JP4502591B2 - ワイパーブレードラバー - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、撥水処理が施されたウィンドシールドガラス面の雨水等の払拭用ブレードラバーに施す表面コーティング技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、降雨時の視認性向上を目的として、ガラス面にシリコーン被膜による撥水処理を施したウィンドシールドガラスが、自動車等の交通機関のフロントウィンドシールドガラス等に使用されている。かかるウィンドシールドガラス用のワイパー機構に使用されるブレードラバーとしては、シリコーンゴムを基材としたブレードラバーのエッジ部に、表面コーティング層を設けた構成が提案されている。
【0003】
かかる構成では、エッジ部の表面コーティング層により、払拭作動時の摩擦を低くし、かかる表面コーティング層を設けない構成に比べて、ビビリや異音の発生を抑制している。
【0004】
また、ブレードラバーの基材をシリコーンゴムとしているため、表面コーティング層が消失しても、基材のシリコーンゴムからシリコーンオイルが滲出して、払拭作動時におけるウィンドシールドガラス面からのシリコーン被膜の剥がれを補償することができる。
【0005】
そのため、上記構成のブレードラバーは、基材がNR、CR、SBR、BR系のジエン系ゴム材にハロゲン処理を施したそれまでの構成のブレードラバーとは異なり、表面コーティング層消失時のウィンドシールドガラスの撥水処理効果の短寿命化を防止することができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このように、基材にシリコーンゴムを使用し、且つ、エッジ部に表面コーティング層を設けるブレードラバーの構成は、それまでのハロゲン処理を施したジエン系ゴムを基材として採用する場合に比べて、ウィンドシールドガラスの払拭性に優れた効果を有している。
【0007】
しかし、エッジ部の上記表面コーティング層に関しては、同じ化学的組成のコーティング剤を使用しても、拭き性能の良いものと、拭き性能の悪いものが発生する場合がある。すなわち、同じ化学的組成のコーティング剤を使用しているにもかかわらず、拭き性能の安定性が得られないのである。
【0008】
本発明の目的は、ブレードラバーのエッジ部に施す表面コーティング層に基づく払拭性能を安定化させることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ウォーレス硬度が30〜60のシリコーン系バインダーと、平均粒径が5〜40μmのグラファイトとを有し、前記グラファイトの前記シリコーン系バインダーに対する体積比(P/B比)が0.6〜1.2であることを特徴とするコーティング剤である。
【0010】
上記構成において、(ウォーレス硬度/100)×(P/B比)×(グラファイトの平均粒径/40)が0.03〜0.5であることを特徴とする。
【0011】
本発明は、シリコーンゴム架橋物よりなるブレードラバーの払拭作動時にウィンドシールドガラスと接触するエッジ部に設けられる表面コーティング層であって、 前記表面コーティング層は、上記いずれかの構成のコーティング剤により形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明者は、表面コーティング層の払拭安定性に及ぼす影響を実験により詳細に検討した結果、コーティング剤の化学的組成そのものの影響もさることながら、コーティング剤を構成する材料の物理的性状にも大きく影響されることを見出した。
【0013】
特に、コーティング剤を構成する材料のうちシリコーン系バインダーと減摩剤として添加されるグラファイトの物理的性状をある一定の範囲に収めることにより、従来構成とは異なり、同じ化学的組成のコーティング剤であっても拭き性能が良好な場合と、悪い場合とが発生するという不安定性を解消し、安定した払き性能が得られることを実験により見出した。
