JP4512299B2 - Ni基合金の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強度、硬度および靱性に優れるNi基合金を得ることが可能なNi基合金の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図5に、自動車の変速機等に用いられる歯車1を示す。この歯車1は、大径部2と、該大径部2に比して小径な小径部3とを有し、小径部3の側周壁部には外歯4が設けられている。
【0003】
この歯車1は、例えば、熱間鍛造加工により製造されている。すなわち、SCR420H、SCM420HまたはHNCM(いずれもJIS規格)等からなる図示しないリング状ワークが1100〜1200℃程度に加熱された後に金型内に配置され、次に、パンチ等で押圧されて歯車1に対応する形状に塑性変形される。この際には、金型に設けられた歯部形成部によって、リング状ワークの外壁部に外歯4が形成される。熱間鍛造加工には、ワークが再結晶により軟化するので加工硬化がなく、このため、ワークの延性が大きくなるので容易に加工を施すことができるという利点がある。
【0004】
このような熱間鍛造加工用の金型の原材料としては、安価であることや様々な形状の金型を容易に作製することができるということから、高速度工具鋼やマルエージ鋼等のいわゆる熱間ダイス鋼が広く使用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のように歯車1を熱間鍛造加工で製造する場合、リング状ワークから金型に熱が伝達されるので、必然的に金型の温度も上昇する。具体的には、725℃程度、瞬間的には1100℃程度まで到達することがある。
【0006】
このような状態で熱間鍛造加工をおよそ3000回ほど繰り返して行うと、金型に摩耗や欠けが発生する。したがって、寸法が所定の基準に満たない不良歯車が形成されてしまうので、鍛造加工装置を停止させた上で金型を新しいものに交換する必要がある。
【0007】
しかしながら、この際、鍛造作業が中断されるので、歯車1の生産効率が下降してしまう。また、金型を頻繁に交換する必要があることから、熱間鍛造加工に対する設備投資が高騰してしまうという不具合もある。
【0008】
以上から諒解されるように、一般的な熱間鍛造加工用金型には、該金型の寿命が短いために鍛造加工品の生産効率を向上させることが困難であり、しかも、加工コストを上昇させてしまうという不具合が顕在化している。そこで、長寿命な金型が希求されているものの、そのような金型は未だに得られていない。
【0009】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、析出物の存在によって硬度、強度および靱性が向上し、このために鍛造加工用金型の原材料として好適な析出硬化型のNi基合金を容易に得ることが可能なNi基合金の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、電子線の透過厚さを10nmに標準化するとき、透過型電子顕微鏡にて二次元的に観察される金属組織中に長径が0.5nm以上である析出物が700個/μm2以上の割合で存在し、かつ前記析出物として、以下の式(1)で定義される平均径が25nm〜1μmである大析出物が含まれているNi基合金の製造方法であって、
50〜55質量%のNi、17〜21質量%のCr、2.8〜3.3質量%のMo、合計で4.75〜5.5質量%のTaとNb(ただしTaは0.1質量%以下)、0.65〜1.15質量%のTi、0.2〜0.8質量%のAlを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である非熱処理Ni基合金に対して溶体化処理を施した後、第1次時効処理と、前記第1次時効処理の際の温度に比して高温での第2次時効処理とを施すことを特徴とする。
平均径=(長径+短径)/2 …(1)
【0011】
要するに、この製造方法では、組成がインコネル718(登録商標)の主成分の組成に相当する非熱処理Ni基合金を原材料として使用し、溶解化処理の後に低温で第1次時効処理を行い、高温で第2次時効処理を行う。すなわち、組成がインコネル718相当の非熱処理Ni基合金に対する溶解化処理後の時効処理は、通常、第1次時効処理が高温であり、第2次時効処理が低温であるが、本発明に係る製造方法においては、第1次時効処理を低温とし、第2次時効処理を高温とする。
【0012】
このような順序で時効処理を施すことにより、金属組織中に長径が0.5nm以上である析出物が700個/μm2以上の割合で存在し、かつ該析出物の一部が25nm〜1μmの大析出物であるNi基合金が得られる。なお、組成がインコネル718相当である市販Ni基合金の金属組織中には、このような大析出物は認められない。
