しかしながら、特許文献1に記載のように、ひとつの陸部に複数のサイプが形成された空気入りタイヤにおいて、サイプをタイヤ幅方向に長い形状とすると共にサイプの周方向における形成間隔を短くすると、サイプが形成された部分の陸部の剛性が不十分となるため、ブレーキ時およびトラクション時に陸部の倒れ込み量が大となる。
特に、陸部の隅部や鋭角部などの細かい部分にサイプを形成すると、このサイプを形成した陸部の部分の剛性が著しく低下して陸部の倒れ込み量が増大し、氷雪路面上でのブレーキ性能およびトラクション性能、乾燥路面上での耐摩耗性能、ウェット路面上での排水性能などの全ての性能が低下する。
また、スタッドレスタイヤとして用いる空気入りタイヤについては、サイプの代わりに特許文献2、3に記載のような小穴を各陸部に複数形成することも考えられる。
ところが、このようにした場合には、陸部の剛性が高すぎてしまい、陸部に最低限必要な倒れ込みが生じないために有効なエッジ効果を発揮することができず、氷雪路面上でのブレーキ性能およびトラクション性能に劣る虞がある。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、氷雪路面上でのブレーキ性能およびトラクション性能を向上させると同時に乾燥路面上での耐摩耗性能およびウェット路面上での排水性能を向上させることが可能な空気入りタイヤを提供することにある。
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、トレッドに、タイヤ周方向に延びる主溝が複数形成されると共に前記主溝と交差する方向に延びる横溝が複数形成されることによって、複数の陸部をタイヤ周方向に配列してなる陸部列が複数形成された空気入りタイヤにおいて、前記陸部列のうち少なくとも一つの陸部列の陸部が、タイヤ幅方向に延びる一対の分割補助溝によって周方向に踏み込み領域、周方向中央領域および蹴り出し領域の三領域に分割され、前記踏み込み領域および前記蹴り出し領域に、踏面側に開口しタイヤ径方向内側に延びる小穴がそれぞれ複数形成され、前記周方向中央領域に、タイヤ幅方向に延びるサイプが形成され、前記分割補助溝が、前記サイプよりも溝幅が広く形成されたことを特徴とするものである。
次に、請求項1に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項1に記載の発明の空気入りタイヤでは、タイヤ幅方向に延びると共に周方向中央領域のサイプよりも溝幅が広く形成された一対の分割補助溝によって、複数の陸部列のうち少なくとも一つの陸部列を構成する陸部のそれぞれが周方向に踏み込み領域、周方向中央領域および蹴り出し領域の三領域に分割される構成となっている。これにより、各陸部の領域毎に異なる機能を有し、以下に示す作用を有する。
つまり、上記各陸部の踏み込み領域には複数の小穴が形成されているので、車両走行時には、陸部の回転方向前方側に存在する擬似水膜を小穴によって吸水して効果的に除去することが可能である。
特に、複数の小穴を備えた踏み込み領域は複数のサイプを備えたブロック領域に比してブロック剛性が高いため、踏み込み領域の倒れ込み量も必要最小限に抑えることができる。これにより、踏み込み領域の小穴の変形も最小限に留めることができるので、この小穴における吸水性能の低下を防止することができ、踏み込み領域と路面との摩擦抵抗を確保することができる。
さらに、踏み込み領域の小穴によって形成されるエッジ部分によって氷雪路面に対し強いグリップ力を作用することができる。
また、複数の小穴を備えた踏み込み領域は、複数のサイプを備えたブロック領域に比してブロック剛性が高いため、隣接する周方向中央領域の倒れ込みを支えることができる。
そして、各陸部の周方向中央領域にはサイプが備えられているので、踏み込み領域の小穴によって擬似水膜が除去された氷雪路面に対し、周方向中央領域のサイプによって形成されたエッジ部分によって効果的なグリップ力を及ぼすことができる。
特に、ブロック剛性の比較的高い踏み込み領域によって周方向中央領域の倒れ込み量が適度に調整されるので、周方向中央領域のサイプによるエッジ効果が損なわれることなく、路面に対し高いグリップ力を発揮することができる。
また、周方向中央領域に備えられたサイプによって氷雪路面上に存在する擬似水膜を吸水することができる。このとき、上述のように、周方向中央領域の倒れ込み量が踏み込み領域によって適度に調整されるので、サイプの開きを必要最小限とすることができ、サイプによる吸水効果を確保することができる。これにより、周方向中央領域と路面との摩擦抵抗を高めることができる。
なお、各陸部に一対の分割補助溝が形成されることにより、この分割補助溝に隣接して形成されたエッジ部分によっても、氷雪路面に対し高いグリップ力を及ぼすことができる。
そして、各陸部の蹴り出し領域には複数の小穴が備えられているので、この小穴によって形成されるエッジ部分によって氷雪路面に対し強いグリップ力を作用することができる。
また、複数の小穴を備えた蹴り出し領域は複数のサイプを備えたブロック領域に比してブロック剛性が高いため、蹴り出し領域の倒れ込み量も必要最小限に抑えることができる。これにより、蹴り出し領域の小穴の変形も最小限に留めることができるので、この小穴における吸水性能の低下を防止することができ、蹴り出し領域と路面との摩擦抵抗を確保することができる。
また、タイヤ周方向に延びる主溝と交差する方向に延びる溝部と隣接して形成された踏み込み領域および蹴り出し領域のブロック剛性を高めることにより、この踏み込み領域および蹴り出し領域の倒れ込み量を必要最小限にできるため、車両走行に伴って踏み込み領域および蹴り出し領域のそれぞれに隣接して形成された溝部の容積が減少することを防止することができる。これにより、溝部による排水路を確保することができるので、車両走行時におけるウェット路面上での排水性能も良好とすることができる。
また、蹴り出し領域の倒れ込み量を必要最小限に抑えることにより、良好なエッジ効果を発揮することができると共に、車両走行時における蹴り出し領域の偏摩耗を防止することができる。
一方、車両制動時には、上記陸部の蹴り出し領域に形成された小穴によって路面上の擬似水膜を吸水して効果的に除去することができる。このとき、蹴り出し領域の倒れ込み量が必要最小限に抑えられるので、蹴り出し領域の小穴の変形も最小限に留めることができる。これにより、この小穴における吸水性能の低下を防止することができ、蹴り出し領域と路面との摩擦抵抗を確保することができる。
