本発明は、支持基板上に薄膜誘電体層を電極層で挟持してなる静電容量領域を設けた薄膜コンデンサに関し、特に長期信頼性を確保することが可能な薄膜コンデンサに関するものである。
近年においては、電子機器の小型化に伴い、電子機器内に設置される電子部品にも小型化の要求が強まっており、電子部品の中でもコンデンサについては、積層セラミックコンデンサ等を用いて既にハンドリング可能な限界に近い大きさ程度まで、小型化が実現されている。
一方、電子機器の小型化も、使いやすい大きさが必要であるという点から、下限に達しつつあり、今後は、軽量化,薄型化,高機能化の要求が強くなっていく。電子部品の薄型化,高機能化に適したコンデンサとしては薄膜コンデンサがある。この薄膜コンデンサは、支持基板上に下部電極層と薄膜誘電体層と上部電極層とを順次積層して形成される。この積層構造において、通常、薄膜誘電体層は下部電極層の一部を被覆するとともに下部電極層と支持基板との間の段差を被覆するように形成される。また、上部電極層は薄膜誘電体層を挟んで下部電極層と対向し、かつ下部電極層と支持基板との間の段差に対応した薄膜誘電体層の段差を被覆するように形成される。さらには、信頼性を確保するために、これらの電極層や薄膜誘電体層を被覆する保護層が形成される。
このような薄膜コンデンサにおいて、「金属基板」上に「誘電体」,「第2電極」,「絶縁膜」が順次形成された薄膜コンデンサ(例えば、特許文献1を参照。)や、支持基板に「有機フィルム」を用いて、「下部電極」,「誘電体薄膜」,「上部電極」,「絶縁カバー層」が順次形成された薄膜コンデンサ(例えば、特許文献2を参照。)等が開示されている。
しかしながら、こうした薄膜が積層された構造を採ると、各層のパターンの端では必ず直上または直下の層が重なっており、上側の層が下側の層を被覆する場合には、上側の層は下側の層のパターンの端による段差部分で折れ曲がることになる。このような折れ曲がりの部分は、他の部分に比べて強度的に弱くなり、外力や自らの内部応力による疲労により劣化してしまう可能性が高い。特に、上側の層が保護層であり、下側の層を被覆して耐環境性を保つ構造である場合には、この段差部分での保護層の折れ曲がり部分の劣化により、長期信頼性が保てなくなる可能性が高いという問題点がある。
また、薄膜コンデンサに用いられる薄膜誘電体層の厚みは、上下の電極層間の絶縁性を確保するための膜厚は確保する必要があるが、高い静電容量を確保するために薄くすることが望まれる。これに対し、薄膜誘電体層の膜厚が下部電極層の膜厚と同じであるか、あるいは薄膜誘電体層の膜厚の方が薄い場合には、薄膜誘電体層が下部電極層の端部を被覆する際のカバレージが問題となる。すなわち、下部電極層の段差被覆部において薄膜誘電体の厚みが局所的に薄くなり、その部分で上部電極層との絶縁性が確保できなくなるという問題点がある。
これに対しては、このような問題を回避するため、下部電極層の端部形状をテーパー状に加工することで薄膜誘電体層のカバレージを改善し、上下の電極層間の絶縁性を確保する構造が開示されている(例えば、特許文献3を参照。)。
特開平8−88318号公報
特開2002−83892号公報
特開2002−43530号公報
薄膜コンデンサでは、薄膜誘電体層を上下の電極層で挟持させるため、パターン加工された下部電極層を誘電体層で被覆し、さらにその誘電体層をパターン加工された上部電極層で被覆する必要がある。また、薄膜コンデンサを実用に供するには、電極層および薄膜誘電体層を保護層で被覆する必要がある。この保護層は、薄膜コンデンサを外的要因から守り、薄膜コンデンサの信頼性を確保するためには、必要不可欠なものである。
しかし、特許文献1,2で開示されている薄膜コンデンサでは、保護層の下面に接している、下部電極層,薄膜誘電体層および上部電極層の端面の全てを傾斜面としているわけではないため、下部電極層,薄膜誘電体層および上部電極層の端部における段差を保護層で完全に被覆することが難しいという問題点がある。また、保護層が端部における段差を完全に被覆できたとしても、薄膜誘電体層や保護層は無機物からなる場合が多く、薄膜誘電体層や保護層と電極層との熱膨張係数の差から、電極層の端部の段差部に応力が集中するため、極端な場合には電極層の段差部で薄膜誘電体層や保護層にクラックが生じて長期信頼性を確保することが困難となるという問題点がある。また、薄膜誘電体層下に形成された下部電極層の場合も、前記した保護層と電極層との関係と同じことが言え、下部電極層の段差部を薄膜誘電体層が被覆する領域において、薄膜誘電体層に応力が集中するため、薄膜誘電体層の絶縁性劣化を引き起こすおそれがあり、長期信頼性を確保することが困難となるという問題点がある。さらに、薄膜コンデンサに高い性能を持たせるために、積層構造が複雑となり、各層の段差部の数が増加するのに伴って、それぞれの段差部を他の層や保護層で完全に被覆することが困難になるという問題点が大きくなる。
