ところで、乗員がシートに着座した場合の適正な着座姿勢としては、該乗員が着座した状態において、ボンネット前側が乗員の視界に入るような適切な目線の高さであること、ブレーキペダル等の操作を行いやすい姿勢であること、安楽な着座姿勢であることなどが要求される。ここで、乗員の身長と脚の長さとの関係は、一般的には図14に示すような関係、すなわち背の高い人ほど脚の長さが長くなるとともに、人種(例えば日本人と米国人)によって身長に対する脚の長さの比率が変化する関係にあり、すべての体格の乗員について上述の要件を満たすためには、その体格に応じてシートの座面位置を調整する必要が生じる。
一般的には、背の高い乗員ほど足が長く且つ座高が高くなることから、座面の前後移動に伴い乗員のヒップポイントの描く移動軌跡が図15に実線で示す軌跡となるように、シートを車両後方側へ移動させるとともに該シートの座面を下げる必要があり、背の低い乗員の場合にはシートを車両前方側へ移動させるとともに該シートの座面を上げる必要がある。ところが、前記図14に示すように、同じ身長でも米国人のほうが日本人よりも脚が長いことから、日本人の体格にシートの座面の位置を合わせて米国人が着座すると、目線の位置が低くなるとともに膝の角度も鋭角になって適切な着座姿勢を提供することができない。そのため、米国人に対しても適切な着座姿勢を提供できるように、すなわちヒップポイントの移動軌跡が図15に2点鎖線で示すような軌跡となるように、シートの座面の移動軌跡を変更する必要がある。なお、前記図15に示す二重丸の点は、乗員がシートクッションに着座した場合に、該乗員のお尻が当接する座面上の位置(座面ポイント)であり、前記ヒップポイントは、シートクッションの前後位置に対応する標準的な体格の乗員が、そのお尻が座面ポイントに位置するように着座した場合の腰骨の位置である。なお、この腰骨の位置は、標準的な体格を有する乗員の体格データに基づいて求められる。
ここで、前記前者の従来例の装置によってシート位置の調整を行う場合、2つの操作レバーを乗員が駆使することによって、前記図15に点線で示す範囲内でヒップポイントの位置調整が可能となるが、上述のように同じ身長で脚の長さの比率が異なる乗員に対して適切な着座姿勢を提供しようとすると、前記図15に示すようにヒップポイントの移動軌跡が上述の調整範囲を超えてしまう。そのため、この超えた範囲もカバーするようにシートの可動範囲を広げようとすると、位置調整装置の機構がさらに大がかりなものとなって、余分なスペースの少ない車室内の空間を狭めることになる。しかも、前記前者の従来例の装置では、2つの操作レバーを操作する必要があるため、調整作業に時間がかかるという問題も生じる。
一方、シートの前方向の移動に応じて該シートの高さ位置が変化するように構成された前記後者の従来例の装置では、シートの座面の前後方向の移動に応じて該座面が一定の軌跡を描くように構成されているため、調整作業は容易になるが、乗員のヒップポイントは一つの移動軌跡上でしか移動せず、同じ身長で脚の長さの比率が異なる乗員に対しては適正な着座姿勢を提供できるような構成にはなっていない。
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シートクッションを前後方向及び上下方向に連動させて座面の位置を調整することのできる位置調整手段を備えた自動車のシート位置調整装置において、身長に対する脚の長さの比率が異なる乗員に対しても適正な着座姿勢を容易に提供できるようにすることにある。
前記目的を達成するために、本発明に係る自動車のシート位置調整装置では、シートクッションの座面に着座した乗員のヒップポイントが描く移動軌跡、すなわち該座面上に設定される座面ポイントが描く移動軌跡を、予め設定された複数の移動軌跡の中から選択できるようにした。
すなわち、請求項1の発明は、乗員の着座するシートのシートクッションを前後方向及び上下方向に連動させて、座面の位置調整を行う位置調整手段を備えた自動車のシート位置調整装置を対象とする。そして、前記位置調整手段は、座面上の所定位置に設定された座面ポイントが該座面の移動に応じて描く移動軌跡を予め設定した少なくとも第1及び第2の移動軌跡のうちから、いずれか一つの移動軌跡を選択するための軌跡選択手段と、前記座面ポイントが前記軌跡選択手段によって選択された移動軌跡を描くように、前記座面を前後方向及び上下方向に連動して移動させる座面移動手段と、を備えているものとする。
ここで、前記座面ポイントは、乗員がシートクッションに着座した場合に、該乗員のお尻が当接する座面上の位置であり、前記ヒップポイントは、シートクッションの前後位置に対応する標準的な体格の乗員が、そのお尻が座面ポイントに位置するように着座した場合の腰骨の位置である。なお、この腰骨の位置は、標準的な体格を有する乗員の体格データに基づいて求められる。
この構成により、シートクッションの座面上に設定される座面ポイントが第1の移動軌跡及び第2の移動軌跡を含む複数の軌跡のうちの一つの移動軌跡を描くようにすることができ、該座面ポイントに基づいて得られる乗員のヒップポイントも同様の移動軌跡を描くようになるため、同じ身長で脚の長さの異なる乗員に対しても、それぞれ適正な着座姿勢を提供することが可能になる。すなわち、例えば、身長に対して脚の長さの比率が大きい乗員(米国人など)に対して適正な着座姿勢を提供できるヒップポイントの移動軌跡を第1の移動軌跡とし、身長に対して脚の長さの比率が小さい乗員(日本人など)に対して適正な着座姿勢を提供できるヒップポイントの移動軌跡を第2の移動軌跡とした場合、乗員の体格の特徴に応じて2つの移動軌跡の中から座面の移動軌跡を選択することで、同じ身長で脚の長さが異なる乗員に対しても適正な着座姿勢を提供することができる。
しかも、シートクッションの座面の位置調整を、前後方向及び上下方向に連動させて座面の位置調整可能な位置調整手段によって行うようにしたため、一の移動軌跡に沿って乗員のヒップポイントを移動させる場合には、一の操作で位置調整を行うことができ、座面位置の調整が容易となる。
