JP4508485B2 - 像加熱装置、画像形成装置及び設定方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複写機やプリンタ等の画像形成装置に装着されている加熱定着器のような像加熱装置に関するもので、特に、誘導加熱方式の像加熱装置に関する。
また、この加熱装置を搭載した画像形成形成装置、及び設定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子写真式等の複写機などには、記録媒体である記録紙ないし転写材などのシート上に転写されたトナー像をシートに定着させる加熱装置が設けられている。
【0003】
この加熱装置は、例えば、シート上のトナーを熱溶融させる加熱ローラとも指称される定着ローラと、当該定着ローラに圧接してシートを挟持する加圧ローラとを有している。定着ローラは中空状に形成され、この定着ローラの中心軸上には、発熱体が保持手段により保持されている。発熱体は、例えば、ハロゲンランプなどの管状発熱ヒータより構成され、所定の電圧が印加されることにより発熱するものである。このハロゲンランプは定着ローラの中心軸に位置しているため、ハロゲンランプから発せられた熱は定着ローラ内壁に均一に輻射され、定着ローラの外壁の温度分布は円周方向において均一となる。定着ローラの外壁は、その温度が定着に適した温度(例えば、150〜200℃)になるまで加熱される。この状態で定着ローラと加圧ローラは圧接しながら互いに逆方向へ回転し、トナーが付着したシートを挟持搬送する。定着ローラと加圧ローラとの圧接部(以下、ニップ部ともいう)において、シート上のトナーは定着ローラの熱により溶解し、両ローラから作用する圧力によりシートに定着される。
【0004】
しかし、ハロゲンランプなどから構成される発熱体を備えた上記加熱装置においては、ハロゲンランプからの輻射熱を利用して定着ローラを加熱するため、電源を投入した後、定着ローラの温度が定着に適した所定温度に達するまでの時間(以下、ウォームアップタイムという)に、比較的長時間を要していた。その間、使用者は複写機を使用することができず、比較的長時間の待機を強いられるという問題があった。
【0005】
その一方、ウォームアップタイムの短縮を図ってユーザの操作性を向上すべく多量の電力を定着ローラに印加したのでは、加熱装置における消費電力が増大し、省エネルギー化に反するという問題が生じていた。
【0006】
このため、複写機などの商品の価値を高めるためには、加熱装置の省エネルギー化(低消費電力化)と、ユーザの操作性向上(クイックプリント)との両立を図ることが一層注目され重視されてきている。
【0007】
かかる要請に応える装置として、特開昭59−33787号公報に示されるように、加熱源として高周波誘導を利用した誘導加熱方式の加熱装置が提案されている。
【0008】
この誘導加熱装置は、金属導体からなる中空の定着ローラの内部にコイルが同心状に配置されており、このコイルに高周波電流を流して生じた高周波磁界により定着ローラに誘導渦電流を発生させ、定着ローラ自体の表皮抵抗によって定着ローラそのものをジュール発熱させるようになっている。
【0009】
この誘導加熱方式の加熱装置によれば、電気−熱変換効率がきわめて向上するため、ウォームアップタイムの短縮化が可能となる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような誘導加熱方式の加熱装置にあっては、コイルに数A〜数十Aの大電流が流れるために、コイル自身のジュール発熱による温度上昇問題があった。
【0011】
また、誘導コイルが加熱部材の内部空間に配置される場合には、効率のよい熱放出が行われず、コイルの温度上昇が甚大になる。
【0012】
このような誘導コイルの温度上昇が発生した場合、例えば誘導コイルの被覆が熱により溶融し、絶縁性が損なわれてしまうという問題があった。
【0013】
そこで、例えば特開昭54−39645号公報や、特開平10−282826号公報に開示されているように、誘導コイルの温度上昇を押さえるために、送風手段の冷却機構を設けるという提案がなされている。
【0014】
