以下に添付の図を参照しつつ、幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明においては、車線維持支援制御を「LKA制御」と略称する。
[第一の実施形態]
図1は、本発明によるパワーステアリング制御装置10の第一の実施形態の概略を示す説明図である。パワーステアリング制御装置10は、電動式パワーステアリング装置12と、アシストトルク制御用電子制御装置14と、LKA制御用電子制御装置16と、を有している。
パワーステアリング装置12は、コラムアシスト型の電動式パワーステアリング装置として構成されている。なお、本発明におけるパワーステアリング装置は、アシストトルクを制御し得る限り、例えばラック同軸式のラックアシスト型の電動式パワーステアリング装置のように、他の型式のパワーステアリング装置であってもよい。
図1に於いて、パワーステアリング装置12はステアリングユニット18に適用されている。ステアリングユニット18は、運転者により操作されるステアリングホイール20と、ステアリングホイール20と共に回転するアッパステアリングシャフト22と、インタミディエットシャフト24と、操舵機構26とを含んでいる。インタミディエットシャフト24は、上端にてユニバーサルジョイント28を介してアッパステアリングシャフト22の下端に連結され、下端にてユニバーサルジョイント30を介して操舵機構26のピニオンシャフト32に連結されている。
操舵機構26は、ラック・アンド・ピニオン装置34と、タイロッド36L及び36Rとを含み、ラック・アンド・ピニオン装置34はピニオンシャフト32の回転をラックバー38の車両横方向の直線運動に変換し、またこの逆の変換を行う。タイロッド36L及び36Rは、内端にてラックバー38の先端に枢着されており、タイロッド36L及び36Rの外端は左右の前輪40L及び40Rのキャリア(図示せず)に設けられたナックルアーム42L及び42Rに枢着されている。
よって、ステアリングホイール20の回転変位及び回転トルクは、操舵機構26などにより、前輪40L及び40Rのキングピン軸(図示せず)の周りの揺動変位及び揺動トルクに変換されて前輪40L及び40Rへ伝達される。また、左右の前輪40L及び40Rが路面44から受けるキングピン軸の周りの揺動変位及び揺動トルクは、操舵機構26などにより、ステアリングホイール20へそれぞれ回転変位及び回転トルクとして伝達される。
パワーステアリング装置12は電動機48及び変換装置50を含んでいる。図1には示されていないが、変換装置50は電動機48の回転軸に固定されたウオームギヤ及びアッパステアリングシャフト22に固定されたウオームホイールを含んでいる。電動機48の回転トルクは、変換装置50によってアッパステアリングシャフト22の回転トルクに変換され、アシストトルクとしてアッパステアリングシャフト22へ伝達される。よって、パワーステアリング装置12は、アシストトルクをステアリングユニット18のアッパステアリングシャフト22に対し付与する。
アシストトルク制御用電子制御装置14には、アッパステアリングシャフト22に設けられた操舵角センサ52及びトルクセンサ54からそれぞれ操舵角θ及び操舵トルクTを示す信号が入力される。また、電子制御装置14には、車速センサ56から車速Vを示す信号も入力される。電子制御装置14は、図2乃至図4に示されたフローチャートに従って目標アシストトルクTatを演算し、電動機48の回転トルクを制御することにより、アシストトルクTaが目標アシストトルクTatになるよう制御する。
実施形態においては、アシストトルク制御用電子制御装置14は、後に詳細に説明するように運転者の操舵負担を軽減するための基本制御量及び操舵フィーリングを向上させるための補助制御量を演算する。実施形態における補助制御量は、摩擦制御量及び減衰制御量である。更に、電子制御装置14は、基本制御量及び補助制御量と、LKA制御用電子制御装置16により演算されるLKA制御トルクTlkaとの和として目標アシストトルクTatを演算する。
LKA制御用電子制御装置16には、CCDカメラ58により撮影された車両前方の画像情報を示すが入力され、選択スイッチ60からオンであるか否かを示す信号、即ちLKA制御の実行が選択されているか否かを示す信号が入力される。電子制御装置16は、車両前方の画像情報を解析することにより走行車線を特定し、走行車線のカーブ曲率、走行車線の中心線に対する車両の横方向オフセット及びヨー角(走行車線の中心線に対し車両の前後方向の中心軸がなす角度)を演算する。
