JP4536194B2 - 安定な注射用製剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、安定なインターフェロン製剤に関する。詳しくは、インターフェロンαを含有する安定な注射用製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
インターフェロン水溶液は、物理的及び化学的影響に対して感受性が高く、解決すべき多くの問題を含んでいる。インターフェロンは他の蛋白質と同様に、水溶液中で蛋白質分解、酸化、ジスルフイド交換、オリゴマー化、脱アミド化及びβ−脱離のような化学的分解、並びに凝集、沈殿及び吸着のような物理的作用を受けやすい。これらの影響を防ぐ方法として、インターフェロン水溶液を特定のpHに維持することが知られている。特にpH5〜6においては共有結合の分解が最も少なく、例えばpHが4.5〜5.5に調節されたインターフェロンαを含有する溶液製剤が知られている(特開平8-283176)。また、安定化剤を添加する方法も知られており、例えば非イオン性界面活性剤を含むインターフェロン水溶液が報告されている(特公昭61−277633)。しかし、サブタイプによってはpH調節や安定化剤の添加により安定化をはかることができるとは限らない。すなわち、わずかなアミノ酸組成の違いや糖等の付加により立体構造等が影響を受け、各サブタイプ間で安定性が異なるからである(Kathryn C.Zoon, INTERFERON vol 9,Academic Press, p1-12,1987)。従って、複数のサブタイプを有するインターフェロン水溶液を安定化することは容易ではない。
サブタイプの異なるインターフェロンαはそれぞれ異なる物理化学的性質を示すことから、例えばインターフェロンαはpH5.0〜7.0の間で複数の異なる等電点を有し、特に、ナマルバ細胞由来のインターフェロンαでは4.9〜6.0の間に存在する(Bodo,G. and Adolf,G.R.The biology of Interferon System,Elsevier p113, 1983)。この等電点の相違は注射剤の性状、吸着性、安定性に大きな影響を及ぼす。例えば、インターフェロンα2aはpH5.9に等電点を有するため、このpHではガラス表面へ吸着する問題がある。
インターフェロンαはヒト生体内で多くのサブタイプが同時に産生され、これらのサブタイプがインターフェロンαの効果の発現に重要な役割を果たしている。従って、これら物理化学的性質の相違する1種又は複数種のサブタイプからなるインターフェロンαを含有する、より安定な注射用製剤の開発が望まれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、1種又は複数種のサブタイプを含有するヒトインターフェロンαにおいて長期保存が可能な注射用製剤を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、1種又は複数種のサブタイプを含有するヒトインターフェロンαにおいて、ポリソルベート80の添加及び最適なpHを維持することにより、長期保存が可能なことを見いだし本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
(1)等電点が4.9〜6.0である1種又は複数種のサプタイプからなるインターフェロンαとポリソルベート80を含有し、かつpHが6.5〜7.5に調整された安定な注射用製剤、
(2)インターフェロンαの含量が製剤1mL当たり1〜20MUである(1)記載の注射用製剤、
(3)インターフェロンαがナマルバ細胞由来である(1)または(2)記載の安定な注射用製剤、
(4)ポリソルベート80の含量が製剤1mL当たり 0.01〜1mgである(1)乃至(3)記載の安定な注射用製剤、
(5)塩化ナトリウムを含有する(1)乃至(4)記載の安定な注射用製剤、
(6)トロメタモールを含有する(1)乃至(5)記載の安定な注射用製剤、
(7)グリシンを含有する(1)乃至(6)記載の安定な注射用製剤に関する。
【0005】
インターフェロンαはウイルス複製及び細胞増殖を阻害し、免疫応答を調整する、高度に相同性の種特異的蛋白質のファミリーを意味し、アミノ酸配列の一部が置換、欠失、又は糖鎖等の結合により複数種のサブタイプが存在する。代表的なインターフェロンαサブタイプとしては、 インターフェロンα2a、α2b、α2cがあげられるが、その他、インターフェロンα1、α4、α5、α6、α7a、α7b、α7c、α8、α10、α13、α14、α17a、α17b、α17c、α21、α78、α88、λ2等があげられる。
