<1.強誘電体デバイスの構成>
図1は、本発明の強誘電体デバイスであるキャパシタの断面図である。
図1に示すキャパシタ200は、基板11と、基板11上に設けられた中間膜であるアモルファス層15と、このアモルファス層15上に形成された下部電極13と、その上の所定領域に設けられた強誘電体膜24と、強誘電体膜24上に設けられた上部電極25とを有している。
<1−1.基板>
基板11は、下部電極13等を支持する機能を有するものであり、平板状をなす部材で構成されている。この基板11には、その表面(図1中、上側)にアモルファス層15が形成されている。アモルファス層15は、アモルファス状態の物質で構成される部分であり、基板11と一体的に形成されたもの、基板11に対して固着されたもののいずれであってもよい。
基板11としては、例えば、Si基板、SOI(Si on Insulator)基板等を用いることができる。この場合、その表面が自然酸化膜又は熱酸化膜であるSiO2膜で覆われているものを用いることができる。すなわち、この場合、これらの自然酸化膜又は熱酸化膜がアモルファス層15を構成する。
また、アモルファス層15は、SiO2の他、例えば、窒化珪素、窒化酸化珪素、酸化ジルコニウムなどの各種金属材料等で構成することもできる。例えば、1000nmのSiO2と400nmのZrO2の二層構造とする。
このようなアモルファス層15は、例えば、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理蒸着法(PVD)、スパッタリーフロー、Si基板表面の熱酸化等により形成する。
また、基板11そのものが、アモルファス状態の物質で構成されていてもよい。この場合、基板11としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ボリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の各種樹脂材料、または、各種ガラス材料等で構成される基板を用いることができる。
これらのSi基板、SOI基板、各種樹脂基板、各種ガラス基板等は、いずれも、汎用的な基板である。このため、基板11として、これらの基板を用いることにより、強誘電体デバイスの製造コストを削減することができる。
基板11の平均厚さは、特に限定されないが、10μm〜1mm程度であるのが好ましく、100〜600μm程度であるのがより好ましい。基板11の平均厚さを、前記範囲内とすることにより、強誘電体デバイスは、十分な強度を確保しつつ、その薄型化(小型化)を図ることができる。
<1−2.下部電極>
基板11上には、下部電極13がイオンビームアシスト法により面内配向されて形成されている。
この下部電極13の組成は、例えば、Pt、Ir、Ti、Rh、Ruなどの金属材料で構成することが望ましい。これら金属材料の層を複数形成してもよい。例えば、20nm厚のTi/20nm厚のIr/140nm厚のPtという層構造で下部電極を構成する。これらの金属材料は、イオンビームアシスト法による面内配向膜の形成に適しかつ良好な導電性を有している。
また、下部電極13の組成は、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物を含むものでもよい。この場合、好ましくはペロブスカイト構造を有する金属酸化物を主材料とするものである。
ペロブスカイト構造を有する金属酸化物としては、例えば、M2RuO4(M=Ca、Sr、Ba)、RE2NiO4(RE=La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y)、REBa2Cu3Ox(RE=La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y)、MRuO3(M=Ca、Sr、Ba)、(RE、M)CrO3(RE=La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、M=Ca、Sr、Ba)、(RE、M)MnO3(RE=La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、M=Ca、Sr、Ba)、(RE、M)CoO3(RE=La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、M=Ca、Sr、Ba)、RENiO3(RE=La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y)、のいずれかあるいは固溶体等が挙げられる。特にCaRuO3、SrRuO3、BaRuO3、SrVO3、(La,Sr)MnO3、(La,Sr)CrO3、(La,Sr)CoO3、LaNiOx、REBa2Cu3Ox(RE=La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y)または、これらを含む固溶体等が好ましく、特に、イオンビームアシスト法による面内配向膜の形成に適しかつ良好な特性を有するものとして、SrRuO3、LaNiOx、REBa2Cu3Ox(RE=La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y)、または、これらを含む固溶体のうちの少なくとも1種であるのが好ましい。これらのペロブスカイト構造を有する金属酸化物は、導電性や化学的安定性に優れている。このため、下部電極13も、導電性や化学的安定性に優れたものとすることができる。そして、その上に良好な強誘電体膜を形成するのに適している。
ペロブスカイト構造を有する下部電極13は、例えば、立方晶(100)、正方晶(001)、菱面体晶(100)、擬立方晶(100)配向、擬立方晶(110)配向、擬立方晶(111)配向等のいずれであってもよいが、これらの中でも、特に、擬立方晶(100)配向または擬立方晶(110)配向であるものが好ましい。
また、下部電極13の平均厚さは、特に限定されないが、10〜300nm程度とするのが好ましく、50〜150nm程度とするのがより好ましい。これにより、下部電極13は、電極としての機能を十分に発揮することができるとともに、強誘電体デバイスの大型化を防止することができる。
