本発明は、エンジン計測装置に関する。
従来、開発ないし製造されたエンジンが所定の性能を備えているかを評価するため、試験対象となるエンジンを台上(エンジンベンチ)に取付け、エンジンの出力軸にトルク計及び回転数計を介してダイナモメータを接続し、ダイナモメータを運転して、エンジン単体の性能を測定・評価する台上試験が行なわれている。
近年は、排ガス規制が厳しくなっている一方で、燃費性能等の各種性能の向上が求められている。しかし、燃費性能の向上と、排ガス削減とは、本来相反するものであり、これらの両立が可能なエンジン最適制御が要求されている。
また、エンジンは、ECUを用いて電子的に制御されるのが一般的であるが、エンジンの燃焼方式の進歩、構造の複雑化に伴い、制御パラメータが増加している。
例えば、ECUが、ガソリンエンジンの燃焼を制御する際に必要となるパラメータは、従来では、燃料噴射タイミング、噴射時間、点火タイミングの3パラメータであったが、最近では、吸入空気温度、空気流量、水温、クランク温度、排気温度、バッテリー温度、酸素濃度等、各種センサーの接続により、様々な種類のデータをモニター出来るようになったため、上記3パラメータに関する制御の他に、バルブ制御、燃料噴射圧制御、進角値制御等も可能となり、エンジン性能評価には少なくとも8パラメータが必要とされだしている。
ECU制御に用いるパラメータを最適化するためには、実際に、エンジンを駆動させて台上試験を行なう必要があるが、この台上試験において、1パラメータ毎に測定点を3点とし、合計3パラメータにつき試験を行なうとすると、33回の測定が必要となる。これが、8パラメータにつき試験を行なうとなると、38回の測定が必要となり、単純計算で試験時間が243倍となってしまう。更に、1パラメータ毎の測定点数を増やして、試験精度を上げれば上げるほど、試験時間が長くなってしまう。また、パラメータ数や測定点が増える程、試験時間のみならず、評価・解析にも時間がかかる。
これらのパラメータの増加に対応して、測定時間の短縮のため、及び、多数のデータから最適値を決定するため、数々の試みがなされている。
例えば、パラメータ間の関係を明確にするために、エンジンを含む車両の動作・機能を数式、図式、グラフ等によってモデル化する手法及び、試験時間の短縮や制御の安定化については、特許文献1や特許文献2に記載されている。また、エンジン性能の評価に必要なパラメータを効果的に測定するための実験計画法の取入れも一般に行なわれている。
また、特許文献3には、小型アクチュエータについて、上記のモデル化手法を用いて駆動系モデルを作成し、更に、最適化手法の1つである応答曲面法を取入れて、パラメータの最適化を行なうことが記載されている。
しかし、これらの手法を採用した従来のエンジン試験装置には、以下に説明する技術的な課題があった。
特開2004−177259号公報
特開2003−294584号公報
特開2005−92640号公報
特許文献1〜特許文献3に記載のモデル化手法、実験計画法、応答曲面法のような最適化手法に用いられるデータは、エンジン、負荷等の被測定物の状態が一定になった定常状態において得ているが、データが定常状態に落ち着くまでには時間がかかるものであり、パラメータの最適化に要する時間の短縮化に直接寄与しているものとは言い難い。
これに対し、最近では、高速応答センサ、高速A/D変換技術、高速信号処理の技術向上により、エンジン、負荷の状態が変動している時点でデータを採取する過渡試験方法が試されるようになってきた。
この過渡試験方法は、エンジン・負荷の状態が安定化する前段階でデータを採取することが出来るため、測定時間の短縮に直接的に貢献するものであり、注目されている手法であるが、従来から行なわれている手法によるデータとの整合性の検証が進んでおらず、現時点では標準的な測定方法として認められていなかった。
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、定常試験方法と過渡試験方法で得られたデータの比較・評価を行なうことで、測定データ及び測定データから得られるエンジン評価結果の信頼性が高まるとともに、パラメータに応じて適宜、定常試験と過渡試験の選択が出来、結果として短期間で効率よくエンジン性能の測定・解析・評価を行なうことが出来るエンジン計測装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明は、エンジンを制御するエンジン制御部と、前記エンジンに接続されたダイナモメータの負荷トルクを制御するダイナモメータ制御部と、前記エンジンの出力軸に接続され前記エンジン制御部により駆動する前記エンジンの回転数とトルクを少なくとも含む測定データを検出する検出器とを備え、前記エンジン及びダイナモメータを駆動して行なう台上試験で前記エンジンの性能を計測するエンジン計測装置において、全ての測定データを、一定値に安定している状態で得る定常試験と、測定データを、一種類以上が変動している状態で得る過渡試験について、それぞれの試験条件の設定を行なうシステム制御部と、前記定常試験実行時に、前記検出器から得られた測定データに基づいて、前記エンジンの定常状態における定常モデルを作成し、前記定常モデルのシミュレーションを行なう定常モデルシミュレーション部と、前記過渡試験実行時に、前記検出器から得られた測定データに基づいて、前記エンジンの過渡状態における過渡モデルを作成し、前記過渡モデルのシミュレーションを行なう過渡モデルシミュレーション部と、前記定常モデルと前記過渡モデルとを比較して、前記過渡モデルの信頼性を確保し、前記定常モデルのシミュレーション結果と前記過渡モデルのシミュレーション結果との比較を行ない、双方の一致度により結果を評価して、前記定常試験及び過渡試験の有効性・妥当性を評価する評価部と、を備えるエンジン計測装置であって、前記システム制御部は、前記定常試験で得られた測定データの中から、前記エンジンの性能を表すエンジン性能パラメータと、前記エンジンの性能に影響を及ぼす制御パラメータとを選択決定し、これらパラメータを前記モデルの作成に反映させるものであり、決定された前記制御パラメータの中から、少なくとも1種類以上の制御パラメータを、過渡試験実行中、時間的・数値的に連続変化させる過渡運転パラメータとするようにした。
