JP4567942B2 - 破骨細胞形成抑制剤 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、硫酸化グリコサミノグリカンを有効成分とし、代謝性骨疾患や炎症性骨疾患の予防と治療に好適な破骨細胞形成抑制剤に関するものである。
【0002】
【従来技術】
骨組織は、骨吸収と骨形成から成る骨代謝が繰り返されている動的組織である。骨吸収と骨形成の均衡は、骨形成を担当する骨芽細胞と骨吸収を担当する破骨細胞の両者により厳密に調節されており(非特許文献1)、この均衡が崩れると、骨組織は異常をきたし、種々の疾患を呈する。
【0003】
骨吸収と骨形成の均衡の異常により引き起こされる疾患の一例としては、骨粗鬆症が挙げられる(非特許文献2、非特許文献3)。他にも、炎症性骨破壊を伴う慢性関節リウマチや歯周炎が挙げられる。これら骨疾患は、特に破骨細胞の機能が異常に亢進した結果生じると考えられており、この様な背景の下、破骨細胞の形成と破骨細胞による骨吸収の調節に関する研究が盛んに行われており、破骨細胞による骨吸収過程や破骨細胞の形成を特異的に抑制する物質は、これら骨疾患の有効な治療薬として期待され、研究されてきている(非特許文献4、非特許文献5)。
【0004】
これまでに、骨質を溶かす酵素の破骨細胞による放出や骨表面の酸性化を阻害することに基づく骨吸収の抑制作用を有する物質についての報告や、硫酸化グリコサミノグリカンのカルシウム塩を含有する口腔用組成物が歯周病原性細菌の内毒素刺激による骨のカルシウムイオン遊離量に抑制効果を示すこと(特許文献1)や硫酸化グリコサミノグリカンナトリウムとカルシウム化合物を併用する骨代謝改善剤が内毒素やヒト副甲状腺ホルモン等による骨のカルシウムイオン遊離量に抑制効果を示すこと(特許文献2)及びインシュリン、プロタミン及びグリコサミノグリカンから選択される少なくとも1種を含む石灰化促進剤と骨補填材からなる骨疾患治療剤(特許文献3)等の報告があるが、いずれもカルシウムや骨補填剤の様な骨の修復に効果があると見なされている物質が併用されており、硫酸化グリコサミノグリカン単独での効果ではない。更に、コンドロイチン硫酸ナトリウム塩の投与によるカルシウム吸収率や骨強度の増強作用に基づく経口用骨粗鬆症予防及び治療剤(特許文献4)等の報告もされているが、いずれも血液幹細胞から破骨細胞へ向かう分化過程に作用して破骨細胞の形成を阻止する事に関する示唆は無い。
【0005】
また、破骨細胞分化誘導のメカニズムは、活性型ビタミンD(1α、25(OH)2D3)、副甲状腺ホルモン(PTH)、インターロイキン11(IL11)、インターロイキン(IL6)、TNFα、プロスタグランジンE2(PGE)など骨吸収促進因子による骨芽細胞への作用により骨芽細胞表面上に破骨細胞分化因子(ODF)が発現し(非特許文献6、非特許文献7)、一方、破骨細胞の表面にはODFの受容体であるReceptor activator of NF-κB(RANK)が発現しており、ODFとRANKが結合することが破骨細胞の形成に必要であることが報告されている(非特許文献8)。抑制系としては、種々の細胞より可溶性の骨吸収抑制因子(OCIF)が産生されており、ODFとRANKとの結合を競合的に阻害する事により破骨細胞の形成を抑制させることが報告されている(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
【0006】
更に、慢性関節リウマチや歯周病における骨破壊のメニズムも明らかにされつつあり、特に、これら骨疾患は、免疫系の関与が大きいことが示唆されており、活性化T細胞によるODFの発現とそれに伴う破骨細胞形成の亢進に起因することが指摘されている(非特許文献12、非特許文献13)。また、この様な骨疾患に対しては、ODFとRANKとの結合を遮断する物質が有効な治療薬となる可能性があると示唆されている(非特許文献14)。しかし、ODFのRANKへのシグナルを遮断するOsteoprotegerin(OPG)は未だ治療剤として上市に至っていない。
【0007】
【特許文献1】
特開平6−80546
【特許文献2】
特開平7−53388
【特許文献3】
特開昭62―201825
【特許文献4】
特開平7―109222
【非特許文献1】
Chambers, T.J.,et al (1991) Vitamins Hormones 46, 41-86
【非特許文献2】
Suda, T., et al (1992) Endocr. Rev., 13, 66-80
【非特許文献3】
