JP4657108B2 - Es細胞培養用基礎培地 - Google Patents

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Description

本発明は哺乳動物のES細胞を培養するための培地を調製するための基礎培地に関する。
胚性幹(ES)細胞は未分化性を示し,生物の発生過程においてインビトロであらゆるタイプの分化した細胞を発生させる能力を有する。ES細胞の自己複製能および未分化性は,ウシ胎児血清を補充した培養用培地を用いて,フィーダー細胞またはLIFの存在下で維持しうることが知られている(Zandstra,P.W.,et al.,Biotechnol Bioeng 69,607−17(2000))。しかし,現在広く用いられているこのような培養条件においては,ES細胞の分化を解析する際にフィーダー細胞を確実に除去することが困難であり,分化誘導因子の添加による影響を正確に解析することができない。また,フィーダー細胞なしで培養しうるES細胞株も知られているが,例えば,マウスES細胞株の1つであるES−D3は,フィーダー層なしの培養条件下では自発的に分化する傾向にある。
さらに,血清は,アクチビンおよび線維芽細胞成長因子や未知の分化誘導因子の,その量が変動する成分を含む。これらの成分は,種々の物質を外から加えてES細胞の細胞成長および分化を解析する際に,分析結果に影響を与える可能性がある。また,血清の使用はウイルス,プリオンや未知の因子などの感染の危険性があり,再生医療への応用の際にはリスクを伴う。また,ES細胞の無血清培養条件についての報告もあるが,数代継代すると神経などに分化し,未分化性が維持できない場合がある。
本発明は,フィーダー細胞なしで,未分化性を維持したままES細胞を長期に培養しうる無血清培養用の培地,およびこのような培地を製造するための基礎培地を提供することを目的とする。
本発明者らは,特定の組成を有する培地を用いることにより,フィーダー細胞および血清なしで,未分化性を維持したままES細胞を培養しうることを見いだした。すなわち,本発明は,以下の表I:
に示される組成を有することを特徴とする,ES細胞培養用培地を調製するための基礎培地を提供する。
別の態様においては,本発明は,以下の表II:
に示される組成を有することを特徴とする,ES細胞培養用培地を調製するための基礎培地を提供する。
また別の態様においては,本発明は,以下の表III:
に示される組成を有することを特徴とする,ES細胞培養用培地を調製するための基礎培地を提供する。
別の態様においては,本発明の基礎培地は,2.5〜4.5g/LのHEPES,および所望のpHに調節するために必要な量のNaHCOをさらに含む。
さらに別の態様においては,本発明は,本発明のES細胞培養用培地を用いることを特徴とするES細胞の培養方法を提供する。
図1は,各種培地で培養したES−D3細胞におけるOct3/4発現のフローサイトメトリ分析を示す。
図2は,ES−D3細胞の成長に及ぼすLIF濃度の影響を示す。
図3は,ESF7培地およびCEM培地で培養したES−D3細胞の増殖を示す。
発明の詳細な説明
本発明においては,フィーダー細胞の非存在下で未分化マウスES細胞を成長させるための無血清合成培地を調製するための基礎培地が提供される。本発明の基礎培地(以下,ESF培地と称する)は,水に,上の表に示される各成分を所定の濃度となるように加え,さらに2.5〜4.5g/LのHEPES,および所望のpHに調節するために必要な量のNaHCOを加えた後,当該技術分野においてよく知られる方法を用いて滅菌することにより,容易に製造することができる。塩基性アミノ酸等の塩基性成分は,遊離塩基の形で加えても,HCl塩等の塩の形で加えてもよい。本発明の基礎培地に,6因子(6F;インスリン,トランスフェリン,2−ME,2−エタノールアミン,亜セレン酸ナトリウム,無脂肪酸ウシ血清アルブミンと複合体化したオレイン酸)およびLIF(白血病抑制因子)を補充して,本発明のES細胞培養用培地(以下,ESF7培地と称する)を製造する。これらの6因子およびLIFは市販されている。このESF7培地を用いることにより,ES細胞をタイプIコラーゲン被覆フラスコで無血清条件下で維持することができる。あるいは,本発明のES細胞培養用培地は,市販の培地を適宜混合することにより製造してもよい。例えば,市販のRPMI,DMEMおよびF12を1:2:1の割合で混合し,HEPES,NaHCO,ピルビン酸,亜セレン酸ナトリウムを添加して作成することにより簡便に製造することができるが,L−ヒスチジンHCl−HOの代わりに,L−ヒスチジンを計23.165g/L添加して使用する方が好ましい。