尚、本明細書において、定常試験、過渡試験の定義は以下の通りである。
定常試験:制御パラメータを一定時間に一定値に保った状態で運転して、全ての測定データが安定してから、測定データを取得する試験。
過渡試験:制御パラメータを時間的・数値的に連続変化させて運転して、一種類以上の測定データが変動している状態で、測定データを取得する試験。
このように構成されたエンジン計測装置によれば、定常試験と過渡試験で得られた両測定データの比較・評価を行なうことで、測定データ及び測定データから得られるエンジン評価結果の信頼性が高まるとともに、測定データの種類に応じて適宜、定常試験と過渡試験の選択が出来、結果として効率よく短期間でエンジン性能の測定・解析・評価を行なうことが出来るようになる。
上記構成によれば、定常試験で用いられた制御パラメータのうちの1種類以上を、過渡試験における過渡運転パラメータとして用いるので、先に行なわれた定常試験の結果に基づいて効率よく、過渡試験条件の設定、過渡試験の実施が行なわれるようになる。
また、両試験に、同じ種類の制御パラメータを用いることで、定常モデルと過渡モデルの相互比較が可能となり、過渡状態のデータに基づいて得られたモデルの信頼性、ひいては、エンジン性能の信頼性が確保され、従来の定常試験に代わり、短時間で過渡状態のデータから、エンジン性能評価に必要なトルクを求めることが出来るようになる。
また、前記定常モデル及び過渡モデルの作成及び最適化には、前記エンジン性能パラメータを応答変数とし、前記制御パラメータを要素とするn次回帰関数モデルによる応答曲面法を用いることができる。さらに、前記システム制御部は、前記評価部による前記定常モデルと過渡モデルの比較結果に基づいて、定常試験の試験条件の設定を一部ないしは全てを、省略可能とすることができる。
この構成によれば、評価部による前記定常モデルと過渡モデルの比較結果に基づき、制御パラメータに応じて、過渡試験の結果をエンジン性能の評価に用いるか、定常試験の結果をエンジン性能の評価に用いるかが、適宜選択可能となるので、試験・評価にかかる時間の短縮、作業の効率化が図られる。
また、より多くの制御パラメータが過渡運転パラメータとして用いられることが実証されれば、自ずと、エンジン試験が効率的に行なわれるようになり、エンジン性能測定・評価の時間短縮が図られることとなる。
本発明にかかるエンジン計測装置によれば、定常試験と過渡試験で得られた両測定データの比較・評価を行なうことで、測定データ及び測定データから得られるエンジン評価結果の信頼性が高まるとともに、測定データの種類に応じて適宜、定常試験と過渡試験の選択が出来、結果として効率よく短期間でエンジン性能の測定・解析・評価を行なうことが出来るようになる。
定常試験で用いられた制御パラメータのうちの1種類以上を、過渡試験における過渡運転パラメータとして用いるので、先に行なわれた定常試験の結果に基づいて効率よく、過渡試験条件の設定、過渡試験の実施が行なわれるようになる。
また、両試験に、同じ種類の制御パラメータを用いることで、定常モデルと過渡モデルの相互比較が可能となり、過渡状態のデータに基づいて得られたモデルの信頼性、ひいては、エンジン性能の信頼性が確保され、従来の定常試験に代わり、短時間で過渡状態のデータから、エンジン性能評価に必要なトルクを求めることが出来るようになる。
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本実施例のエンジン計測装置1の概略接続構成を示す図であり、エンジン計測装置1は、試験対象たるエンジン13、エンジン13に接続されたダイナモメータ15、エンジン13及びダイナモメータ15を固定する架台(エンジンベンチ)16を備える。このエンジン計測装置1は、エンジン13以外の実機部分(トランスミッション、タイヤ等)を接続することなくエンジン13単体 での性能測定・評価を行なう際に用いられ、このエンジン計測装置1を用いて行なう試験を、一般に台上試験という。
本実施例では、エンジン13の出力軸には、ユニバーサルジョイント14a等の連結手段を介してトルク伝達軸14の一端が接続されており、トルク伝達軸 14の他端には回転数検出器、トルクメータ等の各種検出器2が接続され、検出器2を介してダイナモメータ15に接続している。また、エンジン13は、エンジン保持機構16aを介して架台16に保持されている。
本実施例のダイナモメータ15は、エンジン13の低速回転から最大能力での高速回転までの急激な回転数Nの変化が発生した場合にも各回転数Nに応じて、検出器2から安定な出力を得ることが可能なように、低慣性ダイナモメータとなっている。低慣性ダイナモメータは、後述するように電流・電圧を可変させることで負荷トルクを設定することが可能であり、エンジン13の回転に伴う純粋なトルクを検出することが出来る。
