本発明は、車両の走行制御装置に係り、更に詳細には運転者の操舵に依存せずに操舵輪を転舵可能な操舵輪舵角可変装置を備えた車両の走行制御装置に係る。
自動車等の車両の走行制御装置の一つとして、例えば下記の特許文献1に記載されている如く、ロール剛性を変更する前輪側アクティブスタビライザ装置及び後輪側アクティブスタビライザ装置を備え、前輪側アクティブスタビライザ装置及び後輪側アクティブスタビライザ装置により前輪側及び後輪側のロール剛性を制御することにより、旋回初期に於ける車両の回頭性及び旋回終期に於ける車両の収斂性を向上させるよう構成された走行制御装置が従来より知られている。かかる走行制御装置によれば、旋回初期に於ける車両の回頭性及び旋回終期に於ける車両の収斂性が向上するので、車両の旋回走行性能を向上させることができる。
特開平9−183306号公報
一般に、自動車等の車輌に於いては、一端にて車体に枢支され他端にて車輪支持部材に枢着されたサスペンションアームにより車輪が支持されているため、車輪がバウンド、リバウンドすると車輪のトーが変化する現象、即ちロールステアが発生する。このロールステアは車輌の通常走行時には瞬間的にしか発生しないが、車両が横風を受けた状態にて走行する場合や路面が左右方向に傾斜した走行路を走行するような場合には、車輪のバウンド、リバウンド状態が継続し、またロールステアの度合は車輪のバウンド、リバウンドの度合、換言すればて車両のロール量によって異なる。
従って車両のロール状況によってロールステアの度合及び車輪のトー変化量が異なり、そのため車両の走行挙動が異なるため、車両がロールした状態にて走行する際の車両の走行性能、特に直進走行性能やコーストレース性が低下することがあり、またこれに起因して運転者が違和感を覚えることがある。尚特許文献1に記載された走行制御装置によってもこの問題を解消することはできない。
本発明は、従来の車両に於ける上述の如きロールステアの問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、ロールステアによる車輪のトー変化が車両に与える影響を低減するよう操舵輪の舵角を制御することにより、ロールステアに起因する車両の挙動変化を低減し、車両の走行性能を向上させると共に運転者が覚える違和感を低減することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち運転者の操舵に依存せずに操舵輪を転舵可能な操舵輪舵角可変手段と、車両のロール量を推定する手段と、推定された車両のロール量に基づいてロールステアに起因する車両の挙動変化を抑制するよう前記操舵輪舵角可変手段により前記操舵輪の舵角を制御する制御手段とを有する車両の走行制御装置に於いて、前記車両のロール量を推定する手段は車両のロール剛性を制御することにより車両のロールを抑制するアクティブスタビライザ装置であって、二分割のスタビライザと該スタビライザのトーションバーを相対回転させる電動機内蔵のアクチュエータとを有するアクティブスタビライザ装置を含み、前記アクチュエータによる前記トーションバーの実際の相対回転角度と前記電動機に対する制御電流とに基づいて車両のロール量を推定することを特徴とする車両の走行制御装置によって達成される。
上記請求項1の構成によれば、車両のロール量を推定する手段は車両のロール剛性を制御することにより車両のロールを抑制するアクティブスタビライザ装置であって、二分割のスタビライザと該スタビライザのトーションバーを相対回転させる電動機内蔵のアクチュエータとを有するアクティブスタビライザ装置を含み、アクチュエータによるトーションバーの実際の相対回転角度と電動機に対する制御電流とに基づいて車両のロール量を推定する。従って車両がロールし車輪にロールステアによるトー変化が生じる場合にも、操舵輪舵角可変手段による操舵輪の舵角の制御によってロールステアに起因する車両の挙動変化を確実に抑制することができるだけでなく、車両のロール量を検出する手段や車輪のバウンド量及びリバウンド量を検出する手段を別途設けることなく車両のロール量を容易に求めることができ、走行制御装置の構成を簡素化することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記制御手段は推定された車両のロール量に基づいてロールステアに起因する車両の挙動変化を抑制するための前記操舵輪の補正転舵量を演算し、前記補正転舵量に基づいて前記操舵輪舵角可変手段を制御するよう構成される(請求項2の構成)。
上記請求項2の構成によれば、推定された車両のロール量に基づいてロールステアに起因する車両の挙動変化を抑制するための操舵輪の補正転舵量が演算され、補正転舵量に基づいて操舵輪舵角可変手段が制御されるので、車両のロール量に基づいて各車輪のロールステアによるトー変化量を演算したり、車輪のバウンド量及びリバウンド量に基づいて各車輪のロールステアによるトー変化量を演算したりすることなく、ロールステアに起因する車両の挙動変化を抑制するための操舵輪の補正転舵量を演算することができ、これによりロールステアに起因する車両の挙動変化を抑制するための操舵輪の舵角の制御を容易に実行することができる。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、前記制御手段は所定の操舵特性を達成するための前記操舵輪の舵角の制御量と前記補正転舵量とに基づいて前記操舵輪舵角可変手段を制御するよう構成される(請求項3の構成)。
上記請求項3の構成によれば、制御手段は所定の操舵特性を達成するための操舵輪の舵角の制御量と補正転舵量とに基づいて操舵輪舵角可変手段を制御するので、所定の操舵特性を達成しつつロールステアに起因する車両の挙動変化を確実に抑制することができる。