後述の実施例に示されるように,本発明にしたがってESF7培地でマウスES細胞を培養すると,ES細胞は,転写因子Oct3/4,幹細胞マーカーSSEA−1,およびアルカリホスファターゼの発現により表されるように,未分化の表現型を維持した。また,このようにして維持した未分化細胞に,骨形成因子4(BMP4)を加えると上皮様細胞への分化が誘導された。また,アクチビンAを加えると,ES細胞の線維芽細胞様細胞および棘状細胞への分化が促進された。すなわち,本発明にしたがってESF7培地で培養したES細胞は,分化誘導因子の刺激により特定の細胞に分化する能力を維持していた。
本発明の基礎培地においては,L−アラニンの濃度は,1.78mg/L〜2.67mg/L,好ましくは2.0025mg/L〜2.4475mg/L,より好ましくは2.11375mg/L〜2.33625mg/Lである。L−アルギニンの濃度は,40mg/L〜60mg/L,好ましくは45mg/L〜55mg/L,より好ましくは47.5mg/L〜52.5mg/Lである。L−アルギニンHClの濃度は,75.8mg/L〜113.7mg/L,好ましくは85.275mg/L〜104.225mg/L,より好ましくは90.0125mg/L〜99.4875mg/Lである。L−アスパラギンHOの濃度は,13.002mg/L〜19.503mg/L,好ましくは14.62725mg/L〜17.87775mg/L,より好ましくは15.43988mg/L〜17.06513mg/Lである。L−アスパラギン酸の濃度は,6.66mg/L〜9.99mg/L,好ましくは7.4925mg/L〜9.1575mg/L,より好ましくは7.90875mg/L〜8.74125mg/Lである。L−システインHCl・HOの濃度は,7.024mg/L〜10.536mg/L,好ましくは7.902mg/L〜9.658mg/L,より好ましくは8.341mg/L〜9.219mg/Lである。L−シスチン2HClの濃度は,38.058mg/L〜57.087mg/L,好ましくは42.81525mg/L〜52.32975mg/L,より好ましくは45.19388mg/L〜49.95113mg/Lである。L−グルタミン酸の濃度は,6.94mg/L〜10.41mg/L,好ましくは7.8075mg/L〜9.5425mg/L,より好ましくは8.24125mg/L〜9.10875mg/Lである。L−グルタミンの濃度は,439.72mg/L〜659.58mg/L,好ましくは494.685mg/L〜604.615mg/L,より好ましくは522.1675mg/L〜577.1325mg/Lである。グリシンの濃度は,15.5mg/L〜23.25mg/L,好ましくは17.4375mg/L〜21.3125mg/L,より好ましくは18.40625mg/L〜20.34375mg/Lである。L−ヒスチジンの濃度は,3mg/L〜30mg/L,好ましくは20.8485mg/L〜25.4815mg/L,より好ましくは22.00675mg/L〜24.32325mg/Lである。L−ヒドロキシプロリンの濃度は,4mg/L〜6mg/L,好ましくは4.5mg/L〜5.5mg/L,より好ましくは4.75mg/L〜5.25mg/Lである。L−イソロイシンの濃度は,52.748mg/L〜79.122mg/L,好ましくは59.3415mg/L〜72.5285mg/L,より好ましくは62.63825mg/L〜69.23175mg/Lである。L−ロイシンの濃度は,54.58mg/L〜81.87mg/L,好ましくは61.4025mg/L〜75.0415mg/L,より好ましくは64.81375mg/L〜71.63625mg/Lである。