JP4524337B1 - 特殊な単糸断面を有するポリアミド系マルチフィラメント - Google Patents

特殊な単糸断面を有するポリアミド系マルチフィラメント Download PDF

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Abstract

【課題】吸水性、乾燥性、接触冷感に優れ、柔らかな風合い、膨らみ感を有するポリアミド系マルチフィラメントを提供する。
【解決手段】単糸の断面形状が2つの凸部とその間に挟まれる1つの溝部を有し、かつ単糸断面の中心に対して非回転対称な略カージオイド型断面であること、前記2つの凸部のそれぞれの非溝部側の輪郭線が延長されて突き当たって構成される断面下部が、凹部を有する湾曲した形状を持つこと、前記凸部の溝部側の輪郭線と非溝部側の輪郭線が平行でなく、しかも互いに等距離の間隔で進んで湾曲しないこと、単糸断面を囲む外接直角四角形の辺Aの長さaと辺Bの長さbの比a/bが0.3〜3.0であること、及び外接直角四角形の2つの辺Bとそれぞれ接する単糸断面の接点P1とP2を結ぶ直線Fから2つの凸部とは逆の側にある単糸断面の下部の最底点Qへ降ろした垂線Dの長さdと辺Bの長さbとの比d/bが0.3〜0.8である。
【選択図】図4

Description

本発明は、優れた吸水性、乾燥性、接触冷感、柔らかさ、及び膨らみ感を有する、特殊な単糸断面のポリアミド系マルチフィラメントに関する。
従来より、ポリアミド系マルチフィラメントは、その高い生産性を活かし、天然繊維の代替として衣料用分野に使用されてきた。また、風合いの改善や機能性の付与を目的として様々な単糸断面の提案がなされている。
夏期向け衣料に求められる代表的な機能性としては、吸水性、乾燥性、接触冷感がある。吸水性に関しては、例えば非特許文献1に高異型度のX字断面のポリエステル繊維が提案されている。高異形度のX字断面糸は、毛細管現象による吸水性が得られるが、断面二次モーメントに起因する曲げ硬い風合いで、なおかつ高異形度による非常にドライな風合いとなってしまう問題点があった。また、X字断面糸では、単糸は肌と点で接触するために接触面積が小さく、接触冷感は得られなかった。
また、非特許文献2にはY字断面のポリアミド繊維が提案されている。Y字断面糸もまた、毛細管現象による吸水性が得られるものの、単糸間の空隙が大きいために空隙部分に水を保持してしまい、乾燥性が劣るという問題点があった。また、非特許文献2にも記載されている通り、ドライタッチな風合いになるとともに、非常に強いギラツキ感のある光沢感となってしまう問題点があった。加えて、Y字断面糸もまた、X字断面と同じ理由により接触冷感が得られなかった。
また、非特許文献2、特許文献1にはキ型断面のポリアミド繊維が提案されている。キ型糸もまた、吸水性が得られるものの、シャリ感のある風合いとなってしまい、柔らかい風合いとは言えないものであった。
接触冷感を付与する手段としては、特許文献2には瓢箪型(I型)断面のポリアミド繊維が提案されている。瓢箪型は、単糸と肌が面で接触するために接触面積が大きくなり接触冷感が得られるものの、単糸の溝部と一方の単糸の凸部が重なる収束形態を取りやすくなり(単糸の過度なスタッキング)、布帛の膨らみ感に欠けると同時に、圧縮したときの柔らかさ(ふんわりとした柔らかさ)を得ることができなかった。
このように従来提案されている技術では、吸水性、乾燥性、接触冷感、柔らかさ、膨らみ感を同時に満たすものは提供できなかった。
特開平6−81207公報 特開2004−107809公報
繊維機械学会誌、Vol.62,No.2,(2008)p148−152 繊維学会誌、Vol.54,No.2,(1998)p43−47
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するために創案されたもので、吸水性、乾燥性、接触冷感に優れ、柔らかな風合い、膨らみ感を有するポリアミド系マルチフィラメントを提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記目的を達成するために単糸断面の形状について鋭意研究した結果、単糸断面の形状が略カージオイド型断面であるポリアミド系マルチフィラメントが上記特性を同時に満足できることを見出し、本発明の完成に到った。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(7)の構成を採用するものである。
(1)一成分溶融紡糸法によって紡糸されるポリアミド系マルチフィラメントにおいて、単糸の断面形状が略カージオイド型断面であることを特徴とするポリアミド系マルチフィラメント。
(2)単糸断面を囲む外接直角四角形の辺A、辺Bを以下のように規定したときに辺Aの長さaと辺Bの長さbの比a/bが0.3〜3.0であることを特徴とする(1)記載のポリアミド系マルチフィラメント。
辺A:略カージオイド型断面の溝部を挟む2つの凸部の頂点を結ぶ直線と平行な外接直角四角形の辺。
辺B:辺Aと垂直に交わる外接直角四角形の辺。
(3)外接直角四角形の2つの辺Bとそれぞれ接する単糸断面の接点P1とP2を結ぶ直線Fから2つの凸部とは逆の側にある単糸断面の下部の最底点Qへ降ろした垂線Dの長さdと辺Bの長さbとの比d/bが0.2〜0.9であることを特徴とする(2)記載のポリアミド系マルチフィラメント。
(4)a/bが0.4〜2.5であることを特徴とする(2)または(3)記載のポリアミド系マルチフィラメント。
(5)略カージオイド断面の溝部の深さcと辺Bの長さbとの比c/bが0.05〜0.30であることを特徴とする(2)〜(4)のいずれか記載のポリアミド系マルチフィラメント。
(6)単糸断面の下部が最底点Qを境にして屈曲しており、外接直角四角形の辺Bと接する単糸断面の接点Pと単糸断面の下部の最底点Qとを結ぶ直線Lの長さL1と、P−Q間の単糸断面の周長L2との比L2/L1が1.0〜1.3であることを特徴とする(3)〜(5)のいずれか記載のポリアミド系マルチフィラメント。
(7)(1)〜(6)のいずれか記載のポリアミド系マルチフィラメントを少なくとも一部に用いていることを特徴とする織編物。
本発明のポリアミド系マルチフィラメントは、織編物に使用した場合、略カージオイド型断面が有する溝部により毛細管現象が生じ、高い吸水拡散性が得られると同時に乾燥性も得られる。また、布帛を手でなでたときにカージオイド型断面の溝部を挟む2つの凸部があたかも極細の丸断面単糸が並んでいるような効果を生み出し、柔らかい風合いが得られる。さらに、カージオイド型断面の2つの凸部とその間の溝部の部分は一つの面として肌と接触することから接触冷感が得られる。なおかつ、略カージオイド型は、溝部と対面する部分が膨らんだ曲面を有していることから、単糸の過度なスタッキングを抑制し膨らみ感が生じ、布帛を圧縮したときの柔らかさ(ふんわりとした柔らかさ)も得られる。更に、略カージオイド型断面の下部に設けられる屈曲部によって従来の三角断面フィラメントとは異なる上品な光沢感が得られる。