<1−3.強誘電体膜>
この下部電極13上には、強誘電体膜24が形成されている。下部電極13は、前述の通り面内配向しているので、この下部電極13上に強誘電体膜24を形成することにより、強誘電体膜24は、配向方位が揃ったものとなる。特に、強誘電体膜24は、下部電極上にエピタキシャル成長により形成することが望ましい。
これにより、キャパシタ200は、例えば残留分極が増大、抗電界が低減等する。すなわち、キャパシタ200は、各種特性が向上する。このため、このようなキャパシタ200を用いて強誘電体メモリを作製した場合には、かかる強誘電体メモリをヒステリシス曲線の角型性に優れたものとすることができる。
強誘電体膜24は、各種強誘電体材料で構成することができるが、ペロブスカイト構造を有する強誘電体材料を含むものが好ましく、ペロブスカイト構造を有する強誘電体材料を主材料とするものがより好ましい。さらに、ペロブスカイト構造を有する強誘電体材料としては、正方晶(001)配向でエピタキシャル成長しているもの、菱面体晶(100)配向でエピタキシャル成長しているもの、立方晶(100)配向でエピタキシャル成長しているもの、擬立方晶(100)配向でエピタキシャル成長しているもの、のいずれであってもよいが、特に、正方晶(001)配向でエピタキシャル成長しているものが好ましい。これにより、前記効果がより向上する。
このペロブスカイト構造を有する強誘電体材料としては、例えば、Pb(Zr,Ti)O3(PZT)、(Pb,La)(Zr,Ti)O3(PLZT)、(Ba,Sr)TiO3(BST)、BaTiO3、KNbO3、Pb(Zn,Nb)O3(PZN)、Pb(Mg,Nb)O3(PMN)、PbFeO3、PbWO3のようなペロブスカイト構造の金属酸化物、SrBi2(Ta,Nb)2O9、(Bi,La)4Ti3O12のようなBi層状化合物、または、これらを含む固溶体(PMN−PT、PZN−PT等)が挙げられるが、これらの中でも、特に、PZT、BST、または、PMN−PT、PZN−PT等のリラクサ材料が好ましい。更に、Pb(M1/3N2/3)O3(M=Mg、Zn、Co、Ni、Mn、N=Nb、Ta)、Pb(M1/2N1/2)O3(M=Sc、Fe、In、Yb、Ho、Lu、N=Nb、Ta)、Pb(M1/2N1/2)O3(M=Mg、Cd、Mn、Co、N=W、Re)、Pb(M2/3N1/3)O3(M=Mn、Fe、N=W、Re)、のいずれかあるいは混相からなるリラクサ材料PMNと、Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT、0.0≦x≦1.0)との固溶体PMNy−PZT1-yを含むことが望ましい。これにより、キャパシタ200は、各種特性が特に優れたものとなる。
なお、下部電極13が、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物を含むもの(特に、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物を主材料とするもの)である場合、このペロブスカイト構造を有する金属酸化物は、ペロブスカイト構造を有する強誘電体材料との格子不整合が小さい。このため、下部電極13上には、強誘電体膜24を、容易かつ確実に、正方晶(001)配向でエピタキシャル成長させることができる。また、得られる強誘電体膜24は、下部電極13との接合性が向上する。
また、強誘電体膜24の平均厚さは、特に限定されないが、50〜300nm程度であるのが好ましく、100〜200nm程度であるのがより好ましい。強誘電体膜24の平均厚さを、前記範囲とすることにより、キャパシタ200の大型化を防止しつつ、各種特性を好適に発揮し得るキャパシタ200とすることができる。
<1−4.上部電極>
強誘電体膜24上には、櫛歯状(または帯状)をなす上部電極25が形成されている。
この上部電極25の構成材料としては、例えば、Pt、Ir、Au、Ag、Ru、または、これらを含む合金等のうちの、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、上部電極25の平均厚さは、特に限定されないが、10〜300nm程度であるのが好ましく、50〜150nm程度であるのがより好ましい。
<2.強誘電体デバイスの製造方法>
次に、このような強誘電体デバイスであるキャパシタ200の製造方法について、図2を参照しつつ説明する。
以下に示すキャパシタ200の製造方法は、アモルファス層15上に下部電極13を形成する工程(下部電極形成工程)と、下部電極13上に強誘電体膜24を形成する工程(強誘電体膜形成工程)と、強誘電体膜24の一部を除去する工程(下部電極取出工程)と、強誘電体膜24上に上部電極25を形成する工程(上部電極形成工程)とを有している。以下、各工程について、順次説明する。
まず、アモルファス層15を有する基板11を用意する。この基板11には、厚さが均一で、たわみや傷のないものが好適に使用される。アモルファス層15を形成する方法については前述の通りである。
[1A]下部電極形成工程
まず、基板11のアモルファス層15上に下部電極13を形成する。この下部電極13は、例えば、次のようにして形成することができる。
まず、アモルファス層15が形成された基板11を基板ホルダーに装填して、真空装置内に設置する。真空装置内には、基板11のアモルファス層15に対向して、前述したような下部電極13の構成元素を含む第1ターゲット(下部電極用ターゲット)が所定距離、離間して配置されている。なお、第1ターゲットとしては、目的とする下部電極13の組成と同一の組成または近似組成のものが好適に使用される。
次いで、例えばレーザー光を第1ターゲットに照射すると、第1ターゲットから下部電極を構成する各種金属原子(及び該当する場合には酸素原子)を含む原子が叩き出され、プルームが発生する。換言すれば、このプルームがアモルファス層15に向かって照射される。そして、このプルームがアモルファス層15の表面(上面)に接触する。
また、これとほぼ同時に、アモルファス層15の表面に対して、イオンビームを所定角度傾斜させて照射する。これにより、アモルファス層15上に、面内配向した下部電極13の層が形成される。
