図1〜図5は、本発明に係る運転姿勢調整装置の実施形態を示している。この運転姿勢調整装置を備えた自動車には、その車室内に配設された運転席シート1のシートクッション1aを車体の前後方向にスライド変位させてその前後位置を調整するシート前後位置調整機構2と、上記運転席シート1のシートクッション1aを昇降駆動して座面の上下位置を調整するとともに、この座面の傾斜角度を調整する座面調整機構3とからなるシート調整機構が設けられている。また、上記車室の前部には、運転席シート1に着座した運転者の操作足により踏み込み操作されるブレーキペダル4およびアクセルペダル5からなる操作ペダルが左右に並設されている。
上記自動車の車体には、エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネル6と、このダッシュパネル6の下端部から後下がりの傾斜状態で車体の後方側に延びるキックアップ部7と、その後端部に連続して車体の後方側に延びる略平坦な車体フロア部8とが設けられている。この車体フロア部8の上面には、遮音および断熱機能等を有するフェルト材またはグラスウール等からなるインシュレータと、その上面を被覆するカーペット材等からなる表層材とを備えた従来周知のフロアトリム材(図示せず)が設置されている。
上記運転席シート1に着座した運転者の足元部に位置する車体フロア部8上には、適度の弾力性と剛性とを有する合成ゴム材またはウレタン樹脂材等からなる運転席用フロアマット11が敷設されている。この運転席用フロアマット11には、その厚みを変化させることにより、上面15が水平面に対して16°〜24°程度の角度αで前上がりに傾斜した第1傾斜面部12と、上面16が第1傾斜面部12の上面15よりも小さい角度、例えば水平面に対して10°〜15°程度の角度βで前上がりに傾斜した第2傾斜面部13と、両傾斜面部12,13をなだらかに接続する接続部14とからなる膨出部が一体に形成されている。
上記第1傾斜面部12は、ブレーキペダル4の踏込ポイント、つまり上記運転席シート1に着座した運転者の操作足の拇子球部(親指の付け根部分に位置する膨出部)によって押動される踏込ポイント4aの後方に位置する操作足(通常は右足)の踵載置領域に形成されるとともに、上記第1傾斜面部12の後端部が運転席シート1に着座した平均身長者の操作足の踵載置位置よりもやや前方に配設されるように、上記第1傾斜面部12の前後寸法が設定されている。なお、上記平均身長者とは、後述するように、統計的見て運転席シート1に着座する機会が最も多い考えられる者を想定している。
また、上記第2傾斜面部13は、アクセルペダル5の踏込ポイント5aの後方に位置する操作足の踵載置領域に形成されるとともに、その前後寸法が上記第1傾斜面部12の前後寸法よりも長く設定されている。これにより、上記アクセルペダル5の後方側に位置する踵載置領域の略全域、つまり運転席シート1に着座する全ての運転者が操作足の踵部を載置する可能性がある前後領域の全長に亘り、上記第2傾斜面部13からなる膨出部が配設されるように、その前後寸法が設定されている。
また、上記運転席用フロアマット11に形成された接続部14は、図2および図3に示すように、平面視で第1傾斜面部12の後端部と第2傾斜面部13の後端部とを円弧状に連続させることにより、第1傾斜面部12の前後寸法が、第2傾斜面部13よりも短いことに起因した段差が両者の間に形成されるのを防止し、かつ図5に示すように、正面視で第1傾斜面部12の側端部と第2傾斜面部13の側端部とをなだらかに連続させることにより、両傾斜面部12,13の上面15,16が異なる角度で傾斜していることに起因した段差が両者の間に形成されるのを防止している。
そして、上記運転席用フロアマット11が接着剤または係止具等を介して車体フロア部8上に固定されることにより、上記踵載置領域の一部に、上面15,16が前上がり傾斜した第1,第2傾斜面部12,13、つまり前方に至るほど厚み比べて大きくなる膨出部が形成されるようになっている。さらに、上記第1,第2傾斜面部12,13の後端と、その後方に連続する略水平なフロアマット面21との間には、図4および図5に示すように、谷折状の折曲部17,18が車幅方向に延びるように形成されている。
