そこで、この発明の目的は、アキシャルギャップ型モータを用いて小型化を図りつつ、簡単な構成でガス圧とスラスト力が互いに打ち消し合うようにしてロータに軸方向に働く力を低減でき、信頼性と圧縮効率を向上できる圧縮機を提供することにある。
上記目的を達成するため、この発明の圧縮機は、
密閉容器と、
上記密閉容器内に配置された圧縮機構部と、
上記密閉容器内に配置され、上記圧縮機構部を回転軸を介して駆動するアキシャルギャップ型モータと
を備え、
上記アキシャルギャップ型モータは、磁性体にコイルが巻回されたステータと、上記回転軸に固定され、上記ステータに軸方向に対向すると共に、上記密閉容器内のガスの流れによって上流側と下流側とで端面に作用するガス圧が異なる位置に配置されたロータとを有し、
上記ステータと上記ロータとの間の軸方向の磁気力は、上記ロータの端面に作用する冷媒流れの上流側と下流側とで異なるガス圧により、少なくとも一部がキャンセルされていることを特徴とする。
上記構成の圧縮機によれば、ラジアルギャップ型モータの場合と比べて、アキシャルギャップ型モータでは回転軸に対して半径方向の力が発生せず、ステータを変形させたり、ステータを介して密閉容器を変形させたり、回転軸を半径方向に曲げたりすることがない。さらに、上記密閉容器内のガスの流れによって上流側と下流側とで端面に作用するガス圧に抗するスラスト力を、アキシャルギャップ型モータのステータとロータとの間の軸方向の磁気力により発生させる。そうして、アキシャルギャップ型モータ特有のスラスト力とガス圧とが互いに少なくとも部分的に打ち消し合うようにするので、アキシャルギャップ型モータ特有のスラスト力を極めて小さくして、圧縮機構部の固定部分と可動部分の接触部分の摺動損失を最低限にすることができ、圧縮効率が向上する。したがって、アキシャルギャップ型モータを用いて小型化を図りつつ、簡単な構成でガス圧とスラスト力とが互いに少なくとも部分的に打ち消し合うにして、ロータに軸方向に働く力を低減できる。
なお、アキシャルギャップ型モータは、ステータとロータとの間のエアギャップが軸方向であるため、ラジアルギャップ型モータと比べて軸方向の軸方向の磁気吸引力をエアギャップ長さ等により調整するのが極めて容易である。
また、一実施形態の圧縮機は、上記ステータの軸方向の両側に上記ロータが夫々配置され、下流側の上記ロータと上記ステータとの間の軸方向の磁気吸引力が、上流側の上記ロータと上記ステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きいことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、ステータの軸方向の両側にロータが配置されているので、ロータより製造が困難でかつ高価な銅を用いるステータが1つでよく、生産性の向上と低コスト化が図れる。
また、一実施形態の圧縮機は、下流側の上記ロータと上記ステータとの間の上記エアギャップの長さが、上流側の上記ロータと上記ステータとの間の上記エアギャップの長さよりも短いことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、下流側のロータとステータとの間のエアギャップの長さを、上流側のロータとステータとの間のエアギャップの長さよりも短くすることによって、下流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、上流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。また、アキシャルギャップ型モータでは、ロータとステータとが対向する面が平面であるので、下流側のロータとステータとの間および上流側のロータとステータとの間のエアギャップの長さの調整が精度よく容易にでき、製造が容易にできる。特に、エアギャップを挟んでロータの磁心とステータの磁心が対向する場合は、より有効である。
また、一実施形態の圧縮機は、下流側の上記ロータと上流側の上記ロータに磁石を夫々有し、下流側の上記ロータの磁石の厚みが、上流側の上記ロータの磁石の厚みよりも厚いことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、下流側のロータの磁石の厚みを、上流側のロータの磁石の厚みよりも厚くすることによって、下流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、上流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。磁石の製造方法にもよるが、特に、磁場配向の方向に直交する面で切断して製造するような場合、所望の厚さの磁石の製造が容易にできる。また、ボンド磁石(結合材により磁石粉末を結合させた磁石)でも容易に製造できる。
また、一実施形態の圧縮機は、下流側の上記ロータと上流側の上記ロータに磁石を夫々有し、下流側の上記ロータの磁石の上記エアギャップに対向する磁極面積が、上流側の上記ロータの磁石の上記エアギャップに対向する磁極面積よりも広いことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、下流側のロータの磁石の下流側のエアギャップに対向する磁極面積を、上流側のロータの磁石の上流側のエアギャップに対向する磁極面積よりも広くすることによって、下流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力が、上流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。また、ステータに鎖交させる磁束を直接変化させることができるので、所望のスラスト力を発生させることが容易にできる。
また、一実施形態の圧縮機は、下流側の上記ロータと上流側の上記ロータに磁石を夫々有し、下流側の上記ロータの磁石の上記エアギャップに対向する残留磁束密度または最大エネルギー積が、上流側の上記ロータの磁石の上記エアギャップに対向する残留磁束密度または最大エネルギー積よりも大きいことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、下流側のロータの磁石の下流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)を、上流側のロータの磁石の上流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)よりも大きくすることによって、下流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力が、上流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。また、動作点磁束密度を変化させることで、ステータに鎖交させる磁束を直接変化させることができるので、所望のスラスト力を発生させることが容易にできる。
