JP4523852B2 - 塩基性有機酸金属塩及びその製造方法 - Google Patents

塩基性有機酸金属塩及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、セラミックス電子部品等における電極、配線等を形成するための導電性ペーストの導電性素材等に適した金属化合物粉体及びその製造方法に関し、特に金属化合物粉体として新規物質である塩基性有機酸金属塩及びその製法に関する。
例えば、積層型のセラミックス電子部品は、複数のセラミックス層が積層されたセラミックス素体(焼成前はグリーンシートと呼ばれる)と、セラミックス素体の両端面に形成された外部電極とからなる。また、内部電極を備える積層セラミックコンデンサ等のセラミックス電子部品にあっては、両端縁がセラミックス層の何れかの端面に露出するようにセラミックス層間に形成された複数の内部電極を備え、外部電極は内部電極の露出した端縁を介して内部電極と電気的に接続されている。
上記セラミックス電子部品の電極形成に導電性ペーストが用いられる。この導電性ペーストは、例えばAg、Ag/Pd等からなる導電性金属微粉末と、金属微粉末を分散させるための有機溶剤や粘度調整用の樹脂成分からなる。例えば、導電性ペーストを用いて外部電極を形成する場合、セラミックス素体の端面にペースト材を浸漬塗布して乾燥させ焼成することにより電極が形成される。
金属電極膜のパターン形成等に用いられる導電性ペースト材には上記のように、金属微粉体を分散したものが一般的に利用されている。特に、近年のセラミックス電子部品の小型化に応じて電極膜の薄膜化や微細化パターンが要求され、金属微粉体の粒径もナノオーダーのものも必要とされてきている。
かかる微細な金属微粉体は反応性が高くて凝集しやすく、また溶剤中に簡易に分散させにくく、しかも保存や取扱いも容易ではない。一方、単分散化処理により凝集物のない高微粉末を製造するには製造コストが高くなってしまう。そこで、特許文献1等に示されるように、微細金属粉の代わりに、金属有機化合物の溶液(金属レジネートと呼ばれる)が用いられている。これは、金属レジネートを分子オーダーで金属原子又はイオンが均一に分散した金属分散液(金属分散ゾル)とみなすことができ、また実際にペーストの代わりに利用できるからである。
特開平8−169788
導電性ペースト材に応用される金属レジネートの金属有機化合物には一般的に次のような条件を満たすものが好ましい。
(1)燃焼・分解時に腐食性のガスを発生させるハロゲンや硫黄を含まない。
(2)合成・精製が容易である。
(3)化学的安定性があり、保存・取扱いが容易である。
(4)有機溶媒又は水等に対して高い溶解度をもつ。
(5)金属含有量が高い。
上記の条件をいくつか満たすものとして、市販の金属有機化合物の中ではオクチル酸金属塩等がある。しかし、例えばオクチル酸ニッケル塩の場合、その分子は分子量の大きい2つの有機配位子を含むため、分子中の金属含量は元々高くない。また、オクチル酸金属塩は通常低融点で、時として飴状の粘稠固体物であるから、ハンドリング性も煩雑となる。このため、オクチル酸で希釈した希薄溶液として製造現場等に提供されるのが一般的であるが、そのような希釈溶液化処理によっても金属含量がさらに低下することになる。したがって、市販の金属塩では、導電性ペーストの出発材料として重要な金属含有量条件を満たさず、金属含有量が少ないといった問題があった。また、オクチル酸で希釈した溶液から真空でオクチル酸を完全に除き、取扱いやすい粉末状に加工することは一般には困難である。
一方、種々の固体金属有機化合物塩は数多くあり、中には金属含量の高いものも存在する。しかし、これらはほとんどがペースト製造に適した有機溶媒には難溶であり、したがってそれらを利用するときには固体状態、すなわち粉体として利用しなければならない。しかし、そのときは当然ながらの微粉体として分散処理する必要がある。導電ペーストには、最近の電子部品の多様化に応じて種々の異なるペースト物性を備えたものが要求されている。殊に、ペースト物性の中では含有金属成分の粒径が重要であるが、その原料となる上記のような市販の金属塩では粒径の制御はされておらず(粒径は大きく、また粒径分布も広い)、したがってそれから生じる金属粒子の粒径も制御されないことになる。また、それを求めると原料コストは非常に高価なものとなる。さらに、この塩類は一般に水に可溶であることから、これを用いて得られたペーストの高湿度下での管理は困難となる。
従って、本発明は、上記の問題に鑑み、レジネートの代わりに利用できる物質として、溶媒には溶けないが、合成が容易で、安定、且つ金属含有率の高い金属有機化合物の単分散微粉体の提供を目的とし、具体的には、導電性ペースト用金属材料の前駆体等として好適な新規物質であり、金属含有率の高い塩基性有機酸金属塩を提供することを第1の目的とする。また、その塩基性有機酸金属塩を微粉で且つ単分散で簡易に製造することができる塩基性有機酸金属塩の製造方法を提供することを第2の目的とする。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1の形態は、金属元素M(形式酸化数 +m)と有機酸基A(イオン価数 −р)を含み、組成式がAxMy(OH)z・nHO(x≧1、z≧1、m×y=p×x+z、n=0以上の整数または半整数)である塩基性有機酸金属塩である。
本発明の第2の形態は、前記第1の形態において、前記組成式が(CHCOO)Ni(OH)・nHOあるいは(CHCOO)Ni(OH)・nHOである塩基性有機酸金属塩である。
本発明の第3の形態は、前記第1の形態において、前記組成式が(CHCOO)Co(OH)・nHOである塩基性有機酸金属塩である。
本発明の第4の形態は、含水有機酸金属塩を親水性有機溶媒と混合して、室温またはそれ以上の温度で前記含水有機酸金属塩を自発的に加水分解させ、その溶媒に難溶な塩基性有機酸金属塩を沈殿物として生成させて製造する塩基性有機酸金属塩製造方法である。