【0014】
シリコーン系バインダーにおいては、その硬度が重要であり、ウォーレス硬度(Hw)が30未満では、ビビリや異音が発生する為に好ましくなく、60を越えても拭き残しが発生する為に好ましくない。そこで、ウォーレス硬度を30以上、60以下に設定した。
【0015】
グラファイトの平均粒径(D)は、5μm未満では、ビビリや異音が発生する為に好ましくなく、40μmを越えると拭き残しが発生する為に好ましくない。そこで、グラファイトの平均粒径は、5μm以上、40μm以下が好ましいと判断した。
【0016】
さらに、シリコーン系バインダーのウォーレス硬度と、グラファイトの平均粒径とを個々独立に制御しても十分ではなく、グラファイトとシリコーン系バインダーとのP/B比をもある一定の範囲に設定することが好ましいことを見出した。因みに、Pは減摩剤を、Bはバインダーを指している。
【0017】
すなわち、P/Bが0.6未満の場合には、ビビリや異音が発生する為に好ましくなく、1.2を越えると拭き残しが発生する為に好ましくなかった。そこで、かかるP/B比を0.6以上、1.2以下に設定した。
【0018】
このようにシリコーンバインダーの硬度、グラファイトの平均粒径、グラファイトとシリコーン系バインダーとのP/B比を、それぞれ上記範囲に設定することにより、初期および5万回払拭動作させた後(耐久後)の拭き性能の維持、ビビリの発生防止を共に満足させることができる。
【0019】
すなわち、かかる条件設定を行うことで、良好な拭き性能と払拭作動時にビビリを発生させない表面コーティング層を形成するためのシリコーン系バインダーとグラファイトとにおけるウォーレス硬度、平均粒径、P/B比の組合せの選択が行える。かかる条件の範囲内で選択した組合せは、良好な拭き性能と払拭作動時にビビリを発生させない表面コーティング層の形成に有効な組合せであった。
【0020】
すなわち、前記条件設定の範囲で選択した組合せの有効性は、実験の範囲では、実際上のコーティング剤の組成決定に際して上記条件設定の使用が有効であることを示していた。
【0021】
一方、多数の実験を行うなかで、ごく希に、上記設定範囲を満足するシリコーンバインダーの硬度と、グラファイトの平均粒径と、グラファイトとシリコーン系バインダーとのP/B比との組合せにおいても、初期および耐久後の拭き性能、ビビリの発生防止を共に満足させるという点で、十分ではない組合せが発生することに気がついた。
【0022】
そこで、本発明者は、かかる例外的組合せをも十分に排除できる条件設定はできないかと考えた。
【0023】
多数の実験結果を考察する中で、シリコーンバインダーの硬度、グラファイトの平均粒径、グラファイトとシリコーン系バインダーとのP/B比のそれぞれを上記範囲に設定すると共に、(ウォーレス硬度/100)×(P/B比)×(グラファイトの平均粒径/40)を0.03以上、0.5以下に設定すれば、上記十分ではない場合を排除することができることを見出した。
【0024】
すなわち、(ウォーレス硬度/100)×(P/B比)×(グラファイトの平均粒径/40)が0.03未満、あるいは0.5を越える場合には、初期および耐久後の拭き性能、ビビリ、異音の発生防止を共に満足させることができないのである。上記式を、以下、簡単に評価式と呼ぶ場合がある。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係るコーティング剤を用いた表面コーティング層を、自動車のウィンドシールドガラス払拭用のワイパー機構に用いるブレードラバーに設けた構成を示す斜視図である。図2(A)〜(C)は、ブレードラバーに表面コーティング層を形成する主な手順を示した説明図である。
【0026】
本発明を適用するブレードラバー1は、図1に示すように、例えば、自動車のフロントおよびリアのウィンドシールドガラスのガラス面払拭用に用いる長尺状のブレードに形成された構成になっている。
【0027】