また、この発明の他の実施形態の圧縮機は、上記ロータの軸方向の両側に上記ステータが夫々配置され、上記ロータと上流側の上記ステータとの間の軸方向の磁気吸引力が、上記ロータと下流側の上記ステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きいことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、ロータの軸方向の両側にステータが配置されているので、鎖交磁束が増大して、出力が向上する。
また、一実施形態の圧縮機は、上記ロータが、上流側の上記ステータおよび下流側の上記ステータに近接した磁石を有することを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、磁石の両面の磁束を両側のステータに夫々鎖交させることができるため、磁石の数が少なくて済み、コストを低減できる。なお、磁石の表面にヘッドコアがあってもよく、要するに、磁石の両面の磁束をそれぞれの側のステータに鎖交させればよい。
また、一実施形態の圧縮機は、上記ロータが、磁性板と、上記磁性板の軸方向の両側に固定された磁石とを有し、上記ロータの上流側の磁石が上流側の上記ステータに近接する一方、上記ロータの下流側の磁石が下流側の上記ステータに近接することを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、磁石のロータへの固定が容易で、回転軸への保持も容易である。また、ロータの両側の磁極分布をずらすことでスキュー効果を持たせることも可能である。なお、磁石の表面にヘッドコアがあってもよく、要するに、磁石の片側の磁束のみをそれぞれのステータに鎖交させればよい。
また、一実施形態の圧縮機は、上記ロータと上流側の上記ステータとの間の上記エアギャップの長さが、上記ロータと下流側の上記ステータとの間の上記エアギャップの長さよりも短いことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、ロータと上流側のステータとの間のエアギャップの長さを、ロータと下流側のステータとの間のエアギャップの長さよりも短くすることによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。また、ロータと上流側のステータとの間およびロータと下流側のステータとの間のエアギャップの長さの調整が容易にでき、製造が容易にできる。また、アキシャルギャップ型モータは、ロータとステータとが対向する面が平面であるので、エアギャップの長さを精度よく設定できる。特に、エアギャップを挟んでロータの磁心とステータの磁心が対向する場合は、より有効である。
また、一実施形態の圧縮機は、上記ロータは、磁性板と、上記磁性板の軸方向の両側に固定された磁石とを有し、上記ロータの上流側の上記磁石の厚みが、上記ロータの下流側の上記磁石の厚みよりも厚いことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、ロータの上流側のステータに近接した上記磁石の厚みを、ロータの下流側のステータに近接した磁石の厚みよりも厚くすることによって、ロータと上流側ステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。磁石の製造方法にもよるが、特に、磁場配向の方向に直交する面で切断して製造するような場合、所望の厚さの磁石の製造が容易にできる。また、ボンド磁石(結合材により磁石粉末を結合させた磁石)でも容易に製造できる。
また、一実施形態の圧縮機は、上記ロータは、磁性板と、上記磁性板の軸方向の両側に固定された磁石とを有し、上記ロータの上流側の上記磁石の上記エアギャップに対向する磁極面積が、上記ロータの下流側の上記磁石の上記エアギャップに対向する磁極面積よりも広いことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、ロータの上流側の磁石の上流側のエアギャップに対向する磁極面積を、ロータの下流側の磁石の下流側のエアギャップに対向する磁極面積よりも広くすることによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。また、ステータに鎖交させる磁束を直接変化させることができるので、所望のスラスト力を発生させることが容易にできる。
また、一実施形態の圧縮機は、上記ロータは、磁性板と、上記磁性板の軸方向の両側に固定された磁石とを有し、上記ロータの上流側の上記磁石の上記エアギャップに対向する残留磁束密度または最大エネルギー積が、上記ロータの下流側の上記磁石の上記エアギャップに対向する残留磁束密度または最大エネルギー積よりも大きいことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、ロータの上流側の磁石の上流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)を、ロータの下流側の磁石の下流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)よりも大きくすることによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。また、動作点磁束密度を変化させることで、ステータに鎖交させる磁束を直接変化させることができるので、所望のスラスト力を発生させることが容易にできる。
また、一実施形態の圧縮機は、上流側の上記ステータのアンペアターンが、下流側の上記ステータのアンペアターンよりも大きいことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、上流側の上記ステータのアンペアターンを、下流側の上記ステータのアンペアターンよりも大きくすることによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。また、磁石の形状を複数有することなく、上流側と下流側でステータのコイルの巻数または電流を異ならせることによって、スラスト力を発生させることができると共に、出力に応じて容易にスラスト力を調整できる。