本発明の略カージオイド型断面の一例である実施例11の走査型電子顕微鏡写真を示す。 本発明の略カージオイド型断面の一例を示す。 本発明の略カージオイド型断面の別の一例を示す。 本発明の略カージオイド型断面の別の一例を示す。 本発明の略カージオイド型断面の単糸の収束状態を示す。 図3に示される本発明の略カージオイド型断面の底部の拡大図を示す。 図4に示される本発明の略カージオイド型断面の底部の拡大図を示す。 本発明の略カージオイド型断面の別の一例を示す。 本発明の略カージオイド型断面の別の一例を示す。 本発明の範囲外である瓢箪型断面の一例を示す。 本発明の範囲外である瓢箪型断面の単糸の収束状態を示す。 本発明の範囲外であるV字型断面の一例を示す。 本発明の範囲外であるU字型断面の一例を示す。 本発明の範囲外であるV型断面の単糸の収束状態を示す。 本発明の範囲外であるY字型断面の一例を示す。 本発明の範囲外であるY型断面の単糸の収束状態を示す。 本発明の略カージオイド型断面を得るための吐出孔形状の一例を示す。 本発明の略カージオイド型断面を得るための吐出孔形状の別の一例を示す。 本発明の範囲外である瓢箪型断面を得るための吐出孔形状の一例を示す。 本発明の範囲外であるY字型断面及び三角断面を得るための吐出孔形状の一例を示す。 本発明の範囲外であるV字型断面を得るための吐出孔形状の一例を示す。
以下、本発明のポリアミド系マルチフィラメントを、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図はあくまでも本発明を説明するためのものであって、本発明はこれによって限定されるものではない。
本発明のマルチフィラメントはポリアミド系マルチフィラメントである。これは、ポリアミド系ポリマーを溶融紡糸したマルチフィラメントが機械的特性、風合いの柔らかさ、発色性において優れた性能を有していることによる。ここでポリアミド系ポリマーとは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結されたポリマーであり、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6,10)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン4,6)などのポリアミド系ポリマー、これらの共重合型もしくはポリマーアロイ型ポリアミド系ポリマー、これらポリアミドのコポリマー及びメチルアミンと線状脂肪族ジカルボン酸との縮合重合型ポリアミド系ポリマーが挙げられる。
ポリアミド系ポリマーの中でも、主としてポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)が、工業生産のしやすさの点から好ましい。ここで主としてとは、ポリカプロラクタムではそれを構成するε−カプロラクタム単位として、ポリヘキサメチレンアジパミドではそれを構成するヘキサメチレンアジパミド単位として、80モル%以上、好ましくは90モル%以上であることを言う。特に、主としてポリカプロラクタム(ナイロン6)が比較的安価に工業生産できる点から好ましく使用される。
ポリアミド系ポリマーの場合、その重合度は必要とされる破断強度や破断伸度、初期引張抵抗度等を考慮して適宜選択できるが、硫酸相対粘度で2.0〜4.5の範囲が好ましい。硫酸相対粘度が2.0未満であると、破断強度不足による製品引裂強力、破裂強力の低下、破断伸度不足による加工操業性の悪化、製品耐久性の悪化という問題が生じやすくなり好ましくない。また、硫酸相対粘度が4.5を超えると、高粘度対応の重合設備や紡糸設備が必要となるだけでなく、高粘度化することで生産性が著しく低下しコストが高くなるとともに、アミノ末端が少なくなり発色性が低下するため好ましくない。より高い発色性が得られる点から、より好ましくは硫酸相対粘度は2.0〜4.0であり、単糸断面形状(輪郭)がより明確になる点、糸強度が高くなる点から、さらに好ましくは硫酸相対粘度は2.4〜4.0である。また、必要に応じて、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、末端基調整剤、染色性向上剤が添加されていても良い。また、紫外線吸収や接触冷感、抗菌性の付与のため、酸化チタンや白色顔料などの無機粒子や有機系機能剤が添加されていても良い。また、吸湿性の向上のため、多孔質シリカ、ポリビニルピロリドン、ポリエーテルアミド、エチレンオキサイドが添加されていても良い。
本発明のポリアミド系マルチフィラメントは一成分溶融紡糸法で紡糸される。一成分溶融紡糸法とは、いわゆる海島型複合紡糸繊維のような異なる2種のポリマーを複合紡糸し、後工程で他成分を溶出する方法(二成分溶融紡糸法)ではなく、一成分のポリマーを溶融紡糸し後工程での溶出なしに特殊断面を得る紡糸方法である。二成分溶融紡糸法は上記の通り他成分を溶出する工程が必要となり、それだけでコストが高くなる問題があり好ましくない。
本発明のポリアミド系マルチフィラメントは、単糸の断面形状が略カージオイド型断面であることを特徴とする。ここで「カージオイド」とは、極座標の方程式によって表される心臓形の曲線を言う。本発明において略カージオイド型断面とは、カージオイド曲線に類似する断面を含む意味である。
略カージオイド型断面について図2を用いて更に詳細に説明する。図2は、溝部を上に描いた略カージオイド型断面の一種である。断面上部面には、曲線で構成され実質的に尖点を有していない凸部が2つ存在する(凸部R1及び凸部R2)。凸部R1の右側と凸部R2の左側はつながり溝部Gを形成する。溝部Gの最底点は尖点状または下に凹んだ滑らかな曲線状である。凸部R1の左側と凸部R2の右側は曲線を描きながら、各々断面横方向最大幅の点P1、P2を経由して断面下部へ伸び、下に張り出した曲線を形成する。このようにカージオイド型断面は、凸部の右側の輪郭線と左側の輪郭線が非平行であり、P1、P2を結ぶ直線Fに対して非線対称であり、単糸断面の中心に対して非回転対称である断面形状である。
単糸断面が略カージオイド型断面である場合、上記のように単糸断面形状において2つの凸部とその間に挟まれる1つの溝部が存在する。2つの凸部は、あたかも細い丸断面単糸が2本並んだような効果を示し、布帛を手でなでたときに柔らかい風合いが得られる。また、凸部に挟まれた溝部は、導水溝の役割を果たし吸水性が得られると同時に、水分が拡散することで乾燥性も得られる。2つの凸部とその間の溝部の部分は、1つの面として肌と接触することから接触冷感が得られる。
