JP4658854B2 - トラクションドライブ変速装置及び車両用操舵装置 - Google Patents
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Description
従って、たとえば車両用操舵装置のトルク伝達系に従来のトラクションドライブ変速装置を採用した場合には、バックラッシの存在がダイレクト感の低下などステアリング操作のフィーリングに悪影響を及ぼすことになるため、転動体と転動体保持部との間に存在する隙間を必要最小限に抑えることが望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、バックラッシを必要最小限に抑制したトラクションドライブ変速装置、及びこのトラクションドライブ変速装置を用いた車両用操舵装置を提供することにある。
本発明の請求項1に係るトラクションドライブ変速装置は、入力軸と出力軸との間に介在させた転動体のトラクションを利用し、前記入力軸の回転数を所望の変速比に変化させて前記出力軸から出力するトラクションドライブ変速装置において、前記転動体と、該転動体を回動自在に保持するよう保持部材に形成された転動体保持部との間に形成される隙間を狭めるバックラッシ低減手段を設け、該バックラッシ低減手段が、回転方向に隣接する前記転動体保持部の間に穿設されたテーパ穴と、該テーパ穴に打ち込まれるテーパピンとにより構成されることを特徴とするものである。
また、本発明のトラクションドライブ変速装置を車両用操舵装置のトルク伝達系に採用すれば、バックラッシの低減によりダイレクト感のあるステアリング操作が可能になり、ステアリング操作の操舵フィーリングが向上するという顕著な効果が得られる。
なお、車両用操舵装置のトルク伝達系において、上述した無負荷損失トルクはタイヤに対する負荷がない状態で生じる抵抗力のことであり、従って、ステアリング操作時には操舵フィーリングに悪影響を及ぼす引っ掛かり感として現れる。
<構成例1>
図2は、本発明に係るトラクションドライブ変速装置の構成例1を示す断面図である。このトラクションドライブ変速装置(以下、「変速装置」と呼ぶ)10は、入力軸Siと出力軸Soとの間に介在させた転動体Kのトラクションを利用し、入力軸Siの回転数を所望の変速比に変化させて出力軸Soから出力する機能を有している。
内輪20は二分割構造とされ、同一軸線上を回転するように配置された2部材の対向面間でトルク伝達を行うため、調圧カム50が配設されている。すなわち、内輪20は入力軸部21と内輪部22とに分割され、入力軸部21及び内輪部22の対向面21a,22a間には、円柱形状とした調圧カム50を設置する凹部23が複数組設けられている。この凹部23は、対向面21a,22aの対称位置にそれぞれ設けられた一対の溝部が一組となって形成する空間であり、この空間内に調圧カム50が転がり滑り可能な状態で収納される。このような凹部23は、円周方向に等ピッチとなるよう軸中心から放射状に複数組設けられるが、この数は諸条件に応じて適宜選択すればよい。なお、図示の例では、円周方向に90度ピッチとした4組の凹部23が設けられ、各凹部23は、調圧カム50が互いに干渉しないよう軸中心から適当な距離を設けた位置にある。
また、内輪20は、入力軸部21がハウジング11に軸受12を介して回動可能に支持され、ハウジング11の外部に突出する入力軸部21には、図示しないトルク発生源が連結される。なお、図中の符号13はオイルシール、14は入力軸部21を軸方向に押圧する板ばね、24は内輪部22の外周面に固着された内側リング部材である。
転動体保持部43の開口部に各々配置される転動体Kは、開口部に挟持されて自転可能な円錐ころであり、その自転軸線は入力軸Si及び出力軸Soの軸線と直交しないように傾斜している。この転動体Kは、その内周側の面を転動可能に支持する内側リング部材24と、後述する外輪30の外輪部31に固着されて外周側の面を転動可能に支持する外側リング部材32とにより、両リング部材24,32間を転動体Kが自転しながら公転可能な円錐ころ軸受を構成している。この円錐ころ軸受においては、転動体Kと内側リング部材24及び転動体Kと外側リング部材32の接触面に薄い油膜が形成されてトラクションドライブによるトルク伝達が行われる。