L−リジンHClの濃度は,73.74mg/L〜110.61mg/L,好ましくは82.9575mg/L〜101.3925mg/L,より好ましくは87.56625mg/L〜96.78375mg/Lである。L−メチオニンの濃度は,15.896mg/L〜23.844mg/L,好ましくは17.883mg/L〜21.857mg/L,より好ましくは18.8765mg/L〜20.8635mg/Lである。L−フェニルアラニンの濃度は,30.392mg/L〜45.588mg/L,好ましくは34.191mg/L〜41.789mg/L,より好ましくは36.0905mg/L〜39.8895mg/Lである。L−プロリンの濃度は,10.9mg/L〜16.35mg/L,好ましくは12.2625mg/L〜14.9875mg/L,より好ましくは12.94375mg/L〜14.30625mg/Lである。L−セリンの濃度は,24.9mg/L〜37.35mg/L,好ましくは28.0125mg/L〜34.2375mg/L,より好ましくは29.56875mg/L〜32.68125mg/Lである。L−スレオニンの濃度は,44.42mg/L〜66.63mg/L,好ましくは49.9725mg/L〜61.0775mg/L,より好ましくは52.74875mg/L〜58.30125mg/Lである。L−トリプトファンの濃度は,7.808mg/L〜11.712mg/L,好ましくは8.784mg/L〜10.736mg/L,より好ましくは9.272mg/L〜10.248mg/Lである。L−チロシンの濃度は,33.888mg/L〜50.832mg/L,好ましくは38.124mg/L〜46.596mg/L,より好ましくは40.242mg/L〜44.478mg/Lである。L−バリンの濃度は,43.86mg/L〜65.79mg/L,好ましくは49.3425mg/L〜60.3075mg/L,より好ましくは52.08375mg/L〜57.56625mg/Lである。
グルタチオンの濃度は,0.2mg/L〜0.3mg/L,好ましくは0.225mg/L〜0.275mg/L,より好ましくは0.2375mg/L〜0.2625mg/Lである。パラアミノ安息香酸の濃度は,0.2mg/L〜0.3mg/L,好ましくは0.225mg/L〜0.275mg/L,より好ましくは0.2375mg/L〜0.2625mg/Lである。ビオチンの濃度は,0.04148mg/L〜0.06222mg/L,好ましくは0.046665mg/L〜0.057035mg/L,より好ましくは0.049258mg/L〜0.054443mg/Lである。パントテン酸カルシウムの濃度は,1.746mg/L〜2.619mg/L,好ましくは1.96425mg/L〜2.40075mg/L,より好ましくは2.073375mg/L〜2.291625mg/Lである。塩化コリンの濃度は,4.992mg/L〜7.488mg/L,好ましくは5.616mg/L〜6.864mg/L,より好ましくは5.928mg/L〜6.552mg/Lである。葉酸の濃度は,2.06mg/L〜3.09mg/L,好ましくは2.3175mg/L〜2.8325mg/L,より好ましくは2.44625mg/L〜2.70375mg/Lである。イノシトールの濃度は,13.48mg/L〜20.22mg/L,好ましくは15.165mg/L〜18.535mg/L,より好ましくは16.0075mg/L〜17.6925mg/Lである。ニコチン酸アミドの濃度は,1.8074mg/L〜2.7111mg/L,好ましくは2.033325mg/L〜2.485175mg/L,より好ましくは2.146288mg/L〜2.372213mg/Lである。ピリドキサールHClの濃度は,1.6mg/L〜2.4mg/L,好ましくは1.8mg/L〜2.2mg/L,より好ましくは1.9mg/L〜2.1mg/Lである。ピリドキシンHClの濃度は,0.2124mg/L〜0.3186mg/L,好ましくは0.23895mg/L〜0.29205mg/L,より好ましくは0.252225mg/L〜0.278775mg/Lである。