【0013】
このような析出物および大析出物が金属組織中に含有されているNi基合金では、熱応力が発生した場合や機械的応力が加えられた場合、これら析出物および大析出物の存在によって伝播することが著しく抑制される。このため、強度、硬度および靱性に優れるようになる。すなわち、本発明に係る製造方法により得られるNi基合金は、いわゆる析出硬化型合金である。
【0014】
ここで、非熱処理Ni基合金としては、上記した成分に加え、0.08質量%以下のCo、0.01質量%以下のB、0.08質量%以下のCu、0.08質量%以下のC、0.35質量%以下のSi、0.35質量%以下のMn、0.015質量%以下のP、および0.015質量%以下のSを含有するものを使用してもよい。
【0015】
なお、大析出物は、10個/μm2以上の割合で金属組織中に存在することが好ましい。10個/μm2未満である場合、該大析出物によって応力の伝播を抑制することが容易ではなくなるので、Ni基合金の諸特性を向上させる効果に乏しくなる。大析出物をこのような密度で得るためには、第1次時効処理を610〜660℃で行い、かつ第2次時効処理を710〜760℃で行うことが好ましい。
【0016】
上記のような温度範囲で各時効処理を行った場合、析出物および大析出物の組成は、主にNi3Nb、すなわち、γ”相となる。インコネル718相当のNi基合金は、このγ”相により諸特性が向上する。勿論、Ni3(Al,Ti)、すなわち、γ’相が析出物または大析出物に含まれていてもよい。
【0017】
そして、析出物および大析出物を上記の平均径・密度で析出させてNi基合金の諸特性を所望のものとするためには、第1次時効処理および第2次時効処理での処理温度の保持時間を、5〜10時間とすることが好ましい。
【0018】
また、非熱処理Ni基合金として、金属組織中の母材粒子の結晶粒度がASTM規格でNo.8以上であるものを使用することが好ましい。ここで、ASTM規格では、結晶粒度の数字が大きくなるほど結晶粒の平均断面積が小さくなる。換言すれば、本発明に係る製造方法においては、金属組織中の母材粒子の結晶粒の平均断面積が小さいNi基合金を原材料とすることが好ましい。これにより、最終製品であるNi基合金における金属組織中の母材粒子の結晶粒の平均断面積が小さくなる。このような場合、該金属組織中を応力が伝播することが一層困難となり、結局、上記の諸特性をより向上させることができるからである。例えば、多くの場合、該Ni基合金におけるCスケールのロックウェル硬度が40を超えるようになる。
【0019】
このようにして製造されたNi基合金は、熱間鍛造加工用の金型の原材料として好適である。この場合、摩耗や欠けが発生し難く、したがって、長寿命な金型を構成することができるからである。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るNi基合金の製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施の形態に係る製造方法により得られるNi基合金につき、それを原材料として作製された鍛造加工用金型との関係で概略説明する。
【0022】
鍛造加工用金型(以下、単に金型ともいう)10の概略縦断面斜視図を図1に示すとともに、該図1の平面図を図2に示す。略円筒体であるこの金型10は、図5に示される歯車1を形成するためのものであり、好ましくは熱間鍛造加工において使用される。
【0023】
図1および図2に示すように、この金型10の中央部には、該金型10の下端面で開口した大径の大貫通孔12と、該大貫通孔12に比して小径の小貫通孔14とが上下に連通して設けられている。そして、金型10の上端面には、図示しない鍛造加工装置に該金型10を取り付けるための円柱状凹部16が形成されている。
【0024】
このうち、小貫通孔14の内周壁部下端には、複数個の歯部形成用溝18が互いに等間隔で離間して設けられている。歯車1(図5参照)の外歯4は、リング状ワークの肉がこの歯部形成用溝18(図1および図2参照)内に塑性流動することによって成形される。
【0025】
ここで、この金型10は、組成がインコネル718に相当するNi基合金からなる。すなわち、該金型10を構成するNi基合金には、50〜55質量%のNi、17〜21質量%のCr、2.8〜3.3質量%のMo、合計で4.75〜5.5質量%のTaとNb(ただしTaは0.1質量%以下)、0.65〜1.15質量%のTi、0.2〜0.8質量%のAl、0.08質量%以下のCo、0.01質量%以下のB、0.08質量%以下のCu、0.08質量%以下のC、0.35質量%以下のSi、0.35質量%以下のMn、0.015質量%以下のP、および0.015質量%以下のSが含有されており、かつ残部はFeおよび不可避的不純物である。そして、このNi基合金を構成する金属組織中には、電子顕微鏡等の観察結果から、母材粒子中に分散した析出物が存在することが認められる。