しかし、送風などの冷却機構をもうけることは、それだけコストが高くなるばかりか、その分のスペースも確保しなければならない。さらに、電力を消費して発生させた熱を間接的に冷却することは、エネルギーの無駄づかいになっていた。
【0015】
本発明は上述の課題に鑑み成されたものであり、その目的は、誘導コイルの昇温を抑えられる像加熱装置を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、電源損失の少ない像加熱装置を提供することにある。
【0017】
本発明の更に他の目的は、発熱効率の優れた像加熱装置を提供することにある。
また、本発明の目的は、この像加熱装置を搭載した画像形成装置を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明は下記の構成を特徴とする像化熱装置画像形成装置、及び設定方法である。
【0019】
(1)通電により磁束を発生するコイルと磁性コアとを有する磁束発生部と、前記磁束発生部からの磁束により発熱する発熱部材と、前記発熱部材との間で記録材を挟持搬送するニップ部を形成する加圧部材と、前記コイルに10kHz〜100kHzの交流電流を印加するための励磁回路と、前記発熱部材の温度を検知する温度検知部材と、前記温度検知部材の出力に基づいて前記コイルへの通電を制御する通電制御手段と、を有し、前記発熱部材の熱により前記ニップ部にて記録材上のトナー画像を加熱する像加熱装置において、
前記励磁回路から前記コイルに印加する全電力における有効電力Wと無効電力W′との関係が
0.2≦W/(W+W′)≦0.5
を満たすように前記磁束発生部と前記発熱部材との間隔が設定されていることを特徴とする像加熱装置。
(2)前記コイルは、絶縁耐熱性樹脂により表面が被覆されていることを特徴とする(1)に記載の像加熱装置。
(3)前記樹脂の耐熱温度は、220℃〜235℃であることを特徴とする(2)に記載の像加熱装置。
(4)前記磁束発生部は前記発熱部材の内面に対向して設けられていることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の像加熱装置。
(5)前記磁束発生部は前記発熱部材の外面に対向して設けられていることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の像加熱装置。
(6)通電により磁束を発生するコイルと磁性コアとを有する磁束発生部と、前記磁束発生部からの磁束により発熱する発熱部材と、前記発熱部材との間で記録材を挟持搬送するニップ部を形成する加圧部材と、前記コイルに10kHz〜100kHzの交流電流を印加するための励磁回路と、前記発熱部材の温度を検知する温度検知部材と、前記温度検知部材の出力に基づいて前記コイルへの通電を制御する通電制御手段と、を有し、前記発熱部材の熱により前記ニップ部にて記録材上のトナー画像を加熱する像加熱装置における前記磁束発生部と前記発熱部材との間隔を設定する設定方法において、
前記励磁回路から前記コイルに印加する全電力における有効電力Wと無効電力W′との関係が
0.2≦W/(W+W′)≦0.5
を満たすように前記磁束発生部と前記発熱部材との間隔を設定することを特徴とする設定方法。
(7)前記コイルは、絶縁耐熱性樹脂により表面が被覆されていることを特徴とする(6)に記載の設定方法。
(8)前記樹脂の耐熱温度は、220℃〜235℃であることを特徴とする(7)に記載の設定方法。
(9)前記磁束発生部は前記発熱部材の内面に対向して設けられていることを特徴とする(6)から(8)のいずれかに記載の設定方法。
(10)前記磁束発生部は前記発熱部材の外面に対向して設けられていることを特徴とする(6)から(8)のいずれかに記載の設定方法。
【0030】
ず、上記の有効電力と無効電力について解説する。交流電流の場合に、その回路にコンデンサーCやコイルLなどが存在する場合に抵抗Rとのバランスによって電流と電圧に位相差が生じることが一般的である。もし回路にコンデンサーCとコイルLがなく抵抗Rしかない場合には位相が生じることがなく、位相差ゼロであるので電流と電圧はごく普通に等位相で流れている。この場合には、電圧がかかっている時に同期して電流がながれているために電力は有効に消費され、有効電力は100%であり、無効電力は0%である。また消費電力Wは実効電流値Iと実効電圧Vを用いてW=IVで表される。