ブレードラバー1は、ワイパーブレード側のバーテブラを取り付けるための取付溝部2と、セカンダリレバーの把持部およびヨークの把持部が係合する把持溝部3と、ネック部4、ショルダ部5と、ウィンドシールドガラス面を払拭するリップ部6とが一体に形成されている。
【0028】
ブレードラバー1のエッジ部7に、本発明に係る表面コーティング層8が設けられている。表面コーティング層8は、エッジ部7から、リップ部6に沿って、ワイパーの払拭作動時に、ウィンドシールドガラス面に接触する範囲に亙って帯状に設けられている。図中、網かけ表示で示した。
【0029】
かかる構成のブレードラバー1は、例えば、シリコーンポリマー100重量部に対して少なくともけいそう土を10〜50重量部を配合したシリコーンゴム架橋物により形成されている。かかるシリコーンゴムの未架橋物の配合は、上記けいそう土以外にも、架橋剤を必須の添加剤として配合構成されている。
【0030】
かかる配合成分からなるシリコーンゴムの未架橋物を、成形型でブレード状に架橋成形することにより、ブレードラバー1を製造することができる。製造に際しては、先ず、上記組成のシリコーンゴム架橋物を所定形状の成形型に入れ、例えば、図2(A)に示すような、2本のブレードラバー1がリップ部6で接続したタンデムブレードラバーに架橋成形する。
【0031】
その状態で、図2(B)に示すように、2本のブレードラバー1のリップ部6に沿って、所定範囲に亙って帯状に本発明に係るコーティング剤を塗布して、表面コーティング層8を設ける。図中、表面コーティング層8は、分かりやすいように層厚等を誇張して表示した。
【0032】
表面コーティング層8を設けた段階で、リップ部6を図2(B)に示す切断面で断し、図2(C)に示すように、ブレードラバー1をそれぞれに分離する。分離することにより、リップ部6のエッジ部7に表面コーティング層8を形成することができる。
【0033】
表面コーティング層8は、後記する組成の本発明に係るコーティング剤を、図2(B)に示すように、リップ部6に沿って所定層厚で帯状に塗布することにより形成する。塗布に際しては、例えば、スプレーにより塗布すればよい。しかし、一様に塗布することができれば、例えば、刷け塗りまたは、ディッピング(浸漬法)のような塗布手段を使用してもよい。
【0034】
ブレードラバー1に形成される表面コーティング層8は、少なくとも、ウィンドシールドガラス面に接触するエッジ部に塗布し、塗布後は、乾燥硬化して形成する。
【0035】
かかる構成のブレードラバー1では、撥水処理を施したウィンドシールドガラス面に対して、払拭作動時には表面コーティング層8が接触するため、低摩擦で作動し、ビビリや異音の発生がなく、良好なワイパー性能を示す。
【0036】
また、長時間使用により、表面コーティング層8が消失して、ブレードラバー1のシリコーンゴム架橋物が直接ウィンドシールドガラス面に接触するようになっても、シリコーンゴム架橋物にはけいそう土が、シリコーンポリマー100重量部に対して10〜50重量部含まれているため、払拭作動時の摩擦抵抗が低く抑えられて、けいそう土を上記範囲で含まない構成とは異なり、ビビリ、異音の発生がない。
【0037】
本発明に係る表面コーティング層8に使用するコーティング剤は、ウォーレス硬度を30〜60に設定したシリコーン系バインダーと、平均粒径を5〜40μmに設定した減摩剤としてのグラファイトとを含み、グラファイトのシリコーン系バインダーに対する体積比(P/B比)が0.6〜1.2に設定されている。
【0038】
コーティング剤に含まれるシリコーンバインダー、グラファイトはそれぞれ上記範囲に設定されているため、エッジ部7に設けられる表面コーティング層8の形成状態は、ウォーレス硬度、平均粒径、P/B比で規定されることとなり、かかる規定を行わない場合とは異なり、同一化学組成のコーティング剤を使用するにもかかわらず拭き性能に関して良品、不良品が発生する等の不安定化の問題点が解消される。
【0039】
