本発明は、電解質層中の析出溶解材料(金属)の電気化学反応による析出および溶解を利用して画像表示を行う電気化学表示装置、およびこのような電気化学表示装置の駆動方法に関する。
近年、ネットワークの普及につれ、従来、印刷物として配布されていた文書類に代わり、所謂電子書類で配信されるようになってきた。更に、書籍や雑誌なども所謂電子出版の形で提供される場合が多くなりつつある。これらの情報を閲覧するために、従来より、コンピュータの出力装置としてCRT(Cathode-Ray Tube:ブラウン管)または液晶ディスプレイが用いられている。
しかし、これら発光型のディスプレイでは、人間工学的理由から疲労が著しく、長時間の読書には耐えられないことが指摘されている。また、読む場所がコンピュータの設置場所に限られるという難点もある。
最近では、ノート型コンピュータの普及により、携帯型のディスプレイとして使えるものもあるが、これらは主にバックライトによる発光型であることに加えて消費電力との関係で、これも数時間以上の読書に用いることが難しい。また、反射型液晶ディスプレイも開発され、これによれば低消費電力で駆動することができるが、液晶の無表示(白色表示)における反射率は30%であり、紙への印刷物に比べ著しく視認性が悪く、疲労が生じやすいため、これも長時間の読書に耐えるものではない。
これらの問題を解決するために、最近、主に電気泳動法により着色粒子を電極間で移動させるか、あるいは二色性を有する粒子を電場で回転させることにより着色させたディスプレイが開発されつつあるが、このディスプレイでは、粒子間の隙間が光を吸収し、その結果としてコントラストが悪くなり、また駆動す電圧を100V以上にしなければ実用上の書き込み速度(1秒以内)が得られないという難点がある。
一方、電圧の印加により色が変化することを利用したエレクトロクロミック表示装置(ElectroChromic Display;ECD)も開発されている。このようなエレクトロクロミック表示装置としては、例えば、H+ などのイオンが入ることにより透明から青色に変化する酸化タングステン(WO3 )、または、酸化あるいは還元により発色する有機材料を用いたものが知られている。これらは、コントラストの高さという点では上記電気泳動方式のものなどに比べて優れているが、黒色表示の品位が悪いほか、マトリクス駆動の必要性がない調光ガラスあるいは時計用ディスプレイの用途として開発が進められているため、現状では、ペーパーライクディスプレイ、あるいは電子ペーパーなどのマトリクス駆動の表示装置に用いることは難しい。更に、有機材料は,一般に、耐光性に乏しいので、用途上太陽光や室内光などの光に晒され続けることになる電子ペーパーに用いた場合、長時間使用すると褪色して黒色濃度が低下する。
そこで、金属を含む白く着色した電解質を介して電極を対向配置し、透明の表示電極界面で、電解質中の金属を含む発色材料を還元させて電気化学的に析出(めっき)させることにより画像の書き込みを行い、また、その析出させた金属を含む発色材料を酸化させて電解質に溶解させることにより画像の消去を行うエレクトロデポジション型表示装置が提案されている(例えば、特許文献1)。これによれば、マトリクス駆動が容易であり、且つコントラストおよび黒色濃度を高くすることが可能となる。
したがって、例えば、表示電極と対向する電極の電位(実際の回路上ではグラウンド)を基準にしてマトリクス駆動により表示電極を制御した場合、負の電圧を所定時間印加することで画像表示(発色)され、一方、表示電極上に析出した発色材料が溶解するまで正の電圧を所定時間印加すれば、この画像表示が消去される。このように画像表示および画像消去する際の表示電極に印加する最も単純な駆動方法としては、正と負の直流(Direct Current:DC)電圧パルスを好適な強度で所望な時間印加すればよい。
特開2002−258327
しかしながら、このような単純な正と負からなるDC電圧パルスを印加した場合、1つの表示素子内において発色(析出)濃度の違いによる斑が発生したり、電圧印加後の画像表示におけるメモリ性が悪いこと、また、画像の表示および消去を繰り返し動作させると明瞭な画像表示ができなくなったり、あるいは表示させた画像を消去した際に残像現象が起こるなどの所謂サイクル特性が低下する、という問題が生ずる。また、消費電力の浪費などの問題が生じる。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、低消費電力で良好な表示状態を維持することができる電気化学表示装置およびその駆動方法を提供することにある。
本発明による電気化学表示装置は、マトリクス状に配線されたゲート走査ラインとソース走査ラインとの各交差部の画素毎に、第1電極(画素電極)および第2電極を有する電気化学表示素子と、電気化学表示素子を駆動するための薄膜トランジスタとを有し、かつ、電気化学表示素子の第2電極側が接地されると共に、第1電極側が前記薄膜トランジスタのドレイン電極に接続され、薄膜トランジスタのゲートがゲート走査ラインを介してゲート線駆動回路に、薄膜トランジスタのソース電極がソース走査ラインを介してデータ線駆動回路にそれぞれ接続され、ゲート線駆動回路およびデータ線駆動回路による行列方向の走査によって、薄膜トランジスタを選択的に駆動し、当該画素における電気化学表示素子の第1電極に対して、データ線駆動回路からパルス電圧(書込み電圧または消去電圧)を印加するアクティブマトリクス駆動回路を備えたものである。ここで、パルス電圧は、書込みあるいは消去を開始し、完了するまでの間(1パルス内)において、印加電圧強度が互いに異なる2種類の部分により構成された1または複数の凹部を含む凹型階段状波形および高周波階段状波形のうちのいずれか1つの波形を有し、パルス電圧を印加していない期間においては第1電極と第2電極との間は開回路状態とするものである。
パルス電圧は、表示寿命および表示品質の観点からは、高周波階段状波形が最も好ましい。高周波階段状波形の場合には、そのクロック数Nは、書込みと消去の場合で同じでも異なっていてもよいが、良好な画像表示を実現するためには、クロック数Nは10Hz〜1kHzの範囲に設定することが好ましい。