本発明の第5の形態は、前記第4の形態において、前記沈殿物の生成後、その沈殿物を粉体化処理して塩基性有機酸金属塩の粉体を製造する塩基性有機酸金属塩製造方法である。
本発明の第6の形態は、前記第4又は第5の形態において、前記含水有機酸金属塩は酢酸ニッケルの4水塩(CHCOO)Ni・4HOであり、前記組成式が(CHCOO)Ni(OH)・nHO)あるいは(CHCOO)Ni(OH)・nHOである塩基性有機酸金属塩粉体を製造する塩基性有機酸金属塩粉体製造方法である。
本発明の第7の形態は、前記第4又は第5の形態において、前記含水有機酸金属塩は酢酸コバルトの4水塩(CHCOO)Co・4HOであり、前記組成式が(CHCOO)Co(OH)・nHOである塩基性有機酸金属塩粉体を製造する塩基性有機酸金属塩粉体製造方法である。
本発明の第8の形態は、前記第3〜第7のいずれかの形態において、前記沈殿物の生成を室温から前記親水性有機溶媒の沸点近傍あるいは前記沸点を越える温度において行う有機酸金属塩製造方法である。
本発明の第9の形態は、前記第3〜第8のいずれかの形態において、前記親水性有機溶媒は、前記含水有機酸金属塩を溶解する性質を備えた有機溶媒である塩基性有機酸金属塩製造方法である。
本発明は、導電性ペーストの出発材料として好適な高金属含有率の物質(金属塩)の探求の過程で生れた。例えば酢酸ニッケルを原料として用いる合、一般に市販されているものは四水塩である。このため、ニッケル含有率を上げる必要があり、また導電性ペーストに応用するにはテルピネオール等の有機溶媒への親和性を高める必要があるため、無水塩化する必要がある。この無水塩は単に処理炉において固体状態で脱水するだけで得られるが、その粒径は原料の四水塩固体の粒径と粒径分布に依存しているので、市販の四水塩から単分散で微粉の無水塩を得ることは困難である。
ところで、金属ハロゲン化物や酢酸塩などの水和金属塩(MX・kHO:Mは金属元素、Xはハロゲン化物や酢酸等の配位子、aはその個数、kは0以上の整数)を空気中で加熱すると一般には下記反応式(1)に示すような単純な脱水反応が起こり、無水塩が生成すると考えられる。
MX・kHO → MX + kHO (1)
しかし、実際はそのような簡単な反応ではなく、下記反応式(2)に示すように、結晶水と金属塩の反応(加水分解反応)が併発し、対応する酸と塩基性金属塩が生じる場合多い。金属原子が3価以上の高い形式酸化数をもつときはこの加水分解が起こる傾向が特に著しいことはよく知られていることである。
MX・kHO → MX(a−q)(OH) + qHX + (k-q)O (2)
これは、高い形式酸化数をもつ金属イオンに配位した水がその金属イオンの高い電子吸引性のために酸解離(加水分解)する傾向が強いことに基づく。この傾向は2価の金属イオンの塩では小さい。したがって、Cu(II)の酢酸塩が、通常の中性酢酸塩としての他に、塩基性酢酸銅としても存在しうることはむしろ例外的であり、同じ2価の金属であるニッケルNi(II)やコバルトCo(II)の塩ではこの加水分解が起こりにくいと考えられる。例えば、コバルトの場合、無水の酢酸塩は対応する四水塩を140℃に加熱脱水することにより得られるとされており(Merck Index,13th edn., Merck&Co.,Inc.,Whitehouse Station,1997,p.426)、ニッケルやコバルトの塩基性酢酸塩の生成に関してこれまで報告されていなかった。
そこで、本願の発明者らは上記の事実を鋭意検討した結果、酢酸ニッケルや酢酸コバルトの四水塩をアルコールに溶解して室温で攪拌するか、あるいは加熱することにより容易に加水分解してアルコールに不溶な塩基性酢酸金属塩に変換でき、この加水分解反応によって塩基性酢酸金属塩を微粉体として定量的に単離できることに成功した。例えばエタノールに四水塩を入れ、加熱沸騰条件下で起こる自己加水分解を利用することにより、対応する四水塩から金属含有率の高い化合物を沈殿物として得ることができる。この沈殿物は本発明の第1の形態にかかる塩基性有機酸金属塩である。この物質は金属元素M(形式酸化数 +m)と有機酸基A(イオン価数 −р)を含み、組成式がAxMy(OH)z・nHO(x≧1、z≧1、m×y=p×x+z、n=0以上の整数または半整数)の塩基性有機酸金属塩であり、これまでこの化合物に関する報告はなく、新規な物質である。また、この形態は、1μ以下のサブミクロン微粒子で、粒径が揃っており、導電性ペーストの導電性材原料として好適である。すなわち、本発明の形態にかかる塩基性有機酸金属塩の粉体を導電金属粉体の前駆物質として含有させることにより、金属含有量の多い塩基性有機酸金属塩を用いて、例えば、セラミックス電子部品の電極膜の薄膜化や微細パターン化を可能とする導電性ペーストを得ることができる。
本発明の第2の形態は、ニッケル金属原子を含む塩基性有機酸金属塩(組成式:(CHCOO)Ni(OH)・nHOあるいは(CHCOO)Ni(OH)・nHO、第1形態にかかる組成式において、x=3あるいは5、z=1であり、Niが2価原子であるからy=2あるいは3の場合)である。この金属塩は、例えば、後述の第6の形態にかかる製造方法により酢酸ニッケル原料から簡易な製造工程から製造され、これはNiを高含有率で含み、導電性ペーストの金属材料前駆体として好適である。なお、本発明にかかる有機酸基Aの代表的なものは、前記第2の形態の塩基性有機酸金属塩((CHCOO)Ni(OH)・nHOあるいは(CHCOO)Ni(OH)・nHO)の場合の酢酸基(CHCOO)のようなカルボン酸基である。カルボン酸には、酢酸などの脂肪酸のほか、アミノ酸、蟻酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸等がある。