単糸断面が略カージオイド型断面である場合、上記のように断面下部が下に張り出した形状を有する。断面下部が下に張り出すことにより、単糸の収束状態は図5に示すように凸部と溝部が重なり合う状態の他に、凸部ないし溝部と張り出した単糸断面下部が重なり合う状態も同時に生じるため、単糸同士の過度のスタッキングが抑制され、膨らみ感が生じ、布帛を圧縮したときの柔らかさ(ふんわりとした柔らかさ)も得られる。
断面形状が略カージオイド型断面でない例としては、例えば図10のような断面上部面に2つの凸部とその間に挟まれた溝部が存在するが断面下部が下に張り出してなく、単糸断面の上部と下部が線対称である瓢箪型断面が挙げられる。この瓢箪型断面のマルチフィラメントの単糸の収束状態は、断面下部が下に張り出しておらず、単糸断面の上部と下部が線対称であるが故に、図11のようにある単糸の溝部と他の単糸の凸部が重なる収束形態を取りやすくなり、布帛の膨らみ感が得ることができず、圧縮したときの柔らかさ(ふんわりとした柔らかさ)を得ることができない。
断面形状が略カージオイド型断面でない例としては、例えば図12、13のような断面上部面に2つの凸部とその間に挟まれた溝部が存在するが凸部の右側の輪郭線と左側の輪郭線がほぼ平行になっている、単糸断面中央でV字もしくはU字に折れ曲がった偏平断面が挙げられる。このV字型もしくはU字型断面のマルチフィラメントの単糸の収束状態は、凸部の右側の輪郭線と左側の輪郭線がほぼ平行になっているが故に、図14のような単糸同士が深く食い込む形態を取りやすくなる。このため、フィラメントが巻かれたパッケージにおいて、最上層のフィラメントの単糸の一部が直ぐ下の層のフィラメントの単糸の一部と食い込む現象が発生し、解舒性が悪くなる。
断面形状が略カージオイド型断面でない例としては、例えば図15のような断面上部面に2つの凸部とその間に挟まれた溝部が存在するが単糸断面の中心に対して回転対称の断面形状であるY字型断面が挙げられる。このY字断面のマルチフィラメントの単糸の収束状態は、回転対称の断面形状であるが故に、図16のようになり単糸間の空隙が大きくなる。吸水時にはこの空隙部分に水を保持するために乾燥性が悪くなる。また、布帛にした時の風合いがドライタッチで硬くなる。
本発明の略カージオイド型の単糸断面を有するポリアミド系マルチフィラメントは、代数幾何学で数式として定義されるカージオイド曲線を厳密に有している必要はなく、溝部を上にした時に左右対称の形状でなくてもよい。すなわち、溝部を上にした時に右側凸部と左側凸部の高さが異なっていてもよく、溝部の最底点もしくは断面の下部の最底点Qが断面の中心軸上から右ないし左にずれていてもよい。また、上記の断面形状であれば溶融紡糸時に発生する若干の断面形状のバラツキは許容される。また、乾湿式紡糸法によって得られる繊維の中には、本発明の略カージオイド型断面に類似した断面が偶発的に得られることもあるが、これは糸条の各単糸の断面形状を紡糸口金で厳密かつ均一に制御して得たものではないことから、本発明のものとは区別される。
本発明の単糸断面は、単糸断面を囲む外接直角四角形の辺Aの長さaと辺Bの長さbの比a/bが0.3〜3.0であることが好ましい。ここで、辺Aとは、略カージオイド型断面の溝部を挟む2つの凸部の頂点を結ぶ直線と平行な外接直角四角形の辺を言い、辺Bとは、辺Aと垂直に交わる外接直角四角形の辺のことを言う。比a/bが上記範囲にない場合、各単糸が断面の長軸を横にして重なる現象が生じ、膨らみ感がやや少なくなるため好ましくない。より好ましくは、比a/bは0.4〜2.5であり、さらに好ましくは、比a/bは0.5〜2.2である。
本発明の単糸断面は、垂線Dの長さdと辺Bの長さbの比d/bが0.2〜0.9であることが好ましい。ここで、垂線Dとは、2つの辺Bとそれぞれ接する単糸断面の接点P1とP2を結ぶ直線Fから2つの凸部とは逆の側にある単糸断面の下部の最底点Qへ降ろした垂線である。比d/bが0.2未満であると、各単糸同士が過度に重なる現象を抑制する効果が小さくなり、膨らみ感がやや少なくなるため好ましくない。また、比d/bが0.9より大きくなると、凸部の曲率が小さくなり、布帛を手でなでたときの柔らかさが少なくなるため好ましくない。より好ましくは、比d/bは0.3〜0.8であり、さらに好ましくは、比d/bは0.4〜0.75である。
本発明の単糸断面は、略カージオイド断面の溝部の深さcと辺Bの長さbとの比c/bが0.05〜0.30であることが好ましい。比c/bが0.05未満であると、溝の導水溝としての効果が低くなるため好ましくない。比c/bが0.30より大きくなると、紡糸工程で付与する繊維油剤が溝部分に選択的に付着し、単糸側面全体への均一付着が困難になるため好ましくない。より好ましくは、比c/bは0.06〜0.25であり、さらに好ましくは、比c/bは0.07〜0.20である。
本発明の単糸断面は、図3、4のように単糸断面の下部が最底点Qを境にして屈曲していてもよい。単糸断面の下部が屈曲していることで、外接直角四角形の辺Bとの接点Pと最底点Qとの間で光の正反射が生じ光沢感が得られる。ここで特筆すべきは、単糸断面の上部の凸部が並ぶP1−P2間では光が拡散反射し、三角断面糸にありがちな人工的なギラギラした強い光沢感とは異なり、きめ細やかでやわらかい絹調の光沢感が得られることである。ここで「屈曲している」とは、最底点Qが尖点であるか、もしくは最底点Q近辺の曲率半径が最底点Qの左側ないし右側の曲線の曲率半径よりも小さいことを意味する。また、下部を構成する最底点Qの左側ないし右側の曲線は、図3のように単糸断面外側に湾曲した曲線、図8のように単糸断面内側に湾曲した曲線、図4のように単糸断面外側に湾曲した曲線と単糸断面内側に湾曲した曲線が組み合わさった変曲点を1つ有する曲線であってもよく、図9のように最底点より左側の曲線の形状と最底点より右側の曲線の形状が異なっていてもよい。
光沢感を得ようとする場合、外接直角四角形の辺Bと接する単糸断面の接点Pと単糸断面の下部の最底点Qとを結ぶ直線Lの長さL1と、P−Q間の単糸断面の周長L2との比L2/L1が1.0〜1.3であることが好ましい。比L2/L1が1.3より大きいと、P−Q間の単糸断面形状が曲率を持ちすぎるため、光沢感が低下し好ましくない。なお、幾何学的にL2がL1より小さくなることはないため、比L2/L1の下限値は1.0である。より好ましくは、比L2/L1は1.0〜1.2である。
本発明のポリアミド系マルチフィラメントの単糸繊度は0.5〜5.5dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.5dtex未満では、一成分溶融紡糸方法における紡糸が困難となり好ましくない。また、単糸繊度が5.5dtexより大きいと、風合いが硬くなり過ぎるため好ましくない。糸条総繊度は、使用される用途に合わせて適宜選択できるが、5.0〜300dtexが好ましく、単糸本数は2本以上が好ましい。