なお、前記原子をターゲットから叩き出す方法としては、レーザー光をターゲット表面へ照射する方法の他、例えば、アルゴンガス(不活性ガス)プラズマ、電子線等をターゲット表面へ照射(入射)する方法を用いることもできる。
これらの中でも、前記原子をターゲットから叩き出す方法としては、特に、レーザー光をターゲット表面へ照射する方法が好ましい。かかる方法によれば、レーザー光の入射窓を備えた簡易な構成の真空装置を用いて、容易かつ確実に、原子をターゲットから叩き出すことができる。
また、このレーザー光は、好ましくは波長が150〜300nm程度、パルス長が1〜100ns程度のパルス光とされる。具体的には、レーザー光としては、例えば、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、XeClエキシマレーザーのようなエキシマレーザー、YAGレーザー、YVO4レーザー、CO2レーザー等が挙げられる。これらの中でも、レーザー光としては、特に、ArFエキシマレーザーまたはKrFエキシマレーザーが好適である。ArFエキシマレーザーおよびKrFエキシマレーザーは、いずれも、取り扱いが容易であり、また、より効率よく原子をターゲットから叩き出すことができる。 また、下部電極13の形成における各条件は、各種金属原子が、所定の比率(例えば、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物における組成比)で、アモルファス層15上に到達し、かつ、下部電極13が面内配向し得るものであればよく、例えば、次のようにすることができる。
レーザー光の周波数は、30Hz以下程度とするのが好ましく、15Hz以下程度とするのがより好ましい。
レーザー光のエネルギー密度は、0.5J/cm2以上とするのが好ましく、2J/cm2以上とするのがより好ましい。
アモルファス層15が形成された基板11の温度は、0〜100℃程度とするのが好ましく、30〜70℃程度とするのがより好ましい。
アモルファス層15が形成された基板11とターゲットとの距離は、30〜100mmとするのが好ましく、50〜80mm程度とするのがより好ましい。
また、真空装置内の圧力は、133×10-1Pa(1×10-1Torr)以下とするのが好ましく、133×10-3Pa(1×10-3Torr)以下とするのがより好ましい。また、この場合、真空装置内の雰囲気は、不活性ガスと酸素との混合比を、体積比で300:1〜10:1程度とするのが好ましく、150:1〜50:1程度とするのがより好ましい。
下部電極13の形成における各条件を、それぞれ、前記範囲とすると、効率よく下部電極13を形成することができる。
また、このとき、レーザー光の照射時間を適宜設定することにより、下部電極13の平均厚さを前述したような範囲に調整することができる。このレーザー光の照射時間は、前記各条件によっても異なるが、通常、3〜90分程度とするのが好ましく、15〜45分程度とするのがより好ましい。
一方、アモルファス層15の表面に照射するイオンビームとしては、特に限定されないが、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンのような不活性ガスのうちの少なくとも1種のイオン、または、これらのイオンと酸素イオンとの混合イオン等が挙げられる。
このイオンビームのイオン源としては、例えば、Kauffmanイオン源等を用いるのが好ましい。このイオン源を用いることにより、イオンビームを比較的容易に生成することができる。
また、イオンビームのアモルファス層15の表面の法線方向に対する照射角度(前記所定角度)は、特に限定されないが、35〜65°程度とするのが好ましい。特に、前記照射角度を52〜57°程度とするのがより好ましい。このような照射角度に設定して、イオンビームをアモルファス層15の表面に照射することにより、面内配向した下部電極13を形成することができる。
イオンビーム加速電圧は、100〜300V程度とするのが好ましく、150〜250V程度とするのがより好ましい。
また、イオンビームの照射量は、1〜30mA程度とするのが好ましく、5〜15mA程度とするのがより好ましい。
以上のようにして、下部電極13が得られる(図2参照)。
[2A]強誘電体膜形成工程
次に、下部電極13上に強誘電体膜24を形成する。これは、例えば、次のようにして行うことができる。
なお、強誘電体膜24の形成に先立って、前記第1ターゲット(下部電極用)ターゲットに代わり、基板11に対向して、前述したような強誘電体膜24の構成元素を含む第2ターゲット(強誘電体膜用ターゲット)が所定距離、離間して配置される。なお、第2ターゲットとしては、目的とする強誘電体膜24の組成と同一の組成または近似組成のものが好適に使用される。
前記工程[1A]に引き続き、下部電極13上に、酸素原子および各種金属原子を含む原子のプルームを照射する。そして、このプルームが下部電極13の表面(上面)に接触することにより、ペロブスカイト構造を有する強誘電体材料(前述した通りである)を含む強誘電体膜24が、例えば正方晶(001)配向でエピタキシャル成長により膜状に形成される。
このプルームは、前記第2ターゲット表面に、前記工程[1A]と同様に、レーザー光を照射することにより、第2ターゲットから酸素原子および各種金属原子を含む原子を叩きだして、発生させるのが好ましい。
このようなレーザー光は、前記工程[1A]と同様に、ArFエキシマレーザーまたはKrFエキシマレーザーが好適である。
なお、必要に応じて、前記工程[1A]と同様に、下部電極13の表面にイオンビームを照射しつつ、強誘電体膜24を形成するようにしてもよい。これにより、より効率よく強誘電体膜24を形成することができる。
また、強誘電体膜24の形成における各条件は、各種金属原子が、所定の比率(すなわち、ペロブスカイト構造を有する強誘電体材料における組成比)で、下部電極13上に到達し、強誘電体膜24を形成し得るものであればよく、例えば、次のようにすることができる。
レーザー光の周波数は、30Hz以下とするのが好ましく、15Hz以下とするのがより好ましい。