また、一実施形態の圧縮機は、下流側の上記ステータの磁気抵抗が、上流側の上記ステータの磁気抵抗よりも大きいことを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、下流側の上記ステータの磁気抵抗を、上流側の上記ステータの磁気抵抗よりも大きくすることによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。例えば、ステータのバックヨークの厚みを変えるだけで良く、軸方向の磁気吸引力を弱くしたい側のステータのバックヨークを薄くして飽和させることで実現できる。この場合、使用材料の削減により重量を低減でき、全長を短くすることもできる。
また、一実施形態の圧縮機は、上記アキシャルギャップ型モータが上記密閉容器内の高圧側に配置されていることを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、アキシャルギャップ型モータが密閉容器内の高圧側に配置された高圧ドーム型は、密閉容器内の圧力や密度も高く、打ち消すべき差圧も大きいため、圧縮機構部の固定部分と可動部分の接触部分の摺動損失を最低限にすることができ、高い圧縮効率を実現できる。
また、一実施形態の圧縮機は、上記ステータまたは上記ロータの少なくとも一方に上流側から下流側に貫通するガス通路を設け、上記ステータと上記ロータとの間のエアギャップおよび上記ガス通路をガスが通ることを特徴とする。
上記実施形態の圧縮機によれば、ステータまたはロータの少なくとも一方に設けられたガス通路、および、ステータとロータとの間のエアギャップをガスが通ることによって、エアギャップを介してステータと対向するロータ表面に直接ガス圧が働き、ガス圧が作用する面も大であるため、打ち消すべきガス圧も大きくなるが、このような圧縮機において、特に本発明の効果が大きい。
以上より明らかなように、この発明の圧縮機によれば、アキシャルギャップ型モータを用いて小型化を図りつつ、簡単な構成でガス圧とスラスト力が互いに打ち消し合うようにしてロータに軸方向に働く力を低減でき、信頼性と圧縮効率を向上できる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、ステータの軸方向の両側にロータが夫々配置されているので、ロータより製造が困難でかつ高価な銅を用いるステータが1つでよく、生産性の向上と低コスト化を図ることができる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、下流側のロータとステータとの間のエアギャップの長さを、上流側のロータとステータとの間のエアギャップの長さよりも短くすることによって、下流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、上流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。また、同じ形態のロータを、単にエアギャップを異ならせて配置させるだけで構成できるため、ロータ部品の点数を削減できる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、下流側のロータの磁石の厚みを、上流側のロータの磁石の厚みよりも厚くすることによって、下流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、上流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、下流側のロータの磁石の下流側のエアギャップに対向する磁極面積を、上流側のロータの磁石の上流側のエアギャップに対向する磁極面積よりも広くすることによって、下流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、上流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、下流側のロータの磁石の下流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)を、上流側のロータの磁石の上流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)よりも大きくすることによって、下流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、上流側のロータとステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。
また、この発明の他の実施形態の圧縮機によれば、ロータの軸方向の両側にステータが夫々配置されていることによって、鎖交磁束が増大して、出力を向上できる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、上記ロータが、上流側の上記ステータおよび下流側の上記ステータに近接した磁石を有するので、磁石の両面の磁束を両側のステータに夫々鎖交させることができ、磁石の数が少なくて済み、コストを低減することができる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、上記ロータが、磁性板と、上記磁性板の軸方向の両側に固定された磁石とを有し、上記ロータの上流側の磁石が上流側の上記ステータに近接する一方、上記ロータの下流側の磁石が下流側の上記ステータに近接するので、磁石のロータへの固定や回転軸への保持も容易にできる。さらに、1のロータで、上下の磁気回路を独立とできるため、磁気吸引力の差をより容易に設けることが可能である。