本発明のポリアミド系マルチフィラメントの破断強度及び破断伸度は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されないが、後工程通過性、布帛の力学的特性の観点から、それぞれ3.8〜8.0cN/dtex、25〜60%であることが好ましい。
上記のような本発明のポリアミド系マルチフィラメントは、例えば下記のようにして製造することができるが、これらは例示にすぎず限定されるものではない。
溶融紡糸法において用いる口金の一例としては、図2のような略カージオイド型断面の場合は、例えば図17のようにその上部に円弧が2つ並び下部に略台形型を有する吐出孔を配した口金を用いることができる。この場合、略カージオイド断面の横長(図2のa)および縦長(図2のb)は、図17の円弧が2つ並んだ辺の大きさa’、円弧が2つ並んだ辺と垂直に交わる辺の略台形の下辺から円弧の頂点までの距離b’によって適切に設計される。また、略カージオイド型断面の溝の深さ(図2のc)は、図17の円弧の高さc’によって適切に設計される。さらに、略カージオイド型断面の底部の膨らみの大きさ(図2のd)は、図17の略台形の上辺と下辺の距離d’によって適切に設計される。溶融紡糸法の場合、ポリマーが口金から吐出された直後に直線状であった断面の輪郭は、ポリマーの表面張力により曲線状の輪郭へと緩和される。従って、図17のように吐出孔の一部に略台形の部分を設けることによって、略カージオイド断面が有する下に張り出した下部を形成することが可能となる。
溶融紡糸法において用いる口金の別の一例としては、図3、図4のような単糸断面の下部の最底点Qを境にして単糸断面の下部が屈曲した略カージオイド型断面の場合は、例えば図18のようなその上部に円弧が2つ並び下部に略漏斗型を有する吐出孔を配した口金を用いることができる。この場合、略カージオイド型断面のはりだした屈曲部の形状(図3のP−Q間の周形状)は、図18の距離d’、図18の距離e’によって適切に設計される。また、上記と同様の理由により、図18のように吐出孔の一部に略漏斗型の部分を設けることによって、下部が屈曲した略カージオイド断面を形成することが可能となる。
溶融紡糸法での製糸の一例としては、上記口金からポリアミド系ポリマーを吐出させ、冷却、油剤を付与した後、第一ゴデットローラーにて1500〜4000m/min程度で引き取り、次の第二ゴデットローラーにて1.0〜3.0倍程度の延伸を行った後で、3000m/min以上で巻き取ることにより、カージオイド型断面のマルチフィラメントを得ることができる。この際、第一ゴデットローラーと第二ゴデットローラーとの間の延伸倍率や、巻取り速度(ワインダー速度)を適切に設計することにより、狙いとするマルチフィラメントの強度、伸度を得ることが可能となる。また、第二ゴデットローラーとワインダーの間に第三ゴデットローラーを設け、第一ゴデットローラーと第二ゴデットローラーとの間にて第一段目の延伸を行い、次いで第二ゴデットローラーと第三ゴデットローラーとの間にて第二段目の延伸を行うと行った二段延伸方式を採用してもよい。第二ゴデットローラー(もしくは第三ゴデットローラーを設ける場合は第三ゴデットローラー)を加熱ローラーとして熱処理を施すことでマルチフィラメントの熱収縮を設計することが好ましい。各ゴデットローラーはネルソンローラー、駆動ローラーに従動型のセパレートローラーがついたもの、片掛けローラーのいずれであってもよい。
本発明のポリアミド系マルチフィラメントは、フラット糸のままで使用することはもちろん、公知の糸加工技術を用いてさらに膨らみ感を付与してもよい。公知の糸加工技術としては、ピン仮撚、フリクション仮撚、ベルトニップ仮撚、ニットデニット、押し込み加工などの捲縮付与加工、弾性繊維と複合するカバリング加工(一重被覆および二重被覆)、リング撚糸やダブルツイスターにより弾性糸と複合する撚糸加工、仮撚捲縮付与と同時に弾性糸と複合する仮撚同時複合加工、インターレース混繊やタスラン混繊、弾性糸と混繊するエアカバリング加工などのエア交絡加工などがある。また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば他の天然繊維、化学繊維、合成繊維と組み合わせても構わない。
本発明のポリアミド系マルチフィラメントは、布帛に好適に採用され、布帛に高い吸水拡散性を与えると同時、従来の吸水速乾素材では実現が困難であった手でなでたときの柔らかい風合いと圧縮したときの柔らかさも得られる。布帛の形態としては、特に制限はないが、経編地、緯編地、丸編地や織物が挙げられる。本発明のポリアミド系マルチフィラメントを用いた布帛は、衣料用途、生活資材用途といった従来公知の用途に使用することができる。例えば衣料用途としては、ストッキング、タイツ、レギンス、ソックスといった靴下用途、ショーツ、ファンデーション、ランジェリー、肌着といった下着用途、Tシャツ、ワイシャツ、ブラウス、ポロシャツ、キャミソールなどのシャツ用途、トレーニングウェア、スキーウェア、スノボードウェア、登山服、水着、ランニングウェア、レオタード、スパッツといったスポーツ衣類用途、ジャンパー、ブルゾン、ダウンジャケット、コート、レインウェア、ウィンドブレーカー、ボトムパンツ、ジャケット、スーツといったアウター用途、帽子、手袋、スカーフ、裏地に好適に採用できる。また、生活資材用途としては、日傘、ビーチパラソル、雨傘など傘用途、布団カバー、枕カバーといった寝装用途、椅子張り材、壁張り材、カーテン、カーシートといったインテリア用途、カバン用途、靴用途に好適に採用できる。
本発明のポリアミド系マルチフィラメントを布帛に用いる際、本発明のポリアミド系マルチフィラメント100%で布帛を構成してもよいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、目的の風合い、外観に応じて他の天然繊維、化学繊維、合成繊維と混用してもよい。例えば織物であれば、本発明のポリアミド系マルチフィラメントを経糸および/または緯糸に用いてもよいし、本発明のポリアミド系マルチフィラメント以外の繊維と1本〜3本交互好ましくは1本〜2本交互に用いてもよい。また、緯編であれば、本発明のポリアミド系マルチフィラメントのみ用いてもよいし、本発明のポリアミド系マルチフィラメント以外の繊維と1本〜3本交互により好ましくは1本〜2本交互に交編してもよい。あるいは、本発明のポリアミド系マルチフィラメントと他の繊維とのプレーティング編であってもよい。また、経編であれば、本発明のポリアミド系マルチフィラメントのみで編成されていても良く、他の天然繊維、化学繊維、合成繊維と交編されていても良い。交編組織としては特に限定はなく、ニット組織、挿入組織であってもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例で使用した特性値等の評価は、下記の方法により行なった。本発明の評価方法もこれに準じて行なわれる。
