JP4588829B2 - クラッチ機構付き減速機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば船舶の推進機関等に搭載されるクラッチ機構付き減速機に対し、伝動ギヤを軸受けするための軸受メタルの組付け方法及びその方法により組み付けられた軸受メタルを備えたクラッチ機構付き減速機に係る。特に、本発明は、上記軸受メタルの抜け止め対策の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば特開平10−267090号公報に開示されているような船舶用減速逆転機は、エンジンからの駆動力を複数のギヤを介してプロペラ軸に伝達している。図2は一般的な減速逆転機1の内部構造を示す断面図である。この図2に示すように、減速逆転機1は、プロペラ軸に繋がる出力軸3に対して回転一体に組付けられた比較的大径の出力ギヤ33と、この出力ギヤ33にそれぞれ噛み合う正転減速用ギヤ45及び図示しない逆転減速用ギヤとを備えている。正転減速用ギヤ45は、エンジン出力軸に繋がる入力軸2の回転力が伝達される正転用サポート軸4に外嵌されて、この正転用サポート軸4との間での相対回転が自在となっている。逆転減速用ギヤは、逆転用中間ギヤ44を介して入力軸2の回転力が伝達される図示しない逆転用サポート軸(上記正転用サポート軸4とは逆回転する)に外嵌されて、この逆転用サポート軸との間での相対回転が自在となっている。また、各サポート軸には、各減速用ギヤへのエンジン駆動力の伝達及び非伝達を切り換えるクラッチ機構6(逆転減速用ギヤ側のクラッチ機構は図示せず)が備えられている。このクラッチ機構6としては一般には湿式多板クラッチが採用されている。
【0003】
正転減速用ギヤ45側のクラッチ機構6のみを締結することで、正転用サポート軸4の回転力が正転減速用ギヤ45を介して出力ギヤ33に伝達される。これにより、入力軸2の回転が減速されて出力軸3に伝達され、プロペラ軸が正転して船舶が前進する。一方、逆転減速用ギヤ側のクラッチ機構のみを締結することで、逆転用サポート軸の回転力が逆転減速用ギヤを介して出力ギヤ33に伝達される。これにより、入力軸2の回転が減速逆転されて出力軸3に伝達され、プロペラ軸が逆転して船舶が後退する。
【0004】
このように、クラッチ機構の締結、解放状態に応じて、正転減速用ギヤ45及び逆転減速用ギヤ(以下、これらを伝動ギヤと呼ぶ)は各サポート軸に対してそれぞれ相対回転する。具体的には、クラッチ機構が締結状態のときには、伝動ギヤはサポート軸と一体的に回転する。これに対し、クラッチ機構が解放状態のときには、サポート軸が一方向に回転しているのに対し、伝動ギヤは停止(両クラッチ機構が共に解放状態のとき)またはサポート軸とは逆回転(相手側のクラッチ機構のみが締結状態のとき)する。
【0005】
このように、サポート軸と伝動ギヤとの間では相対回転が行われる。このため、この両者の直接的な接触を回避して、サポート軸の外周面及び伝動ギヤの内周面の磨耗を抑制するために、伝動ギヤの内周面には薄肉の軸受メタル7が圧入されている。また、この軸受メタル7の内周面には潤滑油が給油されており、軸受メタル7の内周面とサポート軸の外周面との間が給油潤滑されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、この種の減速逆転機1にあっては、過負荷状態において動力伝達を長期間に亘って行っている間に軸受メタル7が伝動ギヤ45の端面側(図2における左側)に徐々に抜け出してくるといった課題があった。
【0007】
この軸受メタル7の抜け出しが発生した場合、軸受メタル7の端面が伝動ギヤ45のスラスト側の軸受48に接触してしまう。その結果、このスラスト軸受48と軸受メタル7との間で発生する摩擦熱によって、この両者が焼付いてしまう虞れがある。また、軸受メタル7の抜け出しにより、軸受メタル7と伝動ギヤ45との接触面積が小さくなるのに伴って、この両者間の締結力が低くなり、この両者が相対回転して軸受メタル7の外周面が磨耗するといった課題もある。これでは、軸受メタル7が薄肉になり、軸受メタル7の軸受性能が損なわれてしまう。
【0008】
−従来の抜け止め対策−
このような軸受メタルの抜け出しを回避する対策として、従来より、伝動ギヤと軸受メタルとの「しめしろ」を大きく設定することが行われている。
【0009】
ところが、この対策において、軸受メタルの抜け出しを確実に回避できる程度まで「しめしろ」を大きくした場合、圧入時に軸受メタルに作用する応力が降伏点に達してしまうことがある。これでは、軸受メタルと伝動ギヤとの良好な締結状態を得ることができない。そして、この場合、塑性変形した軸受メタルと伝動ギヤとの間には十分な締結力が得られず、この両者が相対移動してしまうため、「しめしろ」を大きくしたにも拘らず軸受メタルの抜け出しが発生してしまう可能性がある。
【0010】
−本発明の着想点−
本発明の発明者らは、これまでの抜け止め構造では、軸受メタルの抜け止めを効果的に行うことができないことに着目した。そして、軸受メタルの抜け出しの発生を効果的に抑制するためには、この抜け出し現象の原理を解明することが必要不可欠であると考えた。そこで、軸受メタルの抜け出し現象について解析を行った。以下、発明者らが解明した抜け出し現象の原理について説明する。
【0011】