上述の構成において、前記位置調整手段は、シートクッションの前後位置を調整するスライド手段と、該スライド手段に連動して前記シートクッションの上下位置を調整するリフト手段と、を備えているのが好ましい(請求項2の発明)。このように、位置調整手段を従来からシートの位置調整装置として用いられているスライド手段及びリフト手段によって構成することで、簡単且つ低コストな構成で請求項1の作用を容易に得ることができる。
また、請求項3の発明は、乗員の着座するシートのシートクッションの座面の傾きをその前後方向位置に連動させて、座面の位置調整を行う位置調整手段を備えた自動車のシート位置調整装置を前提としていて、前記位置調整手段は、座面の所定位置に設定された座面ポイントが該座面の移動に応じて描く移動軌跡を予め設定した少なくとも第1及び第2の移動軌跡のうちから、いずれか一つの移動軌跡を選択するための軌跡選択手段と、前記座面ポイントが前記軌跡選択手段によって選択された移動軌跡を描くように、前記座面を前後方向位置と該座面の傾きとを対応させて移動させる座面移動手段と、を備えているものとする。このように、座面の傾きをその前後方向位置に応じて変更することによっても座面ポイントの移動軌跡を変更することができ、前記請求項1と同様の作用を得ることができる。
そして、前記請求項3の発明の構成において、位置調整手段は、シートクッションの前後位置を調整するスライド手段と、該スライド手段に連動して前記シートクッションの座面の前後方向の傾きを調整するチルト手段と、を備えているのが好ましい(請求項4の発明)。こうすることで、前記請求項2と同様、位置調整手段を、従来からシートの位置調整装置として用いられているスライド手段及びチルト手段によって構成することができる。
以上の構成において、前記第2の移動軌跡は、第1の移動軌跡よりも前方且つ下方に描かれるのが好ましい(請求項5の発明)。これにより、同じ身長でも脚の短い乗員が着座した場合に、そのヒップポイントを第2の移動軌跡に沿って移動させることで、ペダルとの距離や目線の高さ、膝の角度等が適切なものとなって、適正な着座姿勢を提供することができる。しかも、スライド手段及びリフト手段を別々に操作して位置調整を行う従来構造のものより、シートクッションの可動範囲を限定することができるため、位置調整手段の構成をコンパクトにできるとともに、該シートクッションが移動するために必要なスペースを小さくすることができ、シートまわりのスペースを有効利用することが可能になる。
一方、前記第2の移動軌跡は、相対的に後側の部分よりも前側部分の方が第1の移動軌跡に対して前方且つ下方に大きく離間した位置に描かれるものであってもよい(請求項6の発明)。こうすることで、乗員の身長が高くなるほど第1及び第2の移動軌跡は近くなる、すなわち、背の高い乗員が着座する場合には、第1及び第2の移動軌跡でヒップポイントの移動軌跡がほとんど変わらないことになり、背の低い人の場合には脚の長さの比率の差が大きくなる一方、背の高い人の場合には脚の長さの比率はほとんど変わらないという図14に示す体格の特性に適したものとなる。これにより、脚の長さの比率が異なる人に対しても適正な着座姿勢を提供しつつ、シートクッションの可動範囲をより狭くすることができ、シートまわりのスペースをより有効利用することが可能となる。
そして、以上の構成において、前記第1の移動軌跡と第2の移動軌跡とが略同一形状であってもよい(請求項7の発明)。これにより、乗員のヒップポイントが描く一つの移動軌跡の位置をずらすだけで、もう一つの移動軌跡も得ることができるので、座面移動手段の構成を簡略化することができる。
ここで、前記請求項5の発明のように、第1の移動軌跡に対して第2の移動軌跡の前側部分を後側部分よりも大きく離間させる場合には、前記第2の移動軌跡は、相対的に後側の部分が、第1の移動軌跡の所定位置よりも後側部分と略同一の移動軌跡を描くものであり、前側の部分が、前記所定位置を中心として第1の移動軌跡に対して下方に回動した位置に描かれるのが好ましい(請求項8の発明)。こうすることで、シートクッションの車両後方側での可動範囲をさらに狭くすることができ、シートまわりのスペースを一層、有効利用することが可能となる。なお、前記所定位置は、同じ身長で脚の長さの比率が異なる乗員に対しても、或る程度、適度な着座姿勢を提供できるかどうかによって決められるもので、例えば、脚の長さの比率が異なってもヒップポイントの移動軌跡を共通化可能な最も前側の位置に設定される。
また、上述の構成において、フロアパネル上には車幅方向に長い2本のクロスメンバが前後に並んで設けられていて、シートは、その前方側が前側のクロスメンバ上に支持される一方、後方側は前記2本のクロスメンバ間のフロアパネル上に支持されていてもよい(請求項9の発明)。
これにより、従来構造ではデッドスペースであったクロスメンバ間のスペースを利用して、シート全体を従来よりも低く配置することができるので、車室内の空間を有効利用することが可能になる。
さらに、前記第1の移動軌跡は、相対的に前側の部分では、座面ポイントの前後移動量に対する上下移動量が後側部分よりも小さくなるものであり、前記前側部分の前端側では、第2の移動軌跡と略同一の軌跡を描くものであってもよい(請求項10の発明)。このことにより、第2の移動軌跡よりも上方に描かれる第1の移動軌跡において、乗員のヒップポイントがあまり上方へ移動しないようになり、座面移動手段の上方向への移動量を減らすことができるため、該座面移動手段の上方への移動機構を簡略化することができる。
