JP4542595B2 - プラズマディスプレイパネルの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、プラズマディスプレイパネルの製造方法に関する。特に、本発明は、プラズマディスプレイパネル前面板の誘電体層の製造方法に関する。
高品位テレビジョン画像を大画面で表示するためのディスプレイ装置として、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPとも称す)を用いたディスプレイ装置への期待は高まっている。
PDPは、前面板と背面板とを対向配置して周辺部を封着部材によって封着した構造であり、前面板と背面板との間に形成された放電空間にはネオンおよびキセノンなどの放電ガスが封入されている。前面板は、ガラス基板の一方の面に形成された走査電極と維持電極とから成る表示電極対と、これらの電極を覆う誘電体層および保護層とを備えている。背面板は、ガラス基板に上記表示電極対と直交する方向にストライプ状に形成された複数のアドレス電極と、これらのアドレス電極を覆う下地誘電体層と、放電空間をアドレス電極毎に区画する隔壁と、隔壁の側面および下地誘電体層上に形成された赤色・緑色・青色の蛍光体層とを備えている。
表示電極対とアドレス電極とは直交していて、その交差部が放電セルになっている。これらの放電セルはマトリクス状に配列されており、表示電極対の方向に並ぶ赤色・緑色・青色の蛍光体層を有する3個の放電セルがカラー表示のための画素になる。このようなPDPでは、順次、走査電極とアドレス電極間、および走査電極と維持電極間に所定の電圧が印加されてガス放電を発生させている。そして、かかるガス放電によって生じる紫外線で蛍光体層を励起して可視光を発光させ、カラー画像を表示している。
近年では、PDPの高精細化に伴って放電セルの微細化が進んでいる。放電セルのサイズが小さくなると、発光輝度が低下し、消費電力が増大するという問題がある。これは、開口率の減少、画素数の増加に伴う1画素当りの発光時間の減少、発光効率の低下などに起因する。発光輝度を高める方法として、背面板の隔壁の幅を細くすることにより開口率の増加を図る方法があるが、それだけでは発光輝度が依然不足しており、更なる改善が必要である。
発光輝度を高める他の方法として、前面板における誘電体の誘電率を下げて放電時の無効電力を低減し、発光効率を高める方法がある。現行のPDP製造方法では前面板側の誘電体層の形成に際して、数μmの大きさのガラス粉末と有機バインダと溶媒とを含むガラス材料をスクリーン印刷やダイコートなど公知の方法を用いてガラス板上に塗布している。その後、乾燥工程、脱バインダ工程(300〜400℃)、焼成工程(500〜600℃)を経て、平坦で透過度の高い誘電体層を形成している。しかしながら現行の誘電体材料はガラス粉末を低温で溶融させるため、ガラスの融点を低下させる材料(一般的にBiなど)を添加している(例えば、特許文献1を参照)。このような低融点ガラス材料は純度が低く、比誘電率が10以上と高い。また、他の物質(一般的にアルカリ金属など)を添加することで比誘電率を低下させることも可能であるものの、PDPの電極には銀などの高導電性金属が主成分として用いられているので、イオンマイグレーションによる銀の拡散およびコロイド化が促進され、誘電体に黄変現象が発生する。これはPDPの光学特性に対して悪影響を大きく及ぼす。
そこで誘電体層の誘電率を下げることで発光輝度を高めるためには、現行のガラスペーストに変わる新しい低誘電率材料およびその材料を用いた誘電体層の形成方法の開発が必要となる。高純度の酸化物誘電体層を形成する方法としては、固体酸化物を真空下でスパッタリングして基板に堆積させる方法(スパッタリング蒸着法)や、原料をプラズマにより分解し、堆積させる方法(化学蒸着法)などがある。これらの方法により高純度で低誘電率の誘電体層を形成できるものの、高価な真空設備を必要とし、成膜レートが毎分数100nm程度と小さい。また、必要とする膜厚は絶縁耐圧などの関係上、一般的には10μm以上は必要であり、生産性を高めながら誘電体層を形成するには、設備台数が増えてしまうといった問題がある。
別法にて、純度の高いシリカを溶融させることが考えられるが、1000℃以上の高温を必要とするために現実的ではない。
一方、生産性を確保しながら、低誘電率の誘電体を形成する方法としてゾルゲル法がある。この方法では、溶媒中の金属アルコキシドを加水分解してシリコン化合物を得た後、加熱に付して縮重合処理することによって、酸化ケイ素を主成分とする膜を形成している。例えばシリコン化合物が水酸化ケイ素(Si(OH))の場合、下記のような縮重合反応によって、−Si−O−Si−のネットワークが形成され、誘電体層となる固体のSiOが形成される:

nSi(OH)→nSiO+2nH
(n:1以上の整数)

また、シリコン化合物がシロキサンの場合では、下記のような縮重合反応によって誘電体層が形成される:

この方法によれば、ガラスを溶融させる過程を経ないので低温で誘電体を形成できる。しかしながら、縮合重合反応に起因した体積収縮によって誘電体層にクラックが発生し、厚膜(一般的には約数μm程度)を形成することが一般に困難である。特に、電極上に誘電体を形成した場合、縮合重合反応時の体積収縮に起因した応力(より具体的には、縮重合反応による固体化に起因して誘電体膜が基板から受ける引張り応力)が、電極のエッジ部分に集中する。ここで、前面板の電極は、ITOのような透明電極上に、表示電極の抵抗値を下げるために、銀を主成分とする導電層が形成されている。従って、そのような電極を覆うように誘電体を形成した場合、縮合重合反応による体積収縮に起因した応力が電極のエッジ部分に集中することになり、電極に沿うような形態で誘電体層にクラックが発生してしまう(図6および図7参照)。