また、一実施形態の圧縮機によれば、ロータと上流側のステータとの間のエアギャップの長さを、ロータと下流側のステータとの間のエアギャップの長さよりも短くすることによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、ロータの上流側の上記磁石の厚みを、ロータの下流側の磁石の厚みよりも厚くすることによって、ロータと上流側ステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、ロータの上流側の磁石の上流側のエアギャップに対向する磁極面積を、上ロータの下流側の磁石の下流側のエアギャップに対向する磁極面積よりも広くすることによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、ロータの上流側の磁石の上流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)を、ロータの下流側の磁石の下流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)よりも大きくすることによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、上流側の上記ステータのアンペアターンを、下流側の上記ステータのアンペアターンよりも大きくすることによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。また、磁石の形状を複数有することなく、上流側と下流側でステータのコイルの巻数または電流を異ならせることによって、スラスト力を発生させることができると共に、出力に応じて容易にスラスト力を調整できる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、下流側の上記ステータの磁気抵抗が、上流側の上記ステータの磁気抵抗よりも大きくすることによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、アキシャルギャップ型モータが密閉容器内の高圧側に配置された高圧ドーム型であれば、密閉容器内の圧力や密度も高く、打ち消すべき差圧も大きいため、圧縮機構部の固定部分と可動部分の接触部分の摺動損失を最低限にすることができ、高い圧縮効率を実現することができる。
また、一実施形態の圧縮機によれば、ステータまたはロータの少なくとも一方に設けられたガス通路、および、ステータとロータとの間のエアギャップをガスが通る圧縮機において、ロータの表面に直接ガス圧が働き、ガス圧が作用する面も大であるため、打ち消すべき差圧も大きくなっても、ロータに働くスラスト力とガス圧を効果的に低減することができる。
以下、この発明の圧縮機を図示の実施の形態により詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1はこの発明の第1実施形態の圧縮機の断面図を示している。この第1実施形態の圧縮機は、高圧ドーム型であり、ロータとステータとの間のエアギャップ長が異なる。
この第1実施形態の圧縮機は、図1に示すように、密閉容器1と、上記密閉容器1内に配置された圧縮機構部2と、上記密閉容器1内かつ圧縮機構部2の上側に配置され、圧縮機構部2を回転軸4を介して駆動するアキシャルギャップ型モータ3とを備えている。上記密閉容器1の下側側方に、吸入管11を接続する一方、密閉容器1の上側に吐出管12を接続している。上記吸入管11から供給される冷媒ガスは、圧縮機構部2の吸込側に導かれる。
上記アキシャルギャップ型モータ3は、密閉容器1内側に外周側の一部が固定され、中央部を回転軸4が貫通するステータ40と、上記ステータ40の軸方向の上側に配置され、回転軸4に外嵌して固定された上側ロータ30A(下流側)と、上記ステータ40の軸方向の下側に配置され、回転軸4に外嵌して固定された下側ロータ30B(上流側)とを有する。上記上側ロータ30Aと下側ロータ30Bが固定された回転軸4の下端側を圧縮機構部2に連結している。
また、上記圧縮機構部2は、シリンダ状の本体部20と、この本体部20の上下の開口端のそれぞれに取り付けられた上端板8および下端板9とを備える。上記回転軸4は、上記上端板8および下端板9を貫通して、本体部20の内部に挿入されている。上記回転軸4は、圧縮機構部2の上端板8に設けられた軸受21と、圧縮機構部2の下端板9に設けられた軸受22により回転自在に支持されている。上記本体部20内の回転軸4にクランクピン5が設けられ、そのクランクピン5に嵌合され駆動されるピストンとそれに対応するシリンダとの間に形成された圧縮室7により圧縮を行う。ピストンは偏芯した状態で回転し、または、公転運動を行い、圧縮室の容積を変化させる。
上記構成の圧縮機において、アキシャルギャップ型モータ3を回転させることにより圧縮機構部2を駆動すると、吸入管11から圧縮機構部2に冷媒ガスが供給され、圧縮機構部2で冷媒ガスを圧縮する。そうして圧縮機構部2で圧縮された高圧冷媒ガスは、圧縮機構部2の吐出ポート23より密閉容器1内に吐出され、回転軸4の周りに設けられた溝(図示せず)、ステータ40および上側ロータ30A,下側ロータ30Bの内部を軸方向に貫通する穴(図示せず)、ステータ40および上側ロータ30A,下側ロータ30Bの外周部と密閉容器1の内面との間の空間等を通ってアキシャルギャップ型モータ3の上部空間に運ばれた後、吐出管12を介して密閉容器1の外部に吐出される。
このとき、上側ロータ30A,下側ロータ30Bには、上流側と下流側との静圧の差により軸方向上側に向かって力が働く。また、上側ロータ30A,下側ロータ30Bの軸方向に対して垂直な面には、上側に向かって冷媒ガスの流れによる圧力が作用する。この圧縮機は、高圧ドーム型であるので、密閉容器1内部の圧力も高く、アキシャルギャップ型モータ3の上流側と下流側の静圧の差は大となる。特に、この圧縮機では、下側ステータ40に圧縮機構部2から吐出された高圧冷媒ガスが直接作用する。
図2は上記上側ロータ30Aの斜視図を示している。なお、下側ロータ30Bも、上側ロータ30Aと同様の構成をしている(上下が逆)。
図2に示すように、上側ロータ30Aは、中央孔31aを有する磁性体からなる円板形状のバックヨーク31と、バックヨーク31のステータ40に対向する面側に、円周に沿って配列された扇形状の4つの永久磁石32と、中央孔33aを有する円板形状の磁性板33とを重ね合わせて形成している。また、上記磁性板33には、放射状に4つのスリット33bを設け、スリット33b間に各永久磁石32を周方向に所定の間隔をあけて配置すると共に、バックヨーク31には、磁性板33のスリット33bに対向する領域かつ中央孔31a近傍に円孔31bを設けている。上記磁性板33のスリット33bと、永久磁石32間の空間と、バックヨーク31の円孔31bで、冷媒ガスが軸方向に流れるガス通路を形成している。
上側ロータ30A,下側ロータ30Bは、4つの永久磁石32を円周方向に磁極が交互になるように配置している。なお、ステータ40は、軸方向に磁束が発生するため、ステータ40を介して対向する上側ロータ30A,下側ロータ30Bの永久磁石32のステータに対向する面の磁極は反対の極性である。また、上側ロータ30A,下側ロータ30Bにおいて、各磁性板33のスリット33bによって、4つの永久磁石32を互いに磁気的に絶縁している。