以上より、本発明に係る自動車のシート位置調整装置によれば、座面上に設定される座面ポイントの描く移動軌跡を予め設定された少なくとも第1及び第2の移動軌跡を含む複数の移動軌跡の中から選択できるようにすることで、同じ身長で脚の長さの比率が異なる乗員に対してそれぞれ適したヒップポイントの移動軌跡に切り換えて、該乗員に適正な着座姿勢を提供することが可能となる。しかも、同じ移動軌跡上であれば前記座面の位置調整は一の操作によって行われるため、適正な着座姿勢を容易に提供することができる。そして、このような効果は、位置調整手段を、スライド手段及びリフト手段によって構成した場合や、スライド手段及びチルト手段によって構成した場合でも得られるため、比較的、簡単且つ低コストな構成で実現することができる。また、
また、前記第2の移動軌跡を第1の移動軌跡よりも前方且つ下方に描かせることで、身長に対する脚の長さの比率が小さい乗員に対しても適正な着座姿勢を提供することができるとともに、スライド手段及びリフト手段を別々に位置調整するものよりも座面移動手段の可動範囲を狭くでき、シート周りのスペースを有効利用することが可能になる。
一方、前記第2の移動軌跡を、その後側部分よりも前側部分が第1の移動軌跡に対して大きく離間するように描かせることで、図14に示す体格の特性に応じた適正な着座姿勢を提供しつつ、座面移動手段の後方側の可動範囲を狭くして該位置調整手段の構成の簡略化及びスペースの有効利用が可能となる。特に、前記第2の移動軌跡を、その後側部分は第1の移動軌跡の所定位置より後側部分と同一の軌跡で、前側部分は所定位置を中心として下方に回動させたような位置に描かせることで、位置調整装置の可動範囲をさらに狭めることができる。
また、前記第1の移動軌跡と第2の移動軌跡とを略同一形状にすることにより、ヒップポイントの描く一つの移動軌跡をずらすだけで2つの移動軌跡を設定することが可能になり、座面移動手段の構成を簡略化することができる。
さらに、前後方向に並んで配設される2本のクロスメンバの間のフロアパネル上にシートの後方側を支持することで、シート全体を下方に配置することが可能になり、車室内のスペースを有効利用することが可能となる。
さらにまた、第2の移動軌跡よりも上方に描かれる第1の移動軌跡において、該移動軌跡の前側部分での乗員のヒップポイントの前方移動量に対する上方移動量を後側部分よりも小さくすることで、座面移動手段における上方への移動機構を簡略化することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1にかかる自動車Vの車室内前部の概略構成を示す。この車室内前部には、乗員が着座するためのシート1がフロアパネル2上に配設されているとともに、車両前方側にはフロントガラスGの下方にインストルメントパネル3が設けられている。そして、このインストルメントパネル3から乗員側に向かって突出するようにステアリングホイールWが設けられているとともに、該インストルメントパネル3の下側の空間にはブレーキペダル等のペダル5が配設されている。なお、前記シート1の上方には、前記フロントガラスGから車両後方に連続するようにルーフ6が設けられていて、該シート1の後方には、後部座席のシート7が配設されている。
前記シート1は、図1に示すように、背の高さが異なる乗員が着座した状態でも、図示しないボンネットの前側部分が視界に入るような目線の高さXになるとともに、乗員の足によるペダル5の操作性が良く且つ着座姿勢が安楽になるように、前後方向及び上下方向の座面の位置や、座面の傾斜等が調整可能に構成されている。
すなわち、前記シート1は、身長の異なる乗員が着座した場合でも上述の条件を満たすために、図2に示すように、膝や足首等の屈曲角度を保ったまま、ペダル5の回動中心5aを中心に乗員を上下方向に回転(実線の位置から点線の位置まで)させて、体格の異なる乗員毎に適した目線の高さになるように位置調整を行うように構成されていて、例えば乗員の背が高くなるほど、シート1の前後方向の位置は後側に、上下方向の位置は下側になるように構成されている。なお、図2のように乗員の着座位置を変えた場合には、該乗員のヒップポイントはP1からP1’に移動することになる。
さらに、前記シート1は、同じ身長で脚の長さの比率が異なる乗員が着座した場合でも上述のような適正な着座姿勢を提供できるように、後述する移動軌跡変更機構30によって座面ポイントの軌跡を変更できるように、すなわちヒップポイントの移動軌跡を変更できるように構成されている。ここで、前記座面ポイントは、乗員がシート1に着座した状態で該乗員のお尻が位置する座面上の部位であり、前記座面ポイントに乗員のおしりが位置している場合に、シート1の前後位置に対応する標準的な乗員の体格データを元に求められる該乗員の腰骨の位置がヒップポイントになる。このように、座面ポイントの描く軌跡とヒップポイントの描く軌跡は、着座した乗員のおしりから腰骨までの高さ分だけ、描かれる位置が異なるもので、軌跡の形状は略同一のため、以下の説明では、ヒップポイントの移動軌跡を用いて説明する。
したがって、前記シート1は、図3に太線で示すように、身長に対する脚の長さの比率に応じて乗員のヒップポイントが2つの移動軌跡を描くように構成されている。なお、前記図3において、実線で示した軌跡が、身長に対する脚の長さの比率が大きい乗員が着座した場合の適正なヒップポイント(Hpt)の移動軌跡(第1の移動軌跡)を、2点鎖線で示した軌跡が、身長に対する脚の長さの比率が小さい乗員が着座した場合の適正なヒップポイント(Hpt)の移動軌跡(第2の移動軌跡)を、それぞれ示し、図中に実線及び破線で示す二重丸の点は、前記第1の移動軌跡においてヒップポイントが前端及び後端に位置している場合の座面ポイントを示している。
以下で、前記シート1の具体的な構造について詳細に説明する。
前記シート1は、図3に示すように、乗員の体重を下方から支えるシートクッション11と、該シートクッション11から上方に延び、乗員の背中を支承するシートバック12と、該シートバック12の上側に設けられたヘッドレスト13とからなり、前記シートクッション11の下側には、シート1全体を車両前後方向及び上下方向に移動させ、且つ座面角も連動させて調整する位置調整機構20(座面移動手段)及びシート1の移動軌跡を変更するための軌跡選択手段としての軌跡変更機構30が設けられている。