図15は伝動ギヤ45と出力ギヤ33との噛み合い状態を示す図である。この図からも判るように、伝動ギヤ45に伝達されたエンジン駆動力は、伝動ギヤ45の歯からこの歯が噛み合っている出力ギヤ33の歯に伝達され、出力ギヤ33を回転させる。その後、各ギヤ45、33の回転(図15の矢印参照)により他の一対の歯同士が噛み合い、この歯同士の間でエンジン駆動力が伝動ギヤ45から出力ギヤ33に伝達される。このようにして相手側に噛み合う歯がギヤの周方向に順次変更されながらエンジン駆動力が出力ギヤ33に伝達されていく。
【0012】
このため、出力ギヤ33に噛み合っている伝動ギヤ45の歯には大きな負荷が掛かっている。この負荷により、伝動ギヤ45には捩れが発生する。伝動ギヤ45から出力ギヤ33への伝達トルクが大きいほど、この捩れは大きくなる。特に、この捩れに伴う周方向の変形量は、出力ギヤ33に噛み合っている伝動ギヤ45の歯の周辺部分(図16において斜線を付した部分)で大きくなっている。
【0013】
また、伝動ギヤ45に捩れが発生した場合、伝動ギヤ45の軸受孔45Aは僅かに楕円形に変形する。そして、伝動ギヤ45に圧入されている軸受メタル7は、この軸受メタル7と伝動ギヤ45との間の締結力が上記伝達トルクに比べて十分に大きい場合には、伝動ギヤ45と同様に変形し(同様の捩れ量となり)、この両者が周方向に相対移動することは無い。ところが、上記伝達トルクが、軸受メタル7と伝動ギヤ45との間の締結力を超えた場合には、軸受メタル7と伝動ギヤ45との捩れ量に差が生じ、軸受メタル7の変形が伝動ギヤ45の変形に追従せず、この両者間に僅かな滑りが発生する。この滑りの発生により、両者間の締結力は著しく低下し、伝動ギヤ45の捩れ量に対して軸受メタル7の捩れ量は小さくなる。
【0014】
このようにして捩れ量の差が生じた場合、特に、出力ギヤ33に噛み合っている伝動ギヤ45の歯の周辺部分(図16において斜線を付した部分)と、軸受メタル7におけるこの歯に対向する部分(図16においてBで示した軸受メタル7の一部の領域)との間には比較的大きな捩れ量の差が生じている。
【0015】
そして、この伝動ギヤ45の歯と出力ギヤ33の歯との噛み合いが解除された時点では、この伝動ギヤ45の歯に掛かっていた負荷が無くなる。このため、この伝動ギヤ45の歯の周辺部分では、負荷が掛かる前の状態に戻る(捩れが戻った状態になる)。同様に、軸受メタル7におけるこの歯に対向する部分も捩れが戻った状態になる。
【0016】
しかし、この両者は、元々捩れ量に差が生じていたため、この捩れの戻り位置にも差が生じている。この捩れの戻り位置の差によってこの両者が相対的に移動し、軸受メタル7が伝動ギヤ33の端面側に移動する。
【0017】
この捩れの戻り位置の差による軸受メタル7の移動について図17を用いて以下に説明する。本図17は、軸受メタル7が圧入された伝動ギヤ45の模式図である。今、伝動ギヤ45に捩れが生じていない状態における伝動ギヤ45のI点及び軸受メタル7のI’点について考える。この伝動ギヤ45のI点にある歯が出力ギヤ33に噛み合って負荷が掛かった場合、伝動ギヤ45の捩れにより、I点はII点まで移動する。これに対し、伝動ギヤ45よりも捩れ量が小さい軸受メタル7のI’点はIII 点まで移動する。言い換えると、伝動ギヤ45は図中角度αの捩れ角を有しているのに対し、軸受メタル7は図中角度βの捩れ角しか有していない。
【0018】
伝動ギヤ45の歯に掛かっていた負荷が無くなると、伝動ギヤのII点はI点に、軸受メタルのIII 点はI''点にそれぞれ戻る。この時のI点とI''点との間の距離分だけ軸受メタル7が伝動ギヤ45に対して相対回転する。このとき、軸受メタル7は捩れにより軸方向長さがL0 からL1 に延びた後に負荷が無くなると共にL0 に戻ろうとするが、微妙な滑りによってL0 には戻りきれず、回転に伴い軸受メタル7は軸方向(図中左方向)へ移動することになる。このような現象が伝動ギヤ45の各歯が出力ギヤ33の歯に噛み合う度に発生している。つまり、例えば伝動ギヤ45に22個の歯がある場合、この伝動ギヤ45の1回転毎に、この現象が22回繰り返されることになる。これにより、動力伝達を行っている間に、軸受メタル7が徐々に伝動ギヤ45から抜け出してくる。
【0019】
特に、正転側及び逆転側のクラッチ機構を切り換えて、船舶の前進と後進とを切り換える所謂クラッシュアスターンを行う際には、伝動ギヤ45の歯に掛かる負荷が著しく大きくなるため、上記捩れ量の差も大きくなり、軸受メタル7の抜け出し現象がよりいっそう顕著に起こる。
【0020】
このような伝動ギヤ45の捩れが原因で軸受メタル7の抜け出し現象が発生することを本発明の発明者らは解明したのである。
【0021】
一方、近年の船舶用エンジンの高性能化、漁船法の改正に伴うエンジン出力の規制緩和により、伝動ギヤに掛かる負荷は過酷なものになりつつあり、軸受メタルの抜け出し現象が発生しやすい状況になって来ている。その結果、この軸受メタルの抜け出し現象の発生を確実に解消できる対策を講じない限り、エンジンの高出力化を実現することはできないのが実情である。
【0022】
そこで、この伝動ギヤの捩れを抑制すべく、伝動ギヤのボス部の肉厚を十分に確保することにより、軸受メタルの抜け出し現象を防止できると考えられる。
【0023】
ところが、この構成では、伝動ギヤが大型化してしまう。つまり、回転体の重量が大きくなり、エンジンの燃料消費率の悪化や推進機関全体の大型化が避けられなくなってしまう。また、減速逆転機全体としてのコストも高くなってしまう。更には、伝動ギヤの外径が大きくなるため、所定の減速比を得るためには出力ギヤも大径のものを採用する必要があり、これによっても推進機関全体の大型化を助長してしまう。