更に、電子制御装置16は、カーブ曲率、車両の横方向オフセット及びヨー角に基づいて車両を走行車線に沿って走行させるための車両の目標横加速度を演算し、車両の横加速度を目標横加速度にするための前輪40L及び40Rの目標舵角δftを演算する。更に、電子制御装置16は、前輪40L及び40Rの舵角が目標舵角δftになるよう前輪を転舵するためのアシストトルク成分としてLKA制御トルクTlkaを演算する。なお、LKA制御トルクTlkaは、車両を走行車線から逸脱しないよう走行車線に沿って走行させるためのトルクとして演算される限り、任意の要領にて演算されてよい。上記、LKA制御トルクTlkaの演算については、必要ならば例えば本願出願人の出願にかかる特開2007−30612号公報を参照されたい。
なお、電子制御装置14及び16は、それぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含み、ROMは後述の制御プログラム、マップなどを記憶していてよい。電子制御装置14及び16は、必要に応じて相互に必要な信号の授受を行う。また、操舵角センサ52及びトルクセンサ54は、それぞれ車両の左旋回方向への操舵の場合を正として操舵角θ及び操舵トルクTを検出する。このことは、後述の目標基本アシストトルクTa、目標操舵角θtなどの演算値についても同様である。
次に、図2に示されたフローチャートを参照して、アシストトルク制御用電子制御装置14により実行されるアシストトルク制御のメインルーチンについて説明する。図2に示されたフローチャートによる制御は、図には示されていないイグニッションスイッチがオンであるときに、所定の時間毎に繰返し実行される。なお、下記の説明においては、図2乃至図4に示されたフローチャートによるアシストトルク制御を単に「制御」と指称する。
まず、ステップ10においては、操舵角センサ52により検出された操舵角θを示す信号及び車速センサ56により検出された車速Vを示す信号などが読み込まれる。ステップ10においては、LKA制御用電子制御装置16から、選択スイッチ60がオンであるか否かを示す信号、前輪40L及び40Rの目標舵角δftを示す信号及びLKA制御トルクTlkaを示す信号が読み込まれる
ステップ20においては、選択スイッチ60がオンであるか否かの判定により、LKA制御が実行されているか否かの判別が行われる。否定判別が行われたときには、ステップ30においてLKA制御に基づくゲインKlkaが1に設定され、肯定定判別が行われたときには、ステップ40においてLKA制御に基づくゲインKlkaがKlkah(1よりも大きい正の定数)に設定される。
ステップ50においては、操舵トルクT及び車速Vに基づいて、図5に示されたマップから、操舵トルクTの大きさが大きいほど大きくなると共に、車速Vが高いほど小さくなるよう、目標基本アシストトルクTabが演算される。
ステップ60においては、例えば操舵角θの時間微分値として操舵角速度θdが演算され、操舵角速度θd及び車速Vに基づいて、図6に示されたマップから、アシストトルクの成分のうちの減衰制御量である目標減衰トルクTdtが演算される。目標減衰トルクTdtは、車速Vが高いほど大きくなると共に、操舵角速度θdの大きさが基準値θd0(正の値)未満のときには操舵角速度θdの大きさが大きいほど大きくなり、操舵角速度θdの大きさが基準値θd0以上のときには一定の値になるよう、演算される。
ステップ70においては、目標減衰トルクTdtにLKA制御に基づくゲインKlkaが乗算されることにより、目標減衰トルクTdtが補正される。よって、操舵角速度θd及び車速Vが同一であっても、LKA制御が実行されているときの目標減衰トルクTdtの大きさは、LKA制御が実行されていないときに比して大きくなる。
ステップ70が完了すると、制御はステップ100へ進み、ステップ100においては、図3及び図4に示されたフローチャートに従って、アシストトルクの成分である摩擦制御量として目標摩擦トルクTftが演算される。
ステップ100が完了すると、制御はステップ200へ進み、ステップ200においては、車速Vに基づいて、図7に示されたマップから、摩擦トルクの最大値Tfmaxが演算される。摩擦トルクの最大値Tfmaxは、車速Vが基準値V0(正の値)未満のときには車速Vが高いほど大きくなり、車速Vが基準値V0以上のときには一定の値になるよう、演算される。