Suda, T., et al (1996) In "Principles of Bone Biology (Bilezilian, J.P., et al. eds)" pp.87-102
【非特許文献4】
Moreland LW., et al (1993) Am. J. Med. Sci., 305 (1) 40-51
【非特許文献5】
Mebio. ,11(2), p.24 (1994)
【非特許文献6】
Yasuda et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA95, 3597-3602 (1998)
【非特許文献7】
Lacey et al., Cell 93, 165-176 (1998)
【非特許文献8】
Nakagawa, N., et al (1998) Biochem. Biophys. Res. Commun, 253, 395-400
【非特許文献9】
Tsuda, E., et al (1996) 生化学 68, 683
【非特許文献10】
Tsuda, E., et al (1997) Biochem. Biophys. Res. Commun 234, 137-142
【非特許文献11】
Yasuda, H., et al (1998) Endcrinology 139, 1329-1337
【非特許文献12】
Teng, YTA., et al (2000) Journal of Clinical Investigation, 106(6), R59-R67
【非特許文献13】
Kong, YY., et al (1999) Nature, 402 (6759), 304-309
【非特許文献14】
Simonet., et al (1997), Cell, 89, 309-319
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、慢性関節リウマチや歯周病等の炎症性骨破壊に起因する疾患や骨粗鬆症等の代謝性骨疾患の予防や治療に用いることが可能な破骨細胞形成抑制剤を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、硫酸化グリコサミノグリカン(以下、硫酸化GAGともいう)に破骨細胞の形成を抑制する作用を見出し、本発明を完成するに到った。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。本発明は、硫酸化グリコサミノグリカン又はその塩を有効成分として含有する破骨細胞形成抑制剤である。より好ましくは、本発明は、硫黄含量が3%〜16%(w/w%)である硫酸化GAGや、グリコサミノグリカンの構成二糖単位を構成するウロン酸残基として主にL−イズロン酸を含む硫酸化GAGから選択される硫酸化GAG又はその塩から成る破骨細胞形成抑制剤である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
本発明の破骨細胞形成抑制剤の有効成分である硫酸化グリコサミノグリカンとは、破骨細胞の形成を抑制する効果を有する硫酸化GAG(以下、本発明物質とも言う)である限り特に限定されない。当該破骨細胞の形成抑制効果は、例えば、マウス骨髄細胞を用い、PGE等の骨吸収促進因子を添加することにより破骨細胞の形成を惹起させた実験系を用い、この実験系に被検物質を共存させて破骨細胞数を計測することで確認する事が出来るが、特にこの実験系でのみ確認される効果では無く、他の破骨細胞分化誘導モデルの実験等においても確認することが可能である。
【0011】
本発明物質は、L−イズロン酸又はD−グルクロン酸(以下、GlcAと略すこともある)から選択されるウロン酸残基とD−グルコサミン、D−ガラクトサミン、N−アセチル−D−グルコサミン又はN−アセチル−D−ガラクトサミン(以下、GalNAcと略すこともある)から選択されるヘキソサミン残基から成る二糖単位(以下、構成二糖単位とも言う)の繰り返し構造を基本骨格として有し、更に、ウロン酸残基及びヘキソサミン残基におけるウロン酸残基とヘキソサミン残基とのグリコシド結合に関与していない部位のヒドロキシル基若しくはアミノ基が部分的に硫酸化されている構造を有する。
【0012】