尚、本実施例では、トルク伝達軸14とダイナモメータ15に介在する検出器2においてトルクを検出することとするが、ダイナモメータ15の出力からトルクを検出することも可能である。また、トルク伝達軸14には、検出器2の他、クラッチ、変速機、各種の連結手段等が台上試験の目的に応じて挿入されていてもよい。
更に、エンジン計測装置1は、エンジン制御部3、ダイナモメータ制御部4、測定部5、定常モデルシミュレーション部7、過渡モデルシミュレーション部8、評価部9、システム制御部11、操作部12、および表示部10を備えている。
エンジン制御部3は、エンジン13に接続され、エンジン13のスロットル開度を制御する手段である。エンジン制御部3がエンジン13に所定のスロットル開度を与えることによって、エンジン13は回転し、その回転はトルク伝達軸14を介してダイナモメータ15に伝達される。つまり、エンジン13の回転数は、スロットル開度を制御することによって制御されるものである。
尚、エンジン性能を表すパラメータ(エンジン性能パラメータ)としては、トルク、回転数等が挙げられ、これらトルク、回転数を変化させる要因となるパラメータ(制御パラメータ)としては、燃料注入量、空気注入量、燃料と空気の混合比、更にガソリンエンジンの場合には点火時間、ジーゼルエンジンの場合には燃料噴射制御方法等の様々なパラメータがある。尚、エンジン性能パラメータを、いずれか1種類に固定する場合には、残りのエンジン性能パラメータは、制御パラメータとして扱われる。
また、エンジン制御部3は、本エンジン計測装置1内で生成されるエンジンの制御信号に基づいてエンジン13を駆動させる手段であり、通常はECU、もしくはECUにバイパス回路を付加したエンジン制御回路で実現される。また、エンジン制御部3からはエンジンの動作状態を示すスロットルポジション、クランク角、吸気温度、排気温度、インジェクション時間、吸気・排気タイミング、進角値の様な信号が創出される。また、エンジン制御部3はECUの代わりに仮想ECUと称するDSP(Digital Signal Processor)で実現される場合もある。
ダイナモメータ制御部4は、ダイナモメータ15に接続され、ダイナモメータ15に印加する電流・電圧を可変制御する手段である。ダイナモメータ15の電流・電圧を可変制御することによってダイナモメータ15に接続されたエンジン13の負荷トルクが制御される。尚、本実施例で使用するダイナモメータ15 は、低慣性ダイナモメータであり、ダイナモメータ15で検出される負荷トルクと、検出器2で検出される軸トルクは実質的に同一であるから、以下において負荷トルクと軸トルクは同義であるものとし、以下、出力トルク又は単にトルクと称するものとする。
測定部5は、エンジン制御部3及び検出器2からのエンジン13の動作状態を示す信号を測定して入力する手段であり、具体的には、エンジン制御部3からモニターされるエンジン状態を表すデータや、検出器2から出力されるデータを取り入れる入力回路を含んだ入力部51、入力部51に入力されたデータを保存するデータメモリ52、データメモリ52に保存されたデータについて、ノイズ除去(フィルタ)処理等の信号処理を行なう信号処理部53で構成される。
検出器2からは、例えば、回転数やトルク等のデータが出力され、またエンジン制御部3からはスロットル開度等のデータが出力される。尚、スロットル開度等のエンジン制御部3から出力されるデータは、システム制御部11から直接測定部5に入力されてもよいし、またエンジン13に設けられたスロットル開度検出器等からエンジン制御部3を介して入力されてもよい。
測定部5(入力部51)は、入力されるデータがアナログ信号である場合には、A/D変換器を備えており、デジタル信号に変換される。入力されるデータがデジタル信号である場合にはA/D変換器は不要であるが、いずれにせよ、入力される複数のデータは、信号処理部53での処理のため、相互に時間的同期がとれている必要がある。もちろんその同期化処理が、信号処理部53において行なわれても構わない。
データメモリ52は、入力部51に入力されたデータを一時格納する手段であり、信号処理部53での信号処理途中のデータ、及び信号処理結果のデータを一時格納することも出来る。
信号処理部53は、データメモリ52に格納されたデータに基づいて、各種の演算を行なう手段である。信号処理部53には、例えば、データのノイズを除去するノイズ除去器(フィルター)、加減乗除器、微分積分器、平均値演算器、標準偏差演算器、データ度数等の計数器(カウンタ)、周波数解析器(FFT)等、公知の演算器が含まれる。
エンジンを実動作させてエンジン性能評価のための台上試験を行なう場合、最適なエンジン性能パラメータ、制御パラメータを設定する方法として、実験計画法(DoE)により各種パラメータ選択を行うことが行なわれている。また、測定されたデータから、選択されたパラメータの有効性を求める手法としては、多変量解析手法により応答曲面を作成する方法が用いられている。
本実施例でも、試験条件の設定、エンジン性能パラメータ・制御パラメータの選択、及びこれらパラメータの最適化方法は、実験計画法、及び多変量解析手法による応答曲面法を用いている。
尚、応答曲面法とは、エンジンのモデル作成方法、及び作成されたモデルの構成要素を最適化する手法としてしばしば用いられる手法であり、この応答曲面法によれば、エンジンの動作・機能を数式化したモデルは、次式に示すn次回帰モデル式で表される。