これに対処するために、酸または塩基の触媒を用い、収縮を抑制するために金属アルコキシドにフェニル基やアクリル基などの有機官能基を付与することで厚膜化を実現する方法がある(例えば、特許文献2を参照)。この方法では、調製された誘電体材料を、公知の方法によって塗布し、熱または紫外線により処理することでPDP誘電体層を形成している。しかしながら、この方法で調製された材料では、400℃程度の高温大気雰囲気下にて、付与された有機物の分解が促進されることが考えられる。その結果、体積収縮に起因してクラックが発生することになり、誘電体層形成工程以降の高温工程において品質を保証できない。
また、別法にて、400℃程度の不活性雰囲気下で焼成することによって誘電体層を形成する方法がある(例えば、特許文献3を参照)。この方法では、前駆体としてメチル基またはエチル基などの上記有機官能基と比べて分子量の小さい有機官能基を付与した金属アルコキシドを用い、誘電体材料を調製している。調製された誘電体材料は、公知の方法により塗布、硬化することで、10μm以上の層を形成することができる。しかしながらこの方法では、誘電体層形成工程以降の全ての工程を不活性ガス雰囲気下にする必要があり、大きな設備と厳密な管理が必要となる。
更に、別法にて、ゾルゲル法により生成した誘電体材料と基板との間に応力緩和層を形成する方法がある(例えば、特許文献4を参照)。この方法によると熱膨張係数の違いに起因して誘電体膜に生じる応力を緩和でき、内部応力の小さい誘電体層を形成することが期待できる。しかしながら、誘電体層に存在する内部応力は、熱膨張係数の違いによるものだけでなく、ゾルゲル法特有の縮重合反応に起因した応力が大部分を占める。応力緩和層が存在したとしても、縮重合によって膜が形成される際に、縮合重合反応に起因した体積収縮によって電極エッジ部に応力が集中し、誘電体層の電極エッジ部付近にクラックが発生する。
特に、誘電体層が形成されたとしても、縮重合反応が全て完了していない場合がある。この場合、その後のパネル封着時にて誘電体層がより高い温度に曝されると、未完了の縮重合反応が進行する結果となり、誘電体層の形成後にてクラックが電極エッジ部に沿って発生してしまうことなる。
特開2002−053342号公報 特開2005−108691号公報 特表2003−518318号公報 特開2007−109479号公報
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、誘電体層形成後に生じ得るクラックを効果的に防止または軽減できるPDP誘電体層の製造法を提供することである。
上記課題を解決するため、本発明は、基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板を有して成るプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
誘電体層の形成が、
(i)「電極が形成された基板」の所定箇所に低融点フリット原料(または低融点ガラスフリットを含んだ原料)を局所的に供給することによって、低融点フリット原料層(または低融点ガラスフリット原料層)を局所的に形成する工程、
(ii)低融点フリット原料層を熱処理して、低融点フリット原料層から「局所的なガラス層」を形成する工程、
(iii)「電極および局所的なガラス層が形成された基板」に対して誘電体原料を全体的に供給して誘電体原料層を形成する工程、および
(iv)誘電体原料層を熱処理して、誘電体原料層から誘電体層を形成する工程
を含んで成り、
「局所的なガラス層」の軟化温度が、「前面板と背面板との封着を行うパネル封着に用いられる封着用材料」の軟化温度以下となっていることを特徴とする、プラズマディスプレイパネルの製造方法を提供する。
本発明の製造方法は、電極が形成された基板上に「局所的なガラス層」と「全体的な誘電体層」とを形成し、「局所的なガラス層」の軟化温度がパネル封着材料の軟化温度以下となっていることを特徴としている。
本明細書において「低融点フリット原料」が供給される「所定箇所」とは、「電極が形成された基板」の一部の領域を指しており、そのような一部の領域が複数存在する態様をも含んでいる。従って、本明細書で用いる「局所的」は、「電極が形成された基板」の一部の限られた領域のことを実質的に意味しており、そのような一部の限られた領域が複数存在する態様も含んでいる。同様に、本明細書で用いる「局所的なガラス層」とは、「電極が形成された基板」の一部の限られた領域に形成されたガラス層のことを意味しており、そのようなガラス層が複数存在する態様も含んでいる。
更に、本明細書において「基板に対して誘電体原料を全体的に供給して」とは、「電極が形成された基板」の上記「所定箇所」よりも大きい基板領域に対して誘電体原料を塗布することを意味しており、好ましくは「電極が形成された基板」の略全面に対して誘電体原料を塗布することを意味している。従って、本明細書で用いる「全体的」は、上述の「所定箇所」よりも大きい領域のことを実質的に意図している。
ある好適な態様では、局所的なガラス層の軟化温度が、誘電体原料の硬化温度以上となっている。換言すれば、基板上に局所的に形成されたガラス層の軟化温度が、誘電体原料を縮重合反応により硬化させる際の加熱温度以上となっている。
また、ある好適な態様では、工程(i)にて「低融点フリット原料」を供給する所定箇所が「電極形成領域を含む局所的な基板領域」であって、「局所的なガラス層」が、基板上の電極を包み込むように形成されている。尚、本明細書にいう「電極」とは、前面板の形成に際して基板上に形成された電極のことを指しており、例えば走査電極と維持電極とから成る表示電極対である。走査電極および維持電極は、それぞれ、透明電極(蛍光体層で発生した可視光を透過させる電極)、および、かかる透明電極上に形成されたバス電極(表示電極の抵抗を低くして、透明電極の長手方向に導電性を付与するための電極)から構成されている。好ましくは、「局所的なガラス層」の幅Gxと、電極のバス電極の幅Bxとが1≦Gx/Bx≦2の関係を満たしている。この場合、後述するように、誘電体層において「ガラス層に起因するクラック抑制効果という有利な側面」と「ガラス層に起因する透過率低下という不利な側面」とのバランスが特に好ましく取れることになる。
