図1は本発明の第1実施形態に係る火花点火式エンジンの燃焼室構造を示す縦断面図である。また図2は、その主要部の拡大図である。さらに図3は、図1のIII−III線断面図である。
当実施形態の燃焼室14はペントルーフ型であり、図1ないし図3は、ピストン13が上死点にある状態を示している。燃焼室14は、シリンダブロック50のシリンダボア12と、ピストン頂面4と、燃焼室14に臨むシリンダヘッド10の下面である天井壁11とに囲まれた空間である。天井壁11は、吸気側天井壁11aと排気側天井壁11bとが屋根形をなすように形成されている。
吸気側天井壁11aには、これに開口する2箇所の吸気ポート21が設けられており、各吸気ポート21には所定の吸気タイミングで開く吸気バルブ19が設けられている。また排気側天井壁11bには、これに開口する2箇所の排気ポート22が設けられており、各排気ポート22には所定の排気タイミングで開く排気バルブ20が設けられている。吸気バルブ19および排気バルブ20の、燃焼室14に臨む面は、それぞれ吸気側天井壁11aおよび排気側天井壁11bの一部を形成している。
吸気ポート21および吸気バルブ19は、詳しくはスワール生成吸気系23(スワール生成手段)を構成している。スワール生成吸気系23は、吸気の筒内流動性を増大させる流動性増大手段としての公知の一形態であり、強いスワール(ピストン摺動軸まわりの旋回流。横渦。)を起こさせる吸気系である。2箇所の吸気ポート21のうち、一方の吸気ポート21(プライマリ側)には図5(c)に示すようなストレートポート21aと吸気バルブ19aが設けられ、他方の吸気ポート21(セカンダリ側)には図5(b)に示すハイフローポート21bと吸気バルブ19bが設けられている。ストレートポート21aは、ハイフローポート21bに対し、比較的浅い角度(ピストン摺動軸に対して、より垂直に近い角度)で燃焼室14に開口している。そして詳細な構造の説明は省略するが、ハイフローポート21bの吸気バルブ19bは、エンジンコントロールユニット(ECU)65の制御により、通常の開閉状態と閉じ切り乃至は小リフト量状態との切り換えがなされるように構成されている。
図3に示すように、燃焼室14内に先端が臨設された2本の点火プラグ、すなわち第1点火プラグ15および第2点火プラグ15aが設けられている。第1点火プラグ15は、シリンダボア12の径方向中央部に臨設されている。一方、第2点火プラグ15aは、シリンダボア12の周縁部かつペントルーフの稜線部11c(ペントルーフ型の吸気側天井壁11aと排気側天井壁11bとの合わせ部)のハイフローポート21bに近い側(図5(a)参照)に臨設されている。ペントルーフ型の燃焼室14は、構造上、稜線部11c付近における天井壁11とピストン頂面4との間隙が比較的広くなっている。従って、第2点火プラグ15aを比較的容易にレイアウトすることができる。なお第2点火プラグ15aの先端は、後述する第2燃焼空間14bに臨設されている。また第1点火プラグ15および第2点火プラグ15aは、ECU65によって点火の有無を含む点火時期の制御がなされる。
図2に示すように、天井壁11の周縁部である天井壁周縁部11dは、シリンダブロック50との合わせ面(詳しくは、シリンダヘッド10とシリンダブロック50との間に設けられた図略のヘッドガスケットとの合わせ面)よりもシリンダブロック50から離間する側にオフセットして形成されている。
燃焼室14は、ピストン13が上死点にある状態で、燃焼室14内空間の主要部が第1点火プラグ15周辺の第1燃焼空間14aと、シリンダボア12周縁部の第2燃焼空間14bとによって形成されている。そして第1燃焼空間14aと第2燃焼空間14bとは、ピストン頂面4と天井壁11との間隙が狭められた小間隙部5を介して連通されている。
ここで、ピストン13の形状、特に冠部の形状について説明する。図4はピストン13の斜視図である。以下の説明で、ピストン13の上下方向は図示状態での上下方向とする。つまり組立状態で天井壁11に近い方を上とする。
ピストン冠部13aには、ピストン13の外周と略同心円の環状をなして上方に突出する凸部6が設けられている。そして凸部6の内周側および外周側には、凸部6に対して相対的に没入した凹部が形成されている。すなわち凸部6の内周側には中央側凹部7、外周側には周縁側凹部8が形成されている。
凸部6の詳細形状は、所定の高さ及び幅をもって上方に突出する環状体の、吸気側および排気側を、それぞれ内周側上方から外周側下方に向けて平斜面で削ぎ落としたような形状となっている。その削ぎ落としの切り口に相当する各面が吸気側凸部頂面9aおよび排気側凸部頂面9bを形成している。
