一般に、アクティブスタビライザ装置の如き車両のロール剛性を可変制御するロール剛性制御装置を備えた車両に於いて、例えば前輪側若しくは後輪側アクティブスタビライザ装置の異常により、車両のロール剛性、特に前輪側のロール剛性が正常時に比して低下すると、理由は明らかではないが、操舵輪のセルフアライニングトルクが低下し、そのため車両の旋回終期の如くステアリングホイールが中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於けるステアリングホイールの戻りが悪化する。
しかるに上述の如き従来の走行制御装置に於いては、車両のロール剛性が低下し操舵輪のセルフアライニングトルクが低下すると、ステアリングホイールの戻りが悪化することについては考慮されておらず、この点の改善が必要とされている。
本発明は、ロール剛性制御装置を備えた車両の従来の走行制御装置に於ける上述の点に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、ロール剛性制御装置の異常により車両のロール剛性が正常時に比して低下すると、操舵輪のセルフアライニングトルクが低下することに着目し、ステアリングホイールが中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いて操舵輪のセルフアライニングトルクの低下を補填するよう操舵アシスト力を制御することにより、ステアリングホイールの戻りの悪化を抑制することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち操舵アシスト力を制御する操舵アシスト力制御手段と、車両のロール剛性を可変制御するロール剛性制御手段とを有する車両の走行制御装置に於いて、前記操舵アシスト力制御手段は前記ロール剛性制御手段により制御されるロール剛性が正常時に比して低下しているときには、操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況であるか否かを判定し、操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いては、操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力を発生し、操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべきではない状況に於いては操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力を発生しないことを特徴とする車両の走行制御装置によって達成される。
上記請求項1の構成によれば、ロール剛性制御手段により制御されるロール剛性が正常時に比して低下しているときには、操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いて、操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力が発生される。従ってロール剛性が正常時に比して低下することにより操舵輪のセルフアライニングトルクが低下している場合にも、操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いては、操舵アシスト力によって操舵輪を車両の直進位置へ付勢すると共に操舵操作手段を中立位置へ付勢することができ、これにより操舵操作手段の戻りの悪化を確実に抑制することができる。
また上記請求項1の構成によれば、ロール剛性制御手段により制御されるロール剛性が正常時に比して低下していても、操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべきではない状況に於いては操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力は発生されない。従って操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべきではない状況に於いて操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力が不必要に発生されることを防止することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記操舵アシスト力制御手段は車速が車速の基準値以上であり且つ操舵角の大きさが操舵角の基準値以上であり且つ操舵トルクの大きさが操舵トルクの基準値以下であるときに操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況であると判定するよう構成される(請求項2の構成)。
上記請求項2の構成によれば、車速が車速の基準値以上であり且つ操舵角の大きさが操舵角の基準値以上であり且つ操舵トルクの大きさが操舵トルクの基準値以下であるときに操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況であると判定される。従って操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況を確実に判定することができ、これにより操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いて確実に操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力を発生することができると共に、操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況ではないときに操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力が不必要に発生されることを確実に防止することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記操舵アシスト力制御手段は操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いて、前記操舵操作手段の復帰速度が復帰速度の基準値以下であるときには、前記操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力を発生し、前記操舵操作手段の復帰速度が復帰速度の基準値を越えているときには、前記操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力を発生しないよう構成される(請求項3の構成)。