好ましくは、構成二糖単位を構成するウロン酸が主にL−イズロン酸である硫酸化GAGや、ウロン酸がL−イズロン酸及び/又はD−グルクロン酸であり硫黄含量が3%〜16%(w/w%)である硫酸化GAGや、ヘキソサミン残基のO−4位とO−6位にのみ硫酸基を有しているヘキソサミン残基1分子とウロン酸残基1分子から成る二糖単位構造を構成二糖単位の繰り返し構造中に有する硫酸化GAG等が挙げられる。更に別の観点では、例えば、マウスの骨髄細胞と10%牛胎児血清含有Minimum Essential Medium Alpha Medium培地を用いたPGE刺激下での破骨細胞の培養(培養条件:37℃、COインキュベーター内で7日間)に硫酸化GAG50μg/mLを培地に添加する事により、硫酸化GAGを添加しないで同様に培養したコントロールに比して破骨細胞の形成が70%以下となる様な当該硫酸化GAGが挙げられる。
【0013】
最も好ましくは、デルマタン硫酸(コンドロイチン硫酸B、以下DSとも言う)、ヘパリン、ヘパラン硫酸(以下、HSとも言う)、コンドロイチン硫酸E(以下、CS−Eとも言う)、硫酸化コンドロイチン硫酸B(硫酸化デルマタン硫酸とも称される。以下、硫酸化CS−Bとも言う)、硫酸化コンドロイチン硫酸A(以下、硫酸化CS−Aとも言う)、硫酸化コンドロイチン硫酸C(以下、硫酸化CS−Cとも言う)、コンドロイチンポリ硫酸(以下、CPSとも言う)等が挙げられる。
【0014】
以下、更に具体的に説明する。
構成二糖単位を構成するウロン酸が主にL−イズロン酸である硫酸化GAGとしては、DS、ヘパリン及びHS等が挙げられる。
【0015】
また、構成二糖単位を構成するウロン酸がL−イズロン酸及び/又はD−グルクロン酸であり硫黄含量が3%〜16%(w/w%)である硫酸化GAGとしては、構成二糖単位を構成するウロン酸残基及びヘキソサミン残基における、ウロン酸残基とヘキソサミン残基とのグリコシド結合に関与していない部位のヒドロキシル基及び/又はアミノ基が部分的に硫酸化されている硫酸化GAGが挙げられ、当該硫黄含量はヒドロキシル基及び/又はアミノ基を硫酸化している硫酸イオンに由来している。この様な硫酸化GAGとしては、ウロン酸が主にL−イズロン酸であるDS、ヘパリン及びHSや、他にはCS−E、硫酸化CS−B、硫酸化CS−A、硫酸化CS−C、CPSなどが挙げられる。
更に、本発明物質としては硫黄含量が6%〜14%(w/w%)である硫酸化GAGがより好ましく、この様な硫酸化GAGとしては、CS−E、硫酸化CS−B、硫酸化CS−A、硫酸化CS−C及びCPSが挙げられる。
【0016】
例えば、D−グルクロン酸(GlcA)とN−アセチル−D−ガラクトサミン(GalNAc)から成る構成二糖単位を有し、GlcAのO−1位とGalNAcのO−3位とがβ−グリコシド結合しているコンドロイチン硫酸(以下、CSとも言う)においては、硫黄含量6%〜15%(w/w%)が好ましく、硫酸化されうる部位としては、GalNAcのO−4位、O−6位及びGlcAのO−2位、O−3位のヒドロキシル基が挙げられる。
【0017】
更に、ヘキソサミン残基のO−4位とO−6位にのみ硫酸基を有している構成二糖単位を有する硫酸化GAGの一例としては、コンドロイチナーゼABC(以下、C−ABCとも言う)による分解とイオン交換高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCとも言う)による分析を組み合わせた二糖組成分析にて、GalNAcのO−4位とO−6位にのみ硫酸基を有している不飽和二糖(以下、ΔDi(4,6)Sとも表す)が検出されるCSが挙げられる(Anal. Biochem., 177, 327-332 (1989) 参照)。また、本発明物質としては、C−ABCにより分解されHPLCにて検出された構成二糖単位全体のうち、ΔDi(4,6)Sが10%〜80%であるCSがより好ましく、ΔDi(4,6)Sが10%〜70%であるCSが更に好ましい。この様なCSとしては、CS−E、硫酸化CS−B、硫酸化CS−A、硫酸化CS−C、CPSなどが挙げられる。
【0018】
尚、硫酸化CS−Bとは、天然物由来の通常のコンドロイチン硫酸B(デルマタン硫酸とも称される。以下、CS−Bとも言う)に硫酸基を導入して得られる生成物で、好ましくはGalNAcのO−6位が特異的に硫酸化されたものであり、CS−Bよりも高い硫酸含量を有している。同様に、硫酸化CS−Aとは、天然物由来の通常のコンドロイチン硫酸A(以下、CS−Aとも言う)に硫酸基を導入して得られる生成物で、好ましくはGalNAcのO−6位が特異的に硫酸化されたものであり、CS−Aよりも高い硫酸含量を有している。また、硫酸化CS−Cとは、天然物由来の通常のコンドロイチン硫酸C(以下、CS−Cとも言う)に硫酸基を導入して得られる生成物で、好ましくはGalNAcのO−4位が特異的に硫酸化されたものであり、CS−Cよりも高い硫酸含量を有している。一方、CPSとは、通常用いられるコンドロイチン硫酸を位置非特異的に硫酸化させたコンドロイチンポリ硫酸である。
