一般に、操舵輪の転舵角の変化に伴いサスペンションのジオメトリーが変化することに起因してキングピン軸の位置が変化する操舵機構を有する車輌に於いては、操舵輪の転舵角の変化に伴うキングピン軸の位置の変化に起因して操舵反力が変化するだけでなく、操舵入力手段より操舵輪への操舵伝達比も操舵輪の転舵角の変化に対し好ましからざる態様にて変化してしまうため、操舵輪の転舵角に対する操舵伝達比の関係を所望の関係にすることができず、運転者は操舵に違和感を覚えるという問題があり、上述の如き従来の操舵制御装置によってはこの問題を解消することができない。
また車輌の操舵制御装置の一つとして、操舵伝達比可変手段を備えた操舵制御装置であって、操舵入力手段としてのステアリングホイールの回転角度に対するステアリング比の関係や車速に対するステアリング比の関係を所望の関係にすべく、ステアリングホイールの回転角度や車速に応じた操舵伝達比になるよう操舵伝達比可変手段を制御することにより操舵伝達比を可変制御する操舵制御装置も既に知られている。
しかし従来の操舵制御装置に於いては、操舵輪の転舵角が変化してもキングピン軸の位置が変化しないことが前提とされているため、操舵伝達比可変式の従来の操舵制御装置によっても上述の問題を解消することができない。
本発明は、操舵輪の転舵角の変化に伴いキングピン軸の位置が変化することに起因する操舵反力の変化を抑制するよう構成された従来の操舵制御装置及び操舵伝達比可変式の従来の操舵制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、操舵輪の転舵角の変化に伴うキングピン軸の位置の変化に起因するステアリングギヤ比の変化に基づいて操舵伝達比可変手段を適宜に制御することにより、操舵輪の転舵角の変化に対するステアリングギヤ比の好ましからざる変化を抑制することである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、操舵輪の転舵角の変化に伴いサスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因してステアリングギヤ比が変化する操舵機構と、操舵入力手段より操舵輪への操舵伝達比を変化させる操舵伝達比可変手段と、前記操舵伝達比可変手段の操舵伝達比を制御する制御手段とを有し、前記制御手段は前記サスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因するステアリングギヤ比の変化を抑制するよう前記操舵伝達比可変手段の操舵伝達比を制御することを特徴とする車輌用操舵制御装置(請求項1の構成)、又は操舵輪の転舵角の変化に伴いサスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因してステアリングギヤ比が変化する操舵機構と、ステアリングホイール側のステアリングシャフトに対する操舵輪側のステアリングシャフトの相対回転角度を変化させることによりステアリングホイールより操舵輪への操舵伝達比を変化させる操舵伝達比可変手段と、前記操舵伝達比可変手段の前記相対回転角度を制御することにより前記操舵伝達比可変手段の操舵伝達比を制御する制御手段とを有し、前記制御手段は前記サスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因するステアリングギヤ比の変化を抑制するための第一の目標相対回転角度と、所望のステアリングギヤ比を達成するための第二の目標相対回転角度との和を目標相対回転角度として前記操舵伝達比可変手段の前記相対回転角度を制御することを特徴とする車輌用操舵制御装置(請求項2の構成)によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、前記第二の目標相対回転角度は前記ステアリングホイールの回転角度に対するステアリングギヤ比の関係を所望の関係にすると共に車速に対するステアリングギヤ比の関係を所望の関係にするための目標相対回転角度であるよう構成される(請求項3の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の構成に於いて、前記サスペンションはダブルジョイント式のサスペンションであるよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項1の構成によれば、サスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因するステアリングギヤ比の変化を抑制するよう操舵伝達比可変手段の操舵伝達比が制御されるので、サスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因するステアリングギヤ比の好ましからざる変化を確実に抑制することができる。
