JP4629831B2 - ウィルスの不活化方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血漿タンパク質溶液から被覆(coated)および/または非被覆(noncoated)ウィルスを不活化および/または除去する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
周知のように、ヒトの血漿は、多くの近代治療のための原材料である。これらは、アルブミン、イムノグロブリン、そして血液凝固因子群を含有している。
血液凝固因子の必要性は、個々の凝固因子の先天性欠損の患者は、これらの因子の代用によってのみ生存可能であるという必要性に起因する。また、血液凝固因子の後天性の欠損も存在し、同様に代用の必要性がある。
【0003】
最初は血漿タンパク質の代用は患者にとって危険性がないとみなされたが、直ぐにこのタイプの製剤を用いた治療の結果として感染病が血漿のドナーから感染する可能性があり、多くの場合において疾患を誘起するウィルスによる汚染によって引き起こされるということが明らかになった。従って、課題は、この種のウィルスの不活化および/または除去によって、ウィルスの感染の危険性なしに患者に使用することができる、高度に精製された血漿製剤および血液凝固因子製剤を提供することである。これについて多くの方法が既に提案されている。
【0004】
すなわち、欧州特許第0124506号は、硫酸アンモニウムを添加することによって製剤を0.3モルより高い塩濃度にして加熱し、直ぐに塩を製剤から除去する、血漿酵素、凝固因子、イムノグロブリンまたは血液中に存在する他のタンパク質を含有する製剤中の増殖性病原体を不活化する方法を開示している。この方法において、硫酸アンモニウムは、30%までのタンパク質含量を有する製剤に4〜6モル濃度に達するまで添加される。次いで、加熱処理は100時間までの期間で、且つ40〜121℃の温度で実施される。この種の方法において、当然、用いられるおよび熱処理においてウィルスが不活化および/または除去されるばかりでなく、この場合においても製剤中に含まれる血漿タンパク質の生物学的活性をまた可能な限り高い範囲に保持されるということに注意が払われるべきである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、血漿タンパク質溶液からウィルスを不活化および/または除去する方法には、さらにこのタイプの血漿製剤によってウィルス感染の伝染を完全に排除するばかりでなく、さらに血漿タンパク質、特に凝固因子の生物学的活性が悪影響を受けないように、穏やかにする必要性が存在する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
これらの必要性は、血漿タンパク質溶液を、室温で且つ13〜22重量%のアンモニウム塩(=25〜39%硫酸アンモニウム飽和)におけるアルカリpHでインキュベーションし、沈殿による分離およびアンモニウム塩を0.5モル/L未満の残留含量まで低下させて除去した後に約60℃で数時間低温殺菌して、次いで治療上使用可能な血漿タンパク質製剤に加工する、血漿タンパク質から被覆および/または非被覆ウィルスを不活化および/または除去する方法による優れた態様において達成されることが見出された。
【0007】
本発明の意味において血漿タンパク質は、損なわれていない(intact)活性タンパク質そのものばかりでなく、それらの前駆体でもある。血漿タンパク質は、血漿または他の体液から得ることができる。
【0008】
本方法において、予めアフィニティクロマトグラフィーによって精製された血漿タンパク質溶液を使用するのが好ましく、方法は8〜11の範囲のpHにて実施される。ウィルスの減少は、除去によって行われる、例えばイヌのパルボウイルス(CPV)の場合には25±1℃の温度が特に好ましく、または例えばウシウィルス性下痢性ウィルス(BVDV)またはHIVの場合には除去と不活化の組み合わせによって行われる。
【0009】
本発明による方法において他の改良点は、13〜22重量%のアンモニウム塩濃度(=25〜39%硫酸アンモニウム飽和)でのインキュベーション、そして遠心分離または濾過による不純物の除去および沈殿の後に再度アンモニウム塩を添加して、24〜27重量%の濃度(=44.5〜50%硫酸アンモニウム飽和)まで上昇させることによって達成される。この2番目の沈殿において、血漿タンパク質を純粋な形態で沈殿させ、次いでアンモニウム塩を0.5モル/L未満の残留含量まで減少させるように除去した後に約60℃で数時間低温殺菌する。
沈殿は次いで加工して治療上使用可能な血漿タンパク質製剤とされる。
1番目および2番目のインキュベーションの両方に対して、2〜4時間を用いるべきである。使用するアンモニウム塩は、硫酸アンモニウムが好ましい。
【0010】
可能な限り高い血漿タンパク質の残留活性を得るために、安定剤の存在下に低温殺菌を実施することが提案される。好適な安定剤は、ショ糖(1000g/L)とグリシン(150g/L)の混合物であることが示される。血漿タンパク質の高い残留活性はまた、安定剤としてショ糖および酢酸カリウムの存在下において得ることができる。一般的に、本発明による方法は、血液から得られる血漿タンパク質を用いて実施され、95%までの残留活性(アンチトロンビンIIIに基く)を与える。しかしながら、単細胞生物、または特にトランスジェニック動物からも得られる、生物工学的に調製した、組換えまたはトランスジェニック血漿タンパク質にも同様に用いることができる。
