JP4546661B2 - 脱硫スラグを再利用した溶銑脱硫剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は溶銑脱硫における安価な脱硫剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の高級鋼製造要請の増大により、低硫鋼を安価に製造する必要性はますます増加しつつある。溶銑の脱硫剤としてはCaO(生石灰)、CaC、NaCO(ソーダ灰)・Mg等が知られている。中でもCaOは脱硫能は低いものの安価であり、他の脱硫剤と組み合せることで基本的な脱硫剤として広く利用されている。しかし、CaOの融点(2572℃)よりもずっと低い温度(1300〜1400℃)での処理となる溶銑脱硫処理では、添加したCaOは十分に溶解できないため、Sと反応してCaSとなるCaOは添加CaOの20%以下に過ぎず、大部分がスラグ中に未反応分として残留してしまい、反応への寄与率が低いという欠点を有している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
そこでこの残留CaOをリサイクルして有効利用する方法として、例えば、インジェクション脱硫法で発生した脱硫スラグを回収し、そのまま溶銑鍋中の溶銑上に若干のCaOとともに投入して、インペラー攪拌による脱硫方法(KR法)の脱硫剤としてリサイクル使用する例がある(例えば、住友金属 Vol45-3(1993)p52)。しかしながら、脱硫スラグ中にはSiOや酸化鉄分など、脱硫反応を阻害する性質のある成分が含まれており、これに伴う脱硫効率のばらつきが生じる恐れがある。また、脱硫スラグ中には過剰なS分を含んでいる為、その分の脱硫能力が低下する。これらにより、脱硫スラグをリサイクルした際には過剰な脱硫剤の添加が必要となり、脱硫コストの悪化やスラグの増加に繋がってしまう。そこで、本発明においては、脱硫能力を担保しつつ脱硫スラグの再利用が可能である脱硫剤の条件を示すことを課題とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0005】
手段1は、CaOが含まれた脱硫剤を用いた溶銑脱硫後に発生する脱硫スラグと、CaOおよびNaCOとを混合して得られた脱硫剤であって、該脱硫剤において、下記式に示される有効CaOの割合が50%以上あり、且つNaCOの割合が5%〜30%であることを特徴とする、溶銑脱硫剤である。
有効CaO量(kg)=得られた脱硫剤中の全CaO量(kg)−{混合した脱硫スラグ量(kg)×混合した脱硫スラグ中のS濃度(重量%)/100}×1.75−{混合した脱硫スラグ量(kg)×混合した脱硫スラグ中のSiO 濃度(重量%)/100}×1.87
【0007】
手段3は、混合する脱硫スラグは混合前にS分を低減させた後の脱硫スラグであることを特徴とする前記請求項1に記載の溶銑脱硫剤である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、脱硫スラグ中に含まれる不純物の影響を定量的に考慮しながら、未反応CaO分を効果的に再利用することを考えた。脱硫スラグ中のCaOには、除去対象物であるSと結合しているものや、酸性酸化物であるSiOといった、スラグ中不純物との結合物が存在する。これらは脱硫反応には寄与しない為、脱硫に使えるCaO分として見なすことは出来ない。そこで、混合前の脱硫スラグ中のS及びSiOの割合を元に、Sと結合しCaSとなっているCaO分と、2CaO・SiOとなっているCaO分を除いたCaOが、再利用後の脱硫反応に有効なCaO分(以降「有効CaO分」と称す)と見なすことが出来るものである。ここで「有効CaO分」は種々の算出の方法が有るが、本発明者らは下記(1)式がもっとも精度よく、且つ簡易的に算出する式であることを見出したのである。
【0009】
Figure 0004546661
ここで MCaO、MSiO2、M:それぞれCaO、SiO、Sの分子量
CaO=56、MSiO2=60、M=32
ここで、上記のCaO量を求める際に、一般にスラグの分析に用いられる分析装置(発光分光分析など)を用いてCaO濃度を算出する場合には、CaSとなっているCa分もCaOと見なして分析値を計算するのが一般的である。従って、CaOとCaSを切り分けて分析値を求めることができる分析装置の場合は、前記(1)式において「{混合した脱硫スラグ量(kg)×混合した脱硫スラグ中のS濃度(重量%)/100}×1.75」の項を省略することが可能である。
【0010】
次に本発明者らは、脱硫スラグの配合率を変化させた時の脱硫効率への影響を見る為、340t溶銑鍋において実験を行った。その主な条件は以下の通りである。
・脱硫剤 : CaOと脱硫スラグ、およびNaCO
・脱硫スラグの種類:生石灰で脱硫した際に発生した溶銑予備処理スラグ
・脱硫スラグの組成:CaO=70%、SiO=10%、S=3%
FeO=1.5%、Fe=2.5%、MnO=2%
・脱硫剤添加方法:浸漬ランスによるインジェクション方式
・有効CaO分の全脱硫剤に対する比率(有効CaO比率):全脱硫剤中0〜100%
・NaCO添加率 :全脱硫剤中0〜40%
・溶銑温度:1300℃
・溶銑成分:[C]=4.1〜4.5% [Si]=0.30〜0.50%
[Mn]=0.20〜0.40% [P] =0.100〜0.110%
[S] =0.020〜0.030%
【0011】