【0019】
通常の硫酸化グリコサミノグリカンに人為的に硫酸基を導入して前記の様な硫酸含量の高い硫酸化グリコサミノグリカンを得る方法は、意図する位置に硫酸基が導入されさえすれば、特に限定されないが、化学的に硫酸化する方法や適当な硫酸基転移酵素を用いて硫酸基を転移する方法等を用いる事が可能であり、例えば、特公平6−99485号公報やCarbohydr.Res.,158, 183 (1986)に記載の方法を利用する事が出来る。
【0020】
別の観点からは、本発明物質は、マウスの骨髄細胞と10%FCS含有αMEM培地を用いたPGE刺激下での破骨細胞の培養(培養条件:37℃、COインキュベーター内で7日間)において硫酸化GAG50μg/mLを培地に添加する事により、硫酸化GAGを添加しないで同様に培養したコントロールに比して、破骨細胞の形成が70%以下となる様な当該硫酸化GAGとも表すことが出来る。また、本発明物質としては、この方法において破骨細胞の形成が60%以下となる硫酸化GAGがより好ましく、50%以下となる硫酸化GAGが更に好ましく、35%以下となる硫酸化GAGが最も好ましい。上記培養方法の具体的な手段については、後述の実施例に記載の通りである。
【0021】
本発明物質の分子量は限定されるものではないが、その平均分子量は(ゲル濾過法によると)1,500〜150,000であることが好ましく、5,000〜100,000がより好ましい。尚、多糖類の平均分子量は、重量平均分子量で示すのが一般的であるが、グリコサミノグリカンの平均分子量は、同一試料でも測定方法や測定条件などによって多少異なることは当業者にとって常識であり、本発明物質においても上記平均分子量の範囲に厳密に限定されるものでは無い。本発明物質は、その起源、由来、製法等により特に限定されるものでは無く、本発明物質が有する特性を満たすものであれば、天然資源から抽出精製して得るものでも、また、天然資源から抽出精製して得られた物質を原料として化学的手法により改変したもの、また、人工的に合成したものや、遺伝子工学的に動物細胞、植物細胞、微生物等により合成させたものでも構わない。
【0022】
本発明物質又は本発明物質の合成原料としての硫酸化グリコサミノグリカンを天然資源より単離精製する場合に用いられる天然資源としては、例えば、鶏冠、鯨軟骨、鮫軟骨、イカ軟骨、豚皮、豚小腸、牛腎などが挙げられるが、目的とする硫酸化GAGが得られさえすれば、種、属及び部位など特に限定されない。
本発明物質の塩としては、本発明物質の有する破骨細胞の形成を抑制する作用を失わせることのない塩であれば、特に限定されない。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、またはジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩などが挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。
【0023】
本発明物質は、マウス骨髄細胞を用いた破骨細胞形成の実験系において、破骨細胞の形成を有意に抑制する。この結果より、本発明物質は、破骨細胞の形成抑制作用を有し、破骨細胞の形成抑制剤として用いる事が可能であることが確認される。破骨細胞の形成を抑制すると、骨組織における骨吸収が抑制される為、本発明の破骨細胞形成抑制剤は、骨粗鬆症に代表される代謝性骨疾患やリウマチ、歯周病の様な炎症性骨疾患など、特に破骨細胞が異常に亢進することにより引き起こされる疾患の予防と治療に用いることも可能である。尚、本発明物質の塩を上記疾患の予防や治療に用いる場合には、前述の塩のなかでも特に薬理学的に許容される塩が好ましい。
【0024】
本発明物質を上記疾患の予防や治療に用いる場合には、本発明物質の作用を実質的に損なわず、又、投与対象に対し悪影響を示さない限りにおいて、他の薬効成分や製剤時に通常用いられる賦形剤、結合剤、保存剤、安定化剤などを適宜用いる事が可能である。剤型や投与経路としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、注射剤、軟膏剤等に製剤化し、経口、注射、塗布等の投与方法が考えられるが、治療対象となる疾患の性質や重篤度に応じて適宜選択する必要がある。
【0025】
