JP3554319B2 - ペプチドp277類似体及びこれを含む糖尿病の治療又は診断のための薬剤組成物 - Google Patents

ペプチドp277類似体及びこれを含む糖尿病の治療又は診断のための薬剤組成物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はヒト60kDa熱ショックタンパク質(hsp60)のエピトープの変形である新規ペプチド、これを含む薬剤組成物及びこのようなペプチドを用いたインシュリン依存性糖尿病(IDDM)の診断及び治療方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
I型糖尿病、即ちIDDMは膵臓の小島に存在するインシュリン生産性β−細胞を攻撃し、破壊するT細胞に起因する自己免疫疾患である(カスタノ及びアイゼンバース、1990年)。IDDMにおいて完結する自己免疫過程は症状を発現することなく始まり、進行する。この疾患はβ−細胞の累積的損失量がインシュリンを供給する残余β−細胞の容量を越えた場合にのみ臨床的に表面化する。実際、グルコース恒常性の破壊及び臨床的なIDDMは80−90%のβ−細胞が免疫系により不活性化された後にのみ生じると考えられている。従って、IDDMに罹患したと特定することができる患者はβ−細胞の自己免疫による破壊の進行した段階に至る。さらに、自己免疫マーカーによる初期の前臨床的な糖尿病の診断は自己免疫過程が開始した後にのみ行うことができる。従って、治療法を探索するということは、既に進行している自己免疫過程を停止する安全、明確且つ有効な方法を見出すことである。
【0003】
以前、本発明者は、ヒトIDDMの忠実なモデルと考えられるNOD種のマウスに進行している自然発症性糖尿病の研究によりこの問題を検討した(カスタノ及びアイゼンバース、1990年)。NODマウスは生後約4週でインシュリン炎を発症し、これは小島周辺部の穏やかな浸潤として開始し、重篤な小島内の炎症という過程をたどる。インシュリン不足を証明する高血糖症は本発明者のコロニーのメスでは生後約14−17週で始まる。生後約35−40週までに殆ど全てのメスNODマウスは重篤な糖尿病を発症し、インシュリン療法を行わなかった場合殆ど死亡する。オスNODマウスは低い罹患率を示すがその理由は明らかでない。NODマウスの糖尿病は自己免疫T細胞に起因することが示されている(ベンデラックら、1987)年。
種々の抗原に対するT細胞の反応性及び自己抗体は、NODマウスの場合と同様に、ヒトIDDM患者においても検出されており、可能な標的抗原に対する免疫がこの疾病の主たる原因であるかは明らかではない。治療の問題は因果関係の問題の背後にある。
NODマウスにおける自己免疫過程の開始は、糖尿病の始まる前に、マウスを食事制限、ウイルス感染又は免疫系の不特定な刺激のような種々の操作の対象とすることにより防止することができることが示されている(ボウマンら、1994年)。NOD糖尿病は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)抗原に対する免疫寛容を前糖尿病マウスに誘発することにより防止される(カウフマンら、1993年;ティッシュら、1993年)。
【0004】
以前、本発明者はNODマウスの糖尿病は、ヒトhsp60分子のp277ペプチド配列に特異的なT細胞を用いたT細胞のワクチン接種により防止されることを見出している(エリアスら、1991年)。このタンパク質は以前はhsp65と称されていたが、現在は分子量に関するより正確な情報を参照してhsp60と称されており、いずれの名称を用いてもタンパク質は同一である。
IDDMに関与するヒトhsp60のエピトープであり、ヒトhsp60の配列の位置437−460に対応するp277ペプチドは本出願人のイスラエル特許出願第94241号及びエリアス及びコーエン、1994年において最初に開示され、以下のような配列を有する。
Figure 0003554319
インシュリン炎の開始時にp277ペプチドを投与すると、おそらくNOD糖尿病に必須の抗−p277免疫の抑制するように規制することにより、糖尿病の進行を防止することが示されている(エリアスら、1991年;イスラエル特許出願第94241号)。最近の研究により、p277ペプチドはβ−細胞自己免疫の段階の進行を逆転するために用いることもできることが示されている(エリアス及びコーエン、1994年)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
最近、本発明者の研究室は、かなり少量のβ−細胞毒素であるストレプトゾトシン(STZ)の投与により、自己免疫糖尿病の形態をマウスのC57BL/KsJ種に誘発することができることを報告した(エリアスら、1994年)。標準少量のSTZの40mg/kgを5日間投与すると通常3週間以内に臨床的な糖尿病を誘発するが、30mg/kgを5日間投与すると約3ヶ月の遅滞期間後にのみ臨床的な糖尿病が誘発される。この誘発された糖尿病のモデルは、インシュリンに対する自己抗体、インシュリン自己抗体に対する抗−イディオタイプ抗体及びhsp60に対する自己抗体の前兆期間内の外観により標識される。また、マウスもhsp60及びそのp277ペプチドに対する自然的なT−細胞活性を明らかに示す(エリアスら、1994年)。従って、STZの標準少量より少ない量の投与により、NODマウスにおいて進行する自然発症的な糖尿病において観察されるものとは異なるものでなく、自己免疫過程の引き金を引くということは明らかである(エリアスら、1990年)。
本発明の目的は、ペプチドp277の変異体を提供するものであり、この変異体はIDDMの診断及び治療に有用である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
ペプチドp277のフラグメント及び変異体の研究において、単一のスレオニン残基がリジン残基に置換され及び/又は1又は両方のシステイン残基がバリン残基により置換されたペプチドは糖尿病の治療においてp277としての活性を有するということが思いがけなく見出された。セリン残基によるシステイン残基の置換は不活性なペプチドをもたらすので、これらの結果は驚くべきことであった。
即ち、本発明は配列Iを有するペプチドに関するものである。
Figure 0003554319