また、タイヤ周方向に延びる主溝と交差する方向に延びる溝部と隣接して形成された踏み込み領域および蹴り出し領域のブロック剛性を高めることにより、この踏み込み領域および蹴り出し領域の倒れ込み量を必要最小限にできるため、車両制動時においても、踏み込み領域および蹴り出し領域のそれぞれに隣接して形成された溝部の容積が減少することを防止することができる。これにより、溝部による排水路を確保することができるので、車両制動時におけるウェット路面上での排水性能も良好とすることができる。
また、蹴り出し領域の小穴によって形成されるエッジ部分によって氷雪路面に対し強いグリップ力を作用することができる。
さらに、蹴り出し領域によって周方向中央領域の倒れ込みが支えられる。このとき、ブロック剛性の比較的高い蹴り出し領域によって周方向中央領域の倒れ込み量が適度に調整されるので、周方向中央領域のサイプによるエッジ効果が損なわれることなく、路面に対し高いグリップ力を発揮することができる。
また、周方向中央領域の倒れ込み量が踏み込み領域によって適度に調整されるので、サイプの開きを必要最小限とすることができ、サイプによる吸水効果を確保することができる。これにより、車両制動時においても周方向中央領域と路面との摩擦抵抗を高めることができる。
なお、車両制動時においても、各陸部に形成された一対の分割補助溝によるエッジ部分によって、氷雪路面に対し高いグリップ力を及ぼすことができる。
そして、各陸部の踏み込み領域には複数の小穴が備えられているので、この小穴によって形成されるエッジ部分によって氷雪路面に対し強いグリップ力を作用することができる。
また、踏み込み領域の倒れ込み量が必要最小限に抑えられるので、踏み込み領域の小穴の変形も最小限に留めることができる。これにより、踏み込み領域の小穴における吸水性能の低下を防止することができ、蹴り出し領域と路面との摩擦抵抗を確保することができる。
また、車両制動時に踏み込み領域の倒れ込み量を必要最小限に抑えることにより、良好なエッジ効果を発揮することができると共に、車両制動時における踏み込み領域の偏摩耗を防止することができる。
以上詳述したように、陸部に機能の異なる三つのブロック領域(踏み込み領域,蹴り出し領域,周方向中央領域)を構成することにより、例えば、氷上、雪上のいずれにおいても、トラクション性能、ブレーキ性能を良好とすることができ、また、乾燥路面上での耐摩耗性、ウェット路面上での排水性能も良好とすることができる。
そして、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の空気入りタイヤにおいて、前記トレッドに複数形成された主溝が、タイヤ赤道線上に沿って延びる中央主溝と、前記中央主溝を挟んだ両側に形成された一対の中間主溝と、前記一対の中間主溝のタイヤ幅方向外側にそれぞれ形成された一対の両側主溝とに少なくとも区分けされ、前記横溝のそれぞれが、前記中央主溝に連結すると共に前記中間主溝および前記両側主溝と交差するように形成され、前記トレッドに複数形成された陸部列が、前記中央主溝、中間主溝、両側主溝および前記横溝によって、タイヤ幅方向中央部から外側に向かって中央陸部列、中間陸部列および両側陸部列に少なくとも区分けされ、前記中間陸部列が、前記踏み込み領域、周方向中央領域および蹴り出し領域の三領域に分割された陸部を備える構成であることを特徴とするものである。
次に、請求項2に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項2に記載の発明によれば、中央陸部列を構成する複数の中央陸部列のそれぞれがサイプを備える構成であるので、この構成により、一般的に氷上性能に有効な部分とされるタイヤ幅方向中央部においてエッジ部分を路面に効果的に接触させることができるため、氷上でのトラクション性能およびブレーキ性能を良好とすることができる。また、両側陸部列を構成する複数の両側陸部のそれぞれがサイプを備える構成であるので、この構成により、一般的に雪上性能に有効な部分とされるタイヤ幅方向外側においてエッジ部分を路面に効果的に接触させることができるため、雪上でのトラクション性能およびブレーキ性能を良好とすることができる。さらに、中間陸部列を構成する複数の中間陸部のそれぞれが踏み込み領域および蹴り出し領域に小穴を備えると共に周方向中央領域にサイプを備える構成であるので、この構成により、一般的に氷雪上性能に有効な部分とされる中間陸部列においてエッジ部分を路面に効果的に接触させることができるため、氷雪上でのトラクション性能およびブレーキ性能をより高めることができる。
そして、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の空気入りタイヤにおいて、前記一対の分割補助溝が、前記サイプの溝長手方向と平行に形成されたことを特徴とするものである。
次に、請求項3に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項3に記載の発明によれば、一対の分割補助溝の溝長手方向が周方向中央領域に形成されたサイプの溝長手方向と平行となっているので、路面から陸部に摩擦力が働いたときに周方向中央領域のサイプを溝長手方向に渡って均一に開き易くでき、これにより、周方向中央領域のサイプにより分割された小ブロック部の倒れ込みを適度な量に調節することができる。従って、氷雪路面に対し高いグリップ力を及ぼすことができると共に、偏摩耗の発生も抑制することができる。
そして、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記一対の分割補助溝の少なくとも一つが、溝長手方向に対して振幅する振幅部を有して構成されたことを特徴とするものである。
次に、請求項4に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項4に記載の発明によれば、一対の分割補助溝の少なくとも一つを溝長手方向に対して振幅する振幅部を有する構成とすることにより、各分割補助溝を挟んだ両側に形成されたブロック部の噛み合い摩擦力を高めることができる。これにより、分割補助溝が小さい力で容易に開いてしまうことを防止できるため、各分割補助溝を挟んだ両側に形成されたブロック部の倒れ込みを適度な量に調節することができる。従って、この適度な倒れ込み量に調節されたブロック部により、氷雪路面に対し高いグリップ力を及ぼすことができると共に、このブロック部の偏摩耗の発生も抑制することができる。