すなわち、同一化学組成のコーティング剤を使用する限り、拭き性能のバラツキが所要の許容範囲内に収め得る安定した拭き性能を確保することができる。
【0040】
このように、けいそう土を前記所定量配合したシリコーンゴム架橋物で形成したブレードラバー1のエッジ部7に、ウォーレス硬度、平均粒径、P/B比で規制したシリコーン系バインダー、グラファイトを有するコーティング剤で表面コーティング層8を設けることにより、使用当初から、5万回の払拭作動経過後まで、ブレードラバー1の拭き性能の維持、ビビリ、異音の発生防止を共に満足することができる。
【0041】
さらに、シリコーン系バインダーを上記ウォーレス硬度範囲に設定し、グラファイトの平均粒径を上記範囲に設定し、P/B比を上記範囲に設定すると共に、(ウォーレス硬度/100)×(P/B比)×(グラファイトの平均粒径/40)で示される評価式を、を0.03以上、0.5以下に設定すれば、より確実に上記効果を満足させることができる。
【0042】
なお、本発明のコーティング剤を用いた表面コーティング層8の説明に際しては、図1において、ブレードラバーを自動車用に構成した場合を例に挙げて説明したが、その適用対象を自動車用に限定する必要はない。
【0043】
例えば、自動車以外にも、船舶、飛行機、電車などの交通機関の窓などのウィンドシールドガラス面側のワイパー機構に装着され、ウィンドシールドガラス面に付着した例えば、雨水、泥水、雪、みぞれ、埃などの窓面からの視界不良を生起する付着物質を払拭して取り除き、良好な運転視界を確保するためのブレードラバーに適用することができる。
【0044】
さらには、上記交通機関以外でも、例えば、建築物の窓面の払拭用のブレードラバーに適用してもよい。要は、ウィンドシールドガラスのガラス面の付着物を除去する実質的機能を有するブレードラバーには、その種類を問わず適用することができる。
【0045】
また、かかるブレードラバーの払拭作動の駆動方式としては、特段限定する必要はなく、どのような駆動方式であっても構わない。一般的には、モータ駆動のワイパー機構を想定することができるが、例えば、手に持って払拭する構成の駆動方式でも適用可能であることは云うまでもない。
【0046】
次に、本発明のコーティング剤、およびそれを使用した表面コーティング層の有効性について、以下の実施例で実験に基づき検証する。
【0047】
【実施例】
(実施例1)
本実施例では、ブレードラバー1のエッジ部7に設ける表面コーティング層8は、次のような成分配合を有する本発明に係るコーティング剤により形成されている。
【0048】
実験に際しては、化学的組成を同一に設定した上で、シリコーン系バインダーの硬度を、ウォーレス硬度で25、30、45、60、65と変化させ、P/B比を0.9、グラファイトを使用した場合の減摩剤の平均粒径を24μmと一定にした5種のコーティング剤を調製し、かかるコーティング剤を用いて、ブレードラバー1のエッジ部7に表面コーティング層8を形成して、試験に供した。
【0049】
シリコーン系バインダーの硬度は、テストシートのIRHD(ウォーレス硬度)を測定した。シート形成は、コーティング配合中のバインダー成分のみを溶剤に溶解し、乾燥硬化して厚さ約2mmのシート状に成形して得た。
【0050】
実験は、前記説明の5種のブレードラバー1を、実際の車両のワイパー機構に装着して払拭作動を行わせて、拭き性能、ビビリの発生についてその効果を検証した。払拭作動は、低速で連続的に行わせ、ワイパーシステムは、実験に使用した車両の基準に従った押し付け圧力、全長、断面形状とした。ワイパーの作動は、運転席側、助手席側の一方のワイパーのみ作動させ、片側毎に評価した。
【0051】
効果の検証に際して、拭き性能試験は、連続散水状態で行った。連続散水状態とは、ウィンドシールドガラス面に、約100〜500ml量の水を払拭面全体に満遍なく散布するようにして散水した状態を云う。
【0052】
評価は、図3(A)に示す基準に基づき、室内側から観察された払拭状況に照らして、点数表示で行った。
【0053】