(式中、X及びXは各々Cys又はVal残基であり、XはThr又はLys残基であるが、XがThr残基である場合、X及びXの両方がCysであることはできない。)
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の具体的実施例は、配列Iを有し、X及びXの両方がCysであり、XはLysであるp277(Lys19)(配列番号(SEQ ID NO):3)、XがValであり、XがCysであり、XがThr又はLysであるp277(Va16)(配列番号(SEQ ID NO):4)及びp277(Val−Lys19)(配列番号(SEQ ID NO):5)、XがCysであり、XがValであり、XがThr又はLysであるp277(Val11)(配列番号(SEQ ID NO):6)及びp277(Val11−Lys19)(配列番号(SEQ ID NO):7)、XとXの両方がValであり、XがThr又はLysであるp277(Val−Val11)(配列番号(SEQID NO):8)及びp277(Val11−Lys19)(配列番号(SEQ ID NO):9)のペプチドからなる。p277(Val−Val11)はp277(V)と称する。
【0008】
本発明の他の目的は本発明の配列Iのペプチドを用いたIDDMの早期の診断方法及びキットを提供することである。IDDMが進行する過程において、動物はhsp60分子又はこれと交差反応する分子を発現し、これは動物の血液又は尿にたどり着く。また、これらはこのような分子を特異的に対象とする抗体及びT細胞を発現する。従って、血液又は尿中のhsp60(又はこれと交差反応する分子)又は抗体又はこれと特異的なT細胞は、β−細胞の破壊が完結し、個体が生涯糖尿病を運命づけられる前にIDDMの過程を検出するためのアッセイの目的にかなう。
患者中のIDDMの存在又は開始は、前記患者の血液又は尿についてヒトhsp60と免疫学的に反応する抗−hsp60抗体又はT細胞の存在を抗原としての本発明の配列Iのペプチドでテストすることにより診断することができる。実際、ペプチドp277が使用可能であると従来より記述されているいかなる方法、例えば、WO90/10449で国際公開されているPCT国際出願に記載されている方法であって、引用により本明細書に一体化される方法は、本発明の配列Iのペプチドをp277の代用とする場合に使用することができる。
従って、本発明は患者におけるIDDMの存在及び開始を診断する方法であって、前記患者についてhsp60と免疫反応する抗−hsp60抗体又はT細胞の存在をテストして、これによってhsp60と免疫的に反応する抗−hsp60抗体又はT細胞の存在が陽性を示す結果がIDDMの存在又は開始の可能性が高いことを示す方法を提供する。
【0009】
IDDMの診断をするための方法においては、患者は抗−hsp60抗体の存在がテストされ、このテスト法はラジオイムノアッセイ又はELISAテストを含むことができる。
患者はhsp60と免疫反応するT細胞の存在をテストされることもできる。この形態の実施例においては、テスト方法はT細胞増殖テストを含み、このT細胞増殖テストは
(i)患者から得られた血液サンプルからT細胞を含む非核細胞フラクションを調製し、
(ii)前記非核細胞フラクションに請求項1記載のペプチドから選択された抗原を加え、
(iii)前記抗原の存在下で適切な時間、適切な培養条件で前記細胞フラクションを培養し、
(iv)前記培養時間の終了前の適切な時点で(iii)の培養された細胞のカルチャーに対し標識されたヌクレオチドを加え、前記標識されたヌクレオチドを増殖しているT細胞のDNAに取り込ませ、
(v)前記T細胞に取り込まれた標識されたヌクレオチドの量を分析することにより増殖しているT細胞の量を決定する工程を含む。
上記の工程(iv)においては、前記標識されたヌクレオチドは好ましくはH−チミジンである。増殖しているT細胞の量の決定は標準的な方法でT細胞の刺激指数を計算することにより行われる。
【0010】
本発明のこの形態の他の実施例においては、テスト方法はT−細胞サイトカイン応答テストを含み、これにおいてはステップ(i)から(iii)は上記T細胞増殖テストと同一であるが、ステップ(iv)において応答しているリンパ細胞により培地中に分泌されたIFN−γ、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、TNFα又はTGFβのようなサイトカインが商業的に入手可能なキットで標準的な方法で検出される。
他の形態においては、本発明は配列Iのペプチドから選択される抗原が患者に皮下注射され、検出可能な皮膚反応(DTH)の発生が観察されるインヴィヴォ系の方法を提供する。
【0011】
また、本発明はこのようなアッセイを実行するためのキットとともに、このようなアッセイを実行する手段を提供する。キットは本発明を達成するために用いられる種々のアッセイのいずれかを実行するために調製することができる。このようなキットの各々は単一のアッセイ又は所定数のアッセイを実行するのに必要な全ての物質を含む。例えば、抗−hsp60抗体の存在を決定するキットは固相に固定された配列Iのペプチドと、標識された抗−ヒトFabのような検出される抗−hsp60抗体の不変領域を認識することができる標識された抗体とを含む。また、キットはキットを使用するための説明書とキットの物質を保持するための容器を含んでもよい。ラジオアイソトープ、酵素、発色団又は発蛍光団のような従来からある標識を用いることができる。典型的なラジオアイソトープはヨウ素−125又はイオウ−35である。本目的のための典型的な酵素はホースラディッシュペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ及びアルカリホスファターゼを含む。
【0012】
抗−hsp60抗体の存在をテストすることによりIDDMの存在を診断するキットは、
(i)配列Iのペプチドから選択される抗原と、
(ii)検出される抗−hsp60抗体の不変領域を認識することができる標識された抗体とを含む。
hsp60と免疫反応するT細胞の存在をテストすることによりIDDMの存在を診断するキットは、
(i)配列Iのペプチドから選択される抗原と、
(ii)リンパ細胞(T細胞)の培養に適した培地と、
