ところで、近年、問題視されている環境問題等に配慮するため、インクジェット記録ヘッド構造体用のインクとして非溶媒系の需要が高まっているが、非溶媒系のインクは顔料の分散性が悪いため、インクを強アルカリ性(pH10〜12)にして顔料の分散性を改善したものが用いられている。
ところが、例えば、図7示すインクジェット記録ヘッド構造体31のように、インクに曝される表面の一部にアルミナ質焼結体を用いたものでは、上述した強アルカリ性のインクに長時間曝されると、アルミナ質焼結体中のガラス成分が溶出し、インク中に析出するためにインク粘度が高くなるともに、インク中の顔料が凝縮して粗な部分と密な部分ができ、インク滴の大きさが安定せず、ドットのばらつきが発生することから、印刷画像に悪影響を及ぼすといった課題があった。
また、特許文献2には、Al2O3含有率96〜99.8%で嵩比重3.7以上の緻密なアルミナ質焼結体を用いることが記載されているが。しかし、いくらAl2O3含有率が高くて緻密質で形成されていても、特に複雑な三次元構造の支持部材では、全体を均一に緻密な構造にするのは困難で、開気孔にバラツキがあり、表面開気孔率が大きい場合や、部分的に開気孔が大きい場合が多くみられ、強アルカリ性のインクがセラミックスの内部に入り込みやすく、化学的溶出、脱粒に対しては非常に不利となっていた。
更に、加圧機構として発熱抵抗体の熱エネルギーを利用したインクジェット記録ヘッド構造体31の場合、発熱抵抗体35の温度が瞬間的に数百度の温度に昇温されるとインク成分の熱分解物等が発熱抵抗体35の表面に堆積するコゲーションの問題が生じていた。同時に、アルミナ質焼結体中のガラス成分であるSi、Mg、Ca成分がインクに多く溶出していると発熱抵抗体35の表面へのガラス堆積物の発生が多くなり、この堆積物は、発熱抵抗体からインクへの熱伝導を阻害する原因となるため、インクの発砲が正常に行われなくなり、その結果、印字に欠陥が発生することあった。インクジェット記録ヘッド構造体31の高耐久化のためには、このような発熱抵抗体35の表面への堆積物を少なくする課題があった。
更にまた、画質の高精度化に伴って小さな孔径を有するインク吐出孔38を備えたものが用いられるようになっているが、上記支持部材40の長穴42、傾斜底面43、小径穴44に開口する気孔や凹部には加工屑やゴミ等が入り込んでおり、これらの加工屑やゴミ等は洗浄処理しても十分に除去することができず、そのまま使用するとインク供給穴41にインクを供給した際に、インクに曝される表面に開口する気孔や凹部に入り込んでいた加工屑やゴミ等がインク中に流出し、小さな孔径のインク吐出孔38を目詰まりされる恐れもあった。
また、特許文献2に示すインク記録ヘッドのように、アルミナ質焼結体からなる絶縁性セラミック基板にインク吐出孔を加工する場合、レーザー加工が用いられるのであるが、レーザー加工にてアルミナ質焼結体にインク吐出孔を形成すると、その周辺にバリのように盛り上がったガラス成分からなるヒュームが形成され、このヒュームが強アルカリ性のインクに曝されて腐食するとインク中に脱落し、微細なインク吐出孔を目詰まりさせ、インク滴の吐出を妨げるといった課題もあった。
更にまた、高画質と同時に印字スピードの高速化に伴ってインク吐出孔の高密度化と印字サイクルの短時間化が行われている。特に、図7示すような発熱抵抗体の熱エネルギーを用いたインクジェット記録ヘッド構造体31では、インク吐出孔38の高密度化に対応して発熱抵抗体35も高密度に配置されため、印字サイクルが短時間化されると発熱抵抗体35からの熱エネルギーが多くなり、インク室34内の温度が上昇することでインクの発泡作用に変化が生じて印字ばらつきとなるため、インク室34付近の放熱性を高めることで印字サイクルを短時間化する課題があった。
一般的に、インクの温度が上昇するとインク粘性変化が発生するために画像の濃度ムラとして現れてしまうので、インクの温度をインク粘性変化が始まる60℃以上にならないように印字サイクルの時間を制御している。また、インクの温度が60℃に達すると、強アルカリ性のインクに曝されたアルミナ質焼結体からのガラス質の腐食、溶出は大きく加速される傾向にある。
本発明は上記課題に鑑み、少なくともインクに曝される表面が、Al2O3を99.3重量%以上かつ99.9重量%以下、SiO2を0.25重量%以下、MgOを0.3重量%以下及びCaOを0.3重量%以下含有して成るアルミナ質焼結体から成るインクジェット記録ヘッド構造体において、上記アルミナ質焼結体表面の表面開気孔率が5%未満で平均開気孔径が5μm以下であることを特徴とするインクジェット記録ヘッド構造体を提供する。
また、上記インクに曝される表面の表面開気孔標準偏差が1.0以下であることが好ましい。
また、本発明は、上記インクに曝される表面からのインク温度20℃〜60℃の環境下におけるSi、Mg、Caの溶出量の合計が0.1ppm/(cm2・日)以下であることを特徴とする。
また、上記アルミナ質焼結体の平均結晶粒径が1.0〜10.0μmであることを特徴とする。
また、上記アルミナ質焼結体のMgOの含有量がSiO2、MgO及びCaOの3成分の組成比で30.0〜80.0重量%以上含まれることを特徴とする。
更に、上記アルミナ質焼結体の見掛密度が3.90×103kg/m3以上であることを特徴としている。
また、上記インクジェット記録ヘッド構造体は、複数のインク室を有し、各インク室内にインクを加圧するための発熱抵抗体を備えた流路部材と、上記各インク室と連通するインク吐出孔を備えたノズル板とからなるインクジェット記録ヘッドと、該インクジェット記録ヘッドを支持し、かつ上記流路部材のインク室と連通するインク供給穴を有する支持部材とからなることを特徴とする。