この数式は、データの多変量解析により導かれる。多変量解析においては、回転数及びトルクのようなエンジン性能を表すデータは、応答変数(f)として表され、上述の制御パラメータは、要素(xi,xj)として表される。エンジンのモデル化及びモデルの最適化に有効とされる要素は、この解析結果に基づいて、適宜選択決定され、数1の方程式に用いられる。尚、応答変数を1種類とする場合には、回転数ないしはトルクのいずれかが、要素となる場合もある。
この応答曲面法によるモデルの作成方法は、まず、数1のf、xi、xjで示される応答変数及び要素として、各パラメータを選択する。例えば、xiはスロットル開度、xjは回転数、fはトルクというように予め設定を行なう。そして、台上試験を行ない、入力部51に入力されたスロットル開度、回転数、及びトルクのデータに、信号処理部53で、フィルター、時間軸補正等の信号処理を加えた後、モデル作成部71,81でn次回帰演算等の周知の統計処理を行い、数1に示された各要素の係数βを求め、n次回帰モデル式を算出する。尚、モデル作成部71,81で行なわれる処理の一部が、信号処理部53で予め行なわれていてもよい。
このn次回帰モデル式を、表示部10等の表示画面上に応答曲面表示することにより、視覚的にエンジン性能パラメータと、制御パラメータとの関係を一目瞭然に把握することができ、また、各要素を切り替えて表示させることにより、各要素のエンジン性能パラメータに与える影響も見ることが出来る。
しかし、この応答曲面法によるモデルの作成方法及び最適化方法は本発明の主要部分では無く、台上試験が短時間で実施でき、また、シミュレーションを行ないながら、エンジンをモデル化する際のパラメータの選択及び最適化が行なえる方法であれば他の方法でも良い。
システム制御部11は、エンジン制御部3、ダイナモメータ制御部4、測定部5、後述する定常モデルシミュレーション部7、過渡モデルシミュレーション部8、評価部9、表示部10及び操作部12の各制御を行なう手段である。尚、システム制御部11は、例えば、図示しない外部からの指示に基づいて動作するものであってもよい。また、エンジン制御部3がECUであってもよく、更に、エンジン制御部3がシステム制御部11を兼用していてもよい。
また、システム制御部11は、上述した実験計画法等に基づいて、台上試験の試験条件及び、入力部51に取り込むデータの種類を選択・決定し、後述する定常モデルシミュレーション部7、過渡モデルシミュレーション部8において、どのデータをエンジン性能パラメータ及び制御パラメータとするかの選択・決定を行なう手段でもある。
定常モデルシミュレーション部7、過渡モデルシミュレーション部8は、それぞれ、測定部5で得られたデータに基づいて、エンジンの定常動作、過渡動作に対するモデルを作成し、作成したモデルでエンジン制御部3及びダイナモ制御部4を制御してシミュレーションを行なう手段であり、それぞれ、モデル作成部71,81、データメモリ72,82、シミュレーション部74,84、検証部73,83を有する。
モデル作成部71,81は、システム制御部11でエンジン性能パラメータに影響すると思われる制御パラメータが任意の数だけ選択された後、前述のn次回帰モデル式、応答曲面表示等の手法を用いて、トルク等のエンジン性能パラメータと、選択された制御パラメータとの関係を式、グラフ等で表現したモデルを作成し、これをデータメモリ72,82に格納する手段である。尚、制御パラメータの選択が、システム制御部11ではなくこのモデル作成部71,81で行なわれてもよい。
尚、モデル作成部71,81には、エンジンのモデルを作成する他、モデルの再作成・修正・パラメータ値調整等を行なうことも含まれる。また、以降において、定常モデルシミュレーション部7で作成されたモデルは定常モデルと呼ばれ、過渡モデルシミュレーション部8で作成されたモデルは過渡モデルと呼ばれることがある。
データメモリ72,82は、モデル作成部71,81で作成されたモデルを格納する手段である。
シミュレーション部74,84は、モデル作成部71,81で作成されたモデルに基づいて仮想シミュレーション、またはエンジン制御部3及びダイナモ制御部4を制御の上で、実機シミュレーションを行なう手段である。
検証部73,83は、シミュレーション部74,84のシミュレーション結果と、実測値とを比較してモデルの有効性・妥当性を検証する手段である。シミュレーション回数を増やして、シミュレーションの都度、制御パラメータの値を修正することで、より正確なモデルの作成が図られる。
尚、これらのモデルシミュレーション部7,8の相違は、モデル作成に用いられるデータが、エンジンの定常状態で得られた定常試験データか、過渡状態で得られた過渡試験データかの相違であり、名称が同じ手段の機能・内容等は基本的に同じである。
本明細書において、定常状態とは、測定される全てのデータが、一定時間、一定値に安定している状態(各データの時間微分項が0とみなされる状態)を指し、測定データを定常状態で得る試験を定常試験という。
一方、過渡状態とは、データのいずれか1つでも、時間的・数値的に一定値に安定せず、振幅を繰り返すようにして変動している状態を指し、測定データを過渡状態で得る試験を過渡試験という。ほとんどの物理化学現象は、過渡状態を経て定常状態に移行するのが一般的である。
評価部9は、モデルシミュレーション部7,8で作成され、シミュレーションされ、制御パラメータの適宜修正が行なわれたモデルが、有効ないし妥当なものであるかを評価する手段であり、本実施例では、定常モデルシミュレーション部7でのシミュレーション結果と、過渡モデルシミュレーション部8でのシミュレーション結果とを比較する比較部92より構成されている。