【0031】
しかし前述の通り、コンデンサーCやコイルLがある場合には電圧と電流に位相差が生じるために、電圧がかかっている瞬間でも電流が流れず、そのため先ほどと同じ実効電圧、実効電流であっても有効に電力が消費されない状態が生まれる。このためもし正弦波振動をしている場合の電圧と電流との位相差をθとすると、有効に消費される電力WはW=IVcosθであり、先ほどよりも少なくなってしまう。この有効に消費されている電力の事を有効電力という。先の例では、位相差がゼロでcosθ=0の例であったわけで、実効電流と実効電圧の単純な積、すなわち位相差ゼロの場合の消費電力から有効電力分を差し引いた分を、無効電力という。
【0032】
コイルに印加する全電力、有効電力W、無効電力W′の測定はごく普通の交流電源用の電力計で測定可能である。本発明の場合は、コイルの実効電流と実効電圧と消費電力を測っており、普通に消費電力と表示されているものが有効電力である。例えば実効電流15A、実効電圧130V、消費電力650Wと言うように表示されるが、このときのコイルに印加する全電力は実効電流と実効電圧の積15×130=1950Wであり、有効電力は表示どおり650W、無効電力は1950−650=1300Wということになる。
【0033】
有効電力比率[W/(W+W′)]は、誘導コイルの形状(巻き数、巻き幅)と加熱部材との距離、印加する周波数、ローラの材質、コアを用いる場合であれば、コアの磁気特性等のパラメータによって変化する。どれかを固定すれば、他のパラメータを合わせ込む事によって調節可能である。例えば、誘導コイルのギャップを広くするのであれば、コイルの巻き幅を広くし、コアの幅を広げる、あるいは磁路に占める割合を増やす等によって有効電力比率を適正化できる。
【0034】
【発明の実施の形態】
<第一実施例>
(1)画像形成装置例
図1は本実施例における画像形成装置の概略構成模型図である。本例の画像形成装置は転写式電子写真プロセス利用のレーザビームプリンタである。
【0035】
101は像担持体としての電子写真感光ドラムであり、矢印の時計方向に所定の周速度をもって回転駆動される。
【0036】
102は帯電手段としての導電性・弾性を有する帯電ローラであり、感光ドラム101に対して所定の押圧力をもって当接させてあり、感光ドラム101の回転に従動して回転する、あるいは回転駆動される。そしてこの帯電ローラ102に不図示の電源部より所定の帯電バイアス電圧が印加されることにより、回転する感光ドラム101の周面が所定の極性・電位に一様に接触帯電処理される。
【0037】
103は情報書き込み手段としての露光装置である。この露光装置103はレーザスキャナであり、画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応して変調されたレーザ光を出力し、折り返しミラー103aを介して、回転する感光ドラム101の一様帯電処理面を走査露光Lする。これにより感光ドラム101の面に走査露光パターンに対応した静電潜像が形成される。
【0038】
104は現像装置であり、感光ドラム101の面に形成された静電潜像をトナー画像として現像する。104aは現像ローラであり、不図示の電源部より所定の現像バイアス電圧が印加される。
【0039】
105は転写手段としての導電性・弾性を有する転写ローラであり、感光ドラム101に所定の押圧力をもって圧接させて転写ニップ部Tを形成させている。この転写ニップ部Tに不図示の給紙部から所定の制御タイミングにて記録媒体としての記録紙(転写材)Pが給紙されて挟持搬送され、その記録紙P面に感光ドラム101面側のトナー画像が順次に転写される。転写ローラ105には不図示の電源部からトナーの帯電極性とが逆極性の適切なバイアス電圧が所定の制御タイミングにて印加される。
【0040】
106は未定着トナー画像を加熱定着する加熱装置(画像加熱定着装置)であり、転写ニップ部Tを通った記録紙Pは感光ドラム101の面から順次に分離されてこの加熱装置106に導入され、記録紙P上のトナー画像が加熱・加圧されて記録紙P上に定着処理される。加熱装置106を通った記録紙Pは画像形成物(コピー、プリント)として排紙される。加熱装置106は本発明に従う誘導加熱方式の加熱装置であり、次の(2)項で詳述する。
【0041】