(iii)T細胞増殖テストのための標識されたヌクレオチド又はサイトカインテストのためのIFN−γ、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、TNFα又はTGFβのようなサイトカインとアッセイキットのいずれかを含む。インヴィヴォ系のテストのためにはキットは注射に適した形態の配列Iのペプチドのみを含むことができる。
【0013】
更に、本発明はIDDMの予防又は治療のための手段に関する。本発明の配列Iの抗原ペプチドのワクチン接種は抗原に対する自己免疫を下降調節し、IDDMの自己免疫過程に対する抵抗性を有効に作り出す。このような抗原に特異的なT細胞によるワクチン接種が、希釈化又は弱毒化された形式による場合、抗原性を向上させるために処理された後である場合、又はそのフラグメント又は活性フラクションである場合でも同一である。患者が既にIDDMの前臨床的な開始段階にあると示されている場合、このような抗原又はT細胞(又はフラクション)はこの抗原に対する自己免疫を下降調節し、明確で恒久的な損失が生じる前に自己免疫過程を抑止することができる。また、ペプチドp277によるNODマウスの治療に関し本発明の発明者が最近示したように(エリアス及びコーエン、1994年)、ペプチドは自己免疫過程がはるかに進行した後であってもこれを停止するための治療剤として用いることができる。
【0014】
従って、本発明はインシュリン依存性糖尿病(IDDM)の予防又は治療のための調製物を提供するものであり、この調製物は(a)ヒトhsp60のp277配列の特異性を明らかにし、配列Iのペプチドの存在下で培養されることにより活性化されるヒトT細胞、(b)放射されさもなければ希釈された前記ヒトT細胞、(c)水圧による圧力処理、化学架橋剤による処理及び/又は細胞骨格架橋剤による処理を受けた前記ヒトT細胞、(d)上記(a)(b)又は(c)のT細胞のフラグメント又は(a)(b)又は(c)のT細胞から得られた表面タンパク質又は(e)前記タンパク質、その塩、機能的誘導体、前駆体又は活性フラクションに特異的な(a)のリセプターの可変領域からなるペプチドから成る群から選択されるT細胞生産物を含む。
この発明の好ましい実施例においては、調製物は処置されるIDDM患者から得られた同原T細胞であり、このT細胞は配列Iの前記ペプチドとインヴィトロ系で接触させることにより活性化される。このような特異的で活性化されたT細胞は、細胞を得た同一の患者に投与される。
【0015】
また、本発明は薬剤学的に許容可能な担体と、有効量の主剤としての配列Iのペプチド、その塩又はその作用的誘導体とを含むIDDMを予防又は治療するための薬剤組成物を提供する。薬剤学的に許容可能な担体とは、好ましくは、不完全フロインドアジュバント(IFA)として知られるミネラルオイルのエマルジョンのようなオイル担体である。しかしながら、IFAは、完全フロインドアジュバント(CFA;マイコバクテリアの死滅した組織を含むミネラルオイルの調製物)と同様、ヒトに対する使用は認められない。その理由はミネラルオイルは代謝可能でなく、身体により分解されることができないからである。
本発明者は、ヒトの患者に対し静脈内栄養として永年使用されてきた特定の脂肪エマルジョンが本発明のペプチドを用いたペプチド療法の担体として機能することができることを見出した。このようなエマルジョンの例は、イントラリピッド及びリポフンディンとして知られている商業的に入手可能な脂肪エマルジョンである。”イントラリピッド”は静脈内栄養のための脂肪エマルジョンに対するスウェーデンのカビ・ファーマシアの登録商標であり、米国特許第3,169,094号に記載されている。リポフンディンはドイツのビー・ブラウン・メルシュンゲンの登録商標である。両方とも脂肪としてダイズ油(蒸留水1000ml中各々100又は200g、各々10%又は20%)を含む。卵黄リン脂質はイントラリピッド中で乳化剤として用いられており(12g/l蒸留水)、卵黄レシチンはリポフンディン中で用いられている(12g/l蒸留水)。イントラリピッド及びリポフンディンの両方において、等張性はグリセロール(25g/l)の添加による。
更に、本発明はIDDMの予防又は治療方法に関し、この方法は配列Iのペプチドを含む薬剤組成物又は本発明の配列Iのペプチドに対し特異性を発現するT細胞を含む調製物をこれを必要とする患者に投与することを含む。
【0016】
本発明において”配列Iのペピチド”という場合、ペプチドの糖尿病に対する生物活性が維持される限り、その塩及び作用的誘導体も意味する。
本発明で意味するペプチドIの”塩”は生理学的に許容され得る有機及び無機塩である。
本明細書中で用いられるペプチドIの”作用的誘導体”は、残基又はN−又はC−末端の側鎖として現れる官能基から公知の手段により調製されることができる誘導体を含み、これは薬剤的に許容可能である、即ち、p277の公知の活性の類似性に関する限りペプチドの活性を破壊せず、これを含む組成物に毒性を与えず、その抗原性に不利な影響を与えない限り、本発明に含まれる。このような”作用的誘導体”は1個のアミノ酸を他に有効に変換する変化を含むものと意図されない。
上記の資質を前提として、これらの誘導体は、例えば、カルボキシル基の脂肪酸エステル、アンモニア又は第1級又は第2級アミンとの反応により生産されるカルボキシル基のアミド、アシル部分(例えば、アルカノイル又はカルボサイクリックアロイル基)との反応により形成されるアミノ酸残基の遊離アミノ基のN−アシル誘導体又はアシル部分との反応により形成される遊離ヒドロキシル基(例えば、セリル又はスレオニル残基のそれ)のO−アシル誘導体を含む。
本発明の配列Iのペプチドは、IDDMの診断のための診断用組成物における抗原と同様に、薬剤組成物における免疫原、特にIDDMの軽減又は治療のためのワクチンとして用いることができる。これらの薬剤及び診断用組成物は、本技術分野における公知の方法により調製することができるものであるが、本発明の一部をなす。
【0017】