前記シートクッション11は、ウレタン等からなるクッション材の内部にスプリング等が配設され、乗員の重量に応じて下方向にたわむクッション部11aと、該クッション部11aを下方から支持するためのインナーパン11bと、該インナーパン11bを下方から覆うように配設されるアウターパン11cとからなり、該クッション部11a、インナーパン11b及びアウターパン11cは一体で前後方向及び上下方向に移動するとともに、座面角も連動して調整されるように構成されている。
前記位置調整機構20は、フロアパネル2上にクロスメンバ4a,4b及び前記軌跡変更機構30を介して車幅方向に並設された車両前後方向に長い支持部材15,15と、前記シートクッション11のアウターパン11cとの間に設けられたもので、該シートクッション11の車両前側及び車両後側を支持部材15に対して前後方向にスライド可能に支持するスライド部21,22からなる。
ここで、前記支持部材15は、車両前方側が車両後方側よりも高くなるように配設されていて、その車両前方側でスライド部21の可動範囲に対応する部分及び車両後方側でスライド部22の可動範囲に対応する部分には、それぞれ、上方に向かって開口する断面略コの字状のレール部材15a,15bが設けられている。なお、前記支持部材15の車両後方側で前記レール部材15bの設けられている部分は、上方に膨出するように形成されていて、これにより、前記スライド部22が所定高さに位置付けられ、前記シートクッション11の後方側も乗員に適正な着座姿勢を提供できるような所定高さに位置付けられるようになっている。また、車両後方側のレール部材15bは、車両前方側のレール部材15aよりもフロア面に対して車両後方に大きく傾くように配設されている。これにより、シートクッション11が車両前方に向かって移動すると、該シートクッション11の車両後方側が車両前方側よりも高くなり、該シートクッション11の座面を車両前方側に向かって傾かせることができる。このようにシートクッション11の座面の傾きを変えることのできる支持部材15及びスライド部22がチルト手段に対応する。
前記スライド部21,22は、図4(a)、(c)にその断面を示すように、前記レール部材15a,15b内を車両前後方向に移動可能に構成されたもので、後述するモータ23によって駆動されるかどうかが異なるだけなので、以下の説明ではスライド部21についてのみ説明する。
前記スライド部21は、レール部材15a内を回転しながら移動する2つのローラー21a,21aと、それらのローラー21a,21aを回転自在に連結するとともに、車両前後方向に長い平板部21dから上方に突出する突出部21eを有する正面視で略逆T字状の連結部材21bとからなる。この連結部材21bの突出部21eの上端側は、前記アウターパン11cから下方に延びるブラケット部11dにピン21cによって回動自在に係止されており、前記ローラー21a,21aがレール部材15a内を車両前後方向に回転しながら移動する際に、前記支持部材15に対するシートクッション11の角度が変化すると、それに応じて回動するようになっている。
また、前記スライド部21には、図4(b)に示すように、ローラー21a,21a及び連結部材21bを前後方向に移動させるためのモータ23が設けられている。該モータ23は、支持部材15の下方に取付部材23aを介して取り付けられていて、第1ギヤ24及び第2ギヤ25を介して、スライド部21のローラー21a,21aを回転自在に支持する前記連結部材21bにトルクを伝達するように構成されている。
具体的には、前記連結部材21bは、車両前後方向に長い平板部21dの下面が前記第2ギヤ25と噛合するように鋸歯状に形成されていて、いわゆるラック機構を構成するようになっている。また、前記連結部材21bの下面に第2ギヤ25が噛合可能なように、前記支持部材15の上下面及びレール部材15aの下面にはそれぞれ貫通孔が形成されていて、これらの貫通孔内に前記第2ギヤ25が位置付けられるようになっている。
この構成により、前記モータ23が回転駆動すると、そのトルクは該モータ23に直結された第1ギヤ24を介して第2ギヤ25に伝達され、該第2ギヤ25と噛合したスライド部21の連結部材21bを前後方向に移動させる。これにより、該連結部材21bにピン21cで連結されたアウターパン11cも前後方向に移動して、シート1全体の前後位置が調整される。そして、前記スライド部21,22の配設される支持部材15は、上述したとおり、車両前方側が高くなるように傾斜配置されていることから、シート1全体が車両前方に向かって移動する場合には、斜め上方に向かって移動することになる。そのため、乗員がシート1に着座した状態で該シート1を車両前方側に移動させると、乗員のヒップポイントは斜め上方に向かって移動する。ここで、前記シート1が車両前方に向かって移動するほどシートクッション11の座面を上方へ移動させる前記位置調整機構20(スライド部21,22)がスライド手段及びリフト手段に対応する。なお、当然のことながら、シート1、すなわちシートクッション11の座面の前後方向の可動範囲は、前記スライド部21の前後方向の可動範囲によって決められる。
次に、本願発明の特徴部分である軌跡変更機構30について説明する。この軌跡変更機構30は、図3に示すように、前記位置調整機構20のスライド部21,22が設けられた支持部材15と、フロアパネル2上に設けられたクロスメンバ4a,4bとの間に配設されたもので、前記支持部材15を下方から支持するとともに、該支持部材15の前後方向及び上下方向の位置を変更できるようになっている。すなわち、前記軌跡変更機構30を設けることによって、前記位置調整機構20によるシートクッション11の位置調整とは別に、該シートクッション11の位置を変化させることができ、シートクッション11の移動軌跡を前記位置調整機構20によって決まる一定の軌跡ではなく、他の軌跡に変更することも可能になる。