107は感光ドラム面クリーニング装置であり、記録紙分離後の感光ドラム101の面に残った転写残トナーや紙粉等の感光ドラム面汚染物を除去して清浄面化する。クリーニング装置107で清浄面化された感光ドラム面は繰り返して作像に供される。
【0042】
(2)加熱装置106
図2は加熱装置106の横断面模型図である。本例の加熱装置106は誘導加熱される発熱部材としての定着ローラ1と、加圧部材としての加圧ローラ2との圧接部である定着ニップ部Nに、未定着トナー画像tを担持している被加熱材としての記録紙やOHTなどの記録材Pを導入して挟持搬送させて、定着ニップ部Nにおいて定着ローラ1の熱とニップ圧によって未定着トナー画像tを記録材P面に熱圧定着させるヒートローラタイプの装置である。
【0043】
定着ローラ1は、外径40mm、厚さ0.7mmの、磁性金属部材である鉄製の芯金シリンダである。その表面の離型性を高めるために例えばPTFEやPFA等のフッ素樹脂の10〜50μm厚の層を外周面に設けてもよい。
【0044】
加圧ローラ2は、中空芯金2aと、その外周面に形成される表面離型性耐熱ゴム層である弾性層2bとからなる。
【0045】
定着ローラ1はその両端部を図示しない定着ユニットフレームに回転自在に軸受けさせて取り付け支持させてあり、図示しない駆動系により矢印の時計方向に所定の周速度にて回転駆動される。
【0046】
加圧ローラ2は、上記の定着ローラ1の下側において定着ローラ1に並行に配列して、芯金2aの両端部を図示しない定着ユニットフレームに回転自在に軸受けさせて支持させるとともに、バネなどを用いた図示しない付勢機構によって定着ローラ1の回転軸方向に押し上げ付勢させて定着ローラ1の下面に対して所定の押圧力で加圧させてある。この定着ローラ1に対する加圧ローラ2の圧接により、弾性層2bが定着ローラ1との圧接部で弾性変形して定着ローラ1との間に被加熱材加熱部としての所定幅の定着ニップ部Nが形成される。本例では加圧ローラ2は総圧約304N(約30Kg重)で荷重されており、その場合の定着ニップ部Nのニップ幅は約6mmになる。しかし都合によっては荷重を変化させてニップ幅を変えてもよい。
【0047】
加圧ローラ2は定着ローラ1の回転駆動に伴い、定着ニップ部Nでの圧接摩擦力にて従動回転する。
【0048】
9は磁束発生手段(磁束発生部)としての誘導コイルアセンブリであり、誘導コイル3と、磁性コア4と、コイルホルダー5等からなる。
【0049】
コイルホルダー5は、PPS、PEEK、フェノール樹脂等の耐熱性樹脂からなる、横断面半円樋型の部材であり、このコイルホルダー5の内側に舟形に巻いた誘導コイル3と、厚み4mmの平板フェライトをT型に組み合わせた磁性コア4を納めて誘導コイルアセンブリ9としてある。
【0050】
この誘導コイルアセンブリ9をステー6に保持させて定着ローラ1の中空部に挿入し、コイルホルダー5の半円弧面側を下向きの姿勢にして、ステー6の両端部を図示しない定着ユニットフレームに固定して支持させてある。コイルホルダー5の半円弧面側の外面と、中空の定着ローラ1の内面間の隙間距離は本例では2mmにした。
【0051】
定着ローラ1が回転駆動され、加圧ローラ2が従動回転し、励磁回路11から誘導コイル3に10〜100kHzの交流電流が印加される。交流電流によって誘導された磁界は導電層である定着ローラ1の内面に渦電流を流し、ジュール熱を発生させる。即ち定着ローラ1が誘導加熱される。この定着ローラ1の温度が定着ローラ表面に当接するように配置されたサーミスタ等の温度センサー7(温度検知部材)により検出され、その検出温度情報(検出信号)が制御回路12(通電制御手段)に入力する。制御回路12はその入力する検出温度情報をもとに、定着ローラ1の表面温度が所定の一定温度になるように、即ち定着ニップ部Nの温度が所定の定着温度に自動温調されるように、励磁回路11から誘導コイル3への電力供給を増減させる。
【0052】
而して、定着ローラ1・加圧ローラ2が回転され、定着ローラ1が誘導加熱されて所定に温度に温調された状態において、未定着トナー画像tを担持している記録材Pが搬送ガイド8にガイドされて定着ニップ部Nに導入されて挟持搬送され、定着ローラ1の熱とニップ圧によって未定着トナー画像tが記録材P面に熱圧定着される。定着ニップ部Nを出た記録材Pは定着ローラ1の面から分離して排出搬送される。10は定着ニップ部Nの記録材出口側に定着ローラ1の表面に当接または近接して配置した記録材分離爪である。