このように、下部電極層,薄膜誘電体層,上部電極層および保護層等が積層される薄膜コンデンサにおいて、パターン加工された各層の端部周辺には、薄膜コンデンサの長期信頼性の劣化を引き起こす要因が存在することとなっているという問題点がある。
本発明は以上のような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、薄膜コンデンサの積層構造の複雑さを問わずに、長期信頼性を確保することができる薄膜コンデンサを提供することにある。さらに本発明の他の目的は、このような薄膜コンデンサを設けた、長期信頼性に優れた配線基板を提供することにある。
本発明の薄膜コンデンサは、1)支持基板上に、一方極性の電極層と薄膜誘電体層と他方極性の電極層とを順次積層した静電容量領域を有するとともに、この静電容量領域を被覆する保護層を有しており、この保護層の下面に接している、前記一方極性の電極層および前記薄膜誘電体層ならびに前記他方極性の電極層の端面を、いずれも傾斜面とし、前記
保護層は、前記他方極性の電極層の端面と接して前記薄膜誘電体層の比誘電率と同じかそれ以上の比誘電率を有する第一領域と、前記第一領域以外の領域を構成して前記第一領域よりも比誘電率の低い第二領域と、から構成されることを特徴とするものである。
また、本発明の薄膜コンデンサは、上記1)の構成において、2)前記一方極性の電極層および前記他方極性の電極層に、それぞれ外部回路と接続する外部端子が形成される端子電極層が形成され、この端子電極層の周囲を前記外部端子が形成される開口部を設けて前記保護層で被覆しており、この保護層の下面に接している前記端子電極層の端面を傾斜面としたことを特徴とするものである。
また、本発明の薄膜コンデンサは、上記1)の構成において、3)前記一方極性の電極層が前記薄膜誘電体層に被覆されており、この薄膜誘電体層の下面に接している前記一方極性の電極層の端面を傾斜面としたことを特徴とするものである。
そして、本発明の配線基板は、5)基板の表面および内部の少なくとも一方に、上記1)〜4)の構成のいずれかの本発明の薄膜コンデンサを設けてなることを特徴とするものである。
本発明の薄膜コンデンサによれば、1)支持基板上に、一方極性の電極層と薄膜誘電体層と他方極性の電極層とを順次積層した静電容量領域を有するとともに、この静電容量領域を被覆する保護層を有しており、この保護層の下面に接している、一方極性の電極層および薄膜誘電体層ならびに他方極性の電極層の端面を、いずれも傾斜面としたことから、それら端部を保護層が被覆している部分において、端面が垂直面である場合よりも段差被覆性が良好となり、各電極層および薄膜誘電体層の端部の全体を均一に保護層が被覆することが可能となる。また、各電極層および薄膜誘電体層の端部において保護層にかかる応力を緩和させることができるものとなるので、熱衝撃等による保護層のクラック等の発生を抑制することができ、長期信頼性を確保することができる。
従って、高い性能を持たせるために、積層構造を複雑化して各層の端部を被覆する保護層に段差部の数が増加したとしても、その段差部を生じる原因となる保護層の下面に接する層の端部の端面を傾斜面として傾斜角を持たせることによって、その端部全体を均一に保護層が被覆することが可能となる。