更なる好適な態様では、得られる誘電体層の比誘電率が5以下となる。このように誘電体層の誘電率が低いと、紫外線の発生効率が向上し、PDPの低電力化に寄与し得る。
本発明の製造方法では、「局所的なガラス層」の軟化温度がパネル封着に用いられる封着用材料の軟化温度以下となっているので、パネル封着時の温度に起因して、局所的なガラス層が一旦軟化することになる。その結果、パネル封着時の温度で未完了の縮重合反応が誘電体層中にて付加的または付随的に進行したとしても、かかる縮合重合反応に起因するクラック発生を効果的に防止できる。より具体的には、「局所的なガラス層」が電極を包み込むように形成されている場合、パネル封着時のより高い温度(例えば400℃〜500℃程度)によって誘電体層で縮合重合反応が付加的に生じ、体積収縮に起因して電極エッジ付近に応力が集中するようなことがあったとしても、軟化したガラス層が緩衝材として作用してクラック発生を効果的に防止できる。
特に、「局所的なガラス層」の軟化温度が、誘電体原料の硬化温度以上となっていると、クラック発生をより好ましく防止できる。なぜなら、誘電体原料自体は、硬化時のクラック発生を抑制できる所望の化学的組成(即ち、硬化に際して生じる応力が緩和されるような化学的組成)を好ましくは有し得るものの、硬化温度以上に誘電体原料が付されると、誘電体原料がかかる所望の化学的組成を維持できなくなるからである。具体的には、好ましい誘電体原料には、その有するシロキサン骨格にアルキル基(メチル基やエチル基など)が結合しており、その結果、アルキル基によって硬化時に発生し得る応力を緩和してクラック発生を防止できるものの、硬化温度以上になると、かかるアルキル基が誘電体原料から抜けてしまうことになる。この点、「局所的なガラス層」の軟化温度が誘電体原料の硬化温度以上となっていると、仮にアルキル基が抜けたとしても、軟化したガラス層の緩衝作用によって、クラック発生を効果的に防止できる。
このようにクラック発生を防止できると、得られるPDPは、高精細化に対応可能な優れた耐絶縁性能を有することになり、パネル寿命が伸びる。
ここで「局所的なガラス層」というものは、誘電体層との屈折率の違いに起因して界面を形成して透過率を低下させ得るものであるが、本発明の製造方法では、実質的にバス電極上の局所的な領域にのみガラス層を形成している。バス電極は黒色を帯びた電極であり、かかるバス電極の上方領域というものは、そもそも光が透過することができない領域である。従って、そのような領域にガラス層が存在したとしても、誘電体層全体の透過率に対して実質的に悪影響を及ぼさない。換言すれば、本発明の製造方法では、そのような誘電体層全体の透過率に実質的に悪影響を及ぼさないような領域にのみ可及的にガラス層を形成している。
従って、本発明の製造方法では、ガラス層に起因した誘電体層の透過率低下をできる限り抑制しつつも、かかるガラス層を用いて誘電層形成後のクラック発生を好ましく抑制できている。つまり、本発明では、「ガラス層によるクラック抑制効果という有利な側面」と「ガラス層による透過率低下という不利な側面」とのトレードオフの問題に対して好ましく対処できている。
このような製造方法で得られるPDPは、誘電体層が所望の透過率を維持しており、また、クラックなどの物理的欠陥を実質的に含んでいないので、所望の輝度が維持されるだけでなく、高精細化に対応可能な優れた耐絶縁性能を備えている(即ち、高電圧の印加時における誘電体層の絶縁破壊が防止されている)。
尚、本発明の製造方法は、クラック発生を懸念することなくゾルゲル法で誘電体層を形成できるので、比誘電率5以下の誘電体層を形成できる。つまり、本発明では、誘電体層の透過率低下の抑制に起因して輝度低下を防止できることに加えて、材料の観点から低誘電率化できるので、結果的に、高い発光効率が達成され、低消費電力のPDPを実現できる。
以下にて、本発明のプラズマディスプレイパネルの製造方法を詳細に説明する。
プラズマディスプレイパネルの構成
まず、本発明の製造方法を経ることによって最終的に得られるプラズマディスプレイパネルを簡単に説明する。図1に、PDPの構成を断面斜視図により模式的に示す。
PDP(100)の前面板(1)では、平滑で透明かつ絶縁性の基板(10)(例えばガラス基板)上に、走査電極(12)と維持電極(13)とから成る表示電極(11)が複数形成されており、その表示電極(11)を覆うように誘電体層(15)が形成され、更に、その誘電体層(15)上に保護層(16)(例えば、MgOから成る保護層)が形成されている。特に本発明の製造方法で得られるPDPの前面板では、表示電極(11)を個々に包み込むように局所的なガラス層(70)が誘電体層(15)に形成されている(「局所的なガラス層(70)」については図4を参照のこと)。図4に示すように、走査電極(12)および維持電極(13)は、それぞれ、透明電極(12a,13a)と、この透明電極に電気的に接続されたAg等から成るバス電極(12b,13b)とから構成されている。尚、基板(10)上には、場合によっては遮光層(14)も形成され得る。
前面板(1)に対向配置される背面板(2)では、絶縁性の基板(20)上にアドレス電極(21)が複数形成され、このアドレス電極(21)を覆うように誘電体層(22)が形成されている。そして、かかる誘電体層(22)上のアドレス電極(21)間に対応する位置に隔壁(23)が設けられ、誘電体層(22)の表面上の隣接する隔壁(23)の間には、赤、緑、青の各色の蛍光体層(25)がそれぞれ設けられている。