【0024】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、伝動ギヤを大型化すること無しに、伝動ギヤの捩れに起因する軸受メタルの抜け出し現象を確実に防止すると共に、出力ギヤを大径にしなくても所定の減速比を得ることができるようにし、更には、エンジンの燃料消費率の向上及び推進機関全体の小型化を可能にする軸受メタルの組付け方法及びその方法により軸受メタルが組付けられた減速機を提供することにある。
【0025】
【課題を解決するための手段】
−発明の概要−
上記目的を達成するために、本発明は、クラッチ機構付き減速機に対し、伝動ギヤに捩れが生じたとしても軸受メタルには殆ど捩れが生じないような組み付け構造及び組み付け方法を提供し、これによって、伝動ギヤと軸受メタルとの捩れ量の差に起因する軸受メタルの抜け出しを阻止できるようにしている。
【0026】
−解決手段−
具体的に、本発明が講じた第1の解決手段は、軸受メタルを介して軸体に対し相対回転自在に外嵌されて出力側の後段ギヤに噛み合い、且つクラッチ機構を介して回転軸に断続可能に連繋された伝動ギヤを有するクラッチ機構付き減速機を前提とする。
このクラッチ機構付き減速機において、上記軸受メタルの内周面と軸体の外周面との間に、軸受メタルと軸体との相対的な回転を許容するようにした隙間が形成されるように、軸受メタルの内径寸法を軸体の外径寸法よりも大きく設定する一方、上記軸受メタルの外周面と伝動ギヤの内周面との間に、伝動ギヤに捩れが生じたとしても軸受メタルには捩れは生じないようにした隙間が形成されるように、軸受メタルの外径寸法が伝動ギヤの内径寸法よりも小さく設定する。
【0027】
この特定事項により、伝動ギヤは、軸体にて、軸受メタルを介して自在に回転する状態に支持されていて、この伝動ギヤに掛かる負荷により、この伝動ギヤに捩れが生じても、この伝動ギヤに対して相対回転自在となっている軸受メタルには殆ど捩れは生じない。従って、伝動ギヤの捩れに起因する軸受メタルの抜け出しを効果的に防止することができ、軸受メタルがスラスト軸受に焼付く等といった不具合を回避することができる。特に、クラッチ機構を解放状態から締結状態に切り換えた時には伝動ギヤの歯に掛かる負荷が一時的に急増するため、上記捩れ量も大きくなり、従来の構成では軸受メタルの抜け出し現象が顕著に起こりやすい状態になるが、本解決手段によれば、このような状況にあっても、軸受メタルには殆ど捩れが生じない。このため、軸受メタルの抜け止めを効果的に行うことができる。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本形態では、本発明を船舶用推進機関に搭載された減速逆転機に適用した場合について説明する。この減速逆転機は、船舶用エンジンからの駆動力を複数のギヤ(平歯車)を介してプロペラ軸に伝達するものである。
【0054】
−減速逆転機の全体構成の説明−
図1は、本形態に係る減速逆転機1のケーシング11内部に収容される各種ギヤの配置状態をエンジン側から見た概略図である。図2(図中右側がエンジン側)は、減速逆転機1の内部構造を示す図1におけるII-II 線に沿った断面図である。
【0055】
これら図に示すように、減速逆転機1は、図示しないエンジン出力軸に繋がる入力軸2と、同じく図示しないプロペラ軸に繋がる出力軸3とを備えている。これら各軸2、3は、同軸上に配置されていると共に、円錐ころ軸受21、22、31、32により減速逆転機1のケーシング11に対して回転自在に支持されている。入力軸2の上記ケーシング11内側端には入力ギヤ23が回転一体に組付けられている。同様に、出力軸3のケーシング11内側端には上記入力ギヤ23よりも大径の本発明でいう後段ギヤとしての出力ギヤ33が回転一体に組付けられている。
【0056】
これら入力軸2及び出力軸3の斜め上方(図1における左上方)には本発明でいう軸体及び回転軸としての正転用サポート軸4が配設されている。この正転用サポート軸4は、両端が円錐ころ軸受41、42により減速逆転機1のケーシング11に対して回転自在に支持されている。また、入力軸2及び出力軸3の鉛直上方にも本発明でいう軸体及び回転軸としての逆転用サポート軸5が配設されている。この逆転用サポート軸5も、両端が図示しない円錐ころ軸受により減速逆転機1のケーシング11に対して回転自在に支持されている。
【0057】
上記正転用サポート軸4には、正転用中間ギヤ43及び逆転用第1中間ギヤ44が回転一体に組付けられている。一方、逆転用サポート軸5には、逆転用第2中間ギヤ51(図1参照)が回転一体に組付けられている。
【0058】
正転用中間ギヤ43は上記入力ギヤ23に噛み合っている。入力軸2の回転力が入力ギヤ23から正転用中間ギヤ43を介して正転用サポート軸4に伝達される構成である。逆転用第1中間ギヤ44は逆転用第2中間ギヤ51に噛み合っている。正転用サポート軸4に伝達された入力軸2の回転力が逆転用第1中間ギヤ44及び逆転用第2中間ギヤ51を介して逆転用サポート軸5に伝達される構成である。このため、正転用サポート軸4と逆転用サポート軸5とは互いに逆回転(正転用サポート軸4は入力軸2とは逆方向に回転し、逆転用サポート軸5は入力軸2と同方向に回転)するようになっている。
【0059】
