JP4544390B2 - 積層セラミック電子部品の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
積層コンデンサ、積層インダクタ、積層アルミナ基板、積層バリスタまたは積層圧電(電歪)素子などの積層セラミック電子部品を製造するにあたり、導体膜を備えたセラミックグリーンシートを積層して積層体を構成する。
【0003】
次に、積層体をその積層方向に加圧する。この種の加圧処理は一軸加圧処理と呼ばれる。積層体に一軸加圧処理を施しても、導体膜周辺の部分は、導体膜のない分、加圧されにくく、低密度となりがちである。
【0004】
例えば、積層セラミックコンデンサを構成するための積層体の場合、導体膜間のマージン部分で低密度となる。マージン部分の密度を増大させようと、一軸加圧処理の圧力を例えば500kg/cm2以上に高くすると、セラミックグリーンシートの積層状態が大きく乱れる。セラミックグリーンシートの積層状態の乱れは、焼成後の積層体に、ポア、デラミネーション等の構造欠陥や、構造欠陥によるショート不良を生じさせ、製造歩留まりを低下させるのみならず、信頼性も低下させる。
【0005】
このような積層体の構造欠陥を低減する一つの手段として、特開平7−122457号公報等の記載技術では、一次積層体を加圧し、加圧された一次積層体を積層して二次積層体を構成し、更に、二次積層体を加圧する。この二次積層体から切断工程及び焼成工程等を経て電子部品を得る。
【0006】
しかし、この技術を用いた場合でも、二次積層体の積層数が400を越えると、導体膜周辺の部分におけるセラミックグリーンシートの積層状態の乱れが顕著となり、製造歩留まりが大幅に低下する。
【0007】
また、構造欠陥を低減するためのもう一つの手段として、特公平8−5052号公報または特開平8−255728号公報等に記載された静水圧加圧処理が知られている。しかし、一次積層体は、積層方向で見た密度分布が非対称となっており、複数の一次積層体を積層する際、隣り合う一次積層体のうち、一方の一次積層体の加圧面と、他方の一次積層体の受け面とが互いに接するように積層工程を行うと、この積層工程により構成される二次積層体も、密度分布が非対称となる。非対称な密度分布を有する二次積層体に静水圧加圧処理を施すと、二次積層体に反りが生じてしまい、電子部品の生産上、問題がある。
【0008】
静水圧加圧処理による積層体の変形を避ける手段として、特開平11−40457号公報の記載技術では、積層体を支持基板上に配置し、これを密閉化したものに静水圧を加圧する。しかし、この記載技術では、積層体の支持基板接触面には静水圧が加圧されず、多層(例えば400層以上)の積層体の構造欠陥を低減するには十分でない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、静水圧加圧処理による二次積層体の反りを低減し得る積層セラミック電子部品の製造方法を提供することである。
【0010】
本発明のもう1つの課題は、例えば、400層以上の多層の積層セラミック電子部品を、高い製造歩留まりで製造する基礎を与え得る積層セラミック電子部品の製造方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するため、本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、第1の工程と、第2の工程とを含む。
【0012】
前記第1の工程は、導体膜を備えたセラミックグリーンシートを積層して得られた一次積層体を、加圧する工程であり、前記第1の工程において、前記一次積層体は、その積層方向に対向する2つの面をそれぞれ加圧面及び受け面として加圧される。
【0013】
前記第2の工程は、前記第1の工程を経た複数の前記一次積層体を積層して二次積層体を構成する工程であり、前記第2の工程において、隣り合う一次積層体は、前記第1の工程の加圧面同士または受け面同士が互いに接するように積層される。
【0014】
上述した本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法においては、まず、導体膜を備えたセラミックグリーンシートを積層して得られた一次積層体について、その積層方向に対向する2つの面をそれぞれ加圧面及び受け面とし、一次積層体を加圧する。
【0015】
次に、上記加圧処理を施された複数の一次積層体について、隣り合う一次積層体の加圧面同士または受け面同士が互いに接するように、複数の一次積層体を積層する。従って、複数の一次積層体についてその積層方向で見た密度分布が非対称となっていても、この積層工程により得られる二次積層体は、密度分布の非対称性が緩和される。このため、二次積層体に静水圧加圧処理を施しても、静水圧加圧処理による二次積層体の反りは低減する。