更に、上記支持部材を上記アルミナ質結晶体で構成したことを特徴とする。
また、上記インクジェット記録ヘッド構造体のインク吐出孔が5〜25μmであることを特徴とする。
本発明のインクジェット記録ヘッド構造体は、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド構造体に用いられるアルミナ質焼結体となるように、平均粒径0.1〜3.0μmのAl2O3粉末を主成分とするスラリーを型内に充填した後、所定の形状に成形し、該成形体を焼成してなることを特徴とする。
更に、上記成形体を1600〜1750℃で焼成することを特徴とする。
また、本発明のインクジェット記録ヘッド構造体は、第1の貫通孔を有するダイ、第2の貫通孔を有する固定パンチ、及び先端に突出部を有する浮動パンチを備え、上記ダイの第一貫通孔内に固定パンチの一部を挿入するとともに、上記固定パンチの第二の貫通孔内に浮動パンチの上記突出部を含む一部を挿入し、上記ダイ、固定パンチ、及び浮動パンチとで段付き凹部を形成する工程と、
この段付き凹部内に平均粒径0.1〜3.0μmのAl2O3粉末を主成分とするセラミック原料粉末を充填する工程と、
上記浮動パンチを上昇させてその先端の突出部をセラミック原料粉末より突出させる工程と、
凹部または第3の貫通孔を有する上パンチを備え、該上パンチを降下させて上記浮動パンチの突出部を上パンチの凹部又は第三の貫通孔内に嵌入させる工程と、
上パンチを降下させてセラミック原料粉末を加圧し、圧縮完了手前で上記浮動パンチを強制的に降下させる工程と、
浮動パンチの降下後、上記上パンチを圧縮完了位置まで降下させることにより、段付き貫通孔を有するセラミック成形体を成形する工程と、
該セラミック成形体を焼成する工程とからなることを特徴とする。
また、上記セラミック粉末を80〜150MPaの成形圧力で加圧して製造することを特徴としている。
また、上記Al2O3粉末の比表面積が0.5×103〜15.0×103m2/kgであることを特徴とする。
更に、上記セラミックス成形体を1550〜1650℃で焼成することを特徴とする。
更に本発明は、上記インクジェット記録構造体のインク供給穴よりインク室にインクを供給した状態で、発熱抵抗体を発熱させてインク室内に気泡を発生させることによりインク室内のインクを加圧し、インク吐出孔よりインク滴を吐出させることにより記録紙に印刷することを特徴としている。
本発明のインクジェット記録ヘッド構造体によれば、少なくともインクに曝される表面が、Al2O3を99.3重量%以上、SiO2を0.25重量%以下、MgOを0.3重量%以下及びCaOを0.3重量%以下を含有して成るアルミナ質焼結体から成り、上記アルミナ質焼結体表面の表面開気孔率が5%未満で平均開気孔径が5μm以下であるしたことにより、強アルカリ性のインクに長時間曝されることによりアルミナ質焼結体中のガラス成分がインク中へ溶出することが減少し、インク粘度が安定する。
更に、上記インクに曝される表面の表面開気孔標準偏差が1.0以下であることから開気孔内部から脱粒する粒子を小さくすることで、ノズル詰まりの発生を抑えることができる。
更には、上記インクに曝される表面からのインク温度20℃〜60℃の環境下におけるSi、Mg、Caの溶出量の合計が0.1ppm/(cm2・日)以下であることから、アルミナ質焼結体中のガラス成分であるSi、Mg、Ca成分のインクへの溶出が極端に少なくすることができ、発熱抵抗体の表面へのガラス堆積物が無くなり、インクジェット記録ヘッド構造体を長寿命化することが可能となる。
また、インクに曝された表面からのアルミナ質焼結体の溶出による脱粒物や、表面開気孔からのゴミの脱粒物の発生を抑え、脱粒物のサイズを小さくすることができるから、インク吐出孔の目詰まりを防止することができる。
また、上記アルミナ質焼結体の平均結晶粒径を1.0〜10.0μmとすることで、更にインク吐出孔の目詰まりの発生を抑えることができる。
また、上記アルミナ質焼結体のMgOの含有量がSiO2、MgO及びCaOの3成分の組成比で30.0〜80.0重量%以上含まれることから、アルミナ質焼結体中のガラス成分の溶出を更に抑えることができる。
また、上記アルミナ質焼結体の見掛密度が3.90×103kg/m3以上であることから、アルミナ質焼結体表面の開気孔の体積を抑えることができ、インクに曝される面積を少なくすることができる。
従って、上記インクジェット記録ヘッド構造体を、複数のインク室を有し、各インク室内にインクを加圧するための発熱抵抗体を備えた流路部材と、上記各インク室と連通するインク吐出孔を備えたノズル板とからなるインクジェット記録ヘッドと、該インクジェット記録ヘッドを支持し、かつ上記流路部材のインク室と連通するインク供給穴を有する支持部材とから構成するのが好ましい。
特に、上記支持部材を上記アルミナ質結晶体で構成することにより、耐薬品性を向上させるとともに、更にインク室付近の放熱特性を高めることができる。
また、インクジェット記録ヘッド構造体のインク吐出孔が5〜25μmであることから液滴粒を微細化することができる。
また、インクジェット記録ヘッド構造体に用いられるアルミナ質焼結体をとなるように、平均粒径0.1〜3.0μmのAl2O3粉末を主成分とするスラリーを型内に充填した後、所定の形状に成形し、該成形体を焼成することから、アルミナ質焼結体表面の表面開気孔率が5%未満で平均開気孔径が5μm以下のインクジェット記録ヘッド構造体を形成することができる。
上記成形体を1600〜1750℃で焼成することから緻密質なアルミナ焼結体を得ることができる。