また上記請求項2の構成によれば、サスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因するステアリングギヤ比の変化を抑制するための第一の目標相対回転角度と、所望のステアリングギヤ比を達成するための第二の目標相対回転角度との和を目標相対回転角度として操舵伝達比可変手段の相対回転角度が制御されるので、サスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因するステアリングギヤ比の好ましからざる変化を確実に抑制することができると共に、ステアリングギヤ比を確実に所望のステアリングギヤ比にすることができる。
また上記請求項3の構成によれば、第二の目標相対回転角度はステアリングホイールの回転角度に対するステアリングギヤ比の関係を所望の関係にすると共に車速に対するステアリングギヤ比の関係を所望の関係にするための目標相対回転角度であるので、ステアリングホイールの回転角度に対するステアリングギヤ比の関係及び車速に対するステアリングギヤ比の関係を確実に所望の関係にすることができる。
また上記請求項4の構成によれば、サスペンションはダブルジョイント式のサスペンションであるので、ダブルジョイント式のサスペンションに於けるサスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因するステアリングギヤ比の好ましからざる変化を確実に抑制することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、制御手段は操舵輪の転舵角の変化に対するステアリングギヤ比の関係が所定の基準の関係になるよう操舵伝達比可変手段の操舵伝達比を制御するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、第一の目標相対回転角度は操舵輪の転舵角の変化に対するステアリングギヤ比の関係を所定の基準の関係にするための相対回転角度であるよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1又は2の構成に於いて、所定の基準の関係は操舵輪の転舵角の変化に拘らずステアリングギヤ比が一定の関係であるよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2又は3の構成に於いて、第二の目標相対回転角度は操舵輪の転舵角の変化に対するステアリングギヤ比の関係を所定の基準の関係より所望のステアリングギヤ比の関係に変更調整するための相対回転角度であるよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は好ましい態様1乃至4の構成に於いて、サスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因するステアリングギヤ比の変化は、操舵輪の転舵角の大きさが大きくなるほどステアリングギヤ比が小さくなる変化であるよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2乃至4又は好ましい態様1乃至5の構成に於いて、サスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因して変化するステアリングギヤ比(本願に於いては「サスペンションギヤ比」という)をKsとし、操舵輪の転舵角の変化に対するステアリングギヤ比の関係を所定の基準の関係にするための目標ステアリングギヤ比をKvとし、ステアリングホイールの回転角度をθsとし、操舵伝達比可変手段の第一の目標相対回転角度をθrt1として、第一の目標相対回転角度θrt1は θrt1=θs(Ks/Kv)−θsに従って演算されるよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様6の構成に於いて、操舵輪の転舵角の変化に対するステアリングギヤ比の関係を所定の基準の関係にするための目標ステアリングギヤ比Kvは定数であるよう構成される(好ましい態様7)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は電動式パワーステアリング装置を備えた車輌に適用された本発明による車輌用操舵制御装置の一つの実施例を示す概略構成図、図2は右前輪のサスペンションをスケルトン図として示す平面図(A)及び背面図(B)である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌の左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置16によりラックバー18及びタイロッド20L及び20Rを介して転舵される。
