JP4646745B2 - インクタンク - Google Patents

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Description

本発明は、インクタンクに関するものである。
インクタンクに収容されているインクを用いる記録装置としては、例えば、インクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置がある。さらに、このようなインクジェット記録装置には、インクジェット記録ヘッドと共にインクタンクをキャリッジに搭載して、そのキャリッジの主走査方向の移動を伴って、記録媒体上に画像を記録するシリアルスキャンタイプのものがある。
このシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置は、インクジェット記録ヘッドと、その記録ヘッドにインクを供給するインクタンクと、を搭載可能なキャリッジを備えている。そして記録に際しては、記録媒体に対してキャリッジを移動させながら、記録ヘッドに設けられた微細な吐出口からインク滴を吐出させ、そのインク滴を記録媒体上に着弾させることにより、所望の画像を記録する。
インクジェット記録ヘッドに用いられるインクとしては、主に、着色材として染料を用いた染料インクが使用されてきた。しかしながら、染料インクによって記録された記録物は、耐光性および耐候性を重視する屋外掲示プリント物等の用途において求められる性能をもつことが難しく、その代わりに、着色材として顔料を用いた顔料インクが実用化されている。しかし、顔料は溶解系ではなく分散系であるため、顔料インクは、インクタンク中において顔料粒子の沈降が生じることが避けられない。
例えば、インクタンクがインクジェット記録装置に装着されたまま長期間放置された場合には、そのインクタンクの内部にてインク中の顔料粒子が徐々に沈降する。そのため、インクタンク内部において、その底部から上部の方向に向かうにしたがって顔料粒子の濃度傾斜が発生する。その結果、インクタンク底部のインクは、顔料粒子濃度が高くなって色が過度に濃い層を形成し、一方、インクタンク上部のインクは、顔料粒子濃度が低くなって色が過度に薄い層を形成することになる。
インクタンク内のインクがインクタンク底部から導出される場合、そのインクタンクから導出したインクを記録ヘッドに供給したときには、最初に、顔料粒子濃度の高い層を形成するインクが供給されて、色が過度に濃い画像が記録されることになる。つまり、インクタンクの使用初期における記録画像と、その使用後期における記録画像と、の間に、目視される程度の記録濃度の差が生じるおそれがある。このような現象は、色の濃淡によってカラー画像を記録するカラー記録において、特に顕著となる。
特許文献1,2には、インクタンク内に撹拌体を備えて、キャリッジの往復運動の慣性力によって撹拌体を移動させることにより、インクタンク内のインクを撹拌させる構成が記載されている。
すなわち特許文献1には、内部に、撹拌体を揺動自在に備えたインクタンクが記載されており、その撹拌体の揺動中心は、キャリッジ移動方向におけるインクタンク内のほぼ中央の位置に設定されている。その撹拌体は、キャリッジの往復運動によって、一方向および他方向に同様に揺動することになる。また特許文献2には、内部に、弾性変形を伴って揺動自在の撹拌体を備えたインクタンクが記載されており、その撹拌体は、インクタンクの上部内面のほぼ中央部分から垂下する形状となっている。その撹拌体も、キャリッジの往復運動によって、一方向および他方向に同様に揺動することになる。また特許文献2には、インクタンク内に、その底面上を自由に移動可能な撹拌体を備えた構成も記載されている。その撹拌体は、キャリッジの往復運動によって、インクタンクの底面上を自由に移動することになる。
特開2004−216761号公報 特開2005−066520号公報
しかしながら、特許文献1,2に記載されているインクタンクには、次のような不具合がある。
まず、特許文献1に記載のインクタンクは、インクタンク内のほぼ中央部分を中心として撹拌体が一方向および他方向に同様に揺動する。そのため、その撹拌体の揺動範囲を大きくして撹拌性能を上げるためには、キャリッジの移動方向におけるインクタンクの幅を大きくする必要がある。しかし、キャリッジに搭載されるインクタンクは、キャリッジの移動方向に沿って複数搭載される場合が多く、その幅が比較的小さく制限されているため、撹拌体の揺動範囲を大きくすることができず、その撹拌体の揺動によって生じるインクの流れが小さい。インクを充分に撹拌するためには、キャリッジの往復移動回数を多くして、撹拌時間を長くする必要がある。