上記請求項3の構成によれば、操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いて、操舵操作手段の復帰速度が復帰速度の基準値以下であるときに、操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力が発生される。従って操舵操作手段が中立位置へ復帰すべき状況に於いて操舵操作手段が中立位置へ復帰する速度が復帰速度の基準値以下であるときには、確実に操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力を発生することができると共に、操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いて操舵操作手段が中立位置へ復帰する速度が復帰速度の基準値を越えている場合に操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力が不必要に発生されることを確実に防止することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の何れかの構成に於いて、前記操舵アシスト力制御手段は前記操舵操作手段の復帰速度が低いときには復帰速度が高いときに比して前記操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力の大きさを大きくするよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項4の構成によれば、操舵操作手段の復帰速度が低いときには復帰速度が高いときに比して操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力の大きさが大きくされるので、操舵輪のセルフアライニングトルクの低下度合が高く操舵操作手段の復帰速度が低いときには操舵輪のセルフアライニングトルクの低下度合が低く操舵操作手段の復帰速度が高いときに比して操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力の大きさを大きくすることができ、これにより操舵操作手段の復帰速度が考慮されない場合に比して操舵操作手段の戻りの悪化を適正に抑制することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4の何れかの構成に於いて、操舵輪は前輪であり、操舵アシスト力制御手段は、前輪側のロール剛性が正常時に比して低下しているときに、操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いて、前輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力を発生するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、ロール剛性制御手段は、前輪側のロール剛性が正常時に比して低下しているときには、後輪側のロール剛性を低下させるよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3又は上記好ましい態様1又は2の構成に於いて、操舵アシスト力制御手段は操舵操作手段が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於ける操舵角速度の大きさが復帰角速度の基準値以下であるときに、操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力を発生するよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3又は上記好ましい態様1乃至3の何れかの構成に於いて、基準値は車速が高いときには車速が低いときに比して大きい値になるよう、車速に応じて可変設定されるよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3又は上記好ましい態様1乃至4の何れかの構成に於いて、基準値は操舵角の大きさが大きいときには操舵角の大きさが小さいときに比して大きい値になるよう、操舵角の大きさに応じて可変設定されるよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4又は上記好ましい態様1乃至5の何れかの構成に於いて、操舵アシスト力制御手段は車速が高いときには車速が低いときに比して大きい値になるよう、車速に応じて操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力の大きさを可変設定するよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4又は上記好ましい態様1乃至5の何れかの構成に於いて、操舵アシスト力制御手段は操舵角の大きさが大きいときには操舵角の大きさが小さいときに比して大きい値になるよう、操舵角の大きさに応じて操舵輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力の大きさを可変設定するよう構成される(好ましい態様7)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は前輪側及び後輪側にアクティブスタビライザ装置を有し電動式のパワーステアリング装置を備えた車両に適用された本発明による車輌の走行制御装置の一つの実施例を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌12の左右の後輪を示している。左右の前輪10FL及び10FRの間にはアクティブスタビライザ装置16が設けられ、左右の後輪10RL及び10RRの間にはアクティブスタビライザ装置18が設けられている。アクティブスタビライザ装置16及び18はアンチロールモーメントを車輌(車体)に付与すると共に、それぞれ必要に応じて前輪側及び後輪側のロール剛性を増減するロール剛性可変手段として機能する。