【0016】
しかも、大きな反りを生じさせることなしに二次積層体に静水圧加圧処理を施すことができるから、静水圧加圧処理の有効利用が可能となり、多層の積層セラミック電子部品を、高い製造歩留まりで製造する基礎が与えられる。
【0017】
二次積層体に静水圧加圧処理を施すと、二次積層体は静水圧により等方加圧され、二次積層体内における加圧されにくい部分、例えば、導体膜周辺の部分等も加圧される。このため、通常の一軸加圧処理を用いたときと比較して、導体膜の周辺の部分におけるセラミックグリーンシートの積層状態の乱れが低減し、焼成後の二次積層体の構造欠陥(デラミネーション、ポア、クラック等)が防止される。
【0018】
更に、実験によると、セラミックグリーンシートに含まれる樹脂バインダのガラス転移点をT1としたとき、静水圧加圧処理の静水圧加圧処理温度T2は、次の式
T2[℃]≦T1[℃]+30[℃] (1)
を満たすように設定すればよいことが解った。このように設定すると、二次積層体の構造欠陥発生率を低減できる。
【0019】
本発明の他の目的、構成及び利点については、添付図面を参照し、更に詳しく説明する。添付図面は単なる例示に過ぎない。
【0020】
【発明の実施の形態】
図1は一枚のセラミックグリーンシートを示す斜視図である。セラミックグリーンシート1は、セラミック粉体、樹脂バインダ及び溶剤の混合ペーストにより形成される。樹脂バインダとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂またはブチラール樹脂等を用いることができる。図示のセラミックグリーンシート1は、例えば、平面積200mm×200mm、厚さ2μmのディメンションを持ち、一面に複数の電極膜2を形成してある。電極膜2の厚みは例えば、1μmである。
【0021】
図2は、図1に示したセラミックグリーンシートにより得られる一次積層体の断面図である。但し、図示の簡略化のため、セラミックグリーンシート1及び電極膜2の個数を減らしてある。図2に図示された一次積層体41は、電極膜2を備えたセラミックグリーンシート1を積層して得られる。セラミックグリーンシート1の積層数は例えば、300程度である。このようにして得られた一次積層体41では、電極膜2の厚みに起因してセラミックグリーンシート1の間に空隙31、32を生じる。
【0022】
図3は、本発明に係る積層セラミック電子部品の製造工程を示す断面図である。図示のように、一次積層体41の積層方向に対向する2つの面をそれぞれ加圧面411及び受け面412として一次積層体41を加圧する。この種の加圧処理は、一軸加圧処理と称される。一軸加圧処理を行うには、例えば、一次積層体41の受け面412を下側として受け板51上に一次積層体41を載置する。更に、一次積層体41の加圧面411に加圧板54を押し付け、加圧板54を介して一次積層体41の加圧面411に圧力F1を加えればよい。加えられる圧力F1の方向は一次積層体41の積層方向である。圧力F1の具体的数値は、例えば、5〜1000kg/cm2である。図3に示した工程により、一次積層体41を構成する複数のセラミックグリーンシート1は互いに圧着され、一体化された一次積層体41(図4参照)が得られる。
【0023】
上述のように一次積層体41をその積層方向に加圧(一軸加圧処理)すると、一次積層体41は、その積層方向に圧縮されるが、内部電極2の周辺の部分A1、A2では、空隙31、32(図2参照)に起因して密度があまり高まらない。
【0024】
図3に示した工程の後、図4に示すように圧力F1が解放されると、受け板51上の一次積層体41は、電極膜2を有する部分A3が上方に膨張する。図3、図4において、比較のため、圧縮時の一次積層体41の厚みを参照符号h2で示してある。
【0025】
図5は、図3に示した工程の後の工程を示す断面図である。図示のように、複数の一次積層体41、42を積層して二次積層体45を構成する。但し、一次積層体42は、上述した一次積層体41と同様な工程(図1、図2参照)を経て形成され、更に加圧処理(図3参照)を施されたものである。この加圧処理では、一次積層体42の積層方向に対向する2つの面をそれぞれ加圧面421及び受け面422としてある。
【0026】
図5に示した積層工程においては、隣り合う一次積層体41、42は、受け面412、422が互いに接するように積層される。図示と異なり、隣り合う一次積層体の加圧面同士が互いに接するように積層してもよい。