尚、評価部9では、定常モデルと過渡モデルの比較評価を行なう他、試験条件の設定の妥当性、測定部5でのデータやシミュレーション部74,84でのシミュレーション結果の妥当性、各種パラメータの比較によるエンジン性能パラメータに影響する制御パラメータ選択の妥当性、各シミュレーション結果とエンジンの目標性能との比較・評価が行なわれてもよい。
このように評価部9で評価を行ない、定常試験と過渡試験で得られた両測定データの比較・評価を行なうことで、測定データ及び測定データから得られるエンジン評価結果の信頼性が高まるとともに、測定データの種類に応じて適宜、定常試験と過渡試験の選択が出来、結果として効率よく短期間でエンジン性能の測定・解析・評価を行なうことが出来るようになる。
また、過渡状態のデータから得られたモデルと、定常状態のデータから得られたモデルとを相互に比較することにより、過渡状態のデータに基づいて得られたモデルの信頼性、ひいては、エンジン性能の信頼性が確保され、従来の定常試験に代わり、短時間で過渡状態のデータから、エンジン性能評価に必要なトルクを求めることが出来るようになる。
表示部10は、データメモリ52,72,82に格納されている各種データ、モデルや、信号処理部53での演算結果や、評価部9での評価結果等を表示する手段である。具体的に、表示部10は、個々のデータや信号処理部53での演算結果のみならず、複数のデータの関係グラフや、軌跡や、度数分布表や、標準偏差グラフ等を表示することが出来る。もちろん、データと信号処理部53での演算結果とは、同一時間におけるものであれば、組み合わせて同一画面に表示することも可能である。
表示部10において、例えば、スロットル開度を制御パラメータとした時のトルクと回転数の関係特性をグラフ表示することによって、エンジン13の基本性能を視覚的に一目瞭然に把握することが可能となる。また、評価部9での評価結果を表示する場合も同様に、試験条件、測定されたデータ、補正データが有効ないし妥当なものであるか否かを容易に把握することが可能となる。
以下、エンジン計測装置1の全体動作について、図1のシステム構成図と、図2のフロー図を参照して説明する。尚、本来、制御パラメータには、数多くの種類が存在しているが、説明の簡略化から、本実施例のエンジン計測装置1では、回転数、アクセル開度、点火時期、点火進角といった、試験対象たるエンジン13の性能を評価する基本となるパラメータを制御パラメータとして設定し、回転数、アクセル開度、点火時期を一定にして、点火進角を変化させて、台上試験を行なった際に、応答出力(エンジン性能パラメータ)として得られるトルクへの影響を求めることを例として示す。
まず、エンジン計測装置1は、台上試験の試験条件を設定する(S210)。本実施例での試験条件及びエンジン性能パラメータ、制御パラメータは、システム制御部11で実験計画法等の公知の手法に従って設定される。
本実施例では、システム制御部11は、トルクをエンジン性能パラメータとして選択し、回転数、アクセル開度、点火進角を制御パラメータとして選択する。
そして、試験形態が、定常試験(測定される全てのデータを定常状態にして得る試験)の場合は、例えば図3に示す様に、回転数を2000、2500、2800rpmの3ポイントとし、アクセル開度を5、10、15%の3ポイントとして、更に、点火進角を0、5、10、15、20度の5ポイントとして、合計3×3×5=45ポイントについて、回転数、アクセル開度、点火進角が予め設定された値に落ち着き、かつ、トルクが安定状態に達した後で、エンジン性能を測定する。
試験条件及び各種パラメータが設定されたら、まずは、定常試験を実行し、データを取得する(S220)。システム制御部11は、エンジン制御部3及びダイナモメータ制御部4を制御してエンジン13及びダイナモメータ15を駆動させ、定常試験の実行を開始する。尚、試験実行時には、測定部5が取得可能なあらゆるデータをデータメモリ52に保存しておき、試験終了後に、システム制御部11が、モデル作成に用いるエンジン性能パラメータ及び制御パラメータを決定してもよい。
本実施例では、測定部5は、検出器2から、トルク及び回転数の時系列データを、またエンジン制御部3は、スロットル開度、燃料噴射時間等の時系列データを、それぞれ収集し、データメモリ52に格納する。そして、信号処理部53は、データメモリ52に格納された時系列データの信号処理を行い(S230)、表示部10が、図5(a)のような結果を表示する。
図5(a)は、回転数を2000、3000、4000rpmと順次設定し、各設定された回転数毎に、アクセル開度を5、10、15度と順次設定し、更に、点火進角を0、5、10、15、20度と設定して、その時のトルクを計測し、入力部51からデータメモリ52に格納された時系列データを、信号処理部53で、時間同期処理、ノイズ除去処理、平均化処理等行なって、表示部10に表示させたグラフである。尚、測定部5がAD変換器を有している場合には、AD変換器の分解能に応じて、同一時間におけるトルク、回転数、スロットル開度等のデータセットがデータメモリ52に格納される。
つまり、図5(a)に表示されているデータ波形は、時間的に連続となっているが、実際には、階段波形状の点火進角の段毎に、回転数とアクセル開度を一定値に安定させた上で測定が行なわれており、時間的に非連続な計45ポイント分のデータであり、図5(a)の横軸に時間等の単位はない。尚、図5(a)に表示されているデータは、数値が安定してから5秒間取得したデータを平均化処理したものである。