本発明の第3の形態は、コバルト金属原子を含む塩基性有機酸金属塩(組成式:(CHCOO)Co(OH)・nHO、第1形態にかかる組成式において、x=3、z=1であり、Coが2価原子であるからy=2の場合)である。この金属塩は、例えば、後述の第7の形態にかかる製造方法により酢酸コバルト原料から簡易な製造工程により製造され、これはCoを高含有率で含み、前記第2の形態と同様に、導電性ペーストの金属材料前駆体として好適である。
本発明の第4及び第5の形態にかかる金属塩製造方法によれば、まず含水有機酸金属塩(例えば、酢酸ニッケル)を親水性有機溶媒(例えば、エタノール)と混合し、室温下あるいは加熱状態で攪拌する。このとき、原料に含まれていた水(結晶水)により、有機酸金属が反応し(加水分解し)て前記塩基性有機酸金属塩が生成するが、これはアルコールに難溶であるので沈殿物として分離堆積する。この沈殿物は前記第1の形態にかかる塩基性有機酸金属塩(金属元素M(形式酸化数 +m)と有機酸基A(イオン価数 −р)を含み、組成式がAxMy(OH)z・nHO(x≧1、z≧1、m×y=p×x+z、n=0以上の整数または半整数)である。これを例えば、ろ過や遠心分離によって分取する。したがって、本形態にかかる金属塩製造方法により、含水有機酸金属塩から金属含有量の多い塩基性有機酸金属塩の粉体を得ることができる。しかも、原料の含水有機酸金属塩には親水性有機溶媒のみが混合されるだけであるので、一連の製造工程を通じて、不純物の混入が起きないため極めて高純度の塩基性有機酸金属塩の粉体を得ることができる。もちろん、得られた粉体は高金属含有性とともに導電性ペースト材に好適な物性を具備する。また、含水有機酸金属塩を親水性有機溶媒に混合し、加熱するだけで簡易に塩基性有機酸金属塩の粉体を製造でき、製造コストの低減に寄与する。
特に、前記第4及び第5の形態にかかる金属塩製造方法によれば、含水有機酸金属塩を親水性有機溶媒に混合し、室温またはそれ以上の加熱下で、自己加水分解(脱有機酸)反応を生起させることを利用して粒径が小さく且つ単分散の粉体として塩基性有機酸金属塩を製造することができるので、例えば、親水性有機溶媒の種類、混合割合、処理温度等の製造条件を調整することにより、塩基性有機酸金属塩の組成AxMy(OH)z・nHOを制御することが可能であり、また前記沈殿の粒径や凝集沈殿状態を変化させることもできる。したがって、上記製造条件による簡易な調整を行うだけで前記沈殿物の粒径制御が可能となるので、種々の導電性ペースト材に応じた粒径を備えた塩基性有機酸金属塩を安価に製造することができる。
なお、本発明においては、金属元素として、金、銀、パラジウム等の貴金属原子、又は銅、ニッケル等の卑金属原子を含む前記含水有機酸金属塩を原料として用いることにより、例えば、セラミックス電子部品の内部電極や外部電極の薄膜化、微細化パターンに適した導電性ペーストの導電性材として好適となる金属塩を得ることができる。また、本発明における原料としての含水有機酸金属塩には、有機金属レジネート原料、例えば、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、安息香酸塩、パラトイル酸塩、n−デカン酸塩、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート等のうち、有機配位子を備えるものが使用される。含水有機酸金属塩の具体的な例として、酢酸ニッケルの4水塩(CHCOO)Ni・4HO、酢酸コバルト4水塩(CHCOO)Co・4HO等が挙げられる。これらの含水有機酸金属塩は全てアルコール溶媒に対して高い溶解度をもつので、親水性有機溶媒として、エタノール、n−及び2−プロパノール、n−及びi−ブタノール等のアルコール溶媒を使用できる。勿論、本発明においては、親水性有機溶媒として、これらのアルコール溶媒に限らず、含水有機酸金属塩の有機化合物と煩雑な化学反応を起こさない有機溶媒を用いることができる。
本発明の第6の形態にかかる金属塩製造方法によれば、前記第4又は第5の形態において、前記含水有機酸金属塩に酢酸ニッケルの4水塩(CHCOO)Ni・4HOを用いることにより、ニッケル金属を高含有率で含み、導電性ペーストの導電性材に好適である塩基性有機酸金属塩(組成式:(CHCOO)Ni(OH)・nHOあるいは(CHCOO)Ni(OH)・nHO)を製造することができる。
本発明の第7の形態にかかる金属塩製造方法によれば、前記第4又は第5の形態において、前記含水有機酸金属塩に酢酸コバルトの4水塩(CHCOO)Co・4HOを用いることにより、コバルト金属を高含有率で含み、導電性ペーストの導電性材に好適である塩基性有機酸金属塩(組成式:(CHCOO)Co(OH)・nHO)を製造することができる。
前記含水有機酸金属塩と前記親水性有機溶媒との混合物を前記親水性有機溶媒の沸点をはるかに越える温度に過加熱すると、高温状態での還元作用により含有金属原子の単離が促され、分子状の金属塩の沈殿量が減少してしまう。また、単離した金属原子は反応性が高いため、沈殿したとき金属どうしが凝集して金属凝集物となり、薄膜化や微細化に用いる導電性ペースト材として好ましくない。一方、本発明の第8の形態にかかる金属塩製造方法によれば、前記第3〜第7のいずれかの形態において、加熱条件として、室温から前記親水性有機溶媒の沸点近傍あるいは前記沸点を越える温度、つまり金属還元が促進される高温以下の沸点付近かそれよリ少し高い温度下において前記沈殿物の生成を行うので、金属還元が進むことなく脱水分解が円滑に行われ、目的物である分子状の塩基性有機酸金属塩を微粉体として高純度で沈殿させることができる。
本発明の第9形態にかかる金属塩製造方法によれば、前記親水性有機溶媒は、前記含水有機酸金属塩を溶解する性質を備えた有機溶媒であるので、市販のエタノール、変性エタノール等の有機溶媒を用いて塩基性有機酸金属塩の微粉体を簡易かつ低コストに製造することができる。