【0027】
また、図示の積層工程では、2つの一次積層体41、42を積層しているが、図示と異なり、3つ以上の一次積層体を積層してもよい。
【0028】
図6は、図5に示した工程の後の工程を示す断面図である。図示のように、積層された二次積層体45に一軸加圧処理を施す。この一軸加圧処理の圧力F2は、図3に示した一軸加圧処理の圧力F1よりも高く設定すればよい。圧力F2の具体的数値は、例えば、100〜1000kg/cm2である。図6に示した工程により、二次積層体45を構成する複数の一次積層体41、42は互いに圧着され、一体化された二次積層体45(図7参照)が得られる。
【0029】
図8〜図10は、図6に示した工程の後の工程を示す断面図である。図6に示した工程の後、二次積層体45に静水圧加圧処理を行う。静水圧加圧処理を行うにあたり、まず、図8に示すように、フィルム状の袋6に二次積層体45を挿入し、真空吸引を行う。これにより、図9に示す真空包装体が得られる。図9に示すように、真空包装体を構成する袋6は、真空吸引により、二次積層体45に密着しており、真空包装体の内部に空間は形成されていない。
【0030】
次に、図10に示すように、二次積層体45に静水圧加圧処理を行う。図示するように、静水圧加圧処理は、2つの密閉型金型57、58を用いて行なわれる。金型57、58は、加圧媒体となる液体9を収納する受け金型57と、加圧金型58とで構成される。図9に示した真空包装体を、受け金型57内の液体9と共に挿置し、加圧金型58で加圧する。これにより、真空包装体に対して、全方向から静水圧F3が加わり、等方向加圧成形が実行される。静水圧F3の具体的数値は、例えば、1000〜5000kg/cm2である。静水圧加圧処理に用いられる液体9は、非圧縮性の液体であればよく、必ずしも水に限定されない。例えば、オイル等でもよい。
【0031】
上述した静水圧加圧処理を行なった後、真空包装体から二次積層体45を取り出し、二次積層体45に対して、切断、焼成工程等を施す。これにより電子部品が製造される。静水圧加圧処理を施した以降の工程は周知であるので、説明は省略する。
【0032】
上述したように、本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法においては、まず、図2、図3に示すように、導体膜2を備えたセラミックグリーンシート1を積層して得られた一次積層体41について、その積層方向に対向する2つの面をそれぞれ加圧面411及び受け面412とし、一次積層体41を加圧する。
【0033】
次に、図5、図6に示すように、隣り合う一次積層体41、42の受け面412、422が互いに接するように、一次積層体41、42を積層する。従って、一次積層体41、42についてその積層方向で見た密度分布が非対称となっていても、この積層工程により得られる二次積層体45は、密度分布の非対称性が緩和される。このため、図8〜図10に示すように二次積層体45に静水圧加圧処理を施しても、静水圧加圧処理による二次積層体の反りは低減する。
【0034】
しかも、大きな反りを生じさせることなしに二次積層体45に静水圧加圧処理を施すことができるから、静水圧加圧処理の有効利用が可能となり、多層の積層セラミック電子部品を、高い製造歩留まりで製造することができる。
【0035】
図8〜図10に示すように、二次積層体45に静水圧加圧処理を施すと、二次積層体45は静水圧F3により等方加圧され、二次積層体45内における加圧されにくい部分、例えば、導体膜2の周辺の部分A4、A5等も加圧される。このため、通常の一軸加圧処理を用いたときと比較して、導体膜2の周辺の部分A4、A5におけるセラミックグリーンシート1の積層状態の乱れが低減し、焼成後の二次積層体45の構造欠陥(デラミネーション、クラック等)が防止される。
【0036】
図5、図6に示した例では、隣り合う一次積層体41、42の受け面412、422が互いに接するように、一次積層体41、42を積層した場合を示しているが、これと異なり、隣り合う一次積層体の加圧面同士が互いに接するように、一次積層体を積層した場合でも、同様の作用及び効果が得られる。
【0037】
<実験1>
図11は、本発明に含まれる実施例1の積層セラミック電子部品の実験結果、及び、本発明に含まれない比較例1、2の積層セラミック電子部品の実験結果を示す図である。
【0038】
<実施例1>
まず、図1、図2に示したように、導体膜を備えたセラミックグリーンシートを積層して一次積層体を得た。一次積層体の積層数(単位積層数)は、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600とした。