この測定結果に基づいて、モデル作成部71は、定常モデルを作成する(S250)。本実施例において、定常モデルは、測定されたトルク(エンジン性能パラメータ)を、同様に測定された回転数、アクセル開度、燃料噴射時間、点火進角等の制御パラメータの関数として表現したものである。
定常モデルが作成されたら、シミュレーション部74は、この定常モデルを用いて仮想シミュレーションを行なう(S260)。本実施例では、定常モデルに含まれる制御パラメータのそれぞれに様々な数値を代入して、トルクを演算し、図5(a)同様のグラフを表示させる。この仮想シミュレーションの結果を図6(a)に示す。
検証部73は、作成された定常モデルが、今後、エンジン性能評価に用いるのに有効ないし妥当なモデルであるかの検証を行なう(S270)。本実施例では、図6(a)に表示されたトルク(予想値)と、先の図5(a)におけるトルク(実測値)とを比較し、これらが相関度の高いものであるかを評価する。
図6(a)と図5(a)のトルクデータを比較すれば分かるように、これらは、相関係数0.9978と言う高い数値を示したので、作成された定常モデルは妥当なものであることが言える。尚、相関係数が低い、もしくは、エンジン性能評価に必要な相関係数水準が満たされていない場合には、所望の相関係数に達するまで、モデル作成部71で定常モデルを再作成、パラメータの再選択・調整等を行い(S280)、再度シミュレーションを行なう(S260)。尚、パラメータの再選択・調整は、システム制御部11が行なってももちろん構わない。
尚、作成した定常モデルでのトルクの予想値と、実測値との比較結果については、図示はしないが、例えば、表示部10が相関図を表示して、視覚的に比較結果を確認出来るようにすることも可能である。
また、必要であれば、作成した定常モデルを用いて、エンジン制御部3を制御して、実機でのシミュレーションを行ない、実機シミュレーション結果と先に行なった定常試験の測定結果とを検証部73において比較してもよい。
次に、過渡試験(いずれか1以上の制御パラメータを過渡状態で測定し、残りの制御パラメータを定常状態にして得る試験)の試験条件を設定する(S290)。本実施例では、制御パラメータのうち、点火進角が、システム制御部11ないしはエンジン制御部3から、比較的、連続的に値を変化させやすいことから、先に行なわれた定常試験で制御パラメータに設定されていた点火進角を、過渡運転パラメータ(スイープ対象。試験中、時間的・数値的に連続変化させる制御パラメータ)として選択し、点火進角を変化させるのと同時に、過渡状態のトルクデータを取得する。その他の制御パラメータであるところの、回転数、アクセル開度、燃料噴射時間等については、定常試験同様、ある一定値に安定させてから、計測を開始することとする。
このように、先に行なわれた定常試験の結果に基づいて過渡運転パラメータを選択することによって、効率よく、過渡試験条件の設定、過渡試験の実施が行なわれるようになる。
尚、本実施例では、定常試験で設定された制御パラメータの中から、過渡運転パラメータを選択したが、定常試験で設定されていない新たな制御パラメータが、過渡運転パラメータとして選択されてもよい。また、過渡運転パラメータは、1種類である必要はなく、2種類以上選択されてもよい。
過渡試験の場合は、定常試験と同様の回転数3ポイントとアクセル開度3ポイントによる全ての組合せ9ポイントのそれぞれにつき、点火進角を0から20度まで約40秒で連続的に上昇および下降変化させる過程で、エンジン性能を測定する。つまり本実施例では、定常試験と過渡試験は、回転数とアクセル開度の組合わせを合計9ポイントに設定する点は同じであるが、点火進角の設定の仕方が異なっている。
この過渡試験方法での点火進角の設定模式図を図4に示している。前述したように、回転数及びアクセル開度は固定にして、点火進角を0から20度まで約20秒で連続的に上昇させ、その後、20から0度まで約20秒で連続的に下降させる。これは、上述した定常試験における点火進角の設定ポイントである0、5、10、15、20度を含むものであり、このように定常試験の測定ポイントが含まれるように過渡試験を行なうことにより、過渡試験の測定結果が保証されることとなる。
試験条件及び各種パラメータが設定されたら、過渡試験を実行し、データを取得する(S300)。システム制御部11は、エンジン制御部3及びダイナモメータ制御部4を制御してエンジン13及びダイナモメータ15を駆動させ、過渡試験の実行を開始する。
測定部5は、検出器2からトルク及び回転数の時系列データを、またエンジン制御部3は、スロットル開度、燃料噴射時間等の時系列データを、それぞれ収集し、データメモリ52に格納する。そして、信号処理部53は、データメモリ52に格納された時系列データの信号処理を行い(S310)、表示部10が、図5(b)のような結果を表示する。
図5(b)に表示されているデータ波形は、時間的に連続となっているが、実際には、図4に示した点火進角の三角波形の1周期毎に、回転数とアクセル開度を一定値に安定させた上で測定が行なわれており、時間的に非連続なデータである。但し、三角波形の1周期(40秒)の間に測定されるトルクデータは時間的に連続なデータであり、これが過渡試験で得られるデータに相当するものである。つまり、点火進角を時間的・数値的に連続変化させ、それに対応して(同期して)変化するトルクを測定したのが、図5(b)である。