レーザー光のエネルギー密度は、0.5J/cm2以上とするのが好ましく、2J/cm2以上とするのがより好ましい。
下部電極13が形成された基板11の温度は、300〜800℃程度とするのが好ましく、400〜700℃程度とするのがより好ましい。
なお、イオンビームの照射を併用する場合には、この温度は、0〜100℃程度とするのが好ましく、30〜70℃程度とするのがより好ましい。
下部電極13が形成された基板11と第2ターゲットとの距離は、30〜100mmとするのが好ましく、50〜80mm程度とするのがより好ましい。
また、真空装置内の圧力は、1気圧以下が好ましく、そのうち、酸素分圧は、例えば、酸素ガス供給下で133×10-3Pa(1×10-3Torr)以上とするのが好ましく、原子状酸素ラジカル供給下で133×10-5Pa(1×10-5Torr)以上とするのが好ましい。
なお、イオンビームの照射を併用する場合には、真空装置内の圧力は、133×10-1Pa(1×10-1Torr)以下とするのが好ましく、133×10-3Pa(1×10-3Torr)以下とするのがより好ましい。また、この場合、真空装置内の雰囲気は、不活性ガスと酸素との混合比を、体積比で300:1〜10:1程度とするのが好ましく、150:1〜50:1程度とするのがより好ましい。
強誘電体膜24の形成における各条件を、それぞれ前記範囲とすると、効率よく強誘電体膜24を形成することができる。
また、このとき、レーザー光の照射時間を適宜設定することにより、強誘電体膜24の平均厚さを前述したような範囲に調整することができる。このレーザー光の照射時間は、前記各条件によっても異なるが、通常、3〜90分程度とするのが好ましく、15〜45分程度とするのがより好ましい。
以上のようにして、強誘電体膜24が得られる。
なお、上記の方法に限らず、強誘電体膜24は、CVD法、レーザーアブレーションなどの方法によりエピタキシャル成長させて形成してもよい。
[3A]下部電極の取出工程
次に、強誘電体膜24の一部を除去して、下部電極13を取り出す。これは、例えば、フォトリソグラフィー法を用いることにより、行うことができる。
まず、除去する部分を残して、強誘電体膜24上にレジスト層を形成する。
次いで、強誘電体膜24に対して、エッチング処理(例えば、ウェットエッチング処理、ドライエッチング処理等)を施す。
次いで、前記レジスト層を除去する。これにより、下部電極13の一部(図1中左側)が露出する。
[4A]上部電極の形成工程
次に、強誘電体膜24上に上部電極25を形成する。これは、例えば、次のようにして行うことができる。
まず、所望のパターン形状を有するマスク層を、例えばスパッタリング法等により強誘電体膜24上に形成する。
次いで、例えばPt等で構成される上部電極25の材料を、例えば、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等を用いることにより、膜状に形成する。
次いで、前記マスク層を除去する。
以上のようにして、上部電極25が得られる。
以上のような工程[1A]〜[4A]を経て、キャパシタ200が製造される。
<3.圧電体デバイスの構成>
図3は、本発明の圧電体デバイス及びこれを用いた液体吐出ヘッドの実施形態を示す断面図である。
まず、図3に示す圧電体デバイス54について、前記キャパシタ200との相違点を中心に説明する。圧電体デバイス54は、基板52、基板52上の中間膜であるアモルファス層(振動板)53、アモルファス層53上の下部電極542、下部電極542上の圧電体膜543、および圧電体膜543上の上部電極541を有している。
下部電極542は、アモルファス層53上にイオンビームアシスト法により面内配向されて形成されている。この下部電極542上に、圧電体膜543が形成されている。これにより、圧電体膜543は、配向方位が揃ったものとなる。
これにより、圧電体デバイス54は、例えば電界歪み特性等の各種特性が向上する。また、圧電体膜543は、各種強誘電体材料で構成することができるが、ペロブスカイト構造を有する強誘電体材料を含むものが好ましく、ペロブスカイト構造を有する強誘電体材料を主材料とするものがより好ましい。さらに、ペロブスカイト構造を有する強誘電体材料としては、菱面体晶(100)配向であるもの、正方晶(001)配向であるもの、立方晶(100)配向でエピタキシャル成長しているもの、擬立方晶(100)配向でエピタキシャル成長しているもの、のいずれであってもよいが、特に、菱面体晶(100)配向であるものが望ましい。また、下部電極上542上にエピタキシャル成長しているものが好ましい。これにより、前記効果がより向上する。
このペロブスカイト構造を有する強誘電体材料としては、前記キャパシタ200で挙げたのと同様のものを用いることができる。特に、Pb(M1/3N2/3)O3(M=Mg、Zn、Co、Ni、Mn、N=Nb、Ta)、Pb(M1/2N1/2)O3(M=Sc、Fe、In、Yb、Ho、Lu、N=Nb、Ta)、Pb(M1/2N1/2)O3(M=Mg、Cd、Mn、Co、N=W、Re)、Pb(M2/3N1/3)O3(M=Mn、Fe、N=W、Re)、のいずれかあるいは混相からなるリラクサ材料PMNと、Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT、0.0≦x≦1.0)との固溶体PMNy−PZT1-yを含むことが望ましい。特に、Pb(Mn1/3Nb2/3)O3とPZTの固溶体、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3とPZTの固溶体が望ましい。これにより、圧電体デバイス54は、圧電特性その他の各種特性が特に優れたものとなる。
なお、下部電極542がペロブスカイト構造を有する金属酸化物である場合は、ペロブスカイト構造を有する強誘電体材料との格子不整合が小さい。このため、下部電極542上には、圧電体膜543を、容易かつ確実に、菱面体晶(100)配向でエピタキシャル成長させることができる。また、圧電体膜543は、下部電極542との接合性が向上する。