ビビリ発生の有無の試験は、拭き性能試験と同様に行った。但し、ワイパーの作動は、運転席および助手席側のワイパーを同時作動させた。ビビリの評価は、図3(B)に示す基準に従った。
【0054】
評価結果を、図4に示した。なお、評価に際して「初期」とは、ブレードラバーを装着して試験開始状態での初期評価を示し、「耐久」とは、5万回払拭作動直後の評価を示している。
【0055】
図4では、シリコーン系バインダーのウォーレス硬度を25、30、45、60、65にそれぞれ設定した場合を、それぞれの硬度に対応させて実験No.1〜5で示している。
【0056】
実験No.1〜5においては、拭き性能、ビビリともに、ウォーレス硬度が30〜60で良好な結果が得られることが確認された。
【0057】
図5(A)、(B)には、バインダー硬度と拭き性能、ビビリとの関係を、それぞれグラフにして示した。拭き性能、ビビリの評価に際しては、ブレードラバー評価の分野で一般的に使用されている基準に照らして、拭き性能、ビビリについて、初期評価で点数表示が3.5点以上、耐久後評価で3.0点以上を合格、すなわち良好とするものとして評価した。
【0058】
かかる合格基準点に双方とも合格点を満たしているものを図4の総合判定の欄で○で示した。いずれか一方、あるいは双方とも合格点を満たしていない場合には、評価をNGとして×で示した。NG評価に対応する各欄には分かりやすいように*印を付記した。
【0059】
一方、バインダーのウォーレス硬度を45に設定して、P/B比のみ0.3〜1.5まで0.3、0.6、0.9、1.2、1.5と5点変化させ(実験No.6〜10に対応)、その拭き性能、ビビリについてP/B比の影響を検証した。その結果は、図4に示すように、0.6〜1.2であれば、良好な結果が得られることが確認された。
【0060】
図6(A)、(B)には、減摩剤の平均粒径と拭き性能、ビビリとの関係について、それぞれグラフで示した。拭き性能、ビビリの評価は、初期評価で点数表示が3.5点以上、耐久後評価で3.0点以上を合格、すなわち良好とするものとして評価した。
【0061】
次に、減摩剤の平均粒径の影響を調べた。すなわち、ウォーレス硬度を45とし、P/B比を0.9に設定した状態で、減摩剤の平均粒径を1μm、5μm、24μm、40μm、45μmと1〜45μmまで変化させ(実験No.11〜15に対応)て、拭き性能、ビビリの発生について検証した。この結果、5〜40μmで良好な結果が得られることが確認された。
【0062】
図7(A)、(B)には、P/B比と拭き性能、ビビリとの関係をグラフで示した。拭き性能、ビビリの評価は、初期評価で点数表示が3.5点以上、耐久後評価で3.0点以上を合格、すなわち良好とするものとして評価した。
【0063】
図4の結果から、シリコーン系バインダーは、ウォーレス硬度が30〜60で、前記グラファイトは、平均粒径が5〜40μmで、前記グラファイトと前記シリコーン系バインダーとのP/B比が0.6〜1.2であれば良好な結果が得られることが分かる。
【0064】
なお、図4では、「式の結果」の欄では、前記評価式により算出された値を示している。さらに、「バインダー硬度」、「P/B比」、「減摩剤平均粒径」の表示欄上方には、個々の実験No.に対応させた変化点、および適性設定範囲をそれぞれ示した。「式の結果」の欄上方にも、0.03〜0.5として適性範囲を示し、かかる範囲から外れたものについては該当欄にレ印を付した。
【0065】
(実施例2)
本発明者は、上記実施例1に示す実験を行うなか、シリコーン系バインダーのウォーレス硬度、グラファイトの平均粒径、P/B比のいずれをも満足する組み合わせでも、拭き性能、ビビリの双方とも満足する結果が得られない場合があることを見出した。
【0066】
そこで、拭き性能、ビビリの双方の評価観点において、合格点以上の評価が得られるシリコーン系バインダーのウォーレス硬度、グラファイトの平均粒径、P/B比の組合せを確実に選択できるようにするにはどうしたら良いか考えた。前記設定条件でもコーティング剤の組成決定に際しては、殆ど支障が発生しないが、より厳密には、かかる例外ケースをも考慮した設定条件が求められる。
