JP4646473B2 - 鋼矢板親水護岸構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、十分な治水機能を有するとともに、景観、親水性等の環境保全に配慮した河川や湖沼等の護岸構造、さらには、土留め機能と景観や環境保全に配慮した道路・建築物等の山止め壁・土留め壁等に関する。
【0002】
【従来の技術】
景観、親水性等の環境保全に配慮した河川護岸構造として、用地制限の比較的少ない河川においては、十分な護岸や堤体の用地確保が可能であり緩やかな法面勾配が得やすいため、強度は低いものの極力自然の材料(土壌・植生・樹木・石等)を護岸構造の構成材料として使用する工法が用いられている。また、特に水流の速いところでは、鋼製ネット内に自然石等を投入した蛇篭を法面前面に積み重ねて防御工として使用する等の護岸工法が用いられている。
【0003】
護岸建設のための用地制限の比較的厳しい河川では、堤体・護岸を作るための広い用地が確保できないため、護岸の法面勾配を急にする必要があり、十分な強度を有し空隙内に土壌・肥料・保水材等を含むことにより植物の生育が可能としたポーラスコンクリート(緑化コンクリート)を施工したり、植物の生育が可能な根鉢部を有するコンクリートブロックを法面に積み上げることにより、護岸構造を構築している。
【0004】
また、護岸建設のための用地制限の厳しい河川では、鋼矢板を地中に鉛直に打設し、少ない用地においても広い河道面積を確保できる鋼矢板護岸が適用される場合が多い。
【0005】
上記の景観・親水性等の環境保全に配慮した河川護岸構造としては、土・植生・樹木・石等の自然の材料を構成材料として使用することが望ましい。しかし、護岸・堤体が脆弱である場合が多く、洪水時の水流等の大きな外力に対して護岸強度の信頼性が低い。このとき、土・植生等の材料をたくさん投入することによって強度を高めることができるが、建設コストが高くなるという問題があった。
【0006】
また、空隙内に土壌・保水材等を充填したポーラスコンクリートや根鉢を有するコンクリートブロックを用いた護岸構造は、基礎構造の構築やコンクリートを打設するための仮設工事が必要であり、多数の施工重機が必要となる。そのため工期が長くなることから緊急を要する工事に不向きであり、しかも工費が高くなるという問題もある。
【0007】
さらに、護岸構造として十分な強度を有し、土壌・保水材等を充填するための所要の空隙量や根鉢面積を確保するためには、コンクリート部の厚さを厚くしたり、ブロック形状を大きくする必要がある。その結果、壁体幅が厚くなることから河道面積が狭くなるという問題があった。
【0008】
一方、通常の河川での水際部では、河川部からの水分や養分を吸収する植物と陸部の土壌から水分や養分を吸収する植物が連続的に変化する植物の生育空間が構成されるが、植栽フィンを取付けた鋼矢板護岸では、打設した鋼矢板により、河川部と陸部の自然環境を分断してしまうという問題がある。
【0009】
【発明が解決しようとしている課題】
本発明は、施工が容易で、高耐震性・高耐洗掘性等の優れた治水機能を有しつつ、壁面全面の緑化による修景と生物の生育空間として河川部と陸部の連続性を確保することにより、簡単に景観・親水性等の環境保全に配慮した河川や湖沼等の護岸構造を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
[第1の発明]第1の発明は、地中に鉛直に打設された鋼矢板3からなる鋼矢板壁4における河川側表面を植生基盤5で被覆した護岸構造であって、前記植生基盤が内部に土壌・肥料・保水材・種子のいずれか1つ又は複数の組み合わせを充填した袋状物であり、その袋状物を貫通するアンカー部材および袋状物表面に配置された押え部材で植生基盤の袋状物が鋼矢板壁の凹部及び凸部に密着するように固定されることを特徴とする。
【0012】
[第の発明]第の発明は、第1の発明において、地盤に打設された鋼矢板3について、地盤より上の突出部に多数の開孔8を有することを特徴とする。
【0013】
[第の発明]第の発明は、第の発明において、鋼矢板の開孔部面積の合計が鋼矢板壁4の投影面積の1〜5%程度であることを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る河川護岸構造の一形態を示し、この護岸構造は、河川1の河床(地盤)2に鉛直に連続して打ち込まれた鋼矢板3からなっている。