【0053】
定着ローラ1の発熱を増加させるためには誘導コイル3の巻き数を増やしたり、磁性コア4をフェライト、パーマロイといった高透磁率で残留磁速密度の低いものを用いたり、交流電流の周波数を高くすると良い。
【0054】
誘導コイル3には高周波の交流電流が印加されるために、変動する電流と電圧に位相差が生じる事が有る。この場合、コイルで有効に消費される電力Wは、誘導コイルに流れる実効電流I0と実効電圧V0と、その位相差θを用いて、
W=I00cosθ
で表される。
【0055】
有効電力比率(PF)は、誘導コイルで有効に消費される消費電力Wと、無効電力W′をもちいて
PF=W/(W+W′)
として表される。
【0056】
本実施例の構成においては、前記したように、コイルホルダー5外周面と、定着ローラ1の内面間の隙間距離は2mm、コア4は厚み4mmの平板フェライトをT型に組み合わせた構成をとり、この時に有効電力比率は0.30であった。
【0057】
また、温度センサーの検知温度180℃を保つように設定し、記録紙Pの搬送速度は200mm/sec程度に設定した。
【0058】
このような構成で、室温25℃の環境下で一分間に通紙するコピー枚数を変化させることによって得た誘導コイルに流れた実効電流値Ic、および誘導コイルの温度Tcの値を以下の表1に示す。
【0059】
【表1】
Figure 0004508485
【0060】
表1に示した各通紙モードA、B、Cは、
Aが記録紙を20枚/毎分で出力した場合
Bが記録紙を30枚/毎分で出力した場合
Cが記録紙を40枚/毎分で出力した場合である。
【0061】
表1から、誘導コイルの温度TCは誘導コイルICに流れる電流値の増加にしたがって上昇する事が判る。これは、単位時間当たりのコピー枚数が増える事によってトナーを記録紙に定着するために必要な電力量が増加し、その結果として誘導コイルに流れる電流値が増加し、誘導コイルでジュール熱として失われる損失熱が、誘導コイルに流れる電流値の二乗に比例して増加する事によって理解できる。
【0062】
次に、加熱装置(定着器)構成を変化させる事によって、有効電力比率を0.20程度までに低下させた系を用いて同じ実験をおこなった結果を以下の表2に示す。有効電力比率は、平板フェライトコア4の厚みを3mmに減らす事によって低下させた。
【0063】
【表2】
Figure 0004508485
【0064】
表2によると、各通紙モードA、B、Cすべてにおいて有効電力比率0.3の装置よりも誘導コイルの温度Tcが上昇している事が判る。特に通紙モードCにおいては誘導コイルの温度が220℃以上の高温であり、銅線を被覆している樹脂皮膜の絶縁破壊や、定着ローラ表面の異常昇温などを引き起こす恐れがある。したがって、コイルの耐熱温度を考慮すると、40枚/分の処理能力を有する画像形成装置では、有効電力比率0.3以上の定着ユニットを用いるのが好ましい。処理能力が30枚/分以下の画像形成装置では有効電力比率0.2以上の定着ユニットを用いれば良い。
【0065】
この様に、有効電力比率を0.3から0.2に低下することによって、誘導コイルの温度が上昇した理由は、単位時間当たりの出力枚数が同じであっても有効電力比率が悪化したことにより誘導コイルに流れる電流値が増加し、その結果として誘導コイルのジュール発熱量が増加した事に起因している。
【0066】
図3に同じ状態で記録紙を出力し、定着系の有効電力比率値を変化させた場合の誘導コイルの温度上昇カーブを示す。有効電力比率値が小さな値になるにしたがって、誘導コイルの温度が急激に上昇していく事がわかる。
【0067】
上述のように、誘導コイル3は高温になると電気抵抗が上がり電源効率が悪くなる。それを補うためにさらに電力を投入すると、さらなる発熱を引き起こし悪循環に陥る。コイル3の表面には、ポリイミドやアミドイミド等の絶縁性耐熱樹脂のコーティングが施されているが、コイルの発熱量が大きくなりすぎると樹脂の耐熱温度を上回り、絶縁性が損なわれてしまう(ポリイミドワイヤ(PIW))、アミドイミドワイヤ(AIW)等の耐熱樹脂の耐熱温度は約220℃〜235℃程度)。また、コイル3の発熱はコア4の昇温も引き起こす。コア4はキュリー温度を越えると透磁率が極端に低くなり発熱効率が悪化する。