以下に、本発明にかかる金属塩粉体の製造方法の実施形態を添付する図面を参照して詳細に説明する。
図1は本実施形態に用いる製造装置の概略構成図である。本実施形態では原料として酢酸ニッケルの4水塩(CHCOO)Ni・4HOを使用する。この4水塩原料を原料槽1内にエタノール(親水性有機溶媒)とともに投入して懸濁させ混合する。
酢酸ニッケルの4水塩はエタノールに対して可溶性を有し、一方塩基性酢酸ニッケル塩はエタノールに対して難溶性であるので、塩基性酢酸塩合成用有機溶媒としてエタノールを用いる。本実施形態においては有機溶媒の具体例として、エキネン(日本アルコール販売株式会社製F−1:10%イソプロパノール及び0.1%のオクタアセチル化蔗糖により変性した変性アルコール)を使用した。エタノールに代えて、2−プロパノール、n−及びi−ブタノール等のアルコール溶媒を使用してもよい。これらのアルコール溶媒に限らず、4水塩の有機配位子化合物と煩雑な化学反応を起こさない有機溶媒を用いてもよい。
4水塩とエタノール(エキネン)との混合溶液2を収容した原料槽1はシリコーンオイル4による恒温槽3に浸漬される。原料槽1内に作製された混合溶液2は恒温槽3により加熱される。エタノール混合処理と加熱処理を同じ原料槽1内で行うことにより無水金属塩精製装置を簡素化できる。
本実施形態にかかる製造装置を用いて徐熱法により塩基性酢酸金属塩を合成する製造例を説明する。この例においては、40.5gの酢酸ニッケル4水塩と200mlのエキネンの混合溶液2を作製して原料槽1内に収容し、加熱しながら攪拌した。恒温槽3の加温装置(図示せず)により槽内の収容シリコーンオイル4の浴温が約65℃であるとき、酢酸ニッケルは完全に溶解して緑色の透明溶液になった。さらに加熱を続け浴温が75℃になったとき、溶液が濁り始め、さらに数分後(浴温約78℃)には溶液全体が白濁し、同時にゲル状になるが、強く攪拌することによりほぐれてスラリー状へと変化した。ついで、シリコーンオイル4の温度がエタノールの沸点(約78.3℃)より高い溶媒の沸騰下(80℃以上)でさらに攪拌を続けるにつれて沈殿の量が増加していく。この沸騰状態下における混合溶液2中においては加水分解反応が進行し、塩基性酢酸塩(CHCOO)Ni(OH)あるいは(CHCOO)Ni(OH)・nHO等からなる1次粒子6が溶液全体にわたって分散形成されながら、1次粒子6同士が凝集しあって、2次粒子の塩基性酢酸塩の凝集沈殿物5を生成していく。溶液の色は当初、四水塩特有の緑色であるが、固体が大量に析出するにつれて淡緑青色へと変化した。溶液が濁り始めてから約2時間後に加熱攪拌を止めた(最終浴温は92℃)。沈殿生成反応は短時間(2時間以内)で終了した。室温に冷却した後、原料槽1内の懸濁液を遠心分離機(図示せず)に投入し、沈殿物を遠心分離した。遠心分離により得られた凝集沈殿物紛体を室温で乾燥させた後、恒温槽(図示せず)内で約110℃以上の温度で乾燥させた。乾燥後の粉体は後述の元素分析から三酢酸ニニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・0.5HOが大部分であるが、その収量は26.1gであった。この乾燥後、凝集沈殿物を粉砕装置(図示せず)によって粉砕処理することにより、粉末化された塩基性酢酸ニッケル塩の微粉体を製造することができる。
凝集沈殿物5に対してX線粉末回折法(XRD)により分析を行った。図8は凝集沈殿物5を試料として求めた、Cu(銅)のKα線照射によるX線回折強度グラフである。横軸の散乱角2θ(θ:Bragg反射角、単位deg)に対する回折強度(任意単位)を縦軸に示す。このX線回折結果に見られる回折強度の高いピークについて回折角度とピーク強度を図9に列挙する。この図8及び図9から、凝集沈殿物は明らかに結晶性であることが分かる。過去にこれと一致する回折ピークを示す化合物の報告はなく、新物質であると考えられる。また、この凝集沈殿物5のXRD回折ピークの半値幅からはこれは約60nmの一次粒子の集合体であると推定される。
凝集沈殿物5の元素分析を行ったところ、これに含まれる炭素C、水素H、ニッケルNiの組成割合がそれぞれ、23.09、3.37、36.14(%)として実測された。この元素分析実測データから、凝集沈殿物5の組成はニッケル金属元素と有機酸基(CHCOO)を含む塩基性酢酸金属塩(CHCOO)Ni(OH)・nHO(n=0以上の整数あるいは半整数)であると知見される。この塩基性酢酸金属塩(n=0.5のC11Ni7.5)の理論上の計算組成を求めたところ、炭素C、水素H、ニッケルNiのそれぞれの組成割合が22.48、3.46、36.62(%)であり、これらは上記実測値に極めて近似していることからも上記知見を確認できた。この塩基性酢酸金属塩の生成は、結晶水として持ち込まれた水と酢酸ニッケルとの反応(加水分解反応)によるものと考えられる。特に、n=0.5とした場合の組成が計算値に近いので、凝集沈殿物5の多くが(CHCOO)Ni(OH)・0.5HOであるが、(CHCOO)Ni(OH)、(CHCOO)Ni(OH)・HO、(CHCOO)Ni(OH)・2HO等が混在しているものと推定される。
粉体合成の一連の製造工程を通じて、原料槽1内の混合溶液2にはエタノール(あるいは変性エタノール)のみが混在するだけであり、ニッケル以外の金属の混入が起きないため、極めて高純度の塩基性酢酸ニッケル塩の微粉体を得ることができる。また、2次粒子の凝集沈殿物5を得るための製造工程においては溶媒との混合と、混合溶液の加熱処理といった簡易な工程からなるため、金属塩粉体製造を安価に行うことができる。しかも、回収した使用済溶媒を精製して再利用することにより、製造コストの低減化を促進できる。