正転用サポート軸4における出力側端部近傍位置には伝動ギヤとしての正転減速用ギヤ45が外嵌されている一方、逆転用サポート軸5における出力側端部近傍位置にも伝動ギヤとしての逆転減速用ギヤ52が外嵌されている。正転減速用ギヤ45は正転用サポート軸4との間で相対回転が自在となっていると共に、逆転減速用ギヤ52も逆転用サポート軸5との間で相対回転が自在となっている。これら正転減速用ギヤ45及び逆転減速用ギヤ52はそれぞれ上記出力ギヤ33に噛み合っている。つまり、正転減速用ギヤ45にエンジン駆動力が伝達された状態では、このエンジン駆動力は正転減速用ギヤ45及び出力ギヤ33を経て出力軸3に伝達される。逆に、逆転減速用ギヤ52にエンジン駆動力が伝達された状態では、このエンジン駆動力は逆転減速用ギヤ52及び出力ギヤ33を経て出力軸3に伝達されるようになっている。また、各サポート軸4、5には、各減速用ギヤ45、52のスラスト方向の軸受を行うスラストメタル48が装着されている。
【0060】
上記各サポート軸4、5と各減速用ギヤ45、52との間にはクラッチ機構6が配設されている。以下、このクラッチ機構6について説明する。このクラッチ機構6は、所謂油圧式多板クラッチで構成されている。尚、ここでは正転用サポート軸4と正転減速用ギヤ45との間に配設されたクラッチ機構6を例に掲げて説明する。逆転用サポート軸5と逆転減速用ギヤ52との間にも同様のクラッチ機構が配設されているが、正転用及び逆転用の各クラッチ機構6の構成は共に同様であるので、この逆転用のクラッチ機構については説明を省略する。
【0061】
図3は、正転用サポート軸4、正転用中間ギヤ43、正転減速用ギヤ45、逆転用第1中間ギヤ44及びクラッチ機構6を示す一部を破断した断面図である。この図に示すように、クラッチ機構6は、逆転用第1中間ギヤ44に回転一体に組付けられた円筒状のアウタケーシング61と、正転減速用ギヤ45に回転一体に組付けられた同じく円筒状のインナケーシング62とを備えている。アウタケーシング61の内周面とインナケーシング62の外周面とは所定間隔を存して互いに対向しており、これら各面にはスプライン61a、62aが形成されている。アウタケーシング61のスプライン61aには、このスプライン61aに噛み合う歯を外周縁に備えた複数枚のアウタ摩擦プレート63、63、…が、インナケーシング62のスプライン62aには、このスプライン62aに噛み合う歯を内周縁に備えた複数枚のインナ摩擦プレート64、64、…がそれぞれ挿通されている。これら摩擦プレート63、64は、正転用サポート軸4の軸方向に交互に配設されており、それぞれがスプライン61a、62aの延長方向(正転用サポート軸4の軸方向)に移動自在となっている。また、アウタケーシング61における正転減速用ギヤ45側には摩擦プレート63、64を抜け止めするためのストッパ66が配設されている。
【0062】
また、このクラッチ機構6は、各摩擦プレート63、64同士の締結状態と解放状態とを切り換えるためのピストン65を備えている。このピストン65は、正転用サポート軸4に摺動自在に支持されており、その外周縁部分に摩擦プレート63、64に対面する押圧部65aを備えている。ピストン65の背面には図示しない油圧ポンプから供給される油圧が作用可能となっている。正転用サポート軸4の内部には、このピストン65の背面に油圧を作用させるための給油孔46が形成されている。また、ピストン65は、正転用サポート軸4に嵌め込まれたスプリング受け67との間に装着されたリリーススプリング68の付勢力を受けている。この付勢力は、ピストン65を摩擦プレート63、64から離す方向(図3における右方向)に作用している。
【0063】
このため、ピストン65の背面に油圧が作用した場合には、このピストン65が前進して、リリーススプリング68の付勢力に抗して摩擦プレート63、64をストッパ66側に押し付ける。これにより、摩擦プレート63、64同士が締結する。その結果、正転用サポート軸4の回転力がクラッチ機構6を介して正転減速用ギヤ45に伝達される。つまり、正転用サポート軸4と正転減速用ギヤ45とが一体的に回転する。一方、ピストン65の背面への油圧の作用が解除された場合には、リリーススプリング68の付勢力により、ピストン65が後退して、摩擦プレート63、64同士が離隔する。その結果、正転用サポート軸4の回転力は正転減速用ギヤ45に伝達されない。
【0064】
このようなクラッチ機構6は逆転用サポート軸5と逆転減速用ギヤ52との間にも配設されている。このため、正転用サポート軸4と正転減速用ギヤ45との間のクラッチ機構6のみを締結することで、正転用サポート軸4の回転力が正転減速用ギヤ45を介して出力ギヤ33に伝達される。その結果、エンジン出力軸の回転が減速されてプロペラ軸に伝達され、このプロペラ軸が正転して船舶が前進する。この際、逆転減速用ギヤ52は、出力ギヤ33からの回転力を受けるため、逆転用サポート軸5とは反対方向に回転することになる。
【0065】
一方、逆転用サポート軸5と逆転減速用ギヤ52との間のクラッチ機構のみを締結することで、逆転用サポート軸5の回転力が逆転減速用ギヤ52を介して出力ギヤ33に伝達される。その結果、エンジン出力軸の回転が減速逆転されてプロペラ軸に伝達され、このプロペラ軸が逆転して船舶が後退する。この際、正転減速用ギヤ45は、出力ギヤ33からの回転力を受けるため、正転用サポート軸4とは反対方向に回転することになる。
【0066】
上記正転減速用ギヤ45の軸受孔45Aの内面と正転用サポート軸4の外面との間には、正転用サポート軸4に対する正転減速用ギヤ45の相対回転を許容しながら軸受けするための軸受メタル7が介在されている(この軸受メタル7の組付け構造については後述する)。正転用サポート軸4には、給油路47が形成されており、この給油路47から供給された潤滑油が軸受メタル7と正転用サポート軸4との間に給油されたり、円錐ころ軸受42やクラッチ機構6に給油されるようになっている。
【0067】