【0068】
このように表面を樹脂で覆ったコイルを用いた場合のコイルの耐熱温度を基準にしてプリンタの処理能力と定着ユニットの有効電力比率の関係を調べてみた。図9にその結果を示す。
【0069】
図9から理解できるように1分間の出力枚数が10枚を越えるプリンタでは、最低でも0.1の有効電力比率の定着ユニットを用いる必要がある。1分間の出力枚数が20枚を越えるプリンタでは、最低でも0.15の有効電力比率の定着ユニット、1分間の出力枚数が30枚を越えるプリンタでは、最低でも0.2の有効電力比率の定着ユニット、1分間の出力枚数が40枚を越えるプリンタでは、最低でも0.25の有効電力比率の定着ユニットを用いる必要がある。
【0070】
誘導コイルの昇温が顕著になる場合には、誘導コイルと定着ローラとの距離を近づけたり、高熱伝導性部材を誘導コイルの近くに配置するなどによって対応できるが、本発明者らの検討によると、どのような対応策を用いたとしても誘導コイルの温度を安全な温度範囲で使用するためには、最低でも0.10以上の有効電力比率が必要であることが判った。さらに定着系の自由度を考慮すると、理想的には、0.20以上であることが望ましい。
【0071】
一方で、有効電力比率が1.0に近づくと電源損失が増加し、電源発熱量が増加する。すると電磁変換効率が悪く電力が加熱部材に印加できない。
【0072】
そこで、定着ユニットの有効電力比率と電源損失量との関係を調べてみた。その結果を図10に示す。
【0073】
電源損失が0.3以上では電源での発熱量が多くなり電力を印加しても電源でのロス分が多く、加熱部材の加熱に有効に使われる電力が少なくなり効率的ではない。
【0074】
よって、電源損失を抑えるために有効電力比率値上限は0.8以下、更に理想的には、電源効率を0.1程度に抑えるのが望ましいので有効電力比率の上限を0.5以下に設定するのが好ましい。
【0075】
このように有効電力比率の値が大きくなると誘導コイルの昇温は有利であるが、高周波を発生させる駆動電源でのスイッチングロスが大きくなり、電源でロスする電力が増えて効率的ではない。また有効電力比率を大きくするための定着系として、コアの断面を増やす等の構成変更が困難であるために、0.80程度が上限である事が判った。さらに、電源での電気熱変換効率や定着系の自由度の確保を考慮すると、理想的には、0.50以下であることが望ましい。
【0076】
上述したように、コイルの耐熱温度及び電源損失の両方を考慮すると、定着ユニットの有効電力比率[W/(W+W′)]は0.1以上0.8以下に設定する必要がある。定着器の設計の自由度を考慮すると0.2以上0.5以下が好ましい。
【0077】
更に詳細には、1分間の出力枚数が10枚以上のプリンタには有効電力比率が0.1以上0.8以下の定着器を用いるのが望ましい。1分間の出力枚数が20枚以上のプリンタには有効電力比率が0.15以上0.8以下の定着器を用いるのが望ましい。1分間の出力枚数が30枚以上のプリンタには有効電力比率が0.2以上0.8以下の定着器を用いるのが望ましい。1分間の出力枚数が40枚以上のプリンタには有効電力比率が0.25以上0.8以下の定着器を用いるのが望ましい。
【0078】
<第二実施例>
本発明の有効電力比率範囲は上記の第一実施例のようなタイプの誘導加熱方式の加熱装置以外の各種タイプの誘導加熱方式の加熱装置にも有効に適用できるものである。図4〜図8は各種タイプの誘導加熱方式の加熱装置例である。
【0079】
a)図4:この加熱装置は、誘導コイル3を定着ローラ1の外部に配置したタイプである。
【0080】
b)図5:この加熱装置は、定着ローラ1の代わりに、エンドレス状あるいは円筒状の磁性体金属ベルト1Aを誘導加熱部材として用いたタイプである。磁性体金属ベルト1Aは磁性金属層を含む積層部材、もしくはそれ自体磁性金属の部材である。
【0081】
磁性体金属ベルト1Aはその内側の誘導コイルアセンブリ9のコイルホルダー5と外側の加圧ローラ2との間に挟ませた状態にして、コイルホルダー5と加圧ローラ2とを圧接させて定着ニップ部Nを形成させている。
【0082】