また、圧電体膜543の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、100〜3000nm程度であるのが好ましく、500〜2000nm程度であるのがより好ましい。圧電体膜543の平均厚さを、前記範囲とすることにより、圧電体デバイス54の大型化を防止しつつ、各種特性を好適に発揮し得る圧電体デバイスとすることができる。
圧電体膜543上には、上部電極541が形成されている。この上部電極541の構成材料および平均厚さは、それぞれ、前記キャパシタ200で記載した上部電極25と同様とすることができる。
<4.圧電体デバイスの製造方法>
次に、図4に基づき、圧電体デバイスの製造方法について説明する。
以下に示す圧電体デバイス54の製造方法は、基板52上のアモルファス層53上に下部電極542を形成する工程(下部電極形成工程)と、下部電極542上に圧電体膜543を形成する工程(圧電体膜形成工程)と、圧電体膜543上に上部電極25を形成する工程(上部電極形成工程)と、圧電体膜及び上部電極をパターニングする工程(パターニング工程)とを有している。以下、各工程について、順次説明する。
[1C]下部電極形成工程
前記工程[1A]と同様にして、イオンビームアシスト法により行う。
[2C]圧電体膜形成工程
次に、下部電極542上に圧電体膜543を形成する。これは、前記工程[2A]と同様にして行うことができる。
[3C]上部電極形成工程
次に図4[3C]に示すように、圧電体薄膜543上に上部電極541を形成する。具体的には、上部電極541として白金(Pt)等を100nmの膜厚に直流スパッタ法で成膜する。
[4C]パターニング工程
図4[4C]に示すように、圧電体薄膜543及び上部電極541を所定形状に加工して圧電体デバイスを形成する。具体的には、上部電極541上にレジストをスピンコートした後、所定形状に露光・現像してパターニングする。残ったレジストをマスクとして上部電極541、圧電体薄膜543をイオンミリング等でエッチングする。
以上のような工程[1C]〜[4C]を経て、圧電体デバイス54が製造される。
<5.強誘電体メモリの構成>
次に、本発明の強誘電体デバイスをキャパシタとして備える強誘電体メモリについて説明する。
図5は、本発明の強誘電体メモリの実施形態を模式的に示す平面図であり、図6は、図5中のA−A線断面の一部を拡大した図である。なお、図5では、煩雑となることを避けるため、断面であることを示す斜線を一部省略して示す。
図6に示すように、強誘電体メモリ40は、メモリセルアレイ42と、周辺回路部41とを有している。これらのメモリセルアレイ42と周辺回路部41とは、異なる層に形成されている。本実施形態では、下層(下側)に周辺回路部41が、上層(上側)にメモリセルアレイ42が形成されている。
メモリセルアレイ42は、行選択のための第1信号電極(ワード線)422と、列選択のための第2信号電極(ビット線)424とが直交するように配列されている。なお、信号電極の配置は、前記のものに限らず、逆であってもよい。すなわち、第1信号電極422がビット線、第2信号電極424がワード線でもよい。
これらの第1信号電極422と第2信号電極424との間には、強誘電体膜423が配置され、第1信号電極422と第2信号電極424との交差領域において、それぞれ、単位キャパシタ(メモリセル)が構成されている。
また、第1信号電極422、強誘電体膜423および第2信号電極424を覆うように、絶縁材料からなる第1保護層425が形成されている。
さらに、第2配線層44を覆うように第1保護層425上に絶縁材料からなる第2保護層426が形成されている。
第1信号電極422および第2信号電極424は、それぞれ、第2配線層44によって周辺回路部41の第1配線層43と電気的に接続されている。
周辺回路部41は、図5に示すように、第1信号電極422を選択的に制御するための第1駆動回路451と、第2信号電極424を選択的に制御するための第2駆動回路452と、センスアンプなどの信号検出回路453とを有しており、前記の単位キャパシタ(メモリセル)に対して選択的に情報の書き込み、または、読み出しを行うことができる。
また、周辺回路部41は、図6に示すように、半導体基板411上に形成されたMOSトランジスタ412を有している。このMOSトランジスタ412は、ゲート絶縁層412a、ゲート電極412bおよびソース/ドレイン領域412cを有している。
各MOSトランジスタ412は、それぞれ、素子分離領域413によって分離されるとともに、所定のパターンで形成された第1配線層43によって、それぞれ、電気的接続がなされている。
MOSトランジスタ412が形成された半導体基板411上には、第1層間絶縁層414が、さらに、第1層間絶縁層414上には、第1配線層43を覆うようにして第2層間絶縁層415が形成されている。
この第2層間絶縁層415上にはメモリセルアレイ42が設けられている。
そして、周辺回路部41とメモリセルアレイ42とは、第2配線層44によって電気的に接続されている。
本実施形態では、第2層間絶縁層415、第1信号電極422、強誘電体膜423および第2信号電極424により、前述したキャパシタ200が構成されている。
以上の構成のような強誘電体メモリ40によれば、単一の半導体基板411上に周辺回路部41およびメモリセルアレイ42が積層されているので、周辺回路部41とメモリセルアレイ42とを同一面に配置した場合に比べて、チップ面積を大幅に小さくすることができ、単位キャパシタ(メモリセル)の集積度を高めることができる。
このような強誘電体メモリ40における書き込み、読み出し動作の一例について説明する。
まず、読み出し動作においては、選択された単位キャパシタに読み出し電圧「Vo」が印加される。これは、同時に‘0’の書き込み動作を兼ねている。このとき、選択されたビット線を流れる電流またはビット線をハイインピーダンスにしたときの電位をセンスアンプにて読み出す。
なお、このとき、選択されない単位キャパシタには、読み出し時のクロストークを防ぐため、所定の電圧が印加される。
一方、書き込み動作においては、‘1’の書き込みの場合は、選択された単位キャパシタに「−Vo」の電圧が印加される。‘0’の書き込みの場合は、選択された単位キャパシタに、この選択された単位キャパシタの分極を反転させない電圧が印加され、読み出し動作時に書き込まれた‘0’状態を保持する。