ステップ210においては、図8に示されているように、LKA制御トルクTlkaを補正するための補正トルクΔTlkaの演算に使用されるマップが、摩擦トルクの最大値Tfmaxに基づいて設定される。更に、LKA制御トルクTlkaに基づいて、設定されたマップから、補正トルクΔTlkaが演算される。補正トルクΔTlkaは、基本的にはLKA制御トルクTlkaの大きさが大きいほど大きくなるよう、演算される。しかし、補正トルクΔTlkaは、LKA制御トルクTlkaの大きさが第一の基準値Tlka1(正の値)未満であるときには、0に演算され、LKA制御トルクTlkaの大きさが第二の基準値Tlka2(第一の基準値よりも大きい正の値)以上であるときには、大きさが最大値Tfmaxである一定の値に演算される。
ステップ220においては、LKA制御トルクTlkaに補正トルクΔTlkaとLKA制御に基づくゲインKlkaとの積ΔTlka・Klkaが加算されることにより、LKA制御トルクTlkaが補正される。LKA制御が実行されているときには、ゲインKlkaは1よりも大きいKlkahになるので、補正後のLKA制御トルクTlkaの大きさは、LKA制御が実行されていないときに比して大きくなる。
ステップ230においては、目標アシストトルクTatが、目標基本アシストトルクTab、補正後の目標減衰トルクTdt、目標摩擦トルクTft及び補正後のLKA制御トルクTlkaの和Tab+Tdt+Tft+Tlkaとして演算される。
ステップ240においては、パワーステアリング装置12のアシストトルクTaが目標アシストトルクTatになるよう、目標アシストトルクTatに基づいてパワーステアリング装置12が制御される。
次に、図3に示されたフローチャートを参照して、上記ステップ100に於ける目標摩擦トルクTftの演算について更に説明する。
まず、ステップ110においては、操舵角θの絶対値及び車速Vに基づいて、図9に示されたマップから、目標基本摩擦トルクTfbtが演算される。図9に示されているように、目標摩擦トルクTftは、操舵角θの絶対値が大きいほど大きくなると共に、車速Vが高いほど大きくなるよう演算される。
図には示されていないが、車速Vが中高車速域にあるときには、操舵角θの絶対値が大きいほどセルフアライニングトルクTsatが大きくなる。よって、操舵角θの大きさが大きい領域における保舵力を低減し操舵の安定性を向上させるために、目標摩擦トルクTftは操舵角θの大きさが大きいほど大きい値に演算される。また、セルフアライニングトルクTsatは車速Vが高いほど大きくなる。よって、車速Vが高いほど中高速走行時に必要な保舵力を低減し操舵の安定性を向上させると共に、低速走行時における操舵抵抗を低減するために、目標摩擦トルクTftは車速Vが高いほど大きい値に演算される。
ステップ120においては、図4に示されたフローチャートに従って、摩擦トルクを制御するための目標操舵角θtが演算される。
ステップ130においては、操舵角θ及び目標操舵角θtに基づいて、下記の式(1)に従って目標付加摩擦トルクTctが演算される。なお、下記の式(1)におけるゲインKは、正の値であり、ステップ120の目標操舵角θtの演算において使用されるゲインKと同一である(後述のステップ123の説明参照)。下記の式(1)から解るように、目標付加摩擦トルクTctの符号、即ちその作用方向は、操舵角θ及び目標操舵角θtの大小関係によって決定される。
Tct=K(θt−θ) …(1)
ステップ140においては、操舵トルクTの絶対値に基づいて、図10に示されたマップから、トルクゲインKtが演算される。トルクゲインKtは、操舵トルクTの絶対値が基準値T0(正の値)未満のときには、操舵トルクTの絶対値が大きいほど0以上で1未満の範囲にて大きくなり、操舵トルクTの絶対値が基準値T0以上のときには、1になるよう、演算される。
ステップ150においては、目標付加摩擦トルクTctにLKA制御に基づくゲインKlka及びトルクゲインKtが乗算されることにより、目標付加摩擦トルクTctが補正される。よって、操舵角θ及び車速Vが同一であっても、LKA制御が実行されているときの目標付加摩擦トルクTctの大きさは、LKA制御が実行されていないときに比して大きくなる。
ステップ160においては、補正後の目標付加摩擦トルクTctがローパスフィルタ処理されることにより、高周波のノイズ成分が除去されたローパスフィルタ処理後の目標付加摩擦トルクTctf(目標摩擦トルクTft)が演算される。ステップ160が完了すると、制御は図2に示されたステップ200へ進む。