上記運転席シート1の設置部には、図6〜図8に示すように、シートクッション1aを前後移動可能に支持する左右一対のシートスライドロアレール41が配設されるとともに、このシートスライドロアレール41に沿ってシートスライドアッパレール42がスライド変位可能に支持されている。上記シートスライドロアレール41は、上面が開口したC型鋼等からなり、その前後両端部には、取付ブラケット43,44が溶接される等により一体に接合されている。そして、上記取付ブラケット43,44が、クロスメンバ19の上面等に締結ボルト等を介して固定されることにより、上記シートスライドロアレール41がやや前上がりに傾斜した状態で車体フロア部8上に設置されている。
上記左右のシートスライドロアレール41内には、図8に示すように、ねじ軸からなる回転軸45が回転自在に設置されるとともに、上記左右のシートスライドアッパレール42の前端部間には、駆動モータ46により回転駆動される駆動軸47およびこれを回転可能に支持する支持部材48が車幅方向に延びるように設置されている。また、上記駆動軸47の左右両端部には、その駆動力を上記回転軸45に伝達するベベルギア機構またはウォームホイールギア機構等からなる動力伝達部49が設けられている。
上記シートスライドロアレール41、シートスライドアッパレール42、回転軸45、駆動モータ46、駆動軸47および動力伝達部49と、シートスライドロアレール41の底部に固定されて上記回転軸45が螺合するナットブロック41aとにより、上記運転席シート1のシートクッション1aをスライド変位させて運転席シート1の前後位置を調整するシート前後位置調整機構2が構成されている。
例えば、後述の主操作スイッチが前進方向に操作された場合等には、上記駆動モータ46を正転させる制御信号が出力され、この制御信号に応じて駆動モータ46が正回転することにより、上記シートクッション1aを前進させる方向の駆動力が上記駆動軸47、動力伝達部49および回転軸45に伝達される。この回転軸45は、上記シートスライドロアレール41の底部に固定されたナットブロック41aによって支持された状態で、上記動力伝達部49から入力された駆動力により回転駆動されて車体の前方側に螺進することにより、上記シートスライドアッパレール42とともに運転席シート1のシートクッション1aが車体の前方側に駆動される。
一方、上記主操作スイッチが後退方向に操作された場合には、上記駆動モータ46を逆回転させる制御信号が出力され、この制御信号に応じて駆動モータ46が逆転することにより、上記シートクッション1aを後退させる方向の駆動力が上記駆動軸47、動力伝達部49および回転軸45に伝達され、この回転軸45が逆転駆動されて車体の後方側に螺進することにより、上記シートスライドアッパレール42および運転席シート1のシートクッション1aが車体の後方側に駆動されるようになっている。
また、上記シートスライドロアレール41は、所定角度(例えば5°程度)で前上がりに傾斜した状態で車体フロア部8上に設置されているため、上記シート前後位置調整機構2によりシートスライドアッパレール42および運転席シート1のシートクッション1aを、上記シートスライドロアレール41に沿って車体の前方側に移動させると、これに連動してシートクッション1aが上方に押し上げられることになる。逆に、上記シート前後位置調整機構2によりシートスライドアッパレール42および運転席シート1のシートクッション1aを、上記シートスライドロアレール41に沿って車体の後方側に移動させると、これに連動してシートクッション1aが下降するようになっている。
また、上記シートスライドアッパレール42には、運転席シート1のシートクッション1aを昇降駆動するとともに、その座面の傾斜角度を変化させるように駆動する座面調整機構3が設けられている。この座面調整機構3は、図6および図7に示すように、シートクッション1aの左右両側辺部に設けられたクッションフレーム51と、シートスライドアッパレール42の前部上面に設置されて上記クッションフレーム51の前端部を支持する前部ブラケット52および前部リンク53と、シートスライドアッパレール42の後部上面に設置されて上記クッションフレーム51の後方部を支持する後部ブラケット54および三角形状の後部リンク55と、左右の後部リンク55の後端部同士および上記両クッションフレーム51の後方下端部同士を連結する連結軸56と、シートスライドアッパレール42の中央部上面に設置されて上記後部リンク55に駆動力を伝達する中央リンク57およびこれを支持する中央ブラケット58と、上記中央リンク57の上部を上記後部リンク55の前端部に連結する連結リンク59と、下記駆動軸60、駆動レバー61および傾動駆動部62とを有している。