具体的には、前記軌跡変更機構30は、上述のスライド部21,22と同様の構成を有するスライド部31,32からなり、該スライド部21,22とは、スライド移動する方向が異なるように構成されている。すなわち、図3に示すように、車両前方側のクロスメンバ4a上に設けられた支持ブラケット33及び車両後方側のクロスメンバ4bは、その上面が車両前方側に向かって傾くように形成されていて、前記スライド部31,32がスライド移動するためのレール部材33a,33bは、それぞれ、前記支持ブラケット33及びクロスメンバ4b上に、車両前方側が車両後方側よりも下方に位置付けられるように設けられている。なお、前記支持ブラケット33及びクロスメンバ4bの上面の傾きは、略同一になっている。
前記スライド部31,32は、前記支持部材15から下方に突出するように一体的に設けられた連結部材31b,32bに、ローラー31a,31a,32a,32aがそれぞれ回転自在に支持されたもので、該ローラー31a,31a,32a,32aが断面略コの字状の前記レール部材33a,33b内を回転しながら移動するように構成されている。なお、前記スライド部31,32は、該スライド部31を後述するモータ34によって駆動させる点が異なるだけなので、以下の説明では、該スライド部31についてのみ説明する。
前記スライド部31は、図5に示すように、上述の位置調整機構20のスライド部21と同様、前記レール部材33aの下方に設けられたモータ34のトルクを利用してスライド移動するように構成されている。すなわち、前記連結部材31bは、車両前後方向に長い平板部31dと、該平板部31dから上方に突出し、前記支持部材15に連結される突出部31eと、からなる正面視で略逆T字状に形成されていて、該平板部31dの下面には鋸歯状の凹凸が形成されている。そして、この連結部材31bの平板部31dの下方には、前記モータ34に直結された第1ギヤ35と噛合する第2ギヤ36が、該平板部31dの下面の凹凸と噛み合うように配設されている。なお、前記モータ34は、レール部材33aの下方に配設される支持ブラケット33と一体形成された保持部33cによって該支持ブラケット33に固定されるようになっていて、前記第2ギヤ36は、上述の位置調整機構20の場合と同様、前記支持ブラケット33及びレール部材33aに形成された貫通孔内に配設され、前記連結部材31bの下面と噛合するようになっている。
これにより、前記モータ34が回転駆動すると、そのトルクは第1ギヤ35及び第2ギヤ36を介して前記連結部材31bに伝達され、ローラー31a,31aがレール部材33a内を回転しながら移動し、前記連結部材31b及びそれと連結された支持部材15を前後方向に移動させることになる。このとき、上述のように、前記レール部材33a,33bはそれぞれ車両前方側が後方側よりも下方に位置するように配設されているため、前記支持部材15は、後方に移動するほど上方に移動する。
以上の構成により、前記モータ34の回転駆動によって軌跡変更機構30のスライド部31,32が前後方向及び上下方向に移動すると、位置調整機構20及びシートクッション11等も前後方向及び上下方向に移動することになり、該位置調整機構20によるシートクッション11の位置調整によって描かれる乗員のヒップポイントの移動軌跡を変化させることができる。
すなわち、同じ身長で脚の長さの比率が異なる乗員(例えば、日本人と米国人)に対して適正な着座姿勢を提供するために、図3に太い実線もしくは2点鎖線で示すような複数のヒップポイントの移動軌跡が要求される場合でも、前記軌跡変更機構30によって位置調整機構20そのものの位置を変更して、ヒップポイントの移動軌跡全体をずらすことによって、適切なヒップポイントの移動軌跡を選択することが可能になる。
より具体的には、同じ身長で脚の長い乗員(例えば米国人)が着座する場合には、膝の角度が鋭角になって目線が下がりすぎないように、ヒップポイントが全体的に上方且つ後方に位置する移動軌跡(図3の実線)を、同じ身長で脚の短い乗員(例えば日本人)が着座する場合には、ペダル5に足が届いて目線が上がりすぎないように、ヒップポイントが全体的に下方且つ前方に位置する移動軌跡(図3の2点鎖線)を、前記軌跡変更機構30及び位置調整機構20によって描かせることが可能になる。そして、これらの移動軌跡を同一形状とすることで、位置調整機構20は一の移動軌跡を描くものであればよいので、該位置調整機構20の構成を簡略化することができる。
加えて、前記位置調整機構20を従来から知られているスライド機構で構成して、スライド移動及びリフト移動を可能にすることで、簡単且つ低コストで上述のようなシート位置の調整を実現することができるとともに、該位置調整機構20によるシートクッション11の位置調整を一の操作で行うことが可能になり、位置調整が容易になる。
なお、上述のように、前記軌跡変更機構30は、モータ34によって駆動されるスライド部31,32によって構成されているため、該スライド部31,32を所定の位置まで移動させることによって、ヒップポイントの移動軌跡を前記図3のような2つの移動軌跡だけでなく、さらに細かく変更することも可能である。
(実施形態2)
実施形態2は、図6及び図7に示すように、軌跡変更機構(軌跡選択手段)としてシートクッション11の車両前方側にリフト部41を設け、これにより、乗員のヒップポイントの移動軌跡を図6に示すように変更可能にした(図中に太い実線及び2点鎖線で示す)もので、上述の実施形態1とは、この点が異なるだけなので、実施形態1と異なる部分についてのみ以下で詳しく説明する。
すなわち、図6に示すように、車両前後方向に並設された車幅方向に長い2つのクロスメンバ8a,8bのうち、車両前方側のクロスメンバ8a上には、支持部材15を上下方向に移動させるリフト部41が設けられていて、該支持部材15の後端側は、前記2つのクロスメンバ8a,8bの間のフロアパネル2にピン部材47によって回動可能に連結されている。このように、前記支持部材15の後端部を前記クロスメンバ8a,8bの間に位置付けることで、シート1の後方側は該クロスメンバ8a,8bの間で且つフロアパネル2上に支持されるため、従来はデッドスペースであった該クロスメンバ8a,8b間のスペースを有効利用して、シート1全体を下方に配置することが可能になり、車室内の空間を有効利用することができる。