書込み電圧および消去電圧の組み合わせとして、両パルス波形を同じ形状で互いに反転した形状のものとしてもよいが、上述した3つの形状の波形を適宜選択し、異なる波形を組み合わせることも可能である。さらに、書込み電圧および消去電圧を同様な形状の波形とする場合において、必ずしも同一形状である必要は無く、印加電圧強度および電圧印加時間の両パラメータを調整して適宜変形してもよい。
本発明による電気化学表示装置の駆動方法は、マトリクス状に配線されたゲート走査ラインとソース走査ラインとの各交差部の画素毎に、第1電極(画素電極)および第2電極を有する電気化学表示素子と、電気化学表示素子を駆動するための薄膜トランジスタとを有し、かつ、電気化学表示素子の第2電極側が接地されると共に、第1電極側が薄膜トランジスタのドレイン電極に接続され、薄膜トランジスタのゲートがゲート走査ラインを介してゲート線駆動回路に、薄膜トランジスタのソース電極がソース走査ラインを介してデータ線駆動回路にそれぞれ接続され、ゲート線駆動回路およびデータ線駆動回路による行列方向の走査によって、薄膜トランジスタを選択的に駆動し、当該画素における電気化学表示素子の第1電極に対して、データ線駆動回路からパルス電圧(書込み電圧または消去電圧)を印加するアクティブマトリクス駆動回路を備えた電気化学表示装置の駆動方法であって、パルス電圧は、書込みあるいは消去を開始し、完了するまでの間(1パルス内)において、印加電圧強度が互いに異なる2種類の部分により構成された1または複数の凹部を含む凹型階段状波形および高周波階段状波形のうちのいずれか1つの波形を有し、パルス電圧を印加していない期間においては第1電極と第2電極との間を開回路状態とするものである。
本発明による電気化学表示装置では、上記特定の波形の電圧を画素電極に印加することにより、書き込み時においては濃度の均一な金属の析出を生じさせることができ、一方、消去の際には、消し残りが生ずるようなことがなくなる。これにより過剰な還元および酸化反応が防止され、デンドライトの発生が抑制される。
本発明の電気化学表示装置およびその駆動方法によれば、画素電極に印加するパルス電圧(書込み電圧,消去電圧)を、その波形が、凹型階段状波形あるいは高周波階段状波形などの、1パルス内において印加電圧強度が2以上の異なる値を有するものとしたので、画像のメモリ時間および表示動作のサイクル寿命を向上させることができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る電気化学表示装置の要部構成を表したものである。この電気化学表示装置は、アクティブマトリクス駆動により制御され、析出溶解材料の電気化学反応による析出および溶解を利用して画像表示を行うものであり、複数の第1電極(画素電極)11を有する第1基板10と、第2電極13(共通電極)を有する第2基板12とが対向配置された構成を有している。第1基板10と第2基板12との間は、第1基板10側から順に第1電解質層14A、多孔質性樹脂隔膜15、第2電解質層14Bおよび第2電極13を含む積層構造となっており、画素毎に電気化学表示素子を構成している。第1電極11および第2電極13それぞれと多孔質性樹脂隔膜15との間には間隙形成材16が散布されている。第1基板10は所謂駆動基板であり、各第1電極11に対応してTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)17が設けられている。なお、第1基板10と第2基板12との対向面の周縁領域は、封止樹脂18によって封止されている。
図2は、図1に示した電気化学表示装置の断面構造を表すものであり、この図を用いて上述した要部について説明する。
第1基板10は、透明であっても、透明でなくてもよく、例えば、石英ガラス、白板ガラスあるいはセラミックスにより構成することができる。また、この他にも、例えば、合成樹脂、具体的には、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリカーボネートなどのエステル、または、酢酸セルロースなどのセルロースエステル、または、ポリフッ化ビニリデンあるいはポリテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ化ポリマー、または、ポリオキシメチレンなどのポリエーテル、または、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンあるいはメチレンペンテンポリマーなどのポリオレフィン、または、ポリアミドイミドあるいはポリエーテルイミドなどのポリイミド、または、ポリアミドにより構成してもよい。これら合成樹脂は、容易に曲がらないような剛性基板状であってもよく、また、可撓性を有するフィルム状の構造体であってもよい。
第1電極11は、電気化学的に安定な金属により構成されていることが好ましく、中でも、金(Au),白金(Pt),クロム(Cr),アルミニウム(Al),コバルト(Co),パラジウム(Pd),ビスマス(Bi)および銀(Ag)からなる群のうち少なくとも1種により構成されることが好ましい。また、析出させる金属と同じ金属により構成するようにすれば、電気化学的により安定な電極反応を実現できるのでより好ましい。この他にも、主反応に用いる金属を予めあるいは随時十分に補うことができれば、カーボンにより構成するようにしてもよい。カーボンを使用することで、第1電極11の低価格化を図ることができるからである。
第2基板12は、透明性を有する材料、具体的には、石英ガラスなどにより構成されている。また、この他にも、第1基板10で説明した合成樹脂により構成するようにしてもよい。
第2電極13は、画素として表示する後述の金属を析出させる析出基板として機能するものであり、例えば、透明導電性膜により構成されている。具体的には、酸化インジウム(In2 O3 )、酸化錫(SnO2 )あるいは、錫(Sn)とインジウム(In)との酸化物であるITO(Indium Tin Oxide)、または、これらに錫あるいはアンチモン(Sb)などをドーピングしたものにより構成されることが好ましい。また、酸化マグネシウム(MgO)あるいは酸化亜鉛(ZnO)などにより構成してもよい。
電解質層14は、例えば、溶媒と、酸化還元反応により析出および溶解する析出溶解材料とを含んでいる。溶媒としては、例えば、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトンあるいは、これらの混合物などの親水性を有するもの、または、プロピレンカーボネート,ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、アセトニトリル、スルホラン、ジメトキシエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンあるいはこれらの混合物などの疎水性を有するものが挙げられる。
