JP4515287B2 - 連続鋳造方法 - Google Patents

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本発明は、中炭素鋼を連続鋳造法で製造する際に用いるモールドパウダー、およびこうしたモールドパウダーを用いて表面欠陥の発生を防止しつつ中炭素鋼鋳片を効果的に製造するための連続鋳造法に関するものである。
鉄鋼業における生産性向上および高品質化が推進されるなかで、連続鋳造においては、高速鋳造時の鋳片の表面品質の改善が大きな課題となっている。特に、C含有量が0.08〜0.16%であるいわゆる中炭素鋼では、連続鋳造法で鋳造する際に表面割れが生じ易く、これまでにもこのような割れの発生機構について様々な研究がなされている。
上記のような中炭素鋼は「亜包晶鋼」と呼ばれ、凝固温度直下でδ→γ変態に起因する大きな体積収縮を起こすことになる。そしてこの体積収縮によって、メニスカス直下の凝固シェルに凹凸ができ、鋳型による鋳片の冷却が不均一になり易い。鋳片の冷却が不均一になると、収縮応力が局所に集中して縦割れとなるものと考えられる。こうした割れを防止するためには、鋳型による鋳片の冷却を均一にすること、および鋳片を緩冷却することが有効であるとされている。
ところで、鋼の連続鋳造に際しては、鋳型内の溶鋼表面にモールドパウダーを散布して溶鋼表面の酸化を防止すると共に、溶融したモールドパウダー(以下、スラグと呼ぶ)が鋳型と鋳片の間に流れ込んで潤滑作用を発揮するようにして操業される。そして、鋳型による鋳片の均一冷却や緩冷却を達成させるためには、鋳型と鋳片の間に介在して冷却状態に大きな影響を与えるスラグを、常に安定して均一に流入させることと、スラグ自体の熱伝達特性を低下させて鋳片を緩冷却することが有効であるとされている。
モールドパウダーに関する技術として、例えば特許文献1には、C含有量が0.18〜0.30%である過包晶中炭素鋼の溶鋼を連続鋳造する際に用いるモールドパウダーとして、塩基度(CaO/SiO2比)が0.8〜1.1、凝固温度:1050〜1220℃、1300℃における粘度が0.07〜1Pa・s、嵩比重:0.5〜0.9およびC含有量が2〜20%であるものが提案されている。この技術では、上記のような低粘度のモールドパウダーを用いることによって、凝固シェルと鋳型との間への溶融パウダーの流入不足に起因する凝固シェルの焼き付き(即ち、拘束性ブレークアウト)の発生を防止するものである。
上記のような過包晶中炭素鋼では、亜包晶鋼のような大きな収縮が凝固温度直下では発生しないので、鋳型−凝固シェル間の潤滑性だけを考慮したモールドパウダーの適用は極めて効果的である。またこうした状況は、C含有量が0.08%未満の低炭素鋼においても同様である。しかしながら、C含有量が0.08〜0.16%程度の亜包晶鋼では、潤滑作用だけでなく、大きな収縮に起因する縦割れ(即ち、表面疵)を防止するためのパウダーを使用する必要がある。
C含有量が0.08〜0.16%程度の亜包晶鋼を連続鋳造する際に用いるモールドパウダーとしては、低粘度のものを適用すると却って表面疵が増大する傾向を示すことから、基本的な思想として高粘度とすることによってメニスカス直下の均一冷却を図り、鋳片の表面疵の発生を防止するようにしている(例えば、特許文献2〜4)。また、これらの技術では、モールドパウダーの凝固温度や塩基度を指標として、緩冷却化モールドパウダーの設計がされている。
一方、鋳片表面の割れ欠陥を低減するには、鋳型内メニスカス直下の熱流束を下げることが有効であることが知られている。これは、凝固シェル厚みの変形を低減させ、凝固収縮による応力を緩和することができ、割れの発生を抑制できるためと考えられている。溶鋼−鋳型冷却水間の伝熱(熱流束:Q)を一次元定常伝熱モデルで考慮すると、下記(2)式および(3)式で表現できることが知られている(非特許文献1)。
Q=(TM−TW)/RT …(2)
T=R1+R2+R3+R4+R5+R6 …(3)
但し、TM:溶鋼温度、TW:鋳型冷却水温度、RT:溶鋼と冷却水間の総括熱抵抗
1:溶鋼と凝固殻の界面の境膜熱抵抗、R2:凝固殻の熱抵抗、R3:モールドパウ
ダーによる膜の熱抵抗、R4:モールドパウダーによる膜と鋳型間の界面熱抵抗、R
5:鋳型銅板の熱抵抗、R6:冷却水と鋳型銅板間の境膜熱抵抗、を夫々示す。
尚、上記R2は凝固殻の厚さをdshell、凝固殻の熱伝導度をλshellとしたときに(dshell/λshell)と、上記R3はモールドパウダーの厚さをdpowder、モールドパウダーの熱伝導度をλpowderとしたときに(dpowder/λpowder)と、上記R5は鋳型銅板の厚さをdCu、鋳型銅板の熱伝導度をλCuとしたときに(dCu/λCu)と、夫々表されるものである。またR4(モールドパウダーによる膜と鋳型間の界面熱抵抗)は、モールドパウダーによる膜と鋳型間の界面熱伝導率をh1としたときに(1/h1)と、R6(冷却水と鋳型銅板間の境膜熱抵抗)は、冷却水と鋳型銅板間の界面熱伝導率をh2としたときに(1/h2)と、夫々表されるものである。