酢酸ニッケルの4水塩は、例えばエキネンに対する溶解度は比較的高く、沸点下においてはエキネン溶媒200mlに対して酢酸ニッケルの4水塩は約70g以上溶解する。一方、本実施形態による塩基性酢酸金属塩は反応温度(70℃以上)において定量的に生成されるが、これはエキネン溶媒に対してほとんど溶解しないことも確認した。したがって、生成物収量は定量的であり、生成後も温度低下による溶解度差により生成物や原料等が新たに結晶析出することはないので、生成粉体の純度や粒径が冷却後も十分に維持され、また生成再現性もよく、多量生産に適した塩基性酢酸金属塩の製造方法を提供できる。
本実施形態における沸騰処理はシリコーンオイル4の浴温をエタノールの沸点より余り高すぎない温度(約90℃)に設定して行っている。この処理温度は生成される粒子の凝集沈殿の粒径とその分布に影響するので、これを利用して生成沈殿物の粒径を調整することができる。したがって、目的物である金属塩粉体の平均粒径を調整でき、種々の物性仕様を備えた導電性ペースト材の多様化に応じることができる。また、生成沈殿物の調製過程において、必要に応じて適宜、表面修飾剤を添加することにより粉体粒径や分散性も制御することができる。
本実施形態にかかる製造装置を用いて急熱法により塩基性酢酸金属塩を合成することができる。上記製造例と同様に、酢酸ニッケル4水塩とエキネンの混合溶液2を作製して、原料槽1内に収容し、予め90〜100℃に加熱した恒温槽3に浸して攪拌した結果、上記の徐熱法と同様に、加水分解を円滑に発生させて塩基性塩粒子を堆積させ、この後、沈殿物を遠心分離・乾燥の粉体化処理して塩基性酢酸ニッケル塩の粉体を得ることができた。したがって、徐熱法又は急熱法により塩基性酢酸ニッケル塩の粉体が得られることから、加熱速度などは加水分解反応の進行状態や生成物の構造に影響しないと考えられる。
上記の製造方法により得られた塩基性酢酸ニッケル塩の微粉体の物性を検証した結果を説明する。
図2は上記の製造方法により得られた微粉体の粒径測定グラフである。横軸の粒径(μm)に対して縦軸はその分布頻度(%)を示す。このグラフから微粉体の平均粒径は540±13nmであり、粉体が微小な粒子が揃った状態からなることが分かる。なお、上記平均粒径の分布にある塩基性酢酸ニッケル塩の微粉体を後述の図4、図5に示すように、窒素中400℃以上で焼成すると、平均粒径が約200nmのニッケル金属粒子になる。
図3は上記製造方法により得られた酢酸ニッケル塩の微粉体を試料として空気中で測定した熱重量・示差熱分析(TG・DTA)のサーモグラムを示す。測定では試料(塩基性酢酸ニッケル塩:(CHCOO)Ni2・0.5HO)を熱的に変化させたときのNiOの重量割合(%)の変化を測定した。これは、この塩を酸化させると、NiOが発生することに基づく。つまり、(CHCOO)Ni(OH)+O→NiO+CO+HOによる。このDTA測定によれば、約380℃付近で一気に含有有機物が焼失し、約45重量%のNiOが残留することが分かる。したがって、上記製造方法により得られた塩基性酢酸ニッケル塩の微粉体を導電性材として使用したとき、例えば、電極形成時における大気中800〜900℃の条件で焼成すると、電極膜中に十分な量のNi金属が残留し、良好な電極膜形成に供することができる。また、このDTA測定から塩基性酢酸ニッケル塩の場合400℃以上の焼成温度から適用できることが分かる。
次に、本発明にかかる塩基性有機酸金属塩の製造方法における生成物に対する原料濃度の影響を調べた結果、原料濃度を上げると生成物の組成が変化することがわかった。その実験例を以下に説明する。この実験例においては、70.1gの酢酸ニッケル4水塩を200mlのエキネンに混合した混合溶液2を作製した。この混合溶液2を原料槽1内に収容し、上記徐熱法の製造例と同様に、加熱しながら攪拌すると、シリコーンオイル4の浴温が約68℃であるとき、ほぼ完全に溶解するが(これがおおよそ四水塩の溶解度限界であると推測される)、さらに加熱を続けると、上記製造例と同様に、溶液が濁り始め、高粘度の溶液状態から沈殿を含むスラリー状へと変化した。また、反応混合物の色も緑色から淡緑青色へ変化した。これらの変化の経過は先の製造例と同じであり、1〜2時間の加熱により類似した塩基性酢酸金属塩が得られた。このとき得られた生成物を上記製造例と同様に分析した。図10は生成物に対してX線粉末回折法(XRD)により分析した、Cu(銅)のKα線照射によるX線回折強度グラフである。このグラフは図8の三酢酸ニニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOの場合と異なっている。そこで、元素分析を行ったところ、この生成物は三酢酸ニニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOとは異なる五酢酸三ニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOであることが分かった。 また、本実験にかかる生成物の物性等も調べた。図11はこの実験により得られた生成物の微粉体を試料として空気中で測定した熱重量・示差熱分析(TG・DTA)のサーモグラムを示す。測定は図3の場合と同様に行われた。このDTA測定によれば、上記製造例の場合と同様に約380℃付近で一気に含有有機物が焼失し、約41.6重量%のNiOが残留することが分かる。さらに、粒径の測定も行った。図12は本実験にかかる生成物の微粉体のうち(CHCOO)Ni(OH)・2.5HOの粒径測定グラフである。このグラフから微粉体の平均粒径は730±30nmであり、粉体が微小な粒子が揃った状態からなることが分かる。