そして、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記サイプが溝長手方向中央部に溝長手方向に対して振幅する振幅部と、溝長手方向両端部に直線部と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
次に、請求項5に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項5に記載の発明によれば、サイプの溝長手方向中央部に溝長手方向に対して振幅する振幅部が形成されているので、サイプを挟んだ両側に形成された小ブロック部の噛み合い摩擦力を高めることができる。これにより、サイプが小さい力で容易に開いてしまうことを防止できるため、サイプを挟んだ両側に形成された小ブロック部の倒れ込みを適度な量に調節することができる。従って、この適度な倒れ込み量に調節された小ブロック部により、氷雪路面に対し高いグリップ力を及ぼすことができると共に、この小ブロック部の偏摩耗の発生も抑制することができる。また、サイプの溝長手方向両端部には直線部が形成されているので、この直線部を挟んだ周方向両側の小ブロック部の倒れ込み方向を路面から作用する摩擦力の方向と平行にすることができ、偏摩耗が生じることを抑制することができる。
そして、請求項6に記載の発明は、請求項2に記載の空気入りタイヤにおいて、前記横溝のうち両側陸部列に形成された溝部が、タイヤ周方向に対して60度〜90度の傾斜角度で形成され、前記横溝のうち中央陸部列に形成された溝部が、タイヤ周方向に対して前記タイヤ幅方向両端側領域の溝部の傾斜角度よりも小さい傾斜角度で形成されたことを特徴とするものである。
次に、請求項6に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
横溝のうち少なくとも両側陸部列に形成された溝部のタイヤ周方向に対する傾斜角度を60度以下とすると、耐摩耗性能が低下する虞がある。従って、請求項6に記載の発明によれば、横溝のうち少なくとも両側陸部列に形成された溝部が、タイヤ周方向に対して60度〜90度の傾斜角度で形成されているので、両側陸部列の陸部の耐摩耗性能が低下することを防止することができる。また、横溝のうち少なくとも中央陸部列に形成された溝部が、タイヤ周方向に対して両側陸部列の溝部の傾斜角度よりも小さい傾斜角度で形成されているので、排水性能も良好とすることができると共に、中央陸部列におけるパターンノイズの位相をずらすことができ、タイヤのノイズを低く抑えることができる。
そして、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記横溝が、タイヤ幅方向中央部から外側に向かうに従って溝幅が広がるように形成されたことを特徴とするものである。
次に、請求項7に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
請求項7に記載の発明によれば、横溝の溝幅がタイヤ幅方向内側から外側に向かうに従って広がるように形成されているので、氷雪上路面上およびウェット路面上のいずれにおいても、横溝に入り込んだ水を容易に排水することができ、排水性能を良好とすることができる。
そして、請求項8に記載の発明は、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記踏み込み領域および前記蹴り出し領域に形成された小穴が、断面円形状に形成されると共に、穴径が0.3mm〜3.0mmで形成され、且つ、穴深さが前記サイプのサイプ深さの10%〜100%の寸法で形成されたことを特徴とするものである。
次に、請求項8に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
踏み込み領域および蹴り出し領域に形成された小穴の穴径を0.3mmよりも小さくすると、小穴の数を増やしても吸水効果を得にくくなる。その一方で、小穴の穴径を3.0mmよりも大きくすると、踏み込み領域および蹴り出し領域の接地面積が減少するため、踏み込み領域および蹴り出し領域の路面に対する摩擦力を確保できなくなり、氷雪路面上でのブレーキ性能、トラクション性能が低下する虞がある。従って、請求項8に記載の発明によれば、踏み込み領域および蹴り出し領域に形成された小穴の穴径が0.3mm〜3.0mmで形成されているので、氷雪路面上でのブレーキ性能、トラクション性能を向上させることができる。また、小穴の深さをサイプの深さの10%よりも小さくすると、吸水可能な量が減少するため吸水効果が低下する。その一方で、小穴の深さをサイプの深さの100%よりも大きくすると、小穴に隣接するブロック部の剛性が低下し、これにより、操縦安定性能の確保が困難となる。従って、請求項8に記載の発明によれば、小穴の深さがサイプのサイプ深さの10%〜100%の寸法で形成されているので、十分な吸水量を確保できると共に小穴に隣接するブロック部の剛性も確保できる。これにより、操縦安定性能も向上できる。
そして、請求項9に記載の発明は、請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記一対の分割補助溝のそれぞれが、溝幅0.7mm〜3.5mmで形成されたことを特徴とするものである。
次に、請求項9に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
一対の分割補助溝のそれぞれの溝幅を0.7mmよりも小さくすると、吸水効果が得にくくなると共に路面に対するグリップ力が低下する。その一方で、溝幅を3.5mmよりも大きくすると、周方向中央領域を支える機能が低下する。従って、請求項9に記載の発明によれば、一対の分割補助溝のそれぞれの溝幅が0.7mm〜3.5mmで形成されているので、路面に対するグリップ力も十分に確保でき、周方向中央領域を支えることもできる。
そして、請求項10に記載の発明は、請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の空気入りタイヤにおいて、前記周方向中央領域の踏面の面積が、前記陸部の踏面の面積の35%〜90%に形成され、前記踏み込み領域の踏面の面積と前記蹴り出し領域の踏面の面積とが同一に形成されたことを特徴とするものである。
次に、請求項10に記載の空気入りタイヤの作用を説明する。
