JP4567928B2 - Hc吸着体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジン排ガス中の有害成分の一つである炭化水素(HC)を吸着・脱離するためのHC吸着体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ディーゼルエンジン等の排ガスラインには、主にこれを流れる排ガス中のNOxを浄化するためのNOx浄化用触媒が備えられていると共に、その上流側には、特にエンジン始動時に大量に発生する炭化水素(HC)を吸着するためのHC吸着体が備えられたものが提案されている。
【0003】
このHC吸着体は、排ガスを通過すべく断面ハニカム構造をした筒状の担体にγ−アルミナ等のHC吸着材を担持したものであり、NOx浄化用触媒が十分に働かない低温時等に排ガス中のHCを吸着しておき、NOx浄化用触媒が活性温度域に達したときに吸着していたHCを脱離してNOx浄化用触媒側に送り、ここでその触媒作用によって効果的に浄化(HC+O2→CO2+H2O,NO+HC→CO2+H2O+N2等)することでHCの環境への排出を抑制するようにしたものである。
【0004】
しかしながら、1種類の吸着材のみを使用しただけでは、前記NOx触媒の活性温度域に適したHCの脱離を行うためには不十分な場合がある。図5に各種HC吸着材のHC脱離特性、すなわち吸着したHCの脱離強度(脱離量)と温度との関係を示す。NOx触媒が仮に150℃〜300℃に活性域を持つとした場合に、例えば図示するようにHC吸着材としてγ−アルミナを用いた場合には、約150℃〜200℃の温度域では効率的にHCを脱離することができるが、それ以上の温度域になるとHC脱離強度が一気に減少してしまう。従って、このNOx触媒の200℃〜300℃における活性をうまく活かすことができない。また、HC吸着材としてY型ゼオライトを用いた場合には、約250℃〜300℃の温度域では効率的にHCを脱離することができるが、その前後の温度域ではHC脱離量が極端に減少する。従ってこのNOx触媒の150℃〜250℃における活性をうまく活かすことができない。
【0005】
そのため、脱離特性の異なる2種以上のHC吸着材を適宜組み合わせ、これを担体上に多層コートや混合コート等によって担持させることでNOx触媒の活性域により適した温度範囲でHCを脱離するような特性を付与することが考えられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このように脱離特性の異なる2種類以上の吸着材を組み合わせてこれを担体上に多層にコートしたり、混合コートして担持させる構造では、ある温度域で一旦、一方のHC吸着材から脱離したHCがそのまま隣接或いは接触している他方のHC吸着材側に吸着されてしまい、効率的にHCを脱離することができないといった問題がある。
【0007】
すなわち、例えば、図13に示すように約200℃付近に脱離強度のピークを有する吸着材Aと、約300℃付近に脱離強度のピークを有する吸着材Bとを組み合わせた場合、200℃付近で吸着材Aから脱離されたHCが、直ちにその温度域で吸着材Bに吸着されてしまうというように吸着材Aの特性が吸着材Bに撚り妨げられるという場合がある。
【0008】
そこで、本発明はこのような課題を有効に解決するために案出されたものであり、その目的は、NOx触媒の活性な温度域において効率的にHCを脱離することを容易にする新規なHC吸着体を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、エンジンの排ガス通路に、エンジン排ガスを浄化するための触媒装置と、上記触媒装置の上流側に上記エンジン排ガスを通過させる筒状の担体にHC脱離温度特性の異なる2種類以上のHC吸着材を担持させたHC吸着体とを備え、上記担体をその排ガスの流れ方向と平行に2つ以上のゾーンに分割し、それら各ゾーンに上記各HC吸着材をそれぞれ独立して担持してなるHC吸着体において、上記各HC吸着材を担持する比率が上記触媒装置の活性温度域に応じて決定されるものである。
【0010】