本発明では、上記サブタイプの中から選ばれる等電点が4.9〜6.0であるサブタイプを含むものであればいずれを用いても良い。特に、ナマルバ細胞由来の天然型インターフェロンαの精製混合物が好適である。
サブタイプの等電点とは上記各サブタイプの特有の等電点をいい、常法に従って測定される等電点をいう。等電点の測定法としては、例えば新生化学講座1 タンパク質 分離・精製・性質 335−336(1990)に示される測定法がある。
複数種のサブタイプを含むインターフェロンαの場合、各サブタイプの含有量は特に制限はないが、好ましくは各サブタイプの比率が2〜50%の範囲であるサブタイプ混合物が好ましい。
本発明で用いられる複数種のサブタイプとしては、2種以上であれば特に制限はない。
インターフェロンα注射剤は腎癌、多発性骨髄腫、白血病、慢性及び急性B型/c型肝炎等の種々の病状の処置に有効である。通常は皮下又は筋肉内に1日あたり3〜9MUが投与される。
【0006】
本発明に用いられるポリソルベート80は製剤1mL当たり 0.001〜10mgの範囲で用いることができ、特に0.01〜1mgの範囲が好ましい。
pHは6.5〜7.5の範囲で安定化をはかることができるが、特に、6.8〜7.1が好適である。
本発明においては、必要により等張化剤、緩衝剤及び添加剤を適宜添加することができる。
塩化ナトリウムは等張化剤として用いられ、注射剤の浸透圧比を1〜2に維持する濃度が添加される。
トロメタモールおよびグリシンは緩衝剤として用いられ、pHを維持できる濃度であれば特に制限はないが、好ましくはトロメタモールが製剤1mL当たり1〜2mg、グリシンが製剤1mL当たり 0.5〜1mgの量が好ましい。
【0007】
本発明にかかる注射剤は例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、1種または複数種のインターフェロンαサブタイプ、塩化ナトリウム、トロメタモールおよびグリシン等を含む水溶液にポリソルベート80を所定量添加し、pH調整後、所定のインターフェロン濃度に希釈する。その後、無菌条件下にて、除菌ろ過し、バイアル等の密封容器に充填することにより得ることができる。また、上記以外の添加剤、例えばヒト血清アルブミン等を添加する場合には除菌ろ過前に添加することができる。
【0008】
【実施例】
次に実施例、比較例および試験例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明の範囲は何らこれらによって限定されるものではない。
実施例1
インターフェロンα(NAMALWA 住友製薬) 39.8MU/mL、塩化ナトリウム 8.8mg/mL、トロメタモール1.22mg/mL、グリシン0.76mg/mL、pH 7.1 からなるインターフェロンα水溶液 25.1μLを4mL用ガラスバイアルへ分注し、ポリソルベート80 1mg/mLからなる水溶液10μLを加えた。その後、塩化ナトリウム 8.8mg/mL、トロメタモール1.22mg/mL、グリシン0.76mg/mL、pH 7.1からなる緩衝液を添加し、全量を1.0mLとした。その後、ゴム栓で密封し、注射用製剤を得た。
【0009】
比較例1
ポリソルベート80 を加えなかった他は、実施例1と同様にして注射用製剤を得た。
実施例2
実施例1のポリソルベート80 1mg/mLからなる水溶液10μLに代えて、ポリソルベート80 1mg/mLからなる水溶液を30μL加えた他は、実施例1と同様にして注射用製剤を得た。
実施例3
実施例1のポリソルベート80 1mg/mLからなる水溶液10μLに代えて、ポリソルベート80 1mg/mLからなる水溶液を100μL加えた他は、実施例1と同様にして注射用製剤を得た。
【0010】
実施例4
実施例1のポリソルベート80 1mg/mLからなる水溶液10μLに代えて、ポリソルベート80 10mg/mLからなる水溶液を30μL加えた他は、実施例1と同様にして注射用製剤を得た。
実施例5
実施例1のポリソルベート80 1mg/mLからなる水溶液10μLに代えて、ポリソルベート80 10mg/mLからなる水溶液を100μL加えた他は、実施例1と同様にして注射用製剤を得た。
試験例1
実施例1乃至5と比較例1の製剤を5℃で、24時間静置した。その後、インターフェロンα力価をラジオイムノアッセイ(RIA)法により測定した。その結果を表1に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
実施例6
