒーター5によって基材2の温度を120℃に維持し、真空ポンプ13によって処理チャンバー1内の圧力を1Pa以下に維持し、ガス導入口10から10cc/分の流量のメタンガス及び20cc/分の流量のアルゴンガスを処理チャンバー1内に導入する。次いで、300Wの出力で高周波電源4を用いて基材ホルダー3に250kHzの高周波電流を供給することにより、基材2の上方に炭素プラズマを形成する。これにより、基材2の表面に炭素がイオン注入され、基材2の表面が浸炭される。250kHzの高周波電源4は、従来用いられていた周波数13.56MHzの高周波電源よりも直流に近い特性を示すので、イオン化された炭素は高いエネルギー状態で基材表面に衝突し、さらに注入されるため、基材表面には浸炭層が形成される。尚、ステンレス基材表面の酸化皮膜を強力なイオンエッチングにより十分に除去しているため、基材表面に質の高い浸炭層を形成することが容易となる。
上述した基材表面の浸炭処理(イオン注入)を120分間行った場合、ヌープ硬さ(荷重10gf)がHK773の浸炭層が基材表面に形成された。このときの基材表面の炭素の分布をGDSによって測定した結果を図3に示す。
図3は、基材表面からの距離と含有する元素の濃度との関係を示す図である。この図に示すように、オーステナイト系ステンレス鋼からなる基材表面に0.05μmの炭素のみの層が認められるものの、それより1.0μm付近まで炭素が分布しており、基材表面が浸炭されていることが確認された。
(実施の形態4)窒化処理・DLC膜
以下、本発明の実施の形態4による基材の表面処理方法について説明する。この基材の表面処理方法は、図1に示すプラズマ処理装置を用いることにより基材の表面に窒化層を形成し、この窒化層上にDLC膜を形成するものである。このプラズマ処理装置における高周波電源4は例えば250kHzの周波数を用い、処理ガスとしては窒素ガスを用い、DLC膜の原料ガスとしては、炭化水素系のガスを用いるが、トルエンガスやアセチレンガスが取り扱いやすい。
本実施の形態では、(1)基材の表面に窒化層を形成し、この窒化層上にDLC膜を形成した場合と、(2)基材の表面に窒化層を形成せずにDLC膜を形成した場合におけるDLC膜の硬さを比較する。
(1)窒化層を形成する場合
実施の形態2と同様のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304からなる基材と、SKH51からなる基材を用意する。
次いで、実施の形態2と同様の方法により、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの表面の酸化物層をエッチングにより除去した後、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの表面に窒化層を形成する。
この後、ヒーター5によってSUS304基材及びSKH51基材それぞれの温度を120℃に維持し、真空ポンプ13によって処理チャンバー1内の圧力を1Pa以下に維持し、ガス導入口10から炭化水素ガスからなる原料ガス、例えばトルエンを5cc/分の流量で処理チャンバー1内に導入する。次いで、300Wの出力で高周波電源4を用いて基材ホルダー3に250kHzの高周波電流を供給することにより、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの窒化層上に成膜時間30分で厚さ2.0μmのDLC膜が形成される。この成膜速度は、約1.1nm/秒で、従来のDLC膜の成膜方法に比較すると2〜3倍の高速である。この理由は、直流に近い特徴を有する250kHzの高周波電流の効果により炭化水素の分解、イオン化が促進されるためと推察される。このように成膜速度を速くすることにより生産コストを低減することができる。
次いで、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの表面に形成されたDLC膜のヌープ硬さ(荷重10gf、荷重25gf)を測定した。この測定結果を図4に示す。
(2)窒化層を形成しない場合
まず、上述した基材と同様のSUS304基材及びSKH51基材を用意する。
次いで、実施の形態1と同様の方法により、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの表面の酸化物層をエッチングにより除去する。