リボフラビンの濃度は,0.2076mg/L〜0.3114mg/L,好ましくは0.23355mg/L〜0.28545mg/L,より好ましくは0.246525mg/L〜0.272475mg/Lである。チアミンHClの濃度は,1.868mg/L〜2.802mg/L,好ましくは2.1015mg/L〜2.5685mg/L,より好ましくは2.21825mg/L〜2.45175mg/Lである。ビタミンB12の濃度は,0.273mg/L〜0.4095mg/L,好ましくは0.307125mg/L〜0.375375mg/L,より好ましくは0.324188mg/L〜0.358313mg/Lである。ヒポキサンチンの濃度は,0.816mg/L〜1.224mg/L,好ましくは0.918mg/L〜1.122mg/L,より好ましくは0.969mg/L〜1.071mg/Lである。リノール酸の濃度は,0.0168mg/L〜0.0252mg/L,好ましくは0.0189mg/L〜0.0231mg/L,より好ましくは0.01995mg/L〜0.02205mg/Lである。リポ酸(チオクト酸)の濃度は,0.042mg/L〜0.063mg/L,好ましくは0.04725mg/L〜0.05775mg/L,より好ましくは0.049875mg/L〜0.055125mg/Lである。プロレッシン二塩酸塩の濃度は,0.0322mg/L〜0.0483mg/L,好ましくは0.036225mg/L〜0.044275mg/L,より好ましくは0.038238mg/L〜0.042263mg/Lである。チミジンの濃度は,0.146mg/L〜0.219mg/L,好ましくは0.16425mg/L〜0.20075mg/L,より好ましくは0.173375mg/L〜0.191625mg/Lである。
塩化ナトリウムの濃度は,5279.8mg/L〜7919.7mg/L,好ましくは5939.775mg/L〜7259.725mg/L,より好ましくは6269.763mg/L〜6929.738mg/Lである。塩化カリウムの濃度は,284.72mg/L〜427.08mg/L,好ましくは320.31mg/L〜391.49mg/L,より好ましくは338.105mg/L〜373.695mg/Lである。塩化カルシウム(無水)の濃度は,86.644mg/L〜129.966mg/L,好ましくは97.4745mg/L〜119.1355mg/L,より好ましくは102.8898mg/L〜113.7203mg/Lである。硝酸カルシウム4HOの濃度は,20mg/L〜30mg/L,好ましくは22.5mg/L〜27.5mg/L,より好ましくは23.75mg/L〜26.25mg/Lである。塩化マグネシウム(無水)の濃度は,11.444mg/L〜17.166mg/L,好ましくは12.8745mg/L〜15.7355mg/L,より好ましくは13.58975mg/L〜15.02025mg/Lである。硫酸マグネシウム(無水)の濃度は,48.844mg/L〜73.266mg/L,好ましくは54.9495mg/L〜67.1605mg/L,より好ましくは58.00225mg/L〜64.10775mg/Lである。リン酸二水素ナトリウム(無水)の濃度は,43.48mg/L〜65.22mg/L,好ましくは48.915mg/L〜59.785mg/L,より好ましくは51.6325mg/L〜57.0675mg/Lである。リン酸一水素二ナトリウム(無水)の濃度は,188.408mg/L〜282.612mg/L,好ましくは211.959mg/L〜259.061mg/L,より好ましくは223.7345mg/L〜247.2855mg/Lである。ブドウ糖(無水)の濃度は,1860.4mg/L〜2790.6mg/L,好ましくは2092.95mg/L〜2558.05mg/L,より好ましくは2209.225mg/L〜2441.775mg/Lである。ピルビン酸ナトリウムの濃度は,0.001mg/L〜220mg/L,好ましくは50mg/L〜170mg/L,より好ましくは100mg/L〜120mg/Lである。ピルビン酸ナトリウムは,基本培地中に含めず,後に添加してもよい。