【0011】
アルカリpHに維持することも、本発明による方法において特に重要である。
pHを他の方法で同じ条件に上昇させる場合、沈殿反応によって達成されるタンパク質の精製においてpHが上昇するにつれて、ウィルスの不活化の増加を観察することができる。増大したウィルスの減少は、被覆および非被覆ウィルスの両方について見出すことができ、アンモニウム塩とアルカリpHの効果の組み合わせの結果であると考えられる。
【0012】
従って、本発明による方法の特徴は、2つのウィルス減少法の工程、即ち水溶液中における低温殺菌(10時間、60℃)および硫酸アンモニウム沈殿を含むことである。両方のウィルス不活化工程は、ウィルスの減少において高い減少要因を有する。実に非被覆ウィルスにおいて両方の工程の効果は特に重要である。
【0013】
【実施例】
本発明による方法は、アンチトロンビンIII(AT III)により例示されるように以下に記載することができる:
ヒトアンチトロンビンIIIはドナーの血液から、遠心分離による寒冷沈降法の後、微粒子および血漿成分に分離して単離される。コーンの分画法において得られる8%エタノール上澄は、ヘパリンフラクトゲル[Fractogel]クロマトグラフィーカラムを用いて予備精製する。この方法において、AT IIIはカラム上で濃縮される。カラムに付着したヘパリンは、AT IIIおよび幾つかの他の血漿タンパク質の両方と結合する。緩く結合した血漿タンパク質の大部分は低いNaCl濃度を有する緩衝溶液を用いて洗い落とされるが、次にAT IIIは、2M NaCI,50mM NaH2PO4および7.5pHよりなる緩衝溶液を用いて溶出される。特異的アフィニティクロマトグラフィーによって既に達成される高純度のAT IIIは、分画硫酸アンモニウム沈殿によって混入するタンパク質を除去することによりさらに向上する。31.3%の硫酸アンモニウム飽和の濃度は、固体硫酸アンモニウムの添加による溶出において達成される。室温(25℃±1)における3時間のインキュベーションの間に沈殿が生成し、遠心分離または濾過によって分離し、そして廃棄される。過度に激しく攪拌することは、沈殿が微細になり、濾過を妨げることになるために、避けるべきである。pH9.0は、インキュベーションの間維持される。次いで硫酸アンモニウムの濃度は、透析によって0.5モル/L未満の残留含量まで低下させることによって減少させられ、ショ糖(1000g/L)およびグリシン(150g/L)が安定剤として添加される。次いで水性の安定化したAT III溶液は60℃で10時間低温殺菌される。
【0014】
高純度の最終生成物は、ゾーン電気泳動およびポリアクリルアミドゲル電気泳動によって確かめられる。
ウィルスの減少を検査するために、ウィルスを硫酸アンモニウム処理前に添加する(0.05容量部)。この場合において、ウィルスの減少について次の値が見出された。
【0015】
【表1】
Figure 0004629831
【0016】
2番目の硫酸アンモニウム沈殿は、固体硫酸アンモニウムの添加によって45.9%の硫酸アンモニウム飽和の最終濃度に調整されるが、1番目の硫酸アンモニウム沈殿のあとに続くのが好ましい。室温で3時間の沈殿時間の後、沈殿したAT IIIを分離する。従って、得られた沈殿は、溶解および透析によって0.8%(w/v) NaCIおよび0.8%(w/v) 硫酸アンモニウムの緩衝液に調整される。
【0017】
低温殺菌によるウィルス不活化の検査のために、感染性ウィルスを低温殺菌の直前の製品に添加し、次いで試料を60℃で加熱処理した。調査した全てのウィルス(CPVを除く)は6時間未満の加熱処理の後には完全に不活化されたことが観察された。
【0018】
Committee for Proprietary Medicinal Products(CPMP)により発行されている欧州連合のガイドラインでは、ヒト血漿タンパク質の調製法を通してのウィルス除去/不活化の段階的調査が必要とされている。これらのガイドラインに従って、少なくとも3種のウィルス、即ち関連リスクウィルスとしてHIV、およびさらに被覆ウィルスおよび非被覆ウィルスがこのタイプの調査に用いられるべきである。上記の表1は、全く異なるタイプのウィルスについて優れた減少率が、本発明による方法を用いて達成されたことを示している。
【0019】
ウィルスの安全性に対する調査のために、本発明により製造されたAT III製剤が臨床研究の対象となった。以前に輸血も血液製剤をも受けたことがなく、且つ肝臓病の病歴のない13人の健康な男性の被検者がこの研究に加えられた。7人の被検者は、B型肝炎に対して予防接種され、故に抗HBタイプの防御抗体を有する。他の6人の参加者は、B型肝炎血清マーカーに対して陰性の結果を有していた。従って、B型肝炎に対する安全性は、これら6人の被検者においてのみ監視することができたが、全ての13人の被検者はC型肝炎およびHIV感染に関しては評価可能であった。この調査において各参加者は、無作為基準において低温殺菌したAT III濃縮物の2つの異なるバッチを受容し、2つの異なる投与量で処理された、即ち8被検者は1000単位の固定投与量を受容したが、他の5被検者は体重kg当たり50単位を受容した。平均において、後者の群に対して投与されたAT IIIの量は、一人当たりおよそ3600単位であった。全ての被検者は、最初の6ヶ月間は2週間おきに、次いで毎4週間ごとにトランスアミナーゼについて検査された。非A型非B型肝炎の伝染は、2回の連続した検査において血漿トランスアミナーゼのレベルが正常閾値の2.5倍を超えた場合、そして全ての他の肝炎ウィルスが除去された場合に確認されたと見なされた。後に、各被検者の血漿試料を抗HCV抗体および抗HIV−2抗体について調査した。B型肝炎血漿マーカー(HBsSAg、抗−HBc、抗−HBs)および抗HIV1は、2ヶ月ごとに試験した。