図示の実施形態に於いては、電動式パワーステアリング装置16はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機22と、電動機22の回転トルクをラックバー18の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構24とを有し、ハウジング26に対し相対的にラックバー18を駆動する補助操舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する補助操舵力発生装置として機能する。尚補助操舵力発生装置は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
ステアリングホイール14はアッパステアリングシャフト28A、ユニバーサルジョイント32A、転舵角可変装置30、ロアステアリングシャフト28B、ユニバーサルジョイント32Bを介して電動式パワーステアリング装置16のピニオンシャフト34に駆動接続されている。図示の実施形態に於いては、転舵角可変装置30はハウジング36Aの側にてアッパステアリングシャフト28Aの下端に連結され、回転子36Bの側にてロアステアリングシャフト28Bの上端に連結された補助転舵駆動用の電動機36を含んでいる。
かくして転舵角可変装置30はアッパステアリングシャフト28Aに対し相対的にロアステアリングシャフト28Bを相対的に回転駆動し、アッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの相対回転角度(単に相対回転角度という)を制御することにより、操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRをステアリングホイール14に対し相対的に補助転舵駆動し、ステアリングホイール14より左右の前輪10FL及び10FRへの操舵伝達比を変化させる操舵伝達比可変装置として機能する。
特に図示の実施形態に於いては、図2に右前輪のサスペンションが図示されている如く、左右前輪のサスペンションはダブルジョイント型のダブルウィッシュボーン式のサスペンションである。右前輪10FRはその車輪支持部材100により回転軸線102の周りに回転可能に支持されている。車輪支持部材100はダブルウィッシュボーン式のサスペンション104により車体106より懸架されている。
サスペンション104はフロントアッパアーム108と、リヤアッパアーム110と、フロントロアアーム112と、リヤロアアーム114とを含み、図には示されていない前後ロッドにより前後力が担持されるようになっている。フロントアッパアーム108は内端にてジョイント116により車体106に枢着され、外端にてジョイント118により車輪支持部材100に枢着されている。リヤアッパアーム110も内端にてジョイント120により車体106に枢着され、外端にてジョイント122により車輪支持部材100に枢着されている。
同様にフロントロアアーム112は内端にてジョイント124により車体106に枢着され、外端にてジョイント126により車輪支持部材100に枢着されている。リヤロアアーム114も内端にてジョイント128により車体106に枢着され、外端にてジョイント130により車輪支持部材100に枢着されている。
フロントアッパアーム108の外端のジョイント118とリヤアッパアーム110の外端のジョイント122との間の車輌前後方向の距離は、フロントアッパアーム108の内端のジョイント116とリヤアッパアーム110の内端のジョイント120との間の車輌前後方向の距離よりも小さく、ジョイント116及びジョイント118の中心を結ぶ直線及びジョイント120及びジョイント122の中心を結ぶ直線は交点Pにて互いに交差している。
同様にフロントロアアーム112の外端のジョイント126とリヤロアアーム114の外端のジョイント130との間の車輌前後方向の距離は、フロントロアアーム112の内端のジョイント124とリヤロアアーム114の内端のジョイント128との間の車輌前後方向の距離よりも小さく、ジョイント124及びジョイント126の中心を結ぶ直線及びジョイント128及びジョイント130の中心を結ぶ直線は交点Qにて互いに交差している。
交点P及びQは互いに共働して右前輪10FLのキングピン軸132を郭定しており、右前輪10FLはその転舵時にキングピン軸132の周りに枢動する。キングピン軸132は路面134と交点Rにて交差し、交点Rは右前輪10FLの接地点Sより車輌内側に位置し、キングピンオフセットOsを郭定している。