析出溶解材料は、析出した状態と溶解した状態とで色が変化することを利用して画素の表示を可能にするためのものである。析出溶解材料としては、還元により金属として析出する金属イオンが挙げられる。金属イオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ビスマスイオン、銅イオン、銀イオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオンあるいはカドミウムイオンが挙げられる。その中でも特に好ましい金属イオンはビスマスイオンあるいは銀イオンであり、更に好ましいのは銀イオンである。ビスマスイオンおよび銀イオンは、可逆的な反応を容易に進めることができると共に、析出時の変色度が高く、特に、銀イオンはイオン価数が通常1であるので、イオン価数が通常3であるビスマスイオンに比べて、1原子を還元させて金属にするのに必要な電荷量が3分の1となるからである。金属イオンは、例えば、金属塩として溶媒に添加されている。金属塩としては、銀塩であれば、例えば、硝酸銀、ホウフッ化銀、ハロゲン化銀、過塩素酸銀、シアン化銀あるいはチオシアン化銀が挙げられ、リチウム塩であれば、例えばハロゲン化リチウムが挙げられる。金属塩には、いずれか1種を用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
電解質層14は、また、必要に応じて支持電解質塩と着色剤と各種添加剤とを含んでいてもよい。
支持電解質塩は、電解質層14を構成している電解質のイオン伝導性を高めることにより、析出溶解材料の析出溶解反応がより効果的に、且つ安定して行なわれるようにするためのものである。支持電解質塩としては、例えば、LiCl,LiBr,LiI,LiBF4 ,LiClO4 ,LiPF6 あるいはLiCF3 SO3 などのリチウム塩、または、KCl,KIあるいはKBrなどのカリウム塩、または、NaCl,NaIあるいはNaBrなどのナトリウム塩、または、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム塩,過塩素酸テトラエチルアンモニウム塩,ホウフッ化テトラブチルアンモニウム塩,過塩素酸テトラブチルアンモニウム塩あるいはテトラブチルアンモニウムハライド塩などのテトラアルキル四級アンモニウム塩が挙げられる。支持電解質塩にはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
着色剤は、コントラストを向上させるためのものである。着色剤としては、例えば、無機顔料あるいは有機顔料が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。例えば、銀のように金属の発色が黒色の場合には、白色の隠蔽性の高い材料が好ましい。このような材料として、例えば、二酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウムあるいは酸化アルミニウムなどの無機粒子を使用することができる。また、色素を用いることもできる。色素としては、油溶性染料を用いることが好ましい。
添加剤としては、アニオン種に起因した副反応を抑制するための還元剤または酸化剤のいずれか1種または2種以上を混合して含んでいることが好ましい。アニオン種に起因した副反応を阻止し、所望の発色以外の発色が生じることを防止するためである。
なお、この電解質層14は、これら液状の溶媒,析出溶解材料および添加剤などからなる液状、所謂、電解液とされてもよいが、更に、これらを保持する高分子化合物を含み、ゲル状とする場合、単層により構成してもよいが、複数層により構成してもよい。複数層にする場合、着色剤は複数層に含有させる必要はなく、少なくとも1層に含有させるようにすればよい。
高分子化合物としては、主骨格単位、もしくは側鎖単位、もしくはその両方に、アルキレンオキサイド、アルキレンイミン、アルキレンスルフィドの繰り返し単位を有するもの、または、これらの異なる単位を複数含む共重合物、または、ポリメチルメタクリレート誘導体、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリルあるいはポリカーボネート誘導体が挙げられる。高分子化合物には、いずれか1種を用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
多孔質性樹脂隔膜15は、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの材料からなり、これらは多軸または単軸の延伸により形成された微小な多孔質を有しており、厚みは30μm以上から60μm以下程度の薄膜状のものである。この多孔質性樹脂隔膜15の孔を第1電解質層14Aおよび第2電解質層14B中のイオンが通過することにより電極間の導通がとれ、電極反応が起こることにより表示動作が行なわれるようになっている。なお、高分子電解質と共に使用する場合は、濡れ性を向上させるために、多孔質性樹脂隔膜15の両面を紫外線オゾン処理あるいはプラズマ処理などを施してもよい。
間隙形成材16は、上述したように第1電極11および第2電極13と多孔質性樹脂隔膜15との間に介在し、第1電極11と第2電極13との電極間距離を30μm以上120μm以下程度にするためのものである。この電極間距離を実現するために、間隙形成材16としては、例えば、絶縁性のプラスチックあるいはシリカ等のビーズからなる、外形が5μm以上100μm以下程度のものが好ましい。
TFT17は、公知の液晶パネルなどで用いられるものと同様のものである。封止樹脂18は、例えばアイオノマー,接着性ポリエチレンなどからなっている。
この電気化学表示装置は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、図3(A)に示したように、ポリエチレンテレフタラートなどの材料からなる第1基板10上に、公知の半導体製造技術を用いてTFT17を形成すると共に、蒸着あるいはスパッタリングなどの方法によって上述した材料からなる第1電極11(画素電極)をマトリクス状に形成する。