一方、特許文献2に記載のインクタンクにおいて、インクタンクの上部内面のほぼ中央部分から垂下する撹拌体を備えるものは、インクタンク内のほぼ中央部分を中心として撹拌体が一方向および他方向に同様に揺動する。撹拌体の揺動範囲を大きくして撹拌性能を上げるためには、特許文献1のインクタンクと同様に、キャリッジの移動方向におけるインクタンクの幅を大きくする必要がある。そのため、特許文献1のインクタンクと同様の問題がある。また、撹拌体を大きく弾性変形させるためにキャリッジの加速度を大きく設定した場合には、キャリッジの駆動モーターの大型化および高価格化を招き、また記録装置の振動も大きくなるおそれがある。また特許文献2に記載のインクタンクにおいて、その底面上を自由に移動可能な撹拌体を備えたものは、その撹拌体がインクタンク内のインクの上層部分から離れているため、その上層部分に対しての撹拌性能が劣るという問題がある。
このような特許文献1および2に記載のインクタンクの不具合は、次のような一般的なインクタンクおよび記録装置の形態の観点からも明らかである。
一般的に、キャリッジに搭載されるインクタンク(「オンキャリッジタイプのインクタンク」ともいう)は、その着脱の操作性の良くするために、その幅と長さが設定されている。すなわち、キャリッジの移動方向(主走査方向)におけるインクタンクの幅は比較的小さく、また、その主走査方向と交差する記録媒体の搬送方向(副走査方向)におけるインクタンクの長さは比較的大きく設定されている。そのため、撹拌体の変位方向である主走査方向において、その変位量を大きく設定することができない。したがって、撹拌体の変位量が小さくてインクの強い流れを生じさせることができず、そのためインクの撹拌効率が劣り、インクタンク内部のインク全体を撹拌するためには時間が掛かりすぎる。例えば、キャリッジにインクタンクを装着したまま、記録装置が長期間記録を行わなかったために、インクタンク内におけるインク中の顔料粒子が沈降した場合には、記録を開始前に長時間に渡って、キャリッジを往復運動させなければならなる。そのため、記録動作が可能となるまでのウォームアップ時間が長くなる。特に、顔料インク中の顔料粒径が大きい場合や顔料粒子の比重が大きい場合には、その沈降が早く、インクタンクを数日間放置しただけでも、記録画像に悪影響を与える濃度分布がインクタンク内に発生するおそれがある。この場合には、数日毎にインクの撹拌動作を行わなければならず、また、その撹拌動作の間は記録を開始することができなくなる。
本発明の目的は、インクタンク内のインクを効率よく撹拌することできるインクタンクを提供することにある。
本発明のインクタンクは、インクを収納可能に構成されたインク収納室であって、該インク収納室を構成する筐体の内壁と、該内壁を覆いインクの消費に応じ変形する可撓性部材と、該可撓性部材に作用して負圧を発生させる弾性部材と、を備えたインク収納室と、前記インク収納室の内部に配された前記インクを撹拌するために利用される撹拌部材と、前記インク収納室を構成する前記内壁に設けられ前記撹拌部材の一部を支持する支持部と、前記インク収納室内のインクを外部に供給可能なインク供給口と、を備えたインクタンクにおいて、前記撹拌部材は、前記支持部によって支持される被支持端と、該被支持端側を中心とした揺動動作を可能にする自由端とを備えており、さらに前記被支持端側の前記撹拌部材には貫通部もしくは切り欠き部が設けられていることを特徴とする。
本発明によれば、インクタンクの筐体の内壁の近傍位置に撹拌部材の基端部を揺動自在に支持し、その内壁に撹拌部材が接近したときに、それらの対向面をほぼ平行とすることにより、強いインクの流れを生じさせることができる。さらに、撹拌部材の基端部の近傍位置に空間部を形成することにより、撹拌部材の基端部周辺にインクの流れを生じさせて、より効率よくインクを撹拌することができる。
この結果、例えば記録動作前あるいは記録動作中に、インクタンクを搭載したキャリッジの往復動作させることにより、インクタンク内のインクを効率よく撹拌することができる。またインクタンクを記録装置に装着したまま長期放置した後には、記録動作前にキャリッジを短時間往復動作させるだけでもインクを充分に撹拌させることができる。したがって、記録装置を起動した後に素早く記録動作を開始することができる。また、顔料を含むインクを収納した場合には、その顔料の濃度を均一化して高品位の画像を記録することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
(インクタンクの構成)
図1は、本発明の第1の実施形態におけるインクタンク1の断面図であり、図2は、そのインクタンク1の分解斜視図である。図1は、図2のI−I線に沿う断面図に相当する。