なお、転動体Kを保持する転動体保持部43については、上述した梯子に限定されることはない。
転動体保持部43は、開口部の形状が円錐ころを用いた転動体Kの断面形状に合わせた台形状とされ、その長辺側となる保持部本体42の底辺(下底)部に一端を埋め込むようにして、ばね44の付勢を受けるピン45が取り付けられている。
なお、バックラッシ低減手段となる予圧付与手段は、上述したばね44とピン45との組合せに限定されることはなく、転動体Kを所定の方向、すなわち隙間を狭める方向に適切な力で押圧するものであればよい。
また、外輪部33は、一端が開口する略リング状の部分であり、その内周面側には、上述した円錐ころ軸受を構成する外側リング部材32が固着されている。
また、このような転動体Kを介したトルク伝達は、転動体Kがピン45に押圧されてバックラッシを低減するので、トルク伝達開始時にはほとんど遊びのないダイレクトな、換言すれば、時間的な遅れがほとんどないトルク伝達が可能となる。
従って、入力軸Siの回転数は、回転数の可変制御が可能なウォームギア55と連結されたトラクションドライブ機構TRを介して出力軸Soから出力する場合、ウォームギア55の回転数に応じて変化する所望の変速比を得ることができる。すなわち、入出力軸間の変速比は線形にならず、所定の範囲内で任意の変速比を選択して設定することが可能になる。
また、上述した予圧調整は、入力軸部21と内輪部22との間に円柱形状部材の調圧カム50を配設する構成により達成できるため、変速装置10が軸方向に延びて大型化することのないコンパクトな装置となる。
しかも、上述した構成の変速装置10は、必要となる軸受の数が比較的少なくてすむので、製造時の組立が容易である。また、同一条件で比較した場合、ウォームギア55の回転数が比較的低い領域で運転できるため、運転騒音を低く抑えることができ、さらに、転動体Kの面圧を比較的低く抑えたり、調圧カム50を配設する入力軸Siの伝達トルクも比較的低く設定できるので、寿命や耐久性の面で有利になる。
そこで、転動体保持部43及び転動体Kが互いに接触する面の少なくとも一方に、摩擦係数を小さくするための摩擦係数低減処理を施すことが好ましい。
第1の具体例は、転動体保持部43が転動体Kと接触する面や転動体Kの表面に対し、銅メッキ処理のような表面処理を施したり、あるいは、ポリ4フッ化エチレンスプレー等の摩擦係数低減スプレーを噴射して、接触面の摩擦係数を低減することである。この場合の摩擦係数低減処理は、転動体保持部43が転動体Kと接触する面のみ、または転動体Kの表面のみのいずれでもよく、あるいは、転動体保持部43が転動体Kと接触する面及び転動体Kの表面の両方でもよい。
第3の具体例は、転動体Kと接触する転動体保持部43の面に、たとえばウレタン樹脂のように摩擦係数の小さい材料を嵌め込むことである。
第4の具体例は、転動体保持部43が転動体Kと接触する部分の潤滑において、トラクショングリースに二硫化モリブデンを混合した潤滑油を使用することであり、トラクション力を落とすことなく良好な潤滑性を得ることができる。
第5の具体例は、転動体Kと接触する転動体保持部43の面に、潤滑油を保持する溝を形成することである。この溝は、転動体Kの回転方向と交差するように、転動体保持部43の長辺に沿って形成することが好ましい。
車両用操舵装置STは、車両の走行方向を操作して曲がるための装置であり、ハンドル60を回転させるステアリング操作により操舵輪61,61の向きを変化させることができる。ハンドル60の操作は、上部操舵軸62の回転トルクとして変速装置10に入力され、この変速装置10で変速された出力のトルクが下部操舵軸63に連結されたラック&ピニオン装置64を動作させる。この結果、ラック&ピニオン装置64に連結された図示省略のリンク機構がラックと連動し、操舵輪61,61の向きを所望の方向へ変化させることができる。
このため、ステアリング操作を行うと、ハンドル60の操作により発生したトルクが上部操舵軸62から入力軸Siに伝達され、変速装置10内で所望の変速比に変換されたトルクが出力軸Soから下部操舵軸63に伝達されてラック&ピニオン装置64を動作させることができる。