また本発明によれば、上記請求項1又は2の何れかの構成に於いて、前記操舵輪舵角可変手段は前輪舵角可変手段であり、前記アクティブスタビライザ装置は前輪側アクティブスタビライザ装置及び後輪側アクティブスタビライザ装置を含み、前記車両のロール量を推定する手段は前記前輪側アクティブスタビライザ装置に於ける前記トーションバーの実際の相対回転角度と前記電動機に対する制御電流とに基づいて車両の前輪側のロール量を推定すると共に、前記後輪側アクティブスタビライザ装置に於ける前記トーションバーの実際の相対回転角度と前記電動機に対する制御電流とに基づいて車両の後輪側のロール量を推定し、前記制御手段は前記前輪側のロール量及び前記後輪側のロール量に基づいて前輪のトー変化を抑制するための前輪の補正転舵量を演算し、前記制御手段は前記前輪の補正転舵量に基づいて前記前輪舵角可変手段を制御するよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項4の構成によれば、前輪側アクティブスタビライザ装置に於けるトーションバーの実際の相対回転角度と電動機に対する制御電流とに基づいて車両の前輪側のロール量が推定されると共に、後輪側アクティブスタビライザ装置に於けるトーションバーの実際の相対回転角度と電動機に対する制御電流とに基づいて車両の後輪側のロール量が推定され、前輪側のロール量及び後輪側のロール量に基づいて前輪のトー変化を抑制するための前輪の補正転舵量が演算され、前輪の補正転舵量に基づいて前輪舵角可変手段が制御されるので、前輪側のロール量及び後輪側のロール量に基づいて前輪及び後輪のロールステアによるトー変化量を演算することなく、車両の挙動変化を抑制するための前輪の補正転舵量を演算することができる。
また本発明によれば、上記請求項1乃至3の何れかの構成に於いて、前記操舵輪舵角可変手段は前輪舵角可変手段及び後輪舵角可変手段を含み、前記アクティブスタビライザ装置は前輪側アクティブスタビライザ装置及び後輪側アクティブスタビライザ装置を含み、前記車両のロール量を推定する手段は前記前輪側アクティブスタビライザ装置に於ける前記トーションバーの実際の相対回転角度と前記電動機に対する制御電流とに基づいて車両の前輪側のロール量を推定すると共に、前記後輪側アクティブスタビライザ装置に於ける前記トーションバーの実際の相対回転角度と前記電動機に対する制御電流とに基づいて車両の後輪側のロール量を推定し、前記制御手段は前記前輪側のロール量に基づいて前輪のトー変化を抑制する前輪の補正転舵量を演算すると共に、前記後輪側のロール量に基づいて後輪のトー変化を抑制する後輪の補正転舵量を演算し、前記制御手段は前記前輪の補正転舵量に基づいて前記前輪舵角可変手段を制御すると共に、前記後輪の補正転舵量に基づいて前記後輪舵角可変手段を制御するよう構成される(請求項5の構成)。
上記請求項5の構成によれば、前輪側アクティブスタビライザ装置に於けるトーションバーの実際の相対回転角度と電動機に対する制御電流とに基づいて車両の前輪側のロール量が推定されると共に、後輪側アクティブスタビライザ装置に於けるトーションバーの実際の相対回転角度と電動機に対する制御電流とに基づいて車両の後輪側のロール量が推定され、前輪側のロール量に基づいて前輪のトー変化を抑制する前輪の補正転舵量が演算されると共に、後輪側のロール量に基づいて後輪のトー変化を抑制する後輪の補正転舵量が演算され、前輪の補正転舵量に基づいて前輪舵角可変手段が制御されると共に、後輪の補正転舵量に基づいて後輪舵角可変手段が制御される。従って前輪側のロール量及び後輪側のロール量に基づいて前輪及び後輪のロールステアによるトー変化量を演算することなく、車両の挙動変化を抑制するための前輪及び後輪の補正転舵量を演算することができ、またロールステアによる車両の挙動変化を抑制する舵角の制御量が前輪及び後輪に所定の比率にて配分される場合に比して、前輪及び後輪の補正転舵量を容易に演算することができる。
また本発明によれば、上記請求項4又は5の何れかの構成に於いて、前記制御手段は所定の操舵特性を達成するための前記前輪の舵角の制御量と前記前輪の補正転舵量とに基づいて前記前輪舵角可変手段を制御するよう構成される(請求項6の構成)。
上記請求項6の構成によれば、制御手段は所定の操舵特性を達成するための前輪の舵角の制御量と前輪の補正転舵量とに基づいて前輪舵角可変手段を制御するので、後に詳細に説明する如く、所定の操舵特性を達成しつつロールステアに起因する車両の挙動変化を確実に抑制することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の何れかの構成に於いて、制御手段は推定された車両のロール量に基づいて車輪のトー変化量を推定し、トー変化量が車両の挙動変化に与える影響を相殺するよう操舵輪舵角可変手段により操舵輪の舵角を制御するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、制御手段は車両のロール量と車輪のトー変化量との関係を記憶する記憶手段を有するよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項6又は上記好ましい態様1乃至3の何れかの構成に於いて、制御手段は所定の操舵特性を達成するための後輪の舵角の制御量と後輪の補正転舵量とに基づいて後輪舵角可変手段を制御するよう構成される(好ましい態様3)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は前輪側及び後輪側にアクティブスタビライザ装置を有し前輪の舵角の制御が可能な車両に適用された本発明による車輌の走行制御装置の実施例1を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌12の左右の後輪を示している。左右の前輪10FL及び10FRの間にはアクティブスタビライザ装置16が設けられ、左右の後輪10RL及び10RRの間にはアクティブスタビライザ装置18が設けられている。アクティブスタビライザ装置16及び18はアンチロールモーメントを車輌(車体)に付与すると共に、それぞれ必要に応じて前輪側及び後輪側のロール剛性を増減するロール剛性可変手段として機能する。