インクタンク1は、タンクケース10と可撓性部材40によって構成されるインク収納室R内に、インク2を収納する容器であり、図1のようにインク供給口60を下方に向けた姿勢でインクジェット記録装置に装着される。インク供給口60は、後述するインクジェット記録ヘッドおインク供給路に接続される。本例のインクタンク1は、記録ヘッドと分離可能とされている。しかしインクタンク1は、記録ヘッドを分離不能に備えた記録ヘッド一体型のものであっても良い。
図2に示すように、インクタンク1は、主に、タンクケース10、撹拌部材20A,20B、ばね部材30、圧力板31、可撓性部材40、および蓋部材50から構成される。タンクケース10と蓋部材50はインクタンク1の筐体を構成する。
攪拌部材とは、インクタンク内に収納されているインクよりも比重が大きく、慣性力や、外部からインクタンクへかかる力によって、インク中を移動可能な重量・剛性を兼ねている部材のことである。
タンクケース10には、インクジェット記録ヘッドに接続可能なインク供給口60が形成されている。インク供給口60には、図1に示されるように、毛管部材61とメニスカス保持部材62が備えられている。毛管部材61は、インク供給口60に記録ヘッドを接続したときに、その記録ヘッドの鉛直方向(図1中の上下方向)の位置ずれを吸収できるように、ある程度の柔軟性をもつ材料によって構成されている。さらに、この毛管部材61は、インクの流路となるような毛管力を持つ。インク収納室R内は、後述するように、インク供給口60からのインクが垂れ出ないように負圧に保たれている。メニスカス保持部材62は、そのインク収納室R内の負圧によって、インク供給口60から気泡を引き込まないように、インクのメニスカスを発生する。したがってメニスカス保持部材62としては、インク収納室R内に発生する負圧の最大値よりも強いメニスカス保持圧力を発生させるような部材が選択される。
タンクケース10の内部には、インク収納室R内に位置する撹拌部材20Aおよび20Bが矢印C1,C2方向に揺動自在に取り付けられている。本例の撹拌部材20A,20Bは、複数の貫通部21A,21Bが形成された金属製の板部材と、その基端部に取り付けられた支点軸22A,22Bと、を含む。貫通部21A,21Bは、支点軸22A,22B寄りの位置(図1中の上方寄りの位置)に形成されている。タンクケース10の図1中左側の内壁10Aの近傍位置には、支点軸22A,22Bを回動自在に支持するための支持部15A,15Bが形成されている。また、タンクケース10の内壁10Aには、撹拌部材20A,20Bと対向する凹状の掘り込み部14A,14Bが形成されている。
貫通部21A,21Bは、撹拌部材20A,20Bを貫通することによって、内壁10Aと対向する撹拌部材20A,20Bの対向面積を部分的に小さくする空間部を形成する。撹拌部材20Aおよび20Bは、同形状であって同様に動作するため、以下においては撹拌部材20Aのみを代表して説明する。
図3は、支持部15A付近の拡大斜視図である。支持部15Aには、撹拌部材20Aの支点軸22Aの両端部とはまり合って、それらの両端部を回動可能に支持するためのアンダーカット部が形成されている。より具体的には、支持部15Aには支点軸22Aの両端部とはまり合う孔部15A−1,15A−1と、それらの孔部15A−1,15A−1内に支点軸22Aの両端部を案内する案内溝部15A−2,15A−2が形成されている。さらに、それらの案内溝部15A−2,15A−2は、くさび状の止め部15A−3,15A−3によって部分的に狭められている。支点軸22Aの両端部は、案内溝部15A−2,15A−2内に強く押し込まれることにより、支点軸22Aおよび/または支持部15Aの一時的な弾性変形を伴って孔部15A−1,15A−1内にはめ合わされる。図3のように、支点軸22Aの両端部を孔部15A−1,15A−1内にはめ合わせてから、撹拌部材20Aを回転させる。
一旦、支点軸22Aの両端部が孔部15A−1,15A−1内にはめ合わされた後は、インクタンク1の製造後の物流時や使用時においても撹拌部材20Aが外れることはない。孔部15A−1,15A−1の内径は、支点軸22Aの両端部の外径よりもわずかに大きく設定されており、撹拌部材20Aは、その支点軸22Aを中心として揺動自在に支持される。本例の場合、図1のようにインク供給口60を下側にしたインクタンク1の装着姿勢において、撹拌部材20Aの基端部はほぼ水平方向の軸線を中心として揺動自在に支持される。
図4はタンクケース10の拡大図、図5は図4のV−V線に沿う断面図、図6は図4のVI−VI線に沿う断面図である。
本例における掘り込み部14A,14Bは、図1および図6のように、タンクケース10の側部の肉厚を薄くすることによって形成されている。その肉厚は、撹拌部材20A,20Bの支点軸22A,22B側から、撹拌部材20A,20Bの先端側(図1および図6中の下側)に向かうにしたがって、徐々に小さく設定されている。すなわち、前者側から後者側に向かうにしたがって、図1のように肉厚がW1からW2へと徐々に小さくなる。タンクケース10の内壁10Aには、撹拌部材20A,20Bが入り込む掘り込み部14A,14Bが形成されている。Sは、撹拌部材20A,20Bと内壁10Aとの間に形成される空間である。