あるいは、上述の段付き凹部を形成する工程と、セラミック粉末顆粒を充填する工程と、浮動パンチを上昇させてその先端の突出部をセラミック原料粉末より突出させる工程と、浮動パンチの突出部を上パンチの凹部又は第三の貫通孔内に嵌入させる工程と、上パンチを降下させてセラミック原料粉末を加圧し、圧縮完了手前で上記浮動パンチを強制的に降下させる工程と、浮動パンチの降下後、上記上パンチを圧縮完了位置まで降下させることにより、段付き貫通孔を有するセラミック成形体を成形する工程と、セラミック成形体を焼成する工程とからなることから、複雑な三次元構造を有する支持部材であっても、全体が均一で緻密なセラミック成形体を得ることができる。
また、上記セラミック粉末を80〜150MPaの成形圧力で加圧すると、支持部材のインク供給穴のような段付き凹部のある形状を成形することで、粉末顆粒の成形による圧縮比率を均一にすることができ、これにより支持部材の表面全体の表面開気孔率が5%未満で平均開気孔径が5μm以下にすることができ、アルミナ質焼結体中のガラス成分がインク中への溶出や脱粒を減少させることが可能となり、また、焼成時にアルミナ質焼結体にクラックが防止され、熱変形することがなくなる。
また、上記Al2O3粉末の比表面積が0.5×103〜15.0×103m2/kgであることから緻密なセラミック成形体が得られるとともに、緻密質なアルミナ質焼結体を得ることができる。
また、上記セラミックス成形体を1550〜1650℃の低温で焼成でき結晶粒径を小さく形成することができるので脱落が起きてもインク吐出孔の目づまりを抑えることが出来る。
更に、上記インクジェット記録ヘッド構造体のインク供給穴よりインク室にインクを供給した状態で、発熱抵抗体を発熱させてインク室内に気泡を発生させることによりインク室内のインクを加圧し、インク吐出孔よりインク滴を吐出させることにより高精度な印字が可能となるインクジェットプリンタを提供することができる。
更に、アルミナ質焼結体の熱伝導率を30W/mK以上とすることができるので、インク室付近の放熱性を高めることで印字サイクルを短時間化することができる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明のインクジェット記録ヘッド構造体の一例を示す図で、(a)はその斜視図、(b)は一部を破断した斜視図である。また、図2(a)〜(c)は本発明のインクジェット記録ヘッド構造体の一例を示す分解斜視図であり、図3(a)は図2(c)に示す支持部材の一例を示す斜視図、(b)はその一部を破断した斜視図である。そして、図4は図1(a)のX−X線断面図、(b)は図1(a)のY−Y断面図である。
このインクジェット記録ヘッド構造体1は、複数のインク室4を有し、各インク室4内にインクを加圧するための発熱抵抗体5を備えた流路部材3と、上記各インク室4と連通するインク吐出孔8を備えたノズル板9とからなるインクジェット記録ヘッド2と、このインクジェット記録ヘッド2を支持し、かつ上記流路部材3のインク室4と連通するインク供給穴11を有するセラミック製の支持部材10とからなる。
インクジェット記録ヘッド2を形成する流路部材3は、例えばシリコン基板に複数本の段付き溝6を並設してなり、段付き溝6の段差部7に複数個の発熱抵抗体5を所定間隔で並設したもので、各発熱抵抗体5と対向する位置にインク吐出孔8が位置するように流路部材3上にノズル板9を配置することによりインクジェット記録ヘッド2を構成してある。また、流路部材3は、後述のアルミナ質焼結体を用いてもよく、更に少なくともインクに曝される表面がアルミナ質焼結体であっても構わない。
また、ノズル板9は、例えば板状の感光性樹脂に複数のインク吐出孔8を所定間隔で並設したものである。更に、ノズル板9は、後述のアルミナ質焼結体を用いてもよく、更に少なくともインクに曝される表面がアルミナ質焼結体であっても構わない。
セラミックは、金属や樹脂などのその他の材料と比較すると耐薬品性に優れており、特にアルミナ質焼結体は、セラミックの中でも耐薬品性に優れので、強アルカリのインクに曝されても浸食されにくいという特徴がある。更に熱伝導率も高いためにインク室4付近の放熱特性を高めることができ印字サイクルを短時間化することができる。
インク吐出孔8は、印字する画素数が300dpiであれば約30μm程度で良いが、高画質の印字に用いるためにはインク吐出孔8は5〜25μmとすることが好ましい。なぜならば300dpi程度では目視にて印字面の液滴粒状を確認できるため、銀塩写真と著しい画質差が生じた。また、インクジェットプリンタでは液滴粒の疎密により、同一色の濃淡の階調を表現するが、この点においても液滴粒が微細である方が明確に印字できるからである。
なお、インク吐出孔8の孔径は、要求される画素数によって決定されるため、それに応じてインクジェット記録ヘッド構造体1に用いるアルミナ質焼結体の平均結晶粒径を決定すればよい。つまり、インク吐出孔8の孔径が小さくなるほど、用いるアルミナ質焼結体の平均結晶粒径を小さくすれば目詰まりを抑制することができる。
また、支持部材10は、板状のアルミナ質焼結体にインクジェット記録ヘッド2の各インク室4と連通する複数本のインク供給穴11を穿設したもので、各インク供給穴11は、インクジェット記録ヘッド2側に開口する、中央に向かって深くなる傾斜底面13を備えた長穴12と、インクジェット記録ヘッド2と反対側に開口し、上記長穴12と連通する小径穴14とからなる。
そして、このインクジェット記録ヘッド構造体1を用いて記録紙に印刷するには、インク供給穴11よりインク室4にインクを供給した状態で、発熱抵抗体5を発熱させてインク室4内に気泡を発生させることによりインク室4内のインクを加圧し、インク吐出孔8よりインク滴を吐出させることにより記録紙に印刷するようになっている。