【0026】
このうち、母材粒子の結晶粒度は、ASTM(American Society for Testing and Materials)規格でNo.8である。すなわち、結晶粒の平均断面積が0.00049mm2程度のものである。
【0027】
一方、析出物は、本実施の形態では、長径が0.5nm以上であるものが金属組織中に約1100個/μm2の割合で存在している。この割合は、市販品であるインコネル718相当のNi基合金における析出物が約2100個/μm2の割合で存在しているのに比してやや少ない。
【0028】
ここで、析出物の割合は、透過型電子顕微鏡での観察結果から求められる。すなわち、この割合は、Ni基合金のサンプルを透過型電子顕微鏡にて観察する際に、二次元平面である視野中に現れた金属組織における析出物の密度から算出されたものである。
【0029】
析出物の密度は、サンプルの厚みにより変動する。この理由は、サンプルの厚さ方向(電子線の透過方向)において互いに異なる高さに位置する析出物が全て視野に現れるからである。例えば、サンプルの厚みが2倍となると、析出物の密度も2倍となる。
【0030】
そこで、本実施の形態では、この密度を、サンプルの厚さ、すなわち、電子線の透過厚さを10nmに標準化して換算する。例えば、サンプルの厚さが15nmである場合、透過型電子顕微鏡の視野に現れた金属組織中における析出物の密度を1.5で除すことによって上記した析出物の割合が算出される。同様に、電子線の透過厚さが20nmである場合、金属組織中における析出物の密度を2で除せばよい。
【0031】
なお、ここでいう長径とは、図3に示すように、透過型電子顕微鏡(TEM)にて写真撮影された析出物の長手方向における両端部を2本の平行線L1、L2で挟んだ際に最大距離となるときの間隔xを測定倍率で除したものとして定義される。一方、図3におけるyは、前記平行線L1、L2に直交する平行線M1、M2で析出物を挟んだ際に最大距離となるときの間隔であり、このyを測定倍率で除したものが短径である。
【0032】
そして、この析出物の一部は、以下の式(1)で定義される平均径が25nm〜1μmの大析出物である。
平均径=(長径+短径)/2 …(1)
【0033】
この場合、大析出物は、金属組織中に約15個/μm2の割合で存在する。なお、平均径が1μmを超える巨大析出物は、金型の諸特性の向上にはさほど寄与しない。
【0034】
大析出物の粒度分布は、比較的狭い。換言すれば、大析出物の平均径は互いに略同等であり、バラツキが少ない。
【0035】
平均径がこのように大きな大析出物は、インコネル718相当のNi基合金からなる市販品には全く認められない。すなわち、本実施の形態に係る金型10を構成するNi基合金の金属組織には、一般的なNi基合金における金属組織中には認められない大析出物が高い割合で含有されている。
【0036】
これら析出物および大析出物の大部分の組成は、Ni3Nb、すなわち、γ”相である。なお、組成がNi3(Al,Ti)として表されるγ’相からなるものが析出物および大析出物に含まれていてもよい。
【0037】
このように、本実施の形態に係る金型10は、市販品における析出物に比して大きく成長し、かつ主にγ”相からなる析出物を金属組織中に含有するNi基合金から構成されている。換言すれば、このNi基合金は、析出物によって硬化された析出硬化型合金であり、優れた硬度、強度および靱性を兼ね備えている。なお、上記したように、該Ni基合金において析出物が金属組織中を占める割合は、市販品に比してやや低い。
【0038】
このように構成された金型10のCスケールのロックウェル硬度(以下、HRCとも表記する)は、母材粒子の結晶粒度がASTM規格でNo.8未満であるもの、換言すれば、粒度密度が大きいものに比して高くなる。具体的には、後者のHRCが最大でも40であるのに対し、本実施の形態に係る金型10のHRCは40を超える。このように硬度が高い金型は耐摩耗性が良好であるので、長寿命なものとなる。
【0039】
次に、本実施の形態に係るNi基合金の製造方法につき説明する。図4のフローチャートに示すように、この製造方法は、非熱処理Ni基合金に対して溶体化処理を施す第1工程S1と、第1次時効処理を施す第2工程S2と、第2次時効処理を施す第3工程S3とを有する。
【0040】
本実施の形態においては、非熱処理Ni基合金として、ASTM規格での結晶粒度がNo.8でありかつインコネル718相当の組成を有する非熱処理Ni基合金が選定される。この非熱処理Ni基合金に対し、第1工程S1において、溶体化処理が施される。すなわち、合金中の溶質原子を母材中に固溶化させる。この際の処理条件は、例えば、温度を980〜1000℃程度、保持時間を約1.5〜2時間とすればよい。