陸部のうち周方向中央領域は、陸部の中で最も摩擦抵抗を発揮する場所であるので、踏み込み領域および蹴り出し領域に比して、その踏面の面積を大きくする必要がある。このとき、周方向中央領域の踏面の面積が陸部全体の踏面の面積の35%よりも小さくなると、氷雪路面上でのブレーキ性能およびトラクション性能が低下する虞がある。一方、周方向中央領域の踏面の面積が陸部全体の踏面の面積の90%よりも大きくなると、踏み込み領域および蹴り出し領域の踏面の面積が小さくなりすぎてしまい、踏み込み領域および蹴り出し領域の倒れ込み量が増大する。このようになると、踏み込み領域および蹴り出し領域の吸水効果が得られなくなると共に、周方向中央領域の倒れ込みを支える効果も得られなくなり、氷雪路面上でのブレーキ性能、トラクション性能、操縦安定性能が低下する虞がある。従って、請求項10に記載の発明によれば、周方向中央領域の踏面の面積が、陸部の踏面の面積の35%〜90%に形成されているので、氷雪路面上でのブレーキ性能、トラクション性能、操縦安定性能を向上させることができる。また、本発明では、踏み込み領域の踏面の面積と蹴り出し領域の踏面の面積が略同一となっているので、陸部に偏摩耗が生じることを抑制することができる。
このように、本発明の空気入りタイヤによれば、所定の陸部列を構成する複数の陸部のそれぞれに機能の異なる三つのブロック領域(踏み込み領域,蹴り出し領域,周方向中央領域)を形成することにより、氷上、雪上のいずれにおいても、トラクション性能、ブレーキ性能を良好とすることができ、また、乾燥路面上での耐摩耗性およびウェット路面上での排水性能も良好とすることができる。
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、構成、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
(タイヤの構成)はじめに、図1乃至図3を参照しながら、本実施形態に係る空気入りタイヤ10の概略構成について説明する。
図1は本実施形態に係る陸部の構成を示す要部拡大図、図2は図1のA−A線断面図、図3は本実施形態に係る空気入りタイヤのトレッドを展開して示した図である。図中、符号CLはタイヤ赤道線を、符号Rはタイヤ周方向を、符号Wはタイヤ幅方向をそれぞれ示している。なお、以下の説明において、トレッドに形成された溝およびサイプの溝幅の用語は、溝長手方向と直交する方向の長さを示すものである。
本実施形態に係る空気入りタイヤ10(以下、単にタイヤ10という)は、例えば乗用自動車のスタッドレスタイヤとして好適に用いられるものである。このタイヤ10のトレッド12には、概略周方向に沿って延びる中央主溝22、中間主溝24、両側主溝26が形成されている。
中央主溝22は、タイヤ幅方向中央部に形成されており、この中央主溝22を挟んだ両側には、一対の中間主溝24が設けられている。中間主溝24は、周方向に対して傾斜する複数の傾斜部24aにより構成されており、傾斜部24aの周方向端部は、隣接する傾斜部24aの周方向端部とタイヤ幅方向にずれている。これにより、本例の中間主溝24は周方向に沿ってジグザグ状となっている。また、一対の中間主溝24のタイヤ幅方向外側には、一対の両側主溝26が設けられている。
そして、本例のタイヤ10のトレッド12には、中央主溝22に連結すると共にこの中央主溝22と交差する方向に延びる中央横溝32と、中間主溝24および両側主溝26に連結しこれらと交差する方向に延びる中間横溝34と、両側主溝26に連結すると共にこの両側主溝26と交差する方向に沿ってタイヤ幅方向外側に延びる両側横溝36とが設けられている。
中央横溝32は、中央主溝22に対して所定の角度を有するように傾斜しており、この中央横溝32の周方向に対する傾斜角度αは、後述する両側横溝36の傾斜角度γよりも小さくなっている。また、中央横溝32のうち中央主溝22に接続される部分から溝長手方向中央に至るまでの溝部32aは、中央横溝32のうち溝長手方向中央から中間主溝24に接続される部分に至るまでの溝部32bに比して幅狭に構成されている。
ここで、一般にタイヤ幅方向中央部の陸部列は、氷上でのブレーキ性能およびトラクション性能に影響を与えることが知られている。そこで、本例では、上述の如く中央横溝32の一部の溝幅を狭くすることによって、後述する中央陸部列40の各中央陸部41間の周方向間隔を短くし、タイヤ幅方向中央部をいわゆる概略リブ状としている。
また、中央横溝32をタイヤ周方向に対して両側横溝36の傾斜角度γよりも小さい傾斜角度で形成することにより、排水性能を良好とすると共に、中央陸部列におけるパターンノイズの位相をずらすことによってタイヤのノイズを低く抑えることができるようになっている。
中間横溝34は、中間主溝24を介して中央横溝32と連続するように形成されており、本例では、この中間横溝34の周方向に対する傾斜角度βが中央横溝32の傾斜角度αと略同一となっている。
両側横溝36は、両側主溝26を介して中間横溝34と連続するように形成されており、両側横溝36のうち中間横溝34側の部分には、溝部の排水性を良好とするために、中間横溝34と略同一の傾斜角度を有する傾斜部36aが形成されている。
そして、本例では、両側横溝36の周方向に対する傾斜角度γが82度に設定されている。この両側横溝36の傾斜角度γを60度以下とすると、耐摩耗性能が低下する虞があるため、両側横溝36の傾斜角度γは、60度から90度の範囲で設定することが望ましい。
また、両側横溝36は、中間横溝34よりも幅広に構成されており、これにより、本例では、中央横溝32、中間横溝34、両側横溝36の順にタイヤ幅方向内側から外側に向かうに従って徐々に幅広となるように構成されている。
そして、本例のタイヤ10では、上述の如くトレッド12に中央主溝22、中間主溝24、両側主溝26および中央横溝32、中間横溝34、両側横溝36が形成されることにより、タイヤ幅方向中央部から外側に向けて順に中央陸部列40、中間陸部列50および両側陸部列60が形成されている。
中央陸部列40は、周方向に沿って複数の中央陸部41が配列されたものであり、この中央陸部列40を構成する複数の中央陸部41のそれぞれは、中央主溝22と中間主溝24との間に形成されると共に中央横溝32によって区画されている。各中央陸部41には、中央横溝32の溝長手方向と略平行に複数のサイプ43が形成されている。各中央陸部41において、複数のサイプ43は、周方向に所定の間隔を空けて略等間隔に並設されている。
また、各中央陸部41には、後述する中間陸部51に形成された分割補助溝55の溝長手方向と略平行で且つ分割補助溝55と中間主溝24を介して連続するように分割補助溝44が形成されている。本例では、この分割補助溝44によって各中央陸部41が踏み込み領域41Aと、蹴り出し領域41Bとに分割されている。