表示電極(11)とアドレス電極(21)とが直交し、且つ、放電空間(30)が形成されるように、前面板(1)と背面板(2)とは、隔壁(23)を挟んで対向して配置されている。放電空間(30)には、放電ガスとして、ヘリウム、ネオン、アルゴンまたはキセノンなどの希ガスが封入される。このような構成を有するPDP(100)では、隔壁(23)によって仕切られ、表示電極(11)とアドレス電極(21)とが交差する放電空間(30)が放電セル(32)として機能することになる。
PDPの一般的な製造法
次に、このようなPDP(100)の典型的な製造方法について簡単に説明する。PDP(100)の製造は、前面板(1)の形成工程と背面板(2)の形成工程とに分かれている。まず、前面板(1)の形成工程においては、ガラス基板(10)上に、例えばスパッタ法などで透明電極を形成すると共に焼成法等でバス電極を形成することによって表示電極(11)を形成する。次いで、表示電極(11)を覆うように誘電体原料をガラス基板(10)上に塗布して加熱処理して誘電体層(15)を形成する。次いで、この誘電体層(15)上に、電子ビーム蒸着(EB蒸着)法などでMgOなどの膜を形成することで保護層(16)を形成し、前面板(1)を得ている。
背面板(2)の形成工程においては、ガラス基板(20)上に、例えば焼成法等でアドレス電極(21)を形成し、その上に誘電体原料を塗布して誘電体層(22)を形成する。次いで、所定のパターンで低融点ガラスから成る隔壁(23)を形成し、その隔壁(23)の間に蛍光体材料を塗布して焼成することによって蛍光体層(25)を形成する。次いで、基板の周縁部に例えば低融点フリットガラス材料(即ち、「パネル封着に用いる封着用材料」)を塗布し、焼成を行うことで封着部材(図1には図示せず)を形成し、背面板(2)を得ている。
得られた前面板(1)と背面板(2)とを対向するように位置合わせし、その状態で固定したまま加熱して封着部材を軟化させることによって、前面板(1)と背面板(2)とを気密に接合する、いわゆるパネル封着を実施する。引き続いて、加熱しながら放電空間(30)内のガスを排気する、いわゆる排気ベーキングを実施した後、放電空間(30)内に放電ガスを封入することによって、PDP(100)を完成させる。
本発明の製造方法
本発明の方法は、かかるPDP製造に際して、前面板(特に前面板に設けられる誘電体層)の製造に関している。かかる本発明の方法は、前面板の誘電体層の形成に際して、電極が形成された基板上に「局所的なガラス層」と「全体的な誘電体層」とを形成し、「局所的なガラス層」の軟化温度がパネル封着材料の軟化温度以下となっていることを特徴としている。
図2を参照して、本発明の実施形態を説明する。本発明の実施に際しては、まず、図2(a)に示すように電極が形成された基板を用意する。「電極が形成された基板」とは、例えば「表示電極が形成されたガラス基板」のことを指している。つまり、基板(10)上に、走査電極(12)と維持電極(13)とから構成される表示電極(11)が形成されたものを用意する。基板(10)としては、ソーダライムガラスや高歪み点ガラス、各種セラミックスからなる絶縁基板であることが好ましく、厚さは1.0mm〜3mm程度であることが好ましい。表示電極(11)の走査電極(12)および維持電極(13)には、それぞれ、ITO等から成る透明電極(厚さ50nm〜500nm程度)(12a、13a)が形成されていると共に、表示電極の抵抗値を下げるべく、銀を含んで成るバス電極(厚さ1μm〜8μm程度)(12b、13b)が透明電極上に形成されている(図4参照)。具体的には、透明電極を薄膜プロセスなどで形成した後に、バス電極を焼成プロセスなどを経て形成する。特に、バス電極の形成に際しては、まず、銀を主成分とした導電性ペーストをスクリーン印刷法によりストライプ状に形成する。また、バス電極は銀を主成分とした感光性ペーストをダイコート法や印刷法により塗布した後に、100℃〜200℃で乾燥した後、露光・現像するフォトリソグラフィー法によりパターンニングすることによってストライプ状に形成してもよい。更には、ディスペンス法やインクジェット法によって形成してもよい。そして、最終的には乾燥に付した後、400℃〜600℃の焼成に付すことによって、バス電極を得る。尚、表示電極(11)の熱膨張係数は、64×10−7[/℃]程度となり得る。
次いで、工程(i)を実施する。つまり、表示電極(11)が形成された基板(10)上の所定箇所に「低融点フリット原料」を局所的に供給することによって、低融点フリット原料層(70a)を局所的に形成する。特に、図2(b)に示すように、表示電極(11)を個々に覆うように「低融点フリット原料」を塗布して、低融点フリット原料層(70a)を局所的に形成する。
「低融点フリット原料」は、好ましくは、低融点ガラスフリットおよびビヒクル(=有機溶剤+バインダ樹脂)を含んで成る。この「低融点ガラスフリット」とは、約300℃〜400℃程度のガラス転移点を有するガラスフリットのことを実質的に指している。それゆえ、本明細書でいう「低融点」とは、約300℃〜400℃程度のガラス転移点のことを実質的に指していることが理解できよう。具体的な低融点ガラスフリットとしては、 PbO−SiO−B系ガラスフリット、PbO−P−SnF系ガラスフリット、PbF−SnF−SnO−P系ガラスフリットを用いることができる他、B−ZnO−SiO系ガラスフリットを含む非鉛系のガラスフリット等も用いることができる。
ビヒクルに含まれる有機溶剤としては、酢酸イソアミルを用いることが好ましいものの特にそれに限定されるわけではない。例えば、有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)のようなケトン類;α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールを含むテルペン類;エチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類を単独で用いることができる他、これらの溶剤から選ばれた少なくとも1種類または2種類以上の溶剤から成る混合物も用いることができる。