【0067】
そこで、シリコーン系バインダーのウォーレス硬度、グラファイトの平均粒径、P/B比をファクターとして有する種々の実験式を考案し、各々の実験式について、バインダーのウォーレス硬度、グラファイトの平均粒径、P/B比の実験値を入れて、実験結果に適合する結果が得られる式を求めた。
【0068】
かかる式は、本発明に関わる実験により初めて求められたものであり、公知のデータから容易に算出し得るものではなかった。また、かかる評価式に関しては、公知の知見は一切なく、本発明者により初めて提案されたものである。
【0069】
すなわち、かかる実験式は、(ウォーレス硬度)×(P/B比)×(グラファイトの平均粒径)で示される。
【0070】
かかる評価式は、個々のファクターにそのままの数値を代入して算出される数値の桁が大きくなるため、例えば、扱い易い桁となるように、個々の因子の数値を小さくする式変形を行ってもよい。
【0071】
例えば、(ウォーレス硬度/100)×(P/B比)×(グラファイトの平均粒径/40)のような等価変形を行っても構わない。かかる式では、ウォーレス硬度の数値を100で、グラファイトの平均粒径を40で割ることにより、それぞれ数値の桁を小さくする処理を行っている。
【0072】
かかる式の有効性については、図8に示す実験No.16〜48までの結果から容易に確認できる。
【0073】
実験No.16〜22、42〜48では、バインダー硬度、グラファイトの平均粒径、およびP/B比の少なくともいずれか1つが、バインダー硬度(ウォーレス硬度)で30〜60、グラファイトの平均粒径で5〜40μm、P/B比で0.6〜1.2で示される適性範囲内に入っていない場合を示す。この場合には、勿論総合評価は×であり、且つ、評価式も0.03〜0.5の範囲外にある。実験No.16〜22の場合には、全て0.5より大きく、実験No.42〜48の場合には全て0.03より小さい値を示している。
【0074】
実験No.23〜29、35〜41の場合にも、バインダー硬度、グラファイトの平均粒径、およびP/B比の少なくともいずれか1つが各々の上記適性範囲内に入っておらず、総合評価が×である。評価式の値は、実験No.41を除いて、全て0.03〜0.5の範囲内に入っている。
【0075】
実験No.30〜34の場合には、バインダー硬度、グラファイトの平均粒径、およびP/B比のいずれもが、前記図4に沿って検証した上記各々の適性範囲内に入っている場合を示す。
【0076】
但し、実験No.30、34は、総合評価が×の場合を示しており、この場合の評価式の値は、0.03〜0.5の範囲外となっている。実験No.31〜33は、総合評価が○で、且つ、評価式の値が0.03〜0.5の範囲に入っている。
【0077】
バインダー硬度、グラファイトの平均粒径、およびP/B比のいずれもが前記図4に沿って検証した各々の適性範囲内に入っている場合であっても、実験No.30、34に例示するように、総合評価が○とならない場合があり、かかる不適切な組合せを除外するためには、さらに評価式の値が0.03〜0.5の範囲を満足するか否かの判断が必要であることが分かる。
【0078】
かかる結果から、本発明で見出した実験式としての評価式は、バインダー硬度、グラファイトの平均粒径、およびP/B比の適切な組合せを選択する上で、有効であることが確認される。
【0079】
すなわち、シリコーン系バインダーの配合においては、バインダー硬度、グラファイトの平均粒径、およびP/B比を、前記図4に沿って説明したように、バインダー硬度(ウォーレス硬度)で30〜60、グラファイトの平均粒径で5〜40μm、P/B比で0.6〜1.2で示される適性範囲内に入るように選択することが必要で、より精度を高めて実験No.30、34に例示されるような例外を省くためには、さらに評価式に基づく判断を加えればよいことが確認される。