さらに、本発明の薄膜コンデンサを外部回路と接続する必要がある場合には、外部回路と薄膜コンデンサの電極層との電気的接続を確保するために端子電極層を形成する必要がある。外部回路との電気的接続を確保するための外部端子としては、例えば半田ボール等が用いられるが、端子電極層は、その半田が薄膜コンデンサの内部へ拡散しないために形成されるものである。端子電極層は例えばNiやCu等から構成されるが、信頼性を確保した電気的接続を得るためには膜厚を厚くする必要がある。これに対し、本発明の薄膜コンデンサによれば、2)一方極性の電極層および他方極性の電極層に、それぞれ外部回路と接続する外部端子が形成される端子電極層が形成され、この端子電極層の周囲を外部端子が形成される開口部を設けて保護層で被覆しており、この保護層の下面に接している端子電極層の端面を傾斜面としたときには、それら端部を保護層が被覆している部分において、端面が垂直面である場合よりも段差被覆性が良好となるので、端子電極層の端部を均一に保護層が被覆することが可能となる。従って、特に端子電極層が必要な薄膜コンデンサの場合において、保護層の下面に接している端子電極層の端面を傾斜面とすることによって保護層にかかる応力を緩和することができるので、熱衝撃等による保護層におけるクラックの発生を抑制することができ、長期信頼性を確保することができる。
また、薄膜コンデンサにおいて、薄膜誘電体層の下面に接する一方極性の電極層の端部においても、前述した保護層の場合と同様のことが言える。これに対し、本発明の薄膜コンデンサによれば、3)一方極性の電極層が薄膜誘電体層に被覆されており、この薄膜誘電体層の下面に接している一方極性の電極層の端面を傾斜面としたときには、端面が垂直面である場合よりも段差被覆性が良好となるので、薄膜誘電体層にかかる応力を緩和することができるため、熱衝撃等による薄膜誘電体層におけるクラックの発生を抑制することができ、長期信頼性を確保することができる。
また、薄膜コンデンサに電圧を印加した場合には、薄膜誘電体層に電界が形成されるが、その際、保護層に接している他方極性の電極層の端部の端面において周辺材料の比誘電率が、薄膜誘電体層の比誘電率よりも小さいことから、電極層の端面に電界が集中する。これに対し、本発明の薄膜コンデンサによれば、他方極性の電極層の端面と接している領域の保護層を、薄膜誘電体層の比誘電率と同じかそれ以上の比誘電率を有する材料で形成したときには、周辺材料の比誘電率を他の部位と等しくすることができるので、保護層の下面に接している他方極性の電極層の端部の端面における電界集中を和らげることができる。従って、電圧印加に対して薄膜誘電体層内に局所的に弱い箇所がなくなるので、薄膜コンデンサの耐電圧性を向上させて、電気的負荷に対する薄膜コンデンサの長期信頼性を向上させることができる。
そして、本発明の配線基板によれば、基板の表面および内部の少なくとも一方に、上記構成のいずれかの本発明の薄膜コンデンサを設けてなることから、耐熱性,耐衝撃性,耐電圧,長期信頼性に優れているので、配線基板への実装時における熱衝撃に対しても強く、また、配線基板として、長期に渡り安定したパフォーマンスを発揮することができる。
以下、本発明の薄膜コンデンサおよびそれを用いた本発明の配線基板について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の薄膜コンデンサの実施の形態の一例を示す平面図である。また、図2(A)および(B),図3(A)および(B),図4(A)および(B)は、それぞれ図1中に示すA−A’線,B−B’線,C−C’線における要部平面図および要部断面図である。これらの図において、1は支持基板、2は一方極性の電極層、3は薄膜誘電体層、4は他方極性の電極層、5,5A,5Bは端子電極層、6は保護層、7,7A,7Bは外部端子、8A,8Bは保護層6に設けた開口部である。
本発明の薄膜コンデンサは、これら図1〜図4に示すように、支持基板1上に、一方極性の電極層2が形成され、その一方極性の電極層2を覆うように薄膜誘電体層3が形成され、その薄膜誘電体層3を覆うように他方極性の電極層4が形成され、これら一方極性の電極層2,薄膜誘電体層3および他方極性の電極層4が順次積層された領域が静電容量領域を構成している。また、これら一方極性の電極層2,薄膜誘電体層3および他方極性の電極層4を覆って支持基板1の表面にかけて保護層6が形成されている。