図4には、図2に示す断面位置での凸部6の断面をそれぞれ吸気側凸部断面6aおよび排気側凸部断面6bで示している。これらを比較しても明らかなように、凸部6は吸気側が排気側よりも大きく削ぎ落とされたような形状となっている。従って、ピストン冠部13aの中心から、図2の左右方向に同一距離離反した位置で比較すると、排気側凸部頂面9bの高さは吸気側凸部頂面9aの高さより高くなっている。
凸部6の上端面である凸部頂面9の、吸気側凸部頂面9a或いは排気側凸部頂面9b以外の部分は、略水平で平坦な凸部平坦頂面9cとなっている。凸部平坦頂面9cの平均半径はピストン13の平均半径の半分よりもやや大きくなっている。
中央側凹部7は、凸部6の内周側で、凸部6に対して相対的に没入した部分である。中央側凹部7は、中央の平坦部まで緩やかに湾曲した椀状の壁面を有している。
周縁側凹部8は、凸部6の外周側で、凸部6に対して相対的に没入した部分である。周縁側凹部8は略水平な円環形状となっている。
次に、図2を参照して再び燃焼室14の詳細構造について説明する。第1燃焼空間14aは、ピストン13の中央側凹部7と天井壁11との間に形成されている。また第2燃焼空間14bは、ピストン13の周縁側凹部8と天井壁11(詳しくは天井壁周縁部11d)との間に環状に形成されている。
上述のように、天井壁周縁部11dが、シリンダヘッド10とシリンダブロック50との合わせ面よりもシリンダブロック50から離間する側にオフセットして形成されているので、可及的に大きな第2燃焼空間14bの容積が確保されている。
そして第1燃焼空間14aと第2燃焼空間14bとを連通する小間隙部5は、ピストン13の凸部頂面9と天井壁11との間に環状に形成されている。上述のように、凸部平坦頂面9cの平均半径がピストン13の平均半径の半分よりもやや大きいので、小間隙部5は、シリンダボア12の径方向における、点火プラグ15からシリンダボア周縁との中間点よりもシリンダボア周縁寄りに形成されている。その最適位置は、エンジンの特性等によって異なるが、概ね点火プラグ15からシリンダボア周縁までの距離の60〜85%の範囲内にある。
小間隙部5は、詳細には小間隙部5a、最小間隙部5b、小間隙部5cおよび小間隙部5d(図3参照)からなる。
小間隙部5aは、ピストン13の吸気側凸部頂面9aと、これに対向する天井壁11との間の間隙である。最小間隙部5bは、ピストン13の排気側凸部頂面9bと、これに対向する天井壁11との間の間隙である。上述のように排気側凸部頂面9bが吸気側凸部頂面9aより高い位置にある(比較のため、図2の吸気側凸部頂面9a近傍に、排気側凸部頂面9bに対応する形状を二点差線で示す)ので、最小間隙部5bは小間隙部5aより狭い。また最小間隙部5bは他の小間隙部5cや小間隙部5dよりも狭く、小間隙部5のなかで最小の間隙となっている。
小間隙部5cは、ピストン13の凸部平坦頂面9cと、これに対向する天井壁11との間の間隙である。小間隙部5cは、天井壁11が低い箇所ほど狭く、天井壁11が高くなるほど、つまり稜線部11c(図3参照)に近づくほど広くなる。小間隙部5dは、その稜線部11cと凸部平坦頂面9cとの間隙であって、小間隙部5のうちで最も広い間隙となっている。
次に、当実施形態の火花点火式エンジンの動作について説明する。
まずエンジン回転速度が所定の低速運転領域(例えばエンジン回転速度Ne<4500rpm)にあるときについて説明する。この領域では、特に高負荷のときにノッキングが発生し易い。そこで当実施形態では、燃焼速度増大制御を実行するとともに後期重心型燃焼を行わせることによって耐ノッキング性能を効果的に向上させている。
当実施形態の燃焼速度増大制御は、多点同時点火とスワールの生成とによってなされる。従って、燃焼速度増大制御を実行するための燃焼速度制御手段60は、主として第2点火プラグ15a、スワール生成吸気系23、および第2点火プラグ15aの点火とハイフローポート21bの吸気バルブ19bの動作切り換えを制御するECU65によって構成される。
エンジンの動作を各行程順に説明すると、まず吸気行程において吸気バルブ19が開くとともに、ピストン13が降下する。それに伴って吸気ポート21から燃焼室14内に混合気が負圧吸引される。その際、ハイフローポート21bの吸気バルブ19bは、ECU65によって閉じ切り乃至は低リフト量状態となる側に切り換えられている。図5(a)は、燃焼室14内をピストン13側から見た平面図であるが、吸気バルブ19bが上記のように制御されることにより、吸気に強いスワール75(横渦。図では模式的に示している)が生成されている。スワール75は、図示の状態で右回り、すなわち第2点火プラグ15aの直下流に吸気ポート21が位置する方向に旋回する。そのスワールは、圧縮行程後期まで多くが保存される。この保存性の高さが、タンブル等の他の筒内流動に対する利点となっている。