上記の分析結果から、本発明にかかる製造方法により得られる生成金属塩の組成が出発溶液の原料濃度に依存することが明らかになった。図13は原料濃度と、得られる塩粉体(110℃乾燥下で製造)の元素分析結果から得られる計算元素組成及び推定化学式との関連性を示す。これから、原料が低濃度のとき三酢酸ニニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOが、高濃度のとき五酢酸三ニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOが生じることが分かる。中間濃度では、(CHCOO)Ni(OH)・nHOに近い組成を示すが、ニッケル原子に対する炭素原子数の比は3.0よりもかなり大きくなり、後者の五酢酸三ニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOが混在することが推測される。この例はいずれも110℃で乾燥した場合であるが、乾燥後の結晶水の分子数が異なっており、組成によって脱水速度が異なっていることも見受けられる。
以上のように、本実施形態にかかる塩基性酢酸金属塩の製造方法によれば、加水分解反応が約2時間以内に終了し、三酢酸ニニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOあるいは五酢酸三ニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOの生成金属塩の収率はほぼ定量的である。これは、塩基性酢酸塩のアルコール類に対する溶解度が非常に小さいことによる。また、原料が完全に溶解して均一溶液となってから反応生成物が沈殿するので、微粉体が得られるだけでなく、その粉体粒子の粒径が揃っており、ほぼ単分散粒子となっている。
本実施形態により得られる三酢酸ニニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOあるいは五酢酸三ニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOの塩基性酢酸塩の性質を以下にまとめる。
(1)生成物である塩基性酢酸塩はその組成の如何にかかわらず、メタノールを含むアルコール類に対する溶解度は非常に低く(例えば、エキネンに対して70℃で100ppm以下である)、生成物をほぼ定量的に単離できる。
(2)水にはすぐには溶解しないが、時間がたつと酢酸ニッケルに相当する緑色の溶液と水酸化物特有の透明糊状物質(コロイド)との混合物になる。
(3)図8及び図10に示したように、生成物である三酢酸ニニッケル塩及び五酢酸三ニッケル塩は結晶性を具備し、回折ピークの半値幅から、その結晶子サイズは約60nmであると推定される。
(4)図2及び図12に示したように、粉体の粒径はサブミクロンオーダーであり、粒径もよく揃っている。エキネンに混在するオクタアセチル蔗糖は粒径及びその分布に大きくは影響しない。また、加熱時間、特に白濁し始めてから加熱終了までの時間が長いと粒径が増大する傾向がある(1時間加熱で平均粒径0.6μm、一方2時間加熱で平均粒径0.8〜0.9μm)。
(5)図3及び図11に示したように、空気中において、350〜380℃の温度で分解し、酸化ニッケルを生じる。純窒素中あるいは少量の水素を含む窒素中においては金属ニッケル微紛体(粒径約0.2μm)となる。
上記製造方法により得られた酢酸ニッケル塩の微粉体を上記性質を利用して導電性材に使用した導電性ペーストへの応用例を説明する。
導電性ペーストは、酢酸ニッケル塩の微粉体と、有機溶剤及び/又は粘度調整用の有機樹脂とを均一に混練することにより精製される。もちろん、オクチル酸ニッケル等のレジネート、金属粉又はレジネートと金属粉体との混合体を本実施形態の導電性ペーストと併用してもよい。
ペースト作製用有機樹脂には、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、ブチラール、アクリル、アクリルコパイバルサム、ダンマーなどを使用する。ペースト作製用有機溶媒には、例えば、アルコール、アセトン、プロパノール、エーテル、石油エーテル、ベンゼン、酢酸エチル、その他の石油系溶剤、テルピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、ブチルカルビトール、セロソルブ類、芳香族類、ジエチルフタレート等を使用できる。
酢酸ニッケル塩微粉体に対して、溶媒としてテルピネオールを使用し、さらに適宜分散剤を混合した混練ペーストをジルコニアボールあるいはビーズによりミリング粉砕すると、透明度の高い、緑色の均一溶液の導電性ペーストが得られる。これは金属レジネートに類似した溶液になっていることを示すものである。
このようにして得られた導電性ペーストを基板上にスクリーン印刷により所定のパターンに塗布し、このペースト塗布膜を窒素ガスあるいは水素を含む窒素ガス等の非酸化雰囲気中において約400℃以上の焼成温度で熱処理すると良好なニッケル膜が得られる。
図4はジルコニアボール(φ2)により24時間ミリングを行った上記導電性ペーストをガラス板に塗膜形成した試料を、水素3%を含む窒素ガス中において400℃で焼成したときのSEM写真である。図4の(4A)、(4B)、(4C)はそれぞれ倍率30000、10000、5000の場合である。これらのSEM写真から含有有機物が除去され、粒の揃ったニッケル粒子の膜が形成されていることが分かる。なお、この試料の場合、表面抵抗値は5〜10Ωであった。図5は上記ミリング処理を施さなかった場合であり、窒素ガス中、400℃で焼成したときのSEM写真である。図4と図5とを比較すると、図4の場合、ニッケル粒子が均一に分散しているのに対し、上記ミリング処理をしなかった場合の図5ではニッケル粒子の分散度合いに偏りが見られる。
図6は酢酸ニッケル塩微粉体に、粘度調整用樹脂としてエチルセルロース混練した導電性ペーストをガラス板に塗膜形成した試料を、水素3%を含む窒素ガス中において800℃で焼成したときのSEM写真である。図6の(6A)、(6B)はそれぞれ倍率2500、500の場合である。これらのSEM写真から、塩基性酢酸ニッケル塩微粉体を含む導電性ペーストによる形成膜の表面が平滑され、良好な均一膜性を具備することが分かる。