そして、本発明の薄膜コンデンサにおいては、保護層6の下面に接している、一方極性の電極層2の端面(2T),薄膜誘電体層3の端面3T,および他方極性の電極層4の端面4Tのいずれをも傾斜面とすることが重要である。これにより、端面(2T)を傾斜面とした一方極性の電極層2上や,端面3Tを傾斜面とした薄膜誘電体層3や,端面4Tを傾斜面とした他方極性の電極層4上に、それぞれの端面2T,3T,4Tを覆うように保護層6を形成することによって、保護層6の下側に接するそれら端面2T,3T,4Tを傾斜面としているために、保護層6による端面2T,3T,4Tの段差被覆性がよいだけでなく、それら端面2T,3T,4Tにおいて保護層6に加わる応力集中が緩和されるため、保護層6によって一方極性の電極層2,薄膜誘電体層3および他方極性の電極層4を安定して被覆することができ、薄膜コンデンサの長期信頼性を確保することが可能となる。
なお、本発明の薄膜コンデンサは、図2(A)および(B)に示すように、一方極性の電極層2が薄膜誘電体層3から露出していない場合があってもよく、その場合には一方極性の電極層2の端面2Tは傾斜面とされていなくてもよい。また、薄膜誘電体層3が他方極性の電極層4から露出していない場合があってもよく、その場合には薄膜誘電体層3の端面3Tは傾斜面とされていなくてもよい。つまり、一方極性の電極層2の端面2T,薄膜誘電体層3の端面3Tおよび他方極性の電極層4の端面4Tのうち、保護層6の下面と接している端面が傾斜面であることが重要である。ここで、端面の傾斜角は図3に示す薄膜誘電体層3の端面3Tのように、保護層6の下面と接しているその薄膜誘電体層3の上面となす角度で定義すればよい。また、その傾斜面の傾斜角は特に限定されるものではないが、好適には傾斜角が20°〜80°としておくことが好ましい。80°より大きい場合は、端面が垂直面に近くなり、段差被覆性が悪くなるので、段差部における応力緩和ができなくなり、熱衝撃等によるクラックの発生を抑制することができなくなる。他方、20°より小さい場合は、段差被覆性が優れるものの、加工効率が悪くなる、および傾斜面の面積が増加するので薄膜コンデンサの有効電極面積を確保するためには素子サイズが大きくなるなどの理由から、生産性が悪くなる。
以上のような本発明の薄膜コンデンサにおいて、支持基板1は、アルミナ,サファイア,窒化アルミ,MgO単結晶,SrTiO3単結晶,SiO2被覆シリコン,ガラス等が望ましい。特に、電極層および薄膜誘電体層との反応性が小さく、強度が大きく、表面平滑性が優れ、かつ薄膜誘電体層および電極層の結晶性という点を考慮するとサファイアが望ましい。
一方極性の電極層2および他方極性の電極層4は、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Ni,Al,TiおよびCrなどが望ましい。特に、薄膜誘電体層との反応性が小さく、耐酸化性に優れ、電気抵抗の低い材料が望ましい。これらの材料は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせても良い。このような電極層は、スパッタリング法や蒸着法のようなPVD法、CVD法等で形成することができる。
薄膜誘電体層3は、Ba,Tiを含むペロブスカイト型複合酸化物、Sr,Tiを含むペロブスカイト型複合酸化物、Pb,Zr,Tiを含むペロブスカイト型複合酸化物、Ta2O5等の高い比誘電率を有するものが望ましい。このような薄膜誘電体層は、スパッタリング法のようなPVD法、CVD法、ゾルゲル法等で形成することができる。この層3の厚みとしては、高容量と絶縁性の確保の観点から、0.3〜1.0μmが望ましい。
そして、保護層6は、SiO2,Si3N4などの無機化合物やポリイミド樹脂およびベンゾシクロブテン(BCB)等の有機化合物といった耐湿性に優れたものが望ましい。このような保護層6は、スパッタリング法のようなPVD法、CVD法、液体の塗布・硬化による形成方法等で形成することができる。
また、本発明の薄膜コンデンサは、一方極性の電極層2および他方極性の電極層4を外部回路と電気的に接続するために好適には、一方極性の電極層2には端子電極層5Aを、および他方極性の電極層4には端子電極層5Bをそれぞれ形成し、これら端子電極層5A,5Bの周囲を対応する開口部8A,8Bを設けた保護層6で被覆して、それら開口部8A,8B内に露出した端子電極層5A,5Bにそれぞれ半田ボール等からなる外部端子7A,7Bを構成するとよい。