尚、本実施例では、測定サンプリング間隔は10msecとしており、点火進角を連続的に変化させてもモデル作成及びエンジン性能評価を行なうのに十分な分解能である。
この測定結果に基づいて、モデル作成部81は、過渡モデルを作成する(S330)。尚、過渡モデルの作成方法については、先述した定常モデルの作成方法と同様である。
過渡モデルが作成されたら、シミュレーション部84は、この過渡モデルを用いて仮想シミュレーションを行なう(S340)。本実施例では、過渡モデルに含まれる制御パラメータのそれぞれに様々な数値を代入して、トルクを演算し、図5(b)同様のグラフを表示させる。この仮想シミュレーションの結果を図6(b)に示す。
検証部83は、作成された過渡モデルが、今後、エンジン性能評価に用いるのに有効ないし妥当なモデルであるかの検証を行なう(S350)。本実施例では、図6(b)に表示されたトルク(予想値)と、先の図5(b)におけるトルク(実測値)とを比較し、これらが相関度の高いものであるかを評価する。
図6(b)と図5(b)のトルクデータを比較すれば分かるように、これらは、相関係数0.9977と言う高い数値を示したので、作成された過渡モデルは妥当なものであることが言える。尚、相関係数が低い、もしくは、エンジン性能評価に必要な相関係数水準が満たされていない場合には、所望の相関係数に達するまで、モデル作成部81で定常モデルを再作成、パラメータの再選択・調整等を行い、(S360)、再度シミュレーションを行なう(S340)。尚、パラメータの再選択・調整は、システム制御部11が行なってももちろん構わない。
尚、作成した過渡モデルでのトルクの予想値と、実測値との比較結果については、図示はしないが、例えば、表示部10が相関図を表示して、視覚的に比較結果を確認出来るようにすることも可能である。
また、必要であれば、作成した過渡モデルを用いて、エンジン制御部3を制御して、実機でのシミュレーションを行ない、実機シミュレーション結果と先に行なった過渡試験の測定結果とを検証部83において比較してもよい。
更に、本実施例では、評価部9(比較部92)が、モデル作成部71,81のそれぞれで作成された定常モデルと過渡モデルの比較を行う(S365)。点火進角を過渡運転パラメータに選択して、過渡試験を行なった結果に基づいて作成された過渡モデルのシミュレーション結果と、先の定常試験を行なった結果に基づいて作成された定常モデルのシミュレーション結果(図6(a),図6(b))を重ね合わせたものを図7に示す。
図7により、定常モデルでのトルクの予想値と過渡モデルでのトルクの予想値とが重なって表示されていることから、これより、点火進角を過渡運転パラメータとして選択して行なわれた過渡試験の実用性が示されたこととなる。
定常モデルと過渡モデルのシミュレーション結果が一致しない場合には、現時点では、過渡モデルの作成、過渡試験条件の設定(過渡運転パラメータの選択方法等)に誤りがあるとされるので、従来通り、定常モデルを用いてエンジン性能の評価を行なうようにするか、もしくは、過渡モデルの修正(S360)、再度の仮想シミュレーション(S340)を行なう。
定常モデルと過渡モデルのシミュレーション結果が一致した場合には、過渡モデルを使用して、最終的に実機で過渡試験を行ない(S370)、信号処理部53で信号処理された(S380)データを用いて、評価部9が、エンジン性能が予め定めたエンジン性能条件に適合しているか等を評価し(S400)、表示部10が評価結果等を表示する。また、過渡試験で取得したデータに基づいて求められたエンジン性能が、所定のエンジン性能条件に適合していると判断された場合には、各制御パラメータやモデルをデータメモリ等に保存する(S410)。
尚、必要であれば、作成された過渡モデルを実機でのシミュレーション結果に基づき変更してもよい(S360)。
また、過渡モデルと定常モデルの同一性が評価されれば、この過渡モデルを用いた実機シミュレーションの試験条件、例えば、点火進角を0から20度まで約40秒で連続的に上昇・下降変化させる時間を、更に高速化する等、変更・改良してもよい。
ここで、点火進角を0から20度まで連続的に上昇・下降変化させる時間を2、10、40秒の3パターンで実機試験を実施した時の、点火進角とトルクの関係特性を、図8(a)〜(c)に示す。
図8中、連続曲線で示されているのが、過渡試験で点火進角を連続スイープ(時間的・数値的に連続変化)させた結果であり、丸印で示されているのが、定常試験の結果である。定常試験では、点火進角が所定値になった時に対応する不連続なトルクしか測定できず、図8からは、過渡試験の定常試験に対する優位性が分かる。
また、これらのグラフからは、点火進角を0から20度まで連続的に上昇・下降変化させる時間を、40→10→2秒というように高速化しても、得られる点火進角とトルクの関係は、定常試験でも過渡試験でも変化しないことが分かる。
つまり、本実施例では、エンジンの制御パラメータのうち回転数、アクセル開度の値を固定して、点火進角について、定常試験方法から、過渡試験方法への移行・変更が可能であることを示している。換言すれば、本エンジン計測装置1を用いれば、特定の制御パラメータについて、定常試験方法から、過渡試験方法への移行・変更の可能性が確認できるということである。
そして、特定の制御パラメータについて、過渡試験方法に移行することが可能となれば、定常試験のように、全ての制御パラメータ及びエンジン性能パラメータの値が所定値に落ち着くのを待つ必要がなく、試験を開始することが出来るので、試験時間の大幅短縮につながる。制御パラメータの種類や測定項目が増えれば増える程、定常試験から過渡試験への移行が可能になれば、試験や評価・解析にかかる時間が短縮されるので有利であると言える。
