JP4516914B2 - Seb改変体およびそれを含有する免疫異常性疾患の予防・治療用剤 - Google Patents
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Description
これらの疾患の患者数は毎年、僅かながら増加しているにもかかわらず、今なお有効な治療薬や予防方法は見出されていない(山村雄一、岸本忠三、ロバート・A・グッド編、「薬剤による免疫不全」、免疫科学、1984年、9巻、p.285−289)。現在これらの疾患の治療には、サラゾピリン、5−アミノサリチル酸、アザチオプリン、6−MP、トラニラスト、メトトレキセート、シクロスポリンA、メタロダニゾールの投与および7S−免疫グロブリンの大量投与等の薬物療法や胸腺摘出術、人工関節への置換術等の外科的療法、更には栄養療法等の対症療法が行われている(市川陽一ら、「慢性関節リウマチにおけるメトトレキサートおよびサラゾスルファピリジン長期投与例の検討」、リウマチ、1995年、35巻、p.663−670;柏崎禎夫、「慢性関節リウマチに対するオーラノフィンとメトトレキサートによる併用療法の検討」、リウマチ、1996年、36巻、p.528−544;古谷武文ら、「慢性関節リウマチにおける低用量メトトレキセート療法の有害事象」、リウマチ、1996年、36巻、p.746−752;渡辺言夫、「若年性関節リウマチの薬物療法」、リウマチ、1996年、36巻、p.670−675;八倉隆保、「免疫抑制療法・自己免疫疾患の治療」、総合臨床、1981年、30巻、p.3358;および都外川新ら、「慢性関節リウマチにおけるメトトレキサート療法の検討−有効性のより高い投与法を求めて−」、リウマチ、1997年、37巻、p.681−687)。しかしながら、これらは根治的な療法とはいえず、むしろ長期服用によるため重篤な副作用の原因ともなり、より有効な予防・治療薬、治療法の開発が望まれいる。
SEBは黄色ブドウ球菌によって産生されるエンテロトキシン(腸管毒;毒素型食中毒の原因毒素)の1種である。SEBは239個のアミノ酸残基よりなり、そのアミノ酸配列も知られている。SEB分子は2つのドメインから構成され、最初のドメインは残基1〜120よりなり、2番目のドメインは残基127〜239よりなる。また、SEBのN末端部分にはクラスII主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex;以下、「MHC」と呼称する)分子結合および/またはT細胞抗原受容体(T cell antigen receptor;以下、「TCR」と呼称する)結合に影響を与える3つの領域(領域1(残基9〜23)、領域2(残基41〜53)および領域3(残基60〜61))が同定されている。
SEBは周知のように細菌性スーパー抗原の1種である(ホワイト(White J.)ら、Cell,1989,vol.56,p.27−35)。通常の抗原はMHCと複合体を形成した状態でT細胞上のTCRに認識され、しかもその認識はクラスII MHC分子のハプロタイプに限定される(これを「MHC拘束性」という)。これに対してスーパー抗原は、クラスII MHC分子のハプロタイプに非拘束性に結合し、さらに特定のTCRのβ鎖領域(Vβ鎖)に結合する。その結果、スーパー抗原が結合したT細胞は一時的に活性化され分裂増殖を引き起こし、炎症性のサイトカインを産生する(ミクサン(Micusan V.V.)およびチボディーン(Thibodean J.),Seminors in Immunology,1993,vol.5,p.3−11)。
スーパー抗原を新生マウスに静脈内あるいは腹腔内投与すると、これに応答するVβTCRをもったT細胞亜集団が除去され、同じスーパー抗原に対して応答しなくなるトレランスの状態になる。一方、成体のマウスに投与した場合、そのスーパー抗原に結合するVβTCRを持つT細胞がスーパー抗原の再刺激に対して応答しなくなる状態、すなわち、アナジーが誘導されトレランスの状態になる。このようなスーパー抗原の特徴は通常の抗原認識とは異なっている。特定のVβTCRを持つT細胞にトレランスを誘導するという性質は、ある種の免疫異常性疾患、特にI型アレルギー性疾患や自己免疫疾患の予防もしくは治療に応用できる可能性を示唆している。事実、疾患モデルマウスの系を用いてSEBを投与することで発症抑制が可能となったという報告がなされている。