治療のための処置のため又は予防ワクチンとして用いられる場合、本発明のペプチドは自己免疫T細胞のTH1→TH2のシフトを促進する生物活性を有する担体とともに投与されることが好ましい。CD4ヘルパー型のT細胞は活性化された場合に分泌するサイトカインにより2つのグループに分類される(モスマン及びコフマン、1989年)。TH1細胞はIL−2及びIFN−γを分泌し、TH2細胞はIL−4及びIL−10を分泌する。このような担体は10−20%の植物及び/又は動物起源のトリグリセライド、1.2−2.4%の植物及び/又は動物起源のリン脂質、2.25−4.5%の浸透圧調整剤、0−0.5%の抗酸化剤及び100%までの蒸留水を含む脂肪エマルジョンであることが好ましい。このような担体はイントラリピッド又はリポフンディンであることが最も好ましい。このような担体の使用は、本発明についてのイスラエル特許出願(出願人の参照番号9451Aにより特定される)と同日に本出願と同一の出願人により出願人されたイスラエル特許出願(出願人の参照番号9523により特定される)に記載されており、この内容は全体として本明細書中に一体化される。
本発明による治療用の組成物は経口的に又は皮下、筋肉内、静脈内、鼻腔内などのように非経口的に投与することができる。
本明細書中の実施例はヒトIDDMの科学的に受け入れられる動物モデルにおいて本発明の化合物及び組成物による治療上の処置の有効性を確立するものである。
【0018】
【実施例】
物質及び方法
(i)マウス NOD/Lt種のインブレットメスマウスは、イスラエル、レホヴォトのウィズマンインスティチュートオブサイエンスのアニマルブリーディングセンターより提供された。これらのマウスは生後14から17週でヒトのIDDMに類似する自己免疫性糖尿病を自然発症する。
(ii)ペプチド ペプチドはABIMED合成器(FRG)を用いた標準フェモック化学により合成され、逆相クロマトグラフィーによりHPLCで精製された。配列はアミノ酸分析により確認された。以下のようなペプチドが合成された。p277ペプチド;配列:Asn−Glu−Asp−Gln−Lys−Ile−Gly−Ile−Glu−Ile−Ile−Lys−Arg−Thr−Leu−Lys−Ile(配列番号(SEQ ID NO):10)のコントロールペプチドp278、ヒトhsp60分子の458−474の位置に対応;p277のフラグメント:p277のアミノハーフ(p277.N)、p277のカルボキシハーフ(p277.C)、及びp278と結合しているp277C(p277.C−p278);ペプチドp277(Lys19);配列中の2つのシステイン残基が種々のアミノ酸で置換されたペプチドp277は以下の通りである:−SH基で架橋されたp277(p277(Cys−Cys架橋));両方のシステイン残基がバリンで置換されたp277(p277(Val−Val11))又はセリンで置換されたp277(p277(Ser−Ser11))。
【0019】
(iii)処置及び追跡 マウスは、p277、他のペプチド又はウシ血清アルブミン(BSA,USA,MO,セントルイスのシグマから購入)のエマルジョン0.1mlを背中に皮下注射するにより処置された。抗原はPBS中で希釈され、同量のミネラルオイル(不完全フロインドアジュバント(IFA);シグマ)又は10%のイントラリピッド中で乳化された。マウスの血中グルコースレベルはエリアスら、1991年に記載されているように、10A.M.の非絶食状態、治療時(生後7、12、15又は17週)及び生き残ったマウスについては生後40週でテストされた。グルコース濃度が11.1mM/L以上の場合に明確な高血糖症であるとされた。その理由は、この濃度の血中グルコースは100匹の健康なマウスで測定された平均血中グルコース濃度より高い3つの標準偏差だからである(示さず)。膵臓の小島の組織学的検査はヘマトキシリン及びエオシンで着色された部分について行われた。この部分は群の特性を知らない2人の観察者により別個に評価された。種々の処置の統計的な差異を明らかにするためχテストが用いられた。
(iv)T−細胞増殖アッセイ メスNODマウスから得られたクローンC9細胞及び脾臓細胞のサスペンションが前述のように(エリアスら、1991年)T−細胞増殖が試験された。簡単に言うと、1×10個クローン細胞/ml又は1×10個脾臓細胞/mlが、5μg/mlの種々の抗原の存在下又は不存在下で、マイクロタイターウェル中の0.2mlの培養培地中で72時間4組にわたって培養された。増殖は、培養の最後の12時間の[H]−チミジンのDNAへの取り込みにより測定された。結果は刺激指数、即ち抗原存在下における平均テストcpmの抗原不存在下における平均バックグラウンドcpmに対する比として計算された。4組のサンプル間における標準偏差は常に平均cpmの<10%であった。脾臓細胞の実験におけるバックグラウンドは<1000cpmであり、C9細胞については<200cpmであった。各々のマウスの脾臓は別々にテストされた。各々のグループのマウスの結果は平均±SDとして示されている。
【0020】
実施例1
p277又はこのフラグメントによるNODマウスの治療
p277ペプチドの2つの12−アミノ酸ハーフのいずれかが、単独であるいは結合して、p277のようにNODマウスにおいて有効であるかどうかをテストするため、メスNODマウスは生後7週の時点で、オイル中の種々のペプチド50μgを皮下接種することにより治療された。生後40週までのマウスの状態が決定された。
結果を表1に示す。コントロールhsp60ペプチドp278は糖尿病の進行に効果を有しなかったことが分かる。即ち、治療された40匹のマウス中、全てが糖尿病であり、90%が生後40週までに死亡した。これに対して、p277ペプチドは死亡を完全に防止し、20匹の処置したマウスの60%を治療した。p277のフラグメントはそれほど有効ではなかった。即ち、p277のアミノハーフ(p277.N)、p277のカルボキシハーフ(p277.C)及びこれらの混合物(p277.N,p277.C)は、完全なp277の約半分の作用を果たした。ペプチドp277.Cはペプチドp278に結合して合成され、長いペプチドを生産する。しかしながら、p277.C−p278はp277.C単独よりも良い結果を示さなかった。従って、完全な治療上の効果を得るためには完全な、p277ペプチドが必要であると結論することができる。
【0021】
【表1】
Figure 0003554319
【0022】
実施例2
p277置換ペプチドによるNODマウスの治療
以下のペプチドがNODマウスでテストされた。p277、p277(Cys−Cys架橋)、p277(Val−Val11)及びp277(Ser−Ser11)。
NODメスマウスはミネラルオイルのエマルジョン(IFA)0.2cc中の100μgのペプチドを皮下投与することにより治療された。マウスは生後12週で処置され、糖尿病の罹病率が生後30週の時点で決定された。