アクティブスタビライザ装置16は車輌の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在する一対のトーションバー部分16TL及び16TRと、それぞれトーションバー部分16TL及び16TRの外端に一体に接続された一対のアーム部16AL及び16ARとを有している。トーションバー部分16TL及び16TRはそれぞれ図には示されていないブラケットを介して図には示されていない車体に自らの軸線の周りに回転可能に支持されている。アーム部16AL及び16ARはそれぞれトーションバー部分16TL及び16TRに対し交差するよう車輌前後方向に延在し、アーム部16AL及び16ARの外端はそれぞれ図には示されていないゴムブッシュ装置を介して左右前輪10FL及び10FRのサスペンションアームの如きサスペンション部材14FL及び14FRに連結されている。
アクティブスタビライザ装置16はトーションバー部分16TL及び16TRの間にアクチュエータ20Fを有している。アクチュエータ20Fは電動機を内蔵し、必要に応じて一対のトーションバー部分16TL及び16TRを相対的に回転駆動することにより、左右の前輪10FL及び10FRが互いに逆相にてバウンド、リバウンドする際に捩り応力により車輪のバウンド、リバウンドを抑制する力を変化させ、これにより左右前輪の位置に於いて車輌に付与されるアンチロールモーメントを増減し、前輪側の車輌のロール剛性を可変制御する。
同様に、アクティブスタビライザ装置18は車輌の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在する一対のトーションバー部分18TL及び18TRと、それぞれトーションバー部分18TL及び18TRの外端に一体に接続された一対のアーム部18AL及び18ARとを有している。トーションバー部分18TL及び18TRはそれぞれ図には示されていないブラケットを介して図には示されていない車体に自らの軸線の周りに回転可能に支持されている。アーム部18AL及び18ARはそれぞれトーションバー部分18TL及び18TRに対し交差するよう車輌前後方向に延在し、アーム部18AL及び18ARの外端はそれぞれ図には示されていないゴムブッシュ装置を介して左右後輪10RL及び10RRのサスペンションアームの如きサスペンション部材14RL及び14RRに連結されている。
アクティブスタビライザ装置18はトーションバー部分18TL及び18TRの間にアクチュエータ20Rを有している。アクチュエータ20Rは電動機を内蔵し、必要に応じて一対のトーションバー部分18TL及び18TRを相対的に回転駆動することにより、左右の後輪10RL及び10RRが互いに逆相にてバウンド、リバウンドする際に捩り応力により車輪のバウンド、リバウンドを抑制する力を変化させ、これにより左右後輪の位置に於いて車輌に付与されるアンチロールモーメントを増減し、後輪側の車輌のロール剛性を可変制御する。
尚アクティブスタビライザ装置16及び18の構造自体は本発明の要旨をなすものではないので、車輌のロール剛性を可変制御し得るものである限り当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよいが、例えば本願出願人の出願にかかる特願2003−324212(整理番号PA03‐374)明細書及び図面に記載のアクティブスタビライザ装置、即ち一方のトーションバー部分の内端に固定され駆動歯車が取り付けられた回転軸を有する電動機と、他方のトーションバー部分の内端に固定され駆動歯車に噛合する従動歯車とを有し、駆動歯車及び従動歯車は駆動歯車の回転を従動歯車へ伝達するが、従動歯車の回転を駆動歯車へ伝達しない歯車であるアクティブスタビライザ装置であることが好ましい。
アクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rは電子制御装置22によって電動機に対する制御電流が制御されることにより制御される。尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置22はCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。
また図示の実施例に於いては、図1に示されている如く、左右前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール24の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型のパワーステアリング装置26によりラックバー28及びタイロッド30L及び30Rを介して転舵される。
ステアリングホイール24はアッパステアリングシャフト32、転舵角可変装置34、ロアステアリングシャフト36、ユニバーサルジョイント38を介してパワーステアリング装置26のピニオンシャフト40に駆動接続されている。図示の実施例に於いては、転舵角可変装置34はハウジング34Aの側にてアッパステアリングシャフト32の下端に連結され、回転子34Bの側にてロアステアリングシャフト36の上端に連結された補助転舵駆動用の電動機42を含んでいる。