(1)単糸断面形状
糸条の任意の部位からサンプリングした試験片の切断面が観察できるように装着セットして、走査型電子顕微鏡にて、繊維軸を横切る方向にほぼ直角に切断されている任意の切断面10箇所について倍率1000倍にて写真撮影する。それによって得られた各撮影箇所について、写真を4倍に拡大して全単糸本数のうち50%以上の本数を任意に選び、下記手法にて断面の寸法を測定する。まず2つの凸部の頂点を結ぶ直線と平行な辺Aと、辺Aと垂直に交わる辺Bで構成される外接直角四角形を描き、辺Aの長さaと辺Bの長さbの比a/bを算出した。また、2つの凸部に挟まれる溝部の深さcを測定し、辺Bの長さbとの比c/bを算出した。また、外接直角四角形の辺Bと単糸断面との接点P1、P2を結ぶ直線Fから単糸断面の下部の最底部Qへ垂線を降ろし、その垂線Dの長さdを測定し、比d/bを算出した。また、接点P1と断面の最底部Qとを結ぶ直線Lの長さL1でP1−Q間の単糸断面の周長L2を除した比を算出し、同様に該接点P2と断面の最底部Qとを結ぶ直線Lの長さL1でP2−Q間の単糸断面の周長L2を除した比を算出し、その2つの比の平均値をL2/L1とした。このようにして得られた各a/bの全平均値をa/bとし、各c/bの全平均値をc/bとし、各d/bの全平均値をd/bとし、各L2/L1の全平均値をL2/L1とした。
(2)糸条総繊度
JIS−L−1090−1992に準じて測定を行った。
(3)単糸繊度
JIS−L−1090−1992に準じて測定した糸条総繊度を、単糸数で除して求めた。
(4)相対粘度
96.5±0.1重量%試薬特級濃硫酸36.8mg中に重合体濃度200mgを溶解させてサンプル溶液を調整し、20℃±0.1℃の温度で水落下秒数6〜7秒の改良ウベローゼ粘度計を用い、溶液相対粘度を測定する。測定に際し、同一の粘度計を用い、サンプル溶液を調整したときと同じ硫酸36.8mgの落下時間T0(秒)と、サンプル溶液の落下時間T1(秒)の比より、相対粘度RVを下記の式を用いて算出する。
RV=T1/T0
(5)破断強度、伸度
インストロンジャパン(株)4301型を用いて測定する。初荷重として糸条繊度(dtex)に対し1/33mNを加え、糸長20cm、引張速度20cm/ minの条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力を糸条総繊度(dtex)で除した値を破断強度、破断時の伸びを破断伸度とした。なお、各値は1試料につき3回の測定値の平均値を使用した。
(6)吸水性
JIS−L1907記載の方法(バイレック法)に準じて、パンティーストッキングのガーター部下部5cmからウェル方向に20cm、コース方向に2.5cmの大きさにサンプル片を切り出して測定に供した。各々測定回数5回の平均値を以って吸水性(mm)とした。
(7)乾燥性
乾燥性を評価する指標として拡散性残留水分率を用いた。パンティーストッキングのガーター部下部5cmから生地をウェル方向に10cm、コース方向に10cmの大きさにサンプル片を切り出して、標準状態(20℃×65%RH)で調整した生地サンプルの質量を測定した(W0)。次いで、無張力下で広げ、生地サンプル裏面中央に0.6mLの水を滴下した後の生地サンプルの質量を測定した(W1)。その後、生地サンプルを吊り下げた状態で、30分経過した後の生地サンプルの質量を測定した(W2)。これらの測定値から、生地の拡散性残留水分率を下記の式より算出した。
拡散性残留水分率(%)=(W2−W0)×100/(W1−W0)
(8)接触冷感(Qmax)
パンティーストッキングのガーター部下部5cmから生地をウェル方向に15cm、コース方向に15cmの大きさにサンプル片を切り出して、カトーテック社製精密迅速熱物質測定装置サーモラボIIを使用し、20℃×65%RHの恒温湿度条件で測定を実施した。上記サーモラボの試料初期設定温度を20℃、熱板温度を40℃として、生地裏面を熱板に接触させて測定した。なお、実験回数5回の平均値をもって、その測定値Qmax(W/cm)とした。
(9)パンティーストッキングの風合い評価:生地表面をなでた場合の柔らかさの評価
パンティーストッキングの風合い評価における判定を、熟練技術者5名による官能評価により以下の基準で行った。すなわち、パンティーストッキングの官能評価において、人差し指、中指と親指の間にパンティーストッキングの大腿部付近をはさみ、人差し指、中指と親指でこするように生地をなでた時、パウダータッチの柔らかさを十分感じられるものを「非常に優れる」とし、ガサツギ感、固さの感じられるものを「劣る」として、5:非常に優れる、4:優れる、3:どちらでもない、2:やや劣る、1:劣るの5段階の基準で風合い評価を行った。各技術者の評価した点数の平均値をとり、平均値が4〜5を◎、3〜4を○、2〜3を△、1〜2を×とした。
(10)パンティーストッキングの風合い評価:生地を圧縮した場合の柔らかさの評価
パンティーストッキングの風合い評価における判定を、熟練技術者5名による官能評価により以下の基準で行った。すなわち、パンティーストッキングの官能評価において、人差し指、中指と親指の間にパンティーストッキングの大腿部付近をはさみ、人差し指、中指と親指で生地を圧縮した時、膨らみ感がありふんわりとした柔らかさを十分感じられるものを「非常に優れる」とし、膨らみ感が無く固さやヘタリの感じられるものを「劣る」として、5:非常に優れる、4:優れる、3:どちらでもない、2:やや劣る、1:劣るの5段階の基準で風合い評価を行った。各技術者の評価した点数の平均値をとり、平均値が4〜5を◎、3〜4を○、2〜3を△、1〜2を×とした。
(11)繊維製品の光沢感評価
パンティーストッキングを型板に入れて蛍光灯の光の下で、熟練技術者5名による目視により以下の基準で行った。すわなち、きめ細やかでやわらかく自然な光沢が感じ取れるもの「非常に優れる」とし、光沢感はあるがギラギラして人工的な光沢を感じるものを「やや劣る」、光沢感が感じ取れないものを「劣る」として、5:非常に優れる、4:優れる、3:どちらでもない、2:やや劣る、1:劣るの5段階の基準で風合い評価を行った。各技術者の評価した点数の平均値をとり、平均値が4〜5を◎、3〜4を○、2〜3を△、1〜2を×とした。
実施例1