ビヒクルに含まれるバインダ樹脂としては、エチルセルロース系樹脂を用いることが好ましいものの、特にそれに限定されるわけではない。例えば、バインダ樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、α−メチルスチレン重合体、および、ブチルメタクリレート樹脂などを挙げることができ、これらを単独または2種以上組み合せて用いることができる。
「低融点フリット原料」は、必要に応じてフィラーを含んでいてもよい。フィラーとしては、チタン酸鉛、ケイ酸ジルコニウム、ベータ・ユークリプタイト、コーディエライト、ウィレマイトを用いることができる。このようなフィラーを用いることによって、「低融点フリット原料」の熱膨張係数を基板の熱膨張係数に近づけることができる。この場合、熱膨張係数の差に起因したクラック発生も付加的に防止または減じることが可能となる。
本発明の製造方法で用いる「低融点フリット原料」の各種成分の割合は、最終的に「局所的なガラス層」を得ることができる割合であれば、特に制限はない。一例を挙げると、「低融点フリット原料」が低融点ガラスフリットとビヒクル(=有機溶剤+バインダ樹脂)から成る場合、低融点ガラスフリットが60重量%以上かつ90重量%以下程度であり、有機溶媒が5.0重量%以上かつ40重量%以下程度であり、バインダ樹脂が0.1重量%以上かつ5.0重量%以下程度であればよい。また、本発明の製造方法で用いる「低融点フリット原料」は、好ましくはペースト形態を有している。かかるペーストの粘度は、例えば室温(25℃)にて、好ましくは3mPa・s〜50Pa・s程度である。
「低融点フリット原料」の塗布には、ディスペンス法を用いることができる。ディスペンス法とは、小径ノズルを備えた円筒形容器に原料ペーストを仕込み、ノズルと反対側の開口部より空気圧を加えて原料ペーストを吐出する方法である。このディスペンス法では、「空気圧」と「空気圧の加圧時間」とを調整することによって、原料ペーストの吐出量を制御できる。
「低融点フリット原料」の塗布には、ダイコート法を用いることもできる。ダイコート法とは、ダイヘッドのスリットからペーストを吐出すると共に、ダイヘッドもしくは基板を塗布方向に動かして塗膜を形成する方法であり、厚膜塗布に適している。誘電体原料ペーストは、タンクなどの密閉された容器に仕込んで使用する。タンク内を加圧することでタンクから配管を通して、誘電体原料ペーストをシリンジポンプなどに供給し、シリンジポンプなどの機械的な圧送によりダイヘッドに誘電体原料ペーストを供給する。塗布膜厚が安定化するように、ペーストの圧送による内圧を塗布幅方向に均一化するためのマニホールドをダイヘッド内に設置することが好ましい。また、塗布開始時における始端部では、誘電体原料ペーストがダイヘッドのスリットから吐出されるまでの内圧がダイレクトに伝わらないため、塗布速度を部分的に調整して膜厚および形状を調節するとともに、塗布終了時の終端部では、シリンジポンプなどの機械的な圧送を停止することでペーストの供給を停止して膜厚および形状を調節する。なお、終端部での膜厚調整において、機械的圧送を停止しても、ペーストの内圧はすぐには無くならないため、配管の途中に内圧を開放する弁を設けると共に、ペーストのせん断応力によりペーストを切って終端部の形状を安定化させるべく、終端部の塗布完了直後にダイヘッドを上昇させることが好ましい。別法にて、「低融点フリット原料」の塗布には、印刷法、フォトリソグラフィー法等を用いてもよい。
「低融点フリット原料」は、基板上に形成された表示電極(11)を個々に包み込むように局所的に塗布されることが好ましい。より好ましくは表示電極(11)のバス電極(12b、13b)を包み込むように局所的に塗布される(換言すれば「低融点フリット原料」がバス電極に少なくとも沿うように塗布される)。ここで、図3に示すように、局所的に形成される低融点フリット原料層の幅をGxとし、表示電極のバス電極の幅をBxとすると、以下の(1)および(2)の観点から、GxおよびBxが1≦Gx/Bx≦2の関係を満たすことが好ましい(尚、ここでいう“幅”とは、図示するようにPDPを垂直な面で切り取って得られる断面における幅のことを実質的に意味している):
(1)誘電体層形成後の縮重合反応に起因して生じるクラックは、表示電極に沿って発生し得るので(図6および図7参照)、Gx/Bxが1未満であると電極エッジに発生する応力集中を緩和できずクラックの発生を効果的に防止できない。
(2)Gx/Bxが2より大きいと、低融点フリット原料層から形成される「局所的なガラス層」に起因して輝度が低下し得る。輝度が低下すると、発光効率が低下し、低誘電率材料を用いる効果が相殺されてしまう。
尚、低融点フリット原料層の厚さは、好ましくは5〜60μmであり、より好ましくは10〜20μmである。
工程(i)に引き続いて、工程(ii)を実施する。つまり、低融点フリット原料層(70a)を熱処理して、低融点フリット原料層(70a)から局所的なガラス層(70)を形成する。熱処理は、乾燥処理および焼成処理を含むことが好ましく、乾燥処理を行った後に焼成処理を行うことが好ましい。乾燥処理では、低融点フリット原料層を60℃〜200℃の乾燥温度条件下に0.1〜2時間付すことが好ましい。また、焼成処理では、低融点フリット原料層を300℃〜600℃の焼成温度条件下に0.1〜2時間付すことが好ましい。熱処理手段としては、焼成炉のような加熱チャンバーを用いてよい。この場合、加熱チャンバー内に「工程(i)から得られた『表示電極および低融点フリット原料層を備えた基板』」を供することによって、低融点フリット原料層(70a)を熱処理できる。かかる熱処理により得られるガラス層(70)の熱膨張係数は、例えば70×10−7[/℃]程度となり得る。