図7は酢酸ニッケル塩微粉体を含む導電性ペーストによる塗膜を焼成して形成された電極膜の厚みを、サーフコム(登録商標)社の表面粗さ計を用いて計測したろ波うねり曲線を示す。このろ波うねり曲線から、所定間隔をおいて塗膜形成した3個の電極膜71〜73は略一定の厚みを形成していることが分かる。つまり、本発明の製造方法により製造された酢酸ニッケル塩微粉体の粒径分布が均一化されているため、それを導電性ペーストに使用することにより、電極膜の均一化を実現することができる。なお、本発明が対象とするセラミックス電子部品には、セラミックス回路基板、セラミックスコンデンサ、セラミックスインダクタ、セラミックス圧電素子又はセラミックスアクチュエータなどがある。
次に、本発明の別の実施形態にかかる塩基性酢酸コバルト塩を合成する製造例を説明する。まず、前記実施形態と同様の製造装置を用いて、加熱下における合成を行う場合、40.1gの酢酸コバルト4水塩を200mlのエキネンに溶解させた混合溶液を作製する。この混合溶液を原料槽1内に収容し、加熱しながら攪拌した。酢酸コバルトの触媒作用によるアルコール(エキネン)の空気酸化を防止するために窒素雰囲気下で加熱する。この加熱過程において4水塩が溶解しながら同時に小豆色の沈殿物が析出した。シリコーンオイル4の浴温を約90℃でまで上げながら約2時間加熱した後、室温に冷却し、前記実施形態の場合と同様に沈殿物を遠心分離した。遠心分離により得られた凝集沈殿物紛体を室温で乾燥させた後、約110℃の温度で乾燥させた。この凝集沈殿物の元素分析を行ったところ、これに含まれる炭素C、水素H、コバルトCoの組成割合がそれぞれ、22.36、3.26、36.06(%)として実測された。この元素分析実測データから、凝集沈殿物の組成はコバルト金属元素と有機酸基(CHCOO)を含む塩基性酢酸金属塩(CHCOO)Co(OH)・nHO(n=0以上の整数あるいは半整数)であると知見される。この塩基性酢酸金属塩(n=0.5のC11Co7.5)の理論上の計算組成を求めたところ、炭素C、水素H、コバルトCoのそれぞれの組成割合が22.48、3.46、36.62(%)であり、これらは上記実測値に極めて近似していることからも上記知見を確認できた。この塩基性酢酸金属塩の生成は、結晶水として持ち込まれた水と酢酸ニッケルとの反応(加水分解反応)によるものと考えられる。この元素分析から乾燥後の粉体は主に(CHCOO)Co(OH)・0.5HOと分かり、その収量は25.5gであった。凝集沈殿物を粉砕装置(図示せず)によって粉砕処理することにより、粉末化された塩基性酢酸コバルト塩の微粉体を得ることができる。
室温における塩基性酢酸コバルト塩の合成を試みたところ加熱下での合成と同様に金属塩が得られた。この場合、10.0gの酢酸コバルト4水塩を100mlのエキネンに室温で溶解させた混合溶液を作製し、加熱せずに攪拌した。酢酸塩はゆっくりと溶解して淡い赤色の溶液を生じる。4水塩が完全に溶解する前に、約1時間後には溶液が濁り始め、さらに時間の経過に伴って次第に白桃色の沈殿が増加していく。約1日間室温での攪拌を行った後、析出した沈殿物を遠心分離した。遠心分離により得られた凝集沈殿物紛体を室温で乾燥させた後、約110℃の温度で乾燥させた。この凝集沈殿物の元素分析を行ったところ、これに含まれる炭素C、水素H、コバルトCoの組成割合がそれぞれ、23.03、3.41、36.56(%)として実測された。この実測値は、塩基性酢酸金属塩(n=0.5のC11Co7.5)の理論上の計算組成、つまり炭素C、水素H、コバルトCoのそれぞれの組成割合、22.48、3.46、36.62(%)と極めて近似しており、上記加熱合成の場合と同様に、凝集沈殿物の組成はコバルト金属元素と有機酸基(CHCOO)を含む塩基性酢酸金属塩(CHCOO)Co(OH)・nHO(n=0以上の整数あるいは半整数)であると知見される。この元素分析から乾燥後の粉体は主に(CHCOO)Co(OH)・0.5HOと分かり、その収量は5.8g(収率90%)であった。なお、上記の塩基性酢酸コバルト塩の合成結果から、酢酸コバルト塩は酢酸ニッケル塩と比較して、より低温下で加水分解反応をすることが分かる。
本実施形態により得られる塩基性酢酸金属塩(CHCOO)Co(OH)・nHOは塩基性酢酸ニッケル塩と同様に、コバルトを高含有率で含み、導電性ペーストの導電性材に好適な素材であるが、その性質を以下にまとめる。
(1)水と接触すると水酸化コバルト特有の青色の固体を生じる。
(2)空気中で加熱すると、四酸化コバルトを生じる。
(3)結晶性を具備し、その結晶子サイズは約50nmであると推定される。
(4)図14は塩基性酢酸コバルト塩の微粉体を試料として空気中で測定した熱重量示差熱分析(TG・DTA)のサーモグラムを示す。測定では試料(CHCOO)Co(OH)・0.5HO)を熱的に変化させたときのCoの重量割合(%)の変化を測定した。これは、化合物を酸化するとCoが発生することに基づく。このDTA測定によれば、310℃付近で一気に含有有機物が焼失し、約47.6重量%のCoが残留することが分かる。したがって、空気中において、約300℃の温度で分解し、酸化コバルトを生じる。
(5)図15は塩基性酢酸コバルト塩の微粉体の粒径測定グラフである。このグラフから微粉体の平均粒径は1〜2μmであり、粒径分布が比較的広い。これは原料の溶解と生成物の析出が分離できないこと、つまり酢酸コバルト塩が低温で容易に加水分解されることによる。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含することは云うまでもない。