アクティブスタビライザ装置16は車輌の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在する一対のトーションバー部分16TL及び16TRと、それぞれトーションバー部分16TL及び16TRの外端に一体に接続された一対のアーム部16AL及び16ARとを有している。トーションバー部分16TL及び16TRはそれぞれ図には示されていないブラケットを介して図には示されていない車体に自らの軸線の周りに回転可能に支持されている。アーム部16AL及び16ARはそれぞれトーションバー部分16TL及び16TRに対し交差するよう車輌前後方向に延在し、アーム部16AL及び16ARの外端はそれぞれ図には示されていないゴムブッシュ装置を介して左右前輪10FL及び10FRのサスペンションアームの如きサスペンション部材14FL及び14FRに連結されている。
アクティブスタビライザ装置16はトーションバー部分16TL及び16TRの間にアクチュエータ20Fを有している。アクチュエータ20Fは電動機を内蔵し、必要に応じて一対のトーションバー部分16TL及び16TRを相対的に回転駆動することにより、左右の前輪10FL及び10FRが互いに逆相にてバウンド、リバウンドする際に捩り応力により車輪のバウンド、リバウンドを抑制する力を変化させ、これにより左右前輪の位置に於いて車輌に付与されるアンチロールモーメントを増減し、前輪側の車輌のロール剛性を可変制御する。
同様に、アクティブスタビライザ装置18は車輌の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在する一対のトーションバー部分18TL及び18TRと、それぞれトーションバー部分18TL及び18TRの外端に一体に接続された一対のアーム部18AL及び18ARとを有している。トーションバー部分18TL及び18TRはそれぞれ図には示されていないブラケットを介して図には示されていない車体に自らの軸線の周りに回転可能に支持されている。アーム部18AL及び18ARはそれぞれトーションバー部分18TL及び18TRに対し交差するよう車輌前後方向に延在し、アーム部18AL及び18ARの外端はそれぞれ図には示されていないゴムブッシュ装置を介して左右後輪10RL及び10RRのサスペンションアームの如きサスペンション部材14RL及び14RRに連結されている。
アクティブスタビライザ装置18はトーションバー部分18TL及び18TRの間にアクチュエータ20Rを有している。アクチュエータ20Rは電動機を内蔵し、必要に応じて一対のトーションバー部分18TL及び18TRを相対的に回転駆動することにより、左右の後輪10RL及び10RRが互いに逆相にてバウンド、リバウンドする際に捩り応力により車輪のバウンド、リバウンドを抑制する力を変化させ、これにより左右後輪の位置に於いて車輌に付与されるアンチロールモーメントを増減し、後輪側の車輌のロール剛性を可変制御する。
尚アクティブスタビライザ装置16及び18の構造自体は本発明の要旨をなすものではないので、車輌のロール剛性を可変制御し得るものである限り当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよいが、例えば本願出願人の出願にかかる特願2003−324212(整理番号PA03−374)明細書及び図面に記載のアクティブスタビライザ装置、即ち一方のトーションバー部分の内端に固定され駆動歯車が取り付けられた回転軸を有する電動機と、他方のトーションバー部分の内端に固定され駆動歯車に噛合する従動歯車とを有し、駆動歯車及び従動歯車は駆動歯車の回転を従動歯車へ伝達するが、従動歯車の回転を駆動歯車へ伝達しない歯車であるアクティブスタビライザ装置であることが好ましい。
アクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rは電子制御装置22によって電動機に対する制御電流が制御されることにより制御される。尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置22はCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。
また図示の実施例に於いては、図1に示されている如く、左右前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール24の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置26によりラックバー28及びタイロッド30L及び30Rを介して転舵される。
図示の実施例に於いては、電動式パワーステアリング装置26はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機32と、電動機32の回転トルクをラックバー28の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構34とを有し、ハウジング36に対し相対的にラックバー28を駆動する操舵アシスト力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する操舵アシスト力発生装置として機能する。尚電動式パワーステアリング装置26は電子制御装置38によって電動機32に対する制御電流が制御されることにより制御される。尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置38もCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。また操舵アシスト力発生装置は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
図1に示されている如く、電子制御装置22には横加速度センサ40により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号、車速センサ42により検出された車速Vを示す信号、回転角度センサ44F、44Rにより検出されたアクチュエータ20F及び20Rの実際の回転角度φF、φRを示す信号が入力される。
他方電子制御装置38には操舵角センサ46により検出された操舵角θを示す信号及びトルクセンサ48により検出された操舵トルクTsを示す信号が入力される。電子制御装置22及び38は相互に通信し必要な信号の授受を行う。尚横加速度センサ40及び操舵角センサ46はそれぞれ車輌の左旋回時に生じる値を正として横加速度Gy、操舵角θを検出し、トルクセンサ48は左旋回方向へ前輪を転舵際の値を正として操舵トルクTsを検出する。