これによって、ある温度域で所定のゾーンの吸着材から脱離したHCが他のゾーンの吸着材に接触することがなくそのまま排ガスの流れに伴ってその下流へ流されるようになるため、一旦脱離したHCが他の吸着材に吸着されることがなくなり、触媒装置の活性温度域に応じて決定した比率で担持されたそれぞれのHC吸着材のHC脱離温度特性に従い脱離したHCを確実に触媒装置側へ流すことができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、本発明を実施する好適一形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本発明に係るHC吸着体1の実施の一形態を示す斜視図、図2はガスの流れ方向正面図を示したものである。
【0013】
図示するように、このHC吸着体1は、エンジン排ガスを通過させるべく円筒状をした断面ハニカム構造の担体2にHCを吸着・脱離するための吸着層3を担持させたものであり、エンジン排ガスを通過させた際にその排ガス中の炭化水素(HC)を低温時に吸着すると共に、所定の温度に達したときに吸着したHCを脱離してその下流側の図示しない触媒装置側に送るようになっている。
【0014】
また、この担体2は、その中央部を境にして排ガスの流れ方向と平行になるように上下2つのゾーン(Aゾーン,Bゾーン)に分割されており、各ゾーンに担持される各吸着層3A,3Bはそれぞれ異なるHC脱離温度特性を有する2種類の吸着材A,Bから形成されている。すなわち、図2に示すように、図中上方に位置するAゾーン側の吸着層3Aは低温領域(例えば、約150〜250℃)でHC脱離強度のピークを有する吸着材Aから形成され、図中下方に位置するBゾーン側の吸着層3Bは、高温領域(例えば、約200〜350℃)でHC脱離強度のピークを有する吸着材Bから形成されている。
【0015】
そのため、このような構造をした本発明のHC吸着体1にあっては、エンジン始動時等の温度が低い状態の時には、その排ガス中のHCをそのまま各ゾーンの吸着層3A,3Bで吸着することになるが、時間が経過してその排ガス熱によってその温度が上昇してその下流側の触媒装置の活性温度域に達すると、先ず、Aゾーン側の吸着層3A(吸着材A)に吸着されていたHCがこれより脱離し始め、そのまま排ガスに伴って触媒装置側に流され、ここで効率的に浄化されることになる。次に、さらにそのHC吸着体1の温度が上昇するとAゾーン側の吸着層3Aの脱離強度が低下してくるが、これに代わってBゾーン側の吸着層3Bの脱離強度が上昇することになるため、今度はその吸着層3B側に吸着されていたHCが脱離し始め、同じくそのまま排ガスに伴って触媒装置側へ流され、同じくここで効率的に浄化されることになる。
【0016】
すなわち、本発明のHC吸着体1は、上述したように担体2をその排ガスの流れと平行になるように2つのゾーンA,Bに分割し、各ゾーンA,Bの吸着層3A,3BをそれぞれHC脱離温度特性の異なる2つのHC吸着材A,Bで独立して形成したため、従来の多層コートや混合コート等のように一旦脱離したHCが再度吸着されることなくそのまま触媒装置側に流すことができる。この結果、所期の目的のようにHC脱離強度の異なる2つの吸着材2の特性を効果的に利用して低温域から高温域に亘って広い温度域でHCを脱離することが可能となり、優れたHC脱離特性を発揮することができる。
【0017】
ここで本発明に適用する吸着材A,Bとしては、特に限定するものでなく、従来公知の吸着材、例えば、γ−アルミナ,β型ゼオライト,Y型ゼオライト,MOR型ゼオライト,ZSM−5等をそのまま適用することができる。
【0018】
また、この各ゾーンの分割形態やその分割数等は、各ゾーンがガスの流れ方向に平行とそれぞれ独立した状態であれば、本実施の形態に限定されるものでなく、例えば、図3に示すような形態であっても良い。
【0019】
すなわち、図3の実施の形態にあっては、担体2を同芯円上に2つのゾーンに分割し、その軸部付近をAゾーンとし、その周囲をBゾーンとしたものであり、このように分割しても各ゾーンから脱離したHCが他のゾーンの吸着材に触れることなくそのまま下流側へ流れるようになるため、上記実施の形態と同様な効果を得ることができる。また、図4(c)〜(e)に示すように、ガスの流れ方向上下左右或いは放射線状に3つ以上のゾーンに分割し、それらのゾーンに異なる吸着材A,Bをそれぞれ交互に担持させるようにしたり、あるいは同図(g)〜(i)に示すように各ゾーンを全て異なる吸着材(A,B,C,D)で形成しても良い。さらに同図(f)に示すように、それぞれの脱離強度に合わせて各ゾーンの比率を適宜異ならしめるような形態にしても良い。