キム(Kim C.)らは全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus;以下、「SLE」と称する)のモデルマウスであるMRL/lprマウスのループス腎炎が、SEBをあらかじめ投与しておくことにより発症を抑制できることを報告した(キム(Kim C.)ら、Journal of Experimental Medicine,1991,vol.174,p.1131)。またロット(Rott O.)らは実験的アレルギー性脳脊髄膜炎(Experimental Allergic Encepharomyelitis;以下、「EAE」と称する)の系で前もってSEBを投与し、SEB応答性のVβ8TCRを持つT細胞をトレランス状態にしておくことで発症が抑制できたことを報告した(ロット(Rott O.)ら、International and National Immunology,1991,vol.4,p.347)。これらの結果は、SEBをワクチン的に用いることで特定の自己免疫疾患の発症を予防できる可能性を示唆するものである。
しかしながらこれらの実験ではSEBの投与方法は静脈内もしくは腹腔内であり、投与量も1匹当たり100μg前後とかなり多い。このような投与量ではマウスに対して無視できない程度の病原性をもたらすことは必至であり、また抗原性や免疫原性も問題となる。特にスーパー抗原の大量投与は、前述のごとくT細胞亜集団や抗原提示細胞の一時的な活性化を引き起こし、炎症性サイトカインの産生亢進を招き、体内に急激な炎症状態を惹起するという問題がある。また桑畑らはヒトの場合、就学年齢以上の児童では血中にほぼ100%抗SEB抗体を保有し、更に、唾液等での解析から約50%に抗IgA抗体が検出されることを報告している(桑畑(M.Kuwahata)ら、Acta Pediatrica Japonica,1996,38,p.1−7)。また折口らはリウマチ患者血清中のIgM型抗SEB抗体が有意に高値を示すことを明らかにしている(折口(Origuchi)ら、Annals of the Rheumatic Disease 1995,54,p.713−720)。更に西らは、ヒト血清中の抗SEB抗体の主要エピトープがC端側に存在し、この領域に対する抗体はSEBの中和抗体であることを明らかにしている(西(Jun−Ichiro Nishi)ら、The journal of Immunology,1997,158,p.247−254)。このことはSEBをヒトに投与した場合、抗体によってSEBの生物活性が中和され、体内から排除されることを意味する。そこで西らは遺伝子工学的手法を用いてC端の主要エピトープを欠如した欠損変異体を構築した。しかしながら、このようにして調製したSEB改変体は不溶性にしか発現せず、充分な評価・解析ができなかった。また、薬剤としての安定供給にも対応できなかった。
本発明者らは、スーパー抗原の大量投与に関連する問題について、高度に精製したSEBを病原性を与えない投与量で連続的に長期間経口投与することにより、有効にトレランスを誘導する方策(特開平9−110704)、ならびにSEBの分子改変を行って本来のSEBの有する毒性を軽減しつつも、免疫異常性疾患の予防・治療に効果を発揮するSEB改変体およびそれらの誘導体を構築し、その有用性を証明してきた(WO99/40935)。
上記のようにSEBを天然のままでヒトに投与した場合、生体に存在する抗SEB抗体によってSEBの生物活性が中和され、最終的には体内から排除されてSEBによる所望の効果を期待できないという問題がある。そのため、遺伝子工学的手法を用いてSEBのC端の主要エピトープを欠如した欠損変異体も構築されているが、このようにして調製したSEB改変体は不溶性にしか発現せず、それゆえ充分な評価・解析ができておらず、薬剤としての安定供給にも対応できなかった。
(その解決方法)
本発明らは、上記のSEBの抗原性に関連する問題を回避するため、進化分子工学的手法(試験管内生物進化)を用いて鋭意研究したところ、天然型のSEBあるいは既知のSEB改変体にアミノ酸置換を導入し、これら改変体の中からスクリーニングすることによって、抗SEB中和抗体との結合性が減弱し、かつ大腸菌で可溶性に発現可能で水溶液中における安定性を保持し、さらに天然のSEBと同等の免疫異常性疾患の改善作用を保持したSEB改変体を調製することができた。