a’/b’=1.13、d’/b’=0.80、c’/b’=0.26である、図17に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、相対粘度ηr=2.4のナイロン6ポリマーを紡糸温度260℃で溶融紡糸して、冷風で冷却固化し油剤を付与した後、第1ゴデットローラーにて2300m/minで引き取り、引き続いて第2ゴデットローラー間で1.5倍の延伸を行なうと共に第二ゴデットローラーで130℃の熱セットを施し、3280m/minにてワインダーで巻取ることで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、略カージオイド型断面であり、a/b=1.12、d/b=0.70、c/b=0.14であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.4cN/dtex、45%であった。
実施例2
b’とc’の長さが実施例1と同じでa’の長さのみを変えて、a’/b’=0.55とした、図17に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、実施例1と同じ条件にて紡糸することで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、略カージオイド型断面であり、a/b=0.50、d/b=0.70、c/b=0.14であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.2cN/dtex、42%であった。
実施例3
b’とc’の長さが実施例1と同じでa’の長さのみを変えて、a’/b’=2.15とした、図17に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、実施例1と同じ条件にて紡糸することで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、略カージオイド型断面であり、a/b=2.10、d/b=0.70、c/b=0.14であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.0cN/dtex、42%であった。
実施例4
b’とc’の長さが実施例1と同じでa’の長さのみを変えて、a’/b’=1.95とした、図17に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、実施例1と同じ条件にて紡糸することで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、略カージオイド型断面であり、a/b=1.90、d/b=0.70、c/b=0.14であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.2cN/dtex、43%であった。
実施例5
b’とc’の長さが実施例1と同じでa’の長さのみを変えて、a’/b’=0.65とした、図17に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、実施例1と同じ条件にて紡糸することで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、略カージオイド型断面であり、a/b=0.60、d/b=0.70、c/b=0.12であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.4cN/dtex、45%であった。
実施例6
a’、c’の長さが実施例1と同じでd’の長さのみを変えて、d’/b’=0.47とした、図17に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、実施例1と同じ条件にて紡糸することで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、略カージオイド型断面であり、a/b=2.24、d/b=0.40、c/b=0.28であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.2cN/dtex、43%であった。
実施例7
a’、c’の長さが実施例1と同じでd’の長さのみを変えて、d’/b’=0.80とした、図17に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、実施例1と同じ条件にて紡糸することで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、略カージオイド型断面であり、a/b=0.95、d/b=0.75、c/b=0.12であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.4cN/dtex、45%であった。
実施例8
a’、b’、d’の長さが実施例1と同じでc’の長さのみを変えて、c’/b’=0.16とした、図17に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、実施例1と同じ条件にて紡糸することで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、略カージオイド型断面であり、a/b=1.12、d/b=0.70、c/b=0.09であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.5cN/dtex、45%であった。
実施例9
a’、b’、d’の長さが実施例1と同じでc’の長さのみを変えて、c’/b’=0.33とした、図17に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、実施例1と同じ条件にて紡糸することで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、略カージオイド型断面であり、a/b=1.12、d/b=0.70、c/b=0.18であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.2cN/dtex、42%であった。
実施例10
a’、b’、c’、d’、e’の長さが実施例1と同じである、図17に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、相対粘度ηr=2.5のナイロン66ポリマーを紡糸温度290℃で溶融紡糸して、冷風で冷却固化し油剤を付与した後、第1ゴデットローラーにて2000m/minで引き取り、引き続いて第2ゴデットローラー間で2.0倍の延伸を行うと共に第二ゴデットローラーで130℃の熱セットを施し、3900m/minにてワインダーで巻取ることで、13dtex、5フィラメントのナイロン66マルチフィラメントを得た。このナイロン66フィラメントの単糸断面を観察したところ、略カージオイド型断面であり、a/b=1.12、d/b=0.70、c/b=0.15であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.9cN/dtex、48%であった。