工程(ii)に引き続いて、工程(iii)を実施する。つまり、「表示電極(11)およびガラス層(70)が形成された基板」に対して誘電体原料を全体的に供給して誘電体原料層(15a)を形成する(図2(c)参照)。具体的には、「表示電極(11)および局所的なガラス層(70)が形成された基板(10)」に対して、例えばダイコート法で誘電体原料ペーストを塗布して、表示電極(11)およびガラス層(70)を覆うように誘電体原料層(15a)を基板(10)上に形成する。このように誘電体原料を塗布することによって形成された誘電体原料層(15a)の厚さは、好ましくは5〜30μmであり、より好ましくは10〜20μmである(ここでいう厚さは、「基板表面から誘電体原料層上面までの距離」を実質的に意味している)。
本発明の製造方法で用いる誘電体原料(好ましくは誘電体原料ペースト)は、ガラス成分および有機溶剤を含んで成るものである。
ガラス成分は、好ましくはシリコン化合物、より好ましくは「シロキサン結合(またはシロキサン骨格)を有する化合物」を含んでなる成分である。「シロキサン結合(またはシロキサン骨格)を有する化合物」は、−Si−O結合を有する低分子量〜高分子量の化合物であってよく、無機系であるか有機系であるかに制限はない。具体的なガラス成分としては、特に制限されるわけではないが、Si(OC(TEOS(テトラエチルオルソシリケート))、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジフルオロジメトキシシラン、ジフルオロジエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、炭化ケイ素(SiC)、他のアルコキシド系有機シリコン化合物(Si(OR))、例えば、テトラターシャリーブトキシシラン(t−Si(OC)、テトラセコンダリーブトキシシランsec−Si(OC、テトラターシャリーアミロキシシランSi[OC(CHなどを用いることができる他、これらの化合物を加水分解及び縮重合させることにより得られる高分子化合物も用いることができる。
また、有機溶剤としては、特に制限されるわけではないが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)のようなケトン類;α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールを含むテルペン類;エチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類を単独で用いることができる他、これらの溶剤から選ばれた少なくとも1種類または2種類以上の溶剤から成る混合物も用いることができる。尚、本発明の製造方法で行う加熱処理で有機溶剤が気化することが望まれるので、好ましくは約300℃以下の範囲に沸点を有する有機溶剤を用いることが好ましい。
尚、本発明の製造方法で用いる誘電体原料(好ましくは誘電体原料ペースト)は、必要に応じてバインダ樹脂が更に含まれていてもよい。バインダ樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、α−メチルスチレン重合体、ブチルメタクリレート樹脂およびセルロース系樹脂などを挙げることができ、これらを単独または2種以上組み合せて用いることができる。
本発明の製造方法で用いる誘電体原料は、好ましくはペースト形態を有している。かかる場合、誘電体原料ペーストの粘度は、例えば室温(25℃)にて、好ましくは3mPa・s〜50Pa・s程度である。
本発明の製造方法で用いる誘電体原料の各種成分の割合は、典型的なPDP誘電体層を得る際(より具体的には、いわゆる“ゾルゲル法”を利用して誘電体層を形成する際)に用いられる一般的な割合であれば、特に制限はない。一例を挙げると、誘電体原料がガラス成分と有機溶剤とから成る場合、好ましくはガラス成分が20重量%以上かつ80重量%以下であり、有機溶剤が80重量以下かつ20重量%以上であればよく、より好ましくはガラス成分が40重量%以上かつ60重量%以下であり、有機溶剤が60重量以下かつ40重量%以上であればよい。また、誘電体原料がガラス成分と有機溶剤とバインダ樹脂から成る場合、例えば、ガラス成分が約55重量%、有機溶剤が約40重量%、バインダ樹脂が約5重量%であればよい。
工程(iii)に引き続いて、工程(iv)を実施する。つまり、誘電体原料層(15a)を熱処理して、誘電体原料層(15a)から誘電体層(15)を形成する。誘電体原料層(15a)が加熱されることによって、誘電体原料層(15a)中で縮重合反応が進行して誘電体層(15)が形成される。工程(iv)における加熱温度は、縮重合反応に必要とされる熱量の他、溶媒の沸点および含有量などによって決定される。一般的にいえば、工程(iv)における加熱温度は、好ましくは約100〜約300℃、更に好ましくは約100〜約200℃の範囲である。また、かかる加熱温度条件下に付す時間も、縮重合反応に要する熱量、誘電体原料に含まれる溶媒の沸点や含有量などを総合的に考慮して決定され、誘電体原料の種類によって変わるものであるが、一般的には、好ましくは5分〜120分程度、より好ましくは10分〜60分程度である。熱処理手段としては、焼成炉のような加熱チャンバーを用いてよい。この場合、加熱チャンバー内に「工程(iii)から得られた『表示電極、ガラス層および誘電体原料層を備えた基板』」を供することによって、誘電体原料層を全体的に熱処理することができる。かかる熱処理で得られる誘電体層(15)の熱膨張係数は、例えば30×10−7[/℃]程度となり得る。