円錐コイルばねであるばね部材30は、タンクケース10の内壁10Aに形成された掘り込み部11内に位置決めされる。さらにばね部材30は、その荷重中心と圧力板31の重心とが略一致するように配置される。可撓性部材40の周縁部はタンクケース10の溶着部13に溶着され、この可撓性部材40とタンクケース10とによって、インク供給口60を除いて密閉された空間、つまりインク収納室Rが形成される。
本例の可撓性部材40の中央部分の形状は、平板状の支持部材である圧力板31によって規制されており、可撓性部材40の周縁部分は変形可能となっている。この可撓性部材40は、予め、その中央部分が凸状に形成されて、その断面形状がほぼ台形となっている。この可撓性部材40は、後述するように、インク収納室R内におけるインク量の変化や圧力変動に応じて変形する。その際に、可撓性部材40の周辺部分がバランスよく柔軟に変形し、その可撓性部材40の中央部分は、タンクケース10の内壁10Aとほぼ平行の姿勢を保ったまま、図1中の左右方向に移動する。このように可撓性部材40がスムーズに変形(移動)することにより、その変形に伴う衝撃の発生がなく、その衝撃に起因してインク収納室R内に異常な圧力変動が生じることもない。
また、圧縮ばね形態のばね部材30は、圧力板31を介して可撓性部材40を図1中の右方向に付勢する。その付勢力がインク収納室Rを拡大させる方向に作用することによって、そのインク収納室R内に所定の負圧が発生する。その負圧によって、記録ヘッド内のインクには、そのインク吐出部に形成されるインクのメニスカスの保持力と平衡して、記録ヘッドのインク吐出動作が可能となる範囲の負圧が付与される。つまりインク収納室R内には、記録ヘッドのインク吐出動作を可能とする範囲の負圧が発生する。図1は、インク収納室R内にほぼ完全にインクが充填された状態を示している。この状態でもばね部材40は圧縮された状態にあり、インク収納室R内に適切な負圧が生じている。
タンクケース10の開口部には蓋部材50が取り付けられ、その蓋部材50によって可撓性部材40が保護される。蓋部材50には大気連通部51が設けられており、タンクケース10内におけるインク収納室Rの外側が大気圧とされている。インク収納室R内の圧力は、圧力板31に対するばね部材30の押圧荷重と、可撓性部材40の平面部の面積と、に対応する圧力分だけ、大気圧に対して負圧となっている。
図1のように、インク収納室R内にほぼ完全にインク2が充填された状態から、そのインク2が記録ヘッドに供給されて消費された場合、ばね部材30の付勢力に抗して圧力板31が図1中の右方向に移動し、そして可撓性部材40が変形する。ばね部材30が圧縮されて、そのばね部材30の荷重が増加した分だけ、インク収納室R内の負圧がわずかに増加する。さらにインクの消費が進むと、最終的には、圧力板31がタンクケース10の内部底面に接触して変位できなくなるまで、インク収納室R内の容積が減少する。ばね部材30は、それが圧縮された場合に、それを形成する素線が干渉しないように円錐コイルばねとなっており、その素線の直径分の幅まで圧縮可能である。ばね部材30は、それが完全に圧縮されたときに掘り込み部11内に完全に収納されるため、圧力板31の変位を妨げることはない。
インク2の消費に伴って圧力板31が変位した場合、撹拌部材20A,20Bの揺動範囲は減少するものの、タンクケース10に掘り込み部14A,14Bが形成されているため、撹拌部材20A,20Bの揺動は可能である。また、圧力板31の変位は撹拌部材20A,20Bによって妨げられることはない。したがって、圧力板31がタンクケース10の内壁10Aに接触するまで、インク収納室R内のインクを供給して消費することが可能である。
(インクジェット記録装置の構成)
図7は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の構成例を説明するための図である。
本例の記録装置150はシリアルスキャン方式のインクジェット記録装置であり、ガイド軸151,152によって、キャリッジ153が矢印Aの主走査方向に移動自在にガイドされている。キャリッジ153は、キャリッジモータおよびその駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構により、主走査方向に往復動される。キャリッジ153には、インクジェット記録ヘッド(不図示)と、この記録ヘッドにインクを供給するための前述したインクタンク1と、が搭載可能である。本例においては、4つのインクタンク1が装着される。しかし、インクタンク1の装着数は1つ以上であればいくつでもよい。