前記リフト部41は、図7に拡大して示すように、前記支持部材15の下方に配設された車幅方向に長い棒状の部材(リフト部材42)を、後述するレバー46によって上下方向に操作することで、前記支持部材15を上下方向へ移動させるようにしたものである。具体的には、前記リフト部材42は、支持部材15を下方から覆うように略コの字状に形成された支持フレーム43に対して、該支持フレーム43の左右側面に形成された上下方向に長いガイド穴43a,43aを挿通するように配設されている。そして、前記リフト部材42の一端側は、前記支持フレーム43の側面を挿通した状態で、該リフト部材42に対して軸直角方向に延びるように配設される棒状の連結部材44と連結されていて、該連結部材44の軸方向中央部に連結されたレバー46の動きが前記リフト部材42に伝達されるようになっている。そして、前記連結部材44のリフト部材42と連結されていない方の端部には、前記リフト部材42を上方に付勢するためのばね部材45が連結されていて、これにより、シートクッション11に乗員が着座した状態でも、比較的容易に支持部材15、位置調整機構20及びシートクッション11等を上方へ持ち上げられるようになっている。
なお、前記リフト部材42の両端には、車幅方向の力が加わっても前記支持フレーム43から脱落しないように、該リフト部材42が支持フレーム43のガイド穴43a,43aを挿通した状態で、該ガイド穴43a,43aの幅よりも大きい径を有するストッパ部材42a,42aが取り付けられるようになっている。そして、本実施形態では、前記リフト部材42の一端側に取り付けられるストッパ部材42aと前記連結部材44とが一体形成されている。
前記レバー46は、下端側で前記連結部材44に連結されている一方、軸方向中央部は、前記支持フレーム43の車幅方向外側の側面に、ピン部材46aによって車両前後方向に回動可能に係止されている。これにより、前記レバー46を車両後方側へ回動させると、前記連結部材44を介してリフト部材42が支持フレーム43のガイド穴43a,43aに沿って上方に移動することになる。逆に、前記レバー46を車両後方位置から車両前方へ移動させると、前記リフト部材42は支持フレーム43のガイド穴43a,43aに沿って下方に移動することになる。なお、前記支持フレーム43の車幅方向外側の側面には、前記レバー46を係止するためのロック機構43b(例えば、レバー46に突出部を設け、その突出部に対応するように前記支持フレーム43の側面に穴部を設けて、両者を係合させることによってロックするもの)が設けられていて、該レバー46が車両後方側に位置している場合、すなわちリフト部材42が上方に位置している場合には、その位置で固定されるようになっている。
そして、上述のとおり、前記支持部材15の車両後端側は、フロアパネル2にピン部材47によって回動自在に連結されているため、前記リフト部41のリフト部材42が前記支持部材15を上方に持ち上げると、該支持部材15は前記連結点を中心として車両後方側に回動する。
以上の構成により、前記支持部材15に設けられた位置調整機構20によるシートクッション11の位置調整とは別に、前記リフト部41によってシート1全体が支持部材15の車両後端側の連結点を中心として車両前後方向に回動するため、前記位置調整機構20によるシートクッション11の位置調整によって描かれる乗員のヒップポイントの移動軌跡を変化させることができる。
すなわち、前記図6に実線で示すヒップポイント(Hpt)の移動軌跡(第1の移動軌跡)を、2点鎖線で示すような移動軌跡(第2の移動軌跡)に変更することが可能になるので、同じ身長でも脚の長さの比率が異なる乗員に対して、適切なヒップポイントの移動軌跡を選択することで適正な着座姿勢を提供することが可能になる。なお、図6中に示す実線及び破線の二重丸は、それぞれ、前記第1の移動軌跡において、シートクッション11が前後方向の前端及び後端に位置している場合(ヒップポイントが前端及び後端に位置している場合)の座面ポイントの位置である。
そして、本実施形態の場合では、上述のようにシート1全体が支持部材15の後端側の連結点を中心として車両前後方向に回動するため、シートクッション11が車両後方側に位置している場合には、ヒップポイントの軌跡があまり変化しない一方、該シートクッション11が車両前方側に位置している場合には、ヒップポイントの移動軌跡が大きく変化するような移動軌跡の変更(図6参照)を実現することができる。
一般的に、図14に示すように、身長に対する脚の長さの比率が異なる場合でも、身長が高い人ではほとんど脚の長さの比率が同じになるため、上述のような構成にすることで、前記図14に示す体格の特性に対応してあらゆる体格の乗員に適正な着座姿勢を提供することができるとともに、シートクッション11の可動範囲を前記実施形態1のものよりも狭くすることができるため、狭い車室内の空間を有効利用することが可能になる。
また、前記図14に示すように2つの移動軌跡を同一形状とすることで、一の移動軌跡のみを描く位置調整機構20を用いることができるため、該位置調整機構20の構成を簡略化することができる。
さらに、従来は2つのクロスメンバ8a,8b上に前記支持部材15を設けていたが、本実施形態のように、該支持部材15をその車両後端側が前記クロスメンバ8a,8b間に位置するように配設することで、シート1全体を下方に配置することが可能になり、ルーフ6との間のスペースを広げることができ、乗員の受ける圧迫感を低減できるとともに車室内の空間をより有効に利用することが可能になる。
なお、本実施形態では、リフト部41の手動操作によって支持部材15の車両前方側を持ち上げるようにしているが、この限りではなく、モータ等を用いた電動のリフト機構としてもよい。