そして、本発明によれば、支持部材10、ノズル板9、流路部材3のうち少なくともインクに曝される表面を、Al2O3含有率99.3重量%以上、SiO2を0.25重量%以下、MgOを0.3重量%以下、及びCaOを0.3重量%以下含有して成るアルミナ質焼結体により形成することで、SiO2、MgO、CaO等のガラス成分量を少なくしてあることから、強アルカリのインクに曝されて上記ガラス成分が溶出しても、その析出量が極少量であるため、インクと反応する水酸化物の生成が少なく、インクの粘度上昇を抑えることができるとともに、インク中の顔料が凝集する割合も低減することができる。
その為、インク吐出孔8から吐出されるインク滴の大きさが安定し、ドットばらつきを防ぐことができるため、高精度で高画質の画像を印刷することができる。
また上述のアルミナ質焼結体は、少なくともインクに曝される表面の表面開気孔率が5%未満で平均開気孔径が5μm以下とすることで、インクに曝される表面からのガラス成分の溶出を更に少なくすることができる。即ち、表面開気孔率が5%以上であると強アルカリ性のインクに暴露される表面積が大きくなるために、ガラス成分の溶出やその成分粒子の脱粒が多くなる。特に、平均開気孔径が5μmを超えると開気孔内部から5μmより大きい粒子が脱粒するために、インク吐出孔のノズル詰まりが生じる原因となるので、表面開気孔率と平均開気孔径を制御して、開気孔内部から脱粒する粒子を小さくすることで、インク吐出孔8ノズル詰まりの発生を抑えることができるからである。
また、本発明に用いられるアルミナ質焼結体のインクに曝される表面の表面開気孔標準偏差が1.0以下であることが好ましい。即ち、表面開気孔標準偏差が1.0以上になると開気孔がばらつき、その結果、気孔径の大きな開気孔が存在し、その開気孔が強アルカリのインクに曝されると脱粒する粒子のサイズも大きくなり、インク吐出孔8のノズル詰まりが発生し易いからである。
そして、強アルカリ性のインクとSiO2、MgO及びCaOの化学的反応は、インク温度により変化することから、上記インクに曝される表面からのインク温度20℃〜60℃の環境下におけるSi、Mg、Caの溶出量の合計が0.1ppm/(cm2・日)以下であることが好ましい。
これにより、アルミナ質焼結体中のガラス成分であるSi、Mg、Ca成分のインクへの溶出を極端に少なくすることができ、発熱抵抗体の表面へのガラス堆積物が無くなり、インクジェット記録ヘッド構造体を長寿命化することが可能となる。
また、Si、Mg、Caの溶出量を制限することで、支持部材のインク供給孔の周りに発生する、ガラス質もしくはアルミナ粒子とガラス質の凝集を抑制することができインク吐出孔8のノズル詰まりを抑えることができる。
この溶出量の合計は、水温20℃の強アルカリ性(pH12)のインクに支持部材を投入し3日間放置して得られたインク溶液をICP発光分光分析装置(セイコー電子工業製JY38P2型)にて、Ca、Si、Mgの定量分析を行った値である。
また、本発明に用いられるアルミナ質焼結体の平均結晶粒径は、1.0〜10.0μmであることが好ましい。
平均結晶粒径が10.0μm以下であると、仮にアルミナ質焼結体のガラス成分の溶出に伴う粒子の脱落が発生した場合でも、脱落した粒子によるインク吐出孔8のノズル詰まりを抑えることができるためである。また、強アルカリのインクに対する耐食性を向上させるためには、アルミナ質焼結体の平均粒径を極力小さくする方が効果的であるが、焼成後の研削加工などにおいて、加工レートを上げられないなどの問題があるため、平均結晶粒径は、1.0μm以上であることが好ましい。
より好ましい平均結晶粒径は、3.0〜9.0μmであり、更に好ましい平均結晶粒径は、5.0〜8.0μmである。このように結晶粒径を小さく形成することができるので脱落が起きてもインク突出孔の目づまりを抑えることが出来る。平均結晶粒径は、インターセプト法から求められる。
また、上記アルミナ質焼結体のMgOの含有量がSiO2、MgO及びCaOの3成分の組成比で30.0〜80.0重量%含まれることが好ましい。
ここで、上記3成分の組成比でMgOを30.0重量未満であると、焼成時に異常粒成長がおき、それが脱落する吐出孔が目づまりを起こすことがある。また、80.0重量%を超えると焼結性が低下し、気孔径が大きくなるためインクに対する耐食性が低下する
更に、上記アルミナ質焼結体の見掛密度が3.90×103kg/m3以上であることが好ましい。つまり、見掛密度が3.90×103kg/m3以上であると、アルミナ質焼結体表面の開気孔の体積が小さくなることになる。したがって、を少なくすることができ、強アルカリのインクに曝される面積が少なくなり耐食性が向上するからである。
耐食性を向上の観点から、見掛密度は3.90×103kg/m3以上であることが特に好ましい。ここで、見掛密度はJIS C 2141に準拠して評価した値である。
次に、このようなインクジェット記録ヘッド構造体1の支持部材10を製造する方法について説明する。
まず、本発明に係るアルミナ質焼結体からなる支持部材10を製造するため、平均粒径0.1〜3.0μmのAl2O3粉末を99.3重量%以上に対し、焼結助剤として、SiO2を0.25重量%以下、MgOを0.3重量%以下、及びCaOを0.3重量%以下の範囲で添加する。
そして、得られた原料と熱可塑性樹脂、滑剤、可塑剤などの有機材料を加熱混練して成形材料を精製調整し、射出成形法にて成形する。まず成形材料をヒーターにて加熱し、成形機におけるスクリューのせん断応力にて溶融、可塑化した材料をキャビティー内へ注入する。材料が注入した後も保圧し、冷却時に発生する収縮分の材料を補給、またキャビティー内の材料の逆流を防ぐことによってヒケの発生を抑止する。成形品が冷却化された時点で型開きをして、成型品を排出する。