また、ステータ40は、複数の磁心まわりに直接アキシャルコイルを巻回している。例えば、4極の場合、磁心およびコイルはそれぞれ6つあり、ラジアルギャップ型モータの集中巻4極6スロットに相当する。すなわち、6のコイルは円周方向に、U相、V相、W相、U相、V相、W相の順に配置される。なお、上記6つの磁心は、互いに磁気的に独立であるため、軸方向両側に配置された磁性板に接続されている。この磁性板には、磁心に対向する領域間が磁気的に絶縁されるようにスリットを夫々設けている。上記アキシャルコイルは、例えば3相スター結線され、インバータから電流が供給される。
上記ステータ40と上側ロータ30Aとの間のエアギャップおよびステータ40と下側ロータ30Bとの間のエアギャップにおいて、ステータ40の磁性板と上側ロータ30A,下側ロータ30Bの磁性板33同士が近接して対向しているため、軸方向の磁気吸引力は大きくなる。
さらに、上側ロータ30A(下流側)とステータ40との間のエアギャップの長さL1を、下側ロータ30B(上流側)とステータ40との間のエアギャップの長さL2よりも短くすることにより、上側ロータ30Aが下側ロータ30Bよりも強くステータ40に引きつけられる。したがって、上側ロータ30Aと下側ロータ30Bには、軸方向下側に向かってスラスト力が働く。このスラスト力と、密閉容器1内の冷媒ガスの流れによって上流側と下流側とで上側ロータ30Aと下側ロータ30Bの端面に作用する冷媒ガスの差圧とが少なくとも部分的に相殺され、上側ロータ30A,下側ロータ30Bに働くスラスト力をキャンセル、または、極めて小さくすることによって、スラスト力による音や軸受の磨耗、軸受の摺動損失を低減することができる。
なお、エアギャップの長さを調整せずに、ロータの上流側の磁石の上流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)を、ロータの下流側の磁石の下流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)よりも大きくしてもよい。これによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。
ここで、ステータ40の磁性板や上側ロータ30A,下側ロータ30Bの磁性板33は必須ではないが、ステータ40の磁性板は、各磁心を固定する役割のみならず、上側ロータ30A,下側ロータ30Bの磁束をより広く集める役割をも担っている。また、上側ロータ30A,下側ロータ30Bの磁性板33は、減磁防止のほかに、d軸インダクタンス(ロータの極性が異なる磁極(すなわち、円周方向に互いに隣接する磁極)の磁極中心相互間をバックヨーク31を経由する磁路のインダクタンス)とq軸インダクタンス(円周方向に互いに隣接する磁極の境界と、バックヨーク31を経由する磁路のインダクタンス)の差を設ける形状にすることで、リラクタンストルクを有効に利用することも可能となる。
(第2実施形態)
図3はこの発明の第2実施形態の圧縮機に用いられるアキシャルギャップ型モータの分解斜視図を示している。この第2実施形態の圧縮機は、アキシャルギャップ型モータを除いて第1実施形態の圧縮機の構成と同一の構成をしており、同一構成部については図と説明を省略する。この第2実施形態の圧縮機は、高圧ドーム型であり、ロータの永久磁石の厚みが異なる。
図3に示すように、この第2実施形態の圧縮機のアキシャルギャップ型モータは、ステータ140と、上記ステータ140の軸方向の上側に配置された上側ロータ130Aと、上記ステータ140の軸方向の下側に配置された下側ロータ130Bとを有する。上側ロータ130Aは、中央孔81aを有する磁性体からなる円板形状のバックヨーク81と、上記バックヨーク81のステータ140に対向する面側に、円周に沿って配列された扇形状の4つの永久磁石82とを重ね合わせて形成している。また、下側ロータ130Bは、中央孔81aを有する磁性体からなる円板形状のバックヨーク81と、上記バックヨーク81のステータ140に対向する面側に、上記バックヨーク81のステータ140に対向する面側に、円周に沿って配列された扇形状の4つの永久磁石87とを重ね合わせて形成している。また、上記バックヨーク81には、周方向に配列された永久磁石82間の空間に対向する領域かつ中央孔81a近傍に円孔81bを設けている。ステータ140にも、回転軸が貫通する中央孔の近傍に円孔(図示せず)を設けている。上記永久磁石82間の空間と、永久磁石87間の空間と、バックヨーク81の円孔81bと、ステータ140の円孔で冷媒ガスが軸方向に流れるガス通路を形成している。
また、上記ステータ140は、図3に示すように複雑な形をしているが、単純には、軸方向に伸びた複数の磁心86に跨ってコイル85を巻回している(磁心群84に巻回)。これにより、それぞれの磁心の表面には、1つのコイルが磁極を構成するか、または2つのコイルが協働して磁極を構成する。また、V相とW相が協働した場合、U相、V相、W層それぞれの電流の和は0となるため、−U相磁極を構成する。従って、ステータに流れる電流による磁束も4極の磁極を呈する。図1の場合に比べ、磁心の表面に発生する磁極は、U,V,Wの3通りではなく、U,V,Wのほかにこれらの相のうち2つの相が協働してなす極を含め、6通りの状態が存在する。これにより、磁束の変化が滑らかになり、振動や騒音を低減する作用を有する。これは、いわゆる4極12スロットの分布巻と同一の構成である。
上記ステータ140の磁心86は、計12あるが、片側で1つのコイルに囲まれた3つの磁心86は合体させたり、モールド等により接続されたりしている。なお、磁心86を24設け、コイルはU相、V相、W相それぞれ4ずつ、5の磁心ピッチにて巻回してもよい。これは、いわゆる4極24スロットの分布巻と同一の構成である。
図4に示すように、上側ロータ130Aの永久磁石82の厚みL3を、下側ロータ130Bの永久磁石87の厚みよりも厚くすることにより、上側ロータ130Aは、動作点磁束密度が高くなり、軸方向の磁気吸引力が大きくなるので、上側ロータ130Aが下側ロータ130Bよりも強くステータ140に引きつけられる。したがって、上側ロータ130Aと下側ロータ130Bには、軸方向下側に向かってスラスト力が働く。このスラスト力と、上側ロータ130A,下側ロータ130Bの端面に作用する冷媒ガスの差圧とが少なくとも部分的に相殺され、スラスト力をキャンセル、または、極めて小さくすることによって、スラスト力による音や軸受の磨耗、軸受の摺動損失を低減することができる。