【0016】
鋼矢板壁4の河川側表面全面には、植生基盤5が取付けられており、鋼矢板壁4の裏側には陸部6の背面土7がある。
【0017】
鋼矢板を地表面に対して鉛直に打設するのは、袋状物等からなる比較的小型の植生基盤を鋼矢板壁面に取付けるだけで、鋼矢板壁面上に植物が生育しやすい環境が比較的簡易に創造できるためである。
【0018】
また、鋼矢板を地表面に対して鉛直に打設して形成した鋼矢板壁面に水平面部を有する植栽フィンを設置した場合には、部分的な緑化は可能であるが鋼矢板壁面全域の緑化は困難であり、しかも植栽フィンの取付けコストが高い等の問題が生じるためである。
【0019】
地中に鉛直に打設した鋼矢板3の地盤から上の突出部には、多数の開口8を設けるようにしてもよい。
【0020】
図2は、図1の実施形態に示される鋼矢板壁4の植生基盤5の取付け前の状態の斜視図であり、鋼矢板3の上側には直径が約20mmの開孔8が64個/m程度で等間隔に設けられている。鋼矢板3に設けた開孔8の孔開けは、鋼矢板3の地盤への打設前又は打設後に行ってもよい。
【0021】
鋼矢板河川護岸の背面部の水位は高いため、鋼矢板に開孔を設けることで背面土から開孔を通して植生基盤への水分や養分の供給が図ることができ、植物の生育が更に容易となる。
【0022】
また、植生基盤で生育した植物の根が開孔を通過して背面土へ定着することにより、植物の長期的で安定した生育が可能となる。
【0023】
さらに、前記構造によると、河川部と陸部での酸素や水分の往来が可能となり、微生物等を始めとする種々の動植物が生育しやすい空間が創造できる。
【0024】
なお、鋼矢板は継手相互を嵌合させかつ地中に打設することにより自立させ、鋼矢板の地中の根入れ部の横抵抗により護岸としての機能を発揮させる構造とする場合が多い。
したがって、鋼矢板の頂部に多少の開孔を設けても、鋼矢板の中央部や地表面付近の発生断面力と比較して、地中から突出した頂部付近の発生断面力が小さくなるため護岸構造の機能は損なわれることはない。
【0025】
鋼矢板に設ける開孔部分の面積は、護岸としての機能を損なわない様に鋼矢板護岸の鋼矢板の必要断面性能や、鋼矢板の地中への打設時の外力に対する矢板の強度や施工性から決定される。
【0026】
当該開孔面積は、特に限定するものではないが、鋼矢板壁の投影面積の1〜5%程度が好適である。
【0027】
植生基盤は、植物の長期的な育成が可能なように、水分・肥料を貯え、根を張ることができるように空隙部を有しており、鋼矢板壁に密着するように鋼矢板壁に取り付けられる。
【0028】
植生基盤としては、内部に土壌・堆肥・保水材・種子等の植生基材を充填した袋状物、を固定させたものが使用できる。
【0029】
ここで袋状物の布は、限定するものではないが綿やポリエステル、ナイロン等の繊維からなり、布目の粗さは発芽を阻害せずかつ土壌等の充填物の流出を防止できるものであり、植物の根が充填された土壌内に強固に定着するまでの所要期間の機能を保持できる強度・耐久性を有するものとする。
【0030】
本発明護岸構造における植生基盤の鋼矢板壁への取付けは、例えば以下のように行なわれる。
【0031】
図3Aは植生基盤5となる袋状物9の取付け前の状態を示した図であり、図3Bは鋼矢板壁4に袋状物9を取付けた後の状態を示している。
【0032】
鋼矢板3には、袋状物9の剥離やずれを防止するため、ネジ付き丸捧からなるアンカー部材12が溶接固定されている。袋状物9の袋体の材質は、ナイロン繊維の織物によるが、時にはナイロンなどの化学繊維を主体として綿糸等を混紡することにより構成されており、袋状物9の内部には土壌・堆肥・保水材・種子等の植生基材が充填されている(詳細な図示を省略する)。
【0033】
アンカー部材12が袋状物9を貫通して突出するように、袋状物9は鋼矢板壁4に設置される。袋状物9は、直径4mm程度の鋼線が10mmピッチに配置された金網からなる押え部材13により、袋状物9が鋼矢板3に密着するように袋状物9を鋼矢板壁4と押え部材13により挟み込むようにして固定される。より簡易な方法としては、多少大きめのワッシャを使用して固定する場合もある。
【0034】
そして押え部材13は、ネジによりアンカー部材12(ネジ付き丸棒)に固定される。これにより、袋状物9が水流等の外力に対して鋼矢板壁4から剥落せず、また袋状物9が鋼矢板壁の凹部及び凸部に密着するように完全に固定される。