電子制御装置22は、図2に示されたフローチャートに従って、前輪側のロール剛性が正常時に比して低下している異常がアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生しているか否かを判定し、アクティブスタビライザ装置16及び18が正常であるときには、少なくとも車輌の横加速度Gyに基づき車輌に作用するロールモーメントを推定し、ロールモーメントの大きさが基準値以上であるときには、ロールモーメントを打ち消す方向のアンチロールモーメントが増大するよう車輌の目標アンチロールモーメントMatを演算する。
そして電子制御装置22は、目標アンチロールモーメントMat及び前輪の目標ロール剛性配分比Rmfに基づき前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartを演算し、目標アンチロールモーメントMaft及びMartに基づきそれぞれアクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rの目標回転角度φFt、φRtを演算し、アクチュエータ20F及び20Rの回転角度φF、φRがそれぞれ対応する目標回転角度φFt、φRtになるよう制御し、これにより旋回時等に於ける車輌のロールを好ましい前後配分比のロール剛性にて低減する。
また電子制御装置22は、前輪側のロール剛性が正常時に比して低下している異常がアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生しているときには、後輪側のロール剛性を低下させることなくロール剛性の前後配分を前輪寄りに制御することは不可能であるので、後輪側のロール剛性が低下するようアクティブスタビライザ装置16及び18を制御する。また電子制御装置22は前輪側のロール剛性が低下する異常が発生していることを示すフラグFstを1にセットし、フラグFstを示す信号は電子制御装置38へ出力される。
尚、前輪側のロール剛性が正常時に比して低下している異常がアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生しているか否かの判定の仕方自体は本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて達成されてよく、例えばアクチュエータ20F及び20Rの目標回転角度φFt、φRtとそれぞれ対応する実際の回転角度φF、φRとの大小関係に基づいてロール剛性が目標のロール剛性に比して大きいか否かの判定により行われてよい。
かくしてアクティブスタビライザ装置16及び18、電子制御装置22、横加速度センサ48等は、車輌に過大なロールモーメントが作用するときにはアンチロールモーメントを増減させて車輌のロール剛性を増減制御するロール剛性可変制御手段として機能し、車両の過大なロールを防止する。
また電子制御装置38は、図3に示されたフローチャートに従って、トルクセンサ48により検出される操舵トルクTs及び車速Vに基づいて目標アシストトルクTaを演算し、操舵アシストトルクが目標アシストトルクTaになるよう電動式パワーステアリング装置26を制御する。
かくして電動式パワーステアリング装置26、電子制御装置38、トルクセンサ48等は、操舵アシスト力としての操舵トルクを増減制御する操舵アシスト力制御手段として機能し、運転者の操舵負担を軽減する。
特に電子制御装置38は、フラグFstが1であるときには、操舵操作手段としてのステアリングホイール24が中立位置へ自動的に復帰すべき状況であるか否かを判定し、ステアリングホイール24が中立位置へ自動的に復帰すべき状況であるときには、前輪を車両の直進位置へ付勢する目標アシストトルクTaを演算し、操舵アシストトルクが目標アシストトルクTaになるよう電動式パワーステアリング装置26を制御する。
この場合前輪を車両の直進位置へ付勢する目標アシストトルクTaの大きさは、車速Vが高いほど大きく、操舵角θの大きさが大きいほど大きくなるよう、車速V及び操舵角θの大きさに応じて可変設定される。
次に図2及び図3に示されたフローチャートを参照して図示の実施例に於ける車両の走行制御について説明する。尚図2及び図3はそれぞれロール剛性の制御ルーチン及び操舵アシストトルクの制御ルーチンを示すフローチャートであり、各制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
図2に示されたロール剛性の制御ルーチンのステップ210に於いては、車両の横加速度Gyを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ215に於いてはアクティブスタビライザ装置16及び18に異常が発生しているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ250へ進み、否定判別が行われたときにはステップ220に於いてフラグFstが0にリセットされる。
ステップ225に於いては車速Vが高いほど高くなるよう前輪の目標ロール剛性配分比Rmfが0よりも大きく1よりも小さい値として演算され、ステップ230に於いては例えば車輌の横加速度Gyの大きさが大きいほど目標アンチロールモーメントMatが大きくなるよう、車輌の横加速度Gyに基づき目標アンチロールモーメントMatが演算され、ステップ235に於いてはそれぞれ下記の式1及び2に従って前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartが演算される。
Maft=RmfMat ……(1)
Mart=(1−Rmf)Mat ……(2)
ステップ240に於いてはそれぞれ前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartに基づきアクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rの目標回転角φft及びφrtが演算され、ステップ245に於いてはそれぞれアクチュエータ20F及び20Rの回転角φf及びφrがそれぞれ目標回転角φft及びφrtになるよう制御される。
ステップ250に於いては前輪側のロール剛性が低下する異常がアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生しているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ265へ進み、否定判別が行われたときにはステップ255へ進む。