この装置においては加圧ローラ2が駆動手段Mにより矢印の反時計方向に回転駆動される(加圧ローラ駆動方式)。この加圧ローラ2の回転による該ローラ2と磁性体金属ベルト1Aとの、定着ニップ部Nにおける圧接摩擦力で磁性体金属ベルト1Aに回転力が作用して、該磁性体金属ベルト1Aがその内面が定着ニップ部Nにおいて誘導コイルアセンブリ9のコイルホルダー5の下面部に密着して摺動しながら矢印の時計方向に従動回転する。
【0083】
磁性体金属ベルト1Aは誘導コイル3の発生磁束により誘導加熱され、定着ニップ部Nに被加熱材としての記録材Pが導入されて加熱される。
【0084】
c)図6:この装置は、ロール巻きにした有端の長尺ウエブ状の磁性体金属ベルト1Bを誘導加熱部材として用いたタイプである。この磁性体金属ベルト1Bを繰り出し軸13側から巻き取り軸14側に定着ニップ部Nを経由させて走行移動させる。磁性体金属ベルト1Bは磁性金属層を含む積層部材、もしくはそれ自体磁性金属の部材である。
【0085】
磁性体金属ベルト1Bは定着ニップ部Nにおいて誘導コイル3の発生磁束により誘導加熱され、定着ニップ部Nに被加熱材としての記録材Pが導入されて加熱される。
【0086】
d)図7:この装置は、コイルホルダー5の下面のほぼ中央部にホルダー長手に沿って誘導加熱部材としての磁性体金属ストリップ1Cを固定して配設し、誘導コイル3、磁性コア4、コイルホルダー5、磁性体金属ストリップ1Cのアセンブリに円筒状の耐熱性フィルム(定着フィルム)15を外嵌し、その定着フィルム15を上記固定の磁性体金属ストリップ1Cと加圧ローラ2との間に挟ませた状態にして、磁性体金属ストリップ1Cと加圧ローラ2とを圧接させて定着ニップ部Nを形成させている。
【0087】
この装置においては加圧ローラ2が駆動手段Mにより矢印の反時計方向に回転駆動される(加圧ローラ駆動方式)。この加圧ローラ2の回転による該ローラ2と定フィルム15との、定着ニップ部Nにおける圧接摩擦力で定フィルム15に回転力が作用して、該定フィルム15がその内面が定着ニップ部Nにおいて固定の磁性体金属ストリップ1Cの下面部に密着して摺動しながら矢印の時計方向に従動回転する。
【0088】
固定の磁性体金属ストリップ1Cは誘導コイル3の発生磁束により誘導加熱され、定着ニップ部Nに被加熱材としての記録材Pが導入されて定着フィルム15を介して固定の磁性体金属ストリップ1Cの熱で加熱される(フィルム加熱方式)。
【0089】
e)図8:この装置は、上記図7のフィルム加熱方式の装置において、定着フィルム15をロール巻きにした有端の長尺ウエブ状の部材にし、繰り出し軸13側から巻き取り軸14側に定着ニップ部Nを経由させて走行移動させる。
【0090】
固定の磁性体金属ストリップ1Cは誘導コイル3の発生磁束により誘導加熱され、定着ニップ部Nに被加熱材としての記録材Pが導入されて定着フィルム15を介して固定の磁性体金属ストリップ1Cの熱で加熱される。
【0091】
以上の実施例装置は転写式の電子複写装置であるが、画像形成のプロセス・手段はエレクトロファックス紙・静電記録紙等に直接にトナー画像を形成担持させる直接式や、磁気記録画像形成式、その他適宜の画像形成プロセス・手段で記録材上に加熱溶融性トナーによる画像を形成し、それを加熱定着する方式の複写機・レーザビームプリンタ・ファクシミリ・マイクロフィルムリーダプリンタ・ディスプレイ装置、記録機等の各種の画像形成装置における画像加熱定着装置として本発明は有効に適用できるものである。
【0092】
本発明の像加熱装置は実施例の画像加熱定着装置としてばかりではなく、その他、例えば、画像を担持した被記録材を加熱してつや等の表面性を改質する像加熱装置、画像を担持した被記録材を加熱して画像を仮定着する像加熱装置などとして広く活用できるものである。
【0093】
本発明は上述の例にとらわれるものではなく、技術思想が同じ変形例を含むものである。
【0094】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、誘導コイルの昇温を抑えられる像加熱装置を提供することができる。また、電源損失の少ない像加熱装置を提供することができる。更に、発熱効率の優れた像加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第一実施例の画像形成装置の概略構成模型図