【0039】
更に、図3に示した工程に従い、これらの一次積層体をそれぞれ加圧した。加圧は、一次積層体の積層方向に対向する2つの面をそれぞれ加圧面及び受け面となるように行った。加圧の圧力は、750kg/cm2とした。
【0040】
次に、図5に示した工程に従い、一次積層体を積層して二次積層体を得た。具体的には、積層数150、200、250、300、350、400、450、500、550、600の一次積層体を、2層積層して、二次積層体の総積層数を、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200とした。一次積層体を積層する際には、隣り合う一次積層体の受け面同士が互いに接するようにした。
【0041】
その次に、図6に示した工程に従い、二次積層体に一軸加圧処理を施した。一軸加圧処理の加圧圧力は、200kg/cm2とした。
【0042】
その次に、図8〜図10に示した工程に従い、二次積層体に静水圧加圧処理を施した。静水圧加圧処理の静水圧は、3000kg/cm2とし、静水圧加圧処理温度T2は15℃とした。更に、二次積層体に切断、焼成工程等を施し、総積層数300〜1200の積層セラミックチップコンデンサを得た。また、一層の厚み及び電極膜の厚みが2μm、1μmとなるようにした。
【0043】
上述した実施例1の積層セラミックチップコンデンサは、総積層数300、400、・・・、1200ごとに500サンプル作製した。
【0044】
<比較例1>
実施例1と同様に、導体膜を備えたセラミックグリーンシートを積層して一次積層体を得た。一次積層体の積層数(総積層数)は、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200とした。更に、これらの一次積層体にそれぞれ一軸加圧処理を施した。一軸加圧処理の圧力は、1500kg/cm2とした。
【0045】
次に、これらの一次積層体にそれぞれ切断、焼成工程等を施し、総積層数300〜1200の積層セラミックチップコンデンサを得た。また、一層の厚み及び電極膜の厚みが2μm、1μmとなるようにした。
【0046】
上述した比較例1の積層セラミックチップコンデンサも、総積層数300、400、・・・、1200ごとに500サンプル作製した。
【0047】
<比較例2>
実施例1と同様に、導体膜を備えたセラミックグリーンシートを積層して一次積層体を得た。一次積層体の積層数(単位積層数)は、50、100とした。更に、実施例1と同様に、これらの一次積層体をそれぞれ加圧した。加圧は、一次積層体の積層方向に対向する2つの面をそれぞれ加圧面及び受け面となるように行った。
【0048】
次に、一次積層体を積層して二次積層体を得た。具体的には、積層数50の一次積層体を、6、8、10、12または14層積層して、二次積層体の総積層数を、300、400、500、600、700とした。また、積層数100の一次積層体を、8、9、10、11または12層積層して、二次積層体の総積層数を、800、900、1000、1100または1200とした。
【0049】
この比較例2の特徴は、一次積層体を積層する際に、隣り合う一次積層体のうち、一方の加圧面と、他方の受け面とが互いに接するようにしたことである。その後の工程は、実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0050】
上述した比較例2の積層セラミックチップコンデンサも、総積層数300、400、・・・、1200ごとに500サンプル作製した。
【0051】
<実験1の結果>
比較例1の積層セラミックチップコンデンサでは、総積層数が400となると、構造欠陥発生率が10%を越え、総積層数が600以上では構造欠陥発生率が100%となった。また、比較例2の積層セラミックチップコンデンサでは、総積層数が400を越えると、構造欠陥発生率が急激に増大し、総積層数が700以上では構造欠陥発生率が100%となった。
【0052】
これに対し、実施例1では、総積層数400〜1200のそれぞれについて、構造欠陥発生率が比較例1、2よりも大幅に低くなった。これは、総積層数400以上(400〜1200)の多層の積層セラミックチップコンデンサを、高い製造歩留まりで製造できたことを意味する。
【0053】
また、実施例1では、二次積層体を例えば、400層以上に多層化したので、二次積層体の厚み寸法が増大して機械的強度が増大した。従って、二次積層体に支持基板を組み合わせずに、例えば、3000kg/cm2といった高い静水圧を加圧することが可能となり、上述した高い静水圧が、二次積層体の全面に加圧された。このため、二次積層体の構造欠陥を更に低減できた。