図2(A)より解る如く、右前輪10FLが旋回外輪となるよう左旋回方向へ転舵されると、ジョイント118、122、126、130は車輌後方へ移動し、これにより交点P及びQも車輌後方へ移動するので、キングピン軸132も車輌後方へ移動する。逆に右前輪10FLが旋回内輪となるよう右旋回方向へ転舵されると、ジョイント118、122、126、130は車輌前方へ移動し、これにより交点P及びQも車輌前方へ移動するので、キングピン軸132も車輌前方へ移動する。
従って右前輪10FLが転舵されると、タイロッド20Rの外端とキングピン軸132との間の位置関係も変化し、その結果タイロッド20Rが車輪支持部材100をキングピン軸132の周りに枢動させるモーメントのアーム長さも変化し、これにより転舵角可変装置30の相対回転角度が0であるときのステアリングホイール14の回転角度θs、即ちピニオンシャフト34の回転角度θp(ピニオン角度θpと略称する)に対するステアリングギヤ比Ksの関係は図4に示されている如き関係になる。
図4に示されている如く、ステアリングギヤ比Ksはピニオン角度θpの大きさが小さい領域に於いて大きく、ピニオン角度θpの大きさが大きくなるにつれて漸次小さくなり、このピニオン角度θpの変化に対するステアリングギヤ比Ksの変化は運転者が操舵操作時に感じる感覚にとって好ましくない。
図示の実施形態に於いては、アッパステアリングシャフト28Aには該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θsとして検出する操舵角センサ40及び操舵トルクTsを検出するトルクセンサ42が設けられており、ロアステアリングシャフト28Bには該ロアステアリングシャフトの回転角度θa(=θp)を検出する回転角度センサ44が設けられており、これらのセンサの出力は操舵制御装置46へ供給される。操舵制御装置46には車速センサ48により検出された車速Vを示す信号も入力される。
尚操舵角θaを示す信号及び車速Vを示す信号は操舵制御装置46より転舵角可変装置30を制御する転舵角可変制御装置52にも入力され、操舵トルクTsを示す信号及び車速Vを示す信号は操舵制御装置46より電動式パワーステアリング装置16を制御する電動パワーステアリング(電動PS)制御装置54にも入力される。また回転角度センサ44により検出されるロアステアリングシャフトの回転角度θaを示す信号は操舵伝達比可変制御完了後に左右の前輪10FL及び10FRの直進位置をステアリングホイール14の中立位置に合せるためにも使用される。
左右の前輪10FL及び10FRの転舵角をθtとし、転舵角可変装置30の相対回転角度をθrとすると、下記の式1及び2が成立する。
θp/θt=Ks ……(1)
θp=θs+θr ……(2)
また左右の前輪10FL及び10FRの転舵角θtの変化に対するステアリングギヤ比の関係を所定の基準の関係にするための目標ステアリングギヤ比をKvとすると、下記の式3が成立する。
θs/θt=Kv ……(3)
よって上記式1乃至3より、左右の前輪10FL及び10FRの転舵角θtの変化に対するステアリングギヤ比の関係を所定の基準の関係にするための転舵角可変装置30の相対回転角度θrは下記の式4により表わされるので、これを転舵角可変装置30の第一の目標相対回転角度θrt1とすると、第一の目標相対回転角度θrt1は下記の式5により表わされる。
θr=θs(Ks/Kv)−θs ……(4)
θrt1=θs(Ks/Kv)−θs ……(5)
後述の如く、操舵制御装置46は目標ステアリングギヤ比Kvを一定として上記式5に従って左右の前輪10FL及び10FRの転舵角θtの変化に対するステアリングギヤ比の関係を所定の基準の関係にするための第一の目標相対回転角度θrt1を演算する。また操舵制御装置46は操舵角θs及び車速Vの変化に対するステアリングギヤ比の変化を所定の基準の関係より所望の関係に変更調整するための第二の目標相対回転角度θrt2を演算する。そして操舵制御装置46は第一の目標相対回転角度θrt1と第二の目標相対回転角度θrt2との和として転舵角可変装置30の目標相対回転角度θrtを演算し、転舵角可変装置30の相対回転角度θrが目標相対回転角度θrtになるよう転舵角可変装置30を制御する。
また操舵制御装置46は転舵角可変装置30の作動による自動操舵によりステアリングホイール14へ伝達される反力トルクを相殺するための補正操舵トルクTeを目標相対回転角度θrに基づいて演算し、補正転舵トルクTeを示す指令信号を電動パワーステアリング制御装置54へ出力する。