かくして転舵角可変装置34はアッパステアリングシャフト32に対し相対的にロアステアリングシャフト36を回転駆動することにより、ステアリングホイール24の回転角度に対する操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRの舵角の比、即ち操舵伝達比(ステアリングギヤ比の逆数)を変化させるステアリングギヤ比可変手段として機能すると共に、車両の走行制御の目的で左右の前輪10FL及び10FRをステアリングホイール14に対し相対的に補助転舵駆動する自動転舵装置として機能し、電子制御装置44により制御される。尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置44もCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。
図1に示されている如く、電子制御装置22には横加速度センサ48により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号、車速センサ50により検出された車速Vを示す信号、回転角度センサ52F、52Rにより検出されたアクチュエータ20F及び20Rの実際の回転角度φF、φRを示す信号が入力される。
他方電子制御装置44には操舵角センサ56により検出された操舵角θを示す信号及び回転角度センサ58により検出された相対回転角度θre、即ちアッパステアリングシャフト32に対するロアステアリングシャフト36の相対回転角度を示す信号が入力される。電子制御装置22及び44は相互に通信し必要な信号の授受を行う。
尚横加速度センサ48及び操舵角センサ56はそれぞれ車輌の左旋回時に生じる値を正として横加速度Gy、操舵角θを検出し、回転角度センサ58は左旋回方向への左右前輪の相対転舵の場合を正として相対回転角度θreを検出する。
電子制御装置22は、図2に示されたフローチャートに従って、少なくとも車輌の横加速度Gyに基づき車輌に作用するロールモーメントを推定し、ロールモーメントの大きさが基準値以上であるときには、ロールモーメントを打ち消す方向のアンチロールモーメントが増大するよう車輌の目標アンチロールモーメントMatを演算する。そして電子制御装置22は、目標アンチロールモーメントMat及び前輪の目標ロール剛性配分比Rmfに基づき前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartを演算し、目標アンチロールモーメントMaft及びMartに基づきそれぞれアクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rの目標回転角度φFt、φRtを演算し、アクチュエータ20F及び20Rの回転角度φF、φRがそれぞれ対応する目標回転角度φFt、φRtになるよう制御し、これにより旋回時等に於ける車輌のロールを好ましい前後輪のロール剛性配分比にて低減する。
かくしてアクティブスタビライザ装置16及び18、電子制御装置22、横加速度センサ48等は、車輌に過大なロールモーメントが作用するときにはアンチロールモーメントを増減させて車輌のロール剛性を増減するロール剛性可変装置として機能する。尚電子制御装置22はアクチュエータ20F及び20Rの電動機に対する制御電流Isf及びIsrを示す信号を電子制御装置44へ出力する。
また電子制御装置44は、図3に示されたフローチャートに従って、車速Vに基づき目標ステアリングギヤ比Rgtを演算し、運転者の操舵操作量を示す操舵角θ及び目標ステアリングギヤ比Rgtに基づいて前輪の目標舵角δftを演算する。また電子制御装置44はアクチュエータ20F及び20Rの実際の回転角度φF、φR及びそれらの電動機に対する制御電流Isf、Isrに基づいてそれぞれ後述の如く車両の前輪側のロール角αf及び後輪側のロール角αrを推定し、ロール角αf及びαrに基づいてそれぞれロールステアに起因する前輪及び後輪の舵角の変化量Δδf及びΔδrを演算する。
そして電子制御装置44は前輪及び後輪の舵角の変化量Δδf及びΔδrに基づいて前輪の舵角の目標補正量Δδftを演算し、前輪の目標舵角δftをδtf+Δδtfに補正し、前輪の舵角δfが補正後の前輪の目標舵角δftになるよう転舵角可変装置34を制御することにより、ロールステアに起因する車輌の挙動変化を防止する。
図8に示されている如く、アクティブスタビライザ装置16及び18を代表して示すアクティブスタビライザ装置60の左側のトーションバー部分64TLの内端よりアーム部64ALの外端までの捩れ角をφ1とし、右側のトーションバー部分64TRの内端よりアーム部64ARの外端までの捩れ角をφ2とし、左側のトーションバー部分64TLの内端よりアーム部64ALの外端までの捩り剛性をK1とし、右側のトーションバー部分64TRの内端よりアーム部64ARの外端までの捩り剛性をK2とし、アーム部64AL及び64ARの長さをRとし、アーム部64AL及び64ARの外端に作用する外力をFとし、アクチュエータ62の電動機に対する制御電流をIsとし、アクチュエータ62のトルク定数Kaとすると、下記の式1及び2が成立する。
φ1=FR/K1=IsKa/K1 ……(1)
φ2=FR/K2=IsKa/K2 ……(2)
またアクチュエータ62の回転角度をφaとすると、アクティブスタビライザ装置60が設けられた位置に於ける車輌のロール角αは下記の式3により表される。
α=φa+φ1+φ2
=φa+IsKa(K1+K2)/(K1K2)……(3)