次に脱脂工程を経て、酸化雰囲気にて1500〜1800℃、より好ましくは1600〜1750℃で焼成することにより緻密質なアルミナ焼結体を得ることができる。
更に、他の製造方法としては、本発明に係るアルミナ質焼結体からなる支持部材10を製造するため、平均粒径0.1〜3.0μmのAl2O3粉末を99.3重量%以上に対し、焼結助剤として、SiO2を0.25重量%以下、MgOを0.3重量%以下、及びCaOを0.3重量%以下の範囲で添加する。そして混合した原料をミルにて湿式粉砕し、成形助剤となるバインダーを添加混合してスラリーを作製し、スプレードライヤーにてスラリーを霧状に噴霧乾燥させることにより、均一な球状形状の粉末顆粒を得る。
この粉末顆粒を段押し構造を備えた粉末プレス法にて支持部材10の形状に成形し、酸化雰囲気にて1500〜1800℃の焼成温度にて焼成することにより、Al2O3含有率99.3重量%以上、SiO2を0.25重量%以下、MgOを0.3重量%以下、及びCaOを0.3重量%以下で、その表面の表面開気孔率が5%未満で平均開気孔径が5μm以下であるアルミナ質焼結体を形成する。
即ち、段押し構造を備えた粉末プレス法にて支持部材10の形状に成形することは焼結体表面の表面開気孔の発生を抑えるのに重要であり、インク供給穴11の形状を一体化した金型パンチを作成し、該金型パンチを浮動パンチとして固定パンチと独立制御させ、成形体の圧縮完了直前に浮動パンチを強制的に若干降下さて加圧することにより、支持部材10の成形密度を均一化すると同時に成形体のクラック発生を防止することができ、精度の高い形状を形成することができる。
段押し構造を備えた粉末プレス法について、図5、図6の模式図を用いて説明する。図5(a)〜(d)は粉末プレス装置の金型構造を説明するための側面から見た模式断面図、図6は粉末プレス法の各金型構成部材の作動を示すタイムチャート図である。
この段押し構造を備えた粉末プレス装置は、支持部材10のインク供給穴11のような傾斜底面12を備えた長穴12と該長穴12に連通する小径穴14の形状を一体的に成形するためのもので、図5の21はダイ、22は上パンチ、23は固定パンチ、24は浮動パンチである。
ここで、ダイ21は成形体Sとなる支持部材10の外形を形成するための役割をなし、第一の貫通孔21aを有している。固定パンチ23はセラミック原料粉末を加圧する役割をなし、ダイ21の第一の貫通孔21a内に挿入されるとともに、第二の貫通孔23aを有している。浮動パンチ24は成形体Sとなる支持部材10の内形を形成する役割をなし、固定パンチ23の第二の貫通孔23a内に挿入されるとともに、その先端には支持部材10の傾斜底面12に対応したテーパ面24bと、小径穴14に対応した突出部24aを有している。上パンチ22は固定パンチ23と同様にセラミック粉末顆粒を加圧する役割をなし、ダイ21の第一の貫通孔21a内に挿入されるとともに、浮動パンチ24の突出部24aが挿入される第三の貫通孔22aを有している。
また、これらダイ21、上パンチ22、固定パンチ23、及び浮動パンチ24は、不図示の回転軸によって一連の動作を行うようになっており、上記回転軸に備えるカムの回転角によって各構成部材の動きを管理するようになっている。
この段押し構造を備えた粉体プレス装置にて支持部材10に示すセラミック成形体を一体的に成形するには、まず、図6の1領域において図5(a)に示すように、ダイ21に形成された第一の貫通孔21a内に固定パンチ23の一部を挿入するとともに、固定パンチ23の第二の貫通孔23a内に浮動パンチ24の一部を挿入し、これらダイ21、固定パンチ23、及び浮動2パンチ4で段付き凹部Pを形成する。
また、この段階では、浮動パンチ24の突出部24aがダイ21の上面より若干低く位置するように配置され、また上パンチ22は段付き凹部Pの上方に配置されている。
そして、段付き凹部P内に平均粒径0.1〜3.0μmのAl2O3粉末を主成分とするセラミック粉末顆粒を供給し、ダイ21上面まで充填する。
ここで、Al2O3粉末の平均粒径を0.1〜3.0μmとしたのは、平均粒径が0.1μmより小さいと、成形時の圧力が粉体の摩擦によって分散され、成形体の内部まで圧力が伝搬されにくいといった問題があるからである。また、3.0μmより大きいと焼結性が悪くなり緻密な焼結体が得られにくく、表面開気孔率が高く、開気孔径が大きくなるからである。なお、Al2O3粉末の平均粒径は、レーザー回折散乱法で求めた値である。
次に、図6の2領域にて、図5(b)に示すように、浮動パンチ24を若干上昇させ、浮動パンチ24の突出部24aの一部をセラミック粉末顆粒上面より突出させる。この時、同時に上パンチ22を下降させ始める。
次いで、上パンチ24を更に降下させて上パンチ22の第三の貫通孔22aに浮動パンチ24の突出部24aを挿入させるとともに、更に上パンチ22を徐々に降下させ、セラミック粉末顆粒を徐々に加圧する。この時、浮動パンチ24も上パンチ22の降下とともに徐々に降下させる。
そして、図6の3領域である上パンチ23が圧縮完了手前(下死点手前)まで来た時に、図5(c)に示すように、浮動パンチ24を強制的に若干降下させた後、上パンチ23を圧縮完了位置(下死点)まで降下させることにより成形を完了する。
このように、上パンチ23の圧縮完了手前(下死点手前)で浮動パンチ24を若干降下させ、更に上パンチ23の圧縮完了位置(下死点)まで降下させることにより、支持部材の傾斜底面13周辺におけるセラミック粉末顆粒を流動化させてセラミック粉末顆粒の詰まりを良くすることができるため、複雑な形状をした支持部材10となるセラミック成形体S全体の成形密度を均一化させることができる。