この後、上述したDLC膜の成膜方法と同様の条件で、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの表面上にDLC膜を形成する。
次いで、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの表面に形成されたDLC膜のヌープ硬さ(荷重10gf、荷重25gf)を測定した。この測定結果を図4に示す。
図4は、窒化処理の影響を調べるために、窒化処理をした場合と窒化処理をしない場合のDLC膜のヌープ硬さを示す図である。この図に示すように、SUS304基材及びSKH51基材のいずれにおいても、窒化処理を施した後に成膜したDLC膜のヌープ硬さは2倍程度高くなることが確認された。特に、SUS304基材の場合には、処理前の基材自体の硬さ(荷重10gf)はHK250程度しかないので、窒化処理をしないとDLC膜を成膜してもその硬さ(荷重10gf)はHK1000ほどでしかないが、SUS304基材に窒化処理を施すとDLC膜の硬さ(荷重10gf)はHK2000以上に達する。荷重25gfのSUS304基材では、本発明の効果が顕著で、窒化処理した後に成膜したDLC膜の硬さは、窒化処理しない場合の3倍以上に達する。従って、周波数250kHzの高周波電源を用いて窒化処理を施した後に大気開放せずに連続的にDLC膜を成膜することにより、DLC膜の硬さが飛躍的に向上することが明らかとなった。
尚、上記実施の形態4では、基材の表面に窒化層を形成し、この窒化層上にDLC膜を形成しているが、基材の表面に実施の形態3のような浸炭層を形成し、この浸炭層上にDLC膜を形成することも可能である。
(実施の形態5)浸炭窒化処理・DLC膜
以下、本発明の実施の形態5による基材の表面処理方法について説明する。この基材の表面処理方法は、図1に示すプラズマ処理装置を用いることにより基材の表面に浸炭窒化層を形成し、この浸炭窒化層上にDLC膜を形成するものである。このプラズマ処理装置における高周波電源4は例えば250kHzの周波数を用い、処理ガスとしてはメタンガス及び窒素ガスを用い、DLC膜の原料ガスとしては実施の形態4と同様のものを用いる。
本実施の形態では、(1)基材の表面に浸炭窒化層のみを形成した場合と、(2)基材の表面に浸炭窒化層を形成し、この浸炭窒化層上にDLC膜を形成した場合と、(3)基材の表面に浸炭窒化層を形成せずにDLC膜を形成した場合と、におけるDLC膜の硬さを比較する。
(1) 基材の表面に浸炭窒化層のみを形成した場合
実施の形態1と同様のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304からなる基材2を用意し、実施の形態1と同様の方法により、基材2の表面の酸化物層をエッチングにより除去する。
この後、ヒーター5によって基材2の温度を120℃に維持し、真空ポンプ13によって処理チャンバー1内の圧力を1Pa以下に維持し、ガス導入口10から3cc/分の流量のメタンガス及び60cc/分の流量の窒素ガスを処理チャンバー1内に導入する。次いで、300Wの出力で高周波電源4を用いて基材ホルダー3に250kHzの高周波電流を供給することにより、基材2の上方に炭素と窒素からなるプラズマを形成する。これにより、基材2の表面に炭素及び窒素がイオン注入され、基材2の表面が浸炭窒化される。250kHzの高周波電源4は、従来用いられていた周波数13.56MHzの高周波電源よりも直流に近い特性を示すので、イオン化された炭素及び窒素は高いエネルギー状態で基材表面に衝突し、さらに注入されるため、基材表面には浸炭窒化層が形成される。
次いで、基材表面に形成された浸炭窒化層のヌープ硬さ(荷重10gf、荷重25gf)を測定した。この測定結果を図5に示す。
(2)浸炭窒化層を形成した後にDLC膜を形成する場合
上述した (1)のように基材表面に浸炭窒化層を形成した後に、実施の形態4と同様の成膜条件で、前記浸炭窒化層上に60分間の成膜時間でDLC膜を成膜する。
次いで、基材表面に形成されたDLC膜のヌープ硬さ(荷重10gf、荷重25gf)を測定した。この測定結果を図5に示す。
(3) 浸炭窒化層を形成せずにDLC膜を形成した場合