【0080】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で必要に応じて変更してもよい。
【0081】
上記説明では、ウィンドシールドガラス面の払拭作動を行うワイパー機構のブレードラバーのエッジ部に、本発明に係るコーティング剤を用いた表面コーティング層を適用した場合を示したが、かかるブレードラバーへの適用にのみ限定する必要はない。
【0082】
【発明の効果】
本発明では、ブレードラバーのエッジ部に設ける表面コーティング層を、ウォーレス硬度が30〜60のシリコーン系バインダーと、平均粒径が5〜40μmのグラファイトを含み、グラファイトのシリコーン系バインダーに対する体積比(P/B比)を0.6〜1.2と規定したコーティング剤により形成しているので、表面コーティング層のコーティング状態を良好に形成することができ、かかる構成を採用しない表面コーティング層の場合とは異なり、5万回経過後であっても、ブレードラバーに求められる拭き性能の確保及びビビリの発生防止を確保することができる。
【0083】
さらに、かかる構成において、(ウォーレス硬度/100)×(P/B比)×(グラファイトの平均粒径/40)を0.03〜0.5と規定することにより、5万回経過後であっても、ブレードラバーに求められる拭き性能の確保及びビビリの発生防止を保証することができるシリコーン系バインダーのウォーレス硬度と、グラファイトの平均粒径、及びP/B比との組合せが確保できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態におけるブレードラバーの一例を示す斜視図である。
【図2】(A)〜(C)は、ブレードラバーの製造及び表面コーティング層の形成方法の主要工程を示す断面説明図である。
【図3】(A)は、拭き性能試験の評価基準を表形式で示す説明図であり、(B)はビビリの評価基準を表形式で示す説明図である。
【図4】シリコーン系バインダーのウォーレス硬度、グラファイトを使用した場合の減摩剤の平均粒径と、P/B比とのブレードラバーの拭き性能、ビビリに及ぼす影響の評価を表形式で示す説明図である。
【図5】(A)、(B)は、シリコーン系バインダーのウォーレス硬度の拭き性能、ビビリに及ぼす影響をそれぞれ示すグラフ形式で示す説明図である。
【図6】(A)、(B)は、グラファイトを使用した場合における減摩剤の平均粒径の拭き性能、ビビリに及ぼす影響をそれぞれ示すグラフ形式で示す説明図である。
【図7】(A)、(B)は、グラファイトのシリコーン系バインダーに対する体積比(P/B比)の拭き性能、ビビリに及ぼす影響をそれぞれ示すグラフ形式で示す説明図である。
【図8】(ウォーレス硬度/100)×(P/B比)×(グラファイトの平均粒径/40)を0.03〜0.5の範囲に規定することの有効性を、拭き性能、ビビリの観点から表形式で示す説明図である。
【符号の説明】
1 ブレードラバー
2 取付溝部
3 把持溝部
4 ネック部
5 ショルダ部
6 リップ部
7 エッジ部
8 表面コーティング層
Claims (2)
- シリコーンゴム架橋物よりなり、ブレードラバーの払拭作動時にウィンドシールドガラスと接触するエッジ部に設けられる表面コーティング層を有するワイパーブレードラバーであって、
前記表面コーティング層が、ウォーレス硬度が30〜45のシリコーン系バインダーと、平均粒径が5〜24μmのグラファイトとを有し、前記グラファイトの前記シリコーン系バインダーに対する体積比(P/B比)が0.6〜1.2であるコーティング剤により形成されていることを特徴とするワイパーブレードラバー。 - 請求項1記載のワイパーブレードラバーにおいて、
前記コーティング剤は、(ウォーレス硬度/100)×(P/B比)×(グラファイトの平均粒径/40)が0.03〜0.5であることを特徴とするワイパーブレードラバー。
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