(実施形態3)
実施形態3は、図8及び図9に示すように、複数のモータを制御することによってシートクッション11の前後移動及び上下移動が可能に構成されたもので、上述の実施形態1とは、座面位置の調整及びヒップポイントの移動軌跡の変更の両機能を兼ね備えたものとして、モータによってシートクッション11をスライド移動させるスライド部51(スライド手段)と、別のモータによってシートクッション11を前後方向及び上下方向に移動させるリフト部61,61,…(リフト手段)とが設けられている点が異なるだけなので、実施形態1と異なる部分についてのみ以下で詳しく説明する。
すなわち、前記スライド部51は、図8及び図9に示すように、クロスメンバ9,9上に車幅方向に並設されたロアレール52,52と、該ロアレール52,52に対してそれぞれ車両前後方向に移動可能に構成されるアッパーレール53,53と、前記ロアレール52,52に設けられた支持板54上に配設されて、前記アッパーレール53,53をロアレール52,52に対して前後移動させるモータ55とからなる。そして、該モータ55の出力軸55aは、その外周面にねじ部が形成されていて、該モータ55は、前記アッパーレール53,53に設けられた接続部材56のねじ穴に螺合するように構成されている。これにより、固定側である前記ロアレール52,52に設けられたモータ55が回転駆動すると、ねじ部の設けられた出力軸55aに対して、移動側であるねじ穴の設けられた前記接続部材56が移動することになる。なお、前記図8において、モータ55の出力軸55aと接続部材56のねじ穴とが同心になるように、該モータ55と支持板54との間にはスペーサ54aが設けられている。
前記リフト部61,61,…は、シートクッション11の四隅の下方で前記アッパーレール53,53上に設けられたもので、該アッパレール53,53に対して該シートクッション11を上下方向及び前後方向に移動させることができるようにリンク機構を備えている。具体的には、前記各リフト部61は、シートクッション11のアウターパン11cから下方に突出するブラケット11d及び前記アッパーレール53に、それぞれ両端部がピン68,69によって回動可能に連結されるリンク部材62と、該リンク部材62の長手方向中央部に一端側が回動可能に連結され、他端側は後述する連結軸63に回動可能に連結される中間部材64と、該連結軸63を車両前後方向に移動させるモータ65とを備えている。
前記連結軸63は、左右のリフト部61,61の中間部材64,64同士を連結する車幅方向に長い部材であり、該中間部材64,64よりもシートクッション11の車幅方向内側に配設されるガイド板66,66に形成された前後方向に長いガイド穴66a,66aを挿通するように配設される。また、前記連結軸63には、膨出部63aが設けられていて、この膨出部63aに形成されたねじ穴に、前記モータ65の出力軸65aに形成されたねじ部が螺合するようになっている。なお、前記モータ65及びガイド板66,66は、前記アッパーレール53上に配設された板部材67上に固定されている。
これにより、前記モータ65が回転駆動すると、該モータ65の出力軸65aのねじ部も回転して、ねじ穴の設けられた前記連結軸63の膨出部63aを該連結軸63とともに車両前後方向に移動させる。このとき、該連結軸63はガイド板66,66のガイド穴66a,66aに沿って車両前後方向に移動するため、シートクッション11に乗員が着座して、該連結軸63に下方向の力が作用したとしてもその力によって該連結軸63が上下方向に大きく移動することはない。
そして、前記連結軸63が前後方向に移動すると、該連結軸63に連結された中間部材64も車両前後方向に移動して、該中間部材64の一端側が連結されるリンク部材62に前後方向の力を伝達することになる。上述のように、前記中間部材64はリンク部材62の長手方向中央部に連結されていて、該リンク部材62の両端は、それぞれ、シートクッション11のアウターパン11c及びスライド部51のアッパーレール53に車両前後方向に回動可能に連結されているため、前記リンク部材62は、アッパーレール53との連結点を中心に車両前後方向に回動する。したがって、シートクッション11は車両前方且つ上方へ、若しくは車両後方且つ下方へ移動することになる。
ここで、前記スライド部51のモータ55及び前記リフト部61のモータ65,65は、図10に示す制御装置70によって制御される。すなわち、該制御装置70のCPU71には、前記モータ55,65,65が接続されているとともに、シートクッション11を車両前後方向に移動させるための前後スイッチ72と、該シートクッション11の複数の移動軌跡を予め記憶しておくための記憶メモリ73と、該記憶メモリ73の中から乗員が所定の移動軌跡を選択するための軌跡選択スイッチ74(軌跡選択手段)とが接続されている。そして、前記軌跡選択スイッチ74によって所定の移動軌跡が選択されると、前記記憶メモリ73からその移動軌跡を実現するための各モータ55,65,65の制御量を読み込んで、前記前後スイッチ72からの出力信号に応じて該各モータ55,65,65へ制御信号を出力するようになっている。
以上の構成により、乗員のヒップポイント(Hpt)の移動軌跡を図11または図12に示すように設定して、それらの中から適した移動軌跡を選択することが可能となる。すなわち、図11に示すように、乗員のヒップポイントの描く所定の移動軌跡(第1の移動軌跡、図中に実線で示す)に対し、その所定位置Sよりも後側部分を同一の軌跡とし、前側部分を前記所定位置Sを中心として下方に回動させた位置関係になるようなヒップポイントの移動軌跡(第2の移動軌跡、図中に2点鎖線で示す)を描かせることができる。これにより、ヒップポイントが車両後方側に位置している場合には、該ヒップポイントをあまり下げないようにすることができるため、リフト部61の可動範囲を狭くすることができ、該リフト部61の構造をコンパクトにするとともに移動に必要なスペースを小さくすることができる。ここで、前記所定位置Sは、同じ身長で脚の長さの比率が異なる乗員に対しても、或る程度、適度な着座姿勢を提供できるかどうかによって決められるもので、例えば、脚の長さの比率が異なってもヒップポイントの移動軌跡を共通化可能な最も前側の位置に設定される。なお、図8、図11及び図12中に示す二重丸は座面ポイントの位置であり、図11及び図12では、クッションシート11が前後方向の後端に位置している場合(ヒップポイントが後端に位置している場合)の座面ポイントの位置を示している。