また、たとえば縦列駐車等のように、低速走行時にハンドル60の操作量が大きくなる場合には、ウォームギア55の回転数を制御して変速比を増すと、少ないハンドル操作量で大きな操舵角を得ることができる。すなわち、入力軸Siの回転数が大きく増速されて出力軸Soから出力されるようにウォームギア55の回転数を調整すれば、小さなハンドル操作量(上部操舵軸62の回転数)が増速されて下部操舵軸63に出力されるので、ラック&ピニオン装置64のラック移動量を増して操舵輪61,61の向きを大きく変化させることができるため、車両用操舵装置STの操作性が向上する。
また、摩擦係数低減処理を施して変速装置10の無負荷損失トルクを抑制すれば、引っ掛かり感がなくなるなどステアリング操作時の操舵フィーリングをより一層向上させることができる。
図4に基づいて以下に説明するトラクションドライブ変速装置の構成例2は、トラクションドライブ変速の入出力を左右対称に二組接続した構成例であり、第1段階の変速を行った後の第2段階では、第1段階と逆の変速を異なる変速比で行うように構成した二段変速とされる。
図4に示すトラクションドライブ変速装置(以下、「変速装置」と呼ぶ)10Aは、入力軸Siと出力軸Soとの間に介在させた転動体Kのトラクションを利用し、入力軸Siの回転数を所望の変速比に変化させて出力軸Soから出力するとともに、入力軸Si及び出力軸Soを連結して2段階変速を行うように構成されている。すなわち、この変速装置10Aは、第1段階変速部TR1及び第2段階変速部TR2のトラクション入出力部材を連結して一体化するとともに、両変速部TR1,TR2の変速比に差を設けた構成とされる。
変速装置10Aは、入力軸Siを備えている第1保持器140の保持部本体142に梯子状の転動体保持部143を設け、この転動体保持部143に配設された転動体Kを、連結出力軸126を設けた第1内輪120と外輪連結部材90との間に介在させた第1段階変速部TR1と、出力軸Soを備えている第2保持器240の保持部本体242に梯子状の転動体保持部243を設け、この転動体保持部243に配設された転動体Kを、連結入力軸226を設けた第2内輪220と外輪連結部材90との間に介在させた第2段階変速部TR2とを備えている。そして、連結出力軸126と連結入力軸226との軸連結部に予圧調整手段として機能する調圧カム50を設けるとともに、外輪連結部材90に変速比可変機構として機能する遊星式減速機構80を連結した構成とされる。なお、図中の符号17は、最小の予圧を規定するコイルバネである。
第1保持器140に設けられた入力軸Siは、中空モータ軸81の内部を貫通して配設されている。この中空モータ軸81は、転動体保持部142側の端部外周面にギア部を形成した太陽ローラ82が設けられている。太陽ローラ82の外周には、ギア部と噛合する複数個の遊星ローラ83が周方向へ等ピッチで配設され、さらに、各遊星ローラ83の外周側には、外輪連結部材90とスプライン結合等により連結されたリングローラ84が配設されている。このリングローラ84は、内周面に形成されたギア部が遊星ローラ83と噛合している。
また、中空モータMを使用し、中空モータ軸81内を入出力軸が貫通する構成としたので、たとえばウォームギア55のように周方向へ突出する部材をなくすか、あるいは突出量を最小にすることができるので、変速装置10Aの外径寸法を小さくしてコンパクト化することができる。このように外形寸法の小さい変速装置10Aは、たとえば設置スペースの確保が困難な車両用操舵装置STの変速装置として好適である。
なお、上述した構成の変速装置10Aは、外形寸法は大きくなるものの、変速比可変機構としてウォームギア55を使用してもよい。
そして、この変速装置10Aを車両用操舵装置STに適用すれば、バックラッシの低減によりハンドル60の操作が遊びのない状態でほぼダイレクトにラック&ピニオン装置64に伝達されて良好な操舵フィーリングを得ることができる。また、摩擦係数低減処理を施した変速装置10Aは、無負荷損失トルクの抑制によりステアリング操作時の引っ掛かり感がなくなるので、操舵フィーリングをより一層向上させることができる。
このバックラッシ低減手段は、回転方向に隣接する転動体保持部43の間に穿設されたテーパ穴46と、このテーパ穴46に打ち込まれるテーパピン47とにより構成されている。すなわち、保持部本体42の円周方向へ等ピッチに並べて複数設けられている転動体保持部43の間に設けたテーパ穴46にテーパピン47を打ち込むことにより、保持部本体42が図中に想像線で示すように変形して転動体保持部43の幅を狭めるので、転動体Kと転動体保持部43との間に形成される隙間が減少してバックラッシを低減することができる。