尚、表示部10には、測定部5のデータに基づいて、任意の関係グラフや、標準偏差グラフや、度数分布表を表示することが可能である。もちろん、表示部10は、シミュレーション部7および8、これまでの評価部9における評価に用いた全てのグラフを表示することが可能である。
以上、エンジン計測装置の実施例につき説明したが、本発明のエンジン計測装置は、上記実施例で説明した構成要件の全てを備えたエンジン計測装置に限定されるものではなく、各種の変更及び修正が可能である。また、かかる変更及び修正についても本発明の特許請求の範囲に属することは言うまでもない。
本実施例では、制御パラメータのうち、点火進角を、過渡運転パラメータとして使用することが出来るか否かの検証を行い、その結果、点火進角の値を連続的に変化させる過渡試験の結果に基づいて、エンジン性能が評価出来るようになることを示したが、点火進角以外の制御パラメータについても同様に、過渡運転パラメータとすることか出来るどうかを検証することが可能である。
そして、定常試験と過渡試験の結果を比較、検証した結果、過渡試験の結果をエンジン性能評価に用いることが出来ないということになれば、当然、現行通り、定常試験の結果を、エンジン性能評価に用いることになる。
このように、システム制御部11は、評価部9による前記定常モデルと過渡モデルの比較結果に基づき、制御パラメータに応じて、過渡試験の結果をエンジン性能の評価に用いるか、定常試験の結果をエンジン性能の評価に用いるかが、適宜選択可能となり、これにより定常試験の試験条件の設定を一部ないしは全て、省略可能とすることが出来るので、試験・評価にかかる時間の短縮、作業の効率化が図られる。
また、本発明のエンジン計測装置により、より多くの制御パラメータが過渡運転パラメータとして用いられることが実証されれば、自ずと、エンジン試験が効率的に行なわれるようになり、エンジン性能測定・評価の時間短縮が図られることとなる。
実施例では、エンジン13をダイナモメータ15に接続した台上試験において、短時間に、点火進角の変化に対するトルクと回転数の関係特性を求めるための一例を示したが、本発明のエンジン計測装置は、エンジン13に空気や燃料を供給して、燃料を燃焼させながら、回転数やトルクを変化させて、エンジン性能の測定・評価を行なう場合にも用いることが出来る。
このような試験(一般にファイアリング試験という。一方、燃料を燃焼させずに行なう試験をモータリング試験という)においては、パラメータとして、エンジン入力側は空気注入量、燃料注入量、燃料と空気の混合比、点火タイミングを、エンジン出力側はトルク、回転数に加え、排気ガス成分、排気ガス量を得ることが出来るから、エンジン計測装置によって求められたトルクと回転数の関係特性を、これらパラメータ毎に過渡試験を行なって求め、トランスミッション制御に役立てることも可能となる。
例えば、燃費(燃料流量とトルクの比)を制御パラメータとして、トルクと回転数の関係を求めれば、この関係に基づいて、効率的なトランスミッション制御方法を確立することが可能となる。また、排気ガス量をパラメータとして、トルクと回転数の関係を求めれば、近年の排気ガス規制に対応したトランスミッション制御方法を確立することが可能となる。
尚、本実施例でのダイナモメータによる台上試験でエンジン性能を計測するエンジン計測装置に代えて、台上試験でもダイナモメータの代わりにミッション、サスペンション、車輪を接続した実車試験や、台上試験ではない実走行試験に用いられるエンジン計測装置であっても、測定部5によりトルクを求めることも出来る。
この場合には、評価部9において試験条件の妥当性評価、及び/又は、測定されたデータの信頼性評価、及び/又は、算出された補正データやトルクの有効性評価を実施し、小さいトルクから最大トルクまでエンジンの全ての状態が平均的に分布したデータを得るようにすることによって、測定部5により算出されたトルクの信頼性を確保することが出来る。
更に、前述の応用について、モデルの予測精度の改良、既に述べた、吸入空気、NOx、PM以外についても、その他のデータについてのモデルの有効性への検証が行なえるようになる。
エンジン計測装置の概略接続構成を示す図である。
エンジン計測装置の全体動作を示すフロー図である。
定常試験条件の設定例である。
点火進角を過渡運転パラメータとした時の過渡試験条件の設定例である。
定常試験及び過渡試験時に測定されたデータを示す図である。
作成されたモデルでのシミュレーションした結果を示す図である。
定常モデル及び過渡モデルでのシミュレーション結果を比較した図である。
定常試験及び過渡試験時に測定された点火進角とトルクのデータを示す図である。
符号の説明
1:エンジン計測装置
13:エンジン
15:ダイナモメータ
16:架台
16a:エンジン保持機構
14:トルク伝達軸
14a:ユニバーサルジョイント
2:検出器
3:エンジン制御部
4:ダイナモメータ制御部
5:測定部
51:入力部
52:データメモリ
53:信号処理部
7:定常モデルシミュレーション部
71:モデル作成部
72:データメモリ
73:検証部
74:シミュレーション部
8:過渡モデルシミュレーション部
81:モデル作成部
82:データメモリ
83:検証部
84:シミュレーション部
9:評価部
92:比較部
10:表示部
11:システム制御部
12:操作部