中間陸部列50は、周方向に沿って複数の中間陸部51が配列されたものである。この中間陸部列50は、本発明の特徴となる部分であり、この中間陸部列50を構成する複数の中間陸部51のそれぞれは、中間主溝24と両側主溝26との間に形成されると共に中間横溝34によって区画されている。本例の中間陸部列50において、各中間陸部51は、中間主溝24および両側主溝26と、一対の中間横溝34とによって平面視概略菱形状に構成されている。この中間陸部51のそれぞれには、両側横溝36の傾斜角度γと略同一の傾斜角度を有する直線状の一対の分割補助溝54,55が形成されている。
そして、本例では、この分割補助溝54,55が後述する各中間陸部51の周方向中央領域51Cに形成されたサイプ53よりも幅広に構成されており、これにより、一対の分割補助溝54,55によって各中間陸部51が周方向に三分割されている。すなわち、各中間陸部51の周方向先端側に踏み込み領域51Aが形成され、周方向後端側に蹴り出し領域51Bが形成され、周方向中央側に周方向中央領域51Cが形成されている。
なお、本例では、分割補助溝54,55を直線状に構成したが、図6に示す別例のように、分割補助溝54,55のそれぞれの中央部をジグザグ状とし、両端部を直線状としても良い。また、分割補助溝54,55のそれぞれの中央部を波状としても良い。
そして、本例では、各中間陸部51に形成された踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bに断面略円形状の小穴52が複数設けられている。この小穴52は踏面に開口しタイヤ径方向内側に延びるように構成されている。踏み込み領域51Aの小穴52は、踏み込み領域51Aの下底56a側からタイヤ幅方向中央部までの領域では二列に形成されており、踏み込み領域51Aのタイヤ幅方向中央部から上底58a側までの領域では一列に形成されている。
同様に、蹴り出し領域51Bの小穴52は、蹴り出し領域51Bの下底56b側からタイヤ幅方向中央部までの領域では二列に形成されており、蹴り出し領域51Bのタイヤ幅方向中央部から上底58b側までの領域では一列に形成されている。
各中間陸部51の周方向中央領域51Cには、分割補助溝54,55の溝長手方向と略平行に複数のサイプ53が形成されている。各中間陸部51において、複数のサイプ53は、周方向に所定の間隔を空けて略等間隔に並設されている。サイプ53のタイヤ幅方向中央側に位置する中央部53aはジグザグ状に形成されており、サイプ53のタイヤ幅方向両端側に位置する端部53bは直線状に形成されている。
このとき、サイプ53のタイヤ幅方向両端側に位置する端部53bを仮に周方向に対して傾斜する方向に沿って形成すると、端部53bを挟んだ周方向両側の小ブロック部51c1〜51c5の倒れ込み方向も斜め方向になり、この小ブロック部51c1〜51c5に偏摩耗が生じる虞がある。そこで、本例では、サイプ53のタイヤ幅方向両端側に位置する端部53bを直線状としている。これにより、この直線状の端部53bを挟んだ周方向両側の小ブロック部51c1〜51c5の倒れ込み方向を路面から作用する摩擦力の方向と平行にすることができ、偏摩耗が生じることを抑制することができる。ここで、サイプ53の中央部53aは、一例としてジグザグ状としたが、これに限らず波状としても良い。
なお、上記構成からなる中間陸部51のそれぞれにおいて、分割補助溝54,55の溝幅H1,H2は、0.7mm〜3.5mmに設定することが望ましい(なお、サイプ53の溝幅は一般的には0.4mmに設定)。分割補助溝54,55の溝幅H1,H2を0.7mmよりも小さくすると、吸水効果が得にくくなると共に路面に対するグリップ力が低下し、その一方で、分割補助溝54,55の溝幅H1,H2を3.5mmよりも大きくすると、後述するように周方向中央領域51Cを支える機能が低下するからである。また、本例では、一例として、分割補助溝54,55の溝深さが中間横溝34の溝深さと略同一となっている。
さらに、小穴52の径は0.3mm〜3.0mmであることが望ましい。小穴52の穴径を0.3mmよりも小さくすると、小穴52の数を増やしても吸水効果を得にくくなる一方で、小穴52の穴径を3.0mmよりも大きくすると、踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bの接地面積が減少するため、踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bの路面に対する摩擦力を確保できなくなり、氷雪路面上でのブレーキ性能、トラクション性能が低下する虞があるからである。
また、小穴52の深さは、サイプ43,53,63の深さの10%〜100%の範囲となるように設定されることが望ましい。小穴52の深さをサイプ43,53,63の深さの10%よりも小さくすると、吸水可能な量が減少するため吸水効果が低下し、その一方で、小穴52の深さをサイプ43,53,63の深さの100%よりも大きくすると、小穴52に隣接するブロック部の剛性が低下し、これにより、操縦安定性能の確保が困難となるからである。本例では、一例として、小穴52の深さがサイプ43,53,63と略同一となっている。
ところで、中間陸部51のうち周方向中央領域51Cは、中間陸部51の中で最も摩擦抵抗を発揮する場所であるので、踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bに比して、その踏面の面積を大きくする必要がある。このとき、周方向中央領域51Cの踏面の面積が中間陸部51の踏面全体の面積の35%よりも小さくなると、氷雪路面上でのブレーキ性能およびトラクション性能が低下する虞がある。
一方、周方向中央領域51Cの踏面の面積が中間陸部51の踏面全体の面積の90%よりも大きくなると、踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bの踏面の面積が小さくなりすぎてしまい、踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bの倒れ込み量が増大する。このようになると、踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bの吸水効果が得られなくなると共に、周方向中央領域51Cの倒れ込みを支える効果も得られなくなり、氷雪路面上でのブレーキ性能、トラクション性能、操縦安定性能が低下する虞がある。
従って、各中間陸部51の周方向中央領域51Cの踏面の面積は、中間陸部51を平面視したときに、中間陸部51における踏面全体の面積の35%〜90%の範囲であることが望ましい。また、本例では、中間陸部51に偏摩耗が生じることを抑制するために、各中間陸部51において踏み込み領域51Aの踏面の面積と蹴り出し領域51Bの踏面の面積は、略同一となっている。