転舵角可変制御装置52は操舵制御装置46より目標相対回転角度θrtを示す信号が入力されたときには、アッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの相対回転角度が目標相対回転角度θrt回転するよう目標相対回転角度θrtに基づき転舵角可変装置30の電動機36を制御し、これにより左右の前輪10FL及び10FRを自動的に転舵し、ステアリングギヤ比が所望のステアリングギヤ比になるよう制御する。
電動パワーステアリング制御装置54は操舵トルクTs及び車速Vに応じて運転者の操舵負荷を軽減するための補助操舵トルクTabを演算し、補助操舵トルクTabと操舵制御装置46より入力される補正操舵トルクTeとの和を目標補助操舵トルクTaとして演算し、目標補助操舵トルクTaに基づき電動式パワーステアリング装置16の電動機22を制御することにより、操舵アシストを行うと共に転舵角可変装置30の作動により発生する反力トルクを相殺する。
尚図1には詳細に示されていないが、操舵制御装置46、転舵角可変制御装置52、電動パワーステアリング制御装置54はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。また操舵角センサ40及び44、トルクセンサ42はそれぞれ車輌の左旋回方向への操舵の場合を正として操舵角θs及びθa、操舵トルクTsを検出する。
次に図2に示されたフローチャートを参照して実施例に於いて操舵制御装置により達成されるステアリングギヤ比制御ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ10に於いては操舵角センサ40により検出された操舵角θsを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては回転角度センサ42により検出された回転角度θaをピニオン角度θp(ピニオンシャフト34の回転角度)として、図4に示されたグラフに対応するマップよりサスペンションギヤ比Ksが演算される。
尚回転角度センサ42が設けられていない場合には、サスペンションギヤ比Ksを演算するためのピニオン角度θpは操舵角θsと転舵角可変装置30の前回の相対回転角度θrfとの和に設定されてよい。
ステップ30に於いては操舵角θs、サスペンションギヤ比Ks、目標ステアリングギヤ比Ktに基づいて上記式5に従って第一の目標相対回転角度をθrt1、即ちステアリングギヤ比を目標ステアリングギヤ比Kvにすることにより操舵角θsに拘らずステアリングギヤ比が一定である所定の基準の関係にするための目標相対回転角度が演算される。
ステップ40に於いては操舵角θs及び車速Vに基づいて図5に示されたグラフに対応するマップより第二の目標相対回転角度をθrt2、即ち操舵角θs及び車速Vの変化に対するステアリングギヤ比の変化を所定の基準の関係より所望の関係に変更調整するための目標相対回転角度が演算される。
ステップ50に於いては転舵角可変装置30の目標相対回転角度θrtが第一の目標相対回転角度θrt1と第二の目標相対回転角度θrt2との和として演算され、ステップ60に於いては転舵角可変装置30の相対回転角度θrが目標相対回転角度θrtになるよう転舵角可変装置30が制御されることにより、操舵角θs及び車速Vに対するステアリングギヤ比の関係が所望の関係になるよう制御される。
かくして図示の実施例によれば、ステップ20に於いてサスペンションギヤ比Ks、即ち左右前輪の転舵角の変化に伴うキングピン軸132の位置の変化に起因して変化するギヤ比が演算され、ステップ30に於いて操舵角θs、サスペンションギヤ比Ks、目標ステアリングギヤ比Kvに基づいてステアリングギヤ比を目標ステアリングギヤ比Kvにすることにより操舵角θsに拘らずステアリングギヤ比が一定である所定の基準の関係にするための第一の目標相対回転角度θrt1が演算され、ステップ40に於いて操舵角θs及び車速Vに基づいて操舵角θs及び車速Vの変化に対するステアリングギヤ比の変化の関係を所定の基準の関係より所望の関係に変更調整するための第二の目標相対回転角度θrt2が演算され、ステップ50に於いて転舵角可変装置30の目標相対回転角度θrtが第一の目標相対回転角度θrt1と第二の目標相対回転角度θrt2との和として演算され、ステップ60に於いて転舵角可変装置30の相対回転角度θrが目標相対回転角度θrtになるよう転舵角可変装置30が制御される。
従って図示の実施例によれば、操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRの転舵角の変化に伴いサスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸132の位置が変化することに起因してステアリングギヤ比が好ましからざる態様にて変化する車輌の場合にも、図6に示されている如く操舵角θsの変化に対し制御後のステアリングギヤ比Kscを好ましい態様にて変化させることができ、これにより運転者が操舵に違和感を覚えることを確実に防止することができる。