表2に示すように、p277(Val−Val11)は糖尿病の治療においてp277と同じように有効であり、未処置のマウスの糖尿病の罹病率は80%であるが、p277及びp277(Val−Val11)で処置されたマウスは各々22%及び23%の罹病率を示した。一方、p277(Cys−Cys架橋)またはp277(Ser−Ser11)のいずれも治療上の効果を奏しなかった。位置6及び11におけるシステイン残基がアラニン又はγ−アミノブチル酸残基で置換された2つの追加のp277の変異体もまたクローンC9細胞及びNOD脾臓T−細胞の双方でインヴィトロでテストした場合有効でなかった。これらの2つのペプチドは抗−p277特異的T細胞(示さず)により認識されなかったので、これらは治療効果のためのインヴヴィヴォテストには供されなかった。
【0023】
【表2】
Figure 0003554319
【0024】
実施例3
p277(Val −Val 11 )の安定性
システインを置換する理由は、p277ペプチドの安定性の問題であったので、p277(Val−Val11)の安定性が合成後のいくつかの時点でテストされた。p277ペプチドは不安定であり、厳格な条件(真空中の凍結乾燥パウダー、−20℃)においても悪化する。
p277の安定性をそのp277(Val−Val11)類似体と比較するため、両方のペプチドが同時に合成され、乾燥粉末として−20℃で貯蔵された。合成日の1、9及び20週後、アリクウォットが計量され、溶解され、テストされた。ペプチドの安定性はT細胞クローンC9を刺激する能力により評価された。図1は実験の結果を示す。元のp277は合成後9週間以内にほとんどの効果を失い、20週までに全ての効果を失うが、p277(Val−Val11)は20週間の貯蔵の後でも変化しないことが分かる。
p277の不安定性はシステイン残基に起因すると考えられるので、p277の生物活性を保持する本発明の全ての類似体は、p277(Val−Val11)の例で示されたのと同様の方法で、p277よりも優れた安定性を有することが期待される。
【0025】
実施例4
p277又はp277(Val −Val 11 )によるNODメスマウスの治療はインシュリン炎を逆転する
NODメスマウスは、生後12週で、ミネラルオイルのエマルジョン(不完全フロイントアジュバント)0.1cc中の改変されていないp277又はp277(Val−Val11)を100μg/マウスだけ皮下投与することにより治療された。コントロールマウスはPBS及びミネラルオイルのエマルジョンを投与された。生後6ヶ月で各々の群の5匹のマウスが犠牲にされ、膵臓が摘出され、ブワン固定液中で固定され、その部分がヘマトキシリン、エオシンで着色された。インシュリン炎はブラインド法で評価された。コントロールマウスでは重篤な糖尿病が進行したので、これらのマウスは生後5ヶ月で犠牲にされた。その時までに、コントロールマウスの血中グルコースレベルは29−48mmol/Lの範囲であった。結果を表3に示す。
【0026】
【表3】
Figure 0003554319
【0027】
生後12週、即ち処置の時点において、未処置のマウスの小島の約60%が小島内のインシュリン炎を示し、約20%の小島が小島周辺部のインシュリン炎を有し、約20%の小島はインシュリン炎を示さなかった。小島内の浸潤はβ細胞の作用の欠如に関連したインシュリン炎の重篤の形態であると考えられる。表3に示すように、小島部の外観の顕著な分岐は、オイル単独で処置されたコントロールマウスと比較して処置された2つの群において発達した。オイルで処置を受けたマウス(コントロール)では影響を受ヶなかった小島部の比率が斬新的に下降し、生後22週、即ち全てのマウスが明らかな糖尿病となる時点までには、わずか10%の正常な小島部を観察することができるだけであった。小島部の約67%は22週の時点で小島内のインシュリン炎を示し、残りの23%の小島部は小島周辺部のインシュリン炎を示した。対照的に、p277又はp277(Val−Val11)で処置されたマウスは正常な小島の数の上昇(25%から52%の間)及び小島内にインシュリン炎を有する小島の数の下降(6%から17%の間)を示した。小島周辺部のインシュリン炎を起こしている小島は約31%−69%にまで上昇した。従って、p277及びp277(Val−Val11)による治療は、治療後3ヶ月以上持続するインシュリン炎の程度の逆転と関連する組織学上の描写の改善に関連する。
【0028】
メスNODマウスにおけるp277(V)の使用の他の結果
15の他の実験が行われ、これにおいては10匹のNODメスマウスの群の各々が生後12−15週でオイル中のp277(V)又はオイル単独で処置された。オイル単独で処置された150匹のマウスの総数の内、90%で糖尿病が進行し、85%が生後32週までに死亡した。対照的に、p277(Vで処置されたマウスはわずか50%(p<0.01)の罹病率を示しただけであり、わずか20%が重篤な糖尿病で死亡しただけであった(p<0.01)。従って、p277(V)による後期の治療は致命的な糖尿病の進行を停止させるのに有効であった。
【0029】
実施例5
油性エマルジョン中のp277(Val −Val 11 )を用いたI型糖尿病のペプチド療法
膵臓のインシュリン生産性β−細胞の自己免疫による破壊はT−リンパ球により行われる。炎症性浸潤は生後5−8週で膵臓の小島周辺部で発達し、インシュリン欠乏症及び完全な糖尿病をもたらすβ細胞の破壊は生後14−20週で認められるようになり、生後35−40週までにはほとんど100%のメスNODマウスは影響を与える。
NODメスマウスは、PBS、又は10%の大豆オイル、1.2%の卵リン脂質及び2.25%のグリセロールからなる10%の油性エマルジョン(イントラリピッド、カビファーマシアAB、スウェーデン)0.1ml中の100μgのペプチドp277(Val−Val11)をマウスごとに皮下投与することにより処置された。
生後6ヶ月での糖尿病の罹病率及び抗−p277(Val−Val11)抗体の生産は以下の通りであった。糖尿病は持続的な高血糖症、即ちベックマングルコースアナライザーIIで1週間の間隔をおいて少なくとも2回11.1mmol/L以上の血中グルコースレベルが測定された場合に診断された。ペプチド療法は、正常な血中グルコース濃度(11.1mmol/L以下)が維持された場合、膵臓の小島内の炎症(インシュリン炎)が軽減された場合及びTH2型の免疫応答のインディケーターとして治療に用いるペプチドに対する抗体が誘発された場合に成功したと判断された。結果を表4に示す。