ここで、上記構成からなる中間陸部51において、踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bには、ブロック剛性を確保しつつ、エッジ効果および吸水効果の向上が要求される。
つまり、中間陸部51に形成された踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bは周方向中央領域51Cに比して狭い面積となるため、仮に踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bにサイプを設けた場合には、踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bの倒れ込み量が大となり、ブロック剛性の確保とエッジ効果および吸水効果の向上とを両立することが不可能となる。
そこで、本例では、ブロック剛性の確保とエッジ効果および吸水効果の向上とを両立するために、上述の如く中間陸部51の踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bにサイプではなく小穴52を設けている。そして、本例では、これらの要求が満たされるように、各中間陸部51の踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bにおける小穴52が最適形状、最適数、最適寸法(径、深さ)に設定されている。
なお、本例では、踏み込み領域51Aの下底56a側からタイヤ幅方向中央部までの領域に小穴52が二列に形成され、踏み込み領域51Aのタイヤ幅方向中央部から上底58a側までの領域に小穴52が一列に形成されるように説明したが、踏み込み領域51Aでは、小穴52が少なくとも一列に形成されていれば良く、その列数は任意である。
同様に、蹴り出し領域51Bの下底56b側からタイヤ幅方向中央部までの領域に小穴52が二列に形成され、蹴り出し領域51Bのタイヤ幅方向中央部から上底58b側までの領域に小穴52が一列に形成されるように説明したが、蹴り出し領域51Bでは、小穴52が少なくとも一列に形成されていれば良く、その列数は任意である。
また、本例では、一対の分割補助溝54,55が直線状に構成されるように説明したが、この一対の分割補助溝54,55の少なくとも一つが溝長手方向に対して振幅する振幅部を有して構成されていても良い。このように、一対の分割補助溝54,55の少なくとも一つを溝長手方向に対して振幅する振幅部を有する構成とすることにより、分割補助溝54,55のそれぞれを挟んだ両側に形成された踏み込み領域51Aおよび中央領域51Cと、蹴り出し領域51Bおよび中央領域51Cの噛み合い摩擦力を高めることができる。
これにより、分割補助溝54,55が小さい力で容易に開いてしまうことを防止できるため、踏み込み領域51Aおよび中央領域51Cと、蹴り出し領域51Bおよび中央領域51Cの倒れ込みを適度な量に調節することができる。従って、この適度な倒れ込み量に調節された踏み込み領域51A、蹴り出し領域51Bおよび中央領域51Cにより、氷雪路面に対し高いグリップ力を及ぼすことができると共に、これらの領域に偏摩耗が発生することも抑制することができる。
そして、本例では、上記構成からなる中間陸部列50のタイヤ幅方向外側に両側陸部列60が設けられている。両側陸部列60は、周方向に沿って複数の両側陸部61が配列されたものであり、この両側陸部列60を構成する複数の両側陸部61のそれぞれは、両側主溝26とトレッド端14との間に形成されると共に両側横溝36によって区画されている。
この両側陸部61のそれぞれには、両側横溝36の溝長手方向と略平行に複数のサイプ63が形成されている。両側陸部61のそれぞれにおいて、複数のサイプ63は、周方向に所定の間隔を空けて並設されている。また、両側陸部61には、周方向に沿ってジグザグ状に延びる周方向サイプ64が形成されている。
なお、本例のタイヤ10には、トレッド12のタイヤ幅方向両側に位置する部分に左右のサイドウォール70がそれぞれ形成されている。また、サイドウォール70およびトレッド12の内側には、不図示のカーカスが設けられており、トレッド12とカーカスの間には、不図示のベルトが介挿されている。その他にも本例のタイヤ10にはビードなどの従来周知の部材が備えられている。
(作用)次に、上記構成からなる本例のタイヤの作用効果について説明する。
本例のタイヤ10では、上述のように、トレッド12に中央主溝22、中間主溝24、両側主溝26および中央横溝32、中間横溝34、両側横溝36が形成されることにより、タイヤ幅方向内側から外側に向けて順に中央陸部列40、中間陸部列50、両側陸部列60が区画形成されている。これにより、氷雪路面上での走行を可能とする基本的な性能を有し、さらに具体的には、各部構成によって以下に詳述するような種々の作用効果を奏する。
先ず、タイヤ幅方向中央部に形成された中央陸部列40による作用効果について説明すると、本例では、中央陸部列40を構成する複数の中央陸部41とこれに隣接する中央陸部41との周方向における間隔が短くなっており、これにより、タイヤ幅方向中央部に位置する中央陸部列40がいわゆる概略リブ状に構成されている。そして、この概略リブ状に構成された中央陸部列の各中央陸部41にサイプ43が複数形成されている。
この構成により、一般的に氷上性能に有効な部分とされるタイヤ幅方向中央部における接地面積を確保すると共にこのタイヤ幅方向中央部でエッジ部分を増加させることができるため、氷上でのトラクション性能およびブレーキ性能を良好とすることができる。
続いて、タイヤ幅方向外側に形成された両側陸部列60による作用効果について説明すると、本例において、両側陸部列60は、タイヤ幅方向外側に形成されたものであり、この両側陸部列60を構成する複数の両側陸部61のそれぞれは、サイプ63を備える構成である。
この構成により、一般的に雪上性能に有効な部分とされるタイヤ幅方向外側においてエッジ部分を路面に効果的に接触させることができるため、雪上でのトラクション性能およびブレーキ性能を良好とすることができる。
また、本例では、上述のように、中央横溝32、中間横溝34、両側横溝36がタイヤ幅方向内側から外側に向かうに従って徐々に幅広となるように構成されているので、氷雪路面上およびウェット路面上のいずれにおいても、中央横溝32、中間横溝34、両側横溝36に入り込んだ水を容易に排水することができる。従って、排水性能も良好である。