なお、以上のステップ110〜130及び160による目標摩擦トルクTftの演算について、必要ならば本願出願人の出願にかかる特開2009−126244号公報を参照されたい。
次に、図4に示されたフローチャートを参照して、上記ステップ120における目標操舵角θtの演算について更に説明する。
まず、ステップ121においては、目標操舵角θtの初期化が完了しているか否かの判別、即ち、今回が制御の初回であるか否かの判別が行われる。肯定判別が行われたときには、制御はステップ123へ進み、否定判別が行われたときには、制御はステップ122へ進む。
ステップ122においては、目標操舵角θtが現在の操舵角θに設定されることにより、目標操舵角θtの初期化が行われる。なお、目標操舵角θtの初期値は0であってもよい。
ステップ123においては、前回のステップ160において演算された目標摩擦トルクTftとゲインKとの積Tft・Kとして、偏差上限値Δが演算される。なお、目標摩擦トルクTft及びゲインKは正の値であるので、偏差上限値Δも正の値である。ゲインKは、操舵系の剛性などを考慮して決定される任意の固定値であってよい。ただし、ゲインKが、操舵系の最も剛性が低い部位(一般的には、アッパステアリングシャフト22に組み込まれるトーションバーの部分)の捩じり剛性よりも低い値である場合には、ステアリングホイール20を回転させても操舵輪の舵角を目標操舵角θtに対応する舵角にすることができない。よって、ゲインKは、操舵系の最も剛性が低い部位の捩じり剛性よりも高い値であることが好ましい。
ステップ124においては、操舵角θが目標操舵角θtと偏差上限値Δとの和θt+Δよりも大きいか否かの判別、即ち、目標操舵角θtの低減修正が必要であるか否かの判別が行われる。否定判別が行われたときには、制御はステップ126へ進み、肯定判別が行われたときには、ステップ125において目標操舵角θtが操舵角θから偏差上限値Δが減算された値θ−Δに修正される。
ステップ126おいては、操舵角θが目標操舵角θtと偏差上限値Δとの差θt−Δよりも小さいか否かの判別、即ち、目標操舵角θtの増大修正が必要であるか否かの判別が行われる。否定判別が行われたときには、制御はステップ130へ進み、肯定判別が行われたときには、制御はステップ127において目標操舵角θtが操舵角θに偏差上限値Δが加算された値θ+Δに修正される。
なお、以上の目標操舵角θtの演算についても、必要ならば上記特開2009−126244号公報を参照されたい。
以上の説明から解るように、ステップ20〜40において、LKA制御が実行されているときには、LKA制御が実行されていないときに比して、ゲインKlkaが大きい値に設定される。そして、ゲインKlkaの変更により、LKA制御が実行されているときには、LKA制御が実行されていないときに比して、目標減衰トルクTd、目標摩擦トルクTft及びLKA制御トルクTlkaの大きさが大きくされる。
LKA制御の実行中には、ステップ60〜100において、目標減衰トルクTd及び目標摩擦トルクTftの大きさが増大される。よって、操舵輪が路面から外乱を受けても、増大された摩擦トルクにより、外乱に起因するステアリングホイールの不必要な回転が生じ難くすることができると共に、増大された減衰トルクにより、ステアリングホイールの振動を効果的に減衰させることができる。
また、LKA制御の実行中には、ステップ200〜220において、摩擦トルクの増大に対応してLKA制御トルクTlkaが非LKA制御の実行中の値に比して大きい値に増大されることにより、LKA制御により前輪40L及び40Rを転舵させるトルクが増大される。よって、摩擦トルクが増大されても、前輪の舵角が追従性よくLKA制御の目標舵角になるよう前輪を転舵することができ、これによりLKA制御の良好な性能を確保することができる。
[第二の実施形態]
図11は、本発明によるパワーステアリング制御装置の第二の実施形態における目標摩擦トルクTft演算ルーチンを示すフローチャートである。図11に示されたフローチャートによる制御は、図2に示されたフローチャートのステップ100において、図3に示されたフローチャートによる制御に代えて実行される。
図11と図3との比較から解るように、第二の実施形態においては、ステップ110〜160は、第一の実施形態と同様に実行され、ステップ160においてローパスフィルタ処理後の目標付加摩擦トルクTctfの演算が完了すると、制御はステップ170へ進む。なお、第二の実施形態においては、図2に示されたフローチャートのステップ100以外のステップは、第一の実施形態と同様に実行される。