また、図12に示すように、乗員のヒップポイントが全体的に上方に位置している移動軌跡、すなわち身長に対する脚の長さの比率が小さい乗員が着座する場合の移動軌跡(第1の移動軌跡、図中に実線で示す)において、前側部分での前後移動量に対する上下移動量を後側部分よりも小さくするとともに、身長に対する脚の長さの比率が大きい乗員が着座する場合の移動軌跡(第2の移動軌跡、図中に2点鎖線で示す)において、車両後方側での前後移動量に対する上下移動量が車両後方側よりも小さくし、前端側及び後端側で2つの移動軌跡が同一の軌跡を描くようにすることができる。これにより、ヒップポイントの上下方向の移動量を前記図11の移動軌跡よりもさらに抑えることができるので、リフト部61の可動範囲を抑えて、構造をよりコンパクトにすることができるとともに移動に必要なスペースもより小さくすることができる。なお、本実施形態では、ヒップポイントの2つの移動軌跡の前側部分及び後側部分の両方について上下移動量を少なくするようにしているが、この限りではなく、どちらか一方側のみの上下移動量を少なくするようにしてもよい。
そして、乗員のヒップポイントが前記図11及び図12のような移動軌跡を描くように、前記軌跡メモリ73に各モータ55,65,65の制御量を記憶させておけば、乗員が自分に適していると思われるヒップポイントの移動軌跡を前記軌跡選択スイッチ74によって選択し、前記前後スイッチ72の操作によってシートクッション11を前後方向に移動させるだけで、その前後位置に応じて前記図11及び図12に示す移動軌跡を描くようにヒップポイントの位置が変化することになる。ここで、このようなヒップポイントの移動軌跡を描かせるように構成されている前記スライド部51、リフト部61及び制御装置70が座面移動手段に対応し、前記軌跡選択スイッチ74の操作に応じて前記軌跡メモリ73からヒップポイントの移動軌跡に対応した各モータ55,65,65の制御量を読み込むCPU71が軌跡選択手段に対応する。
なお、本実施形態では、前記図11及び図12にヒップポイントの軌跡の一例を示しているが、これに限らず、前記実施形態1、2のようなヒップポイントの移動軌跡を描かせるようにしてもよい。また、該実施形態1、2に示すヒップポイントの2つの移動軌跡において、前記図12と同様に、前側部分及び後側部分で上下移動量を小さくし、その前端側及び後端側で同一の軌跡となるようにしてもよい。
したがって、本実施形態によれば、スライド部51及びリフト部61の動作を各モータ55,65,65によって制御することで、シートクッション11の座面の位置を乗員の体格に応じて変化させることができるので、あらゆる体格の乗員に対して適正な着座姿勢を提供することができる。
(その他の実施形態)
本発明の構成は、前記各実施形態に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。すなわち、前記実施形態1〜3では、ヒップポイント(Hpt)の移動軌跡が図3、図6、図11及び図12に示すような軌跡を描くようにしているが、この限りではなく、図15に示すように、背の低い乗員と背の高い乗員とでは、同じ人種であっても身長に対する脚の長さの比率が異なることを考慮して、ヒップポイントが車両前方側及び車両後方側に位置しているときには、前後方向の移動量に対して上下方向の移動量が相対的に小さくなるような軌跡を描くようにしてもよい。
この場合、前記実施形態1、2において、シートクッション11のクッション部11aのたわみ特性を座面の位置に応じて変化させるようにすればよい。このようにたわみ特性を変化させる方法としては、例えば、前記クッション部11a内に座面の傾きによって弾性係数の変化する部材を設けたり、該クッション部11aの厚みを座面の位置に応じて変化させる方法などが考えられる。なお、前記実施形態3の場合には、各モータ55,65,65を制御することで、前記図15に示す移動軌跡を得ることができる。
これにより、背の低い乗員の場合には、ペダル5の操作性を考慮して、あまりヒップポイントを高くしないようにする一方、背の高い乗員の場合には、目線の高さを合わせるために、あまりヒップポイントを低くしないようにすることができ、乗員の身長に応じて適正な着座姿勢を提供することができる。
また、前記実施形態1では、図3に示すように、支持部材15の後方側を支持する軌跡変更機構30のスライド部32を、車両後方側のクロスメンバ4b上に設けるようにしているが、この限りではなく、2つのクロスメンバ4a,4bの間でフロアパネル2上に設けるようにしてもよい。こうすれば、前記実施形態2の構成と同様、シート1全体を下方に配置することができ、乗員に対する上方の圧迫感を低減できるとともに、狭い車室内のスペースを有効利用することができる。
さらに、前記各実施形態では、シートクッション11の位置調整を行うことで、乗員のヒップポイントが主に日本人及び米国人に適正な着座姿勢を提供する移動軌跡を描くようにしているが、この限りではなく、前記シートクッション11の位置調整によって、例えば欧州人等の他の人種に適正な着座姿勢を提供できるようなヒップポイントの移動軌跡を描かせるようにしてもよい。
さらにまた、前記実施形態1、2では、リフト手段及びチルト手段を兼ね備えたものとして、スライド部22等を設けるようにしているが、この限りでなく、どちらか一方の手段のみを備えた構造としてもよい。具体的には、前記スライド部22の代わりにリフト機構やチルト機構を設けるようにすればよい。