このように、半田ボール等の外部端子7A,7Bを形成するための端子電極層5A,5Bが必要な薄膜コンデンサにおいては、図3(A)および(B)ならびに図4(A)および(B)にそれぞれ示したように、一方極性の電極層2は外部端子7A,7Bを取り囲むように環状にエッチングされており、他方極性の電極層4は薄膜誘電体層3上において外部端子7Aを取り囲むように環状にエッチングされている。一方極性の電極層2上には端子電極層5Aが、他方極性の電極層4上には端子電極層5B(5A,5Bを合わせて端子電極層5)がそれぞれ形成されており、端子電極層5A,5B上にはそれぞれ外部端子7A,7Bが設けられている。これにより、外部端子7Aと一方極性の電極層2とが端子電極層5Aを介して、また外部端子7Bと他方極性の電極層4とが端子電極層5Bを介して、それぞれ電気的接続を確保することができる。保護層6は、薄膜誘電体層3,他方極性の電極層4および端子電極層5A,5Bの周辺部を被覆し、かつ端子電極層5A,5Bの中央部を露出してそこに外部端子7A,7Bが形成されるような開口部8A,8Bが設けられている。
このような端子電極層5(5A,5B)としては、外部端子との密着性に優れた層と熱履歴による外部端子材料の拡散を抑える層とで構成されるのが望ましく、前者としては、Au,Ni−Cr等があり、特にAuが望ましい。厚みは、薄い方が望ましく、0.1μm以下が望ましい。後者は、Ni,Cr,Ti,Pd,Pt等およびこれらの金属を含む合金等がある。厚みは、厚い方が望ましく、0.3μm以上が望ましい。これらに加えて、電極層,薄膜誘電体層および基板との密着性を確保するために、Ti,Cr等の密着層を介在させてもよい。これらの端子電極層5(5A,5B)は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法等で形成することができる。
また、外部端子7A,7Bの形状としては、バンプ状,箔状,板状,線状,ペースト状等があり、特に限定されるものではなく、複数の形状を組み合わせてもよい。また、外部端子7A,7Bの材質としては、Pb,Sn,Au,Pt,Pd,Al,Ni,Ag,In,Cu,Bi,SbおよびZn等の導電性のものであればよく、複数の材料を組み合わせてもよい。
そして、この例の本発明の薄膜コンデンサにおいては、保護層6の下面に接している、端子電極層5(5A,5B)の端面5T、特に外周側の端面5Tを同様に傾斜面としている。これにより、この端面5Tを傾斜面とした端子電極層5(5A,5B)上に保護層6を形成しても、保護層6の下側に接する端面5Tは傾斜面とされているために、保護層6の段差被覆性がよいだけでなく、それら端面5Tにおいて保護層6に加わる応力集中が緩和されるため、保護層6によって一方極性の電極層2,薄膜誘電体層3および他方極性の電極層4とともに端子電極層5(5A,5B)を安定して被覆することができ、薄膜コンデンサの長期信頼性を確保することが可能となる。
また、本発明の薄膜コンデンサは、図5にA−A’線断面図および図6にC−C’線断面図で示すように、一方極性の電極層2が薄膜誘電体層3に被覆されているときには、薄膜誘電体層3の下面に接している一方極性の電極層2の端面2Tを同様に傾斜面としていることが望ましい。このようにすることで、薄膜誘電体層3にかかる応力を緩和することができ、熱衝撃等による薄膜誘電体層3のクラック発生を抑制することができ、薄膜誘電体層3によって一方極性の電極層2を安定して被覆することができ、薄膜コンデンサの長期信頼性を確保することができる。
また、本発明の薄膜コンデンサは、図7にA−A’線断面図で示すように、他方極性の電極層4の端面4Tと接している領域の保護層6’を、薄膜誘電体層3の比誘電率と同じかそれ以上の比誘電率を有する材料で形成することが望ましい。薄膜コンデンサに電圧を印加した場合は、薄膜誘電体層3内に電界が形成され、他方極性の電極層4の端部において電界が集中することとなるが、本発明の薄膜コンデンサでは、他方極性の電極層4の端面4Tと接している領域の保護層6’を、薄膜誘電体層3の比誘電率と同じかそれ以上の比誘電率を有する材料で形成することによって、他方極性の電極層4の端面4Tでの電界集中を和らげることができ、電圧印加に対して薄膜誘電体層3内に局所的に弱い箇所がなくなるので、薄膜コンデンサの耐電圧性を向上させて、電気的負荷に対する薄膜コンデンサの長期信頼性を向上させることができる。