一方、図3(B)に示したように、第2基板12上の全面に、例えば、蒸着あるいはスパッタリング法を用いて、上述した材料よりなる第2電極13を形成する。
その後、図4(A),(B)に示したように、上述した材料よりなり、第1電極11と第2電極13との電極間距離が所期の値になるような間隙形成材16を、第1電極11の上面を含む第1基板10の全面および第2基板12上の第2電極13の全面に散布する。なお、第2電極13と後の工程で形成する第2電解質層14Bとの濡れ性をよくするため、間隙形成材16を散布する前に予め第2電極13の上面を紫外線オゾン処理しておくことが好ましい。
そののち、図5(A)に示したように、第1基板10上に第1電解質層14Aを形成するが、第1電解質層14Aを構成する電解質においては、例えば、DMSOとγ−ブチロラクトンの混合溶媒にヨウ化銀(AgI)などの析出溶解材料とクマリンなどの添加剤を加えて液状の電解質を調整する。更に、この所謂電解液を保持するために、ポリエチレンオキサイド(PEO)などの高分子化合物を加えてゲル化できるものに調整し、このゲル状電解質に更に表示動作の際のコントラストを向上させる白色の着色剤として、例えば、二酸化チタン(TiO2 )などを加えて最終的な高分子電解質ができる。この高分子電解質をブレード法などを用いて第1基板10上に所期の膜厚になるように塗布することにより第1電解質層14Aが形成される。
第1電解質層14Aを形成したのち、図5(B)に示したように、上述した材料および膜厚を有する多孔質性樹脂隔膜(セパレータ)15を配設する。また、電解質との濡れ性を向上させるために予め多孔質性樹脂隔膜15の両面を紫外線オゾン処理あるいはプラズマ処理などを施しておいてもよい。
さらに、図6(A)に示したように、多孔質性樹脂隔膜15の上に第1電解質層14Aと同一の高分子電解質を同様な方法を用いて塗布し、第2電解質層14Bを形成する。この後、図6(B)に示したように、第1基板10の上に形成された未硬化の第2電解質層14Bと予め間隙形成材16を塗布しておいた第2基板12とを貼り合わせる。更に、減圧乾燥を行い電解質層14の高分子電解質をゲル化させる。
最後に、図6(C)に示したように、第1基板10と第2基板12とを貼り合せた側面を封止樹脂18で封止して電気化学表示装置が完成する。また、必要に応じてこの完成した電気化学表示装置に熱を与えるか、あるいは紫外線を照射して電解質層14を構成する高分子電解質を架橋反応させてもよい。
また、この電気化学表示装置は次のようにして製造することもできる。すなわち、図7(A)〜(C)および図8(A),(B)に示したように、間隙形成材16を用いずに電気化学表示装置を製造してもよい。なお、間隙形成材16を散布しないこと以外は、前述の工程(図3〜図6)と同様の工程であるので、その説明は省略する。
更に、この電気化学表示装置は次のようにして製造することもできる。なお、図3,図4に示した工程までは同一工程であるのでその説明は省略する。
図3および図4に示した工程を経た後、図9(A)に示したように、間隙形成材16を介して第1基板10の上に多孔質性樹脂隔膜15を配設させると、間隙形成材16の大きさの分だけ第1基板10と多孔質性樹脂隔膜15との間に空間領域(以下,第1注入領域14Cという)が形成される。
その後、図9(B)に示したように、第1基板10と、間隙形成材16が散布された第2基板12とを貼り合わせると、同じく第2基板12と多孔質性樹脂隔膜15との間に空間領域(以下,第2注入領域14Dという)が形成される。この後、貼り合わされたパネル周縁を封止樹脂18で封止するが、このとき電解質を注入するための注入口予定部には封止樹脂18は塗布しない。これにより注入口19が同時に形成される。
次に、図10(A)に示したように、公知の真空注入法と同様な製造技術を用いて、上述した組成を有する高分子電解質溶液を注入口19から注入し、電解質層14を形成する。
最後に、図10(B)に示したように、注入口19を封止材20を塗布して密封することにより電気化学表示装置が完成する。また、必要に応じてこの完成した電気化学表示装置に熱を与えるか、あるいは紫外線を照射して電解質層14の高分子電解質を架橋反応させてもよい。
このようにして製造された電気化学表示装置では、後述するように、特定の波形の書込み電圧および消去電圧が画素毎に印加される。これにより、第2電極13の表面に濃度が均一な析出を生じさせることができる(書き込み)と共に、書き込み後の第2電極13上の析出を均一に溶解させることができる(消去)。従って、画像のメモリ時間および表示動作のサイクル寿命が向上する。
また、この電気化学表示装置では、書き込みと消去を担う可逆的な還元反応および酸化反応の他に、非可逆的な析出溶解材料の副反応が含まれており、書き込みと消去の動作を繰り返し行うと、この副反応によりデンドライトが第1電極11あるいは第2電極13の上に析出してくるが、多孔質性樹脂隔膜15が第1電極11と第2電極13との間に設置されており、更に析出して成長するデンドライトに対して物理的な障壁の役割を果たすので、第1電極11と第2電極13とが短絡する虞がなくなる。
仮に、デンドライトが多孔質性樹脂隔膜15を突き破り、第1電極11と第2電極13を短絡させたとしても、短絡したことによる発熱により、多孔質性樹脂隔膜15が融解し多孔質が埋まりこれ以上の電極反応が停止される。
以上のように、イオンが通過可能な多孔質性樹脂隔膜15を第1電極11と第2電極13との間に配設したことにより、電極反応による表示動作が維持されると共に、物理的な障壁として第1電極11と第2電極13とが短絡することを防ぐことができるので、電気化学表示装置の寿命を長くすることができる。
次に、上記電気化学表示装置の駆動方法について説明する。