【0020】
【実施例】
図5に示すようなそれぞれHC脱離温度特性が異なる5種類の吸着材(γ−アルミナ,β型ゼオライト,Y型ゼオライト,MOR型ゼオライト,ZSM−5)を上記実施の形態の如くそれぞれ独立した状態で適宜組み合わせ、その組み合わせ後の吸着材のHC脱離温度特性を調べた。
【0021】
(実施例1)
低温域でHC脱離強度に優れているγ−アルミナと、高温域でHC脱離強度に優れているZSM−5をそれぞれ独立した状態で組み合わせてそのHC脱離温度特性を調べたところ、図6に示すように、それぞれの吸着材のHC脱離強度ピークは低くなったものの、低温域から高温域に亘って広範囲でまんべんなくHC脱離性能を発揮することができた。また、この吸着材の組み合わせ比率を1:1にした場合には、低温側のHC脱離強度が強くなり、反対に比率をZSM−5の比率を多くした場合(1:3)には、高温側でのHC脱離強度が強まることがわかった。
【0022】
この結果、使用する触媒装置の活性温度域が比較的低温側に寄っている場合にはγ−アルミナの比率を増やせば良く、反対に使用する触媒装置の活性温度域が比較的高温側に寄っている場合にはZSM−5の比率を増やせば使用する触媒装置の種類に応じて最適なHC脱離強度を有するHC吸着体を提供することができることが分かった。
【0023】
(実施例2)
低温域でHC脱離強度に優れているβ型ゼオライトと、高温域でHC脱離強度に優れているZSM−5を組み合わせてそのHC脱離特性を調べたところ、図7に示すように、それぞれ吸着材のHC脱離強度ピークは低くなったものの、低温域から高温域に亘って広い範囲でまんべんなくHC脱離性能を発揮することができた。また、実施例1と同様にこれらの組み合わせ比率を変化させることによってHC脱離強度を任意にコントロールできることが分かった。
【0024】
(実施例3)
低温域でHC脱離強度に優れているβ型ゼオライトと、中温域でHC脱離強度に優れているY型ゼオライトを組み合わせてそのHC脱離特性を調べたところ、図8に示すように、実施例1,2に比べてその温度域はやや狭くなったものの、低温域から中温域では実施例1,2よりも優れたHC脱離性能を発揮することができた。また、実施例1と同様にこれらの組み合わせ比率を変化させることによってHC脱離強度を任意にコントロールできることが分かった。
【0025】
(実施例4)
低温域でHC脱離強度に優れているγ−アルミナと、中温域でHC脱離強度に優れているY型ゼオライトを組み合わせてそのHC脱離特性を調べたところ、図9に示すように、実施例3に比べてより低温域から中温域に亘って優れたHC脱離性能を発揮することができた。また、実施例1と同様にこれらの組み合わせ比率を変化させることによってHC脱離強度を任意にコントロールできることが分かった。
【0026】
(実施例5)
低温域でHC脱離強度に優れているγ−アルミナと、中温域でHC脱離強度に優れているMOR型ゼオライトを組み合わせてそのHC脱離特性を調べたところ、図10に示すように、実施例4に比べて特に低温域側のHC脱離強度を向上させることができた。また、実施例1と同様にこれらの組み合わせ比率を変化させることによってHC脱離強度を任意にコントロールできることが分かった。
【0027】
(実施例6)
低温域でHC脱離強度に優れているγ−アルミナと、これよりもやや高温域でHC脱離強度に優れているβ型ゼオライトと、高温域でHC脱離強度に優れているMOR型ゼオライトとの3種類の吸着材を組み合わせてそのHC脱離特性を調べたところ、図11に示すように、低温域から高温域の広範囲でHC脱離性能を発揮することができた。また、実施例1と同様にこれらの組み合わせ比率を変化させることによってHC脱離強度を任意にコントロールできることが分かった。
【0028】
(実施例7)
低温域でHC脱離強度に優れているγ−アルミナと、高温域でHC脱離強度に優れているMOR型ゼオライトと、さらに高温域でHC脱離強度に優れているZSM−5の3種類を組み合わせてそのHC脱離特性を調べたところ、図12に示すように、実施例6の場合よりもさらに広い温度域でまんべんなくHC脱離性能を発揮することができた。また、実施例1と同様にこれらの組み合わせ比率を変化させることによってHC脱離強度を任意にコントロールできることが分かった。