特に図示の実施例によれば、操舵角θs及び車速Vの変化に対するステアリングギヤ比の変化の関係を所望の関係にすることができるので、車速Vの変化に対するステアリングギヤ比の変化の関係が考慮されない場合に比して、運転者が感じる操舵感を一層向上させることができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例に於いては、目標ステアリングギヤ比Kvは一定であり、操舵輪の転舵角の変化に対するステアリングギヤ比の所定の基準の関係は操舵輪の転舵角の変化に拘らずステアリングギヤ比が一定の関係であるが、目標ステアリングギヤ比Kvは一定でなくてもよく、操舵輪の転舵角の変化に対するステアリングギヤ比の所定の基準の関係もステアリングギヤ比が操舵輪の転舵角の変化に応じて所定の態様にて変化する関係であってもよい。
また上述の実施例に於いては、前輪のサスペンションはダブルジョイント型のダブルウィッシュボーン式のサスペンションであるが、本発明が適用される車輌の操舵輪のサスペンションは操舵輪の転舵角の変化に伴いサスペンションのジオメトリーが変化しキングピン軸の位置が変化することに起因してステアリングギヤ比が変化する操舵機構を構成するものである限り、例えばマルチリンク式サスペンションの如き当技術分野に於いて公知の任意のサスペンションであってよい。
また上述の実施例に於いては、操舵角θs及び車速Vの変化に対するステアリングギヤ比の変化の関係を所定の基準の関係より所望の関係に変更調整するための第二の目標相対回転角度θrt2は、操舵角θsの大きさが大きくなるほど小さくなるよう設定されているが、第二の目標相対回転角度θrt2は操舵角θsの大きさが大きくなるほど大きくなるよう設定されてもよく、その場合には制御後のステアリングギヤ比Kscは操舵角θsの大きさが大きくなるほど小さくなる。
また上述の実施例に於いては、操舵角θsに拘らずステアリングギヤ比が一定である所定の基準の関係にするための第一の目標相対回転角度θrt1が演算され、操舵角θs及び車速Vの変化に対するステアリングギヤ比の変化の関係を所定の基準の関係より所望の関係に変更調整するための第二の目標相対回転角度θrt2が演算され、転舵角可変装置30の目標相対回転角度θrtが第一の目標相対回転角度θrt1と第二の目標相対回転角度θrt2との和として演算されるようになっているが、車輌の走行運動を安定化させるために操舵輪の舵角が制御される車輌の場合には、車輌の走行運動を安定化させるための第三の目標相対回転角度θrt3が演算され、転舵角可変装置30の目標相対回転角度θrtが第一の目標相対回転角度θrt1と第二の目標相対回転角度θrt2と第三の目標相対回転角度θrt3との和として演算されるよう修正されてよい。
また上述の実施例に於いては、第二の目標相対回転角度θrt2は操舵角θs及び車速Vの変化に対するステアリングギヤ比の変化の関係を所定の基準の関係より所望の関係に変更調整するための目標相対回転角度であるが、第二の目標相対回転角度θrt2は操舵角θsの変化に対するステアリングギヤ比の変化の関係を所定の基準の関係より所望の関係に変更調整するための目標相対回転角度又は車速Vの変化に対するステアリングギヤ比の変化の関係を所定の基準の関係より所望の関係に変更調整するための目標相対回転角度として演算されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、転舵角可変装置30はアッパステアリングシャフト28Aに対し相対的にロアステアリングシャフト28Bを相対的に回転駆動し、アッパステアリングシャフト28Aに対するロアステアリングシャフト28Bの相対回転角度を可変制御するようになっているが、操舵伝達比可変手段は操舵入力手段としてのステアリングホイール14より操舵輪としての左右の前輪10FL及び10FRへの操舵伝達比を変化させるものである限り、当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
また上述の実施例に於いては、転舵角可変装置30は転舵角可変制御装置52により制御され、電動式パワーステアリング装置16は電動パワーステアリング制御装置54により制御され、転舵角可変制御装置52及び電動パワーステアリング制御装置54は操舵制御装置46により制御されるようになっているが、これらの少なくとも二つの制御装置が一つの制御装置に統合されてもよい。