記録媒体としての用紙Pは、装置の前端部に設けられた挿入口155から挿入された後、その搬送方向が反転されてから、送りローラ156によって矢印Bの副走査方向に搬送される。記録装置150は、記録動作と搬送動作とを繰り返すことによって、用紙P上に順次画像を記録する。記録動作は、キャリッジ153と共に記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ、プラテン157上の用紙Pの記録領域に向かってインクを吐出させる動作である。また搬送動作は、記録ヘッドの1回の記録走査によって記録される領域の幅に対応する距離だけ、用紙Pを副走査方向に搬送する動作である。
図7中の(a),(b),(c)は、キャリッジ153が主走査方向に沿って仮想の軌跡上を往復移動するときの移動位置を示す。位置(a)は、キャリッジ153が矢印A1の往方向に移動し始めたときの位置である。位置(b)は、その後にキャリッジ153の移動方向が反転し、それが矢印A2の復方向に移動し始めたときの位置である。位置(c)は、その後にキャリッジ153が矢印A2方向に継続して移動しているときの位置である。このようなキャリッジ153の矢印A1,A2方向の往復運動を利用して、後述するようにインクタンク1内のインク2を撹拌する。
記録ヘッドは、インクを吐出するためのエネルギとして、電気熱変換体から発生する熱エネルギを利用するものであってもよい。その場合には、電気熱変換体の発熱によってインクに膜沸騰を生じさせ、そのときの発泡エネルギによって、インク吐出口からインクを吐出することができる。また、記録ヘッドにおけるインクの吐出方式は、このような電気熱変換体を用いた方式のみに限定されず、例えば、圧電素子を用いてインクを吐出する方式等であってもよい。
キャリッジ153の移動領域における図7中の左端には、キャリッジ153に搭載された記録ヘッドのインク吐出口の形成面と対向する回復系ユニット(回復処理手段)158が設けられている。回復系ユニット158には、記録ヘッドのインク吐出口のキャッピングが可能なキャップと、そのキャップ内に負圧を導入可能な吸引ポンプなどが備えられている。そして、インク吐出口を覆ったキャップ内に負圧を導入することにより、インク吐出口からインクを吸引排出させて、記録ヘッドの良好なインク吐出状態を維持するための回復処理を行うことができる。また、キャップ内に向かって、画像の記録に寄与しないインクをインク吐出口から吐出させることによって、記録ヘッドの良好なインク吐出状態を維持する回復処理(予備吐出処理)ともいう)を行うこともできる。
(撹拌メカニズム)
図8(a),(b),(c)は、撹拌部材22Aによるインク2の撹拌動作を説明するための断面図であり、それぞれ、図7中のキャリッジ153の位置(a),(b),(c)における動作状態を示す。撹拌部材22Bは、この撹拌部材22Aと同様に動作する。
まず、図8(a)のように、キャリッジ153が矢印A1方向に移動し始めたときには、インクタンク内の撹拌部材20Aは、慣性力によって矢印C1方向に揺動し始める。撹拌部材20Aが矢印C1方向に揺動し始めることにより、撹拌部材20Aと内壁10Aとの間の空間Sが拡大し、その拡大した空間S内にインクが流れ込む。その空間S内に流れ込むインクの大部分は、撹拌部材20Aの外縁部を通る。撹拌部材20Aの中央部付近の空間Sに対しては、撹拌部材20Aの貫通部21Aを通って流れ込む方がインクの流抵抗が小さい。そのためインクは、図8(a)中の矢印のように貫通部21Aを通って、空間S内を撹拌部材20Aの自由端側(下端側)に向かって流れる。撹拌部材20Aの揺動範囲は、その基端部(上端部)の方が先端部(下端部)よりも小さい。しかし、撹拌部材20Aが内壁10Aから離間するときに、撹拌部材20Aの基端部付近のインクを貫通部21Aから空間S内に導くことにより、その撹拌部材20Aの基端部付近のインクをも効率よく撹拌することができる。
次に、図8(b)のように、キャリッジ153が反転して矢印A2方向に移動し始めたときには、キャリッジ153の減速および矢印A2方向の加速により、それまで矢印C1方向に最大に揺動していた撹拌部材20Aが逆の矢印C2方向の揺動を開始する。これにより、撹拌部材20Aと内壁10Aとの間の距離が減少し始め、これに伴い、図8(a)のときとは逆の方向にインクが流れ始める。この図8(b)状態では、撹拌部材20Aとタンクケース10の内壁10Aとの間の距離が大きいために、インクの流れは遅く、その流抵抗もきわめて小さい。