また、本発明物質の多くは、医薬品、食品等として既に人体に投与されている物質であり、安全性も十分に確認されている。更に、本発明の破骨細胞形成抑制剤は、骨代謝等を研究する為の研究用試薬としても用いられる。
【0026】
【実施例】
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
試験法1 塩酸水解とイオンクロマトグラフィーによる分析を組み合わせた硫黄含量分析方法
被験物質(後述の実施例に用いた本発明物質)1mg/mL水溶液200μLと4N塩酸200μLを混合後封入し、110℃で2時間加水分解した。これを減圧乾固し、蒸留水1mLを加え、0.45μmフィルターで濾過し、被験物質の塩酸水解溶液を得た。
同塩酸水解溶液30μLを陰イオン分析用カラム(TSKgel SuperIC−Anion、内径4.6mm、長さ15cm、東ソー(株)製)を装着したイオンクロマトグラフィーに付し、12分間にわたり、陰イオン分析専用溶離液(TSKeluentIC−Anion−S、東ソー(株)製)による溶出を行い、電気伝導度について硫酸イオン標準品における溶出時間を指標として検出し、HPLCチャートを得た。得られたHPLCチャートの硫酸イオン標準品及び各ピーク面積から被験物質の硫酸イオン含量を算出し、それを元に硫黄含量を算出した。
【0028】
試験法2 コンドロイチナーゼABCによる分解とイオン交換高速液体クロマトグラフィーによる分析を組み合わせた二糖組成分析方法
被験物質を10mg/mLとなる様に蒸留水に溶解し、そのうち20μLを0.5UのコンドロイチナーゼABC(生化学工業(株)製)を含む酵素溶液20μL(0.05Mトリス塩酸緩衝液(pH7.5))に添加し、37℃で3時間、酵素消化反応を行った。沸騰水中で30秒加熱後、遠心分離することにより上清を得た。
この酵素消化物を含む上清を、YMC PAカラム(120Å、5μm、内径4x250mm、YMC社製)を装着したイオン交換−HPLCに付し、60分間に亘り、16mMから800mMのリン酸二水素ナトリウム溶液によるリニアーグラジェント溶出を行い、紫外部(UV)232nmの吸収を指標として検出し、HPLCチャートを得た。得られたHPLCチャートの各ピーク面積から、被験物質のコンドロイチナーゼABCにより分解されHPLCにて検出された二糖単位全体に対するΔDi(4,6)S〔2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(β−D−グルコ−β−D−グルコ−4−エノピラノシルロン酸)−4,6−ビス−O−スルホ−D−ガラクトース〕の割合を算出した。
【0029】
参考例1
コンドロイチン硫酸E(CS−E)の製造
マイカの軟骨240gを細断し、20分間煮沸した後、水240mLとアクチナーゼ(科研製薬(株)製)2.4gを加え、pH7.5、55℃の条件下で一晩抽出した。この抽出液に炭酸ナトリウム1.2gを添加し、pH10.5、50℃の条件下で1時間攪拌した後、濾過し、得られた濾液を200mLにまで濃縮した。この濃縮液に0.5N水酸化ナトリウム水溶液及び0.2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を添加し、35℃で2時間アルカリ処理を行った後、エタノール200mL、エタノールと3%酢酸ナトリウム水溶液(pH4.8)合わせて200mL及びエタノールと3%酢酸ナトリウム水溶液(pH4.8)合わせて240mLにより3回分画し、その溶液をレジンHPA−11M(三菱化成(株)製)に吸着させた。塩化ナトリウム濃度を3.7Mにした時の溶出液を集め、濃縮、濾過し、純水に対して透析した後、更に200mLまで濃縮した。この濃縮溶液に活性炭0.5gを加え、pH4.8、50℃の条件下で1時間攪拌した。その後、濾過を行い、4倍量のエタノールを加えて得た沈殿物を乾燥することにより、CS−E(乾燥重量:2g)を得た。得られたCS−Eは、光散乱光法により分子量を測定したCS−A及びCS−Cの標準標品をスタンダードとして用いたゲル濾過クロマトグラフィー(以下、GPCとも言う)において、平均分子量約60,900であり、上記試験法1により測定した硫黄含量は11.4%であり、上記試験法2による二糖組成分析にてΔDi(4,6)Sの割合は67.9%であった。
【0030】
参考例2
硫酸化コンドロイチン硫酸A(硫酸化CS−A)の製造