従って図示の実施例1に於いては、アクティブスタビライザ装置16及び18の捩り剛性K1に対応する値をK1f及びK1rとし、捩り剛性K2に対応する値をK2f及びK2rとし、アクチュエータ20F及び20Rのトルク定数Kaf及びKarとして、電子制御装置44はそれぞれアクチュエータ20F、20Rの実際の回転角度φF、φR及びアクチュエータ20F、20Rの電動機に対する制御電流Isf、Isrに基づいて下記の式4及び5に従って車輌の前輪側のロール角αf及び後輪側のロール角αrを演算する。
αf=φF+IsfKaf(K1f+K2f)/(K1fK2f) ……(4)
αr=φR+IsrKar(K1r+K2r)/(K1rK2r) ……(5)
また一般に、図9に於いて実線にて示されている如く、前輪はバウンド時にトーイン方向へステア変化し、リバウンド時にトーアウト方向へステア変化する。逆に図9に於いて破線にて示されている如く、後輪はバウンド時にトーアウト方向へステア変化し、リバウンド時にトーイン方向へステア変化する。従って車輌の前輪側のロール角αfと前輪のトー変化量、即ち舵角の変化量Δδfとの関係は図7(A)に示されている関係であり、車輌の後輪側のロール角αrと後輪のトー変化量、即ち舵角の変化量Δδrとの関係は図7(B)に示されている関係であるので、電子制御装置44は車輌の前輪側のロール角αf及び後輪側のロール角αrに基づいてそれぞれ図7(A)及び図7(B)に示されたグラフに対応するマップより前輪の舵角の変化量Δδf及び後輪の舵角の変化量Δδrを演算する。
また運転者の操舵操作による前輪の舵角δfより車輌のヨーレートγへの伝達関数をGyf(δf)とし、前輪の舵角の変化量Δδf及び後輪の舵角の変化量Δδrより車輌のヨーレートへの伝達関数をGyf(Δδf)及びGyr(Δδr)とし、転舵角可変装置34による前輪の舵角の補正量をΔδvfより車輌のヨーレートへの伝達関数をGyf(Δδvf)とすると、車輌のヨーレートγは下記の式6により表される。
γ=Gyf(δf)+Gyf(Δδf)+Gyr(Δδr)+Gyf(Δδvf) ……(6)
上記式6より、下記の式7が成立するよう、即ち転舵角可変装置34による前輪の舵角の補正量Δδvfが下記の式8により表される値になるよう制御すれば、ロールステアによる車輌のヨーレートγの変化、即ち挙動変化を防止することができることが解る。
Gyf(Δδvf)=−Gyf(Δδf)−Gyr(Δδr) ……(7)
Δδvf=−Δδf−(Gyr/Gyf)Δδr ……(8)
従って図示の実施例1に於いては、電子制御装置44は前輪の舵角の変化量Δδf及び後輪の舵角の変化量Δδrに基づいて下記の式9に従って前輪の舵角の目標補正量Δδftを演算する。
Δδft=−Δδf−(Gyr/Gyf)Δδr ……(9)
次に図2及び図3に示されたフローチャートを参照して図示の実施例1に於ける車両の走行制御について説明する。尚図2及び図3はそれぞれロール剛性の制御ルーチン及び前輪の舵角の制御ルーチンを示すフローチャートであり、各制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
図2に示されたロール剛性の制御ルーチンのステップ210に於いては、車両の横加速度Gyを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ220に於いては車速Vが高いほど高くなるよう前輪の目標ロール剛性配分比Rmfが0よりも大きく1よりも小さい値として演算される。
ステップ230に於いては例えば車輌の横加速度Gyの大きさが大きいほど目標アンチロールモーメントMatが大きくなるよう、車輌の横加速度Gyに基づき目標アンチロールモーメントMatが演算され、ステップ240に於いてはそれぞれ下記の式10及び11に従って前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartが演算される。
Maft=RmfMat ……(10)
Mart=(1−Rmf)Mat ……(11)
ステップ250に於いてはそれぞれ前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartに基づきアクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rの目標回転角φft及びφrtが演算され、ステップ260に於いてはそれぞれアクチュエータ20F及び20Rの回転角φf及びφrがそれぞれ目標回転角φft及びφrtになるよう制御され、ステップ270に於いてはアクチュエータ20F及び20Rの電動機に対する制御電流Isf及びIsrを示す信号が電子制御装置44へ出力される。
図3に示された前輪の舵角の制御ルーチンのステップ310に於いては、操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ320に於いては車速Vに基づき図6に示されたグラフに対応するマップより目標ステアリングギヤ比Rgtが演算され、下記の式12に従って所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftが演算される。
δft=θ/Rgt ……(12)
尚標準のステアリングギヤ比をRgo(正の定数)として、目標舵角δftは運転者の操舵操作に対応する舵角δw(=θ/Rgo)と所定の操舵特性を達成するための制御転舵角δcとの和である。また操舵特性の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、目標ステアリングギヤ比Rgtは当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算されてよく、例えば操舵に対する車両の過渡応答性を向上させるべく操舵速度(操舵角θの変化率)によっても変化されてよい。