本願発明は、黄色ブドウ球菌腸管内毒素B(SEB)に対する中和抗体(抗SEB抗体)との反応性を低減させたSEB改変体を提供する。
(従来技術より有効な効果)
本願発明のSEBエピトープ改変体は、SEBに対する中和抗体との反応性が低減し、且つN23Y[SEBの23位のアスパラギン残基をチロシン残基に置き換えた変異体;WO99/40935(PCT/JP99/00638)]と同等のCIA(コラーゲン誘導性関節炎)症状改善効果があることが示された。更にこれらのエピトープ改変体は可溶性に分泌発現が可能であり、関節リウマチ、アレルギー性疾患等の免疫異常疾患の有効な予防・治療用剤としての使用が期待される。
図2は、本願発明のSEBエピトープ改変体の、抗SEB中和モノクローナル抗体SA58−2(A)、あるいはヒト抗SEB抗体(B)との反応性を示す。
図3は、本願発明のSEBエピトープ改変体でヒトPBMCを3日間刺激して、細胞の増殖応答をトリチウム−チミジンのカウントで測定した結果を示す。
図4は、本願発明のSEBエピトープ改変体でヒトPBMCを6日間刺激して、細胞の幼若化反応をフローサイトメトリーで測定後、幼若化の割合をパーセントで示す。
図5は、本願発明のSEBエピトープ改変体でヒトPBMCを2日間刺激し、培養上清中に分泌される各種サイトカインをELISA法で測定して得られた結果(B)、および該測定値を野生型SEBに対する相対値で表したもの(A)を示す。
図6は、本願発明のSEBエピトープ改変体についてマウスのコラーゲン誘導性関節炎(CIA)モデルで四肢の腫脹の抑制を評価した結果を示す。
図7は、本願発明のSEBエピトープ改変体についてマウスのコラーゲン誘導性関節炎モデルで骨破壊の抑制を評価した結果を示す。
図8は、本願発明のSEBエピトープ改変体を経口投与したマウスの血中の抗SEB抗体価(A)および抗47−C7抗体価(B)の測定値(450nmの吸光度の値)を示す。
SEBのアミノ酸配列中のアミノ酸置換部位として本願発明において特に好ましいのは、SEBのアミノ酸配列(配列番号1)中の226位のLysから229位のLysまでの領域である。
本願発明に従って抗SEB抗体との反応性を低減させたSEB改変体の具体例としては、SEBのアミノ酸配列中の226位から229位までのアミノ酸配列が以下のものが挙げられる:
本願発明によるSEB改変体はまた、上記アミノ酸置換とともにSEBのアミノ酸配列中の23位のAsnがTyrで置換されているものをも包含する。
本願発明はさらに、本願発明に従って得られるSEB改変体を主成分として含有し、SEBに対する免疫学的応答性を低下させ、T細胞活性化の抑制作用を有するものであることを特徴とする、免疫異常性疾患の予防・治療用剤をも提供する。免疫異常性疾患としては、たとえば、関節リウマチ、アレルギー性疾患、およびこれらに類似の疾患が挙げられる。
本願発明によるSEB改変体を調製するに際して採用した「進化分子工学的手法」とは、自然界における生物進化(自然淘汰)の過程(あるタンパク質中の1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換される確率は、およそ1回/1000万年であるといわれている)を試験管内で人為的に急加速させて有用なタンパク質等をデザインしようとするものであり、自然界では何万年とかかる進化(新機能獲得、機能向上等)を数ヶ月で行わせることが可能である。
本願発明では、抗SEB中和抗体との結合性の低減したSEB改変体を調製するため、抗SEB中和抗体によって認識されるSEB中のエピトープ部位においてアミノ酸置換をランダムに導入し、得られた改変体の中から抗SEB中和抗体との結合性の低減した改変体をスクリーニングした。上記のように、SEBの主要エピトープはC末端(225〜234位)に存在することがわかっているので、本願発明ではこのうち226〜229位の4アミノ酸残基でのアミノ酸置換を試みた。すなわち、SEBのアミノ酸配列中の226〜229位の4アミノ酸残基を天然の20種のアミノ酸で任意に置換した改変体を作製して試験管内で淘汰をさせる母集団とし、その中から抗SEB中和抗体との結合性の低減したSEB改変体をスクリーニングし、さらに大腸菌で可溶性に発現可能で水溶液中における安定性を保持していること、および天然のSEBと同等の免疫異常性疾患の改善作用を保持していることも確認した。