【0035】
袋状物9に充填する植生基材は、土壌、堆肥(バーク堆肥)、ピートモス、パーライト、高吸水性樹脂(保水材)、種子(バーミューダグラス、リードキャナリーグラス、トールフェスク、イタチハギ等の種子や水際近くに生育している、ヨシ、ヤナギなどの根株も種子と同様に使用できる。)等を適宜単独で、または組み合わせて使用する。
【0036】
袋状物9を鋼矢板壁4に取りつけする場合、袋体に植生基材を取りつけ前に充填して前記の方法により取り付けることもできるが、良好な植物生育基盤を形成するには、上記の植生基材を水と混練した混練物を鋼矢板壁に取りつけた袋体に、スクイズ式ポンプ等を用いて充填する。こうすると、植生基材が袋体の隅々まで均一に充填され、鋼矢板壁4によく密着して乾燥することがないことも相俟って均一な植物の生育が期待できる。
【0037】
上記のようにすると、袋状物9内に充填された種子は発芽して袋状物9内で生育し、鋼矢板壁4全面の緑化が可能となる。
【0038】
袋体に充填する植生基材のうち、植物種子は必ずしも充填する必要はなく、植生基盤としての袋状物9には、河川を漂流する種子が漂着して発芽したり、充填物に現地の埋土種子の含まれた土壌を充填するなどを期待して、袋状物9を構成することもある。
【0039】
以上の本発明の説明には、主として、新設の鋼矢板壁の緑化について述べたが、本発明は、これだけでなく、既設の鋼矢板壁の緑化にも十分適用可能で、従来殺風景であった河川護岸等の景観向上を図ることができると共に、河川などの生態系の修復にも効果がある。
【0040】
【発明の効果】
[第1の発明の効果]
鋼矢板を地盤に鉛直に打設し、鋼矢板壁面の河川側表面全域に植生基盤を取付けることにより、河川部と陸部間で連続的な生物の生育空間を創造し、硬質で鉛直な壁面であるため本来植物の生育が困難であった鋼矢板壁面においても、植物が長期間安定して生育することができ、護岸の緑化修景・親水性の向上が図れる。
【0041】
[第の発明の効果]植生基盤として袋状物を用いることにより、袋状物は軽量で大掛かりな重機等を用いることなく容易に植生基盤の製作・施工でき、材料も安価であり、現場で取りつけることができるため、急速施工が可能となる。
【0042】
[第の発明の効果]通常、鋼矢板河川護岸の背面部の水位は高く、鋼矢板に開孔を設けることにより、背面土から開孔を通して植生基盤への水分や養分の供給が図ることができ植物の生育が容易となるとともに、植生基盤で生育した植物の根が開孔を通過して背面土へ定着することにより、植物の長期的で安定した生育が可能となる。また、河川部と陸部での酸素や水分の往来が可能となり、微生物等を始めとする種々の動植物が生育しやすい空間が創造できる。
【0043】
[第の発明の効果]完成後の鋼矢板護岸の耐荷性能および施工性等を損なわない範囲で、開孔量を1〜5%としたので、植生基盤上での植栽の長期的な維持に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼矢板河川護岸の断面図である。
【図2】地盤に打設された鋼矢板からなる鋼矢板壁の斜視図である。
【図3】図(A)、(B)は、植生基盤として袋状物を用いる場合の袋状物取付け前の状態を示した袋状物取付け後の鋼矢板護岸の斜視図である。
【符号の説明】
1…河川
2…河床
3…鋼矢板
4…鋼矢板壁
5…植生基盤
6…陸部
7…背面土
8…開孔
9…袋状物
12…アンカー部材
13…押え部材

Claims (3)

  1. 地中に鉛直に打設された鋼矢板からなる鋼矢板壁における河川側表面を植生基盤で被覆した護岸構造であって、前記植生基盤が内部に土壌・肥料・保水材・種子のいずれか1つ又は複数の組み合わせを充填した袋状物であり、その袋状物を貫通するアンカー部材および袋状物表面に配置された押え部材で植生基盤の袋状物が鋼矢板壁の凹部及び凸部に密着するように固定されることを特徴とする護岸構造。
  2. 地盤に打設された鋼矢板について、地盤より上の突出部に多数の開孔を有することを特徴とする請求項に記載の護岸構造。
  3. 鋼矢板の開孔部面積の合計が鋼矢板壁の投影面積の1〜5%程度であることを特徴とする請求項記載の護岸構造。
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