また、上述したテーパ穴46及びテーパピン47は、転動体保持部43が隣接する全ての間隙部に設ける必要はなく、少なくとも1箇所の転動体保持部43で転動体Kの移動を規制できればよい。
このバックラッシ低減手段は、転動体Kの各々を異なる回転方向へ引きつける磁力であり、具体的には、転動体保持部43の回転方向となる保持部本体42の適所に磁石48を埋め込むなどして配設した構成とされる。この磁石は固定されているので、金属製の転動体Kを磁力により引き寄せることができる。
このバックラッシ低減手段は、転動体保持部43の少なくとも1つを軸方向にずらして配置することである。すなわち、上述した参考例及び各実施形態では、転動体保持部43が保持部本体42の円周方向へ等ピッチに並べて複数設けられ、しかも、各転動体保持部43は軸方向において同一位置とされるのに対し、本実施形態の配置では、少なくとも1つの転動体保持部43′が軸方向に長さLだけ底辺(下底)側へずれた位置にある。
なお、位置ずれする転動体保持部43′の数については、伝達トルク等の諸条件を考慮して適宜定めればよい。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、たとえばトラクションドライブ機構において転動体を保持する転動体保持部の構成が限定されないなど、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
11 ハウジング
20 内輪
30 外輪
40 保持器
41 本体
42 保持部本体
43,43′ 転動体保持部
44 ばね
45 ピン
46 テーパ穴
47 テーパピン
48 磁石
50 調圧カム
60 ハンドル
64 ラック&ピニオン装置
120 第1内輪
140 第1保持器
220 第2内輪
240 第2保持器
Si 入力軸
So 出力軸
K 転動体
TR トラクションドライブ機構
TR1 第1段階変速部
TR2 第2段階変速部
ST 車両用操舵装置
Claims (5)
- 入力軸と出力軸との間に介在させた転動体のトラクションを利用し、前記入力軸の回転数を所望の変速比に変化させて前記出力軸から出力するトラクションドライブ変速装置において、
前記転動体と、該転動体を回動自在に保持するよう保持部材に形成された転動体保持部との間に形成される隙間を狭めるバックラッシ低減手段を設け、該バックラッシ低減手段が、回転方向に隣接する前記転動体保持部の間に穿設されたテーパ穴と、該テーパ穴に打ち込まれるテーパピンとにより構成されることを特徴とするトラクションドライブ変速装置。 - 入力軸と出力軸との間に介在させた転動体のトラクションを利用し、前記入力軸の回転数を所望の変速比に変化させて前記出力軸から出力するトラクションドライブ変速装置において、
前記転動体と、該転動体を回動自在に保持するよう保持部材に形成された転動体保持部との間に形成される隙間を狭めるバックラッシ低減手段を設け、該バックラッシ低減手段が、前記転動体の各々を異なる回転方向へ引きつける磁力であることを特徴とするトラクションドライブ変速装置。 - 入力軸と出力軸との間に介在させた転動体のトラクションを利用し、前記入力軸の回転数を所望の変速比に変化させて前記出力軸から出力するトラクションドライブ変速装置において、
前記転動体と、該転動体を回動自在に保持するよう保持部材に形成された転動体保持部との間に形成される隙間を狭めるバックラッシ低減手段を設け、該バックラッシ低減手段が、前記転動体保持部の少なくとも1つを軸方向にずらした配置であることを特徴とするトラクションドライブ変速装置。 - 前記転動体保持部及び前記転動体が互いに接触する面の少なくとも一方に摩擦係数低減処理を施したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のトラクションドライブ変速装置。
- 運転者のステアリング操作が、請求項1から4のいずれかに記載のトラクションドライブ変速装置を介して車両の操舵輪に伝達されることを特徴とする車両用操舵装置。
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