ステップ170においては、LKA制御用電子制御装置16により演算されステップ10において読み込まれた前輪40L及び40Rの目標舵角δftに対応するLKA制御の目標操舵角θlkaが、目標舵角δft及びステアリングギヤ比に基づいて演算される。
ステップ180においては、操舵角偏差ΔθがLKA制御の目標操舵角θlkaと実際の操舵角θとの偏差として演算される。更に、操舵角偏差Δθの絶対値に基づいて、図14に示されたマップから、操舵角偏差Δθに基づくゲインKsが演算される。ゲインKsは、操舵角偏差Δθの絶対値が第一の基準値Δθ1(正の値)未満のときには、1よりも大きい値に演算され、操舵角偏差Δθの絶対値が第二の基準値Δθ2(第一の基準値よりも大きい正の値)以上のときには、1よりも小さい値に演算される。更に、ゲインKsは、操舵トルクTの絶対値が第一の基準値Δθ1以上で第二の基準値Δθ2未満のときには、操舵トルクTの絶対値が大きいほど小さくなるよう演算される。
ステップ190においては、目標摩擦トルクTftが、ローパスフィルタ処理後の目標付加摩擦トルクTctfと操舵角偏差Δθに基づくゲインKsとの積Tctf・Ksとして演算される。ステップ190が完了すると、制御はステップ200へ進む。
以上の説明より解るように、第二の実施形態においては、第一の実施形態において実行されるステップ110〜160に加えて、ステップ170〜190が実行される。よって、第二の実施形態によれば、第一の実施形態の作用効果と同様の作用効果に加えて、ステップ170〜190による作用効果を得ることができる。
特に、運転者が、LKA制御により特定される車線に沿う方向とは異なる方向へ車両が走行することを希望する場合には、LKA制御の目標操舵角θlkaと運転者の操舵操作による操舵角θとの差が大きくなる。よって、ステップ180において演算される操舵角偏差Δθの絶対値、即ちLKA制御の目標操舵角θlkaと運転者の操舵操作による操舵角θとの差の絶対値は、運転者の進路変更の意思の強さの指標と考えられる。
操舵角偏差Δθに基づくゲインKsは、操舵角偏差Δθの絶対値が小さいときには、1よりも大きい値に演算され、操舵角偏差Δθの絶対値が大きいときには、1よりも小さい値に演算される。よって、運転者の進路変更の意思が強くないときには、ゲインKsを大きくして目標摩擦トルクTftを大きくすることにより、外乱に起因してステアリングホイール20が不必要に回転することを効果的に抑制することができる。逆に、運転者の進路変更の意思が強いときには、ゲインKsを小さくして目標摩擦トルクTftを小さくすることにより、運転者が感じる操舵の抗力を低減して車両の進路変更し易くすることができる。
[第三の実施形態]
図12は、本発明によるパワーステアリング制御装置の第三の実施形態におけるアシストトルク制御ルーチンの前半を示すフローチャートである。
第三の実施形態においては、ステップ30又は40が完了すると、制御はステップ42へ進む。ステップ42及び44は、それぞれ第二の実施形態のステップ170及び180と同様に実行される。
ステップ46においては、操舵トルクTに「2−Ks」及び最適化のゲインK1が乗算されることにより、操舵トルクTが補正される。ステップ46が完了すると、制御はステップ50へ進む。なお、「2−Ks」は、Ksが1よりも大きいときには、1よりも小さくなり、逆にKsが1よりも小さいときには、1よりも大きくなる。よって、図14において実線にて示されたマップを、1を基準に上下反転させた破線のマップから演算されるゲインと等価である。
ステップ50においては、補正後の操舵トルクT及び車速Vに基づいて、図5に示されたマップから目標基本アシストトルクTabが演算される。なお、第三の実施形態において、図2に示されたステップ60以降のステップが、ステップ100を除き、第一の実施形態と同様に実行される。
図13は、第三の実施形態における目標摩擦トルクTft演算ルーチンを示すフローチャートである。図13に示されたフローチャートによる制御は、図2に示されたフローチャートのステップ100において、図3に示されたフローチャートによる制御に代えて実行される。
図13と図3との比較から解るように、第三の実施形態においては、ステップ110〜160は、第一の実施形態と同様に実行され、ステップ160においてローパスフィルタ処理後の目標付加摩擦トルクTctfの演算が完了すると、制御はステップ165へ進む。