【0041】
次いで、第2工程S2にて、第1次時効処理によって析出物を析出させる。組成がインコネル718相当である非熱処理Ni基合金に対する第1次時効処理の好適な温度範囲は、610〜660℃である。温度範囲をこのように設定することにより、母材粒子中や粒界に小さな析出物(主にγ”相)が密に析出する。610℃未満では、生成する核の数が少なくなるので析出物が疎に析出するため、最終製品であるNi基合金の金属組織中における大析出物の割合を10個/μm2とすることが困難となり、Ni基合金、ひいては金型10の諸特性を向上させることが容易ではなくなる。また、660℃を超えると、核が大きく生成してしまい、その結果、平均径が1μmを超える巨大析出物の割合が大きくなる。上記したように、このような巨大析出物は、Ni基合金(金型10)の諸特性の向上にはさほど寄与しない。すなわち、この場合もNi基合金(金型10)の諸特性を向上させることが容易ではなくなる。好適な温度は、630℃である。
【0042】
なお、第1次時効処理における保持時間は、5〜10時間とすることが好ましい。5時間未満であると、生成する核の数が少なくなる。また、10時間を超えて処理を行っても、Ni基合金の諸特性が著しく向上することは認められない。すなわち、この場合、不経済的であり、また、最終製品である金型10の生産効率が低下する。好適な保持時間は、8時間である。
【0043】
次いで、第3工程S3にて、第2次時効処理を行う。この第2次時効処理により、第1次時効処理にて析出した析出物が成長して大析出物となるとともに、新たな核の発生・成長が起こる。これにより、上記のように定義される析出物および大析出物が金属組織中に分散したNi基合金が得られるに至る。
【0044】
第2次時効処理の好適な温度範囲および保持時間は、それぞれ、710〜760℃、5〜10時間である。710℃未満である場合や5時間未満である場合、析出物が充分に成長しないので大析出物を得ることが容易ではなくなる。一方、760℃を超える場合や10時間を超える場合、核が大きく成長してしまい、その結果、平均径が1μmを超える巨大析出物の割合が大きくなる。すなわち、いずれの場合も、Ni基合金(金型10)の諸特性を向上させることが容易ではなくなる。好適な温度は740℃であり、好適な保持時間は8時間である。
【0045】
金型10は、このようにして得られたNi基合金に対して種々の機械加工を施すことにより作製することができる。
【0046】
この金型10が取り付けられた鍛造加工装置を使用しての熱間鍛造加工は、以下のようにして遂行される。すなわち、まず、SCR420H、SCM420HまたはHNCM等からなるリング状ワーク(図示せず)を1100〜1200℃程度に加熱した後、該リング状ワークを金型10の大貫通孔12内に配置する。この際、リング状ワークは、大貫通孔12の底部に載置される。
【0047】
次に、リング状ワークをパンチ(図示せず)で押圧する。この押圧により、リング状ワークの肉が塑性流動して小貫通孔14に流入するとともに、小貫通孔14に流入した肉の一部が歯部形成用溝18内に分岐して流入する。なお、肉の塑性流動は、小貫通孔14内に挿入された図示しないピンにより堰き止められる。
【0048】
この際、鍛造加工装置内において近接した支持部材により周囲が囲繞された金型10に対し、リング状ワークから熱が伝達される。このため、金型10には熱応力が発生する。しかしながら、この金型10を構成するNi基合金における金属組織には、上記したように、平均径が互いに略同等である大析出物が分散している。しかも、該金属組織中には、析出物が適度な密度で含有されている。したがって、Ni基合金、すなわち、金型10中で熱応力が伝播することは、これら析出物および大析出物(主にγ”相)によって著しく抑制される。
【0049】
要するに、この金型10は、金属組織中に析出物および大析出物を含有することに起因して硬度、強度および靱性が向上したNi基合金から構成されている。このため、熱応力に対する抵抗力が高く、摩耗や欠けが発生し難い金型となる。具体的には、14700回程度の熱間鍛造加工を繰り返し行うことができる。すなわち、本実施の形態に係る製造方法により得られたNi基合金からなる金型10は、一般的な金型に比して約5倍の寿命を有する。
【0050】
さらに、熱間鍛造加工が行われている最中、リング状ワークから熱が伝達されることにより金型10の温度が上昇する。上記したように、金型10を構成するNi基合金は、610〜660℃で5〜10時間の第1次時効処理と、710〜760℃で5〜10時間の第2次時効処理とを施すことにより得られるものであるので、析出物の析出が不完全である。このため、熱間鍛造加工の最中、Ni基合金の金属組織中にさらなる析出物が新たに析出する。この新たに析出した析出物によりNi基合金の硬度、強度および靱性がさらに向上することも、金型10の寿命が著しく長期化する理由の1つであると考えられる。