図1は、有効CaO分の全脱硫剤に対する比率(以下有効CaO分と称する)を変動させた場合の、脱硫率の変化を示している。有効CaO分を上げていくにつれ、脱硫反応を阻害するSiOやS等が減少するため、脱硫能力は上昇することから、有効CaO比率が50%以上であれば高い脱硫率を得られることが判る。
【0012】
また脱硫スラグ中の残留鉄分も、脱硫反応を阻害する。これらのうち、金属鉄分は磁力選鉱などで事前に除去することが出来るが、若干の酸化鉄分は残留する。この酸化鉄分は、還元反応である脱硫反応効率の悪化を招く。そこで、酸素ポテンシャルが高くても脱硫能力を保持できるNaCOを添加することを考えた。
【0013】
図2は、有効CaO比率50%条件の場合のNaCO添加割合と脱硫率の関係を表している。NaCOの添加によって脱硫率は大幅に上昇し、NaCOの比率が5%以上の場合に80%程度の高い脱硫率が得られることが判る。
【0014】
ただし、耐火物の溶損や処理時の白煙の発生を考慮すると、NaCOの添加量があまりに多いのは望ましくなく、30%までを上限として添加することが望ましい。
【0015】
なお、溶銑脱硫スラグを何度も再利用し続けていくと、除去されたSが脱硫スラグ中に濃縮していくため、式(1)に示される有効CaO分が減少し、脱硫能力が低下していく可能性がある。そこで本発明者らは、溶銑脱硫後の脱硫スラグを混合するに際し、事前にSを低減した上で、脱硫剤として使用すれば、一層有効であると考えた。
【0016】
脱硫スラグを混合するに際し、事前にSを低減する方法としては、種々の方法が考えられるが、水没処理によりスラグ中のSを低減させる方法が最も簡易な方法として望ましい。この方法は下記(2)式の反応によってSを低減させる方法であり、例えば図3に示すように、水没している脱硫スラグ1の上面より水2を加えると共に、容器3より溢れた水は外に排水4されるようにするものである。
この状態で一定時間をおくことで、スラグ中のSを低減させることが可能である。
【0017】
CaS + 2HO → Ca(OH) + HS (2)
【0018】
前記S低減処理を実施した例を図4に示す。ここで冷却時間とは、スラグが100℃以下に冷却され、加えた水が即蒸発して系外に飛散していくことがなくなった後での時間を示している。この場合、スラグの冷却時間とS除去率については、冷却時間が長い方が除去率は大きくなる。なお、5時間以上の冷却では効果が飽和するが、この飽和する時間は、水の添加の条件等により異なってくるものであり、冷却時間は条件に応じて適宜決定することが望ましい。
【0019】
なお、この他にも脱硫スラグ中のSを除去する方法としては、高温下において溶融した後でのHガスやFガスにより還元する方法や、有機溶媒に溶出させる方法などがある。これについては除去操業・設備条件やコストなどを考慮して、選択すればよい。
【0020】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を説明する。
Figure 0004546661
Figure 0004546661
【0021】
【表1】
Figure 0004546661
【0022】
表1は、本発明の例及び比較例を示したものである。発明例1〜6は、いずれも80%以上の高い脱硫率が得られている。
【0023】
一方、比較例1、2では有効CaO分が低く、大幅に脱硫率が低い。比較例3、4は、有効CaO分は本発明内ではあるが、NaCO濃度が本発明範囲の下限値である5%より低い為、脱硫率は低下している。さらに比較例5はNaCO濃度の範囲上限を外れた為、脱硫率は高かったものの、耐火物溶損が大きく、白煙の発生も激しかった。比較例6は有効CaO分とNaCO濃度の両方とも範囲上限を外れた為、脱硫率が低く、また耐火物溶損や白煙発生もも大きかった。
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、脱硫スラグ中のCaO分を再度脱硫剤として有効に利用することができ、溶銑脱硫コストと発生スラグ量の大幅低減が可能であるので、本発明がこの産業分野にもたらす効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】有効CaO比率と脱硫率の関係を示す図。
【図2】NaCOを添加した際の脱硫効率の関係を示した図。
【図3】スラグ水没冷却の設備フローの一例を示した概略図である。
【図4】スラグ水没冷却における脱硫スラグ冷却時間と脱硫スラグ中のS除去率の関係を示した図。
【符号の説明】
1 脱硫スラグ
2 水(添加水)
3 容器
2 排水

Claims (2)

  1. CaOが含まれた脱硫剤を用いた溶銑脱硫後に発生する脱硫スラグと、CaOおよびNaCOとを混合して得られた脱硫剤であって、該脱硫剤において、下記式で示される有効CaOの割合が50%以上あり、且つNaCOの割合が5%〜30%であることを特徴とする、溶銑脱硫剤。
    有効CaO量(kg)=得られた脱硫剤中の全CaO量(kg)−{混合した脱硫スラグ量(kg)×混合した脱硫スラグ中のS濃度(重量%)/100}×1.75−{混合した脱硫スラグ量(kg)×混合した脱硫スラグ中のSiO 濃度(重量%)/100}×1.87
  2. 混合する脱硫スラグは混合前にS分を低減させた後の脱硫スラグであることを特徴とする前記請求項1に記載の溶銑脱硫剤。
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