【0030】
【表4】
Figure 0003554319
【0031】
表4から明らかなように、イントラリピッド中で投与された本発明のペプチドによる処置は糖尿病の罹病率及び死亡率を低下するのに有効であった。一方、PBS中で投与された処置は無効であった。
【0032】
実施例6
ペプチドp277及びp277(Val −Val 11 )は免疫学的に交差反応性である
前糖尿病のNODマウスから単離されたT−細胞クローンC9の細胞はペプチドp277(黒塗りの円)、p277(Val−Val11)(白抜きの円)、p277(Ser−Ser11)(黒塗りの四角形)及びp277(Cys−Cys架橋)(白抜きの菱形)と共に培養された。結果を図2に示す。クローンC9はペプチドp277及びp277(Val−Val11)に対してのみ陽性の増殖応答を示すことが見出された。これはp277及びp277(Val−Val11)が交差反応性であり、ペプチドp277(Ser−Ser11)及びp277(Cys−Cys架橋)は治療上は有効でなく、免疫学的に交差反応性でないことを示す。
【0033】
実施例7
新しくIDDMと診断された患者はp277及びp277(Val −Val 11 )の両方に対してT−細胞増殖応答を示す
新しくIDDMと診断された患者(2−4週)が増殖アッセイでテストされた。末梢血のリンパ球がヘパリンを加えた全血からフィコール−ハイパーク法で単離され、インヴィトロ系で増殖がスクリーニングされ、これはH−チミジンの取り込みとして測定され、hsp60ペプチドp277、p277(Val−Val11)及びコントロールペプチドp278により誘発された。T細胞増殖応答は刺激指数(SI)、即ち、ペプチドで刺激されたチミジン取り込みの量とT細胞によるチミジンのバックグラウンド(抗原が加えられていない)の取り込み量との割合として表される。
【0034】
【表5】
Figure 0003554319
【0035】
表5に示されるように、新しくIDDMと診断された患者は、p277ペプチドと同様に、p277(Val−Val11)に対して応答する。従って、p277(Val−Val11)は免疫学的にp277と均等である。p277の治療上の効果は、免疫学上の認識により達成されるので、p277(Val−Val11)がp277と免疫学的に交差反応性であるという事実は、p277(Val−Val11)は糖尿病の治療においてp277の代りに用いることができるということを示している。
【0036】
実施例8
hsp60及びIDDM及び健康な個体中のペプチドに対するT細胞の応答
21人のIDDM患者及び14人の健康な血液ドナーが実施例7の増殖アッセイにより抗−hsp60及びp277(V)のスクリーニングを受けた。表6及び表7はコントロール抗原(コントロールAg)、即ち破傷風毒素及びテキサス株のインフルエンザウイルス及び全体の遺伝子組み替え型hsp60及びp277(V)に対する各々の個体のT細胞の増殖応答(刺激指数;SI)を示す。3又はそれ以上のSI値は陽性と考えられた。
【0037】
【表6】
Figure 0003554319
【0038】
【表7】
Figure 0003554319
【0039】
表8は、86%及び52%の患者がhsp60及びp277(V)に対し応答したのに対し、21%及び14%がコントロールに応答したこと(p<0.05)を示す表である。従って、IDDM群はhsp60及びp277(V)に対する応答が明らかに陽性であった。これによって、IDDM患者ではhsp60及びp277(V)に反応する個体の割合は健康人よりも高いという結論が導かれる。
【0040】
【表8】
Figure 0003554319
【0041】
実施例9
p277(Lys 19 )に対するNODのT−細胞増殖
p277(Lys19)ペプチドは1個のアミノ酸がp277と異なる。p277(Lys19)がNODのIDDMにおける自己抗原であることを確認するため、ペプチドp277及びペプチドp277(Lys19)に対するT−細胞の増殖を比較した。図3はメスNOD脾臓のT細胞がp277と同一の程度p277(Lys19)に対して増殖したことを示す。コントロールペプチドp278に対する応答は存在しなかった。
上記の結果は、クローンC9、即ちヒトペプチドp277に対して応答することが知られている糖尿病誘発性のNODのT−細胞クローンを使用することで確認された(エリアスら、1991年)。C9細胞はp277ペプチドと同程度p277(Lys19)ペプチドに対して増殖することが見出された(図4)。
【0042】
実施例10
p277(Lys 19 )によるNODメスマウスの治療
以前、本発明者は、生後3ヶ月のメスNODマウスに現れる進行したインシュリン炎はヒトp277の単一注射で処置することで停止することができ、処置されたマウスでは臨床的に完全な糖尿病の罹病率及び重篤な高血糖症による死亡率が低下することを報告した。ペプチドp277(Lys19)、即ちマウスの自己p277ペプチドが有効であるかどうかテストするため、本発明者は生後3ヶ月のメスNODマウスをIFA中のヒトp277又はp277(Lys19)100μgで処置した。
リン酸緩衝食塩水(PBS)中の2mg/mlの濃度のペプチドp277又はp277(Lys19)は同量の不完全フロインドアジュバント(IFA)で乳化された。10匹の生後3ヶ月のメスNODマウスの群はいずれかのペプチドを含むエマルジョン0.1ml(ペプチド100μg)が皮下注射された。コントロールマウスはPBS及びIFAのエマルジョンが注射された。マウスは4週毎に採血され、血中グルコースレベルがベックマングルコースアナライザーIIで求められた。高血糖症の罹病率及び糖尿病による死亡率は、生後6ヶ月で評価された。マウスは血中グルコースが11mmol/Lより大きい場合に糖尿病と診断された。
結果を表9に示す。生後6ヶ月で、90%のコントロールマウスが完全な高血糖症となり、60%が糖尿病により死亡した。これに対して、p277又はp277(Lys19)による処置により糖尿病(各々40%及び50%の罹病率)及び死亡(各々10及び20%の死亡率)が防止された。従って、マウスの自己ペプチドp277(Lys19)は進行したインシュリン炎の治療に異種p277として有効であると思われる。