コンドロイチン硫酸A(以下CS−Aとも言う。鯨由来、生化学工業(株)製)3gを水150mLに溶解し、6℃にてDowex50[H]カラム(ダウケミカル製)を用いイオン交換を行った後、10%トリ−n−ブチルアミン/エタノールでpH5.0に調整し、ジエチルエーテル300mLで2回洗浄した。20℃、減圧下にてジエチルエーテルを留去した後、残った水層を凍結乾燥し、更に五酸化リンの存在下で減圧乾燥を行い、CS−Aのトリ−n−ブチルアミン塩を得た。この塩をジメチルホルムアミド(以下、DMFとも言う)300mLに溶解した後、0℃でピリジン−SO3複合体(アルドリッチ社製)7.5g/DMF100mLをゆっくり滴下し、1時間攪拌して硫酸化を行った。水100mLを加えて反応を止め、0.1N水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調整した後、流水で透析し、40℃下にて減圧濃縮した。得られた濃縮液をイオン交換(SA−12A(三菱化学(株)製):150mL及びPK−220(三菱化学(株)製):150mL)に付した。溶出液を1N水酸化ナトリウム水溶液にて中和した後、40℃にてエバポレーターで濃縮し、5%になるように酢酸ナトリウムを加え、5倍量のエタノールを加えて得られた沈殿物を乾燥し、ガラクトサミン6位硫酸化CS−A(乾燥重量:2g)を得た。得られた硫酸化CS−Aに関し参考例1と同様に平均分子量、硫黄含量、ΔDi(4,6)Sの割合を測定した。その結果、平均分子量は16,900、硫黄含量12%、ΔDi(4,6)Sの割合は66.8%であった。
【0031】
参考例3
硫酸化コンドロイチン硫酸B(硫酸化CS−B)の製造
コンドロイチン硫酸B(鶏冠由来、生化学工業(株)製)3gを上記製造例2と同様に処理し、ガラクトサミン6位硫酸化CS−Bを得た。得られた硫酸化CS−Bに関し、参考例1と同様に平均分子量、硫黄含量、ΔDi(4,6)Sの割合を測定した。その結果、平均分子量27,500、硫黄含量13.6%、上記試験法2による二糖組成分析にて△Di(4,6)Sの割合は68.5%であった。
【0032】
参考例4
硫酸化度の異なるコンドロイチンポリ硫酸(CPS)の製造
冷却した濃硫酸2.4Lにコンドロイチン硫酸C(鮫軟骨由来、生化学工業(株)製)600gを加え、攪拌しながら1時間反応させた。この反応液を希釈し、炭酸カルシウム4.75kgを加えて中和した後、珪藻土を用いて濾過し、減圧加熱処理により3Lまで濃縮した。得られた濃縮液に炭酸ナトリウム146gを添加した後、珪藻土を用いて濾過し、濾液に酢酸ナトリウム162g、60%酢酸180mLを加えて、終濃度40%となる様にエタノールを添加した。このエタノール分画により生じた沈殿物を水3.3Lに溶解し、活性炭150gを添加した。更に、これを珪藻土で濾過し、濾液に酢酸ナトリウム、60%酢酸、エタノール4Lを加え、得られた沈殿物を水1.2Lに溶解し、クエン酸ナトリウム2g、水酸化ナトリウム1.25mLを加えて、pH6.0とした。同溶液を乾燥させた後、微粉処理し、227gのCPS試料粉末を得た。
【0033】
上記CPS5gを0.5%(v/v)塩化アセチル含有メタノール1Lに溶解し、5℃にて攪拌しながら脱硫酸化反応を行った。異なる硫酸化度のCPSを得る為に、反応時間は、5時間、10時間、15時間45分、20時間、25時間30分、31時間の6通りの条件により行った。反応後の試料を遠心分離し、上清を除き、エタノール、エーテルで洗浄後、減圧乾燥した。得られた白色沈殿を100mLの0.1N水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、同試料を室温で加水分解後中和し、流水下で透析した。透析試料を濃縮し、0.22μmフィルターで濾過後、凍結乾燥し、硫酸化度の異なるCPSを得た(尚、5時間、10時間、15時間45分、20時間、25時間30分、31時間の各反応時間の違いにより、各々CPS1、CPS2、CPS3、CPS4、CPS5、CPS6と称する。)。
【0034】
上記試験法1に従い測定した硫黄含量は、CPS1、CPS2、CPS3、CPS4、CPS5、CPS6のそれぞれについて、11.3%、7.8%、7.7%、7.9%、5.9%、5.5%であり、平均分子量は各々6,100、6,000、6,700、6,500、5,800、6,100であった。また、上記試験法2による二糖組成分析にて、CPS1、CPS2、CPS3、CPS4、CPS5、CPS6の△Di(4,6)Sの割合は各々12.8%、11.5%、10.9%、11.6%、8.1%、4.7%であった。
【0035】
実施例1