このような保護層6’は、薄膜誘電体層3の比誘電率と同じかそれ以上の比誘電率を有する材料、例えば、Ba,Tiを含むペロブスカイト型複合酸化物、Sr,Tiを含むペロブスカイト型複合酸化物、Pb,Zr,Tiを含むペロブスカイト型複合酸化物、Ta2O5等が望ましい。このような保護層6’は、スパッタリング法のようなPVD法、CVD法、ゾルゲル法等で形成することができる。この層6’の厚みとしては、他方電極層4の端部の電解集中を緩和するという観点から、薄膜誘電体層3の厚みと同等程度の厚みがあればよい。
なお、保護層6および保護層6’の形成方法はそれぞれ任意であり、保護層6’の材料として比誘電率が高い材料を形成し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターン加工後、保護層6として耐湿性に優れた材料を形成し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターン加工するなどして保護層6’ および保護層6を単独で形成してもよいし、比誘電率が高く、耐湿性に優れた材料を保護層6’と保護層6として形成し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターン加工するなどして保護層6’と保護層6とを一体で形成してもよい。
そして、本発明の配線基板は、以上のような本発明の薄膜コンデンサのいずれかを、基板の表面または内部の少なくとも一方に設けてなるものである。
本発明の配線基板は、コア基材としては例えばガラスエポキシ樹脂含浸基材やフェノール樹脂含浸基材等の一般的なプリント配線板で用いられる樹脂材料でよい。また、セラミックス等の無機材料を用いてもよい。配線材としては例えばCuを主体とした材料でよい。
そして、本発明の薄膜コンデンサを基板の表面に設ける場合には、例えば基板の表面に形成された表面電極に薄膜コンデンサの外部端子7A,7Bを位置決めした後、リフロー処理することにより表面電極と端子電極層5(5A,5B)とを外部端子7A,7Bを介して接合し、実装すればよい。
以下のようにして、本発明の薄膜コンデンサを試作した。この例では、一方極性および他方極性の電極層ならびに端子電極層の形成はDCスパッタリング法を用い、薄膜誘電体層の形成はRFスパッタリング法を用いて行なった。
まず、サファイアからなる支持基板上にTiO2からなる膜厚30nmの密着層を形成し、この密着層の上面に膜厚60nmのPt層を形成して、一方極性の電極層となる導体層を形成した。
次に、フォトリソグラフィ技術を用いて、一方極性の電極層をパターン加工した。加工された一方極性の電極層に、RFスパッタリング法によって膜厚0.3μmのBa0.5Sr0.5TiO3層からなる薄膜誘電体層を形成した。その後、フォトリソグラフィ技術を用いて、薄膜誘電体層に端子電極層を形成するための開口部を形成した。
次に、薄膜誘電体層の上面および開口部の内面に、膜厚300nmのAu層を形成し、これをフォトリソグラフィ技術を用いてパターン加工して、他方極性の電極層を得た。
次に、この上に、膜厚1.0μmのNi層と、膜厚0.1μmのAu層とを順次形成し、端子電極層とした。ここで、Au層は半田ボール等からなる外部端子の密着性を向上させるために形成した。その後、フォトリソグラフィ技術を用いて、まず、Au層を直径100μmの円形状に加工し、その後、Ni層を直径200μmの円形状に加工した。
なお、一方極性の電極層、薄膜誘電体層、他方極性の電極層、および端子電極層の端面を傾斜面とする場合は、それぞれの材料に対して用いるエッチング液濃度によりエッチング速度を調整し、いずれも傾斜角20°〜80°の傾斜面とした。
この後、CVD法を用いて、厚さ1.5μmのSiO2層を形成することによって、端子電極層のAu層が露出するように、直径120μm、深さ1.5μmの開口部を有する保護層を形成した。この後、光感光性BCB(ベンゾシクロブテン)を塗布し、露光・現像を行ない、支持基板の端子電極層が形成された位置に端子電極層のAuからなる半田密着層が露出するように、直径80μm、深さ2μmの開口部を有する保護層を形成した。
最後に、スクリーン印刷を用いて、保護層の開口部内のAu層の上に、Sn96.5質量%−Ag3.0質量%−Cu0.5質量%からなる鉛フリー半田ペーストを転写し、リフローを行ない、半田ボールからなる外部端子を形成し、図1〜図4に示したような本発明の実施例の薄膜コンデンサを得た。