比較例1
丸型の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用する以外は実施例1と同じ方法により13dtex、5フィラメントのナイロン6フィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、丸型断面であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.6cN/dtex、45%であった。
比較例2
図19に示す形状を有する吐出孔を5個有する紡糸口金を使用する以外は実施例1と同じ方法により13dtex、5フィラメントのナイロン6フィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、図10に示されるような瓢箪型断面であった。この時、図10における長軸x1と短軸x2の比x1/x2は2.1で、溝の深さx3と短軸x2との比x3/x2は0.12であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、4.0cN/dtex、42%であった。
比較例3
外接円の直径r1と内接円r2の直径r2の比r1/r2が5.0である、図20に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用する以外は実施例1と同じ方法により13dtex、5フィラメントのナイロン6フィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、図15に示されるようなY型断面であった。この時、図15における単糸断面の外接円の直径r3と内接円の直径r4の比r3/r4は2.5であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、3.9cN/dtex、40%であった。
比較例4
図21に示す形状を有する吐出孔を5個有する紡糸口金を使用する以外は実施例1と同じ方法により13dtex、5フィラメントのナイロン6フィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、図12に示されるようなV字型断面であった。この時、図12における横長v1と縦長v2との比v1/v2は1.4、溝部の深さv3と縦長v2との比v3/v2は0.4であった。また、マルチフィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、3.5cN/dtex、38%であった。
得られた実施例1〜9及び比較例1〜4のナイロン6マルチフィラメントおよび実施例10で得られたナイロン66マルチフィラメントを各々被覆用糸に用い、繊度17dtexのポリウレタン弾性糸を芯糸に用いてカバリング加工を行った。カバリング加工の際の芯糸ドラフトを2.8、撚数1500T/mに設定して、ナイロン6マルチフィラメントまたはナイロン66マルチフィラメントをポリウレタンにS撚(若しくはZ撚)に一重被覆することで、S撚(若しくはZ撚)のシングルカバード糸(SCY)を製造した。
得られたSCYを用いロナティー社製の4口編機(釜口径4インチ、針本数360本)で、編機の給糸口にS撚SCY、Z撚SCYを交互に供給し、レッグ部が得られたSCYのみで編成されたパンティーストッキングの生機を作成し、通常の方法にてプリセット、裁断、縫製、肌色に類似したベージュ色に染色した後、七福化学製柔軟剤フクゾールW20を6%owfの濃度にて、温度40℃で20分間浸漬処理した。その後、ファイナルセットを施し、SCYゾッキパンティーストッキングを得た。
上記実施例1〜10および比較例1〜4のマルチフィラメントを使用して得られたパンティーストッキングの評価結果を表1に示す。
実施例1〜10のパンティーストッキングは、吸水性、乾燥性、接触冷感、柔らかさ(生地表面をなでた場合および生地を圧縮した場合)の全ての点で満足している。しかし、比較例1の丸型フィラメントを使用したものは、接触冷感が、冷感素材としての一般的な指標である値0.2(W/m)よりも低い数値を示し、また、風合いにおいても、生地表面をなでた場合と生地を圧縮した場合で劣っていた。
また、比較例2の瓢箪型フィラメントを使用したものは、単糸の溝部と別の単糸の凸部が重なる収束形態となる、単糸の過度なスタッキングが発生したため、布帛の膨らみ感に欠け、圧縮したときの柔らかさを全く感じることができなかった。
また、比較例3のY字型フィラメントを使用したものは、単糸間の空隙が大きいため、空隙部分に水が保持され乾燥性に劣っていた。また、その断面形状から点接触となり接触面積が小さくなったがために接触冷感も劣っていた。生地表面をなでた場合の風合いにおいては、高異形度であるために非常にドライな風合いとなり柔らかさを全く感じることができなかった。また、異形度が高いことにより、フィラメントの破断強度、伸度ともに低い値となった。
また、比較例4のV字型フィラメントを使用したものは、溝部が深いことによりフィラメントの破断強度、伸度ともに最も低い値となった。また、パンティーストッキングの作成の際には、SCYが巻かれたパッケージにおいて、最上層のフィラメントの単糸の一部が直ぐ下の層のフィラメントの単糸の一部に食い込む現象が発生し、パンティーストッキングの編み立ての際に解舒不良による糸切れが多発し、パンティーストッキングの作成が不可能であった。
実施例11
a’/b’=1.13、d’/b’=0.80、c’/b’=0.26、e’/d’=0.50である、図18に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、相対粘度ηr=3.5のナイロン6ポリマーを紡糸温度280℃で溶融紡糸して、冷風で冷却固化し油剤を付与した後、第1ゴデットローラーで2300m/minにて引き取り、引き続いて第2ゴデットローラー間で1.6倍の延伸を行うと共に第二ゴデットローラーで130℃の熱セットを施し、ワインダーで3550m/minにて巻取ることで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、図3のような単糸断面の下部の最底点Qを境にして単糸断面の底部が屈曲している略カージオイド型断面であり、a/b=1.12、d/b=0.70、c/b=0.14、L2/L1=1.06であった。また、フィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、5.2cN/dtex、40%であった。なお、実施例11で得られたフィラメントの走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