硝酸第二鉄9HOの濃度は,0.04mg/L〜0.06mg/L,好ましくは0.045mg/L〜0.055mg/L,より好ましくは0.0475mg/L〜0.0525mg/Lである。硫酸銅5HOの濃度は,0.0005mg/L〜0.00075mg/L,好ましくは0.000563mg/L〜0.000688mg/L,より好ましくは0.000594mg/L〜0.000656mg/Lである。硫酸第一鉄7HOの濃度は,0.1668mg/L〜0.2502mg/L,好ましくは0.18765mg/L〜0.22935mg/L,より好ましくは0.198075mg/L〜0.218925mg/Lである。硫酸亜鉛7HOの濃度は,0.1728mg/L〜0.2592mg/L,好ましくは0.1944mg/L〜0.2376mg/L,より好ましくは0.2052mg/L〜0.2268mg/Lである。亜セレン酸ナトリウムの濃度は,0.000692mg/L〜0.00348mg/L,好ましくは0.000779mg/L〜0.00291mg/L,より好ましくは0.000822mg/L〜0.00263mg/Lである。亜セレン酸ナトリウムは,基本培地中に含めず,後に添加してもよい。フェノールレッドの濃度は,5.248mg/L〜7.872mg/L,好ましくは5.904mg/L〜7.216mg/L,より好ましくは6.232mg/L〜6.888mg/Lである。
本発明の基礎培地に加えるHEPESの濃度は,2859.6mg/L〜4289.4mg/L,好ましくは3217.05mg/L〜3931.95mg/L,より好ましくは3395.775mg/L〜3753.225mg/Lである。NaHCOの濃度は,1600mg/L〜2400mg/L,好ましくは1800mg/L〜2200mg/L,より好ましくは1900mg/L〜2100mg/Lである。
本発明のES細胞培養用培地を用いることにより,フィーダー細胞を用いることなく,ES細胞を未分化性を維持したまま成長させることができる。このため,種々の因子がES細胞の分化に及ぼす影響を再現性をもって調べることができる。また,ES細胞からの特定の細胞や臓器への分化条件を確立することがより容易になり,予め規定された経路に沿って試験菅内(あるいは生体外で)で分化させるようES細胞を誘導することが可能となる。したがって,本発明のES細胞培養用培地は,再生医療への応用に向けたES細胞の研究に有用である。
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。また,本出願が有する優先権主張の基礎となる出願である日本特許出願2003−434035号の明細書および図面に記載の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが,これらの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。
[実施例1]
基礎培地の調製
以下の表に示される組成の基礎培地(ESF培地と称する)を作成し,定法にしたがって滅菌した。
[実施例2]
ES細胞の培養および成長
ES細胞株としては,ES−D3(ATCC,USA)を用いた。この細胞は,フィーダー細胞なしで培養することができるが,その場合には分化傾向を示すと言われている。ES−D3細胞は,最初は,0.1%ゼラチン被覆プレート((Cell & Molecular Technologies,Inc.,Phillipburg,NJ)で,15%ウシ胎児血清,L−グルタミン,0.1mM 2−メルカプトエタノール,ヌクレオシド,非必須アミノ酸,およびLIFを補充したダルベッコ改変イーグル培地(Complete ES medium;以下CEMと称する,Cell & Molecular Technologies,Inc.,Phillipburg,NJ)で維持した。CEM培地の組成を以下に示す。