図11は、アクティブマトリクス駆動回路100の構成を表すものである。このアクティブマトリクス駆動回路100では、マトリクス状に配線されたゲート走査ライン(アドレス線)104とソース走査ライン(データ線)106との交差部が1画素に対応しており、各画素は、前述の第1電極11(画素電極),電解質層14および第2電極13(共通電極)の積層構造からなる素子107により構成されている。各素子107において、例えば第2電極13側が接地(0V)され、第1電極11側はTFT105のドレイン電極に接続されている。TFT105のゲートは、ゲート走査ライン104に接続されており、このゲート走査ライン104はゲート線駆動回路102に接続されている。また、TFT105のソース電極はソース走査ライン106に接続されており、このソース走査ライン106はデータ線駆動回路103に接続されている。ゲート線駆動回路102は、信号制御部101の出力信号を受けて垂直方向の選択パルスを順次出力することにより複数のゲート走査ライン104を垂直方向(行方向)に走査する。一方、データ線駆動回路103は、信号制御部101の出力信号を受けて水平方向の選択パルスを出力することにより、ゲート線駆動回路102に同期して複数のソース走査ライン106を水平方向(列方向)に走査するようになっている。
すなわち、このアクティブマトリクス駆動回路100では、記録メディアなどからの画像データが信号制御部101に送られてくると、ゲート線駆動回路102およびデータ線駆動回路103からそれぞれ垂直方向および水平方向の選択パルスが出力され、ゲート走査ライン104およびソース走査ライン106が行および列方向に走査される。そして、TFT105のゲートおよびソースが同時にオン状態となった画素における素子107に対して、データ線駆動回路103から次に説明する波形のパルス(書込み電圧,消去電圧)が選択的に印加され、これにより信号が書き込まれ、あるいは消去される。
次に、各素子107に対して印加されるパルス電圧(書込み電圧,消去電圧)について説明する。
本実施の形態では、実効的に1画素に対して書込みあるいは消去が開始され、完了するまでの間に印加される駆動電圧の波形に特徴を有している。具体的には、図12ないし図16に示した波形が考えられる、以下、各波形の適用可能性について検証する。なお、各図において、(A)は書込み波形、(B)は消去波形をそれぞれ示している。
これらの波形は、それぞれ任意の値の印加電圧強度(V)および電圧印加時間(t)によって設定される。なお、図12〜図15に示した各書込み波形および各消去波形が印加されていない期間については、第1電極11(画素電極)と第2電極(共通電極)との間は開回路に設定される。一方、図16に示した波形おいては、第1電極11と第2電極13の電位を同じ電位(回路上は短絡)に設定する。ここで、印加する電圧のスイッチングをTFT105により行なっている以上、完全な開回路状態(電極間抵抗を無限大の抵抗でつないだ状態)は再現できないが、本実施の形態においては、両極を数メガΩ以上の抵抗を挟んだ状態を開回路状態と見做す。
なお、図12ないし図16に示したそれぞれの波形において、図12から順に、単純直流電圧波形(パターン1)、階段状波形(パターン2)、凹型階段状波形(パターン3)、高周波階段状波形(パターン4)、短絡型階段状波形(パターン5)と命名する。以下、これらの各パターンの書込み波形および消去波形にはそれぞれ添字aおよびbを付して説明する。
また、図12(A),(B)において、V1aおよびV1bは印加電圧強度を、t1aおよびt1bは電圧印加時間をそれぞれ示している。同じく、図13(A),(B)においては、V2a、V2b、V2cおよびV2dは印加電圧強度、t2a、t2b、t2cおよびt2dは電圧印加時間、また、図14(A),(B)において、V3a、V3b、V3c、V3d、V3eおよびV3fは印加電圧強度、t3a、t3b、t3c、t3d、t3eおよびt3fは電圧印加時間を、また、図15(A),(B)において、V4a、V4b、V4cおよびV4dは印加電圧強度、t4a、t4b、t4cおよびt4dは電圧印加時間、加えて、Na およびNb はクロック数を、更に、図16(A),(B)において、V5a、V5b、V5cおよびV5dは印加電圧強度、t5a、t5b、t5cおよびt5dは電圧印加時間をそれぞれ示している。
上記パターン1〜5の書込み波形および消去波形の有効性を確認するために、各パターンについて、画像のメモリ時間および表示動作のサイクル寿命について評価した。以下、具体的な実施例について詳細に説明する。
本実施例では、図1に示したアクティブマトリクス駆動による電気化学表示装置を用いた。各構成要素については、多孔質性樹脂隔膜15として膜厚が30μmのポリプロピレン製多孔質フィルムを使用し、間隙形成材16として50μmの真絲球を使用し、多孔質性樹脂隔膜15の両サイドに敷設した形状で第2電極と第1電極との電極間距離が100μmとなるようにした。
電解質層14を構成する各成分において、電解液は、DMSOとγ−ブチロラクトンの体積比が6:4の割合で調整した混合溶媒にAgIを0.5MおよびLiIを0.75Mとなるようにそれぞれ加え、更に、添加剤としてクマリン、メルカプトベンゾイミダゾールおよびトリエタノールアミンをそれぞれ5g/l、5g/lおよび10g/lを加えて調整したものを用い、またこの電解液をゲル状にするために、マクロモノマーであるELEXCEL TA140を表示背景を白くするための白色顔料である二酸化チタン(TiO2 )をそれぞれ重量比で、電解液:PEO:TiO2 =5:1:6の割合になるように調整し、この溶液を図10に示したように真空注入法を用いて注入し注入口を封止材で封止し、この後にマクロモノマーELEXCEL TA140を架橋化反応させるため、架橋剤として過酸化物をマクロモノマーELEXCEL TA140に対して2質量%〜5質量%ほど加えた。架橋化反応は、完成した表示装置を70℃〜100℃で数分〜10分ほど加熱して行った。
なお、過酸化物としてはイソブチリルパーオキサイド、α,α′−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネートおよびt−ブチルパーオキシネオデカノエート等が挙げられ、単独または2種以上を混合して用いることができる。
なお、実施例全体を通しての評価方法として、書き込み(着色)を行った時の最低書き込み濃度を、光学濃度(Optical Density :OD)=1(反射率としては10%)と規定した。光学濃度は数1に示した関係式により求めた。