具体的には、本願発明のSEB改変体の構築はファージディスプレイライブラリー法を用いて以下のようにして行った。
(1)野生型SEBのファージディスプレイライブラリーの構築とSEBの抗原性の確認
まず、野生型SEBを提示したM13ファージを構築する。発現ベクター、たとえばpTrc99A(Amersham−Pharmacia社)に組み込まれた野生型SEB発現プラスミドを鋳型として、5’−プライマーにはSfiI認識配列を3’−プライマーにはNotI認識配列を付加したプライマーを用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅する。増幅産物を制限酵素SfiI−NotIで消化し、プラスミドに組み込み、大腸菌を該プラスミドで形質転換後、ヘルパーファージを感染させ、野生型SEBをファージg3蛋白との融合蛋白(SEB−g3融合蛋白)として提示したファージ粒子を発現させる。発現の確認は抗SEBウサギポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロットで確認することができる。
次にSEBを提示するファージを段階希釈して抗SEB中和モノクローナル抗体、ヒト血漿由来抗SEB抗体、および抗Etag抗体との反応性をELISA法で測定し、SEBがファージ上で抗原性を保持して提示されているかを調べればよい。
(2)ランダム変異ファージディスプレイライブラリーの構築
SEBまたは既知のSEB改変体のC端の226〜231位にランダムな変異を導入したランダム変異ファージディスプレイライブラリーを構築する。SEBまたは既知のSEB改変体を発現ベクターに組み込んだプラスミドを鋳型としてPCR法により226〜231位にランダムな変異を導入する。既知のSEB改変体としては、たとえば、SEBの23位のアスパラギン残基をチロシン残基に置き換えた変異体であるN23Y[WO99/40935(PCT/JP99/00638)]を用いることができる。
変異導入は、たとえば以下のようにして行う。5’−プライマーにはSfiI認識配列(完全長のSEBのN末端に相当する領域に対応)を付加し、3’−プライマーにはNotI認識配列を付加するとともに、226〜229位に相当する領域の各アミノ酸に対応したコドンにNNK(NはA、C、G、Tのいずれか、KはGまたはTの塩基を表す)を4回繰り返して組み込んだプライマーを用いて226〜229位に20種のアミノ酸が任意に発現するようにしたSEBランダム遺伝子を作製する。SEBランダム遺伝子をSfiI/NotIで処理後、プラスミドに組み込み、大腸菌を該プラスミドで形質転換して変異体のライブラリーを構築する。
この形質転換体ライブラリーにヘルパーファージを感染させ、SEBランダムをファージg3蛋白との融合蛋白として提示したファージ粒子を発現させる。
(3)SEB中和抗体低反応性SEB改変体のスクリーニング
抗SEB中和モノクローナル抗体に対する反応性、およびEtag発現効率を指標にして、上記ライブラリーを用いてスクリーニングする。抗SEB中和モノクローナル抗体としては、中和活性を有することが確認されているものとして、たとえばSA58−2(化学及血清療法研究所により作製)を用いることができる。具体的には、第一ステップとして、抗Etag抗体を固相化したプレートにランダム変異ファージディスプレイライブラリーを反応させて、SEB改変体融合蛋白(g3−Etag−SEB改変体)を可溶性に発現しているファージを選択する。第二ステップとして、抗SEB中和モノクローナル抗体を固相化したプレートに対して、第一ステップで選択したファージを反応させ、抗体と反応できないファージを回収する。得られたクローンを分離し、変異を導入したエピトープ部位の配列解析、g3融合蛋白の発現、発現部所、ヒト抗SEB抗体との反応性を解析する。
(4)抗SEB中和抗体低反応性SEB改変体の選択・評価
上記(3)で得られたクローンをさらに可溶性発現、発現量、抗SEB抗体との反応性を指標に解析を続け、幾つかのクローンまで絞り込みを行い、これらのクローンについて、抗SEBモノクローナル抗体、アフィニティー精製ヒト抗SEB抗体との反応性をサンドイッチELISAで評価する。
最後に、反応性の低下したクローンについて改変したエピトープ部位のアミノ酸配列の決定を行う。
以下に、実施例に従って本願発明を詳説するが、本願発明はこれら実施例に何等限定されるものではない。