上記(2)式、(3)式の関係の下において、メニスカス直下においては、モールドパウダーに関与する伝導抵抗(上記R3,R4)がRTを決定する大部分を占めていることから、実操業での鋳片表面割れ欠陥を改善するために、各種モールドパウダーの開発が進められており、その手段として結晶化しやすいモールドパウダーが有用であるとされている(例えば、特許文献5)。
特開2004−98092号公報 特許請求の範囲 特開2003−94150号公報 特許請求の範囲 特開平9−192805号公報 特許請求の範囲 特開平8−197214号公報 特許請求の範囲 特開2003−88942号公報 特許請求の範囲 「凝固プロセズ研究の最近の進展」、日本学術振興会製鋼第19委員会編、平成10年3月発行、第63〜65頁
C含有量が0.08〜0.16%程度の亜包晶鋼を連続鋳造によって製造する際に用いるモールドパウダーとしては、基本的に高粘度とすることによってメニスカス直下の均一冷却を図ると共に、凝固温度や塩基度を指標として、緩冷却化モールドパウダーの設計がされている。しかしながら、連続鋳造機によるメニスカス直下の熱流束測定結果とこれらとの関係を調査したところ、モールドパウダーの凝固温度や塩基度によって定性的に緩冷却度合いを評価することはできるが、定量的な評価は困難であるという欠点がある。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、C含有量が0.08〜0.16%程度の亜包晶鋼を連続鋳造法によって製造しても、不均一冷却に起因する表面疵が発生しない鋳片を製造することのできる連続鋳造法を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明の連続鋳造方法とは、塩基度が1.8〜2.0、且つ下記(1)式の関係を満足するモールドパウダーを用い、C含有量が0.08〜0.16%(質量%の意味、以下同じ)である中炭素鋼を連続鋳造法で製造する点に要旨を有するものである。
0.09≦4.69-3.47×10-3・Ts+0.786・logη-3.90×10-2・(T.CaO/SiO2)≦0.30…(1)
但し、Ts:モールドパウダーの凝固温度(℃)
η:モールドパウダーの粘度(poise at 1300℃)
T.CaO/SiO2:塩基度(CaFは、CaOに換算)
を夫々示す。
本発明においては、モールドパウダーの凝固温度、粘度および塩基度を所定の関係式を満足するように管理することによって、上記目的を達成することのできるモールドパウダーが実現できたものであり、こうしたモールドパウダーを用いて中炭素鋼溶鋼を連続鋳造することによって、鋳造時の割れの発生を防止して表面性状の優れた中炭素鋼鋳片を製造することができる。
本発明者らは、種々のモールドパウダーを用いて中炭素鋼を連続鋳造したときのメニスカス直下における熱流束を実際に測定し、モールドパウダーの物性値(凝固温度、粘度および塩基度)と熱流束の関係、およびこれらの結果が鋳片表面疵に与える影響について調査した。その結果、鋳片表面疵の発生を防止するためには、モールドパウダーの凝固温度、粘度および塩基度を考慮した所定の関係式[前記(1)]式の関係を満足させつつ熱流束を制御する必要があることを見出した。尚、上記(1)式は実際の測定結果に基づき、線形回帰することによって求められた関係式である。
本発明で規定する(1)式は、上記のように、モールドパウダーの凝固温度、粘度および塩基度をパラメータとするものである。このうちモールドパウダーの凝固温度については、溶融パウダーが凝固し始めると粘度が急激に上昇することが知られており[例えば、K.C.Mill等「Ironmaking and Steelmaking」,2000,vol.27,238]、本発明では溶融パウダーの温度をゆっくり低下させたときに観察される急激な粘度上昇温度を凝固温度とし定義する。この凝固温度(或いは結晶化温度)は、モールドパウダーによる膜(溶融スラグおよび固体部分を含む)中に結晶を析出させることにより膜の熱伝導度を低下させる、或いはモールドパウダーの膜と鋳型の界面熱抵抗を大きくする要因となるものであり、凝固温度を高めることによって、モールドパウダーに起因する領域におけるより低い熱伝導度、大きな熱抵抗が得られる傾向を示すものとなる。本発明では、こうした要件を(1)式中の要件の一つとしたものである。