第1の形態の発明によれば、金属含有量の多い、導電性ペーストの導電性材に好適である塩基性有機酸金属塩を提供することができる。特に、第2の形態の発明によれば、ニッケルを高含有率で含み、導電性ペーストの導電性材に好適である塩基性酢酸ニッケル塩(CHCOO)Ni(OH)・nHOあるいは(CHCOO)Ni(OH)・nHO)の提供が可能となる。また、第3の形態の発明によれば、コバルトを高含有率で含み、導電性ペーストの導電性材に好適である塩基性酢酸コバルト塩(CHCOO)Co(OH)・nHOの提供が可能となる。
第4の形態の発明によれば、含水有機酸金属塩から金属含有量の多く、しかも高純度の塩基性有機酸金属塩の粉体を製造することができる。
第5の形態の発明によれば、前記第5の形態により得られた前記沈殿物を粉体化処理して、有機溶媒に対する高分散性を備え、高金属含有性とともに導電性ペースト材に好適な物性を具備した塩基性有機酸金属塩の粉体を製造することができる。
第6の形態の発明によれば、ニッケルを高含有率で含み、導電性ペーストの導電性材に好適である塩基性酢酸ニッケル塩((CHCOO)Ni(OH)・nHOあるいは(CHCOO)Ni(OH)・nHO)を製造することができる。
第7の形態の発明によれば、コバルトを高含有率で含み、導電性ペーストの導電性材に好適である塩基性酢酸コバルト塩(CHCOO)Co(OH)・nHOを製造することができる。
第8の形態の発明によれば、金属還元が進むことなく脱水分解が円滑に行われ、目的物である塩基性有機酸金属塩を微粉体として高純度で沈殿させることができる。
第9の形態の発明によれば、市販の変性エタノール等の有機溶媒を用いて塩基性有機酸金属塩の微粉体を簡易かつ低コストに製造することができる。
本発明の実施形態に係る金属塩製造方法に用いる製造装置の概略構成図である。 前記実施形態の製造方法により得られた塩基性酢酸ニッケル塩の微粉体の粒径測定グラフである。 前記実施形態の製造方法により得られた塩基性酢酸ニッケル塩の微粉体を試料として熱重量示差熱分析(TG・DTA)装置によって求めたサーモグラムを示す図である。 ジルコニアボール(φ2)により24時間ミリングを行った、前記実施形態に係る導電性ペーストをガラス板に塗膜形成した試料を、水素3%を含む窒素ガス中において400℃で焼成したときのSEM写真である。 上記ミリング処理を施さなかった場合のSEM写真である。 前記実施形態に係る塩基性酢酸ニッケル塩微粉体に、粘度調整用樹脂としてエチルセルロース混練した導電性ペーストをガラス板に塗膜形成した試料を、水素3%を含む窒素ガス中において800℃で焼成したときのSEM写真である。 前記実施形態に係る塩基性酢酸ニッケル塩微粉体を含む導電性ペーストによる塗膜を焼成して形成された電極膜の厚みを表面粗さ計を用いて計測したろ波うねり曲線図である。 前記実施形態において生成された凝集沈殿物5のX線回折強度グラフである。 図8のX線回折結果による回折強度の高い回折ピークの散乱角−回折強度の対応表である。 本発明における原料濃度依存性実験によって生成された生成物のX線回折強度グラフである。 前記原料濃度依存性実験によって生成された生成物を試料として熱重量示差熱分析(TG・DTA)装置によって求めたサーモグラムを示す図である。 前記原料濃度依存性実験によって生成された生成物の粒径測定グラフである。 原料濃度と、得られる塩粉体(110℃乾燥下で製造)の元素分析結果から得られる計算元素組成及び推定化学式との関連性を示す表である 本発明の別の前記実施形態の製造方法により得られた塩基性酢酸コバルト塩を試料として熱重量示差熱分析(TG・DTA)装置によって求めたサーモグラムを示す図である。。 本発明の別の前記実施形態の製造方法により得られた塩基性酢酸コバルト塩の微粉体の粒径測定グラフである。
符号の説明
1 原料槽
2 混合溶液
3 恒温槽
4 シリコーンオイル
5 凝集沈殿物
6 1次粒子
71 電極膜
72 電極膜
73 電極膜

Claims (8)

  1. ニッケル又はコバルトからなる金属元素Mと酢酸基CH COOを含み、組成式が(CH COO)xMy(OH)・nHO(x=3又は5、y=(x+1)/2、n=0以上の整数または半整数)であることを特徴とする塩基性有機酸金属塩。
  2. 前記組成式が(CHCOO)Ni(OH)・nHOあるいは(CHCOO)Ni(OH)・nHOであり、前記組成比nがn=0〜2.5の整数または半整数である請求項1に記載の塩基性有機酸金属塩。
  3. 前記組成式が(CHCOO)Co(OH)・nHであり、前記組成比nがn=0〜2.5の整数または半整数である請求項1に記載の塩基性有機酸金属塩。
  4. 含水有機酸金属塩を親水性有機溶媒と混合して、室温またはそれ以上の温度で前記含水有機酸金属塩を自発的に加水分解させ、その溶媒に難溶な塩基性有機酸金属塩を沈殿物として生成させて製造する塩基性有機酸金属塩製造方法であり、前記含水有機酸金属塩が酢酸ニッケルの4水塩(CH COO) Ni・4H O又は酢酸コバルトの4水塩(CH COO) Co・4H Oであり、前記親水性有機溶媒が前記含水有機酸金属塩を溶解する性質を備えたアルコール溶媒であることを特徴とする塩基性有機酸金属塩製造方法。
  5. 前記沈殿物の生成後、その沈殿物を粉体化処理して塩基性有機酸金属塩の粉体を製造する請求項4に記載の塩基性有機酸金属塩製造方法。
  6. 前記塩基性有機酸金属塩の組成式が(CHCOO)Ni(OH)・nHOあるいは(CHCOO)Ni(OH)・nHであり、前記組成比nがn=0〜2.5の整数または半整数である請求項4又は5に記載の塩基性有機酸金属塩粉体製造方法。
  7. 前記塩基性有機酸金属塩の組成式が(CHCOO)Co(OH)・nHであり、前記組成比nがn=0〜2.5の整数または半整数である請求項4又は5に記載の塩基性有機酸金属塩粉体製造方法。
  8. 前記沈殿物の生成を室温から前記親水性有機溶媒の沸点近傍あるいは前記沸点を越える温度において行う請求項〜7のいずれかに記載の有機酸金属塩製造方法。
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