SEBに対して特異性を有する中和モノクローナル抗体SA58−2(化学及血清療法研究所により作製)、および日本脳炎ウイルスに対して特異性を有するJF2抗体(化学及血清療法研究所により作製)を用いて、SA58−2抗体のSEB中和能の評価を行った。
健常人の末梢血単核球を1×105/ウエルとなるように96ウェルプレートに播種し、SEB(トキシンテクノロジー社製)を1ng/mLの濃度で添加し、同時にSA58−2抗体およびJF2抗体を0.05、0.5、5、50ng/mL加えて3日間刺激し、ハーベスト16時間前にトリチウム−チミジン(0.5μCi)を取り込ませて増殖誘導活性を調べた。
その結果、SEBによる増殖刺激活性はJF2抗体を50ng/mL添加しても抑制は認められなかったが、SA58−2抗体を添加した系では、5ng/mL以上添加した場合、80%以上の抑制効果が認められた(図1)。従って、SA58−2抗体はSEBのリンパ球活性化能を充分に抑制できる中和抗体であることが確認できた。
(1)野生型SEBのファージディスプレイライブラリーの構築とSEBの抗原性の確認
進化分子工学的アプローチを用いて抗SEB抗体との結合性を減弱させたSEB改変体の構築は以下のように進めた。まず、野生型SEBを提示したM13ファージを構築した。発現ベクターpTrc99A(Amersham−Pharmacia社)に組み込まれた野生型SEB発現プラスミド(pTrc99A/SEB)を鋳型として、5’−プライマーにはSfiI認識配列を3’−プライマーにはNotI認識配列を付加したプライマーを用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅した。増幅産物を制限酵素SfiI−NotIで消化し、pCANTAB5E(Pharmacia社)に組み込んだ。このプラスミドを「pCAN/SEB」と命名した。大腸菌TG1をpCAN/SEBで形質転換後、ヘルパーファージを感染させ、野生型SEBをファージg3蛋白との融合蛋白(SEB−g3融合蛋白)として提示したファージ粒子を発現させた。発現の確認は抗SEBウサギポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロットで確認した。
次にSEBを提示するファージを段階希釈して抗SEB中和モノクローナル抗体SA58−2(化学及血清療法研究所により作製)、ヒト血漿由来抗SEB抗体、抗Etag抗体(Amersham−Pharmacia社)との反応性をELISA法で測定し、SEBがファージ上で抗原性を保持して提示されているか調べた。SEB発現ファージを1×1010から10倍段階希釈して96ウェルプレートに添加し、抗SEB抗体、あるいは抗Etag抗体と反応させ、HRP標識二次抗体で発色させて吸光度を測定した。その結果、SEBはファージ上で天然な状態と同様の抗原性を保持して発現、提示されていることが確認された。
(2)ランダム変異ファージディスプレイライブラリーの構築
SEB改変体の一つであるN23Y[SEBの23位のアスパラギン残基をチロシン残基に置き換えた変異体:WO99/40935(PCT/JP99/00638)]をpTrc99Aに組み込んだプラスミドpTrc99A/N23Yを鋳型にして、PCR法にてC端の226〜229位にランダムな変異を導入した。変異導入は以下のようにして行った。
5’−プライマーにはSfiI認識配列(完全長のSEBのN末端に相当する領域に対応)を付加し、3’−プライマーにはNotI認識配列を付加するとともに、226〜229位に相当する領域の各アミノ酸に対応したコドンにNNK(NはA、C、GまたはTのいずれか、KはGまたはTの塩基を表す)を4回繰り返して組み込んだプライマーを用いて226〜229位に20種のアミノ酸が任意に発現するようにしたN23Yランダム遺伝子を作製した。N23Yランダム遺伝子をSfiI/NotIで処理後、pCANTAB5Eに組み込んだ。このプラスミドを「pCAN/N23Yランダム」と命名した。大腸菌TG1をpCAN/N23Yランダムで形質転換した結果、1.88×105種の変異体からなるライブラリーを構築できた。