表示動作の応答時間は、未着色状態から光学濃度が1(反射率としては10%)に達するまでの時間とした。また、光学濃度測定(反射率測定)は、拡散反射試験により赤色レーザを表示面に対して垂直に照射し、そこから20°ずれたところで反射光を検出し反射率を求めた。更に、書込み波形を入力した直後での反射率をR1とし、反射率がR1から5%増加するまでの時間を表示メモリ時間とした。この理由は、反射率が10%前後であった状態から徐々に薄くなった場合、反射率が5%増加するあたりから表示状態が薄くなったと視認できることが視感実験により既知であるためである。
更に、印加電圧の符号と実際の画像表示との相関関係についてであるが、上述したように本発明の電気化学表示装置において、電解質中の析出溶解材料が還元反応によって析出し書き込みが行なわれ、一方、酸化反応により溶解し消去が行なわれるため、書込み電圧は負の値となり、消去の際の電圧は正の値となる。なお、電位の基準は第2電極13の電位(0V)とした。
また、以下の実施例1〜5は標準室内環境条件下で行ったもので、記載してある全ての電位は室温での電圧である。
(実施例1)
パターン1a(図12)の単純直流電圧波形を書込み電圧の波形とした。図17は、そのときの印加電圧と応答時間との関係を表したものである。但し、上述したように実際の印加電圧の値は負の値である。この結果から、印加する電圧が−2.4Vのときに、応答速度が最も速く、これよりも高電圧を印加しても必ずしも応答速度が速くならないことが分かった。
更に、この図17で得られた結果をもとに、V1aを0.2V刻みで−1.8Vから−2.8Vの各値に設定し、これらV1aに対応するt1aを、各V1aの時の応答時間に10%延長した時間として、パターン1aで表される書込み波形をそれぞれ設定した。一方、消去電圧として、パターン1b(図12)で表される波形の電圧を印加した。消残りが起きないようにするため、各書込み波形に対応する消去波形のV1bをV1aよりも20%高くした電圧に設定し、t2bにおいてもt1aよりも20%延長した時間に設定した。更に、書込み波形と消去波形との間隔を10secにして組み合わせ、この表示動作を1サイクルとしてサイクル試験を行った。その結果を表1に示した。
この結果から、絶対値が大きい電圧で書き込みを行うほどサイクル特性が顕著に低下することが分かった。しかし、上述したように絶対値が大きい電圧の場合の方が応答時間については良好な結果が出ていることから、応答時間として0.1sec以下であれば表示動作に支障は無いものと考え、応答速度およびサイクル特性において共にバランスが取れた、印加電圧が−2.0Vの場合を書込み電圧の標準値とした。なお、−2.0Vで書き込みを行った場合、OD=1に達するまでに必要な電荷量は、7.2mC/cm2 であった。
次に、図18に示した波形の電圧で書き込みを行い、その後、開回路設定にした場合における表示メモリ時間(書き込み終了後からの経過時間)と反射率/100との関係を図19に示した。この結果から、書き込み直後から反射率が5%増加するまでの表示メモリ時間は約19secであることが分かる。
(実施例2)
図13のパターン2aの波形の具体例として、図20に示した階段状波形を第1電極11に印加した場合の諸特性について検討を行った。ここで、階段状波形は、電圧値を時間で積分した量(面積強度)を実施例1の波形に合わせたが、単に、面積強度を合わせるだけではパターン2aの波形は無限に得られる。階段状波形を一義的に決めるには、印加電圧強度V2a,V2bと電圧印加時間t2aおよびt2bを規定する必要がある。そこで、V2aおよびV2bにおいて絶対値が2Vよりも大きい場合にサイクル特性が低下すること、また、t2aおよびt2bを長くすると表示装置としての意味をなさないことを考慮して、パターン2aの波形を規定する各印加電圧強度として、V2a=−2.0V,V2b=−1.0Vとし、また、電圧印加時間については、t2a=0.05sec,t2b=0.1secとし、合計の電圧印加時間が0.15secとなる場合で表示メモリ特性について検討を行った。
図21には、図20に示した書込み電圧で書き込みを行い、その後、開回路設定にした場合における表示メモリ時間と反射率/100との関係を示した。書き込み直後から反射率が5%増加するまでの表示メモリ時間は約32secであった。この場合の応答時間は約0.10secとなり、実施例1に示した場合よりも遅くなった。また、OD=1に達するまでに必要な電荷量は7.5mC/cm2 であり、実施例1に比べ0.3mC/cm2 ほど浪費する結果となった。
更に、図20に示した書込み波形を規定する各印加電圧強度および電圧印加時間から構成されるシーケンスの15%〜20%ほど増加させたもの、すなわち、V2c,V2dの値とt2c,t2dの値を書込み波形に比べ15%〜20%ほど増加させたものを消去電圧(パターン2b)とし、また、書込み波形と消去波形の間隔を10secに設定してサイクル試験を行った。この場合、10万サイクル程度まで安定して動作し、実施例1に比べて優れた特性を有することが分かった。なお、10万サイクル経過時において、画素内に消え残りなどの表示劣化は見受けられなかったが、電極における銀(Ag)の析出溶解反応以外の不可逆反応により発生するデンドライトによって第1電極11と第2電極13とが短絡したことで本電気化学表示装置が動作しなくなったためサイクル試験を終えた。
(実施例3)
本実施例では、図14のパターン3aの具体例として、図22に示した凹型階段状波形を第1電極11に印加した場合の諸特性について検討を行った。なお、図22(A),(B)に示した凹型階段状波形を一義的に決めるにあたっても、電圧値を時間で積分した量(面積強度)を実施例1に合わせるだけではパターン3aの波形は無限に得られるため、印加電圧強度V3a,V3b,V3cと電圧印加時間t3a、t3b,t3cを規定する必要がある。そこで、図22(A)の波形を規定する各印加電圧強度について、V3a=−2.0V,V3b=−1.0V,V3c=−2.0V、とし、また、各電圧印加時間については、t3a=0.03sec,t3b=0.1sec,t3c=0.02secとした。一方、図22(B)の波形を規定する各印加電圧強度については、図22(A)の場合と同一に設定し、また、各電圧印加時間については、t3a=0.02sec,t3b=0.1sec,t3c=0.03secとし、いずれの場合も合計の電圧印加時間が0.15secとなる場合で表示メモリ特性について検討を行った。