得られた薄膜コンデンサの有効電極面積すなわち薄膜誘電体層を挟持し、一方極性の電極層と他方極性の電極層が対向する面積は1.89mm2であり、周波数1kHzでの静電容量は約33nFであった。
また、薄膜誘電体層および他方極性の電極層の端部の傾斜角が、長期信頼性に与える影響を調査するために、一方極性の電極層,薄膜誘電体層,他方極性の電極層および端子電極層のエッチング速度を調整し、それぞれの端面を傾斜角90°の垂直面としただけで、その他は上記と同様にして、比較例の薄膜コンデンサを作製した。
これら、本発明の実施例の薄膜コンデンサおよび比較例の薄膜コンデンサAを、槽内温度85℃,槽内相対湿度85%の試験槽内にて、印加電圧2.5Vを連続負荷したときの絶縁抵抗値の時間変化を比較観測した。この結果について、試験投入前の絶縁抵抗値を1として、得られた絶縁抵抗値の時間変化を図8に線図で示した。
図8において、横軸は試験時間(単位:Hr)を、縦軸は絶縁抵抗(単位:任意)を表わし、黒い菱形のプロットおよび特性曲線は実施例の薄膜コンデンサの結果を、白い三角のプロットおよび特性曲線は比較例の薄膜コンデンサAの結果を示している。図8に示すように、試験時間が経過するに伴い、両者とも絶縁抵抗値が初期値に対して劣化していくことがわかる。さらに、実施例のように各層の端面が傾斜面とはされていない比較例の薄膜コンデンサAは、試験時間100時間経過時点で既に絶縁抵抗値が劣化し始めており、300時間付近より急激に劣化し、1000時間経過後には絶縁性が確認できなくなった。
絶縁抵抗値が劣化した比較例の薄膜コンデンサAについて試験終了後に表面観察を行なうと、薄膜誘電体層,他方極性の電極層もしくは端子電極層の端面を起点に、保護層にクラックが発生しているのが確認された。これは、保護層の下面に接する、薄膜誘電体層,他方極性の電極層もしくは端子電極層の端面付近において保護層に応力がかかることで、保護層にクラックが発生し、そのクラックを通して雰囲気中の水分が比較例の薄膜コンデンサAに取り込まれたからであった。
一方で、本発明の実施例の薄膜コンデンサについては、1000時間を経過しても、絶縁抵抗値は初期値に対してほぼ変化していないことがわかる。また、試験終了後の表面観察においても、保護層にクラックの発生は確認されなかった。実施例の薄膜コンデンサにおいて絶縁抵抗値がわずかに減少傾向にあるのは、水分の浸入によるものではなく、高温負荷特性が表れているためと考えられる。
以上の結果より、保護層の下面に接する層である、一方極性の電極層,薄膜誘電体層,他方極性の電極層および端子電極層の端面が傾斜面である本発明の薄膜コンデンサは、信頼性に優れていることが確認できた。
次に、一方極性の電極層の端面が薄膜コンデンサの信頼性に与える影響を調査するために、以下のような比較例の薄膜コンデンサBを作製した。一方極性の電極層の端面を本発明とは逆の傾斜面、すなわち端面の傾斜角を90°よりも大きくし、いわゆる逆テーパー状にしただけで、その他は前述した本発明の実施例の薄膜コンデンサと同様にして作製した。なお、逆の傾斜面を持つ一方極性の電極層の端面は、エッチングによる加工条件を調整することによって形成した。
前述の本発明の実施例の薄膜コンデンサおよび比較例の薄膜コンデンサBを槽内温度125℃の試験槽内にて、印加電圧3.75Vを連続負荷したときの絶縁抵抗値の時間変化を比較観測した。この結果について、試験投入前の絶縁抵抗値を1として、得られた絶縁抵抗値の時間変化を図9に図8と同様の線図で示した。図9に示すように、試験時間が経過するに伴い、両者とも絶縁抵抗値が初期値に対して劣化していくのがわかる。さらに、実施例と比較して、比較例の薄膜コンデンサBの方が絶縁抵抗値の劣化速度は大きく、試験時間1000時間以内に絶縁性が確認できなくなった。この試験にて絶縁性が破壊された比較例の薄膜コンデンサBは、試験後、薄膜コンデンサの表面を覆う保護層が焦げており、また、静電容量も確認できない状態になっていた。これは、比較例の薄膜コンデンサBの方が、一方極性の端面付近の薄膜誘電体層に応力がより大きく集中し、薄膜誘電体層の粒界が広がり、電圧を印加した際の絶縁性が劣化したことによると考えられる。一方で、本発明の実施例の薄膜コンデンサは明らかに、この比較例の薄膜コンデンサBよりも、信頼性に優れていた。