次に、図8(c)のように、キャリッジ153が引き続き矢印A2方向に移動したときには、撹拌部材20Aが内壁10Aに接近し、空間S内のインクは、撹拌部材20Aの外縁部および貫通部21Aを通して押し出される。撹拌部材20Aがインクケース10の内壁10Aに接近したときには、その撹拌部材20Aの面が内壁10Aとほぼ平行となるため、空間S内のインクは強く押し出される。このとき、撹拌部材20Aに生じる慣性力よりも、空間Sから押し出されるインクの流抵抗の方が大きい場合には、撹拌部材20Aの揺動速度が大きく低下する。そこで、キャリッジ153の加速力、撹拌部材20Aの質量、もしくは貫通部21Aの大きさなどを調整して、インクの流抵抗よりも撹拌部材20Aの慣性力を大きくすることが好ましい。撹拌部材20Aの慣性力を充分に大きくすることにより、撹拌部材20Aが掘り込み部14Aに近接したときには、図9のように強いインクの流れが生じる。すなわち、撹拌部材20Aの下端側の外縁部、および貫通部21A付近に、インクの強い流れが生じる。
このようなインクの流れにより、インク収納室R内全体におけるインクの撹拌効率を高めることができる。特に、貫通部21Aを通して空間S内のインクが上方に流れることにより、インク収納室Rの上方部分のインクをも効率よく撹拌することができる。つまり、撹拌部材20Aを内壁10Aに接近させて強いインクの流れを生じさせたときに、その流れの一部を貫通部21Aから撹拌部材20Aの基端部付近に導くことにより、その撹拌部材20Aの基端部付近のインクをも効率よく撹拌することができる。
その後、撹拌部材20Aは図8(c)の状態から図8(a)の状態に戻り、以降、キャリッジ153の往復動作が続く限り、図8(a),(b),(c)の状態を繰り返す。
ところで、インクタンク1をキャリッジ153に搭載したまま、記録装置を長期間に渡って放置した場合には、そのインクタンク1内のインクの顔料成分が沈降し、上下方向においてインクタンク1内のインク濃度が異なるような濃度分布が生じる。このようなインクタンク1内のインクに対しては、上述したように上方方向のインク流れを生じさせることにより、効率よく撹拌することができる。したがって、インク収納室R内のインクを短時間で確実に均一濃度にまで撹拌することができる。
本例においては、強いインクの流れを生じさせるために、上述したように、タンクケース10の内壁10Aの近傍に撹拌部材20A,20Bの支持部15A,15Bを設けた。さらに、撹拌部材20A,20Bが内壁10Aに近接したときに、その内壁10Aの面(本例においては、掘り込み部14A,14Bの底面)と、それに対向する撹拌部材20A,20Bの側面(図1中右側の面)と、をほぼ平行とした。加えて、撹拌部材20A,20Bの基端部付近におけるインクの撹拌効率を高めるために、撹拌部材20A,20Bの基端部の近傍位置に貫通部21Aを形成した。
仮に、撹拌部材の支持部をタンクケース10の内部上面のほぼ中央部分に設定して、その支持部をタンクケース10の内側面から離した場合、その撹拌部材は、その下端部のみがタンクケース10の内壁10Aに接近し、その内壁10Aと略平行となることはない。そのため、強いインクの流れを生じさせることができず、特に、撹拌部材の基端部付近はインクの流れが弱くなり、撹拌効率が極めて悪くなる。したがって、インクを充分に撹拌するにはかなりの時間が必要となる。
ところで圧力板31は、インク収納室R内のインクの消費に伴ってタンクケース10の内側面に接近するため、撹拌部材の20A,20Bの揺動可能範囲が徐々に小さくなる。しかし本実施形態のように、インク収納室R内のインクが最後に残るタンクケース10側に掘り込み部14A,14Bを形成することにより、撹拌部材20A,20Bの撹拌機能を最後まで維持することができる。また、掘り込み部14A,14Bを形成することによって、撹拌部材の20A,20Bの揺動可能範囲を確保しつつ、インクタンク1の図1中左右方向の幅を小さく設定することができる。この結果、キャリッジ153上に、複数のインクタンク1を矢印Aの主走査方向にコンパクトに並べて配備することができる。
[第2の実施形態]
図10は、本発明の第2の実施形態におけるインクタンクの断面図である。
本例の場合、図10のようにインク供給口60を下側にしたインクタンクの装着姿勢において、撹拌部材20C,20Dの支点軸22C,22Dは、ほぼ鉛直方向の軸線を中心として揺動自在に支持部15C,15Dに支持される。支持部15C,15Dおよび支点軸22C,22Dは、基本的には、前述した支持部15A,15Bおよび支点軸22A,22Bと同様であり、それらとは配備位置が異なる。撹拌部材20C,20Dにおける支点軸22C,22D寄りの位置には貫通部21C,21Dが形成されている。前述した実施形態と同様に、インクタンクがキャリッジ153と共に矢印Aの主走査方向に往復移動することにより、撹拌部材20C,20Dが慣性力を受けて揺動して、インクを効率よく撹拌する。また、貫通部21C,21Dを通して撹拌部材20C,20Dの基端部付近にインクの流れが生じるため、インク収納室R内のインクを全体的に効率よく撹拌する。さらに、2つの撹拌部材20C,20Dが同期的に揺動するため、それらの揺動によって生じるインクの流れは、ばね部材30付近でぶつかって乱流を生じる。そのインクの乱流により、インクをより効率よく撹拌することができる。