ステップ255に於いてはフラグFstが0にリセットされ、ステップ260に於いてはアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生している異常に応じて当技術分野に於いて公知の要領にて異常の影響が低減されると共に車両のロールができるだけ低減されるようアクティブスタビライザ装置16及び18が制御される。
ステップ265に於いてはフラグFstが1にセットされ、ステップ270に於いては上述のステップ225乃至240と同様の要領にてアクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rの目標回転角φft及びφrtが演算されると共に、後輪側のアクティブスタビライザ装置18の制御量が低減補正されることによりロール剛性の前後配分が非補正時に比して前輪寄りになると共に車両のロールができるだけ低減されるようアクティブスタビライザ装置16及び18が制御される。
図3に示された操舵アシストトルクの制御ルーチンのステップ310に於いては、操舵トルクTsを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ315に於いてはフラグFstが1であるか否かの判別、即ち前輪側のロール剛性が低下する異常がアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ345へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ320へ進む。
ステップ320に於いては車速Vが車速の基準値Vo(正の定数)以上であり且つ操舵角θの絶対値が基準値α(正の定数)以上であり且つ操舵トルクTsの絶対値が基準値Tso(0に近い正の定数)以下であるか否かの判別、即ち運転者が中立位置以外にあるステアリングホイール24を実質的に手放した状態にあり、ステアリングホイール24が自動的に中立位置へ戻るべき状況であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ330へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ325へ進む。
ステップ325に於いては操舵角θの時間微分値として操舵角速度θdが演算されると共に、操舵角速度θdの絶対値が基準値β(正の定数)以下であるか否かの判別、即ちステアリングホイール24が実質的に回転していない状況であり、ステアリングホイール24を中立位置へ戻す操舵アシストトルクが必要とされているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ330へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ345へ進む。
ステップ330に於いては操舵トルクTsの大きさが大きいほど基本アシストトルクTabの大きさが大きくなるよう、操舵トルクTsに基づき図4に示されたグラフに対応するマップより基本アシストトルクTabが演算される。
ステップ335に於いては車速Vが高いほど車速係数Kvが小さくなるよう、車速Vに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算され、ステップ340に於いては車速係数Kvと基本アシストトルクTabとの積として目標アシストトルクTaが演算される。
ステップ345に於いてはステアリングホイール24を中立位置へ戻すに必要な基本アシストトルクTabを演算するための操舵角速度の不足量Δθdが下記の式3に従って演算される。
Δθd=β−|θd| ……(3)
ステップ350に於いては操舵角速度の不足量Δθd及び操舵角の絶対値θに基づき図6に示されたグラフに対応するマップよりステアリングホイール24を中立位置へ戻すに必要な基本アシストトルクTabが演算され、ステップ355に於いては車速Vが高いほど制御ゲインKが大きくなるよう、車速Vに基づき図7に示されたグラフに対応するマップより制御ゲインKが演算される。
ステップ360に於いてはsignθを操舵角θの符号として、signθと制御ゲインKと基本アシストトルクTabとの積として目標アシストトルクTaが演算され、ステップ365に於いては操舵アシストトルクが目標アシストトルクTaになるよう電動式パワーステアリング装置26の電動機32が制御される。
かくして図示の実施例によれば、アクティブスタビライザ装置16及び18が正常であるときには、ステップ215に於いて否定判別が行われ、ステップ225に於いて前輪の目標ロール剛性配分比Rmfが演算され、ステップ230に於いて車輌の横加速度Gyに基づき目標アンチロールモーメントMatが演算され、ステップ235に於いて目標ロール剛性配分比Rmfにて目標アンチロールモーメントMatを達成するための前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartが演算され、ステップ240及び245に於いて目標アンチロールモーメントMaft及びMartが達成されるようアクティブスタビライザ装置16及び18が制御され、これにより車両の過大なロールが防止される。
またアクティブスタビライザ装置16若しくは18に異常が発生しているが、その異常が前輪側のロール剛性が低下する異常ではないときには、ステップ215に於いて肯定判別が行われると共にステップ250に於いて否定判別が行われ、ステップ260に於いて異常の影響が低減されると共に車両のロールができるだけ低減されるようアクティブスタビライザ装置16及び18が制御される。
更に前輪側のロール剛性が低下する異常がアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生しているときには、ステップ215及び250に於いて肯定判別が行われ、ステップ265に於いてフラグFstが1にセットされ、ステップ270に於いて後輪側のアクティブスタビライザ装置18の制御量が低減補正されることによりロール剛性の前後配分が非補正時に比して前輪寄りになると共に車両のロールができるだけ低減されるようアクティブスタビライザ装置16及び18が制御される。