同様に、上記逆転減速用ギヤ52の軸受孔の内面と逆転用サポート軸5の外面との間にも、逆転用サポート軸5に対する逆転減速用ギヤ52の相対回転を許容しながら軸受けするための図示しない軸受メタルが介在されている。また、逆転用サポート軸5にも上記と同様の給油路(図示省略)が形成されて、各所への給油潤滑が行えるようになっている。
【0068】
−軸受メタル7の組付け構造の説明−次に、本減速逆転機1の特徴とする構成である軸受メタル7の組付け構造について説明する。ここでは、正転減速用ギヤ45の軸受孔45Aの内面と正転用サポート軸4の外面との間に介在された軸受メタル7の組付け構造について説明するが、逆転減速用ギヤ52の軸受孔の内面と逆転用サポート軸5の外面との間に介在された軸受メタルの組付け構造として採用することも可能である。
【0069】
以下に述べる組付け構造は以下の3タイプに分類される。
(A)軸受メタル7を正転減速用ギヤ45及び正転用サポート軸4の何れにも固定させないタイプ(B)軸受メタル7を正転減速用ギヤ45に固定させるタイプ(C)軸受メタル7を正転用サポート軸4に固定させるタイプ以下、これら各タイプの実施形態に係る軸受メタル7の組付け動作について説明する。
【0070】
−(A)軸受メタル7を正転減速用ギヤ45及び正転用サポート軸4の何れにも固定させないタイプ−
(第1実施形態)
本形態は、軸受メタル7の外周面と正転減速用ギヤ45の内周面との間を接着したり固着したりすることなく、且つ軸受メタル7の内周面と正転用サポート軸4の外周面との間も接着したり固着したりしないものである。
【0071】
具体的には、図4に示すように、軸受メタル7の内周面と正転用サポート軸4の外周面との間に僅かな隙間S1を設ける。また、軸受メタル7の外周面と正転減速用ギヤ45の内周面との間にも僅かな隙間S2を設ける。
例えば、これら三者4、7、45同士の間にそれぞれ隙間S1、S2を設ける場合、軸受メタル7の内径寸法を正転用サポート軸4の外径寸法よりも数μmだけ大きく設定する。同様に、軸受メタル7の外径寸法を正転減速用ギヤ45の内径寸法よりも数μmだけ小さく設定する。これにより、これら三者4、7、45同士の間にそれぞれ径方向に数μmの隙間S1、S2が形成される。
この場合、軸受メタル7の内周面と正転用サポート軸4の外周面との間における隙間S1は、軸受メタル7と正転用サポート軸4との相対的な回転を許容するためのものである。
一方,軸受メタル7の外周面と正転減速用ギヤ45の内周面との間における隙間S2は、エンジン駆動力の伝達に伴って正転減速用ギヤ45に捩れが生じたとしても軸受メタル7には捩れは生じないようにするためのものである。
【0072】
<効果>
この構成によれば、正転減速用ギヤ45は、正転用サポート軸4にて、軸受メタル7を介して自在に回転する状態に支持されている一方、軸受メタル7が正転減速用ギヤ45の軸受孔45Aに圧入されるものでは無いので、エンジン駆動力の伝達に伴って正転減速用ギヤ45に捩れが生じたとしても軸受メタル7には殆ど捩れは生じない。このため、上述した軸受メタル7と正転減速用ギヤ45との捩れ量の差及び捩れの戻り位置の差に起因する軸受メタル7の抜け出しが阻止されることになる。
【0073】
特に、クラッチ機構6を解放状態から締結状態に切り換えた時や、船舶の先進と後退とを切り換える際には正転減速用ギヤ45の歯に掛かる負荷が一時的に急増するため、上記捩れ量も大きくなるが、このような状況にあっても、軸受メタル7には殆ど捩れが発生せず、軸受メタルの抜け止めを効果的に行うことができる。従って、軸受メタル7がスラストメタル48に接触して焼き付いてしまうことを防止できる。その結果、減速逆転機1の耐久性及び信頼性の向上、寿命の延長化を図ることができる。また、近年の船舶用エンジンの高性能化や漁船法の改正に伴うエンジン出力の規制緩和等に対応すべく、正転減速用ギヤ45の許容伝達トルクを向上できるため、船舶の大幅な高出力化を図ることもできる。更には、正転減速用ギヤ45のボス部の肉厚を厚くすること無しに軸受メタル7の抜け出し現象を防止できるので、正転減速用ギヤ45の小型軽量化を図ることができ、エンジンの燃料消費率の改善、推進機関全体の小型化、コストの削減を図ることができる。この正転減速用ギヤ45の小型化に伴い、出力ギヤ33を大径にすることなしに所定の減速比を得ることができ、これによっても推進機関全体の小型化を図ることができる。
【0074】
これら効果は、逆転減速用ギヤ52に対して上記と同構成によって軸受メタルを組付ける場合にも同様に発揮させることができる。
【0075】
<抜け止め構造>
本形態の場合、上記軸受メタル7と正転減速用ギヤ45との捩れ量の差等に起因する軸受メタル7の抜け出しは生じないものの、軸受メタル7は、正転減速用ギヤ45及び正転用サポート軸4の何れにも固定されていないので、振動などの影響によって軸受メタル7が正転減速用ギヤ45から抜け出てしまう可能性がある。これを阻止するために、以下の抜け止め構造が採用されている。以下に、第1〜第3の抜け止め構造について説明する。本形態では何れの構造を採用してもよい。
【0076】
(I) 第1の抜け止め構造としては、図4に示すように、正転減速用ギヤ45の一端(図中左端)の内面に、その全周囲に亘る突起45aを形成し、この突起45aに軸受メタル7の一端(図中左側端)を当接させることにより、軸受メタル7の図中左方向への抜け止めを行っている。つまり、軸受メタル7の長さ寸法を僅かに短くして、その端部(図中左側端部)を正転減速用ギヤ45の左側端部よりも後退させておき、この後退により生じた空間に上記突起45aを形成する。
【0077】