続く圧縮行程では、ピストン13が上昇する。それに伴って、燃焼室14内の混合気が圧縮され、温度と圧力が上昇する。圧縮行程の終盤、つまりピストン13が図2に示す上死点付近まで上昇したとき、第1点火プラグ15および第2点火プラグ15aの各電極から略同時に火花が飛ばされる。その各火花によって各電極付近の混合気が着火し、火炎核が形成される。
続く膨張行程では、火炎核の火炎面が略球状に拡がりながら燃焼が進行する。図5(a)に、その様子を模式的に二点鎖線の火炎伝播等時線70aで示している。火炎伝播等時線70aは、その間隔が粗であるほど火炎伝播速度が大きいことを示す。図5(a)には、説明を簡潔にするためにスワール75の効果および後述する後期重心型燃焼の効果を考慮しない場合の火炎伝播等時線70aを示している。火炎伝播等時線70aから明らかなように、互いに離れた位置に設けられた第1点火プラグ15と第2点火プラグ15aの各電極付近から略同時に火炎伝播が開始するので、第1点火プラグ15のみを点火させた場合に比べて全体の燃焼期間が短縮される。つまり燃焼速度が増大する。
また火炎伝播速度は、筒内の混合気の流れに乗ることによっても増大する。当実施形態では、強いスワール75によって混合気の流動性が高められ、火炎伝播速度が増大することによって一層の燃焼速度増大が図られている。
また火炎伝播等時線70aを詳細に見ると、吸気側が排気側に比べて密になっている。これは排気側へ向かう火炎伝播速度よりも吸気側へ向かう火炎伝播速度の方が低速であることを示している。比較的低温の吸気側では、排気側に比べ、燃焼の反応速度が遅いためである。ここで、第2点火プラグ15aと吸気ポート21、およびスワール75の向きに着目すると、第2点火プラグ15aのスワール直下流に吸気ポート21が設けられているので、第2点火プラグ15aからの火炎がスワール75に乗って吸気側に速やかに伝播される。したがって、遅れがちな吸気側への火炎伝播が促進され、より効果的な燃焼速度の増大を図ることができる。
こうして燃焼速度を増大させることにより、耐ノッキング性能が向上する。ノッキングは、火炎面が到達する前に未到達部分の未燃燃料(エンドガス)が自着火を起こすことが主原因であるから、燃焼速度を高めてエンドガスが自着火を起こす前に燃焼室14全体に火炎面を到達させるようにすればノッキングが起こり難くなるのである。
なお膨張行程においては、燃焼速度増大制御と併行して後期重心型燃焼も行われるが、その詳細については後述する。
この膨張行程での燃焼によって急速に高められた筒内圧力によってピストン13が押し下げられる。ピストン13を押し下げる力が図外のコンロッド等を介して図外の出力軸(クランクシャフト)の回転駆動力となる。
続く排気行程では排気バルブ20が開くとともにピストン13が上昇に転じる。ピストン13の上昇によって既燃ガス(排ガス)が排気ポート22から押し出され、排出される。
以上の吸気、圧縮、膨張および排気からなる4行程を繰り返すことによってエンジンが連続運転される(4サイクルエンジン)。また多気筒エンジンの場合は、気筒ごとに上記の各行程をずらした設定とすることにより、より滑らかで振動や騒音の少ないエンジンとすることができる。
次に、後期重心型燃焼について説明する。後期重心型燃焼は、端的に表現すれば前期主燃焼期間での燃焼速度が比較的低く、後期主燃焼期間での燃焼速度が比較的高い燃焼形態である。当実施形態では、燃焼室構造を工夫することによって効果的かつ安定的に後期重心型燃焼を行わせている。
後期重心型燃焼について、燃焼室構造と関連付けながら説明する。火炎面は未燃ガスを押し出すようにして拡がって行くが、第1燃焼空間14aの外側には小間隙部5が設けられている。従って、火炎面に押し出された未燃ガスが小間隙部5を通過する際、一種の絞り作用を受ける。その影響を受けて火炎伝播が抑制される。このため第1燃焼空間14aにおける燃焼速度が比較的低く抑えられる。
そして火炎面が小間隙部5を経て第2燃焼空間14bに達すると、もはや小間隙部5による絞り作用の影響を受けないので、速やかに火炎伝播が進行する。つまり第2燃焼空間14bにおける燃焼速度が比較的高くなる。
こうして、主として第1燃焼空間14aでの前期主燃焼期間には比較的低速の燃焼が行われ、主として第2燃焼空間14bでの後期主燃焼期間には比較的高速の燃焼が行われるという、後期重心型燃焼が行われることになる。