【0043】
【表9】
Figure 0003554319
【0044】
これらの結果は、ヒトhsp60分子及びそのp277ペプチドを用いて検出されたNODのT細胞の増殖応答は、マウスhsp60及びマウスp277(Lys19)配列に対する自己免疫応答と均等であることを示す。これは前糖尿病マウスの脾臓において進行している自然応答と同様、糖尿病誘発性C9T細胞クローンについても示された。さらに、p277(Lys19)はNODマウスの糖尿病の治療にp277と同程度有効であった。月齢及び性別が一致する他の種類のマウスの脾臓T細胞はp277に対する自然的なT−細胞の増殖応答を示さなかった(示さず)。
糖尿病誘発性T細胞により標的されるマウスhsp60配列に対する自己免疫性の発見は、IDDMが自己免疫過程に起因するという一般的な考え方を支持するものである。
【0045】
実施例11
p277(V)によるSTZ誘発性糖尿病の治療
ストレプトゾトシン(STZ)は、200mg/kgの容量が注射されると、24−48時間以内にβ−細胞を破壊することにより中毒性糖尿病を引き起こすことができるβ−細胞特異性毒素である。これを少量投与すると糖尿病に結びつく遺伝的なマウスのインシュリン炎を誘発する。炎症過程はSTZの容量により、20−30日かかる。STZ誘発性糖尿病のための通常のプロトコールは体重1kgに対し200mgのSTZを連日40mg/kgの容量を5回投与することであり(ライク及びロジニ、1976年)、このモデルは低量STZと呼ばれている。全量が150mg/kg(30mg/kg×5)に減量されると、糖尿病は80−100日以内に発現するということが見出されている。このSTZ誘発性糖尿病の穏やかな進行形態はおそらくヒトにおける自己免疫性糖尿病と類似し、NODマウスの自然発症的な糖尿病の前臨床的段階と同一の期間持続する(カスタノ及びアイゼンバース、1990年)。さらに、急性の毒素効果は容量が減少すると減少する。
60kDa熱ショック蛋白質(hsp60)はNOD(エリアスら、1990年)及びSTZ誘発性(エリアスら、1994年)糖尿病の両方において役割を果たしている。完全な糖尿病が始まる前に、hsp60に対する抗体及びT細胞増殖応答が生じていることが示されている。hsp60に特異的なT細胞クローンは前糖尿病NODマウスに由来し、若いNOD(エリアスら、1991年)又はτγιδNODマウスにインシュリン炎及び高血糖症を養子免疫伝達することができる。NOD糖尿病誘発性T細胞クローンはp277と呼ばれるhsp60配列437−460の24個のアミノ酸からなる長いペプチドを認識する。誘発性糖尿病は前臨床段階で抗−p277T細胞応答を伴う。
上記実施例はp277(Val−Val11)ペプチドはNODマウスを保護することを示した。本実験は低量STZモデルにおけるp277(V)療法の有効性をテストするものである。
【0046】
10匹のオスマウスからなる群は1日あたり30mg/kgのSTZで5日間治療された。1週間後、マウスはオイル中の100μgのp277(V)、カウフマンらが1993年にNODマウスの糖尿病に関連すると記載したグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GADp34)のペプチド又はオイル単独で処置された。この処置は、85日間繰り返された。100日目にマウスは採血され、その血液が高血糖症かどうかテストされた(15mmol/L以上のグルコース濃度)。結果を図5に示す。GADp34で処置されたマウス又は処置されなかったマウスの平均血中グルコースは高血糖症の範囲にあることが分かる。反対に、p277(V)で処置されたマウスの平均血中グルコースは正常の範囲内であった。従って、p277(V)は遺伝的に異なるメスNODマウスで自然的に進行した糖尿病と同様STZにオスC57BL/ksjマウスに誘発された糖尿病の治療においても有効である。p277(V)療法の適用性は、1の原因又は1の遺伝子型又は性別の糖尿病に限定されない。
本明細書中に引用された参照文献は雑誌、記事若しくは要約、又は公開された若しくは対応する米国若しくは外国出願、発行された米国又は外国出願、更には他の参照文献を含むものであるが、全体として本明細書に一体化され、これは、引用された文献中の全てのデータ、表、数値及びテキストを含む。更に、ここに引用した参照文献中で引用されている参照文献の全体の内容もまた本明細書に一体化される。
【0047】
公知の方法のステップ、従来の方法のステップ、公知の方法又は従来の方法への参照は、本発明の観点、説明及び実施例が関連技術において開示、教示又は示唆されていることを認めるものではない。
上述の実施例の説明は本発明の一般的性質を明らかにしているので、本技術の属する分野の通常の知識を適用することにより(ここに引用した参照文献の内容を含む)、不必要な実験を行うことなく、本発明の一般的概念から離れることなく、容易に実施例の変更及び/又は応用を行うことができる。従って、このような変更及び応用は、本明細書中における教示及び指導に基づき、実施例と均等の意味及び範囲内であると意図される。本明細書中で用いられた用語は発明の説明のためのものであり、発明を限定するものではないので、本明細書の用語は本明細書の開示及び教示を参照して、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の知識と組み合わせることにより、通常の知識を有する者により解釈されなければならない。
【0048】
参考文献
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【0051】
【配列表】
Figure 0003554319
Figure 0003554319
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Figure 0003554319
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Figure 0003554319
Figure 0003554319

【図面の簡単な説明】