一方、図中右側方向への抜け止め構造としては、正転減速用ギヤ45の右側端近傍の内周面に周方向に延びる溝45bを形成しておき、この溝45bにリング状の止め輪45cを嵌め込んでいる。この止め輪45cに軸受メタル7の端部(図中右側端部)を当接させることにより軸受メタル7の抜け出しを強制的に阻止している。
【0078】
(II)第2の抜け止め構造としては、図5に示すように、軸受メタル7の図中左方向への抜け止めを図るための構成として、上記第1の抜け止め構造で採用した止め輪を使用している。つまり、正転減速用ギヤ45の図中左側端近傍の内周面に周方向に延びる溝45dを形成しておき、この溝45dにリング状の止め輪45eを嵌め込んでいる。この止め輪45eに軸受メタル7の端部(図中左側端部)を当接させることにより軸受メタル7の抜け出しを強制的に阻止している。
【0079】
(III) 第3の抜け止め構造としては、図6に示すように、軸受メタル7の一部を伝動ギヤ45に係止するものである。つまり、伝動ギヤ45の一部分(図6における右端部分)に半径方向に延びる貫通孔45fを形成しておく一方、軸受メタル7の一部分(図6における右端部分)に、この貫通孔45fに嵌り込む突部72を一体形成する。この突部72を貫通孔45fに嵌め込んで軸受メタル7と伝動ギヤ45とを一体的に係合している。これによっても、軸受メタル7の抜け出しを強制的に阻止することができる。
【0080】
<潤滑構造>
次に、本タイプの軸受メタル7の組み付け構造において、軸受メタル7の外周面と正転減速用ギヤ45の内周面との間の潤滑油による潤滑構造について説明する。
【0081】
(I) 第1の潤滑構造としては、図7に示すように、軸受メタル7の一部分に半径方向に延びる貫通孔73を形成している。この構成によれば、正転用サポート軸4に形成された給油路47から供給された潤滑油の一部が、この貫通孔73を経て正転減速用ギヤ45の内周面と軸受メタル7の外周面との間に供給され、この両者45、7間の潤滑を行う。これにより、正転減速用ギヤ45と軸受メタル7との相対的な回転による両者の摩耗を抑制することができる。
【0082】
(II)第2の潤滑構造としては、上記第1の潤滑構造に加えて、図8に示すように、軸受メタル7の外周面に溝74や円形の複数の窪み75、75、…といった複数の凹部を設けている。図8(a)は軸受メタル7の斜視図、図8(b)は図8(a)のb−b線に沿った断面図、図8(c)は図8(a)のc−c線に沿った断面図である。
【0083】
この構成によれば、溝74や窪み75の中に潤滑油を保持することができ、正転減速用ギヤ45の内周面と軸受メタル7の外周面との間に常に潤滑油を存在させることができて、これら両者の摩耗の抑制を確実に行うことができる。
【0084】
尚、これら第1及び第2の潤滑構造は、それぞれ上記第1〜第3の各抜け止め構造の何れに対しても採用可能である。
【0085】
(第2実施形態)
本形態は、上述した第1実施形態と同様に、軸受メタル7の外周面と正転減速用ギヤ45の内周面との間を接着したり固着したりすることなく、且つ軸受メタル7の内周面と正転用サポート軸4の外周面との間も接着したり固着したりしないものである。
【0086】
具体的には、図9に示すように、正転減速用ギヤ45の内周部に焼結材で成るスリーブ材45gを設けている。以下、このスリーブ材45gの一例について述べる。
【0087】
このスリーブ材45gは例えば燒結含油金属で形成されている。つまり、金属粉を主成分とする多孔質焼結体に含油されて成る金属体により構成されている。このスリーブ材45gの外径寸法は、正転減速用ギヤ45の内径寸法に等しいかまたは僅かに大きく設定されており、このスリーブ材45gが正転減速用ギヤ45の内部に圧入されるか、または正転減速用ギヤ45の軸受孔45A内面に一体的に焼結されることで、この両者45g、45が一体化されている。
【0088】
また、このスリーブ材45gの内径寸法は軸受メタル7の外径寸法に一致するかまたはそれよりも僅かに大きく設定されている。更に、このスリーブ材45gの内周面には、その長手方向(軸心方向)に延びる溝45h、45h、…が周方向に亘る複数箇所に形成されている。これにより、図10に示すように、正転減速用ギヤ45に軸受メタル7が一体的に組付けられた状態では、スリーブ材45gの内周面と軸受メタル7の外周面との間には潤滑油を存在させるための空間S3が形成されることになる。尚、図10に示すものは、上述した各抜け止め構造のうち第1の抜け止め構造を採用した場合を示しているが、その他の抜け止め構造を採用することも可能である。
【0089】
本形態の構成によれば、上述した潤滑構造と同様に、正転用サポート軸4に形成された給油路47から供給された潤滑油の一部が、スリーブ材45gの内周面と軸受メタル7の外周面との間に供給され、この両者45A、7間の潤滑を行う。これにより、正転減速用ギヤ45と軸受メタル7との相対的な回転による両者の摩耗を抑制することができる。尚、給油路47からの潤滑油をスリーブ材45gの内周面と軸受メタル7の外周面との間に供給するための構成としては上述した第1の潤滑構造などが採用される。
【0090】
−(B)軸受メタル7を正転減速用ギヤ45に固定させるタイプ−
次に、上記タイプ(B)、つまり、軸受メタル7を正転減速用ギヤ45に固定させるタイプの各実施形態について説明する。
【0091】
(第3実施形態)
本形態は、軸受メタル7の外周面と正転減速用ギヤ45の内周面との間を摩擦圧接によって一体的に溶着したものである。
【0092】