ddYマウス(六週齢雌)の脛骨、大腿骨を摘出し、両骨の遠心端より骨髄細胞を採取した。骨髄細胞は24穴細胞培養用プレートに5x106細胞/穴となる様に播種し、10 6モル/LプロスタグランジンE2(以下、PGE2という。SIGMA社製)刺激下において、10、100、1000μg/mLとなる様に参考例1で得られたイカ軟骨由来CS−Eを24穴細胞培養用プレートのウェルに添加し、10%牛胎児血清(べーリンガー社製、以下、FCSと言う。)含有Minimum Essential Medium Alpha Medium(GIBCO社製、以下αMEMと言う。)培地にて7日間37℃、CO2インキュベーター内で培養した。培養中2、3日おきにPGE2、CS−E並びに10%FCSを含有するαMEM培地にて培地交換を行った。7日間の培養の後、破骨細胞のマーカーである酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ(以下、TRAPという)をナフトールAS−BIフォスフェート及びfast garnet GBC saltを含有するアゾ色素法を用いた染色測定キット「Acid Phosphatase, Leukocyte」(商品名:SIGMA社製、以下、Acid Phosphatese, Leukocyteと言う)を用いて染色し、形成された破骨細胞の数を顕微鏡下で計測した。
【0036】
結果を図1に示す。尚、結果は各穴内における破骨細胞の数により示した。また、コントロール(−)は被験物質の代わりに同量の10%FCS含有αMEM培地を添加したものである。
図1よりマウス骨髄細胞を用いたPGE刺激下破骨細胞形成実験系において、CS−Eは用量依存的に破骨細胞の形成を有意に抑制することが判明した。
【0037】
実施例2
参考例1で得られたCS−E(イカ軟骨由来)と参考例1で得られたCS−EをコンドロイチナーゼABCで分解した分解物を各100μg/mL用いるほかは、実施例1と同様に操作し、形成された破骨細胞の数を顕微鏡下で計測した。結果を図2に示す。尚、コントロール(−)は、被験物質の代わりに同量の10%FCS含有αMEM培地を添加したものである。
【0038】
実施例1においてCS−Eについては用量依存的破骨細胞形成抑制作用が確認されたが、図2より、CS−EをコンドロイチナーゼABCにより処理した分解物(主に不飽和二糖)には有意な破骨細胞形成抑制作用は確認されなかった。つまり、破骨細胞形成抑制作用は、二糖単位の繰り返し構造からなるCS−E構造、若しくは分子のサイズが大きく関与していると示唆される。
【0039】
実施例3
参考例1で得られたCS−E(マイカ軟骨由来)、参考例2で得られたガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸A(硫酸化CS−A)、同様に参考例3で得られたガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸B(硫酸化CS−B)、ヘパリン(SIGMA社製)を図3に示す濃度となる様に用いるほかは、実施例1と同様に操作し、形成された破骨細胞の数を顕微鏡下で計測した。
結果を図3に示す。尚、コントロール(−)は、被験物質の代わりに、同量の10%FCS含有αMEM培地を添加したものである。
【0040】
図3より明らかな様に、天然物より抽出されたCS−Eだけでなく、特異的に硫酸基を導入することによって作成したCS−Eの特徴であるΔDi(4,6)Sを多く含有する硫酸化GAGにも有意な破骨形成抑制作用が確認された。これより、硫酸化GAGによる破骨細胞形成抑制作用には、ΔDi(4,6)S含量も関与していると示唆される。
【0041】
実施例4
参考例4で得られた硫酸化度の異なるコンドロイチンポリ硫酸(CPS1〜CPS6)を各々50μg/mLとなる様に用いるほかは実施例1と同様に操作し、形成された破骨細胞の数を顕微鏡下で計測した。
結果を図4に示す。尚、コントロール(−)は、被験物質の代わりに、同量の10%FCS含有αMEM培地を添加したものである。
【0042】
図4より、硫酸化度の高さに依存する様に破骨細胞形成抑制作用が確認され、硫酸化度が低いと殆ど破骨細胞抑制効果は殆ど確認されなかった。これより、硫酸化GAGの破骨細胞形成抑制作用には硫酸基含量が関係していると示唆される。
【0043】
実施例5
豚皮由来コンドロイチン硫酸B(生化学工業(株)製)を図5に示す濃度(10、100、1000μg/mL)となるように用いたほかは、実施例1と同様に操作し、形成された破骨細胞の数を顕微鏡下で計測した。
結果を図5に示す。尚、コントロール(−)は、被験物質の代わりに、同量の10%FCS含有αMEM培地を添加したものである。
【0044】