工程(iv)を実施して誘電体層(15)を形成した後は、保護層(16)を形成する。つまり、真空蒸着法または電子ビーム蒸着法(EB蒸着法)などでMgOなどの膜(16)を誘電体層(15)上に形成する(図2(d)参照)。尚、保護層(16)は、酸化マグネシウム(MgO)に限定されず、酸化ベリリウム(BeO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)から成るものであってもよい。
このような保護層は、熱CVD法、プラズマCVD法またはスパッタ法等を用いて形成できる。以上の工程(i)〜(iv)によって、PDP前面板が完成する。
[本発明のPDPの前面板側の誘電体層]
本発明のPDPでは、前面板側の誘電体層の形成に起因して、前面板側の基板上に「バス電極上に局所的に形成されたガラス層(70)」と「全体的に形成された誘電体層(15)」とが存在している。特に、図4に示すように、局所的なガラス層の幅をGxとし、表示電極のバス電極の幅をBxとすると、GxおよびBxが1≦Gx/Bx≦2の関係を満たしていることが好ましい(尚、ここでいう“幅”とは、図示するようにPDPを垂直な面で切り取って得られる断面における幅のことを実質的に意味している)。例えば、バス電極の幅Bxは、好ましくは30〜80μmであるので、「局所的に形成されたガラス層」の幅Gxは、好ましくは30〜160μmとなる。かかる特徴により、本発明のPDPの誘電体層では、「ガラス層に起因するクラック抑制効果という有利な側面」と「ガラス層に起因する透過率低下という不利な側面」とのバランスが特に好ましく取れている。
特に、本発明では、PDP前面板に設けられているガラス層(70)の軟化温度は、前面板と背面板との封着を行うパネル封着に用いる封着用材料の軟化温度以下となっている。換言すれば、パネル封着に用いる封着用材料(例えば、封着用低融点フリット)の軟化温度が430℃〜500℃程度であるので、ガラス層(70)はその温度以下の軟化温度、即ち400℃〜500℃以下の軟化温度を有している。これにより、パネル封着時の温度に起因して、ガラス層(70)が一旦軟化することができるので、パネル封着時の温度で誘電体層の未完了の縮重合反応が付加的に進行したとしても、かかる縮合重合反応に起因するクラック発生を効果的に防止できる。尚、本明細書でいう「軟化温度」とは、対象物が硬質状態から軟質状態に変化し始める温度であり、例えば、JIS K7206に準拠して測定されるビカット軟化点である。
“封着時の軟化”とは別の観点から、ガラス層(70)の軟化温度は、誘電体原料の硬化温度以上となっていることが好ましい。換言すれば、誘電体原料層(15a)の硬化温度が200〜400℃程度であるので、ガラス層(70)はその温度以上の軟化温度、即ち200℃〜400℃以上の軟化温度を有していることが好ましい。これにより、誘電原料層(15a)または誘電体層(15)が硬化温度以上に付されて(即ち、パネル封着時や保護層形成時の温度に付されて)、応力緩和効果を有するアルキル基などが誘電原料層(15a)または誘電体層(15)から存在しなくなったとしても、軟化したガラス層の緩衝作用によって、クラック発生を効果的に防止できる。尚、本明細書でいう「硬化温度」とは、誘電体原料層が縮重合反応を起こして硬化し始める温度を実質的に意味している。
上述したような”封着用材料の軟化温度以下”および“誘電体原料の硬化温度以上”に基づくと、ガラス層(70)の軟化温度は、200〜500℃であることが好ましいといえ、より好ましくは300〜400℃である。
尚、本発明では、前面板側の誘電体層をいわゆるゾルゲル法を利用して形成できるので、誘電体層の比誘電率は低い値となっている。例えば、好ましくは前面板の誘電体層の比誘電率は5以下となっている。このように誘電体層の誘電率が低いと、紫外線の発生効率が向上するので、低電力なPDPを達成できる。ちなみに、ここでいう比誘電率とは、23℃および1MHzでの比誘電率の値をいう。
また、本発明の製造方法で得られるPDPでは、上述したように、表示電極(11)の熱膨張係数が例えば64×10−7[/℃]程度であって、ガラス層(70)の熱膨張係数が例えば70×10−7[/℃]程度であって、誘電体層(15)の熱膨張係数が例えば30×10−7[/℃]程度となっている。従って、1つの好適な態様として、本発明の製造方法で得られるPDPでは、ガラス層の熱膨張係数の値が表示電極および誘電体層の熱膨張係数の値よりも大きくなっている。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。例えば、本発明の製造方法は、主として前面板側の誘電体層形成時に用いることが適しているものの、背面板側の誘電体層形成時に用いてもよく、同様の効果を得ることができる。また、本発明の製造方法で形成される「局所的なガラス層」は、誘電体層形成後に生じ得るクラックを効果的に防止または軽減できるものの、誘電体層形成時に生じ得るクラックであっても同様に防止または軽減できる。
実施例として、局所的なガラス層が形成された誘電体層を備えた前面板を作製し、その特性を評価した。
(低融点フリットペースト)
局所的なガラス層の形成には、以下の組成および物性を有する低融点フリットペーストを用いた。
低融点ガラス成分(80重量%):B−ZnO−SiOを含む非鉛系の低融点ガラスフリット
ビヒクル(20重量%):セルロース系樹脂と酢酸アルキル類溶媒との混合物
(誘電体原料ペースト)
誘電体層の形成には、以下の組成および物性を有する誘電体原料ペーストを用いた。
・ガラス成分(20重量%):TEOS等から得られるポリシロキサンオリゴマー
・有機溶媒成分(80重量%):メタノール、イソプロピルアルコール、α−テルピネオール
・誘電体原料ペーストの粘度:5mPa・s(25℃)
(前面板の作製)