図23に、図22(A)に示した書込み波形で書き込みを行い、その後、開回路設定にした場合における表示メモリ時間と反射率/100との関係を示した。この結果から、書き込み直後から反射率が5%増加するまでの表示メモリ時間は約150secほどにまで向上した。また、図22(B)の場合においても同等な表示メモリ時間を有することが分かった。実施例3の応答時間は、図22(A)に示した書込み波形の場合には約0.13sec、一方、図22(B)に示した書込み波形の場合には約0.18secとなり、実施例2に示した場合よりも遅くなる結果となった。また、図22(A)に示した書込み波形の場合のOD=1に達するまでに必要な電荷量は7.9mC/cm2 であり、実施例1に比べ0.6mC/cm2 ほど浪費する結果となった。
更に、図22(A)に示した書込み波形を規定する各印加電圧強度および電圧印加時間から構成されるシーケンスの15%〜20%ほど増加させたもの、すなわち、V3d、V3eおよびV3f の値とt3d、t3eおよびt3fの値を書込み波形に比べ15%〜20%ほど増加させたものを消去波形(パターン3b)とし、また、書込み波形と消去波形の間隔を10secに設定してサイクル試験を行った。この場合、10万サイクル程度まで安定して動作し、実施例2と同様の特性を有することが分かった。なお、10万サイクル経過時において、画素内に消え残りなどの表示劣化は見受けられなかった。なお、サイクル試験を終えることとなった理由は実施例2の場合と同様であるので、その説明を省略する。
(実施例4)
実施例4では、図15パターン4aの具体例として、図24に示した単純直流電圧波形をクロック数N(Nは自然数)で分割した形状の高周波階段状波形を第1電極11に印加した場合の諸特性について検討を行った。なお、図24に示した高周波階段状波形を一義的に決めるにあたっても、電圧値を時間で積分した量(面積強度)を実施例1に合わせるだけではパターン4aの波形は無限に得られるため、印加電圧強度V4a,V4bと電圧印加時間t4a,t4b、更に、クロック数Na (Na は自然数)を規定する必要がある。そこで、図24の波形を規定する各印加電圧強度については、V4a=−2.0V,V4b−1.0Vとし、また、各電圧印加時間については、t4a=0.01sec,t4b=0.02secとし、更に、Na =5と規定し、合計の電圧印加時間が0.15secとなるような波形にした。この波形は、実施例2に示した波形のシーケンス状態を5倍に高周波化し、それを5サイクル分合わせたものに相当する。
図25に、図24に示した波形の電圧で書き込みを行い、その後、開回路設定にした場合における表示メモリ時間と反射率/100との関係を示した。この結果から、書き込み直後から反射率が5%増加するまでの表示メモリ時間は約850secほどにまで向上し、実施例1〜3と比較して最も優れた特性を示した。応答時間については、約0.13secとなり、実施例2に示した場合よりも遅くなる結果となった。また、OD=1に達するまでに必要な電荷量は、8.6mC/cm2 となり、実施例1〜3と比較して10%以上電荷量が多くなり、消費電力の点では課題が残るが、その他の点では本実施例の中で最も優れた結果となった。
更に、図24に示した書込み波形を規定する各印加電圧強度および電圧印加時間から構成されるシーケンスの15%〜20%ほど増加させたもの、すなわち、V4c,V4dの値とt4c,t4dの値を書込み波形に比べ15%〜20%ほど増加させ、クロック数Nb =5に設定したものを消去波形(パターン4b)とし、また、書込み波形と消去波形の間隔を10secに設定してサイクル試験を行った。この場合、15万サイクル程度まで安定して動作し、実施例1〜3と比較して最も優れた特性を有することが分かった。なお、15万サイクル経過時において、画素内に消え残りなどの表示劣化は見受けられなかった。なお、サイクル試験を終えることとなった理由は、実施例2の場合と同様である。
実施例4に示した波形をさらに高周波にする、すなわち、クロック数Naを増加させることで表示メモリ特性を向上させ、更に、表示装置の長寿命化にも寄与する結果が得られたが、消費電力がさらに増大してしまうことが容易に予想がつくため、これらの観点からクロック数Naとしては許容範囲があることが示唆された(10Hz〜1kHz)。
(実施例5)
本実施例では、図16のパターン5aの具体例として、図26に示した短絡型階段状波形の電圧を第1電極11に印加した場合の諸特性について検討を行った。この短絡型階段状波形では、当該パルスの入力前後における第1電極11の電位が第2電極13の基準電位と同電位に保持され、短絡される。なお、この短絡型階段状波形を一義的に決めるにあたり、印加電圧強度V5a,V5bと電圧印加時間t5a,t5bは、実施例2の場合と同様である。但し、上述したように当該パルスの入力前後における第1電極11の電位は第2電極13の基準電位(0V)と同電位に保持されるようにした。
図27に、この波形の電圧で書き込みを行い、その後、開回路設定にした場合における表示メモリ時間と反射率/100との関係を示した。実施例5における反射率は、短絡状態(0V)になった瞬間から急速に増加してしまい、反射率が5%増加するまでの表示メモリ時間は約1secであった。このことから、表示状態を維持させるためには、閉回路(短絡)ではなく開回路に設定しておく必要性があることが確認された。
表2には、実施例1〜5における表示メモリ時間およびサイクル特性についてまとめた結果を示した。
以上の結果、本実施の形態の電気化学表示装置の電圧波形として好ましいのは、実施例2の階段状波形(パターン2)、実施例3の凹型階段状波形(パターン3)、および実施例4の高周波階段状波形(パターン4)であることが分かった。すなわち、1パルス内において印加電圧強度が2以上の異なる値を有する波形であって、この波形のパルスの入力前後においては2つの電極間が開回路に設定される場合であり、そのうち、高周波階段状波形が最も好ましく、次いで凹型階段状波形、階段状波形の順であることが分かった。