【0054】
<静水圧加圧処理の静水圧加圧処理温度>
静水圧加圧処理の静水圧加圧処理温度T2は、構造欠陥発生率に大きな影響を与える。実験によると、セラミックグリーンシートに含まれる樹脂バインダのガラス転移点をT1としたとき、静水圧加圧処理温度T2は、次の式
T2[℃]≦T1[℃]+30[℃] (1)
を満たすように設定すればよいことが解った。次に、この点について、次の実験2により具体的に説明する。
【0055】
<実験2>
図12は、静水圧加圧処理温度を変化させたときの実験結果を示す図である。この実験では、セラミックグリーンシートに含まれる樹脂バインダとして、ブチラール樹脂を用いた。一般に、ブチラール樹脂またはポリメチルメタクリレート樹脂等のポリマーは、同じ名称であっても、製造法または重合度等により異なるガラス転移点を示す。例えば、ブチラール樹脂の場合、55℃〜90℃のガラス転移点を示す。この実験で樹脂バインダとして用いられたブチラール樹脂は、ガラス転移点T1が75℃のものである。
【0056】
また、実施例1に示した積層セラミックチップコンデンサの製造において、静水圧処理温度T2を15、50、75、105、150℃とした。静水圧加圧処理温度T2は、加圧媒体となる液体の温度と解釈できる。何れの静水圧処理温度T2(15、50、75、105、150℃)についても、総積層数300、400、・・・、1200ごとに500サンプルの積層セラミックチップコンデンサを作製した。
【0057】
上述した樹脂バインダのガラス転移点T1=75℃を、上掲式(1)に代入すると、静水圧加圧処理温度T2の好ましい設定範囲は次の通りになる。
T2[℃]≦105[℃] (2)
図13は、図12に図示した実験結果から、総積層数が800のときの実験結果を抜き出してグラフ化したものである。図13を参照し、総積層数が800のときの実験結果を、代表的に説明する。
【0058】
静水圧加圧処理温度T2が105℃以下に設定され、式(2)を満たしていると、構造欠陥発生率はおよそ一定の範囲(4%〜8%)内に収まっている。これに対し、静水圧加圧処理温度T2が105℃を越え、式(2)を満たさなくなると、構造欠陥発生率は急激に増大し、100%に達している。即ち、静水圧加圧処理温度T2=105℃の付近に、構造欠陥発生率に関する臨界点が存在するものと見ることができる。
【0059】
図12のデータを参照すると、他の総積層数300〜700、900〜1200についても同様な構造欠陥発生率の傾向が見られる。同一の総積層数について、静水圧加圧処理温度T2が105℃以下に設定され、式(2)を満たしていると、構造欠陥発生率は、およそ一定の範囲内に収まる。これに対し、静水圧加圧処理温度T2が105℃を越え、式(2)を満たさなくなると、構造欠陥発生率は急激に増大する。
【0060】
このような実験結果の理由は、次のように推測される。式(2)を満たすように静水圧加圧処理温度T2を適度に高く設定すると、セラミックグリーンシートに含まれる樹脂バインダが柔らかくなり、セラミックグリーンシートと導体膜との境界面が十分に加圧されるようになる。このため、構造欠陥発生率を低減することができる。
【0061】
これに対し、静水圧加圧処理温度T2が更に高くなり、式(2)を満たさなくなると、樹脂バインダが柔らかくなりすぎて、二次積層体が変形する。このため、その後の切断工程で歩留まりが悪くなる。更に、二次積層体に含まれている溶剤がガス化し、これに起因してデラミネーション等の構造欠陥が発生する。
【0062】
更に、図13のデータは、同一総積層数では、静水圧加圧処理温度T2が75℃で構造欠陥発生率が最低となり、静水圧加圧処理温度T2が75℃よりも高くなっても、低くなっても、構造欠陥発生率が高くなる傾向を示している。静水圧加圧処理温度T2が高くなる方向の上限値は、式(1)に示した通りである。
【0063】
下限値としては、
T2[℃]≧T1[℃]−60[℃] (3)
を満たすことが好ましい。
【0064】
樹脂バインダのガラス転移点T1=75℃を、上掲式(3)に代入すると、静水圧加圧処理温度T2の下限値は次の通りになる。
T2[℃]≧15[℃] (4)
式(4)に示すように静水圧加圧処理温度T2の下限値を15℃に設定すると、下限値15℃の構造欠陥発生率を、上限値105℃の構造欠陥発生率と同程度に抑えることができる。
【0065】