ところで、上述したように、排気側への火炎伝播速度は吸気側への火炎伝播速度よりも高い。当実施形態では、最小間隙部5bによって、排気側へのガス流を他よりも強く絞っているので、高くなりがちな排気側への火炎伝播速度が比較的強く抑制される。こうすることにより、全体的にはより均等な火炎伝播速度を得ることができ、円滑な燃焼を図ることができる。また火炎面の第1燃焼空間14aから第2燃焼空間14bへの移行を、より均等に行わせることができる。
図6は、当実施形態の後期重心型燃焼における燃焼特性を示す特性図である。但しこの特性図は、第1点火プラグ15のみを点火させた場合のものである。横軸にクランク角(°CA)、縦軸に燃焼質量割合(%)を示す。燃焼質量割合とは、燃焼した燃料の質量全体を100%とし(無次元化)、当該クランク角時点までに燃焼した燃料の積算値を示したものである。
図示のように、燃焼質量割合が10%未満の領域を初期燃焼領域81といい、その期間を初期燃焼期間θ0という。また燃焼質量割合が10%以上90%未満の領域を主燃焼領域80という。主燃焼領域80は50%を境にして前期と後期に分けられ、燃焼質量割合が10%以上50%未満の領域を前期主燃焼領域80aといい、50%以上90%未満の領域を後期主燃焼領域80bという。そして前期主燃焼領域80aの期間を前期主燃焼期間θ1といい、後期主燃焼領域80bの期間を後期主燃焼期間θ2という。
図6には、当実施形態の燃焼特性T1を示すとともに、比較のために従来の一般的な燃焼特性T1’を併記している。なお図6は、エンジン回転速度が1500rpmで、高負荷運転状態での燃焼特性を示す。
当実施形態の燃焼特性T1では、初期燃焼期間θ0は点火時期〜約3°CA、前期主燃焼期間θ1は約3〜約13°CA、後期主燃焼期間θ2は約13〜約20°CAとなっている。一方、従来の燃焼特性T1’では、初期燃焼期間θ0’は点火時期〜約4°CA、前期主燃焼期間θ1’は約4〜約13°CA、後期主燃焼期間θ2’は約13〜約21°CAとなっている。
つまり当実施形態の燃焼特性T1は、従来の燃焼特性T1’に比べ、初期燃焼期間θ0が約1°CA短縮され、前期主燃焼期間θ1が約1°CA延ばされ、後期主燃焼期間θ2が約1°CA短縮されている。これは、主として第1燃焼空間14aで燃焼が行われる前期主燃焼期間θ1では燃焼速度が相対的に低く、主として第2燃焼空間14bで燃焼が行われる後期主燃焼期間θ2では燃焼速度が相対的に高くなっていることを示している。つまり後期重心型燃焼となっていることがわかる。
また初期燃焼期間θ0及び前期主燃焼期間θ1での燃焼は、ともに主として第1燃焼空間14aでの燃焼であるが、初期燃焼期間θ0はむしろ短縮されている。これは、小間隙部5(特に最小間隙部5b)が、第1点火プラグ15に近すぎない適所(詳しくは第1点火プラグ15からシリンダボア周縁までの距離の60〜85%の範囲内の適所)に設けられていることによって、小間隙部5による絞り作用の影響が初期燃焼期間θ0にまでは及んでいないことを示している。
図7は、図6に示す燃焼特性を別の視点から表した特性図である。横軸にクランク角(°CA)、縦軸に熱発生率(%)を示す。ここで熱発生率とは、図6の熱発生割合の微分値であり、燃焼による全体の熱発生量を100%とし(無次元化)、当該クランク角時点における熱発生量の割合を示したものである。
図7には、当実施形態の燃焼特性T2を示すとともに、比較のために従来の一般的な燃焼特性T2’を併記している。特性T2’と比較して、特性T2の顕著な特徴として、前期主燃焼期間θ1において傾きの緩やかな棚部T2aを有している点、および後期主燃焼期間θ2において最大熱発生率の極大値が大きくなっている点である。この二点が後期重心型燃焼を特徴付けるものとなっている。
棚部T2aについて説明すると、これは、初期燃焼期間θ0から前期主燃焼期間θ1に移行後、熱発生率の増大率が一時的に低下していることを示している。これは小間隙部5による絞り効果によって、前期主燃焼期間θ1での燃焼速度が比較的低くなったからであると考えられる。
その後、後期主燃焼期間θ2において最大熱発生率の極大値が大きくなっている点については、比較的多く残留した未燃燃料が、充分な容積が確保された第2燃焼空間14bで高速で燃焼したためであると考えられる。