ステップ330に於いてはアクチュエータ20Fの実際の回転角度φF及びアクチュエータ20Fの電動機に対する制御電流Isfに基づいて上記式4に従って車両の前輪側のロール角αfが演算され、ステップ335に於いてはロール角αfに基づいて図7(A)に示されたグラフに対応するマップよりロールステアに起因する前輪の舵角の変化量Δδfが演算される。
同様に、ステップ340に於いてはアクチュエータ20Rの実際の回転角度φR及びアクチュエータ20Rの電動機に対する制御電流Isrに基づいて上記式5に従って車両の後輪側のロール角αrが演算され、ステップ345に於いてはロール角αrに基づいて図7(B)に示されたグラフに対応するマップよりロールステアに起因する後輪の舵角の変化量Δδrが演算される。
ステップ350に於いては前輪の舵角の変化量Δδf及び後輪の舵角の変化量Δδrに基づいて上記式9に従って前輪の舵角の目標補正量Δδftが演算され、ステップ360に於いてはステップ320に於いて演算された前輪の目標舵角δftとステップ350に於いて演算された前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正される。
ステップ370に於いては前輪の目標舵角δftに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて前輪の舵角δfを目標舵角δftにするための転舵角可変装置34の目標相対回転角度θretが演算され、ステップ380に於いては転舵角可変装置34の相対回転角度θreが目標相対回転角度θretになるよう転舵角可変装置34が制御されることにより、前輪の舵角δfが目標舵角δftになるよう制御される。
かくして図示の実施例1によれば、ステップ220に於いて目標ロール剛性配分比Rmfが演算され、ステップ230に於いて車輌の横加速度Gyに基づき目標アンチロールモーメントMatが演算され、ステップ240に於いて目標ロール剛性配分比Rmfにて目標アンチロールモーメントMatを達成するための前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartが演算され、ステップ250及び260に於いて目標アンチロールモーメントMaft及びMartが達成されるようアクティブスタビライザ装置16及び18が制御され、これにより車両の過大なロールが防止される。
また図示の実施例1によれば、ステップ320に於いて車速Vに基づき目標ステアリングギヤ比Rgtが演算されると共に、所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftが演算され、ステップ330及び335に於いてロールステアに起因する前輪の舵角の変化量Δδfが演算され、ステップ340及び345に於いてロールステアに起因する後輪の舵角の変化量Δδrが演算される。
そしてステップ350に於いて前輪の舵角の変化量Δδf及び後輪の舵角の変化量Δδrに基づいてロールステアによる車輪のトー変化に起因する車両のヨーレートγの変化を相殺するための前輪の舵角の目標補正量Δδftが演算され、ステップ360に於いて前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正され、ステップ370及び380に於いて前輪の舵角δfが目標舵角δftになるよう転舵角可変装置34が制御される。
従って図示の実施例1によれば、ロールステアによる車輪のトー変化に起因する車両のヨーレートγの変化を相殺するよう転舵角可変装置34により前輪の舵角を制御することができ、これにより車両のロール状況に拘わらずロールステアに起因する車両の挙動変化を確実に防止し、車両の走行性能を向上させると共に運転者が車両の挙動変化に起因して違和感を覚えることを防止することができる。
特に図示の実施例1によれば、ステップ320に於いて所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftが演算され、ステップ360に於いて前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正され、ステップ370及び380に於いて前輪の舵角δfが目標舵角δftになるよう転舵角可変装置34が制御されるので、所定の操舵特性を達成しつつロールステアに起因する車両の挙動変化を確実に防止することができる。
また図示の実施例1によれば、前輪の舵角のみが制御されるので、後輪の舵角の制御は不要であり、従って後輪操舵装置も不要である。また後輪の舵角も制御される場合に比して、操舵輪の舵角の制御を簡便に行うことができる。
尚図示の実施例1に於いては、ロールステアによる車輪のトー変化に起因する車両のヨーレートγの変化を相殺するための前輪の舵角の補正量Δδftが演算され、所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正されるようになっているが、所定の操舵特性を達成するための前輪の舵角の制御が省略され、ロールステアによる車輪のトー変化に起因する車両のヨーレートγの変化を相殺するための前輪の舵角の制御量のみに基づいて前輪の舵角が制御されるよう修正されてもよい。
図4は前輪及び後輪の舵角の制御が可能な車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の実施例2を示す概略構成図である。尚図4に於いて図1に示された部材と同一の部材には図1に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この実施例2に於いては、左右の後輪10RL及び10RRは左右の前輪10FL及び10FRの操舵とは独立に、後輪操舵装置52の油圧式又は電動式のパワーステアリング装置54によりタイロッド56L及び56Rを介して操舵され、後輪操舵装置52は電子制御装置44により制御される。