以上、積層セラミック電子部品の一例として積層コンデンサに本発明を適用した場合を説明した。当業者であれば、他の積層セラミック電子部品、例えば、積層インダクタ、積層アルミナ基板、積層バリスタまたは積層圧電(電歪)素子にも本発明を適用することができ、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0066】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果が得られる。
(a)静水圧加圧処理による二次積層体の反りを低減し得る積層セラミック電子部品の製造方法を提供することができる。
(b)例えば、400層以上の多層の積層セラミック電子部品を、高い製造歩留まりで製造する基礎を与え得る積層セラミック電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一枚のセラミックグリーンシートを示す斜視図である。
【図2】図1に示したセラミックグリーンシートにより得られる一次積層体の断面図である。
【図3】本発明に係る積層セラミック電子部品の製造工程を示す断面図である。
【図4】図3に示した工程の後の状態を示す断面図である。
【図5】図3に示した工程の後の工程を示す断面図である。
【図6】図5に示した工程の後の工程を示す断面図である。
【図7】図3〜図6に示した工程により得られる二次積層体の断面図である。
【図8】図6に示した工程の後の工程を示す1つの断面図である。
【図9】図6に示した工程の後の工程を示すもう1つの断面図である。
【図10】図6に示した工程の後の工程を示す更にもう1つの断面図である。
【図11】本発明に含まれる実施例1の積層セラミック電子部品の実験結果、及び、本発明に含まれない比較例1、2の積層セラミック電子部品の実験結果を示す図である。
【図12】静水圧加圧処理温度を変化させたときの実験結果を示す図である。
【図13】図12に図示した実験結果から、総積層数が800のときの実験結果を抜き出してグラフ化したものである。
【符号の説明】
1 セラミックグリーンシート
2 導体膜
41、42 一次積層体
45 二次積層体

Claims (5)

  1. 第1の工程と、第2の工程とを含む積層セラミック電子部品の製造方法であって、
    前記第1の工程は、導体膜を備えたセラミックグリーンシートを積層して得られた一次積層体を、加圧する工程であり、前記第1の工程において、前記一次積層体は、その積層方向に対向する2つの面をそれぞれ加圧面及び受け面として加圧され、
    前記第2の工程は、前記第1の工程を経た複数の前記一次積層体を積層して二次積層体を構成する工程であり、前記第2の工程において、隣り合う一次積層体は、前記第1の工程の受け面同士が互いに接するように積層される
    積層セラミック電子部品の製造方法。
  2. 請求項1に記載された製造方法であって、更に、前記二次積層体に一軸加圧処理を施す工程を含む
    積層セラミック電子部品の製造方法。
  3. 請求項1または2の何れかに記載された製造方法であって、
    前記第1の工程は、前記導体膜を備えたセラミックグリーンシートを少なくとも3層以上積層して得られた一次積層体を、加圧する工程である、
    積層セラミック電子部品の製造方法。
  4. 第1の工程と、第2の工程と、第3の工程とを含む積層セラミック電子部品の製造方法であって、
    前記第1の工程は、導体膜を備えたセラミックグリーンシートを積層して得られた一次積層体を、加圧する工程であり、前記第1の工程において、前記一次積層体は、その積層方向に対向する2つの面をそれぞれ加圧面及び受け面として加圧され、
    前記第2の工程は、前記第1の工程を経た複数の前記一次積層体を積層して二次積層体を構成する工程であり、前記第2の工程において、隣り合う一次積層体は、前記第1の工程の加圧面同士または受け面同士が互いに接するように積層され、
    前記第3の工程は、前記二次積層体に静水圧加圧処理を施す工程であり、
    前記セラミックグリーンシートに含まれる樹脂バインダのガラス転移点をT1としたとき、
    前記静水圧加圧処理の静水圧加圧処理温度T2は、次の式
    T2[℃]≦T1[℃]+30[℃]
    を満たす、積層セラミック電子部品の製造方法。
  5. 請求項4に記載された製造方法であって、
    前記静水圧加圧処理温度T2は、更に、次の式
    T2[℃]≧T1[℃]−60[℃]
    を満たす積層セラミック電子部品の製造方法。
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