この形質転換体ライブラリーにヘルパーファージを感染させ、N23Yランダムをファージg3蛋白との融合蛋白として提示したファージ粒子を発現させた。Etag抗体およびSA58−2抗体、アフィニティー精製ヒト抗SEB抗体との反応をELISAで解析した結果、N23Yランダムのファージ上への呈示率は野生型の1/20にすぎないが、SA58−2抗体、アフィニティー精製ヒト抗SEB抗体との反応性は1/200以下に低下していることを確認した。従って、ライブラリーを構成するN23ランダムの各抗体への反応性は野生型に比べ平均約1/10に低下していると考えられた。このことはこのライブラリー中にこれらのSEB抗体との反応性が低下した配列が充分に含まれていることを示していると考えられた。
(3)SEB中和抗体低反応性SEB改変体のスクリーニング
中和活性を有することが確認されている抗SEB中和モノクローナル抗体SA58−2に対する反応性、およびEtag発現効率を指標にして、上述のライブラリーを用いてスクリーニングを3回実施した。すなわち、第一ステップとして、抗Etag抗体を固相化したプレートにランダム変異ファージディスプレイライブラリーを反応させて、SEB改変体融合蛋白(g3−Etag−SEB改変体)を可溶性に発現しているファージを選択した。第二ステップとして、抗SEB中和モノクローナル抗体SA58−2を固相化したプレートに対して、第一ステップで選択したファージを反応させ、抗体と反応できないファージを回収した。この中から任意に48クローンを分離し、変異を導入したエピトープ部位の配列解析、g3融合蛋白の発現、発現部所、ヒト抗SEB抗体との反応性を解析した。
その結果、48クローン中30クローンがg3との融合蛋白として発現しており、その中で21クローンが培養上清中に発現可能であった。更に21クローン中10クローンはヒト抗SEB抗体と明らかに反応したが、残る11クローンの反応性は顕著に低下していた。
(4)抗SEB中和抗体低反応性SEB改変体の選択・評価
可溶性発現、発現量、抗SEB抗体との反応性を指標に更に解析を続けた結果、4−C1、4−C3、42−C2、42−C3、47−C3、47−C7、48−C1、48−C4の8クローンに絞り込まれた。これらのクローンについて、SA58−2抗体、アフィニティー精製ヒト抗SEB抗体との反応性をサンドイッチELISAで評価した。
発現蛋白量を併せて、両抗体に対する反応性を評価した結果、全てのクローンで反応性が低下していた(図2)。特に中和抗体であるSA58−2に対する反応性は、鋳型に用いたN23Yと比べてクローン42−C2や48−C1、48−C4で約1/30〜1/50、47−C7で約1/8、4−C1で約1/2に低下していた(表1)。精製ヒト抗SEB抗体に対する反応性では、同じく42−C2や48−C1、48−C4、また47−C7で約1/8程度、4−C1で約1/2〜1/4に低下していた(表1)。なお、これら抗SEB抗体との反応性を調べたクローンについては、エピトープ領域中のアミノ酸置換部位の配列も決定し、表1に示した。
以上の反応性を総合的に解析評価して、以下の実験には42−C2、47−C7、および4−C1を用いることとした。N23Yを鋳型としたこれらのSEB改変体を、以下、「エピトープ改変体」と総称する。
(1)エピトープ改変体の増殖ならびに幼若化誘導活性の評価
健常人の末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell;以下、「PBMC」と称することがある)を1×105/ウエルとなるように96ウェルプレートに播種し、SEB、N23Y、SEBエピトープ改変体を0.01、1、100、1000ng/mLの濃度で3日間刺激し、ハーベスト16時間前にトリチウム−チミジン(0.5μCi)を取り込ませて増殖誘導活性を調べた。また、上記PBMCを各々同濃度のSEB改変体存在下で中期間(6日間)培養し、T細胞の幼若化の程度をフローサイトメトリー(以下、「FACS」と称することもある)のFSC/SSC解析により調べた。
その結果、SEBは0.01ng/mL以上でPBMCに対し濃度依存的に強い増殖誘導活性を示した。代表例を図3に示す。N23YはSEBより増殖誘導活性はかなり弱く、100ng/mL以上でトリチウム−チミジンの取り込みが検出されはじめ、1000ng/mLでもSEBの1/10程度のカウントであった。エピトープ改変体は更に増殖誘導能が低下していた(図3)。また、幼若化誘導活性ではN23Yは1ng/mL以上で10−30%の細胞に有意な幼若化を誘導したが、42−C2および47−C7の誘導活性はN23Yの約1/10程度であった。4−C1はN23Yとほぼ同等であった(図4)。これらの成績から、エピトープ改変体はエピトープに変異を導入しても、インビトロでヒトPBMCに対する増殖誘導能や幼若化誘導能において、N23Yとほぼ同等の生物活性を有していることが明らかとなった。