(第3実施形態)
図5はこの発明の第3実施形態の圧縮機に用いられるアキシャルギャップ型モータの分解斜視図を示しており、この発明の第3実施形態の圧縮機は、高圧ドーム型であり、ロータの永久磁石の磁極面積が異なる。なお、この第3実施形態の圧縮機は、ロータとステータを除いて第1実施形態の圧縮機と同一の構成をしており、図と説明を省略する。
図5に示すように、この第2実施形態の圧縮機のアキシャルギャップ型モータは、ステータ240と、上記ステータ240の軸方向の上側に配置された上側ロータ230Aと、上記ステータ240の軸方向の下側に配置された下側ロータ230Bとを有する。上側ロータ230Aは、中央孔91aを有する磁性体からなる円板形状のバックヨーク91と、上記バックヨーク91のステータ240に対向する面側に、円周に沿って配列された扇形状の4つの永久磁石92とを重ね合わせて形成している。また、下側ロータ230Bは、中央孔91aを有する磁性体からなる円板形状のバックヨーク91と、上記バックヨーク91のステータ240に対向する面側に、円周に沿って配列された扇形状の4つの永久磁石97とを重ね合わせて形成している。また、上記バックヨーク91には、周方向に配列された永久磁石92間の空間に対向する領域かつ中央孔91a近傍に円孔91bを設けている。ステータ240にも、回転軸が貫通する中央孔の近傍に円孔(図示せず)を設けている。上記永久磁石92間の空間と、永久磁石97間の空間と、バックヨーク91の円孔91bと、ステータ240の円孔で冷媒ガスが軸方向に流れるガス通路を形成している。
上記ステータ240は、図5に示すように、軸方向に伸びた複数の磁心96に跨ってコイル95を巻回している(磁心群94に巻回)。
図6に示すように、上側ロータ230Aの4つの永久磁石92が形成する円形の直径L5を、下側ロータ230Bの4つの永久磁石97が形成する円形の直径L6よりも大きくしている。このように、上側ロータ230A(下流側) の永久磁石92の磁極面積を下側ロータ230B(上流側) の永久磁石97の磁極面積をよりも広くすることによって、上側ロータ230Aとステータ240との間の軸方向の磁気吸引力が大きくなるので、上側ロータ230Aが下側ロータ230Bよりも強くステータ240に引きつけられる。したがって、上側ロータ230Aと下側ロータ230Bには、軸方向下側に向かってスラスト力が働く。このスラスト力と、上側ロータ230A,下側ロータ230Bの端面に作用する冷媒ガスの差圧とが少なくとも部分的に相殺され、スラスト力をキャンセル、または、極めて小さくすることによって、スラスト力による音や軸受の磨耗、軸受の摺動損失を低減することができる。
図1〜図6に示す第1〜第3実施形態の圧縮機に用いられるアキシャルギャップ型モータのステータであれば、巻線が容易で占積率も高くできるので、容易にモータ効率を向上でき、圧縮効率を向上させることができる。
さらに、図7は上記第1〜第3実施形態の圧縮機において置き換えが可能なアキシャルギャップ型モータの斜視図を示している。
図7に示すように、このアキシャルギャップ型モータは、ステータ340と、上記ステータ340の軸方向の上側に配置された上側ロータ330Aと、上記ステータ340の軸方向の下側に配置された下側ロータ330Bとを有する。上側ロータ330Aは、中央孔101aを有する磁性体からなる円板形状のバックヨーク101と、円周に沿って配列された略半円形状の2つの永久磁石102とを重ね合わせて形成している。下側ロータ330Bも、同様に、バックヨーク101と、2つの永久磁石102とを重ね合わせて形成している。
また、上記ステータ340のコイル104は、中央孔103aを有する円環(リング)形状の磁心103の周りにトロイダル状に巻回されている。このコイル104に電流を流すことにより、磁心103内部に円周方向に磁束を発生させる。隣接するコイル104に流れる電流により発生する磁束の差により、その間に磁極を発生させる。
上記コイル104がトロイダル状に巻回されたステータ340は、図7に示すようにエアギャップを2面設ける場合であっても、エアギャップ1面の場合と同一の巻線でよく、巻線の周長を短くすることができるため、銅量の低減や巻線抵抗の低減に寄与し、さらには、エアギャップ磁束の円周方向の変化および時間的変化が滑らかであるため、振動や騒音を低減することも可能である。
(第4実施形態)
図8はこの発明の第4実施形態の圧縮機の断面図を示している。この第4実施形態の圧縮機は、アキシャルギャップ型モータを除いて第1実施形態の圧縮機の構成と同一の構成をしており、同一構成部については図と説明を省略する。この圧縮機は、高圧ドーム型であり、2つのステータのアンペアターンが異なる。
図8に示すように、アキシャルギャップ型モータは、ロータ50と、上記ロータ50の軸方向の上側に配置された上側ステータ60Aと、上記ロータ50の軸方向の下側に配置された下側ステータ60Bとを有する。上記ロータ50は、図2に示す永久磁石32を、その永久磁石32の軸方向両側から磁性板33で挟むように重ね合わせて形成している。
また、図9は上記下側ステータ60Bの斜視図を示している。なお、上側ステータ60Aは、下側ステータ60Bと同様の構成をしている(上下が逆)。
図9に示すように、下側ステータ60Bは、中央孔61aを有する円板形状の磁性板61と、磁性体からなる基板63と、上記基板63上に円周に沿って立設された6つの磁心64に巻回されたコイル62とを有している。一方、上側ステータ60Aは、コイル62と磁心64の厚みが薄いのを除いて下側ステータ60Bと同じ構成をしている。上記上側ステータ60A,下側ステータ60Bの各磁性板61には、複数の磁心64を互いに磁気的に絶縁するためのスリット61bを放射状に設けている。
上側ステータ60A,下側ステータ60Bは、軸方向に伸びた磁心64まわりに直接アキシャルコイルが巻回されている。上記6つの磁心64は、基板63によって互いに磁気的に接続され、基板63と反対側(ロータに対向する側)では、磁性体61により接続されている。上記コイル62は、例えば3相スター結線され、インバータから電流を供給する。
上側ステータ60A,下側ステータ60B夫々のロータ50に対向する位置には、互いに逆の極性が発生するようにコイル62が巻回される。すなわち、軸方向の一方の方向から見て同一方向に巻回されたコイルが設けられることになる。