【図1】図1はp277及びp277(Val−Val11)の安定性を示すグラフである。黒塗りの円はp277を用いた結果を示し、白抜きの円はp277(Val−Val11)を用いた結果を示す。大きい円は1週間の貯蔵後の結果を示し、中間の大きさの円は9週後を示し、最も小さい円は20週後を示す。
【図2】図2は糖尿病誘発性クローンC9のNODのT細胞がペプチドp277(黒塗りの円)及びp277(Val−Val11)(白抜きの円)に応答して増殖することを示す。
【図3】図3はNOD脾臓細胞がペプチドp277(Lys19)存在下で増殖することを示す。5匹のメスマウスの脾臓が各々の月齢のグループでペプチドp277(Lys19)(黒塗りの円)、p277(白抜きの円)及びコントロールペプチドp278(黒塗りの四角形)に応答したT細胞の増殖がテストされた。
【図4】図4は糖尿病誘発性クローンC9のNODのT細胞がペプチドp277に応答して増殖することを示す。
【図5】図5はSTZ誘発性糖尿病の予防においてコントロールの処置又はGADp34による処置と比較してIFA中のp277(V)による前処置の有効性を示すグラフである。

Claims (21)

  1. 下記のアミノ酸配列からなるペプチド、その塩、又はアミノ酸残基の側鎖上もしくはN−あるいはC−末端上の官能基から調製されるその機能性誘導体。
    Figure 0003554319
    (式中、X及びXはCys残基であり、XはLys残基である。)
  2. 患者からの血液もしくは尿サンプル中の、インシュリン依存性糖尿病(以下、IDDMという。)の存在もしくは開始を示す、ヒトhsp60と免疫学的に反応する抗体もしくはT細胞の存在を検出するための請求項1記載のペプチドの使用。
  3. 患者からの血液もしくは尿サンプル中の、IDDMの存在又は開始を示す、ヒトhsp60と免疫学的に反応する抗体もしくはT細胞の存在を検出する方法であって、前記患者からの血液又は尿サンプルについて前記抗体又はT細胞の存在を抗原としての請求項1記載のペプチドでテストする方法。
  4. 前記サンプルについてhsp60と免疫反応する抗−hsp60抗体又はT細胞の存在をテストして、これによってhsp60と免疫的に反応する抗−hsp60抗体又はT細胞の存在が陽性を示す結果がIDDMの存在又は開始の可能性が高いことを示す請求項3記載の方法。
  5. 前記サンプルは抗−hsp60抗体の存在がテストされる請求項3又は4記載の方法。
  6. テスト方法はラジオイムノアッセイを含む請求項5記載の方法。
  7. テスト方法はELISAテストを含む請求項6記載の方法。
  8. 請求項3から7のいずれか1項記載の方法に従って抗−hsp60抗体の存在をテストすることによりIDDMの存在を診断するためのキットであって、
    (i)請求項1のペプチドである抗原と、
    (ii)検出される前記抗−hsp60抗体の不変領域を認識することができる標識された抗体とを含むキット。
  9. 前記抗原は固相に固定されている請求項8記載のキット。
  10. IDDMの診断においてキットの使用のためのインストラクションを含む請求項8又は9記載のキット。
  11. 標識はラジオアイソトープ、酵素、発色団及び発蛍光団からなる群から選択される請求項8から10のいずれか1項記載のキット。
  12. 前記サンプルはhsp60と免疫反応するT細胞の存在がテストされる請求項3又は4記載の方法。
  13. テスト方法はT細胞増殖テストを含む請求項12記載の方法であって、このT細胞増殖テストは
    (i)患者から得られた血液サンプルからT細胞を含む非核細胞フラクションを調製し、
    (ii)前記非核細胞フラクションに請求項1記載のペプチドから選択された抗原を加え、
    (iii)前記抗原の存在下で適切な時間、適切な培養条件で前記細胞フラクションを培養し、
    (iv)前記培養時間の終了前の適切な時点で(iii)の培養された細胞のカルチャーに対し標識されたヌクレオチドを加え、前記標識されたヌクレオチドを増殖しているT細胞のDNAに取り込ませ、
    (v)前記T細胞に取り込まれた標識されたヌクレオチドの量を分析することにより増殖しているT細胞の量を決定する
    工程を含む方法。
  14. テスト方法はT細胞サイトカイン応答テストを含む請求項12記載の方法であって、このサイトカイン応答テストは、
    (i)患者から得られた血液サンプルからT細胞を含む非核細胞フラクションを調製し、
    (ii)前記非核細胞フラクションに請求項1記載のペプチドから選択された抗原を加え、
    (iii)前記抗原の存在下で適切な時間、適切な培養条件で前記抗原の存在の下で前記細胞フラクションを培養し、
    (iv)応答しているリンパ細胞により倍地中に分泌されたサイトカインの存在を測定する
    工程を含む方法。
  15. サイトカインはIFN−γ、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、TNF−α又はTGFβである請求項14記載の方法。
  16. 請求項3、4又は13項記載の方法によりhsp60と免疫反応するT細胞の存在をテストすることによりIDDMの存在を診断するためのキットであって、
    (i)請求項1のペプチドの抗原と、
    (ii)標識されたヌクレオチドと、
    (iii)リンパ球の培養のために適した倍地
    とを含むキット。
  17. 請求項3、4、14又は15項記載の方法によりhsp60と免疫反応するT細胞の存在をテストすることによりIDDMの存在を診断するためのキットであって、
    (i)請求項1のペプチドの抗原と、
    (ii)リンパ細胞の培養に適した倍地と、
    (iii)応答しているリンパ細胞により倍地中に分泌されたサイトカインの存在を測定するためのキット
    とを含むキット。
  18. IDDMの診断においてキットの使用のためのインストラクションを含む請求項14から17のいずれか1項記載のキット。
  19. 請求項1のペプチドと薬剤学的に許容される担体とを含む薬剤組成物。
  20. IDDMの予防又は治療のための請求項19記載の薬剤組成物。
  21. IDDMを治療するための薬剤組成物を調製するための請求項1記載のペプチドの使用。
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