インターフェロンα(NAMALWA 住友製薬) 39.8MU/mL、塩化ナトリウム 8.8mg/mL、トロメタモール1.22mg/mL、グリシン0.76mg/mL、pH 7.1 からなるインターフェロンα水溶液 34.7mLを200mL用ポリスチレンボトルに分注し、ポリソルベート80 100mg/mL からなる水溶液を200μL添加した。そして、塩化ナトリウム 8.8mg/mL、トロメタモール1.22mg/mL、グリシン0.76mg/mL、pH 7.1からなる緩衝液を添加し、全量を200mLとした。1M塩酸溶液又は1M水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを7.1に調整した。除菌フィルターにてろ過後、4mL用ガラスバイアルへ1.0mL充填した。ゴム栓で密封し、注射用製剤を得た。
実施例7
1M塩酸溶液を用いてpHを6.8に調整した他は、実施例6と同様にして注射用製剤を得た。
実施例8
1M塩酸溶液を用いてpHを6.5に調整した他は、実施例6と同様にして注射用製剤を得た。
【0013】
比較例2
1M塩酸溶液を用いてpHを6.0に調整した他は、実施例6と同様にして注射用製剤を得た。
比較例3
1M塩酸溶液を用いてpHを5.0に調整した他は、実施例6と同様にして注射用製剤を得た。
試験例2
実施例6、7、8と比較例2、3の製剤を10℃で、12ヶ月保存した。その後、製剤の溶状を目視検査により確認した。その結果を表2に示す。
【0014】
【表2】
【0015】
実施例9
インターフェロンα(NAMALWA 住友製薬) 21.5 MU/mL、塩化ナトリウム 8.8mg/mL、トロメタモール1.22mg/mL、グリシン0.76mg/mL、pH 7.1 からなるインターフェロンα水溶液 27.9mLを200mL用ポリスチレンボトルに分注し、ポリソルベート80 100mg/mL からなる水溶液を600μL添加した。そして、塩化ナトリウム 8.8mg/mL、トロメタモール1.22mg/mL、グリシン0.76mg/mL、pH 7.1からなる緩衝液を添加し、全量を200mLとした。1M塩酸溶液又は1M水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを7.1に調整した。除菌フィルターにてろ過後、4mL用ガラスバイアルへ1.0mL充填した。ゴム栓で密封し、注射用製剤を得た。
比較例4
ポリソルベート80 を加えなかった他は、実施例9と同様にして注射用製剤を得た。
試験例3
実施例9、比較例4の製剤を10℃で保存し、製造直後、3、6、9、12ヶ月保存後にインターフェロンαの力価をラジオイムノアッセイ(RIA)法により測定した。また、溶状を製造直後、12ヶ月保存後に目視検査した。その結果を表3に示す。
【0016】
【表3】
【0017】
実施例10
インターフェロンα2b 8MU/mL、塩化ナトリウム 8.8mg/mL、トロメタモール1.22mg/mL、グリシン0.76mg/mL、pH 7.1 からなるインターフェロンα2b水溶液37.5mLにポリソルベート80 100mg/mL からなる水溶液を300μL添加する。そして、塩化ナトリウム 8.8mg/mL、トロメタモール1.22mg/mL、グリシン0.76mg/mL、pH 7.1からなる緩衝液を添加し、全量を300mLとする。1M塩酸溶液又は1M水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを7.1に調整し、除菌フィルターにてろ過をおこなう。4mL用ガラスバイアルへ1.0mLずつ充填し、ゴム栓で密封することによりインターフェロンα2b注射用製剤を得ることができる。
【0018】
【発明の効果】
表1、表2及び表3に示される如く、本発明技術により長期間安定の注射用製剤が得られるようになった。
Claims (5)
- 実質的に、等電点が4.9〜6.0である複数種のサブタイプからなる天然型インターフェロンα、ポリソルベート80、塩化ナトリウム、トロメタモール及びグリシンからなり、かつpHが6.5〜7.5に調整された安定な注射用製剤であって、製剤1mL当たり1〜20MUの天然型インターフェロンα及び製剤1mL当たり0.01〜1mgのポリソルベート80を含有することを特徴とする注射用製剤。
- 塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを用いてpHが調整されてなる、請求項1に記載の注射用製剤。
- 天然型インターフェロンαがナマルバ細胞由来である請求項1または2に記載の注射用製剤。
- トロメタモールが製剤1mL当たり1〜2mg含有されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の注射用製剤。
- グリシンが製剤1mL当たり0.5〜1mg含有されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の注射用製剤。
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