電子制御装置44は、上述の実施例1の場合と同様、所定の操舵特性が達成されるよう車速Vに基づいて前輪の目標舵角δftを演算すると共に、操舵角θ及び車速Vに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて後輪の目標舵角δrtを演算する。
また電子制御装置44は、アクチュエータ20F及び20Rの電動機に対する制御電流Isf及びIsrに基づいてそれぞれ後述の如く車両の前輪側のロール角αf及び後輪側のロール角αrを推定し、ロール角αf及びαrに基づいてそれぞれロールステアに起因する前輪及び後輪の舵角の変化量Δδf及びΔδrを演算する。
この実施例2に於いては、後輪の舵角が後輪操舵装置52により制御されるので、後輪操舵装置52による後輪の舵角の補正量Δδvrより車輌のヨーレートへの伝達関数をGyf(Δδvr)とすると、車輌のヨーレートγは下記の式13により表される。
γ=Gyf{δf}+Gyf(Δδf)+Gyr(Δδr)
+Gyf(Δδvf)+Gyf(Δδvr) ……(13)
上記式13より、下記の式14及び15が成立するよう、即ち転舵角可変装置34による前輪の舵角の補正量Δδvfが下記の式16により表される値になると共に後輪操舵装置52による後輪の舵角の補正量Δδvrが下記の式17により表される値になるよう制御すれば、ロールステアによる車輌のヨーレートγの変化、即ち挙動変化を防止することができることが解る。
Gyf(Δδvf)=−Gyf(Δδf) ……(14)
Gyf(Δδvr)=−Gyr(Δδr) ……(15)
Δδvf=−Δδf ……(16)
Δδvr=−Δδr ……(17)
従って図示の実施例2に於いては、電子制御装置44は前輪の舵角の変化量Δδf及び後輪の舵角の変化量Δδrに基づいて下記の式18及び19に従って前輪の舵角の目標補正量Δδft及び後輪の舵角の目標補正量Δδrtを演算する。
Δδft=−Δδf ……(18)
Δδrt=−Δδr ……(19)
そして電子制御装置44は前輪の目標舵角δftをδft+Δδftに補正すると共に、後輪の目標舵角δrtをδrt+Δδrtに補正し、前輪の舵角δfが補正後の前輪の目標舵角δftになるよう転舵角可変装置34を制御すると共に、後輪の舵角δrが補正後の後輪の目標舵角δrtになるよう後輪操舵装置52を制御することにより、ロールステアに起因する車輌の挙動変化を防止する。
尚この実施例2に於いては、アクティブスタビライザ装置16及び18は上述の実施例1の場合と同様、電子制御装置22により図2に示された制御ルーチンに従って制御される。
図5は実施例2に於ける前輪及び後輪の舵角の制御ルーチンを示すフローチャートである。尚図5に示されたフローチャートによる制御も図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
この実施例2の前輪及び後輪の舵角の制御ルーチンに於いては、ステップ510〜580は基本的には上述の実施例1に於けるステップ310〜380と同様に実行されるが、ステップ520に於いては上述の実施例1の場合と同一の要領にて所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftが演算されると共に、操舵角θ及び車速Vに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて所定の操舵特性を達成するための後輪の目標舵角δrtが演算される。
またステップ550に於いては前輪の舵角の変化量Δδf及び後輪の舵角の変化量Δδrに基づいて上記式18及び19に従って前輪の舵角の目標補正量Δδft及び後輪の舵角の目標補正量Δδrtが演算される。
またステップ560に於いてはステップ320に於いて演算された前輪の目標舵角δftとステップ350に於いて演算された前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正されると共に、ステップ320に於いて演算された後輪の目標舵角δrtとステップ355に於いて演算された後輪の舵角の補正量Δδrtとの和になるよう後輪の目標舵角δrtが補正される。
更にステップ380に於いては前輪の舵角δfが目標舵角δftになるよう転舵角可変装置34が制御され、ステップ390に於いては後輪の舵角δrが目標舵角δrtになるよう後輪操舵装置52が制御される。
かくして図示の実施例2によれば、ロールステアによる前輪のトー変化に起因する車両のヨーレートγの変化を相殺するよう転舵角可変装置24により前輪の舵角を制御すると共に、ロールステアによる後輪のトー変化に起因する車両のヨーレートγの変化を相殺するよう後輪操舵装置52により後輪の舵角を制御することができ、これにより車両のロール状況に拘わらずロールステアに起因する車両の挙動変化を確実に防止し、車両の走行性能を向上させると共に運転者が車両の挙動変化に起因して違和感を覚えることを防止することができる。
特に図示の実施例2によれば、ステップ520に於いて所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δft及び後輪の目標舵角δrtが演算され、ステップ560に於いて前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正されると共に、後輪の目標舵角δrtと後輪の舵角の補正量Δδrtとの和になるよう後輪の目標舵角δrtが補正され、ステップ570及び580に於いて前輪の舵角δfが目標舵角δftになるよう転舵角可変装置34が制御され、ステップ390に於いては後輪の舵角δrが目標舵角δrtになるよう後輪操舵装置52が制御されるので、所定の操舵特性を達成しつつロールステアに起因する車両の挙動変化を確実に防止することができる。