次に、図4、図5を参照しながら、中央陸部列40と両側陸部列60との間に形成された中間陸部列50による作用効果について説明する。
図4は車両走行時における陸部の変形を示す断面図であり、図5は車両制動時における陸部の変形を示す断面図である。なお、図中、符号Sは車両進行方向を示している。また、図4では車両の走行に伴い陸部に路面から矢印F1で示す方向に力が作用し、図5では車両の制動に伴い陸部に路面から矢印F2で示す方向に力が作用している。
そして、本例では、中間陸部51のそれぞれは、上述のように、分割補助溝54,55によって踏み込み領域51A、蹴り出し領域51B、周方向中央領域51Cに分割されている。
本例では、以下に説明するように、各中間陸部51の領域毎に機能が分けられており、この中間陸部51に特有の構成によって、以下に詳述するように、氷上、雪上のいずれにおいても、トラクション性能、ブレーキ性能を良好とすることができると共に、乾燥路面上での耐摩耗性およびウェット路面上での排水性能も良好とすることができるという作用効果を奏する。
つまり、各中間陸部51の踏み込み領域51Aには複数の小穴52が備えられており、この構成により、図4に示すように、車両走行時には、中間陸部51の回転方向前方側に存在する擬似水膜を小穴52によって吸水して効果的に除去することが可能である。
特に、複数の小穴52を備えた踏み込み領域51Aは複数のサイプを備えたブロック領域に比してブロック剛性が高いため、踏み込み領域51Aの倒れ込み量も必要最小限に抑えることができる。これにより、踏み込み領域51Aの小穴52の変形も最小限に留めることができるので、小穴52における吸水性能の低下を防止でき、踏み込み領域51Aと路面80との摩擦抵抗を確保することができる。
さらに、踏み込み領域51Aの小穴52によって形成されるエッジ部分によって氷雪路面に対し強いグリップ力を作用することができる。
また、複数の小穴52を備えた踏み込み領域51Aは、複数のサイプを備えたブロック領域に比してブロック剛性が高いため、隣接する周方向中央領域51Cの倒れ込みを支えることができる。
そして、各中間陸部51の周方向中央領域51Cには複数のサイプ53が備えられているので、踏み込み領域51Aの小穴52によって擬似水膜が除去された氷雪路面に対し、周方向中央領域51Cのサイプ53によって形成されたエッジ部分によって効果的なグリップ力を及ぼすことができる。
特に、ブロック剛性の比較的高い踏み込み領域51Aによって周方向中央領域51Cの倒れ込み量が適度に調整されるので、周方向中央領域51Cのサイプ53によるエッジ効果が損なわれることなく、路面80に対し高いグリップ力を発揮することができる。
また、周方向中央領域51Cに備えられたサイプ53によって氷雪路面上に存在する擬似水膜を吸水することができる。
このとき、上述のように、周方向中央領域51Cの倒れ込み量が踏み込み領域51Aによって適度に調整されるので、サイプ53の開きを必要最小限とすることができ、サイプ53による吸水効果を確保することができる。これにより、周方向中央領域51Cと路面80との摩擦抵抗を高めることができる。
なお、各中間陸部51に分割補助溝54,55が形成されることにより、この分割補助溝54,55に隣接して形成されたエッジ部分によっても、氷雪路面に対し高いグリップ力を及ぼすことができる。このとき、分割補助溝54,55の溝幅を比較的大きくしておくと、エッジ効果をより高めることができる。
また、本例では、上述のように、分割補助溝54,55の溝長手方向が周方向中央領域51Cに形成されたサイプ53の溝長手方向と略平行となっているので、路面80から中間陸部51に摩擦力が働いたときに周方向中央領域51Cのサイプ53を溝長手方向に渡って均一に開き易くできる。これにより、周方向中央領域51Cの小ブロック部51c1〜51c5の倒れ込みを適度な量に調節することができる。従って、氷雪路面に対し高いグリップ力を及ぼすことができると共に、偏摩耗の発生も抑制することができる。
そして、各中間陸部51の蹴り出し領域51Bには複数の小穴52が備えられているので、この小穴52によって形成されるエッジ部分によって氷雪路面に対し強いグリップ力を作用することができる。
また、複数の小穴52を備えた蹴り出し領域51Bは複数のサイプを備えたブロック領域に比してブロック剛性が高いため、蹴り出し領域51Bの倒れ込み量も必要最小限に抑えることができる。これにより、蹴り出し領域51Bの小穴52の変形も最小限に留めることができるので、小穴52における吸水性能の低下を防止でき、蹴り出し領域51Bと路面80との摩擦抵抗を確保することができる。
また、中間横溝34と隣接して形成された踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bのブロック剛性を高めることにより、この踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bの倒れ込み量を必要最小限にできるため、車両走行に伴って踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bのそれぞれに隣接して形成された中間横溝34の容積が減少することを防止することができる。これにより、中間横溝34を含む横溝全体による排水路を確保することができるので、車両走行時におけるウェット路面上での排水性能も良好とすることができる。
また、蹴り出し領域51Bの倒れ込み量を必要最小限に抑えることにより、良好なエッジ効果を発揮することができると共に、車両走行時における蹴り出し領域51Bの偏摩耗を防止することができる。
一方、車両制動時には、図5に示すように、蹴り出し領域51Bの小穴52によって路面上の擬似水膜を吸水して効果的に除去することができる。このとき、蹴り出し領域51Bの倒れ込み量が必要最小限に抑えられるので、蹴り出し領域51Bの小穴52の変形も最小限に留めることができる。これにより、小穴52における吸水性能の低下を防止でき、蹴り出し領域51Bと路面との摩擦抵抗を確保することができる。
また、中間横溝34と隣接して形成された踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bのブロック剛性を高めることにより、この踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bの倒れ込み量を必要最小限にできるため、車両制動時においても、踏み込み領域51Aおよび蹴り出し領域51Bのそれぞれに隣接して形成された中間横溝34の容積が減少することを防止することができる。これにより、中間横溝34を含む横溝全体による排水路を確保することができるので、車両制動時におけるウェット路面上での排水性能も良好とすることができる。