まず、実施の形態1と同様のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304からなる基材2を用意し、実施の形態1と同様の方法により、基材2の表面の酸化物層をエッチングにより除去する。この後、実施の形態4と同様の成膜条件で、基材2の表面上にDLC膜を成膜する。
次いで、基材表面に形成されたDLC膜のヌープ硬さ(荷重10gf、荷重25gf)を測定した。この測定結果を図5に示す。
図5は、浸炭窒化処理の影響を調べるために、浸炭窒化処理をした場合と浸炭窒化処理をしない場合、浸炭窒化処理のみの場合のヌープ硬さを示す図である。この図に示すように、浸炭窒化処理のみでも荷重10gfの測定ではHK1500に達することが確認された。また、基材に浸炭窒化処理をしなくてもDLC膜の硬さは荷重10gfでHK2000近い値を示し、荷重25gfでもHK1000以上に達することが確認された。さらに、基材に浸炭窒化処理を施してDLC膜を成膜すると、荷重10gfで約HK3000、荷重25gfで約HK2000にまで達する驚異的な硬さとなることが確認された。従って、周波数250kHzの高周波電源を用いて浸炭窒化処理を施した後に大気開放せずに連続的にDLC膜を成膜することにより、DLC膜の硬さが飛躍的に向上することが明らかとなった。
(実施の形態6)DLC膜の密着強度
実施の形態4の(1)と同様の方法で、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの表面に窒化処理をした後にDLC膜を形成したサンプルを用意する。また、実施の形態4の(2)と同様の方法で、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの表面に窒化処理をせずにDLC膜を形成したサンプルを用意する。
実施の形態5の(2)と同様の方法で、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの表面に浸炭窒化処理をした後にDLC膜を形成したサンプルを用意する。また、実施の形態5の(3)と同様の方法で、SUS304基材及びSKH51基材それぞれの表面に浸炭窒化処理をせずにDLC膜を形成したサンプルを用意する。
上記の8つのサンプル、すなわち、SUS304基材に窒化処理無しサンプル21、SUS304基材に窒化処理有りサンプル22、SKH51基材に窒化処理無しサンプル23、SKH51基材に窒化処理有りサンプル24、SUS304基材に浸炭窒化処理無しサンプル25、SUS304基材に浸炭窒化処理有りサンプル26、SKH51基材に浸炭窒化処理無しサンプル27、SKH51基材に浸炭窒化処理有りサンプル28それぞれのDLC膜と下地との密着強度を、スクラッチテスターを用いて測定し、この測定結果を図6に示す。
スクラッチテスターによる測定方法は次のとおりである。
荷重負荷速度100N/分でダイヤモンド圧子を10mm/分で押し付けながら引張り、皮膜の破壊した臨界荷重(Lc値)をAEセンサー及び顕微鏡観察により求めた。
図6は、下地の窒化処理の有無及び浸炭窒化処理の有無それぞれにおけるDLC膜と下地との密着強度を、スクラッチテスターを用いて求めた結果を示す図である。この図に示すように、SUS304基材の場合では密着強度は小さいが、SUS304基材及びSKH51基材のどちらの基材についても、無処理の基材にDLC膜を成膜した場合より窒化処理又は浸炭窒化処理を施した場合のほうが密着強度が大きくなることが確認された。従って、周波数250kHzの高周波電源を用いて窒化処理又は浸炭窒化処理を施した後に大気開放せずに連続的にDLC膜を成膜することにより、DLC膜と下地との界面を汚さないため、DLC膜の下地との密着強度が飛躍的に向上することが明らかとなった。
(実施の形態7)DLC膜の摩擦・摩耗特性
実施の形態4の(1)と同様の方法で、SUS304基材の表面に窒化処理をした後にDLC膜を形成したサンプルを用意する。また、実施の形態4の(2)と同様の方法で、SUS304基材の表面に窒化処理をせずにDLC膜を形成したサンプルを用意する。
実施の形態5の(2)と同様の方法で、SUS304基材及の表面に浸炭窒化処理をした後にDLC膜を形成したサンプルを用意する。また、実施の形態5の(3)と同様の方法で、SUS304基材の表面に浸炭窒化処理をせずにDLC膜を形成したサンプルを用意する。