また図示の実施例によれば、前輪側のロール剛性が低下する異常がアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生していないときには、ステップ315に於いて否定判別が行われることにより、また前輪側のロール剛性が低下する異常がアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生しているが、ステアリングホイール24を中立位置へ戻す操舵アシストトルクが必要とされていないときには、ステップ320又は325に於いて否定判別が行われることにより、ステップ330乃至340に於いて操舵トルクTsの大きさが大きいほど大きくなると共に、車速Vが高いほど小さくなるよう、目標アシストトルクTaが演算され、ステップ365に於いて操舵アシストトルクが目標アシストトルクTaになるよう制御される。
これに対し前輪側のロール剛性が低下する異常がアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生し、ステアリングホイール24を中立位置へ戻す操舵アシストトルクが必要とされているときには、ステップ320及び325に於いて肯定判別が行われ、ステップ345乃至360に於いて操舵角速度θdの大きさが小さいほど大きくなり、操舵角θの大きさが大きいほど大きくなり、車速Vが高いほど大きくなるよう、目標アシストトルクTaが演算され、ステップ365に於いて操舵アシストトルクが目標アシストトルクTaになるよう制御される。
従って図示の実施例によれば、前輪側のロール剛性が正常時に比して低下する異常がアクティブスタビライザ装置16若しくは18に発生しても、ステアリングホイール24が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いては、操舵アシスト力によって前輪を車両の直進位置へ付勢すると共にステアリングホイール24を中立位置へ付勢することができ、これにより前輪側のロール剛性の低下に起因するステアリングホイール24の戻りの悪化を確実に抑制することができる。
特に図示の実施例によれば、ステップ320に於いて車速Vが車速の基準値Vo以上であり且つ操舵角θの絶対値が基準値α以上であり且つ操舵トルクTsの絶対値が基準値Tso以下であるか否かの判別が行われるので、運転者が中立位置以外にあるステアリングホイール24を実質的に手放した状態にある場合の如く、ステアリングホイール24が自動的に中立位置へ戻るべき状況であるか否かを確実に且つ正確に判定することができ、これによりステアリングホイール24が中立位置へ自動的に復帰すべき状況に於いて確実に前輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力を発生することができると共に、ステアリングホイール24が中立位置へ自動的に復帰すべき状況ではないときに前輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力が不必要に発生されることを確実に防止することができる。
また図示の実施例によれば、ステップ320に於いて肯定判別が行われ、ステアリングホイール24が自動的に中立位置へ戻るべき状況であると判別されたときには、ステップ325に於いて操舵角速度θdの絶対値が基準値β以下であるか否かの判別により、ステアリングホイール24を中立位置へ戻す操舵アシストトルクが必要とされているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにステップ350〜365が実行されるので、前輪に十分なセルフアライニングトルクが作用し、ステアリングホイール24が中立位置へ自動的に復帰している状況に於いて、前輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシストトルクが不必要に発生されることを確実に防止することができる。
また図示の実施例によれば、ステップ345及び350に於いて操舵角速度θdの大きさが小さいほど前輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力が大きくされるので、前輪のセルフアライニングトルクの低下度合が高くステアリングホイール24の復帰速度が低いときには前輪のセルフアライニングトルクの低下度合が低くステアリングホイール24の復帰速度が高いときに比して前輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力の大きさを大きくすることができ、これにより操舵角速度θdの大きさ、即ちステアリングホイール24の復帰速度が考慮されない場合に比して、ステアリングホイール24の戻りの悪化を適正に抑制することができる。
また図示の実施例によれば、ステップ350乃至360に於いて前輪を車両の直進位置へ付勢するための目標アシストトルクTaは車速Vが高いほど大きく、操舵角θの大きさが大きいほど大きくなるよう、車速V及び操舵角θの大きさに応じて可変設定されるので、車両のロール剛性が正常な値であるときに前輪に作用するセルフアライニングトルクの大きさに応じて最適な値にて前輪を車両の直進位置へ付勢する操舵アシスト力を発生させることができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例に於いては、ステップ320の判別に於ける操舵角θの絶対値の判別基準値αは正の定数であるが、車速Vが高いほど小さくなるよう、車速Vに応じて可変設定されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、ステップ325の判別に於ける操舵角速度θdの絶対値の判別基準値βも正の定数であるが、車速Vが高いほど大きくなり、操舵角θの絶対値が大きいほど大きくなるよう、車速V若しくは操舵角θの絶対値に応じて可変設定されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、ステップ350乃至360に於いて前輪を車両の直進位置へ付勢するための目標アシストトルクTaは車速Vが高いほど大きく、操舵角θの大きさが大きいほど大きくなるよう、車速V及び操舵角θの大きさに応じて可変設定されるようになっているが、車速V若しくは操舵角θの大きさに基づく目標アシストトルクTaの可変設定が省略されてもよい。
また上述の実施例に於いては、ステップ315乃至325の何れかに於いて否定判別が行われた場合の目標アシストトルクTaは操舵トルクTs及び車速Vに基づいて特定の要領にて演算されるようになっているが、操舵アシスト力によって前輪を車両の直進位置へ付勢する必要がない状況に於ける目標アシストトルクTaは当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算されてよい。