【0020】
12ヶ月の観察期間の後、血漿トランスアミナーゼの増加は、13人の被検者の誰にも観察されず、抗−HIVまたは抗−HCVに対して陽性の被検者もいなかった。さらに、B型肝炎ワクチンで予防接種されなかった6人の被検者の誰にも陽性HIVマーカーは現れなかった。
【0021】
International Committee of Thrombosis and Hemostasis(ICTH)の推奨に従って実施したこの臨床研究に基づき、そして本発明による方法によって製造したAT III濃縮物で治療された患者の遡及的分析に基づき、本発明による方法によって製造したAT III濃縮物は、HBV、HCVまたはHIV汚染の危険性に冒されなかったと結論付けることができる。
【0022】
調査したAT III製剤を用いて得られた実験データは、結果の低温殺菌AT III製剤が均質性についてほぼ精製され、ウィルスが製造法の種々の段階において効率的に除去そして不活化されるために、この製品が安全性の利益を達成していることを示している。沈殿反応および低温殺菌の組み合わせによって、ウィルスの減少は、このように製造される血漿タンパク質製剤の非常に高い安全性基準を保証するこの場合において達成される。
【0023】
同時に、本発明による方法は、精製したタンパク質溶液から沈殿反応によってアンモニウム塩を0.5モル/L未満の残留含量まで除去するために特に穏やかであり、そして血漿タンパク質の非常に高い残留活性が引き続く低温殺菌において維持されることを保証することを重要視するべきである。
表2に述べられる血漿タンパク質の場合、本発明による方法はそこに述べられている高い残留活性を導く。
【0024】
【表2】
Figure 0004629831
【0025】
表2によると、アンチトロンビンIIIの沈殿条件は、C1不活化剤、トロンビンおよびプロトロンビン、第V因子、第VII因子並びに第X因子にも適用される。第IX因子については、至適沈殿濃度は22%(w/v)硫酸アンモニウム、即ち40.7%硫酸アンモニウム飽和である。
α1−アンチトリプシンについては、至適沈殿濃度はむしろ13%(w/v)硫酸アンモニウム、即ち24.1%硫酸アンモニウム飽和である。
【0026】
治療上使用可能な血漿タンパク質製剤の製造について、本発明の方法にて得られるタンパク質沈殿物は、タンパク質沈殿物に富む血漿画分の形態で乾燥物質として注射バイアル中に導入される。使用される賦形剤は、アミノ酢酸、塩化ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムである。注射用の10mlの水を含有するアンプルは、発熱物質を含まず、注射バイアルに添加される。

Claims (6)

  1. 血漿タンパク質溶液を室温にて、そして13〜22重量%の濃度の硫酸アンモニウムにてインキュベーションし、沈殿を分離し、そして硫酸アンモニウムを0.5モル/L未満の残留含量まで低下させて除去した後に、約60℃で10時間低温殺菌し、次いで治療上使用可能な血漿タンパク質製剤に加工することからなる、pH8〜11で硫酸アンモニウムを添加することにより血漿タンパク質溶液から被覆および/または非被覆ウィルスを不活化および/または除去する方法。
  2. 13〜22重量%の濃度の硫酸アンモニウムでインキュベーションした後に、硫酸アンモニウムの濃度を24〜27重量%まで上昇させ、混合物を再度インキュベートし、硫酸アンモニウムを0.5モル/L未満の残留含量まで低下させて除去した後にこの方法で得られたウィルスを含まない沈殿物を約60℃で10時間低温殺菌し、治療上使用可能な血漿タンパク質製剤に加工する、請求項1に記載の方法。
  3. 使用する血漿タンパク質溶液が、アフィニティクロマトグラフィーにて精製した血漿タンパク質溶液である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 第1および第2インキュベーションをいずれの場合についても2〜4時間実施する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 低温殺菌を、安定剤としてショ糖およびグリシンの存在下またはショ糖および酢酸カリウムの存在下で実施する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 天然または生物工学的に製造された血漿タンパク質を用いて実施する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
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