上記の4つのサンプル、すなわち、SUS304基材に窒化処理無しサンプル31、SUS304基材に窒化処理有りサンプル32、SUS304基材に浸炭窒化処理無しサンプル33、SUS304基材に浸炭窒化処理有りサンプル34それぞれのDLC膜の摩擦・摩耗特性を、ボールオンディスク型摩擦・摩耗試験機を用いて、測定荷重5N、ボールSUJ2、無潤滑にて測定した結果を、図7及び図8に示す。
図7は、摩擦係数に及ぼす窒化処理の影響を調べるために、窒化処理無しサンプル31及び窒化処理有りサンプル32それぞれのDLC膜の摩擦係数を測定した結果である摩擦係数とすべり距離との関係を示す図である。
図8は、摩擦係数に及ぼす浸炭窒化処理の影響を調べるために、浸炭窒化処理無しサンプル33及び浸炭窒化処理有りサンプル34それぞれのDLC膜の摩擦係数を測定した結果である摩擦係数とすべり距離との関係を示す図である。
図7及び図8に示すように、無処理の基材に成膜したDLC膜よりも窒化処理又は浸炭窒化処理を施した基材に成膜したDLC膜のほうが摩擦係数を小さくできることが確認された。硬度が高い基材に成膜したDLC膜のほうがボールの接触面積が小さいために、摩擦係数が小さくなったものと考えられる。
(実施の形態8)窒化処理・珪素含有DLC膜
以下、本発明の実施の形態8による基材の表面処理方法について説明する。この基材の表面処理方法は、図1に示すプラズマ処理装置を用いることにより基材の表面に窒化層を形成し、この窒化層上に珪素含有DLC膜を形成するものである。このプラズマ処理装置における高周波電源4は例えば250kHzの周波数を用い、処理ガスとしては窒素ガスを用い、珪素含有DLC膜の原料ガスとしては、珪素化合物ガス及び炭化水素系のガスを用いる。珪素化合物ガスとしては、取り扱いの容易で低温での成膜が可能なヘキサメチルジシラザンやヘキサメチルジシロキサン(以下、これらを総称してHMDSともいう)を用いることが好ましい。
実施の形態2と同様のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304からなる基材を用意する。
次いで、実施の形態2と同様の方法により、SUS304基材の表面の酸化物層をエッチングにより除去した後、SUS304基材の表面に窒化層を形成する。
この後、ヒーター5によってSUS304基材の温度を120℃に維持し、真空ポンプ13によって処理チャンバー1内の圧力を1Pa以下に維持し、ガス導入口10から5cc/分の流量のトルエンガス及び2cc/分の流量のヘキサメチルジシラザン(C19NSi)を処理チャンバー1内に導入する。次いで、300Wの出力で高周波電源4を用いて基材ホルダー3に250kHzの高周波電流を供給することにより、SUS304基材の窒化層上に成膜時間60分で厚さ4μmの珪素含有DLC膜が形成される。この成膜速度は、約1.1nm/秒で、従来のDLC膜の成膜方法に比較すると2〜3倍の高速である。この理由は、直流に近い特徴を有する250kHzの高周波電流の効果により炭化水素の分解、イオン化が促進されるためと推察される。
上記実施の形態8においても実施の形態4と同様の効果を得ることができる。
また、本実施の形態では、DLC膜に珪素を含有させているため、珪素を含有しないDLC膜に比べて摩擦・摩耗特性を向上させることができる。
次に、上記のようにして作製されたSUS304基材上の珪素含有DLC膜の摩擦・摩耗特性を、ボールオンディスク型摩擦・摩耗試験機を用いて、測定荷重5N、ボール直径6mmのSUJ2、すべり拒絶理由300mにて測定した結果を、図9に示す。
図9は、DLC膜に珪素を含有させることによる摩擦係数の影響を調べるために、珪素含有DLC膜と無添加DLC膜の摩擦係数を比較した図である。図9のように、珪素を添加しない通常のDLC膜は摩擦係数が約0.17であるのに対し、珪素含有DLC膜は摩擦係数が約0.06に低下しており、DLC膜に珪素を含有させることにより摩擦特性が向上することが確認された。
尚、上記実施の形態8では、基材の表面に窒化層を形成し、この窒化層上に珪素含有DLC膜を形成しているが、基材の表面に実施の形態3のような浸炭層を形成し、この浸炭層上に珪素含有DLC膜を形成することも可能であり、また、基材の表面に実施の形態5のような浸炭窒化層を形成し、この浸炭窒化層上に珪素含有DLC膜を形成することも可能である。これらの場合でも珪素含有DLC膜の摩擦係数を小さくすることができる。