また、蹴り出し領域51Bの小穴52によって形成されるエッジ部分によって氷雪路面に対し強いグリップ力を作用することができる。
さらに、蹴り出し領域51Bによって周方向中央領域51Cの倒れ込みが支えられる。このとき、ブロック剛性の比較的高い蹴り出し領域51Bによって周方向中央領域51Cの倒れ込み量が適度に調整されるので、周方向中央領域51Cのサイプ53によるエッジ効果が損なわれることなく、路面80に対し高いグリップ力を発揮することができる。
また、周方向中央領域51Cの倒れ込み量が踏み込み領域51Aによって適度に調整されるので、サイプ53の開きを必要最小限とすることができ、サイプ53による吸水効果を確保することができる。これにより、車両制動時においても周方向中央領域51Cと路面80との摩擦抵抗を高めることができる。
なお、車両制動時においても、各中間陸部51に形成された分割補助溝54,55によるエッジ部分によって、氷雪路面に対し高いグリップ力を及ぼすことができる。このとき、分割補助溝54,55の溝幅を比較的大きくしておくと、車両制動時におけるエッジ効果を高めることができる。
そして、各中間陸部51の踏み込み領域51Aには複数の小穴52が備えられているので、この小穴52によって形成されるエッジ部分によって氷雪路面に対し強いグリップ力を作用することができる。
また、踏み込み領域51Aの倒れ込み量が必要最小限に抑えられるので、踏み込み領域51Aの小穴52の変形も最小限に留めることができる。これにより、小穴52における吸水性能の低下を防止でき、踏み込み領域51Aと路面80との摩擦抵抗を確保することができる。
また、車両制動時に踏み込み領域51Aの倒れ込み量を必要最小限に抑えることにより、良好なエッジ効果を発揮することができると共に、車両制動時における踏み込み領域51Aの偏摩耗を防止することができる。
以上詳述したように、中間陸部列50の各中間陸部51に機能の異なる三つのブロック領域(踏み込み領域51A,蹴り出し領域51B,周方向中央領域51C)を形成することにより、氷上、雪上のいずれにおいても、トラクション性能、ブレーキ性能を良好とすることができ、また、乾燥路面上での耐摩耗性およびウェット路面上での排水性能も良好とすることができる。
(試験例)次に、本実施形態に係るタイヤ10の性能評価について説明する。
本発明の効果を確かめるために、比較例として用意したタイヤ110および従来例として用意したタイヤ210と本例に係るタイヤ10とについて比較試験を行う。比較試験は、雪上でのフィーリング性能と、雪上でのブレーキ性能と、雪上でのトラクション性能と、氷上でのフィーリング性能と、氷上でのブレーキ性能について行う。
雪上でのフィーリング性能試験は、圧雪路面のテストコースにおける、制動性、発進性、直進性、コーナリング性をテストドライバーにより総合評価する。評価は比較例のフィーリングを100とする指数で表しており、数値が大きいほど雪上でのフィーリング性能が高いことを表している。
雪上でのブレーキ性能試験は、圧雪路面上を時速40km/hからフル制動したときの制動距離を測定する。評価は、比較例の制動距離の逆数を100とする指数で表しており、数値が大きいほど雪上でのブレーキ性能に優れることを表している。
雪上でのトラクション性能試験は、圧雪路面上で50mの距離における発進からの加速タイムを測定する。評価は、比較例の加速タイムの逆数を100とする指数で表しており、数値が大きいほど雪上でのトラクション性能に優れていることを表している。
氷上でのフィーリング性能試験は、氷板路面のテストコースにおける、制動性、発進性、直進性、コーナリング性をテストドライバーにより総合評価する。評価は比較例のフィーリングを100とする指数で表しており、数値が大きいほど氷上でのフィーリング性能が高いことを表している。
氷上でのブレーキ性能試験は、氷板路面上を時速20km/hからフル制動したときの制動距離を測定する。評価は、比較例の制動距離の逆数を100とする指数で表しており、数値が大きいほど氷上でのブレーキ性能に優れることを表している。
なお、実施例に係るタイヤは、205/65R15のサイズのものを用い、車両には、一般的な乗用自動車を用いる。空気圧、アライメント等の車両条件は車両指定のものとする。
また、本発明を適用した比較試験に用いるタイヤの各部寸法は以下の通りである。
ネガティブ率(小穴およびサイプを含む):31.8%
主溝本数:中央主溝(溝幅9.5mm)1本、中間主溝(溝幅4.5mm)2本、両側主溝(5mm)2本
陸部の小穴寸法:穴径1.5mm、深さ6mm
タイヤ幅方向両側横溝の傾斜角度γ:周方向に対し82度
横溝幅:トレッド端付近6.8mm、タイヤ幅方向中央付近4.5mm(先端2mm)
サイプ溝幅:0.5mm
分割補助溝幅:1.0mm
両側陸部列に対する中央陸部列の面積:54%
なお、その他の構成は本例に準ずる。
また、比較例に係るタイヤは図7に示すものを用いる。図7は比較試験の比較例として用いるタイヤに形成されたトレッドを展開して示した図である。
図7に示すように、比較試験の比較例となるタイヤ110としては、本例の小穴52の代わりに、各中間陸部151の踏み込み領域150Aおよび蹴り出し領域150Bにサイプ152を備えたものを用いる。その他の構成は、本例のタイヤ10と同一である。
また、従来例に係るタイヤは図8に示すものを用いる。図8は比較試験の従来例として用いるタイヤに形成されたトレッドを展開して示した図である。
図8に示すように、比較試験の従来例となるタイヤ210としては、中間陸部251に周方向に所定間隔毎にサイプ252を複数備えたものを用いる。その他の構成は、本例のタイヤ10と同一である。
表1には従来例のタイヤの評価値を100として上記要領にて行った比較試験の結果を示す。
試験の結果から、本発明が適用された実施例の空気入りタイヤ10は、比較例の空気入りタイヤ110および従来例のタイヤ210に対して、全ての性能が大幅に向上していることが分かる。
このように、本発明によれば、所定の陸部列を構成する複数の陸部のそれぞれに機能の異なる三つのブロック領域(踏み込み領域,蹴り出し領域,周方向中央領域)を形成することにより、氷上、雪上のいずれにおいても、トラクション性能、ブレーキ性能、コーナリング性能を良好とすることができ、また、乾燥路面上での耐摩耗性およびウェット路面上での排水性能も良好とすることができる。