以下、この摩擦圧接を行うための圧接機8及び摩擦圧接動作について説明する。図11に示すように、圧接機8は、ベース81及び圧入具82を備えている。この圧入具82には、その軸心回りに回転させるためのモータ83が取り付けられている。更に、この圧入具82には、図示しない拡径機構が備えられている。この拡径機構は圧入具82の外径を僅かに拡径するものであって、図11に示すように、圧入具82に軸受メタル7を装着した状態で拡径機構を作動させれば、軸受メタル7の外径を拡径させるための付勢力が得られるようになっている。具体的には、圧入具82を周方向で複数に分割し、この分割した個々を油圧シリンダ等によって外方へ押圧して拡径する構成等が採用される。尚、本形態の場合、軸受メタル7の外径寸法は、正転減速用ギヤ45の軸受孔45Aの内径寸法に一致させるか、またはそれよりも僅かに小さく設定されている。
【0093】
この圧接機8を使用した圧接動作としては、先ず、図11に示すように、クラッチ機構6のインナケーシング62が一体的に組付けられた正転減速用ギヤ45を圧接機8のベース81上に固定すると共に、軸受メタル7を圧接機8の圧入具82に装着する。この状態でモータ83を駆動して圧入具82を軸受メタル7と共に回転させると共に、この圧入具82を下降させて(図11の矢印参照)、図12に示すように、軸受メタル7を正転減速用ギヤ45の軸受孔45Aに嵌入する。その後、圧入具82の回転を維持したまま拡径機構を作動させる。これにより、軸受メタル7の外径が僅かに拡径し、この軸受メタル7の外周面が正転減速用ギヤ45の軸受孔45Aの内周面に押し付けられ、この両者間で発生する摩擦熱によって一体的に溶着される。このようにして圧接動作が行われた後に、軸受メタル7及び正転減速用ギヤ45を圧接機8から取り出す。これにより、摩擦圧接により一体化された軸受メタル7及び正転減速用ギヤ45が得られる。
【0094】
尚、本動作の場合、正転減速用ギヤ45が軸受メタル7と共に回転しないように、この正転減速用ギヤ45を回り止めするための手段が必要である。
【0095】
また、本実施形態では、圧入具82を回転させると共に、この圧入具82に拡径機構を備えさせるようにした。この構成に限らず、ベース81を回転させるようにしてもよい。また、圧入具82とベース81とを互いに反対方向に回転させるようにしてもよい。更には、ベース81に、正転減速用ギヤ45の軸受孔45Aの内径を縮径させるための縮径機構を備えさせ、軸受メタル7を正転減速用ギヤ45の軸受孔45Aに嵌入した後、軸受メタル7と正転減速用ギヤ45との相対的な回転を維持したまま縮径機構を作動させて、正転減速用ギヤ45の軸受孔45Aの内周面を軸受メタル7の外周面に押し付けて圧接するようにしてもよい。
【0096】
(第4実施形態)
本形態は、軸受メタル7の外周面と正転減速用ギヤ45の内周面との間を溶接によって一体化したものである。
【0097】
具体的には、軸受メタル7の外周面と正転減速用ギヤ45の内周面との間をビーム溶接により一体化している。つまり、図13(正転減速用ギヤ45とインナケーシング62との接続部分周辺の断面図)において斜線を付した領域Cを電子ビーム溶接することによって軸受メタル7と正転減速用ギヤ45とを一体化している。また、この電子ビーム溶接を行う領域は軸受メタル7の長手方向の両側端部分のみでよく、軸受メタル7の長手方向の全体を溶接しなくても十分な溶接強度を得ることが可能である。
【0098】
また、他の例として、軸受メタル7の外周面と正転減速用ギヤ45の内周面との間をスポット溶接により一体化することも可能である。この場合、図14に示すように、軸受メタル7を正転減速用ギヤ45の軸受孔45Aに挿入した状態で、この軸受孔45Aの内側からスポット溶接を行う。図14では、このスポット溶接の方向を矢印で示している。
【0099】
上記第3及び第4の実施形態では、摩擦圧接や溶接によって軸受メタル7と正転減速用ギヤ45とを一体化しているため、軸受メタル7が正転減速用ギヤ45から抜け出ることが確実に阻止され、これによって上述した第1実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。
【0100】
−(C)軸受メタル7を正転用サポート軸4に固定させるタイプ−
次に、上記タイプ(C)、つまり、軸受メタル7を正転用サポート軸4に固定させるタイプの実施形態について説明する。
【0101】
(第5実施形態)
本タイプを実現するための手法としては、軸受メタル7を正転用サポート軸4に、圧入、接着、溶接、圧接等の手段が用いられる。つまり、軸受メタル7の内径を正転用サポート軸4の外径よりも僅かに小さく設定しておいて、焼き嵌め等の手段により、この軸受メタル7の内部に正転用サポート軸4を圧入したり、この両者間に接着剤を塗布して一体的に接着したり、また、上述したような電子ビーム溶接やスポット溶接または摩擦圧接等によって軸受メタル7と正転用サポート軸4とを一体化するものである。
【0102】
また、上記の手法に代えて、軸受メタル7を焼結材により構成して、正転用サポート軸4の外周部分に焼結させて一体化させる構成を採用してもよい。
【0103】
本形態では、正転減速用ギヤ45に捩れが生じ、この捩れ量と軸受メタル7の捩れ量とに差が発生した場合であっても、軸受メタル7は正転用サポート軸4に一体的に固定されているため、正転減速用ギヤ45と正転用サポート軸4との相対位置が変化しない限り、軸受メタル7が正転減速用ギヤ45から抜け出ることはない。従って、本形態においても上述した第1実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。
【0104】
−その他の実施形態−