上記説明したような後期重心型燃焼を行わせると、前期主燃焼期間では低速で燃焼させることによって筒内圧力や温度の上昇が抑制され、未燃燃料の過早着火が効果的に抑制されるので、高い耐ノッキング性能を得ることができる。そして後期主燃焼期間では未燃燃料を高速燃焼させて速やかに燃焼を完了させることにより、燃え残りを核とする自着火を抑制することができ、やはり耐ノッキング性能を高めることができる。こうして燃焼全体としての主燃焼期間を殆ど延ばすことなく、効果的にノッキングを抑制することができる。
なお、当実施形態では、このような後期重心型燃焼と上述の燃焼速度増大制御とを併用しているが、その場合でも後期重心型燃焼は安定的に行われる。それは、後期重心型燃焼が特有の燃焼室構造(ハード系)によってなされるものであって、燃焼速度増大制御(ソフト系)の実行有無の影響を受け難いからである。
図8は、当実施形態の耐ノッキング性能向上効果についての概念図である。横軸に主燃焼期間(θ1+θ2)、縦軸に前・後期比率K(=前期主燃焼期間θ1/後期主燃焼期間θ2)を示す。前・後期比率Kは、後期重心型燃焼の顕著さを示す指標であり、前・後期比率Kが大であるほど顕著な後期重心型燃焼であることを示している。
他の条件が同じであれば、主燃焼期間(θ1+θ2)が短い、つまり燃焼速度が高いほど耐ノッキング性能は高くなる。また前・後期比率Kが大、つまり後期重心型燃焼が顕著であるほど耐ノッキング性能は高くなる。従って、同程度の耐ノッキング性能を有する条件を結んだ等耐ノッキング性能線Hは、全体的に略右上がりの線となり、左上に向かうほど耐ノッキング性能が高くなることを示す。
ここで、従来の一般的な燃焼における耐ノッキング性能をベース特性Aとすると、燃焼室構造を当実施形態のように変更することで効果的な後期重心型燃焼が行われ、前・後期比率Kが高められる。従ってベース特性Aが特性Cに変化し、耐ノッキング性能が向上する。
一方、ベース特性Aに対し、燃焼速度増大制御のみを実施すると、主燃焼期間(θ1+θ2)が短縮され、特性Gに変化する。ここで、ベース特性Aが真左に変化せず、左下方に変化しているのは、単に主燃焼期間(θ1+θ2)を短縮しただけでは、多くの場合、自然に前・後期比率Kが小さい側へ、つまり後期重心型燃焼とは逆方向に燃焼形態が変化してしまうからである。このため、単に燃焼速度増大制御を実行するのみでは、耐ノッキング性能は一応高められるものの、その向上代は限定的なものとなる。このような燃焼形態の変化による効果の目減りは少なく無く、本願発明者の実験研究によれば、条件によっては燃焼速度増大制御による効果を殆ど相殺したり、却って耐ノッキング性能を悪化させたりすることもある程である。
ところが当実施形態の構成によれば、後期重心型燃焼を保ったまま主燃焼期間(θ1+θ2)を短縮させることができるので、ベース特性Aは特性Bに変化する。つまり耐ノッキング性能が向上するのであるが、その向上代は、後期重心型燃焼や燃焼速度増大制御を単独で行ったものより大であることはもちろん、それらを足し合わせたよりもさらに大きなものとなっている。これは、燃焼速度を増大させても後期重心型燃焼が保たれ、効果の目減りが殆どないからである。
次にエンジン回転速度が所定の高速運転領域(例えばエンジン回転速度Ne≧4500rpm)にあるときの動作について説明する。この運転領域では、特に高負荷時に、騒音の増大やデトネーションが問題になり易い。このようなときに燃焼速度を増大させると、これらの問題が更に発生し易くなる。そこで当実施形態では、高速運転領域での燃焼速度増大制御を停止し、その懸念を払拭している。
燃焼速度増大制御の実行停止に際し、第2点火プラグ15aの多点同時点火が停止され、吸気バルブ19bは通常のリフト量状態に切り換えられる。第2点火プラグ15aは、点火自体を停止させても良いし、燃焼に関与しない程度に充分遅らせて点火するようにしても良い。
エンジンの動作について、特に上記低速運転領域と異なる点を中心に説明する。
まず吸気行程では、吸気バルブ19a,19bともに通常のリフト量となるので、強いスワールは生成されない。そして圧縮行程終盤において、実質的に第1点火プラグ15のみが点火する。
図9は、膨張行程における燃焼室14内をピストン13側から見た平面図である。火炎伝播等時線70bに示すように、第2点火プラグ15aでの実質的な点火がなされないので、火炎は第1点火プラグ15の電極を中心に拡がっている。
こうすることにより、燃焼速度の増大が抑制されるので、騒音の増大やデトネーションの発生が効果的に抑制される。
なお、後期重心型燃焼は、燃焼室14の構造によってなされる燃焼形態なので、この運転領域でも行われる。従って、後期重心型燃焼による耐ノッキング性能向上効果は得ることができる(図8のベース特性Aから特性Cへの向上代)。