ステップ165においては、第一の目標摩擦トルクTft1が、ローパスフィルタ処理後の目標付加摩擦トルクTctf、操舵角偏差Δθに基づくゲインKs及び最適化のゲインK2の積Tctf・Ks・K2として演算される。
ステップ175においては、操舵トルクTの絶対値に基づいて、図15に示されたマップから、操舵トルクTに基づく補正ゲインKftが演算される。補正ゲインKftは、操舵トルクTの絶対値が基準値Tf0(正の値)未満のときには、操舵トルクTの絶対値が大きいほど大きくなり、操舵トルクTの絶対値が基準値Tf0以上のときには、一定の値になるよう、演算される。
ステップ185においては、第二の目標摩擦トルクTft2が、ローパスフィルタ処理後の目標付加摩擦トルクTctf、操舵トルクTに基づく補正ゲインKft、操舵角偏差Δθに基づくゲインKs及び最適化のゲインK3の積Tctf・Kft・Ks・K3として演算される。
なお、それぞれステップ46、165及び185の演算において使用される最適化のゲインK1〜K3は、それらが含まれる積が最適の値になるよう、予め設定された正の定数である。
以上の説明より解るように、第三の実施形態においては、第一の実施形態において実行されるステップ10〜240に加えて、ステップ42〜46が実行され、ステップ110〜160に加えて、ステップ165〜195が実行される。
LKA制御が実行されており、運転者の進路変更の意思が強くないときには、即ち操舵角偏差Δθの絶対値が小さいときには、図14に示されているように、ゲインKsは1よりも小さくなるが、ゲインKlkaが大きい値Klkah(ステップ40)になる。よって、ゲインK2の設定によっては、第一の目標摩擦トルクTft1の大きさが大きくなって、操舵の抗力が大きくなる。しかし、「2−Ks」が1よりも大きくなるので、ステップ42〜46の処理により目標基本アシストトルクTabの大きさが大きくなり、運転者が高い操舵反力を感じることを防止することができる。
第一の目標摩擦トルクTft1と目標基本アシストトルクTabとの組合せの場合には、操舵反力が小さくなり過ぎる可能性がある。しかし、ステップ175及び185において、操舵トルクTの絶対値が大きいほど大きさが大きくなるよう第二の目標摩擦トルクTft2が演算される。よって、第二の目標摩擦トルクTft2により、操舵トルクTに応じた抗力を発生させて、適度な操舵感を確保することができる。
従って、第三の実施形態においては、第一及び第二の実施形態の場合と同様の作用効果が得られることに加えて、これらの実施形態の場合よりも運転者の進路変更の意思の強さ及び操舵状況に応じて操舵の抗力を一層好ましく制御することができる。
なお、上述の第一乃至第三の実施形態によれば、LKA制御の実行中には目標摩擦トルクTftの大きさが増大されることに対応してLKA制御の目標操舵角θlkaの大きさを大きくすることができる(ステップ70〜220)。
操舵トルクTの大きさが大きく、目標基本アシストトルクTabの大きさが大きいときには、路面からの外乱が前輪に作用しても、その外乱の影響を目標基本アシストトルクTabによるトルクにより打ち消すことができる。しかし、LKA制御の実行中には、操舵トルクTの大きさは大きくならず、目標基本アシストトルクTabの大きさも大きくならないため、LKA制御の非実行中に比して、ステアリングホイール20は路面からの外乱に起因して不必要に回転され易い。
これに対し、各実施形態によれば、LKA制御の実行中には上述のように目標摩擦トルクTftの大きさが増大されることにより、操舵の抗力が増大され、ヒステリシスが増大される。よって、操舵トルクTの大きさが大きくならないLKA制御の実行中に路面からの外乱が前輪に作用しても、ステアリングホイール20が外乱に起因して不必要に回転される虞れを低減することができる。
図16は、従来の一般的なパワーステアリング制御装置の場合(二点鎖線)及び第一の実施形態の場合(実線)について、LKA制御トルクTlkaとこれに基づいて制御される前輪の舵角δfとの関係を示すグラフである。なお、図16において、一点鎖線はヒステリシスがない場合の関係を示している。
LKA制御が実行されても目標摩擦トルクTftが変更されず、ヒステリシスが変更されない従来の一般的なパワーステアリング制御装置の場合には、例えばLKA制御トルクTlka1に対応するLKA制御の前輪の舵角δftは、ヒステリシスがない場合の目標舵角δft0に比較的近い値δft1に制御される。しかし、LKA制御の実行中におけるステアリングホイール20の不必要な回転を抑制すべく、目標摩擦トルクTftの大きさが増大されヒステリシスが増大されると、LKA制御の前輪の目標舵角δftは、ヒステリシスがない場合の目標舵角δft0よりも大きさが小さい値δft2に制御されてしまう。