[第3の実施形態]
図11は、本発明の第3の実施形態におけるインクタンク1の断面図である。
前述した実施形態のインクタンク1は、可撓性部材40とばね部材30を用いた負圧調整機構によって、インク収納室R内を所定の負圧に調整する構成となっている。本例のインクタンク1は、インク収納室R内を所定の負圧に調整するために外気導入機構を備えている。その外気導入機構は、インク収納室R内を大気に対して所定の負圧状態に維持するように、そのインク収納室R内に外気を導入する機構である。外気導入機構としては、例えば、微小な間隙をインクタンク1の底面に設け、その間隙に侵入したインクによって形成されるメニスカスにより、そのメニスカスの圧力の差分だけ、大気に対してインク収納室R内を負圧にする構成を採用することができる。このように、インク収納室R内に外気を導入することにより、そのインク収納室R内のインクを使い切ることができる。
本例のインクタンク1においては、インク収納室R内に外気を導入するため、インク2の液面レベルLが変化する。図11は、インク収納室R内にインク2が充分にある状態であり、インクの液面レベルLは比較的上方に位置している。インク2の消費に伴ってインク残量が減少すると、液面レベルLが下がる。インク残量が少なくなって、インク収納室R内のエア量の割合が増えた状態においては、撹拌部材20Aの基端部付近にはインクがなくなり、そのインクは撹拌部材20Aの先端部付近のみによって撹拌される。また、インクタンク1の往復移動に伴って液面レベルLが変動することにより、その液面レベルL付近にもインクの流れを生じさせて、インク2を全体的に効率よく撹拌することができる。
図11のように、インク収納室R内にインク2が充分に充填されて、そのインク収納室R内のエア量が少ないときには、インク2の撹拌効率は低下しやすい。しかし、このような状態においても、撹拌部材20Aによってインク2を効率よく撹拌することができる。すなわち、前述した実施形態と同様に、撹拌部材20Aを内壁10Aの近傍位置に支持したり、撹拌部材20Aの基端部付近に貫通部21Aを設けることにより、撹拌効率を高めることができる。インク2の消費に伴って液面レベルLが貫通部21Aよりも下方に位置してからは、貫通部21Aの効果はなくなる。
また、前述した第1の実施形態と同様に、撹拌部材20Aと同じ撹拌部材20Bを備えてもよく、また撹拌部材として、ほぼ鉛直方向の軸線を中心として揺動する第2の実施形態と同様の撹拌部材20C,20Dを備えてもよい。
[第4の実施形態]
図12および図13は、本発明の第4の実施形態を説明するための図である。本例の撹拌部材20Eは、支点軸22E,22E寄りの側縁部に複数の切り欠き部23Eが形成され、また支点軸22E,22Eの間にも切り欠き部24Eが形成されている。これらの切り欠き部23E,24Eは、前述した実施形態における貫通部と同様に、内壁10Aと対向する撹拌部材20Eの対向面積を部分的に小さくする空間部を形成する。したがって、これらの切り欠き部23E,24Eは、前述した実施形態における撹拌部材の貫通部と同様に機能し、撹拌部材20Eの基端部付近にインクの流れを生じさせて撹拌効率を向上させる。本例においては、支点軸22Eと同じ高さ位置に切り欠き部24Eが形成されているため、撹拌部材20Eの揺動によって、インクタンク内の最上部にまでインクの流れを発生させて、撹拌効率をさらに向上させることができる。
本例における支点軸22Eは、撹拌部材20Eの素材である板部材を打ち抜くことによって形成されており、前述した実施形態における支点軸のような円柱形状とはなっていない。撹拌部材20Eは、慣性力を高めるために、比重が大きい金属材料によって構成することが好ましい。この場合に、本例のようにプレス加工によって支点軸22Eを成形することにより、撹拌部材20Eの製造コストを下げることができる。勿論、撹拌部材20E全体を金属板のプレス加工によって成形することもできる。
撹拌部材20Eのタンクケース10への結合は、前述した図3の場合と同様に、図13中の矢印方向から撹拌部材20Eの支点軸22Eを支持部15A(15B)に差し込み、その後回転させる。これにより、撹拌部材20Eは外れることがない。このような撹拌部材20Eの取り付けにおいては、支持部15A(15B)に無理な力が掛かることがなく、支持部15A(15B)の信頼性が向上する。
[他の実施形態]