また、以上の試験とは別に、有限要素法を用いて、薄膜誘電体層に電圧を印加した際の薄膜コンデンサの静電場解析を行なった。薄膜誘電体層3の膜厚を300nmとし、一方極性の電極層2の端面と、他方極性の電極層4の端面との距離を5μmとして、モデルを作製した。解析条件として、薄膜誘電体層3の比誘電率を700とし、支持基板1の比誘電率を9、保護層6の比誘電率を7および、100から800までを100ずつ、1000から1400までを200ずつ変えたものとした。一方極性の電極層2には0Vの電圧を、他方極性の電極層4には2.5Vの電圧を印加した条件で解析を行なった。境界条件として、一方極性の電極層2の端面がある境界に、真空10を設定した。
図10に、上記モデルにおいて保護層6の比誘電率を7としたときの電界強度分布を示す。図10は、他方極性の電極層4の端部近傍の断面図であり、各部位の電界強度を5段階で区分している。電極層2−4間の平行な部分においては、0.8〜1.2×107V/mの範囲で均一な電界強度であり、他方極性の電極層4の端面周辺の薄膜誘電体層3は、電極層2−4間の平行な部分よりも電界強度が高くなっており、局所的に1.6〜2.0×107V/mの部分が存在することがわかる。つまり、電極層2−4間に等しく電圧を印加しても、電極層2,4同士の平行な部分より、電極層4の端面の方がより大きな電界がかかることを示している。この結果からも、薄膜誘電体層3において、他方極性の電極層4の端部付近が最も絶縁性が弱いことが理解できる。
さらに、保護層6の比誘電率を変化させたときの、電界集中している部分、すなわち他方極性の電極層4の端面近傍において薄膜誘電体膜層3にかかる電界強度の最大値を比較すると、図11に線図で示すような結果になる。図11において、横軸は薄膜誘電体層3の比誘電率の最大値に対する保護層6の比誘電率の大きさの比を、縦軸は他方極性の電極層4の端面における電界強度を表わし、黒い菱形のプロットは、保護層の比誘電率/薄膜誘電体層の比誘電率の比に対する他方極性の電極層の端面における電界強度の変化を示している。
図11に示す結果は、一方極性の電極層2と他方極性の電極層4とが平行な領域における薄膜誘電体層3の電界強度は0.083MV/cm(=(印加電圧:2.5V)/(薄膜誘電体層3の膜厚:300nm))であるが、保護層6の比誘電率が薄膜誘電体層3の比誘電率と同じかそれ以上の値をとるとき、前述した電界強度と同等まで下げることができることを意味している。このことから、他方極性の電極層4の端面を薄膜誘電体層3の比誘電率と同じかそれ以上の比誘電率を有する材料で被覆することによって、薄膜誘電体層3内にかかる他方極性の電極層4の端面領域における電界集中を抑えることができ、薄膜コンデンサの耐電圧性を向上させることができることが理解できる。
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更を加えることは何ら差し支えない。
本発明の薄膜コンデンサの実施の形態の一例を示す平面図である。
(A)および(B)は、図1中に示すA−A’線における要部平面図および要部断面図である。
(A)および(B)は、図1中に示すB−B’線における要部平面図および要部断面図である。
(A)および(B)は、図1中に示すC−C’線における要部平面図および要部断面図である。
本発明の薄膜コンデンサの実施の形態の他の例におけるA−A’線断面図である。
本発明の薄膜コンデンサの実施の形態の他の例におけるC−C’線断面図である。
本発明の薄膜コンデンサの実施の形態のさらに他の例におけるA−A’線断面図である。
薄膜コンデンサについて絶縁抵抗の時間変化を比較観察した結果を示す線図である。
薄膜コンデンサについて絶縁抵抗の時間変化を比較観察した結果を示す線図である。
本発明の薄膜コンデンサについて薄膜誘電体層に電圧を印加した際の静電場解析を行なった結果を示す図である。
本発明の薄膜コンデンサについて保護層の比誘電率を変化させたときの他方極性の電極層の端面近傍において薄膜誘電体膜層にかかる電界強度の変化を調べた解析結果を示す図である。
符号の説明
1・・・支持基板
2・・・一方極性の電極層
3・・・薄膜誘電体層
4・・・他方極性の電極層
5,5A,5B・・・端子電極層
6,6’・・・保護層
7A,7B・・・外部端子
8A,8B・・・開口部