以上、低速運転領域および高速運転領域におけるエンジンの動作について説明したが、図10に低速ないし高速運転領域における筒内圧力上昇率dP/dθの特性を示す。横軸にエンジン回転速度Ne、縦軸に筒内圧力上昇率dP/dθを示す。筒内圧力上昇率dP/dθは、燃焼時のクランク角θ(°CA)の変化に対する筒内圧力P(bar)の上昇率であって、これが大きいほど騒音が増大し、またデトネーションが起こり易いことが知られている。
当実施形態の特性を実線の特性P1で示し、参考として全運転領域で燃焼速度増大制御を実行した場合の特性を破線の特性P2で示す。
特性P1、特性P2とも、エンジン回転速度Ne<4500rpmの領域ではエンジン回転速度Neが高いほど筒内圧力上昇率dP/dθが大きくなる。しかしこの程度(2bar/°CA以下)の筒内圧力上昇率では騒音やデトネーションが問題となることは殆どない。
エンジン回転速度Ne≧4500rpmの領域では、エンジン回転速度Neが高いほど筒内圧力上昇率dP/dθが大きくなる特性P2に対し、特性P1は頭打ちとなり、エンジン回転速度Neが高くなっても筒内圧力上昇率dP/dθは殆ど増大しない。これは、特性P1ではエンジン回転速度Ne≧4500rpmの領域で燃焼速度増大制御が停止され、燃焼速度の増大が抑制されるからである。
筒内圧力上昇率dP/dθが2bar/°CAを越えると、騒音やデトネーションに対する懸念が強まってくる。当実施形態では、燃焼速度増大制御を停止することにより、この領域の筒内圧力上昇率dP/dθの増大を抑制し、騒音の増大やデトネーションの発生を効果的に抑制している。
以上説明したように、当実施形態のエンジンは、燃焼速度の増大による耐ノッキング性能向上効果を効果的に引き出し、後期重心型燃焼による耐ノッキング性能向上効果も相俟って、格段の耐ノッキング性能向上効果を得ることができる。また換言すれば、耐ノッキング性能を悪化させることなく圧縮比を高め、燃費を向上させることができる。本願発明者は、本発明によって、耐ノッキング性能を悪化させることなく圧縮比を従来比で0.5以上高めることができることを確認している。
次に、本願発明に係る第2実施形態について説明する。第2実施形態においても、後期重心型燃焼を行う燃焼室形状とし、低速運転領域では燃焼速度増大制御を実行する一方、高速運転領域ではその燃焼速度増大制御を停止する。第2実施形態では、燃焼速度増大制御に含まれる流動性増大手段に、タンブル生成手段を用いている点が第1実施形態と異なる。また、それに伴って第2点火プラグ15aの配設位置やピストン形状も好適となるように変更している。
図11はピストン113が上死点にあるときの燃焼室114付近の縦断面図である。図12はピストン113の斜視図である。図13は燃焼室114内でのタンブル生成状態を示す斜視図である。図14は膨張行程における燃焼室114の内部をピストン113側から見た平面図であって、(a)は低速運転領域、(b)は高速運転領域の場合を示す。なお図11ないし図14において、第1実施形態と同一または同様の機能を有する構成要素には同一符号を付して示し、その重複説明を省略する。
まず燃焼室114の構造について説明する。図11及び図13に示すように、第2点火プラグ15aは、シリンダボア12の周縁部、かつ2個の吸気ポート121の間に臨設されている。なお図13および図14において、第1点火プラグ15および第2点火プラグ15aは、その臨設位置に×印を付して簡略的に示している。このような位置に第2点火プラグ15aを設けると、稜線部11cに設ける場合よりも熱的に有利となる。
吸気ポート121は、強いタンブルを生成させるタンブル生成吸気系120(タンブル生成手段)を構成している。タンブル生成吸気系120は、例えばストレートポートの採用など、各種の方式が提案されている周知の構造である。当実施形態ではその詳細構造の説明を省略するが、例えば特許文献5に示されるように吸気ポート121内に隔壁を設け、吸気ポート121内の混合気の流れを変化させることによって、図13に示すような強いタンブル30(縦渦)が生成する状態と、このようなタンブル30が殆ど生成しない状態とをECU65の制御によって切り換えられるような構成となっている。
次に、ピストン113の形状、特に冠部の形状について図12を参照して説明する。
ピストン冠部113aには、平面視で吸気側が切り欠かれた略円環状(以下C字状という)をなして上方に突出する凸部106が設けられている。凸部106のC字形の閉じた側(図12に示す状態で左上)は燃焼室114内での排気側に位置するように配設され、ピストン冠部113aの外周と略同心の円弧状となるように形成されている。その円弧半径はピストン113の平均半径の半分よりもやや大きい。また凸部106のC字形の開いた側(図12に示す状態で右下)は燃焼室114内での吸気側に位置するように配設される。そして凸部106C字形の内側および外側には、凸部106に対して相対的に没入した凹部が形成されている。すなわち凸部106のC字形内側には中央側凹部107、C字形外側には周縁側凹部108が形成されている。