なお、書込み電圧および消去電圧の組み合わせとして、同じ形状で極性が反転した波形としてもよいが、上述した3つの形状の波形を適宜選択し異なる波形のものを組み合わせることも可能である。さらに、書込み電圧および消去電圧を同様な形状の波形とする場合において、必ずしも同一形状である必要は無く、印加電圧強度および電圧印加時間の両パラメータを調整して適宜変形してもよい。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、図28に示したように、上記実施の形態で説明した電気化学表示装置において、第1電極11および第2電極13のいずれとも独立した第3電極21を複数個、第1基板10または第2基板12、あるいは両方の基板に設けてもよい。この第3電極21を設けることにより、発色材料および金属などの析出溶解時の反応状態が第1電極11および第2電極13の影響を受けることなく表示側の電極において十分な析出や電気化学反応が行なわれた時点が正確に探知され、この探知結果に基づいて的確に表示駆動を制御することができ、電極反応の過剰進行が防止され、この電極反応の過剰進行に起因した副反応の発生が抑制される。
また、上記実施の形態で説明した電気化学表示装置において、図29に示したように、第2基板12にべた状に形成した第2電極13上に第1電極11に合わせた画素区切り膜22をマトリクス状に敷設してもよい。この画素区切り膜22を敷設することにより表示の滲みなどを防止することができる。
加えて、上記実施の形態で説明した電気化学表示装置において、上述した第3電極21と画素区切り膜22を共に備えていてもよい。
また、上記実施の形態において、第1基板10上に複数の第1電極11(画素電極)およびTFT17を設け、第2基板12上に第2電極13(共通電極)を設けたが、図30ないし図32に示したように、第1電極11および第2電極13をそれぞれ対向側の基板に逆配置して、第1基板10側に第2電極13(共通電極)、第2基板12側に第1電極11(画素電極)およびTFT17を設けてもよい。この場合、第1電極11は、金属を析出させる表示電極として機能するため、透明導電性膜などの材料により構成される。具体的には、酸化インジウム(In2 O3 )、酸化錫(SnO2 )あるいは、錫(Sn)とインジウム(In)との酸化物であるITO(Indium Tin Oxide)、または、これらに錫あるいはアンチモン(Sb)などをドーピングしたものにより構成されることが好ましい。また、酸化マグネシウム(MgO)あるいは酸化亜鉛(ZnO)などにより構成してもよい。更に、画像が表示される側の透明性を有する第2基板12上に光感光性を有するTFT17が設置されており、外部光による励起電流の発生やTFT自体の特性劣化を防ぐため、例えば、ブラックマトリクス23(図31および図32参照)をTFT17に設置予定部に予め設置して遮光することが好ましい。
更に、図30〜図32の電気化学表示装置では、第1電極11および第2電極13のいずれとも独立した第3電極21を複数個、第1基板10または第2基板12に設けてもよい(図33〜図35)。この第3電極21を設けることによる動作作用および効果は上述した通りであるのでその説明を省略する。
また、上記実施の形態においては、本発明の電圧印加方法を電気化学表示装置の駆動回路に適用した例について説明したが、本発明は、その他,電流または電圧の繰り返しパルスによる電気めっきなどにも適用可能であり、上記のような波形のパルスを印加することによりムラのない均一な皮膜を形成することができる。
本発明の実施の形態に係る電気化学表示装置の構成を表す斜視図である。
図1に示した電気化学表示装置の構成を表す断面図である。
電気化学表示装置の製造方法を工程順に表した断面図である。
図3に続く製造方法を工程順に表した断面図である。
図4に続く製造方法を工程順に表した断面図である。
図1に示した電気化学表示装置の他の製造方法を工程順に表した断面図である。
図6に続く製造方法を工程順に表した断面図である。
図1に示した電気化学表示装置の更に他の製造方法を工程順に表した断面図である。
図8に続く製造方法を工程順に表した断面図である。
図9に続く製造方法を工程順に表した断面図である。
アクティブマトリクス駆動回路を模式的に表した図である。
駆動電圧波形(パターン1)を表す図である。
駆動電圧波形(パターン2)を表す図である。
駆動電圧波形(パターン3)を表す図である。
駆動電圧波形(パターン4)を表す図である。
駆動電圧波形(パターン5)を表す図である。
実施例1の印加電圧と応答時間との関係を表す図である。
実施例1で評価した書込み波形を表す図である。
図18に示した書込み波形の場合における表示メモリ時間と反射率/100との関係を表す図である。
実施例2で評価した書込み波形を表す図である。
図20に示した書込み波形の場合における表示メモリ時間と反射率/100との関係を表す図である。
実施例3で評価した書込み波形を表す図である。
図22(A)に示した書込み波形の場合における表示メモリ時間と反射率/100との関係を表す図である。
実施例4で評価した書込み波形を表す図である。
図24に示した書込み波形の場合における表示メモリ時間と反射率/100との関係を表す図である。
実施例5で評価した書込み波形を表す図である。
図26に示した書込み波形の場合における表示メモリ時間と反射率/100との関係を表す図である。
電気化学表示装置の変形例を表す断面図である。
電気化学表示装置の他の変形例を表す断面図である。
電気化学表示装置の更に他の変形例を表す斜視図である。
図30の電気化学表示装置を表す断面図である。
図30の電気化学表示装置を表す平面図である。
図30に示した電気化学表示装置の変形例を表す斜視図である。
図33の電気化学表示装置を表す断面図である。
図33の電気化学表示装置を表す平面図である。
符号の説明
10…第1基板、11…第1電極(画素電極)、12…第2基板、13…第2電極(共通電極)、14…電解質層、14A…第1電解質層、14B…第2電解質層、14C…第1注入領域、14D…第2注入領域、15…多孔質性樹脂隔膜、16…間隙形成材、17,105…TFT、18…封止樹脂、19…注入口、20…封止材、21…第3電極、22…画素区切り膜、23…ブラックマトリクス、V1a,V1b,V2a,V2b,V2c,V2d,V3a,V3b,V3c,V3d,V3e,V3f,V4a,V4b,V4c,V4d,V5a,V5b,V5c,V5d…印加電圧強度、t1a,t1b,t2a、t2b、t2c,t2d,t3a,t3b,t3c,t3d,t3e,t3f,t4a,t4b,t4c,t4d,t5a,t5b,t5c,t5d…電圧印加時間、Na ,Nb …クロック数、100…アクティブマトリクス駆動回路、101…信号制御部、102…ゲート線駆動回路、103…データ線駆動回路、104…ゲート走査ライン、106…ソース走査ライン、107…素子。