75cmコーニング社プラスチックフラスコに0.15mg/mlのコラーゲンタイプI溶液を10ml入れ,乾燥させないように12時間処理し,細胞播種直前に溶液を吸引除去した。ESF培地に6因子(10μg/mlウシインスリン,5μg/mlヒトトランスフェリン,10μM 2−メルカプトエタノール,10μM 2−アミノエタノール,10nM亜セレン酸ナトリウム,4μg/ml無脂肪酸ウシ血清アルブミンと複合体化したオレイン酸)ならびに300ユニット/mlのLIF(ESGRO(登録商標),Chemicon International Inc.)を添加した無血清培地(ESF7培地)を調製した。継代時は,ダルベッコ氏リン酸緩衝液にて洗浄後,0.001%トリプシン・0.01%EDTAにて細胞を10秒から30秒処理後,ピペッティングにて細胞を分散後,MCDB153溶液に溶解した0.1%トリプシンインヒビターにてトリプシンを中和し,ESF培地で細胞を集めて,遠心後,細胞をESF培地で分散,再度,遠心後,ESF7培地に細胞を分散させた。コラーゲン被覆フラスコに,ESF7培地中でES−D3細胞を5−7x10/mlの細胞密度で播種し,数日間培養したところ,接着性の弱い小型で境界が不明瞭でアルカリフォスファター活性陽性の細胞群がコロニーを形成して増殖した。
未分化表現型の判定は以下のようにして行った。細胞のアルカリホスファターゼ活性を検出するために,細胞を4.5mMクエン酸,2.25mMクエン酸ナトリウム,3mM塩化ナトリウム,65%メタノールおよび4%パラホルムアルデヒドで5分間固定し,洗浄し,次にFastRed基質キット(Nichirei Co.,Tokyo,Japan)を用いて製造元の指針にしたがって,アルカリホスファターゼを可視化した。
OCT3/4蛋白質発現を検出するためには,細胞をPBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)で4℃で16時間固定した。抗体とのインキュベートの前に,0.002%トリプシンを室温にて5分処理して細胞の透過性を増加させ,切片をメタノール中3%Hで30分間インキュベートすることにより内在性ペルオキシダーゼ活性をブロックした。切片をマウス抗Oct3/4(Transduction Laboratories,Lexington,KY)で免疫染色し,ペルオキシダーゼコンジュゲート化SimpleStain MAXPO(登録商標)ヤギ抗マウスIgG(NICHIREI Corporation,Tokyo,Japan)および3−アミノ−9−エチルカルバゾールで可視化した。
Oct3/4発現のフローサイトメトリ分析を行うためには,ES細胞を,コラーゲンタイプIで被覆した90mmプラスチックプレートでESF7中で,およびRD+2ME+FBS中で,およびゼラチン被覆プラスチックプレートでCEM中で,3x10細胞を播種した。培養第6日に,細胞をPBS中トリプシン/EDTAでトリプシン処理し,次に0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)中1%パラホルムアルデヒドで1時間固定した。細胞をPBS中1%サポニン(Sigma)中で室温で10分間処理して透過性を増加させた後,細胞を1mlの10%ヤギ血清(Nichirei)中に30分間懸濁し,遠心分離し,次に抗Oct3/4マウス抗体(Transduction Labolartories,Lexington,KY)とともに1時間インキュベートした。細胞を1%ヤギ血清を含有するPBSで3回洗浄し,次にフルオレセイン(FITC)−コンジュゲート化ヤギ抗マウスIgG抗体(Immunotech,France)と30分間反応させた。細胞を1%ヤギ血清を含有するPBSで3回洗浄した。再懸濁した細胞をEpicsAltra(Beckman Coulter Co.,Miami,FL)で分析した。
コラーゲン被覆フラスコでESF7培地中で5日間培養したES−D3細胞と,0.1%ゼラチン被覆フラスコでCEM中で5日間培養したES−D3細胞について,その細胞の形態を観察することにより表現型を比較した。ESF7培地中で成長したほとんどのES細胞は未分化のままであった。しかし,CEM中の培養物は,未分化細胞,線維芽細胞様細胞,上皮細胞様細胞および神経様細胞の混合物を含んでいた。ES細胞の未分化の性質は,通常は,幹細胞マーカー/Oct3/4に対する抗体で染色された細胞の比率を決定することにより確認される。免疫組織化学的染色により,ESF7培地中のほとんどのES−D3細胞はOct3/4蛋白質を発現していたが,CEM中ではより少ない細胞がOct3/4を発現していた。フローサイトメトリを用いて調べたところ,ESF7培地中の95%以上の細胞がOct3/4蛋白質を発現していたが,CEM中では85%未満の細胞がOct3/4を発現していた(図1)。15%FBSおよび2−メルカプトエタノールを添加したRD栄養培地中では,Oct3/4ポジティブ細胞のパーセンテージは60%未満であった。