(実施の形態9)窒化処理・中間層・珪素含有DLC膜
以下、本発明の実施の形態9による基材の表面処理方法について説明するが、実施の形態8と同一部分についての詳細な説明は省略する。
実施の形態9では、実施の形態8における基材の表面に窒化層を形成する工程と、窒化層上に珪素含有DLC膜を形成する工程との間に、密着強度を高めるための中間層を形成する工程を追加する。この点以外は、実施の形態8と同様である。
詳細には、窒化層上に例えば窒化クロム層(CrN層)などの金属を含む中間層を形成し、この金属を含む中間層上に珪素含有DLC膜を形成する。前記金属を含む中間層は、高硬度で密着強度に優れたものであれば、窒化クロム層以外のものでも良い。また、このような高硬度な金属を含む中間層を用いる理由は、珪素含有DLC膜を外部ストレスによる剪断力や耐衝撃性に強くするためである。
尚、上記実施の形態9では、基材の表面に窒化層を形成し、この窒化層上に中間層を形成しているが、基材の表面に実施の形態3のような浸炭層を形成し、この浸炭層上に中間層を形成することも可能であり、また、基材の表面に実施の形態5のような浸炭窒化層を形成し、この浸炭窒化層上に中間層を形成することも可能である。
また、上記実施の形態9では、基材の表面に窒化層又は浸炭層又は浸炭窒化層を形成しているが、基材の表面に窒化層又は浸炭層又は浸炭窒化層を形成しないことも可能である。つまり、基材の表面の酸化物層をエッチングにより除去した後、基材の表面上に中間層を形成し、この中間層上に珪素含有DLC膜を形成することも可能である。
(実施の形態10)珪素イオン注入・DLC膜
以下、本発明の実施の形態10による基材の表面処理方法について説明する。この基材の表面処理方法は、図1に示すプラズマ処理装置を用いることにより基材の表面に珪素イオンを注入して珪素注入層を形成し、この珪素注入層上にDLC膜を形成するものである。このプラズマ処理装置における高周波電源4は例えば250kHzの周波数を用い、処理ガスとしてはHMDSを用いる。
実施の形態2と同様のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304からなる基材2を用意する。
次いで、実施の形態2と同様の方法により、SUS304基材の表面の酸化物層をエッチングにより除去する。
この後、ヒーター5によってSUS304基材の温度を120℃に維持し、真空ポンプ13によって処理チャンバー1内の圧力を1Pa以下に維持し、ガス導入口10から4cc/分の流量のヘキサメチルジシラザンを処理チャンバー1内に導入する。次いで、300Wの出力で高周波電源4を用いて基材ホルダー3に250kHzの高周波電流を供給することにより、基材2の上方に珪素を含むプラズマを形成する。これにより、基材2の表面に珪素がイオン注入される。5分間珪素を注入した後、実施の形態4と同様な方法で60分間トルエンを用いてDLC膜を形成する。このときの基材表面の珪素分布をGDSで測定した結果を図10に示す。
図10に示すように、基材表面にDLC膜が形成され、DLC膜と基材との界面から約0.6μmの範囲に珪素が分布しており、基材表面に珪素が注入されていることが確認された。尚、DLC膜が実際の膜厚より薄く表示されているが、GDS測定で炭素が早くエッチングされたためで実際のDLC膜の厚さを反映したものではない。
(実施の形態11)DLC膜の除去
実施の形態4、5、8、9又は10と同様の方法でDLC膜を成膜した場合でも、何らかの事情でDLC膜を除去した後に再度DLC膜を基材表面に成膜する場合がある。この場合も図1に示すプラズマ処理装置を用いてDLC膜を除去することが可能である。
詳細には、ヒーター5によって基材2の温度を120℃に維持し、真空ポンプ13によって処理チャンバー1内の圧力を1Pa以下に維持し、ガス導入口10から酸素ガスを60cc/分の流量で処理チャンバー1内に導入する。次いで、300Wの出力で高周波電源4を用いて基材ホルダー3に250kHzの高周波電流を供給することにより、基材表面に成膜したDLC膜上に酸素プラズマを形成する。これにより、60分間の処理で基材表面のDLC膜がアッシングされ、基材表面からDLC膜が除去される。
上記実施の形態11によれば、周波数250kHzの高周波電源4を用いることにより、DLC膜を強力にアッシングすることが可能となり、高いアッシング速度でDLC膜を除去することができる。