凸部106の詳細形状は、所定の高さ及び幅をもって上方に突出するC字形凸状体の、吸気側および排気側を、それぞれ径方向内側上方から外側下方に向けて平斜面で削ぎ落としたような形状となっている。その削ぎ落としの切り口に相当する各面が吸気側凸部頂面109aおよび排気側凸部頂面109bを形成している。
凸部106の上面は、排気側に比べて吸気側の方がより大きく削ぎ落とされている。従って、ピストン冠部113aの中心から、図11の左右方向に同一距離離反した位置で比較すると、排気側凸部頂面109bの高さは吸気側凸部頂面109aの高さより高くなっている。
凸部106の上端面である凸部頂面109の、吸気側凸部頂面109a或いは排気側凸部頂面109b以外の部分は、略水平で平坦な凸部平坦頂面109cとなっている。
中央側凹部107は、凸部106のC字形内側で、凸部106に対して相対的に没入した部分である。中央側凹部7は、凸部106のC字形と同様に吸気側に開口したU字状外縁を有する平坦部である。従って、中央側凹部107の、吸気側以外の周囲には、凸部106の側面によって形成された壁面が立設されている。
周縁側凹部108は、凸部106のC字形外側で、凸部106に対して相対的に没入した部分である。周縁側凹部108は略水平で、ピストン冠部113aの外周と略同心の略円環形状となっている。
次に、図11を参照して再び燃焼室114の詳細構造について説明する。第1燃焼空間114aは、ピストン頂面104に形成された中央側凹部107と天井壁11との間に形成されている。従って第1燃焼空間114aは、第1点火プラグ15から第2点火プラグ15aにかけて一体的に連続する空間となっている。また第2燃焼空間114bは、凸部106の外側の領域であって、かつピストン13の周縁側凹部108と天井壁11(詳しくは天井壁周縁部11d)との間に略環状(平面視でC字状)に形成されている。
そして第1燃焼空間114aと第2燃焼空間114bとを連通する小間隙部105は、ピストン113の凸部頂面109と天井壁11との間に平面視でC字状(ピストン冠部113aに凸部106が形成されている箇所)に形成されている。
上述のように、凸部106のC字形の円弧部の半径がピストン113の平均半径の半分よりもやや大きいので、小間隙部105は、シリンダボア12の径方向における、第1点火プラグ15からシリンダボア周縁との中間点よりもシリンダボア周縁寄りに形成されている。その最適位置は、エンジンの特性等によって異なるが、概ね第1点火プラグ15からシリンダボア周縁までの距離の60〜85%の範囲内にある。
小間隙部105は、詳細には小間隙部105a、最小間隙部105bおよび小間隙部105cからなる。小間隙部105aは、ピストン113の吸気側凸部頂面109aと、これに対向する天井壁11との間の間隙である。最小間隙部105bは、ピストン113の排気側凸部頂面109bと、これに対向する天井壁11との間の間隙である。上述のように排気側凸部頂面109bが吸気側凸部頂面109aより高い位置にあるので、最小間隙部105bは小間隙部105aより狭い。また最小間隙部105bは他の小間隙部105cや小間隙部105dよりも狭く、小間隙部105のなかで最小の間隙となっている。
小間隙部105cは、ピストン113の凸部平坦頂面109cと、これに対向する天井壁11との間の間隙である。小間隙部105cは、天井壁11が低い箇所ほど狭く、天井壁11が高くなるほど、つまり稜線部に近づくほど広くなる。
次に、当実施形態の火花点火式エンジンの動作について、特に第1実施形態との相違点を中心に説明する。
エンジン回転速度が所定の低速運転領域にあるとき、多点同時点火とタンブルの生成とによって燃焼速度増大制御が実行される。従って、燃焼速度増大制御を実行するための燃焼速度制御手段60は、主として第2点火プラグ15a、タンブル生成吸気系120、および第2点火プラグ15aの点火とタンブル生成吸気系120の切り換えを制御するECU65によって構成される。
エンジンの動作を各行程順に説明すると、まず吸気行程において吸気バルブ119が開くとともに、ピストン113が降下する。それに伴って吸気ポート121から燃焼室114内に混合気が負圧吸引される。その際、タンブル生成吸気系120は、強いタンブルが生成されるように切り換えられている。従って、筒内には図13に示すように強いタンブル30が生成される。このタンブルは、燃焼室114の天井壁11付近では、図14に示すような吸気側から排気側へ向かう流れとなる。