【0029】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、あるHC吸着材から一旦脱離したHCが他のHC吸着材に吸着されることがなくなるため、2種以上のHC吸着材を組み合わせる場合に、組み合わせるHC吸着材の種類や量を変えることにより、それぞれのHC吸着材の特性を活かしたHC脱離特性を有するHC吸着体が得られる。これによって、NOx触媒の活性温度域に応じた適切なHC吸着特性を有するHC吸着体を提供することができるため、有害なHCの環境への排出を効果的に抑制すると共に、このHCを同じくエンジン排ガス中の有害物質であるNOxの還元剤として有効利用することができ、NOxを効果的に浄化しその環境への排出を抑制することが可能となる、等といった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るHC吸着体の実施の一形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るHC吸着体の実施の一形態を示す正面図及びその部分拡大図である。
【図3】本発明に係るHC吸着体の他の実施の形態を示す斜視図である。
【図4】本発明に係るHC吸着体の他の実施の形態を示す概念図である。
【図5】従来公知の各種HC吸着体のHC脱離温度特性を示すグラフ図である。
【図6】γーアルミナとZSM−5のHC脱離温度特性及びそれを所定の比率で組み合わせたときのHC脱離温度特性を示すグラフ図である。
【図7】β型ゼオライトとZSM−5のHC脱離温度特性及びそれを所定の比率で組み合わせたときのHC脱離温度特性を示すグラフ図である。
【図8】β型ゼオライトとY型ゼオライトのHC脱離温度特性及びそれを所定の比率で組み合わせたときのHC脱離温度特性を示すグラフ図である。
【図9】γ−アルミナとY型ゼオライトのHC脱離温度特性及びそれを所定の比率で組み合わせたときのHC脱離温度特性を示すグラフ図である。
【図10】γ−アルミナとMOR型ゼオライトのHC脱離温度特性及びそれを所定の比率で組み合わせたときのHC脱離温度特性を示すグラフ図である。
【図11】γ−アルミナとβ型ゼオライトとMOR型ゼオライトのHC脱離温度特性及びそれらを所定の比率で組み合わせたときのHC脱離温度特性を示すグラフ図である。
【図12】γ−アルミナとMOR型ゼオライトとZSM−5のHC脱離温度特性及びそれらを所定の比率で組み合わせたときのHC脱離温度特性を示すグラフ図である。
【図13】2種類の吸着材のHC脱離温度特性を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1 HC吸着体
2 担体
3A,3B 吸着層
A,B,C,D 吸着材
Claims (5)
- エンジンの排ガス通路に、エンジン排ガスを浄化するための触媒装置と、上記触媒装置の上流側に上記エンジン排ガスを通過させる筒状の担体にHC脱離温度特性の異なる2種類以上のHC吸着材を担持させたHC吸着体とを備え、上記担体をその排ガスの流れ方向と平行に2つ以上のゾーンに分割し、それら各ゾーンに上記各HC吸着材をそれぞれ独立して担持してなるHC吸着体において、上記各HC吸着材を担持する比率が上記触媒装置の活性温度域に応じて決定されることを特徴とするHC吸着体。
- 上記触媒装置の活性温度域に相当する温度域で、上記HC脱離温度特性が強まる上記HC吸着材を担持する比率が、他の上記HC吸着材より増加するように決定されることを特徴とする請求項1に記載のHC吸着体。
- 上記各ゾーンが排ガスの流れ方向左右又は上下に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のHC吸着体。
- 上記各ゾーンが同芯円状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のHC吸着体。
- 上記各ゾーンが放射線状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のHC吸着体。
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