【図2】 誘導加熱方式の加熱装置の横断面模型図
【図3】 有効電力比率と誘導コイル温度の相関グラフ
【図4】 他のタイプの誘導加熱方式の加熱装置の横断面模型図(その1)
【図5】 他のタイプの誘導加熱方式の加熱装置の横断面模型図(その2)
【図6】 他のタイプの誘導加熱方式の加熱装置の横断面模型図(その3)
【図7】 他のタイプの誘導加熱方式の加熱装置の横断面模型図(その4)
【図8】 他のタイプの誘導加熱方式の加熱装置の横断面模型図(その5)
【図9】 1分当たりのコピー枚数と定着ユニットの有効電力比率との関係を示したグラフ
【図10】 定着ユニットの有効電力比率と電源損失との関係を示したグラフ
【符号の説明】
1:定着ローラ(発熱部材)、2:加圧ローラ(加圧部材)、3:誘導コイル、4:磁性コア(芯材)、5:コイルホルダー(支持部材)、6:ステー、7:温度センサー(温度検知素子)、8:搬送ガイド、誘導コイルアセンブリ、10:分離爪、11:励磁回路、12:制御回路、P:記録材、t:トナー画像

Claims (10)

  1. 通電により磁束を発生するコイルと磁性コアとを有する磁束発生部と、前記磁束発生部からの磁束により発熱する発熱部材と、前記発熱部材との間で記録材を挟持搬送するニップ部を形成する加圧部材と、前記コイルに10kHz〜100kHzの交流電流を印加するための励磁回路と、前記発熱部材の温度を検知する温度検知部材と、前記温度検知部材の出力に基づいて前記コイルへの通電を制御する通電制御手段と、を有し、前記発熱部材の熱により前記ニップ部にて記録材上のトナー画像を加熱する像加熱装置において、
    前記励磁回路から前記コイルに印加する全電力における有効電力Wと無効電力W′との関係が
    0.2≦W/(W+W′)≦0.5
    を満たすように前記磁束発生部と前記発熱部材との間隔が設定されていることを特徴とする像加熱装置。
  2. 前記コイルは、絶縁耐熱性樹脂により表面が被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
  3. 前記樹脂の耐熱温度は、220℃〜235℃であることを特徴とする請求項2に記載の像加熱装置。
  4. 前記磁束発生部は前記発熱部材の内面に対向して設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の像加熱装置。
  5. 前記磁束発生部は前記発熱部材の外面に対向して設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の像加熱装置。
  6. 通電により磁束を発生するコイルと磁性コアとを有する磁束発生部と、前記磁束発生部からの磁束により発熱する発熱部材と、前記発熱部材との間で記録材を挟持搬送するニップ部を形成する加圧部材と、前記コイルに10kHz〜100kHzの交流電流を印加するための励磁回路と、前記発熱部材の温度を検知する温度検知部材と、前記温度検知部材の出力に基づいて前記コイルへの通電を制御する通電制御手段と、を有し、前記発熱部材の熱により前記ニップ部にて記録材上のトナー画像を加熱する像加熱装置における前記磁束発生部と前記発熱部材との間隔を設定する設定方法において、
    前記励磁回路から前記コイルに印加する全電力における有効電力Wと無効電力W′との関係が
    0.2≦W/(W+W′)≦0.5
    を満たすように前記磁束発生部と前記発熱部材との間隔を設定することを特徴とする設定方法。
  7. 前記コイルは、絶縁耐熱性樹脂により表面が被覆されていることを特徴とする請求項6に記載の設定方法。
  8. 前記樹脂の耐熱温度は、220℃〜235℃であることを特徴とする請求項7に記載の設定方法。
  9. 前記磁束発生部は前記発熱部材の内面に対向して設けられていることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載の設定方法。
  10. 前記磁束発生部は前記発熱部材の外面に対向して設けられていることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載の設定方法。
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