[実施例3]
LIF濃度の影響
LIFがES−D3細胞の増殖に及ぼす影響を調べた。ES−D3細胞をタイプIコラーゲンで被覆した24−ウエルプレートでESF6(ESF+6因子)で,およびRD+6F中で,およびゼラチンで被覆した24−ウエルプレートでDMEM+15%FBS+2−メルカプトエタノール中で,5x10細胞/ウエルで播種した。LIFを各ウエルに0,1,10,100,500,1000ユニット/mlで加えた。6日間培養した後に細胞をコールターカウンターで計数した。
LIFはES細胞の自己複製能および未分化性を維持するが,細胞の増殖には影響を及ぼさないことが知られている。しかしながら,図2に示されるように,ESF6培地(黒丸)においては,LIFは明らかに濃度依存的様式でES細胞増殖を刺激した。一方,15%FBSおよび2−メルカプトエタノールを補充したDMEM(黒三角)中では,LIFは細胞増殖にはほとんど影響を及ぼさなかった。すなわち,本発明の化学合成無血清ESF6培地を用いることにより,LIFのマウスES細胞に対するこれまでに知られていない活性を識別することが可能となった。
ESF7培地からLIFを除いた場合にも,ES−D3細胞の自発的分化は認められなかった。LIFの非存在下でFBSを培地に加えると,ES−D3細胞は線維芽細胞様細胞,上皮様細胞,および神経様細胞に分化した。このことは,ES−D3細胞がESF6培地中で未分化性を維持していたことを示す。
[実施例4]
ES細胞の細胞増殖
ES−D3細胞を,タイプIコラーゲンで被覆した24−ウエルプレート(Falcon)にESF7中で,およびゼラチンで被覆した24ウエルプレートにCEM中で,1x10細胞/ウエルで播種し,細胞増殖を比較した(図3)。ES−D3細胞はCEM中でよく増殖した(黒三角;Td=9時間)。ES−D3細胞はESF7培地中ではCEM中よりゆっくりと増殖したが(黒丸;Td=11.8時間),第6日における細胞密度はいずれの培地についてもほとんど同じであった。ES−D3細胞をESF7培地中で1年以上継続して培養しても,細胞はその形態を変化させず,アルカリホスファターゼ活性,Oct3/4およびSSEA−1を発現し続けた。
[実施例5]
ES 129Sv細胞の培養
ESF7培地がES 129Sv細胞の培養に及ぼす影響を調べた。10代継代目の凍結129/SVES細胞(Cell&Molecular Thchnologies,Inc.,Phillipburg,NJ)を購入し,これをフィーダー細胞上でCME中で維持した。129/SVES細胞をタイプIコラゲナーゼを含むPBS中でピペッティングし,ESF7培地(2000ユニットのLIF/ml)でフィーダー細胞なしでコラーゲン被覆フラスコに接種した。ES 129Sv細胞はゆっくり増殖し,神経様細胞も出現した。しかし,アルカリホスファターゼ活性およびOct3/4抗体を用いる免疫組織学的発現の測定からES 129Sv細胞がESF7培地中で分化することなく増殖したことがわかった。すなわち,本発明のES細胞培養用培地を用いることにより,通常はフィーダー細胞上で増殖するES細胞もフィーダー細胞なしで増殖することが示された。ただし,継代時は,トリプシンEDTAではなく,0.3ユニット/mlのコラゲナーゼタイプIA−Sを用いて,細胞を分散させた。
[実施例6]
BMP4,アクチビンAならびにFGF−2による分化誘導
ES−D3細胞を,ESF7中でラミニン被覆プラスチックプレートに接種し,2日間培養した。次に,培地をRD+5F培地(5因子を補充したRD)に交換した。RD培地は非ES細胞タイプについて一般に用いられている無血清合成培地用の基本培地である。BMP4の添加のためには,RD+5F培地にfatty acid free−BSAを補充した。