なおタンブル生成吸気系120は、第1実施形態のスワール生成吸気系23に対し、比較的吸気抵抗を小さくすることができるという利点がある。
続く圧縮行程では、ピストン113が上昇する。それに伴って、燃焼室114内の混合気が圧縮され、温度と圧力が上昇する。圧縮行程の終盤、つまりピストン113が図11に示す上死点付近まで上昇したとき、第1点火プラグ15および第2点火プラグ15aの各電極から略同時に火花が飛ばされる。その各火花によって各電極付近の混合気が着火し、火炎核が形成される。
続く膨張行程では、火炎核の火炎面が略球状に拡がりながら燃焼が進行する。図14(a)に、その様子を第1実施形態と同様に火炎伝播等時線71aで示す。火炎伝播等時線71aから明らかなように、互いに離れた位置に設けられた第1点火プラグ15と第2点火プラグ15aの各電極付近から略同時に火炎伝播が開始するので、第1点火プラグ15のみを点火させた場合に比べて全体の燃焼期間が短縮される。つまり燃焼速度が増大する。
また強いタンブル30によって混合気の流動性が高められ、火炎伝播速度が増大することによって一層の燃焼速度増大が図られている。
ここで、第2点火プラグ15aと天井壁11付近のタンブル30の向きに着目すると、火炎伝播速度の比較的遅い吸気側に第2点火プラグ15aが設けられているので、第1点火プラグ15からの火炎面の到達を待つことなく吸気側の混合気が燃焼を開始する。従って効果的に燃焼速度を増大させることができる。また、第2点火プラグ15a付近から拡がる火炎面は、タンブル30に乗って、より速やかに拡がって行く。こうして、遅れがちな吸気側の燃焼が促進され、効果的な燃焼速度の増大を図ることができる。燃焼速度を増大させることにより耐ノッキング性能が向上することや、後期重心型燃焼が行われ、その効果と相俟って、耐ノッキング性能が一層向上することについては第1実施形態と同様である。
次にエンジン回転速度が所定の高速運転領域にあるときの動作について、同様に第1実施形態との相違点を中心に説明する。
当実施形態においても、高速運転領域での燃焼速度増大制御を停止させている。燃焼速度増大制御の実行停止に際し、第2点火プラグ15aの実質的な多点同時点火が停止され、タンブル生成吸気系120は、強いタンブル30が生成されないように切り換えられる。
このときの燃焼形態は、第1実施形態における高速運転領域の場合と同様になる。すなわち、図14(b)に示す火炎伝播等時線71bは、図9に示す第1実施形態の火炎伝播等時線70bと同様になる。従って、第1実施形態と同様の作用、効果を奏する。すなわち、燃焼速度の増大が抑制され、騒音の増大やデトネーションの発生が効果的に抑制されるとともに、後期重心型燃焼による耐ノッキング性能向上効果を得ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定するものではなく、特許請求の範囲内で種々の変形を行っても良い。
例えば上記各実施形態は、本発明を4サイクルエンジンに適用した場合を示しているが、それ以外の、例えば2サイクルエンジンに適用しても良い。
上記各実施形態では、燃焼速度増大制御の実行有無を切り換えるエンジン回転速度を4500rpmとしたが、必ずしもこれに限定するものではない。騒音の発生状態やデトネーションの起こり易さなど、エンジンの特性に応じて適宜設定すれば良い。
燃焼室14,114の構造は上記各実施形態のものに限定するものではなく、ハード系によって後期重心型燃焼を行わせるものであれば、他の構造であっても良い。例えば、必ずしも小間隙部5,105によって筒内ガス流を絞るような構造を採る必要はなく、他の構造で後期重心型燃焼を行わせるようにしても良い。
燃焼速度増大制御として、必ずしも点火プラグの同時多点点火と流動性増大手段(スワール生成吸気系23やタンブル生成吸気系120など)とを併用する必要はなく、何れか一方のみを用いても良い。或いは、他の方法を用いて燃焼速度を増大させるものであっても良い。
スワール生成手段やタンブル生成手段は、必ずしも上記各実施形態に示したものである必要はない。また流動性増大手段として、スワールのみ、或いはタンブルのみを生成するものである必要はない。例えばスワールとタンブルとを組み合わせた斜めの旋回流を生成するものであったり、スキッシュ等、他の形態の流れを適宜組み合わせたりするものであったりしても良い。