なお、このとき、選択されない単位キャパシタには、書き込み時のクロストークを防ぐため、所定の電圧が印加される。
<6.強誘電体メモリの製造方法>
次に、強誘電体メモリ40の製造方法の一例について説明する。
前述したような強誘電体メモリ40は、例えば、次のようにして製造することができる。
−1− まず、公知のLSIプロセス(半導体プロセス)を用いて、周辺回路部41を形成する。
具体的には、半導体基板411上に、MOSトランジスタ412を形成する。例えば、半導体基板411上の所定領域にトレンチ分離法、LOCOS法等を用いて素子分離領域413を形成し、次いで、ゲート絶縁層412aおよびゲート電極412bを形成し、その後、半導体基板411に不純物をドープすることでソース/ドレイン領域412cを形成する。
−2− 次に、第1層間絶縁層414を形成した後、コンタクトホールを形成し、その後、所定パターンの第1配線層43を形成する。
−3− 次に、第1配線層43が形成された第1層間絶縁層414上に、第2層間絶縁層415を形成する。
以上のようにして、駆動回路451、452および信号検出回路453等の各種回路を有する周辺回路部41が形成される。
−4− 次に、周辺回路部41上に、メモリセルアレイ42を形成する。これは、前述した工程[1A]〜[4A]と同様にして行うことができる。
−5− 次に、第2信号電極424が形成された強誘電体膜423上に、第1保護層425を形成し、さらに、第1保護層425の所定領域にコンタクトホールを形成し、その後、所定パターンの第2配線層44を形成する。これにより、周辺回路部41とメモリセルアレイ42とが電気的に接続される。
−6− 次に、最上層に、第2保護層426を形成する。
以上のようにして、メモリセルアレイ42が形成され、強誘電体メモリ40が得られる。
このような強誘電体メモリ40は、各種電子機器に適用することができる。この電子機器としては、パーソナルコンピュータ、ICカード、タグ、携帯電話等が挙げられる。
<7.インクジェット式記録ヘッドの構成>
本発明の圧電体デバイスを備える液体吐出ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドについて説明する。
図7は、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの実施形態を示す分解斜視図である。前述の図3は、図7に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を断面図で表したものである。なお、図7は、通常使用される状態とは、上下逆に示されている。
図7に示すインクジェット式記録ヘッド50(以下、単に「ヘッド50」と言う。)は、ノズル板51と、インク室基板52と、振動板53と、振動板53に接合された圧電素子(振動源)54とを備え、これらが基体56に収納されている。なお、このヘッド50は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成する。
ノズル板51は、例えばステンレス製の圧延プレート等で構成されている。このノズル板51には、インク滴を吐出するための多数のノズル511が形成されている。これらのノズル511間のピッチは、印刷精度に応じて適宜設定される。
このノズル板51には、インク室基板52が固着(固定)されている。このインク室基板52は、ノズル板51、側壁(隔壁)522および後述する振動板53により、複数のインク室(キャビティ、圧力室)521と、インクカートリッジ631から供給されるインクを一時的に貯留するリザーバ523と、リザーバ523から各インク室521に、それぞれインクを供給する供給口524とが区画形成されている。
これらのインク室521は、それぞれ短冊状(直方体状)に形成され、各ノズル511に対応して配設されている。各インク室521は、後述する振動板53の振動により容積可変であり、この容積変化により、インクを吐出するよう構成されている。
このインク室基板52を得るための母材としては、例えば、シリコン単結晶基板、各種ガラス基板、各種プラスチック基板等を用いることができる。これらの基板は、いずれも汎用的な基板であるので、これらの基板を用いることにより、ヘッド50の製造コストを低減することができる。
また、これらの中でも、母材としては、(110)配向シリコン単結晶基板を用いるのが好ましい。この(110)配向シリコン単結晶基板は、異方性エッチングに適しているのでインク室基板52を、容易かつ確実に形成することができる。
このインク室基板52の平均厚さは、特に限定されないが、10〜1000μm程度とするのが好ましく、100〜500μm程度とするのがより好ましい。
また、インク室521の容積は、特に限定されないが、0.1〜100nL程度とするのが好ましく、0.1〜10nL程度とするのがより好ましい。
一方、インク室基板52のノズル板51と反対側には、振動板53が接合され、さらに振動板53のインク室基板52と反対側には、複数の圧電素子54が設けられている。
また、振動板53の所定位置には、振動板53の厚さ方向に貫通して連通孔531が形成されている、この連通孔531を介して、後述するインクカートリッジ631からリザーバ523に、インクが供給可能となっている。
各圧電素子54は、それぞれ、下部電極542と上部電極541との間に圧電体膜543を介挿してなり、各インク室521のほぼ中央部に対応して配設されている。各圧電素子54は、後述する圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。
これらの圧電素子54は、それぞれ、振動源として機能し、振動板53は、圧電素子54の振動により振動し、インク室521の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
基体56は、例えば各種樹脂材料、各種金属材料等で構成されており、この基体56にインク室基板52が固定、支持されている。