また、上側ステータ60Aに比べて、下側ステータ60Bのほうがアンペアターンを増やしている。例えば、線径同一で巻数を変化させている。図8では、上側ステータ60A(下流側)のコイル厚L7よりも下側ステータ60B(上流側)のコイル厚L8が厚くなっている。
この場合、例えば、上側ステータ60A,下側ステータ60Bの同一相のコイル62を直列結線すれば、電流が同一で巻数が異なるので、下側ステータ60Bのアンペアターンのほうが大きくなり、ロータ50が下側ステータ60Bにより強く吸引される。したがって、ロータ50には、軸方向下側に向かってスラスト力が働く。このスラスト力と、上側ステータ60A,下側ステータ60Bの端面に作用する冷媒ガスの差圧とが少なくとも部分的に相殺され、スラスト力をキャンセル、または、極めて小さくすることによって、スラスト力による音や軸受の磨耗、軸受の摺動損失を低減することができる。上側ステータ60Aと下側ステータ60Bの巻線のうち、同一相のものを並列に接続する場合は、巻数同一で線径を異ならせれば、電流値が異なるため、巻数が同一でもアンペアターンを異ならせることが可能である。前記いずれの方法も、モータを駆動するインバータは1でよい。
上記アキシャルギャップ型モータでは、ロータ50の永久磁石の両面で上側ステータ60A,下側ステータ60Bの磁束が夫々鎖交するため、トルクが向上する。
上記ロータ50と上側ステータ60Aとの間のエアギャップおよびロータ50と下側ステータ60Bとの間のエアギャップにおいて、ロータ50の磁性板と上側ステータ60A,下側ステータ60Bの磁性板61同士が近接して対向しているため、軸方向の磁気吸引力は大きくなる。
その他の作用は、第1実施形態の圧縮機と同様である。
なお、この第4実施形態の圧縮機のようにロータの軸方向の両側に2つのステータが配置されたアキシャルギャップ型モータにおいて、ロータと上流側のステータとの間のエアギャップの長さを、ロータと下流側のステータとの間のエアギャップの長さよりも短くしたり、ロータの上流側のステータに近接した上記磁石の厚みを、ロータの下流側のステータに近接した磁石の厚みよりも厚くしたり、ロータの上流側の磁石の上流側のエアギャップに対向する磁極面積を、ロータの下流側の磁石の下流側のエアギャップに対向する磁極面積よりも広くしたり、ロータの上流側の磁石の上流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)を、ロータの下流側の磁石の下流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)よりも大きくしたりしてもよい。これによって、ロータと上流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力を、ロータと下流側のステータとの間の軸方向の磁気吸引力よりも大きくすることができる。
なお、図10に別の構成例のロータ70の分解斜視図を示している。このロータ70は、図10に示すように、中央孔73aを有する磁性体からなる円板形状のバックヨーク73の軸方向の一方の側に、扇形状の2つの永久磁石72を円周に沿って配列し、バックヨーク73の軸方向の他方の側に、扇形状の2つの永久磁石72を円周に沿って配列している。上記バックヨーク73の両側の永久磁石72を対向する位置に配置している。上記バックヨーク73の両側には、周方向に配列された2つの永久磁石72の間の領域に磁性体74を設けている。上記永久磁石72が配列されたバックヨーク73の軸方向両側から、中央孔71aを有する円板形状の磁性板71により挟んで、バックヨーク73と永久磁石72および磁性板71を重ね合わせている。また、上記磁性板71には、放射状に4つのスリット71bを設け、スリット71b間に永久磁石72と磁性体74を交互に配置している。
上記ロータ70の構成では、永久磁石72の固定が容易にでき、ロータ70を回転軸に保持することも容易にできる。また、ロータ70の両側の磁極分布をずらすことによってスキュー効果を持たせることも可能である。なお、バックヨーク73の軸方向両側の永久磁石72の磁極は、同一でも反対でもよいが、磁極がいずれであるかによって、ステータのコイルの配置が異なる。両側の磁極が同一である場合は、バックヨーク73の厚みが重要であるが、反対である場合は、バックヨーク73は、軸方向のみに磁束を通せば十分である。また、上記ロータ70では、上側ステータに作用する磁石と下側ステータに作用する磁石とが独立であるため、軸方向の力を発生する手段が、磁石の厚み、磁極面積、最大エネルギー積などを変えるものでも可能である。この場合、両側の永久磁石の磁極は同一のほうがより効果があるが、両側の永久磁石の磁極が反対であってもよい。
(第5実施形態)
図11はこの発明の第5実施形態の圧縮機に用いられるアキシャルギャップ型モータの側面図を示している。この第5実施形態の圧縮機は、アキシャルギャップ型モータを除いて第1実施形態の圧縮機の構成と同一の構成をしており、同一構成部については図と説明を省略する。この圧縮機は、高圧ドーム型であり、アキシャルギャップ型モータの2つのステータの磁気抵抗が異なる。
図11に示すように、下側ステータ160Bのバックヨーク厚L10を、上側ステータ160Aのバックヨーク厚L9よりも厚くしている。さらに、上側ステータ160Aのバックヨークは、容易に磁気飽和を発生するような厚みであれば、結果的に上側ステータ160Aの表面に現れる磁束が少なくなるため、ロータ150が下側ステータ160Bにより強く吸引される。
この第5実施形態の圧縮機では、ステータのバックヨーク厚を変えるだけで良く、軸方向の磁気吸引力を弱くしたい側のステータのバックヨークを薄くして飽和させることで実現でき、この場合、使用材料を削減でき、重量を低減できると共に全長を短くすることもできる。
(第6実施形態)
図12はこの発明の第6実施形態の圧縮機の断面図を示しており、この圧縮機は、低圧ドーム型であり、アキシャルギャップ型モータの2つのロータの磁石の厚みが異なる。
図12に示すように、この第6実施形態の圧縮機は、密閉容器201と、上記密閉容器201内に配置された圧縮機構部202と、上記密閉容器201内かつ圧縮機構部202の下側に配置され、圧縮機構部202を回転軸204を介して駆動するアキシャルギャップ型モータ203とを備えている。
上記アキシャルギャップ型モータ203は、密閉容器201内の圧縮機構部202の吸込側の低圧空間に配置されている。この圧縮機は、いわゆる、低圧ドーム型である。