実施例12
a’、b’、c’、d’の長さが実施例11と同じでe’の長さのみを変えて、e’/d’=0.40である、図18に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用し、実施例11と同じ条件にて紡糸することで、13dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、図4のような単糸断面の下部の最底点Qを境にして単糸断面の底部が屈曲している略カージオイド型断面であり、a/b=1.12、d/b=0.70、c/b=0.14、L2/L1=1.07であった。また、フィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、5.2cN/dtex、40%であった。
実施例13
a’、b’、c’、d’、e’の長さが実施例11と同じである、図18に示す形状の吐出孔を7個有する紡糸口金を使用し、実施例11と同じ条件にて紡糸することで、13dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、図3のような単糸断面の下部の最底点Qを境にして単糸断面の底部が屈曲している略カージオイド型断面であり、a/b=1.12、d/b=0.70、c/b=0.14、L2/L1=1.05であった。また、フィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、5.1cN/dtex、40%であった。
比較例5
丸型の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用する以外は実施例11と同じ方法により13dtex、5フィラメントのナイロン6フィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、丸型断面であった。また、フィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、5.6cN/dtex、40%であった。
比較例6
外接円の直径r1と内接円r2の直径r2の比r1/r2が3.0である、図20に示す形状の吐出孔を5個有する紡糸口金を使用する以外は実施例1と同じ方法により13dtex、5フィラメントのナイロン6フィラメントを得た。このナイロン6フィラメントの単糸断面を観察したところ、三角断面であった。また、フィラメントの破断強度および破断伸度はそれぞれ、5.4cN/dtex、40%であった。
得られた実施例11〜13及び比較例5,6のナイロン6マルチフィラメントを前記と同じ方法にて、カバリング加工を行い、S撚(若しくはZ撚)のシングルカバード糸(SCY)を製造した。その後、得られたSCYを前記と同じ方法にて、編み立て、プリセット、裁断、縫製、染色、柔軟処理、ファイナルセットを行い、SCYゾッキパンティーストッキングを得た。
上記実施例11〜13および比較例5,6のマルチフィラメントを使用して得られたパンティーストッキングの評価結果を表2に示す。
実施例11〜13のパンティーストッキングは、吸水性、乾燥性、接触冷感、柔らかさ(生地表面をなでた場合および生地を圧縮した場合)の全ての点で満足している。また、単糸断面の下部の最底点Qを境にして単糸断面の下部が屈曲していることからP1−Q間、P2−Q間が正反射面となり、更に上部の凸部が並ぶP1−P2間が拡散反射面となることから、きめ細やかでやわらかい自然な光沢感が得られた。しかし、比較例5の丸型フィラメントを使用したものは、接触冷感が冷感素材としての一般的な指標である値0.2(W/m)よりも低い数値を示し、また、風合いにおいても、生地表面をなでた場合と生地を圧縮した場合で劣っていた。
また、比較例6の三角断面フィラメントを使用したものは、吸水性、乾燥性、接触冷感、柔らかさの点において、劣った結果となっただけでなく、光沢感においてもギラギラして人工的なものとなり、実施例11〜13に比べ上品さにかけるものとなった。

Claims (4)

  1. 一成分溶融紡糸法によって紡糸されるポリアミド系マルチフィラメントにおいて、単糸の断面形状が2つの凸部とその間に挟まれる1つの溝部を有し、かつ単糸断面の中心に対して非回転対称な略カージオイド型断面であること、前記2つの凸部のそれぞれの非溝部側の輪郭線が延長されて突き当たって構成される断面下部が、その最底点Qを境にして屈曲しており、断面下部を構成する最底点Qの左側及び右側の曲線が、それぞれ独立して、単糸断面内側に湾曲した曲線、又は単糸断面外側に湾曲した曲線と単糸断面内側に湾曲した曲線が組み合わさった変曲点を1つ有する曲線であること、前記凸部の溝部側の輪郭線と非溝部側の輪郭線が平行でなく、しかも互いに等距離の間隔で進んで湾曲しないこと、単糸断面を囲む外接直角四角形の辺A、辺Bを以下のように規定したときに辺Aの長さaと辺Bの長さbの比a/bが0.3〜3.0であること、外接直角四角形の2つの辺Bとそれぞれ接する単糸断面の接点P1とP2を結ぶ直線Fから2つの凸部とは逆の側にある単糸断面の下部の最底点Qへ降ろした垂線Dの長さdと辺Bの長さbとの比d/bが0.3〜0.8であること、及び外接直角四角形の辺Bと接する単糸断面の接点Pと単糸断面の下部の最底点Qとを結ぶ直線Lの長さL1と、P−Q間の単糸断面の周長L2との比L2/L1が1.0〜1.3であることを特徴とするポリアミド系マルチフィラメント。
    辺A:略カージオイド型断面の前記2つの凸部の頂点を結ぶ直線と平行な外接直角四角形の辺。
    辺B:辺Aと垂直に交わる外接直角四角形の辺。
  2. a/bが0.4〜2.5であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド系マルチフィラメント。
  3. 略カージオイド断面の溝部の深さcと辺Bの長さbとの比c/bが0.05〜0.30であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド系マルチフィラメント。
  4. 請求項1〜のいずれか記載のポリアミド系マルチフィラメントを少なくとも一部に用いていることを特徴とする織編物。
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