また図示の実施例2によれば、前輪の舵角の補正量Δδft及び後輪の舵角の補正量Δδrtはそれぞれ上記式18及び19に従ってロールステアによる前輪及び後輪のトー変化を相殺するための舵角の制御量として演算されるので、例えばロールステアによる車両のヨーレートγの変化を相殺する舵角の制御量が前輪及び後輪に所定の比率にて配分される場合に比して、前輪の舵角の補正量Δδft及び後輪の舵角の補正量Δδrtを容易に演算することができる。
尚図示の実施例2に於いては、ロールステアによる車輪のトー変化に起因する車両のヨーレートγの変化を相殺するための前輪の舵角の補正量Δδft及び後輪の舵角の補正量Δδrtが演算され、所定の操舵特性を達成するための前輪の目標舵角δftと前輪の舵角の補正量Δδftとの和になるよう前輪の目標舵角δftが補正されると共に、所定の操舵特性を達成するための後輪の目標舵角δrtと後輪の舵角の補正量Δδrtとの和になるよう後輪の目標舵角δrtが補正されるようになっているが、ロールステアによる車輪のトー変化に起因する車両のヨーレートγの変化を相殺するための前輪及び後輪の舵角の制御量のみに基づいて前輪及び後輪の舵角が制御されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例1及び2によれば、アクチュエータ20Fの実際の回転角度φF及びアクチュエータ20Fの電動機に対する制御電流Isfに基づいて車両の前輪側のロール角αfが演算され、またアクチュエータ20Rの実際の回転角度φR及びアクチュエータ20Rの電動機に対する制御電流Isrに基づいて車両の後輪側のロール角αrが演算されるので、ロール角センサの如き車両のロール角を検出する手段を別途要することなく、前輪側のロール角αf及び後輪側のロール角αrを演算することができ、走行制御装置の構成を簡素化することができる。
また上述の実施例1及び2によれば、車両の前輪側のロール角αfに基づいてロールステアに起因する前輪の舵角の変化量Δδfが演算され、また車両の後輪側のロール角αrに基づいてロールステアに起因する後輪の舵角の変化量Δδrが演算されるので、各車輪のバウンド、リバウンド量を検出する手段を要することなく、ロールステアに起因する前輪の舵角の変化量Δδf及び後輪の舵角の変化量Δδrを演算することができ、走行制御装置の構成を簡素化することができる。
尚車両の減速時や加速時にも車輪がバウンド、リバウンドするが、その場合の左右の車輪は互いに同相にてバウンド、リバウンドするので、ロール角は発生せず、従って上述の実施例1及び2によれば、車両の減速時や加速時に不必要に前輪及び後輪の舵角が制御されることを確実に回避することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の各実施例に於いては、推定された車両のロール量に基づいてロールステアに起因する車両のヨーレートの変化を抑制するための操舵輪の補正転舵量が演算され、該補正転舵量に基づいて操舵輪の舵角が制御されるようになっているが、操舵輪の補正転舵量はロールステアに起因する車両のヨーレートの変化を相殺するに必要な値よりも小さくなるよう演算されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、左右の前輪10FL、10FRはバウンド時にトーイン方向へステア変化すると共に、リバウンド時にトーアウト方向へステア変化し、左右の後輪10RL、10RRはバウンド時にトーアウト方向へステア変化すると共に、リバウンド時にトーイン方向へステア変化することが前提とされているが、車輪のバウンド、リバウンドに伴う車輪のステア変化は任意の変化であってよい。
また上述の実施例2に於いては、前輪の舵角の補正量Δδft及び後輪の舵角の補正量Δδrtはそれぞれロールステアによる前輪及び後輪のトー変化を相殺するための舵角の制御量として演算されるようになっているが、ロールステアによる車両のヨーレートγの変化を相殺する舵角の制御量が前輪及び後輪に所定の比率にて配分されることにより前輪の舵角の補正量Δδft及び後輪の舵角の補正量Δδrtが演算されるよう修正されてもよい。
前輪側及び後輪側にアクティブスタビライザ装置を有し前輪の舵角の制御が可能な車両に適用された本発明による車輌の走行制御装置の実施例1を示す概略構成図である。
実施例1に於けるロール剛性の制御ルーチンを示すフローチャートである。
実施例1に於ける前輪の舵角の制御ルーチンを示すフローチャートである。
前輪側及び後輪側にアクティブスタビライザ装置を有し前輪及び後輪の舵角の制御が可能な車両に適用された本発明による車輌の走行制御装置の実施例2を示す概略構成図である。
実施例2に於ける前輪の舵角の制御ルーチンを示すフローチャートである。
車速Vと目標ステアリングギヤ比Rgtとの間の関係を示すグラフである。
前輪側のロール角αfとロールステアに起因する前輪の舵角の変化量Δδfとの間の関係を示すグラフ(A)及び後輪側のロール角αrとロールステアに起因する後輪の舵角の変化量Δδrとの間の関係を示すグラフ(B)である。
アクティブスタビライザ装置の作動に基づいて車両のロール角を演算する要領を示す説明図である。
前輪(実線)及び後輪(破線)について、バウンド量及びリバウンド量と車輪のトー変化量との間の関係を示すグラフである。
符号の説明
16、18 アクティブスタビライザ装置
20F、20R アクチュエータ
22 電子制御装置
34 転舵角可変装置
44 電子制御装置
48 横加速度センサ
50 車速センサ
52F、52R 回転角センサ
56 操舵角センサ
58 回転角度センサ