アクチビンAをRD+5Fに加えると,ES−D3細胞の線維芽細胞様細胞への分化が誘導された。BMP4をfatty acid free−BSA(無脂肪酸ウシ血清アルブミン)を補充したRD+5Fに加えると,ES細胞は上皮様細胞に分化した。これらの結果は,ES−D3細胞が成長因子に応答して,特定の経路に沿って分化するよう誘導されうることを示す。ES−D3細胞を,ESF7中でラミニン被覆プラスチックプレートに接種し,2日間培養した。次に,培地をESF5に交換した。BMP4の添加のためには,ESF5にfatty acid free−BSA(無脂肪酸ウシ血清アルブミン)を補充した。あるいは,ES−D3細胞を,培地をESF5を用いて,ラミニン被覆プラスチックプレートに接種し,BMP4ならびにfatty acid free−BSAを添加して培養を行う。培地は2日毎に交換した。あるいは,ES−D3細胞を,培地をESF5を用いて,ラミニン被覆プラスチックプレートに接種し,FGF−2ならびにヘパリン,あるいは,FGF−2とヘパリンとNGF,あるいは,FGF−2とヘパリンとPDGF−AAを添加し,1日培養後,それぞれ漕辱因子のみ添加し,さらに培養2日目に培地をESF5に培地交換し,培養を行った。培地は2日毎に交換した。
アクチビンAをESF5に加えると,ES−D3細胞の線維芽細胞様細胞への分化が誘導された。BMP4をfatty acid free−BSA(無脂肪酸ウシ血清アルブミン)を補充したESF5に加えると,ES細胞は上皮様細胞に分化した。FGF−2とヘパリン,あるいはさらにNGF,あるいはPDGF−AAをESF5に加えると,神経様細胞に分化した。これらの結果は,ES−D3細胞が成長因子に応答して,特定の経路に沿って分化するよう誘導されうることを示す。
[実施例7]
ES C57/BL6J ES細胞の培養
ESF7培地が C57/BL6J ES細胞の培養に及ぼす影響を調べた。10代継代の凍結C57/BL6J ES細胞(Cell&Molecular Technologies,Inc.,Phillipburg,NJ)を購入し,これをフィーダー細胞上でCME中で維持した。 C57/BL6J ES細胞をPBSのみにて,あるいはタイプIコラゲナーゼを含むPBS中でピペッティングし,ESF7培地(3000ユニットのLIF/ml)でフィーダー細胞なしでコラーゲン被覆フラスコに接種した。C57/BL6J ES細胞は未分化なコロニーを作り,ゆっくり増殖した。すなわち,本発明のES細胞培養用培地を用いることにより,通常はフィーダー細胞上で増殖するES細胞もフィーダー細胞なしで増殖することが示された。
産業上の利用性
本発明にしたがう培地を用いることにより,フィーダー細胞なしで,未分化性を維持したままES細胞を長期に無血清培養することができるため,ES細胞の成長および分化誘導に有用である。

Claims (7)

  1. 以下の表I:
    に示される組成を有することを特徴とする、ES細胞培養用培地を調製するための基礎培地。
  2. 以下の表II:
    に示される組成を有することを特徴とする、ES細胞培養用培地を調製するための基礎培地。
  3. 以下の表III:
    に示される組成を有することを特徴とする、ES細胞培養用培地を調製するための基礎培地。
  4. 2.5〜4.5g/LのHEPES、および所望のpHに調節するために必要な量のNaHCOをさらに含む、請求項1−3のいずれかに記載の基礎培地。
  5. 請求項1−4のいずれかに記載の基礎培地、インスリン,トランスフェリン,2−メルカプトエタノール,2−エタノールアミン,亜セレン酸ナトリウム,及び無脂肪酸ウシ血清アルブミンと複合体化したオレイン酸を含む、ES細胞培養用培地。
  6. さらに、LIF(白血病抑制因子)を含む、請求項5記載のES細胞培養用培地。
  7. 請求項5又は6記載のES細胞培養用培地を用いることを特徴とする、ES細胞の培養方法。
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