このようなヘッド50は、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力されていない状態、すなわち、圧電素子54の下部電極542と上部電極541との間に電圧が印加されていない状態では、圧電体膜543に変形が生じない。このため、振動板53にも変形が生じず、インク室521には容積変化が生じない。したがって、ノズル511からインク滴は吐出されない。
一方、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力された状態、すなわち、圧電素子54の下部電極542と上部電極541との間に一定電圧が印加された状態では、圧電体膜543に変形が生じる。これにより、振動板53が大きくたわみ、インク室521の容積変化が生じる。このとき、インク室521内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル511からインク滴が吐出される。
1回のインクの吐出が終了すると、圧電素子駆動回路は、下部電極542と上部電極541との間への電圧の印加を停止する。これにより、圧電素子54は、ほぼ元の形状に戻り、インク室521の容積が増大する。なお、このとき、インクには、後述するインクカートリッジ631からノズル511へ向かう圧力(正方向への圧力)が作用している。このため、空気がノズル511からインク室521へと入り込むことが防止され、インクの吐出量に見合った量のインクがインクカートリッジ631からリザーバ523を経てインク室521へ供給される。
このようにして、ヘッド50において、印刷させたい位置の圧電素子54に、圧電素子駆動回路を介して吐出信号を順次入力することにより、任意の(所望の)文字や図形等を印刷することができる。
<8.インクジェット式記録ヘッドの製造方法>
次に、ヘッド50の製造方法の一例について説明する。前述したようなヘッド50は、例えば、次のようにして製造することができる。
−10− まず、インク室基板52となる母材と、振動板53とを貼り合わせ(接合して)、これらを一体化させる。
この接合には、例えば、母材と振動板53とを圧着させた状態で熱処理する方法が好適に用いられる。かかる方法によれば、容易かつ確実に、母材と振動板53とを一体化させることができる。
この熱処理条件は、特に限定されないが、100〜600℃×1〜24時間程度とするのが好ましく、300〜600℃×6〜12時間程度とするのがより好ましい。なお、接合には、その他の各種接着方法、各種融着方法等を用いてもよい。
−20− 次に、振動板53上に圧電素子54を形成する。これは、前述した工程[1C]〜[4C]と同様にして行うことができる。
−30− 次に、インク室基板52となる母材の圧電素子54に対応した位置に、それぞれインク室521となる凹部を、また、所定位置にリザーバ523および供給口524となる凹部を形成する。
具体的には、インク室521、リザーバ523および供給口524を形成すべき位置に合せて、マスク層を形成した後、例えば、平行平板型反応性イオンエッチング、誘導結合型方式、エレクトロンサイクロトロン共鳴方式、ヘリコン波励起方式、マグネトロン方式、プラズマエッチング方式、イオンビームエッチング方式等のドライエッチング、5重量%〜40重量%程度の水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の高濃度アルカリ水溶液によるウェットエッチングを行う。
これにより、母材を、その厚さ方向に振動板53が露出する程度にまで削り取り(除去し)、インク室基板52を形成する。なお、このとき、エッチングされずに残った部分が、側壁522となり、また、露出した振動板53は、振動板としての機能を発揮し得る状態となる。
なお、母材として、(110)配向シリコン基板を用いる場合には、前述の高濃度アルカリ水溶液を用いることにより、母材は、容易に異方性エッチングされるので、インク室基板52の形成が容易となる。
−40− 次に、複数のノズル511が形成されたノズル板51を、各ノズル511が各インク室521となる凹部に対応するように位置合わせして接合する。これにより、複数のインク室521、リザーバ523および複数の供給口524が画成される。
この接合には、例えば、接着剤による接着等の各種接着方法、各種融着方法等を用いることができる。
−50− 次に、インク室基板52を基体56に取り付ける。以上のようにして、インクジェット式記録ヘッド50が得られる。
<9.インクジェットプリンタ>
本発明のインクジェット式記録ヘッドを備えた液体吐出装置であるインクジェットプリンタについて説明する。
図8は、本実施形態のインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、以下の説明では、図8中、上側を「上部」、下側を「下部」と言う。
図8に示すインクジェットプリンタ60は、装置本体62を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ621と、下部前方に記録用紙Pを排出する排出口622と、上部面に操作パネル67とが設けられている。
操作パネル67は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体62の内部には、主に、往復動するヘッドユニット63を備える印刷装置(印刷手段)64と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置64に送り込む給紙装置(給紙手段)65と、印刷装置64および給紙装置65を制御する制御部(制御手段)66とを有している。
制御部66の制御により、給紙装置65は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット63の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット63が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット63の往復動と.記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