(2)エピトープ改変体のサイトカイン誘導活性の評価
健常人のPBMCを1×106/mLで24ウエルプレートに播種し、SEB、N23Y、およびエピトープ改変体の0.01、1、100、1000ng/mLで2日間刺激後、上清を回収した。この培養上清の種々のサイトカイン(TNF−α、IL−1β、IL−6、IL−8、IL−12、IFN−γ、IL−1ra、IL−4、IL−10、GM−CSF)産生をELISAキット(CytoSets、CytoFix、旭テクノグラス社)を用いて測定した。
その結果、エピトープ改変体はN23Yと同様、SEBに比べサイトカイン産生能は低く、サイトカイン誘導パターンはN23Yと同様の傾向を示した。すなわち、抑制性サイトカインIL−1ra、IL−10、IL−4産生は相対的に有意に高く、炎症性サイトカインIL−1β、IL−6、TNF−α、IL−12、GM−CSF、IFN−γの誘導は低かった。SEB100ng/mL刺激時のサイトカイン誘導活性を100%としたときのエピトープ改変体(100ng/mL)の相対活性を図5に示す。エピトープ改変体はインビトロでヒトPBMCに対するサイトカイン誘導能においてN23Yと同等の生物学的活性を有していた。
また、図5に示す結果から明らかなように、SEBと比較してN23Yやエピトープ改変体ではIFN−γの誘導が顕著に抑制され、それに対して抑制性サイトカインIL−4、IL−10の産生は相対的に高いことから、SEB改変体はT細胞ポピュレーションをTh1からTh2へシフトさせる活性を有していると考えられた。
マウスのコラーゲン誘導性関節炎(CIA)モデルでN23Yおよびエピトープ改変体の薬効を評価した。7週齢のDBA/1J雄マウスの尾根部にフロイントのコンプリートアジュバント(FCA)を用いて、ウシII型コラーゲンをマウス当たり100μgで感作した。3週後に再度同抗原で追加感作して関節炎を誘導した。追加感作1週後に各マウスの四肢を観察し、関節炎の発症程度をスコア化した。スコア化は以下のように行った。各四肢について、未発症:0点、指が1本腫脹:1点、指が2〜4本腫脹あるいは肢の甲が腫脹:2点、全ての指が腫脹あるいは激しい腫脹:3点。四肢の合計点数を算出し(最高12点)、当該マウスの関節炎スコアとした。関節炎のスコアが1〜4点の軽度のマウスを選別して群を構成し、薬剤を経口投与した。薬剤は10μg/マウスでゾンデを使って4週間連日投与した。薬剤投与開始から1週間に2度スコアを付け、関節炎の程度を観察した。投与終了後に四肢の関節をソフトX線で撮影して、骨びらんの程度をスコア化して骨破壊に対する作用を評価した。
その結果、生理食塩水投与のコントロール群に比べて4−C1および47−C7の各エピトープ改変体は関節炎症状を有意に抑制した。42−C2では抑制は認められなかった(図6)。また、47−C7および4−C1では骨破壊の抑制効果も観察された(図7)。
(2)エピトープ改変体投与による抗SEB抗体の惹起
試験終了後に全採血し、血中の抗SEB抗体価をELISA法にて測定した。その結果、47−C7投与群は薬剤無投与群、コントロールの生理食塩水投与群と同程度の値を示し、免疫原性が低減されていることが明らかとなった(図8(A))。また、47−C7改変体は、この蛋白自身に対する抗体誘導も低く、エピトープを改変した配列が新たな抗原エピトープとなっている可能性は低いと思われた(図8(B))。
Claims (4)
- 黄色ブドウ球菌腸管内毒素B(SEB)の226位から229位までのアミノ酸配列がAlaThrThrGlnまたはLysArgIleIleに置換されていることを特徴とする、SEBに対する中和抗体(抗SEB抗体)との反応性を低減させたSEB改変体。
- SEBのアミノ酸配列中の23位のAsnがTyrで置換されている、請求項1 に記載のSEB改変体。
- 請求項1または2に記載のSEB改変体を主成分として含有し、SEBに対する免疫学的応答性を低下させ、T細胞活性化の抑制作用を有するものであることを特徴とする、関節リウマチの予防・治療用剤。
- 経口投与剤である、請求項3に記載の関節リウマチ予防・治療用剤。
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