しかる後、図6の4領域において、図5(d)に示すように、上パンチ23を上昇させるとともに、ダイ21を下降させることによりセラミック成形体Sを取り出すようになっている。
なお、このような段押し構造を備えた粉末プレス法に用いることにより、80〜150MPaの成形圧力でセラミック成形体Sを加圧しても、セラミック成形体Sにクラックの発生を防止することができ、更には、1500〜1650℃の温度で焼成した焼結体の表面の表面開気孔率が5%未満で、平均開気孔径が5μm以下とすることができる。
ここで、成形圧力を80〜150MPaとしたのは、80MPa以下の圧力であると、セラミック粉末顆粒の詰まりが悪くなり緻密な焼結体が得られにくくなるからである。焼結体が緻密でないと、表面開気孔率が高く、開気孔径が大きくなり、インクに侵されることによってガラスの溶出がおこり、更に脱粒するなどの問題がある。また、150MPaより大きくなると、特に複雑な三次元構造をしている支持部材10などでは、成形体にラミネーションクラックが発生するなどの不具合があるからである。
また、インクによってガラス成分が侵されるのを防ぐためには、アルミナ質焼結体中のAl2O3粉純度を向上させることが上げられるが、Al2O3純度を上げることによって焼結助剤であるSiO2、MgO、及びCaOの含有率が低くなり焼成性が低下すため、それを補うためにAl2O3粉末の比表面積を大きくし焼結の活性度を向上させる。したがって、本発明の製造方法に用いるAl2O3粉末の比表面積が0.5×103〜15.0×103m2/kgの範囲であることが好ましい。
比表面積が15.0×103m2/kgより大きいと、Al2O3粉末の一次粒径が小さくなりすぎるために圧力伝達が分散されるため、緻密な成形体が得られにくくなり緻密な焼結体が得られないからである。また、比表面積が0.5×103m2/kgより小さくなると、焼結の活性度が低下し緻密な焼結体が得られにくくなるからである。
ここで、Al2O3粉末の比表面積はJIS R1626に準拠で求められる。
なお、粉末プレス法により形成したセラミックス成形体を1550〜1650℃の低温で焼成するので、結晶粒径を小さく形成することができ、これにより脱落が起きてもインク吐出孔の目づまりを抑えることが出来る。
更に、このような段押し構造を備えた粉体プレス法を用いれば、支持部材10のような段付き凹部Pがあり、部材の厚み寸法に変化のある形状であっても成形密度のバラツキを抑え、精度良く製作することができる。
次に、焼成後に支持部材10のインクジェット記録ヘッド2と合わせる面およびインクタンク(不図示)と合わさる面をダイヤモンド砥石を用いて研削し、その平面度を2.0μm以内に維持する。そして、超音波洗浄にて油分汚れや研削液、研削屑を除去して支持部材10が製造される。
このようにして得られたアルミナ質焼結体からなる支持部材10は、全体が見掛け比重3.9以上、ヤング率で300GPa以上、熱伝導率30W/mK以上、線膨張係数7.5×10―61/℃以下とすることができる。これらの特性値は、アルキメデス法により見掛密度を測定し、超音波パルス法によりヤング率を測定し、φ10mm×1.5mmに加工したアルミナ質焼結体を用いレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定することにより求めることができる。
そして、本発明のインクジェット記録ヘッド構造体1を搭載したインクジェットプリンタを用いると、インクジェット記録ヘッドを固定した場合、120〜180dpiでパターン印刷を行って印刷後の印字ドットの位置を画像測定機にて計測すると、インク滴の着弾位置が±10μmの範囲内とすることができ、高精度な印画が可能である。
以上、本発明の実施形態について示したが、本発明は上述した実施形態だけに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で改良したものや変更したものにも適用できることは言う迄もない。
(実施例1)
まず、インクジェット記録ヘッド構造体の支持部材を形成するのに好適なアルミナ質焼結体とその表面状態、特に開気孔率と開気孔径について調べる実験をおこなった。
Al2O3含有量を99.5重量%とし、焼成助剤としてSiO2、MgO、及びCaOを用いこれらを混合した後に、更に有機バインダー、溶媒を添加しスラリーを作製し、インジェクション成形法にて成形した後、表1に示す温度で焼成して支持部材10のアルミナ質焼結体を作製した。なお、焼結助剤は、SiO2、MgO、及びCaOの3成分比で、SiO2を30重量%、MgOを40重量%、及びCaOを30重量%とした。
そして、得られた支持部材10の傾斜底面12の中央部付近表面を0.1mm研削加工にて除去し、Ra0.1μm以下の鏡面加工を施した後、金属顕微鏡の画像をCCDカメラで取り込み、LUZEX画像解析を用いて倍率200倍、測定面積2.25×10−2mm2の条件にて計20回測定し、表面開気孔率、平均開気孔径を調べた。
また、pH12の強アルカリ性のインクを準備し、支持部材を水温20℃のインクに投入し3日間放置して得られたインク溶液をICP発光分光分析装置(セイコー電子工業製JY38P2型)にて、Ca、Si、Mgの定量分析を行った。その後、そのインク溶液を濾過した後に500倍でSEM写真を撮影し脱粒物質の有無およびその脱粒物の最大サイズを確認し、脱粒物質を特定するために金蒸着を施した後、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)にて定性分析を行った。