一方、高温溶体の粘度測定法については、一般に『回転円筒式粘度測定法』、『球体引き上げ式粘度測定法』および『振動式粘度測定法』の3種類が知られているが、本発明のモールドパウダーでは振動式粘度測定法によって求められた粘度測定値(1300℃における粘度)を採用する。尚、「モールドパウダーの粘度」とは、モールドパウダーが溶融した状態(スラグ)での粘度を意味する。但し、振動式測定法によって測定された粘度と、他の測定法によって測定された粘度値とは相関があるので、同一パウダーでの各粘度測定値を比較することによって、下記(4)式で規定する補正係数αを求めることによって容易に換算できる。尚、粘度は縦割れ発生段階、即ち鋳型上部でのパウダーの挙動が重要になるので、1300℃における粘度と規定した。
η=α×η’ …(4)
但し、η:振動式粘度測定法によって測定されるパウダーの粘度(poise at 1300℃)
η’:回転式若しくは球体引き上げ式粘度測定法によって測定されるパウダーの
粘度(poise at 1300℃)
モールドパウダーの塩基度は、凝固温度に影響を与えるものであり、より高い凝固温度を達成するためには、塩基度を高めにすれば良いことは知られている。しかしながら、従来提案されているモールドパウダーでは塩基度は依然として低く設定されており、結晶化温度が低くなってガラス化し易い傾向を示すものとなる。ガラス化しやすいモールドパウダーを使用すると、メニスカス直下での熱流束が高くなってしまい、抜熱のムラが非常に大きくなる傾向を示すものとなり、鋳片表面のストリークや縦割れが発生する原因ともなる。こうしたことから、本発明で用いるモールドパウダーの塩基度は比較的高い(CaO/SiO2:1.5〜2.0)ものを使用することを想定したものであるが、他の要件との関係から、(1)式の要件として規定した。尚、この塩基度を設定するに当っては、モールドパウダーがCaFを含むものである場合には、これも塩基度の値に影響を及ぼすので、CaOに換算して塩基度を測定する必要がある。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1に示す化学成分組成の各種モールドパウダーを用い、C含有量が0.08〜0.16%の中炭素鋼を連続鋳造し、厚さ:60mm、幅:300mmの鋳片を製造した。このとき、鋳造速度は1.5m/minとした。尚、下記表1には、用いたモールドパウダーにおける塩基度(CaO/SiO2)、1300℃における粘度、凝固温度、前記(2)式、(3)式によって求められる熱流束、および前記(1)式の左辺の値[4.69-3.47×10-3・Ts+0.786・logη-3.90×10-2・(T.CaO/SiO2)]を同時に示した。また、表中「F−」は、モールドパウダー中のフッ素量、「T.C」は、モールドパウダー中の全炭素量を夫々示す。
得られた鋳片について、表面スケール除去後に磁粉深傷検査を実施し、割れ深さが0.5mm以上の疵が発生しているか否かによって鋳片表面品質について判定した(疵なし:「○」、疵あり:「×」)。その結果を、下記表1に併記する。
Figure 0004515287
これらの結果に基づき、モールドパウダーの凝固温度とメニスカス直下の熱流束の関係、およびモールドパウダー塩基度とメニスカス直下の熱流束の関係が、鋳片表面疵の発生に与える影響について調査した。
図1は、モールドパウダー凝固温度とメニスカス直下の熱流束の関係が鋳片表面疵の発生に与える影響を示したグラフであり、図2は、モールドパウダー塩基度とメニスカス直下の熱流束の関係が鋳片表面疵の発生に与える影響を示したグラフである。これらの結果から明らかなように、モールドパウダーの凝固温度や塩基度によって定性的に緩冷却度合いを評価することはできるが、定量的な評価は困難であることが分かる。
一方、図3は、表1の結果に基づき、(1)式の左辺の値とメニスカス直下熱流束との関係が鋳片表面品質に与える影響を示したグラフであるが、モールドパウダーの凝固温度、粘度および塩基度をパラメータとして規定される(1)式の値を適切に制御することによって、表面疵のない高品質の中炭素鋼鋳片が製造できることが分かる。
モールドパウダー凝固温度とメニスカス直下の熱流束の関係が鋳片表面疵の発生に与える影響を示したグラフである。 モールドパウダー塩基度とメニスカス直下の熱流束の関係が鋳片表面疵の発生に与える影響を示したグラフである。 (1)式の左辺の値とメニスカス直下熱流束との関係が鋳片表面性状に与える影響を示したグラフである。

Claims (1)

  1. 塩基度が1.8〜2.0、且つ下記(1)式の関係を満足するモールドパウダーを用い、C含有量が0.08〜0.16%(質量%の意味、以下同じ)である中炭素鋼を連続鋳造法で製造することを特徴とする連続鋳造方法。
    0.09≦4.69-3.47×10 -3 ・Ts+0.786・logη-3.90×10 -2 ・(T.CaO/SiO 2 )≦0.30…(1)
    但し、Ts:モールドパウダーの凝固温度(℃)
    η:モールドパウダーの粘度(poise at 1300℃)
    T.CaO/SiO 2 :塩基度(CaF は、CaOに換算)
    を夫々示す。
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