印刷装置64は、ヘッドユニット63と、ヘッドユニット63の駆動源となるキャリッジモータ641と、キャリッジモータ641の回転を受けて、ヘッドユニット63を往復動させる往復動機構642とを備えている。
ヘッドユニット63は、その下部に、多数のノズル511を備えるインクジェット式記録ヘッド50と、インクジェット式記録ヘッド50にインクを供給するインクカートリッジ631と、インクジェット式記録ヘッド50およびインクカートリッジ631を搭載したキャリッジ632とを有している。
なお、インクカートリッジ631として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。この場合、ヘッドユニット63には、各色にそれぞれ対応したインクジェット式記録ヘッド50が設けられることになる。
往復動機構642は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸643と、キャリッジガイド軸643と平行に延在するタイミングベルト644とを有している。
キャリッジ632は、キャリッジガイド軸643に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト644の一部に固定されている。
キャリッジモータ641の作動により、プーリを介してタイミングベルト644を正逆走行させると、キャリッジガイド軸643に案内されて、ヘッドユニット63が往復動する。そして、この往復動の際に、インクジェット式記録ヘッド50から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
給紙装置65は、その駆動源となる給紙モータ651と、給紙モータ651の作動により回転する給紙ローラ652とを有している。
給紙ローラ652は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ652aと駆動ローラ652bとで構成され、駆動ローラ652bは給紙モータ651に連結されている。これにより、給紙ローラ652は、トレイ621に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置64に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ621に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
制御部66は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置64や給紙装置65等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部66は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、圧電素子(振動源)54を駆動して、インクの吐出タイミングを制御する圧電素子駆動回路、印刷装置64(キャリッジモータ641)を駆動する駆動回路、給紙装置65(給紙モータ651)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ631のインク残量、ヘッドユニット63の位置、温度、湿度等の印刷環境等を検出可能な各種センサが、それぞれ電気的に接続されている。
制御部66は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により圧電素子54、印刷装置64および給紙装置65は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
<10.その他>
以上、本発明の強誘電体デバイス、圧電体デバイス、強誘電体メモリ、電子機器、インクジェット式記録ヘッドおよびインクジェットプリンタについて、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の強誘電体デバイス、圧電体デバイス、強誘電体メモリ、電子機器、インクジェット式記録ヘッドおよびインクジェットプリンタを構成する各部は、同様の機能を発揮する任意のものと置換、またはその他の構成を追加することもできる。
また、例えば、強誘電体デバイス、圧電体デバイス、強誘電体メモリおよびインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、それぞれ、任意の工程を追加することもできる。
また、前記実施形態のインクジェット式記録ヘッドの構成は、例えば、各種工業用液体吐出装置の液体吐出機構に適用することもできる。この場合、液体吐出装置では、前述したようなインク(イエロー、シアン、マゼンダ、ブラック等のカラー染料インク)の他、例えば、液体吐出機構のノズル(液体吐出口)からの吐出に適当な粘度を有する溶液や液状物質等が使用可能である。
11…基板、13…下部電極、15…アモルファス層、200…キャパシタ、24…強誘電体膜、25…上部電極、40…強誘電体メモリ、41…周辺回路部、411…半導体基板、412…MOSトランジスタ、412a…ゲート絶縁層、412b…ゲート電極、412c…ソース/ドレイン領域、413…素子分離領域、414…第1層間絶縁層、415…第2層間絶縁層、42…メモリセルアレイ、422…第1信号電極、423…強誘電体膜、424…第2信号電極、425…第1保護層、426…第2保護層、43…第1配線層、44…第2配線層、451…第1駆動回路、452…第2駆動回路、453…信号検出回路、50…インクジェット式記録ヘッド、51…ノズル板、511…ノズル、52…インク室基板、521…インク室、522…側壁、523…リザーバ、524…供給口、53…振動板、531…連通孔、54…圧電素子、541…上部電極、542…下部電極、543…圧電体膜、56…基体、60…インクジェットプリンタ、62…装置本体、621…トレイ、622…排紙口、63…ヘッドユニット、631…インクカートリッジ、632…キャリッジ、64…印刷装置、641…キャリッジモータ、642…往復動機構、643…キャリッジガイド軸、644…タイミングベルト、65…給紙装置、651…給紙モータ、652…給紙ローラ、652a…従動ローラ、652b…駆動ローラ、66…制御部、67…操作パネル、P…記録用紙