実施例6
牛腎由来ヘパラン硫酸(生化学工業(株)製)を図6に示す濃度(30、300μg/mL)となるように用いたほかは実施例1と同様に操作し、形成された破骨細胞の数を顕微鏡下で計測した。
結果を図6に示す。尚、コントロール(−)は、被験物質の代わりに、同量の10%FCS含有αMEM培地を添加したものである。
【0045】
実施例5、実施例6の結果(図5、図6)より、CS−Bとヘパラン硫酸にも用量依存的破骨細胞形成抑制作用が確認され、また、実施例3(図3)においてCS−Eとは異なる構造であるヘパリンにも破骨細胞形成抑制作用が確認されている。これら3つの化合物はいずれも構成二糖単位を構成する成分としてL−イズロン酸を含有しており、硫酸化GAGの破骨細胞形成抑制作用には構成二糖単位のウロン酸が主にL−イズロン酸であるものも有効であると考えられる。
【0046】
更に、実施例3(図3)において、CS−Bの構成二糖単位を構成するGalNAcのO−6位に特異的に硫酸基を導入して得られる硫酸化CS−Bは、構成二糖単位としてL−イズロン酸を含有しないCS−Aを特異的に硫酸化して得た硫酸化CS−Aと比較して顕著に強い破骨細胞形成抑制作用を示しており、また、構成二糖単位を構成するウロン酸としてL−イズロン酸を含有するが、CS−Eとは構造が異なるヘパリンと比較して同等以上の破骨細胞形成抑制作用を示している。この結果より、本発明物質としては、CS−Eの特徴であるCS−E構造〔ΔDi(4,6)S〕を多く含有し、及び、構成二糖単位を構成するウロン酸としてL−イズロン酸を含有するものが、より有効であると思われる。
【0047】
【発明の効果】
本発明により破骨細胞形成抑制剤が提供され、当該破骨細胞形成抑制剤は慢性関節リウマチや歯周病等の炎症性骨破壊に起因する疾患や骨粗鬆症等の代謝性骨疾患の予防や治療に用いることが可能である。
【0048】
【図面の簡単な説明】
【図1】 コンドロイチン硫酸Eの用量依存的な破骨細胞形成抑制作用を示す。(−)はコントロールを示す。
【図2】 コンドロイチン硫酸Eとコンドロイチン硫酸EをコンドロイチナーゼABCで分解した分解物の破骨細胞形成抑制作用を示す。(−)はコントロールを示す。
【図3】 コンドロイチン硫酸E、ガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸A、ガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸B及びヘパリンの破骨細胞形成抑制作用を示す。図において、ChEはコンドロイチン硫酸E、S化ChAはガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸A、S化ChBはガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸B、(−)はコントロールを示す。
【図4】 硫酸化度の異なるコンドロイチンポリ硫酸(CPS1〜CPS6)の破骨細胞形成抑制作用を示す。CPS1、CPS2、CPS3、CPS4、CPS5、CPS6は各々硫酸化度の異なるコンドロイチンポリ硫酸を示し、ChEはコンドロイチン硫酸Eを、(−)はコントロールを示す。
【図5】 コンドロイチン硫酸Bの用量依存的な破骨細胞形成抑制作用を示す。(−)はコントロールを示す。
【図6】 ヘパラン硫酸の用量依存的な破骨細胞形成抑制作用を示す。(−)はコントロールを示す。

Claims (4)

  1. 硫酸化グリコサミノグリカン又はその塩を有効成分として含有する破骨細胞形成抑制用研究試薬
  2. 硫酸化グリコサミノグリカンが、ウロン酸がL-イズロン酸及び/又はD-グルクロン酸であり、硫黄含量が3%〜16%(W/W%)である硫酸化グリコサミノグリカンであることを特徴とする請求項1記載の研究試薬
  3. 硫酸化グリコサミノグリカンが、コンドロイチナーゼABCによる分解とイオン交換高速液体クロマトグラフィーによる分析を組み合わせた二糖組成分析において、N-アセチル-ガラクトサミンの4位水酸基と6位水酸基にのみ硫酸基を有している不飽和二糖が10〜80%であるコンドロイチン硫酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の研究試薬
  4. 硫酸化グリコサミノグリカンが、ゲル濾過法により測定される平均分子量が、1,500〜150,000である請求項1〜3の何れかに記載の研究試薬
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