上記アキシャルギャップ型モータ203は、ステータ240と、このステータ240の軸方向両側に配置された上側ロータ230A,下側ロータ230Bとを有している。この上側ロータ230A,下側ロータ230Bを回転軸204に外嵌して固定し、上側ロータ230A,下側ロータ230Bの回転力を回転軸204を介して圧縮機構部202に伝達する。
また、上記圧縮機構部202は、密閉容器201内に取り付けられた本体部220と、本体部220に固定された固定スクロール224と、その固定スクロール224に噛み合う旋回スクロール223とを有する。上記固定スクロール224と旋回スクロール223は、鏡板に立設された渦捲き状のラップを夫々有し、固定スクロール224と旋回スクロール223とが互いに噛み合って複数の圧縮室225を形成する。上記旋回スクロール223は、アキシャルギャップ型モータ203の回転軸204の上端に接続され、回転軸204の回転により旋回する。
上記本体部220は、挿通された回転軸204の上端側を回転自在に支持している。上記密閉容器201内かつアキシャルギャップ型モータ203の下側に、回転軸204の下端側を回動自在に支持する保持部205が設けられている。
また、上記本体部220は、下側の低圧空間と圧縮室225とを連通する吸入孔221を有し、固定スクロール224は、上側の高圧空間と圧縮室225とを連通する吐出孔226を有する。
上記密閉容器201の下側側面には、アキシャルギャップ型モータ203の下側ロータ230Bの近傍に吸入管211を接続する一方、密閉容器201の上部に吐出管212を接続している。
上記構成の圧縮機において、アキシャルギャップ型モータ203により回転軸204を介して圧縮機構部202を駆動すると、吸入管211から供給された冷媒ガスは、アキシャルギャップ型モータ203を冷却しながらアキシャルギャップ型モータ203のエアギャップや軸方向に設けられたガス通路(図示せず)を通過し、吸入孔221を介して供給された冷媒ガスを圧縮機構部202で圧縮する。そうして圧縮された冷媒ガスは、圧縮機構部202の吐出孔226から上部空間に吐出され、吐出管212を介して密閉容器201の外部に吐出される。
このとき、上側ロータ230A,下側ロータ230Bには、上流側と下流側との静圧の差により軸方向上側に向かって力が働く。また、上側ロータ230A,下側ロータ230Bの軸方向に対して垂直な面には、上側に向かって冷媒ガスの流れによる圧力が作用する。
上記アキシャルギャップ型モータ203については、図3に示すアキシャルギャップ型モータと同様に、上側ロータ230Aの永久磁石の厚みL11を、下側ロータ230Bの永久磁石の厚みL12よりも厚くしている。これにより、上側ロータ230Aが下側ロータ230Bよりも強くステータ240に引きつけられる。したがって、上側ロータ230Aと下側ロータ230Bには、軸方向下側に向かってスラスト力が働く。このスラスト力と、上側ロータ230A,下側ロータ230Bの端面に作用する冷媒ガスの差圧とが少なくとも部分的に相殺され、スラスト力をキャンセル、または、極めて小さくすることによって、スラスト力による音や軸受の磨耗、軸受の摺動損失を低減することができる。
上記第1〜第6実施形態では、ロータリー圧縮機およびスクロール圧縮機について説明したが、この発明の圧縮機はこれに限らず、密閉容器と、密閉容器内に配置された圧縮機構部と、密閉容器内に配置され、圧縮機構部を回転軸を介して駆動するアキシャルギャップ型モータとを備え、アキシャルギャップ型モータは、磁性体にコイルが巻回されたステータと、回転軸に固定され、ステータにより回転駆動するロータとを有するものであればよい。
また、上記第1〜第6実施形態では、ロータと回転軸の自重の影響については言及していないが、ロータと回転軸の自重が軸方向に作用する場合は、ステータとロータとの間の磁気力によりロータに軸方向に働く静圧の差をキャンセルするときに、ロータと回転軸の自重の影響もキャンセルされるようにするのが望ましい。
また、上記第1〜第6実施形態では、アキシャルギャップ型モータに永久磁石を用いたが、他の磁石であってもよい。しかしながら、永久磁石を用いた方が、磁束密度が高くなって出力が向上し、効率が向上するので好ましい。
なお、この発明の圧縮機に用いられるアキシャルギャップ型モータのステータやロータの構成は、この第1〜第6実施形態に限らない。また、この発明の圧縮機に用いられるアキシャルギャップ型モータは、他に例えばラジアルギャップを共に有していてもよい。すなわち、軸方向に作用する力を容易にキャンセル可能なアキシャルギャップを少なくとも2面有していればよい。
また、この発明では、ステータの軸方向の両側にロータが夫々配置された圧縮機において、下流側のロータとステータとの間のエアギャップの長さを、上流側のロータとステータとの間のエアギャップの長さよりも短くする構成、下流側のロータのステータに近接した上記磁石の厚みを、上流側のロータのステータに近接した磁石の厚みよりも厚くする構成、下流側のロータの磁石の上流側のエアギャップに対向する磁極面積を、上流側のロータの磁石の下流側のエアギャップに対向する磁極面積よりも広くする構成、下流側のロータの磁石の上流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)を、上流側のロータの磁石の下流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)よりも大きくする構成のうち、組み合わせ可能な2以上の構成を適宜適用してもよい。
同様に、ロータの軸方向の両側にステータが夫々配置された圧縮機において、ロータと上流側のステータとの間のエアギャップの長さを、ロータと下流側のステータとの間のエアギャップの長さよりも短くする構成、ロータの上流側のステータに近接した上記磁石の厚みを、ロータの下流側のステータに近接した磁石の厚みよりも厚くする構成、ロータの上流側の磁石の上流側のエアギャップに対向する磁極面積を、ロータの下流側の磁石の下流側のエアギャップに対向する磁極面積よりも広くする構成、ロータの上流側の磁石の上流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)を、ロータの下流側の磁石の下流側のエアギャップに対向する残留磁束密度(または最大エネルギー積)よりも大きくする構成、上流側のステータのアンペアターンが、下流側のステータのアンペアターンよりも大きくする構成、および、下流側のステータの磁気抵抗が、上流側のステータの磁気抵抗よりも大きくする構成のうち、組み合わせ可能な2以上の構成を適宜適用してもよい。