上述した実施形態では、船舶用推進機関に搭載された減速逆転機に本発明を適用した場合について説明した。本発明は、これに限らず、自動車用等のその他の機関に対しても適用することが可能である。
【0105】
また、上述した実施形態の減速逆転機1では、正転減速用ギヤ45を回転自在に支持する軸体として、エンジン駆動力が伝達されている正転用サポート軸4を採用した。つまり、正転用サポート軸4に正転減速用ギヤ45を支持する機能を付加していた。この正転減速用ギヤ45を支持する軸体としては、これに限らず、正転用サポート軸4とは個別の回転不能の軸体を採用してもよい。
【0106】
更に、正転減速用ギヤ45、軸受メタル7及び正転用サポート軸4の形状は上述したものに限らない。
【0107】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、以下のような効果が発揮される。
【0108】
軸受メタルを介して軸体に対し相対回転自在に外嵌された伝動ギヤを有するクラッチ機構付き減速機に対し、請求項1記載の発明では、軸受メタルを軸体及び伝動ギヤの何れにも固定させないようにしている。これにより、伝動ギヤに掛かる負荷によって、この伝動ギヤに捩れが生じても、軸受メタルの抜け出し現象を回避することができる。特に、クラッチ機構を解放状態から締結状態に切り換えた時にあっては伝動ギヤの歯に掛かる負荷が一時的に急増するため、上記捩れ量も大きくなり、軸受メタルの抜け出し現象は顕著に起こりやすい状態になるが、このような状況にあっても、軸受メタルの抜け止めを効果的に行うことができる。従って、軸受メタルがスラスト軸受に接触して焼き付いたり、伝動ギヤとの間の摩擦抵抗によって磨耗が発生するといったことを防止することができる。その結果、減速逆転機の耐久性及び信頼性の向上、寿命の延長化を図ることができる。更には、伝動ギヤのボス部の肉厚を厚くすること無しに軸受メタルの抜け出し現象を防止できるので、伝動ギヤの小型軽量化を図ることができ、エンジンの燃料消費率の改善、推進機関全体の小型化、コストの削減を図ることができる。この伝動ギヤの小型化に伴い、この伝動ギヤに噛み合う出力ギヤを大径にすることなしに所定の減速比を得ることができ、これによっても推進機関全体の小型化を図ることができる。
【0109】
特に、上記請求項1記載の発明において、軸受メタルが軸方向へ移動して伝動ギヤから抜け出ることを阻止するための移動阻止手段を設けた場合には、軸受メタルの抜け出し現象が確実に回避され、軸受メタルによる軸受け性能が安定的に維持されて、減速逆転機の耐久性及び信頼性の更なる向上を図ることができる。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態に係る減速逆転機のケーシング内部に収容される各種ギヤの配置状態をエンジン側から見た概略図である。
【図2】図1におけるII-II 線に沿った断面図である。
【図3】正転用サポート軸の周辺部分を示す一部を破断した断面図である。
【図4】第1実施形態における軸受メタルの組み付け構造を説明するための断面図である。
【図5】第1実施形態における第2の抜け止め構造を説明するための断面図である。
【図6】第1実施形態における第3の抜け止め構造を説明するための断面図である。
【図7】第1実施形態における第1の潤滑構造を説明するための軸受メタルの斜視図である。
【図8】第1実施形態における第2の潤滑構造を説明するための図であって、(a)は軸受メタルの斜視図、(b)は(a)におけるb−b線に沿った断面図、(c)は(a)におけるc−c線に沿った断面図である。
【図9】第2実施形態における正転減速用ギヤ及びスリーブ材の一部を示す斜視図である。
【図10】第2実施形態における図4相当図である。
【図11】第3実施形態における摩擦圧接前の状態を示す図である。
【図12】第3実施形態における摩擦圧接時の状態を示す図である。
【図13】第4実施形態における正転減速用ギヤとインナケーシングとの接続部分周辺の断面図である。
【図14】第4実施形態の他の例におけるスポット溶接の方向を示す図である。
【図15】伝動ギヤと出力ギヤとの噛み合い状態を示す図である。
【図16】伝動ギヤの歯の周辺部分での捩れを説明するための図である。
【図17】伝動ギヤと軸受メタルとの捩れ量の差を説明するための図である。
【符号の説明】
1減速逆転機
3出力軸
33出力ギヤ(後段ギヤ)
4正転用サポート軸(軸体、回転軸)
45正転減速用ギヤ(伝動ギヤ)
45a突起(移動阻止手段)
45c、45e止め輪(移動阻止手段)
45gスリーブ材
45h溝
5逆転用サポート軸(軸体、回転軸)
52逆転減速用ギヤ(伝動ギヤ)
6クラッチ機構
7軸受メタル
72突起(移動阻止手段)
73貫通孔
74溝(凹部)
75窪み(凹部)
S1、S2隙間
Claims (1)
- 軸受メタルを介して軸体に対し相対回転自在に外嵌されて出力側の後段ギヤに噛み合い、且つクラッチ機構を介して回転軸に断続可能に連繋された伝動ギヤを有するクラッチ機構付き減速機において、
上記軸受メタルの内周面と軸体の外周面との間に、軸受メタルと軸体との相対的な回転を許容するようにした隙間が形成されるように、軸受メタルの内径寸法が軸体の外径寸法よりも大きく設定されている一方、
上記軸受メタルの外周面と伝動ギヤの内周面との間に、伝動ギヤに捩れが生じたとしても軸受メタルには捩れは生じないようにした隙間が形成されるように、軸受メタルの外径寸法が伝動ギヤの内径寸法よりも小さく設定されていることを特徴とするクラッチ機構付き減速機。
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