まず、1.8mm厚さのガラス基板(日本電気硝子製のソーダライムガラス)の表面にITOから成る透明電極(透明電極幅0.12mm、厚さ100nm)を形成した後、かかる透明電極上にAgから成るバス電極(バス電極幅0.065mm、厚さ6μm)を形成した。次いで、バス電極上に低融点フリットペーストをディスペンス法によって塗布することによって「低融点フリット原料層」を形成した。引き続いて、「低融点フリット原料層」を100℃で乾燥させた後、450℃で焼成することによって「局所的なガラス層」を得た。局所的なガラス層の幅は、0.1mmであったことから、「局所的なガラス層の幅」/「バス電極幅」≒1.5となっていた。次いで、誘電体原料ペーストをダイコート法によって、ガラス基板上に塗布することによって、厚さ0.015mmの誘電体原料層を形成した。次いで、電極とガラス層と誘電体原料層とを有するガラス基板を250℃の加熱炉に供することによって、誘電体原料層を20℃/分の昇温速度で加熱して誘電体原料層中でポリシロキサンオリゴマーの縮重合反応を進行させた。以上により、電極上の局所的な領域にガラス層を含んだ誘電体層を得た。最終的には、電子ビーム蒸着法でMgOなどからなる膜を誘電体層上に形成することで保護層を形成して、前面板を完成させた。
(誘電体層およびガラス層の特性)
形成された誘電体層の特性・仕様は次のとおりである
・比誘電率:3.6(國洋電機工業製の型式KC−555の測定器を使用)
・透過率:81%(ヘイズメータ(村上色彩技術研究所製、HM−150)を使用)
・物理的欠陥の有無:電極上に沿うようなクラックは無し
・ガラス層の軟化温度:400℃
かかる実施例に基づくと、電極上に形成した低融点フリット層によって誘電体層におけるクラック発生を抑制できる一方で、かかる低融点フリット層に起因する誘電体層の透過率低下を防止できていることが理解できるであろう。尚、ガラス層の軟化温度が400℃とパネル封着に用いられる封着用材料の軟化温度以下となっているので、パネル封着時の温度に起因して、局所的なガラス層が一旦軟化できることが理解できる。それゆえ、パネル封着時の温度により未完了の縮重合反応が誘電体層中で付加的または付随的に進行したとしても、かかる縮合重合反応に起因するクラック発生を効果的に防止できることも理解できよう。
尚、参考までに、別途実施した「電極上フリット塗布実験」で得られた写真画像を図5に示す。かかる実験は、誘電体層のクラックを防止する効果を確認する目的で行った。この実験からは、局所的なガラス層を設けることが誘電体層のクラック防止に有効であることが理解できた。
本発明の製造方法を通じて最終的に得られるPDPは、消費電力が低いので、一般家庭向けのプラズマテレビおよび商業用プラズマテレビとして好適に用いることができる他、その他の各種表示デバイスとしても好適に用いることができる。
本発明の実施形態におけるPDPの構造を模式的に示す斜視図 本発明の製造方法の工程を模式的に表した断面図 本発明の製造方法の工程(i)で得られる態様を模式的に表した断面図 本発明の製造方法で得られるPDPの前面板を模式的に表した断面図 「電極上フリット塗布実験」で得られた写真 誘電体層に発生し得るクラックを模式的に表した斜視図 誘電体層に発生したクラックの電子顕微鏡写真
符号の説明
1 前面板
2 背面板
10 前面板側の基板
11 前面板側の電極(表示電極)
12 走査電極
12a 透明電極
12b バス電極
13 維持電極
13a 透明電極
13b バス電極
14 ブラックストライプ(遮光層)
15 前面板側の誘電体層
15a 誘電体原料層
16 保護層
20 背面板側の基板
21 背面板側の電極(アドレス電極)
22 背面板側の誘電体層
23 隔壁
25 蛍光体層
30 放電空間
32 放電セル
50 クラック
70 局所的なガラス層
70a 低融点フリット原料層
100 PDP

Claims (4)

  1. 基板上に電極と誘電体層と保護層とが形成された前面板を有して成るプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
    前記誘電体層の形成が、
    (i)前記電極が形成された前記基板上の所定箇所に低融点フリット原料を局所的に供給することによって、低融点フリット原料層を局所的に形成する工程、
    (ii)前記低融点フリット原料層を熱処理して、前記低融点フリット原料層から局所的なガラス層を形成する工程、
    (iii)前記電極および前記局所的なガラス層が形成された前記基板に対して熱処理により縮重合反応を起こして硬化する誘電体原料を供給して誘電体原料層を形成する工程、および
    (iv)前記誘電体原料層を熱処理して、前記誘電体原料層から誘電体層を形成する工程
    を含んで成り、
    前記局所的なガラス層の軟化温度が、前面板と背面板との封着を行うパネル封着に用いる封着用材料の軟化温度以下となっていることを特徴とする、プラズマディスプレイパネルの製造方法。
  2. 前記局所的なガラス層の軟化温度が、前記誘電体原料の硬化温度以上となっていることを特徴とする、請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
  3. 前記所定箇所が前記電極上の領域を含んだ局所的な基板領域であり、前記局所的なガラス層が前記基板上の前記電極を包むように形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
  4. 前記局所的なガラス層の幅Gxと、前記電極のバス電極の幅Bxとが1≦Gx/Bx≦2の関係を満たすことを特徴とする、請求項3に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
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