以上、実施の形態1〜11で説明したように、図1に示すプラズマ処理装置を用いることにより、従来技術では複数の処理装置を用いなければ実施できなかったエッチング、イオン注入(窒化、浸炭窒化など)、成膜、アッシングの4つの処理を一つの装置内で実施することが可能になり、硬さ、密着強度、摩擦・摩耗特性に優れた信頼性の高いDLC膜を高効率で生産することが可能となる。
尚、本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、鉄系からなる基材を用いているが、他の金属(例えばSi、Alなど)からなる基材を用いることも可能である。
1…処理チャンバー
2…基材
3…基材ホルダー
4…高周波電源(RF電源)
5…ヒーター
10…ガス導入口
13…真空ポンプ

Claims (8)

  1. チャンバーと、
    前記チャンバー内に配置され、基材を保持する基材ホルダーと、
    前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内にDLC成膜用の処理ガスを導入するガス導入経路と、
    前記チャンバー内の前記基材に50〜500kHzの高周波出力を供給する高周波電源と、
    を具備し、
    前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内に前記DLC成膜用の処理ガスのプラズマを発生させて前記基材にDLC膜を成膜するプラズマ処理装置であり、
    前記基材は、金型、機械部品及び工具のいずれかであり、
    前記プラズマ処理装置は磁場生成装置を有さないことを特徴とするプラズマ処理装置。
  2. 請求項1において、
    前記ガス導入経路は、さらに第1の珪素化合物ガスを導入する経路であり、
    前記DLC膜を成膜することは、前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内に前記第1の珪素化合物ガス及び前記DLC成膜用の処理ガスのプラズマを発生させて前記基材に珪素含有DLC膜を成膜することを特徴とするプラズマ処理装置。
  3. 請求項1又は2において、
    前記ガス導入経路は、さらにエッチング用の処理ガスを導入する経路であり、
    前記DLC膜を成膜する前に、前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内に前記エッチング用の処理ガスのプラズマを発生させて前記基材の表面層を除去することを特徴とするプラズマ処理装置。
  4. 請求項1乃至3のいずれか一項において、
    前記ガス導入経路は、さらにアッシング用の処理ガスを導入する経路であり、
    前記DLC膜を成膜した後に、前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内に前記アッシング用の処理ガスのプラズマを発生させて前記DLC膜を除去することを特徴とするプラズマ処理装置。
  5. 請求項1乃至4のいずれか一項において、
    前記高周波電源は300kHz以下の高周波出力を供給するものであることを特徴とするプラズマ処理装置。
  6. 50〜500kHzの高周波出力によってDLC成膜用の処理ガスのプラズマを発生させることにより、基材にDLC膜を成膜する成膜方法であり、
    前記基材は、金型、機械部品及び工具のいずれかであり、
    前記DLC膜を成膜することは、前記高周波出力によって第1の珪素化合物ガス及び前記DLC成膜用の処理ガスのプラズマを発生させることにより、前記基材に珪素含有DLC膜を成膜することであり、
    前記プラズマを発生させる際に磁場を生成させないことを特徴とする成膜方法。
  7. 請求項6において、
    前記DLC膜を成膜する前に、前記高周波出力によってエッチング用の処理ガスのプラズマを発生させることにより、前記基材の表面層を除去することを特徴とする成膜方法。
  8. 請求項6又は7において、
    前記DLC膜を成膜した後に、前記高周波出力によってアッシング用の処理ガスのプラズマを発生させることにより、前記DLC膜を除去することを特徴とする成膜方法。
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