これに対し、各実施形態によれば、LKA制御の実行中には目標摩擦トルクTftの大きさが増大されるだけでなく、目標摩擦トルクTftの大きさが増大されることに対応してLKA制御トルクTlkaの大きさも増大される(ステップ200〜220)。よって、大きさが増大されたLKA制御トルクTlkaをTlka3とすると、Tlka3に対応するLKA制御の前輪の目標舵角δftは、δft2よりも本来の目標舵角δft0に近い値δft3に制御される。よって、前輪の舵角を追従性よくLKA制御の前輪の目標舵角δftに制御することができる。
なお、上述の特許文献1に記載されたパワーステアリング制御装置の場合には、LKA制御が実行されると、目標摩擦トルクが低減されることによりヒステリシスが低減される。よって、LKA制御トルクTlkaに対応するLKA制御の前輪の目標舵角δftは、従来の一般的なパワーステアリング制御装置の場合に比して、本来の目標舵角δft0に近い値に制御される。しかし、上述のように、LKA制御の実行中に、路面からの外乱に起因してステアリングホイールが不必要に回転され易くなることが避けられないので、LKA制御が実行されたときの目標摩擦トルクの低減量を大きくすることができない。従って、LKA制御の前輪の目標舵角δftを本来の目標舵角δft0に十分に近づけることができない。
また、各実施形態によれば、ステップ200においw、摩擦トルクの最大値Tfmaxが演算され、ステップ210において、LKA制御トルクTlkaを補正するための補正トルクΔTlkaの演算に使用されるマップが、摩擦トルクの最大値Tfmaxに基づいて設定される。更に、LKA制御トルクTlkaに基づいて、設定されたマップから、補正トルクΔTlkaが演算される。よって、LKA制御トルクTlkaの大きさが増大される際の増大の最大値を、摩擦トルクの最大値Tfmaxに応じて可変制御することができる。
以上においては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば、上述の各実施形態においては、目標アシストトルクTatは、目標基本アシストトルクTab、摩擦制御量としての目標摩擦トルクTft、及び操舵トルクの振動変化を減衰させるための減衰制御量としての目標減衰トルクTdtの和として演算される。しかし、目標アシストトルクTatは、摩擦制御量を含んでいる限り、更にステアリングホイール20を中立位置へ戻すための戻し制御量を含む値として演算されてもよく、逆に目標減衰トルクTdtが省略されてもよい。
また、上述の各実施形態においては、LKA制御の実行中には、目標摩擦トルクTftの大きさに加えて、ステップ70において目標減衰トルクTdの大きさも増大される。しかし、目標減衰トルクTdの大きさの増大は省略されてもよい。
また、上述の各実施形態においては、ステップ150においてLKA制御の実行中には目標摩擦トルクTftの大きさが増大される。しかし、LKA制御の実行中には目標摩擦トルクTftの大きさが増大されることなく、LKA制御トルクTlkaの大きさが増大されるよう修正されてもよい。
図17は、LKA制御が開始する際及び終了する際のゲインの変化を、各実施形態の場合(中段)及び修正例の場合(下段)について示す説明図である。なお、図17において、実線及び破線は、それぞれLKA制御中になるとゲインが増大する場合及び減少する場合を示している。
上述の各実施形態においては、図17の中段に示されているように、LKA制御が実行中か否かによって、LKA制御に基づくゲインKlkaなどのゲインが急激に変化し、これに伴って目標摩擦トルクTftなどの制御量の大きさも急激に変化する。よって、図17の下段に示されているように、LKA制御が開始されたとき及び終了したときに、ゲインKlkaなどのゲインが徐々に変化し、これにより目標摩擦トルクTftなどの制御量の大きさも徐々に変化するよう、各実施形態が修正されてよい。特に、LKA制御が終了行する際には、運転者による操舵が行われていないときにはゲインを変化させず、あるいはゲインの変化率を小さくし、これにより運転者が非操舵時にゲインが変化することに起因して違和感を覚える虞が低減されることが好ましい。