撹拌部材の基端部近傍に形成する貫通部および切り欠き部は、撹拌部材の基端部付近、つまり撹拌部材の揺動中心部付近を通るインクの流れを生じさせることができればよく、その形状や形成数は任意である。つまり、これらの貫通部や切り欠き部は、内壁と対向する撹拌部材の対向面積を部分的に小さくする空間部を形成し、その空間部を通してインクの流れが形成できればよい。また、撹拌部材の配備数は1つであっても3つ以上であってもよい。
また本発明は、インクジェット記録方式の他、種々の記録方式に用いられるインクタンクおよび記録装置として、広く適用することができる。
本発明の第1の実施形態におけるインクタンクの断面図である。 図1のインクタンクの分解斜視図である。 図1のインクタンクにおける撹拌部材の支持部の拡大斜視図である。 図1のインクタンクにおけるタンクケースの拡大図である。 図4のV−V線に沿う断面図である。 図5のVI−VI線に沿う断面図である。 本発明のインクタンクを搭載可能なインクジェット記録装置の構成例を説明するための要部の斜視図である。 (a),(b),(c)は、図1のインクタンクにおける撹拌メカニズムを説明するための断面図である。 図8(c)の状態におけるインクタンク内部のインクの流れの説明図である。 本発明の第2の実施形態におけるインクタンクの要部の斜視図である。 本発明の第3の実施形態におけるインクタンクの断面図である。 本発明の第4の実施形態における撹拌部材の斜視図である。 図12の撹拌部材を備えるインクタンクの要部の斜視図である。
符号の説明
1 インクタンク
2 インク
10 タンクケース
10A 内壁
14A,14B 掘り込み部
15A,15B 支持部
20A,20B,20C,20D,20E 撹拌部材
21A,21B21C,21D 貫通部
22A,22B,22E 支点軸
30 ばね部材
31 圧力板
40 可撓性部材
60 供給口
150 記録装置
153 キャリッジ

Claims (9)

  1. インクを収納可能に構成されたインク収納室であって、該インク収納室を構成する筐体の内壁と、該内壁を覆いインクの消費に応じ変形する可撓性部材と、該可撓性部材に作用して負圧を発生させる弾性部材と、を備えたインク収納室と、前記インク収納室の内部に配された前記インクを撹拌するために利用される撹拌部材と、前記インク収納室を構成する前記内壁に設けられ前記撹拌部材の一部を支持する支持部と、前記インク収納室内のインクを外部に供給可能なインク供給口と、を備えたインクタンクにおいて、
    前記撹拌部材は、前記支持部によって支持される被支持端と、該被支持端側を中心とした揺動動作を可能にする自由端とを備えており、さらに前記被支持端側の前記撹拌部材には貫通部もしくは切り欠き部が設けられていることを特徴とするインクタンク。
  2. 前記撹拌部材の前記被支持端が支点部を有し、
    前記支持部は、前記支点部と回動自在にはまり合う孔部を有することを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
  3. 前記撹拌部材は、金属板を打ち抜いて成形されたものであることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
  4. 前記インクタンクは、前記撹拌部材を複数備えていることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
  5. 前記インクタンクがインクジェット記録装置に対して装着され使用されると同等の姿勢において、前記支持部の軸線は水平方向であることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
  6. 前記インクタンクがインクジェット記録装置に対して装着され使用されると同等の姿勢において、前記支持部の軸線は鉛直方向であることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
  7. 前記インクジェット記録装置は、往復走査されるキャリッジを備えており、前記インクタンクが該キャリッジに搭載されて走査されることで前記撹拌部材は慣性力を受けて揺動することを特徴とする請求項5又は請求項6のいずれかに記載のインクタンク。
  8. 前記弾性部材は、前記可撓性部材と前記内壁との間に配置され、前記可撓性部材を前記内壁から離間させる方向に付勢するばね部材であることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
  9. 前記インク収納室には、顔料成分を含む顔料インクを収納することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のインクタンク。
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