そして、ICP発光分光分析による定量分析にて得られたSi、Mg、Caのガラス溶出量の合計が、0.1ppm/(cm2・日)以下であったものを好適として◎で表し、0.1ppm/(cm2・日)より多く0.14未満であるものを良好として○で示し、0.14ppm/(cm2・日)以上0.20ppm/(cm2・日)未満であるものを不良として△で示し、0.20ppm/(cm2・日)以上であるものを更に不適な×で示した。
(実施例2)
本実験では、焼成助剤としてSiO2、MgO、及びCaOを用い、Al2O3含有量を96.0〜99.9重量%の範囲で異ならせて粉末顆粒を作製し、段押し構造を備えた粉末プレス法にて成形圧100MPaの条件で成形した後、1650℃の温度で焼成して支持部材10のアルミナ質焼結体を製作し、そのアルミナ質焼結体とその表面状態、特に開気孔率と開気孔径について調べる実験をおこなった。
また、表面開気孔率、平均開気孔径、脱粒物の有無、その脱粒物の最大サイズ及び定性分析、ガラス溶出量の測定、パーティクル量の測定は、実施例1と同様に行った。
更に、支持部材10を1000mlの純水中に浸し、出力50kHz、180Wにて1分間超音波洗浄をした後、洗浄水中を38ml取り出し、その洗浄水中に残った粒径2μm以上のパーティクル数をレーザーダイオード光遮断型センサー試験装置にて採取し、パーティクル量の調査を行った。
また、それぞれのアルミナ質焼結体について、レーザーフラッシュ法を用いて熱伝導率を調べた。
上述のように強アルカリ性のインクにより溶出した脱粒物をエネルギー分散型X線分析装置(EDS)にて定性分析した結果、全てAl、Oのピークが検出されることから、脱粒物はアルミナ質であると判明した。
試料No.9〜試料No.11のAl2O3含有率96.0〜98.0重量%範囲のアルミナ質焼結体では、アルミナ質焼結体の表面における表面開気孔率が5%を超え、平均開気孔径も5μmを超えている場合には、Si、Mg、Caの溶出量が多く、大きな脱粒物が観察される。これは、アルミナ粒子を結合させるガラス質のマトリックスが溶融するため、脱粒し易かったと考えられる。また、パーティクル量も多く、熱伝導率も30W/mKよりも低くなっている。
試料No.12〜試料No.14のAl2O3含有率99.0〜99.2重量%範囲のアルミナ質焼結体では、アルミナ質焼結体の表面における表面開気孔率が5%を超え、平均開気孔径も5μmを超えているため、脱粒物は5μmより大きいサイズとなり、ノズル吐出孔の閉塞化の原因になりうるものである。
試料No.15〜試料No.21のAl2O3含有率99.3〜99.9重量%範囲のアルミナ質焼結体では、脱粒物は5μm以下となっており、直接ノズル吐出孔を閉塞する要因とはなり得ないと考えられる。また、このアルミナ質焼結体の表面における表面開気孔率を調べると5%以下で平均開気孔径が5μm以下となっており、パーティクル量も少なく、熱伝導率も30W/mK以上とすることができることが理解される。
(実施例3)
次に、実施例2に用いたアルミナ質の顆粒粉体を用いて、段押し構造を備えた粉末プレス法により成形圧100MPa、80MPa及び60MPaの条件にて成形した後、1650℃の温度で焼成して支持部材10のアルミナ質焼結体を製作した。
表面状態および耐アルカリ性インクの評価は実施例2と同様とし、表面開気孔標準偏差、脱粒物、ガラス成分の溶出量について調べた。
表3から分かるように、成形圧を小さくすると、粉末顆粒の潰れ性が悪化し、大きな空孔が発生し、表面開気孔率が高くなり、平均開気孔径が大きくなる。
そして表面開気孔率が5%より大きくなった試料15−(3)、試料16−(3)、試料17−(3)、試料18−(3)および試料19−(3)では、強アルカリ性のインクに侵されることによりSi、Mg、Caのガラス成分溶出量が0.1ppm/(cm2・日)より多くなる。
このことから、Al2O3含有率99.3重量%以上、SiO2を0.25重量%以下、MgOを0.3重量%以下、及びCaOを0.3重量%以下含有して成るアルミナ質焼結体により形成することだけでは強アルカリ性のインクに曝されることによるガラス成分の溶出を抑えることはできず、インクに曝される表面の表面開気孔率を5%以下、平均開気孔径を5μm以下とすることが重要であることが分かる。
(実施例4)
次に、実施例2に用いたアルミナ質焼結体を用いて、pH12の強アルカリ性のインク温度を40℃および60℃の条件においてインクに投入し3日間放置して得られたインク溶液をICP発光分光分析にて調べ、Si、Mg、Caのガラス成分溶出量を測定した。各測定については実施例1と同様である。
結果より、試料No.9〜試料No.14のAl2O3含有率96.0〜99.2重量%範囲のアルミナ質焼結体では、インク温度が20℃〜60℃のいずれの範囲においてもSi、Mg、Caのガラス成分溶出量が0.1ppm/(cm2・日)より多くなり、また脱粒物は5μmより大きいサイズとなり、ノズル吐出孔の閉塞化の原因になりうるものである。
本発明の試料No.15〜試料No.21のAl2O3含有率が99.3〜99.9重量%のアルミナ質焼結体では、インク温度が20℃〜60℃のいずれの範囲においてもSi、Mg、Caのガラス成分溶出量が0.1ppm/(cm2・日)以下で、脱粒物は5μm以下となっており、直接ノズル吐出孔を閉塞する要因とはなり得ないと考えられる。
(実施例5)
次に、インクジェット記録ヘッド構造体の支持部材を形成するのに好適なアルミナ質焼結体とその表面状態、特に表面開気孔標準偏差について調べる実験を行った。