【0051】
また、この金型10は、HRCが40を超えることに起因して耐摩耗性が高いので、寿命が一層長期化する。
【0052】
このように、本実施の形態に係る製造方法により得られたNi基合金からなる金型10は摩耗や欠けが発生し難いものであるので、交換頻度が著しく少なくなる。このため、予備の金型を多数用意しておく必要がないので、鍛造加工に要するコストを低廉化することができる。
【0053】
また、交換頻度が少ないので、鍛造作業を中断する頻度も少なくなる。したがって、歯車1の生産効率が向上するという利点もある。
【0054】
上記の鍛造加工過程において、小貫通孔14に流入した肉が小径部3となり、かつ歯部形成用溝18に流入した肉が外歯4となる。また、大貫通孔12内において、該大貫通孔12の直径にまで拡径された大径部2が成形される。これにより、製品としての歯車1が得られるに至る。
【0055】
なお、上記した実施の形態においては、得られたNi基合金を金型10に適用する場合を例示して説明したが、該Ni基合金でタービンブレード等の構造材料やその他のものを構成するようにしてもよいことはいうまでもない。
【0056】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るNi基合金の製造方法によれば、第2次時効処理を第1次時効処理に比して高温で行うようにしている。このため、長径が0.5nm以上である析出物の一部として、平均径が25nm〜1μmである大析出物が金属組織中に析出する。これら析出物および大析出物の存在によって金属組織中で応力が伝播することが著しく抑制されるので、市販されているNi基合金に比して強度、硬度および靱性が優れたNi基合金を得ることができるという効果が達成される。
【0057】
このようにして製造されたNi基合金は、例えば、熱間鍛造加工用金型の原材料として有用である。すなわち、摩耗や欠けが発生し難く、このため、寿命が著しく長い金型を構成することができる。この場合、金型の交換頻度が著しく減少するので、鍛造加工に対する設備投資を低廉化することができるとともに、鍛造加工製品の生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る鍛造加工用金型の概略縦断面斜視図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】析出物(大析出物)の長径および短径の定義を説明する説明図である。
【図4】本実施の形態に係るNi基合金の製造方法のフローチャートである。
【図5】小径部に外歯を有する歯車の概略全体斜視図である。
【符号の説明】
1…歯車 4…外歯
10…鍛造加工用金型 18…歯部形成用溝
Claims (3)
- 電子線の透過厚さを10nmに標準化するとき、透過型電子顕微鏡にて二次元的に観察される金属組織中に長径が0.5nm以上である析出物が700個/μm2以上の割合で存在し、かつ前記析出物として、以下の式(1)で定義される平均径が25nm〜1μmである大析出物が含まれているNi基合金の製造方法であって、
50〜55質量%のNi、17〜21質量%のCr、2.8〜3.3質量%のMo、合計で4.75〜5.5質量%のTaとNb(ただしTaは0.1質量%以下)、0.65〜1.15質量%のTi、0.2〜0.8質量%のAlを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である非熱処理Ni基合金に対して溶体化処理を施し、溶体化処理済Ni基合金を得る工程と、
前記溶体化処理済Ni基合金に対し、610〜660℃の温度を5〜10時間保持することで第1次時効処理を施す工程と、
710〜760℃の温度を5〜10時間保持することで、最終時効処理である第2次時効処理を施す工程と、
を有し、
前記第1次時効処理および前記第2次時効処理により、少なくともγ”相を前記析出物および前記大析出物として得ることを特徴とするNi基合金の製造方法。
平均径=(長径+短径)/2 …(1) - 請求項1記載の製造方法において、前記非熱処理Ni基合金として、0.08質量%以下のCo、0.01質量%以下のB、0.08質量%以下のCu、0.08質量%以下のC、0.35質量%以下のSi、0.35質量%以下のMn、0.015質量%以下のP、および0.015質量%以下のSをさらに含有するものを使用することを特徴とするNi基合金の製造方法。
- 請求項1または2記載の製造方法において、前記非熱処理Ni基合金として、金属組織中の母材粒子の結晶粒度がASTM規格でNo.8以上であるものを使用することを特徴とするNi基合金の製造方法。
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