まず、実施例2の試料No.17と同じ組成の粉末顆粒を用いて支持部材10を作製した。支持部材10の作成方法は、実施例1と同様におこない、1530〜1750℃の温度で焼成して支持部材10のアルミナ質焼結体を製作した。
表面状態および耐アルカリ性インクの評価は実施例1と同様とし、表面開気孔標準偏差、脱粒物、ガラス成分の溶出量について調べた。
結果は表5にそれぞれ示す通りである。見掛密度はJIS C 2141に準拠して測定した。
表5から分かるように、試料No.21では、表面開気孔標準偏差が1.0を超えている時は、ガラス溶出量が0.1ppmを超え、表面開気孔標準偏差が1.0以下であればガラス溶出量も0.1ppm以下となっていることが分かる。
これは試料No.21では緻密に焼結されていないため、表面開気孔径のバラツキが大きいためであり、粒子の開気孔表面積が大きくなることから、インクに曝される面積が増えたためである。
更に、表面開気孔標準偏差が大きい時は、脱粒する粒子径が大きいために、吐出孔の目詰まりとなりやすい。
また、試料No.21では、見掛密度が3.90×103kg/m3より小さくなり、ガラス溶出量が0.1ppmを超え、それに対し、試料No.22〜27のように見掛密度が3.90×103kg/m3以上になるとガラス溶出量が0.1ppm以下となっている。特に、3.94×103kg/m3以上になるとガラス溶出量を0.08ppmとすることができる。これは、見掛密度が大きくなったために、アルミナ質焼結体表面の開気孔体積が減少し、強アルカリのインクに曝される面積が少なくなったためと考えられる。
(実施例6)
次に、インクジェット記録ヘッド構造体の支持部材を形成するアルミナ質焼結体の平均結晶粒径と見掛密度を調べる実験を行った。
表面状態および耐アルカリ性インクの評価は実施例1と同様とし、表面開気孔標準偏差、脱粒物、ガラス成分の溶出量について調べた。
表6からSiO2、MgO、CaOの3成分組成においてMgOの組成比が30.0%未満の試料No.35、50〜52、60はMgOが少ないため結晶が粒成長しやすく、開気孔率、径、標準偏差も大きくなるためガラス溶出量が0.1ppmを越えている。
また、SiO2、MgO、CaOの3成分組成においてMgOの組成比が80.0%より多い試料No.28〜29、36〜41、53はMgOが多すぎるため焼結の活性が低下し、見掛密度が低下し、開気孔率、径、標準偏差が大きくなりガラス溶出量が0.1ppmを越えている。
3成分組成におけるMgOの組成比が30〜80重量%の範囲外の試料は、表面開気孔径のバラツキが大きいため、粒子の開気孔表面積が大きくなることから、インクに曝される面積が増えたためである。更に、表面開気孔標準偏差が大きい時は、脱粒する粒子径が大きいために、吐出孔の目詰まりとなりやすい。
これに対し、3成分組成におけるMgOの組成比が30〜80重量%の本発明範囲内の試料に関しては結晶粒径が1〜10μm、見掛密度が3.90×103kg/m3以上、開気孔率が5%以下、開気孔径が5μm以下であり、開気孔標準偏差が1.0以下であるためガラス溶出量が0.1ppm以下となっており、また脱粒物の径も小さくすることができることがわかる。
(実施例7)
また、Al2O3粉末の比表面積とセラミック成形体の特性、及び焼結性を調べる実験を行った。
Al2O3粉末の比表面積は表6に示すものを用いて、段押し構造を備えた粉末プレス法で成形圧100MPaの条件で成形した後、1650℃の温度で焼成した以外は、実施例2と同様にして支持部材10のアルミナ質焼結体を作製した。得られた焼結体の表面状態は実施例1と同様にして評価し、表面開気孔標準偏差を調べた。見掛密度はJIS C 2141に準拠して測定した。
表7から、試料No.69においては、セラミック成形体の密度が緻密でなく、特に流路部材10のインク供給孔11間の部分が脆くなっており評価できなかった。これは、用いたAl2O3粉末の比表面積が大きすぎたために粉末プレス成形時の圧力伝達が分散されたためと考えられる。
また、比表面積が0.5×103m2/kgよりも大きい試料No.63〜試料No.68においては、焼結性が良く緻密質なアルミナ焼結体が得られている。
これは、Al2O3粉末の表面積が大きくなったために焼結の活性度が向上したためと推測され、特に試料No.66〜試料No.68においては、見掛密度、表面開気孔率、表面開気孔径とも良好な特性を示している。
(実施例8)
次に、Al2O3粉末の平均粒径とセラミック成形体の特性、及び焼結性を調べる実験を行った。
Al2O3粉末の平均粒径は表8に示すものを用い、段押し構造を備えた粉末プレス法で成形圧100MPaの条件で成形した後、1650℃の温度で焼成した以外は、実施例2と同様にして支持部材10のアルミナ質焼結体を作製した。得られた焼結体の表面状態は実施例1と同様にして評価し、表面開気孔標準偏差を調べた。見掛密度はJIS C 2141に準拠して測定した。
表8より、試料No.70においては、セラミック成形体の密度が緻密でなく、特に流路部材10のインク供給孔11間の部分が脆くなっており評価できなかった。これは、用いたAl2O3粉末の比表面積が大きすぎたために粉末プレス成形時の圧力伝達が分散されたためと考えられる。
試料No.71〜試料No.77においては、表面開気孔の状態は良好な特性を示しており、特に平均粒径が3.0μmよりも小さい試料No.71〜試料No.76の試料においては、表面開気孔標準偏差が1.0以下となり、更に、試料No.71〜試料No.74においては、見掛密度も3.90×103kg/m3以上となっているとともに、表面開気孔率が4.0%以下、表面開気孔径が4.0μmとなっており、緻密質なアルミナ焼結体が得られている。