上記中央リンク57は、その下端部が車幅方向に延びる駆動軸60に固定されるとともに、この駆動軸60を介して上記中央ブラケット58に回動自在に支持されている。上記駆動軸60には、この駆動軸60を回動変位させる駆動レバー61が固定されている。また、左右一対のシートスライドアッパレール42の一方(車幅方向の外方側)に設けられた上記中央ブラケット58には、駆動軸60に固定された上記駆動レバー61を駆動する傾動駆動部62が設けられている。
上記傾動駆動部62は、図9および図10に示すように、前端部が連結ピン63を介して上記駆動レバー61の先端部(下端部)に連結されたねじ軸64と、このねじ軸64を回転駆動する駆動モータ65およびギア機構66と、このギア機構66の前面に固着されたガイドブラケット67とを有し、このガイドブラケット67の基端部が支持ブラケット68を介して上記中央ブラケット58に支持されている。また、上記ギア機構66には、駆動モータ65の出力軸65aに固着されたウォームギア69と、このウォームギア69により回転駆動されるウォームナット70とが配設され、このウォームナット70には、上記ねじ軸64に螺合するねじ孔が形成されている。
そして、上記駆動モータ65からウォームギア69を介して入力される駆動力により上記ウォームナット70が回転駆動されるのに応じ、このウォームナット70に螺合した上記ねじ軸64が回転してねじ送りされるようになっている。このねじ軸64がねじ送りされるのに応じ、その先端部に設けられた上記連結ピン63が、ガイドブラケット67に形成された支持溝71に沿って前後移動し、その駆動力が連結ピン63を介して上記駆動レバー61に伝達されることにより、この駆動レバー61が揺動変位して上記駆動軸60が回動駆動される。
また、上記駆動軸60が回転駆動されるのに応じて上記中央リンク57が揺動変位するとともに、その駆動力が連結リンク59を介して上記後部リンク55に伝達され、この後部リンク55が揺動変位するとともに、これに対応して前部リンク53が揺動変位することにより、シートクッション1aが昇降駆動されて座面の上下位置が調節されるようになっている。すなわち、運転席シート1のシートクッション1aが車体の後方側に位置した状態では、図6に示すように、上記前部リンク53および中央リンク57が後傾した状態となるとともに、後部リンク55の後端部に設けられた連結軸56が下方に位置した状態となることにより、シートクッション1aの座面が所定角度で後傾した状態に保持されている。
上記構成において、後述するように、主操作スイッチにより運転席シート1を車体の前方側に移動させる操作が行われた場合には、予め設定された後述の基本制御特性に基づき、上記座面調整機構3の駆動モータ65を正転駆動する制御信号が主制御手段から出力され、この駆動モータ65の正転駆動力が上記ギア機構66、ねじ軸64、連結ピン63、駆動レバー61および駆動軸60を介して中央リンク57に伝達され、この中央リンク57が、上記後傾状態から図11に示すように起立状態に移行する。そして、上記中央リンク57が起立状態に移行するのに応じ、その駆動力が連結リンク59を介して後部リンク55に伝達され、この後部リンク55の前端部が車体の前方側に引っ張られることにより、後部リンク55の後端部に設けられた上記連結軸56が矢印に示すように上昇するとともに、これに応じてシートクッション1aの後端部が斜め前方に押し上げられるように駆動される。
また、上記後部リンク55の揺動変位に連動して前部リンク53が後傾状態から起立状態に移行することにより、その上端枢支部が矢印に示す方向に駆動されるため、これに応じてシートクッション1aの前端部が押し上げられつつ前方に移動するように駆動され、このシートクッション1aが図6に示す下降位置から、図11に示す上昇位置に変位する。さらに、上記シートクッション1aの前端部の上方移動量に比べて後端部の上方移動量が大きく設定されることにより、上記シートクッション1aの上方移動に応じてその座面の後傾角度が、次第に小さくなるように変化して、水平状態に近づくように駆動されるとともに、運転席シート1の座面上に位置する運転者のヒップポイント(着座中心点)Hが、矢印に示すように斜め前方側に移動し、かつこれに連動して上記シートバック1bの傾斜角度が変化して鉛直状態に近付くように駆動されるようになっている。
一方、上記主操作スイッチにより運転席シート1を車体の後方側に移動させる操作が行われた場合には、上記基本制御特性に基づき、座面調整機構3の駆動モータ65を逆転駆動する制御信号が主制御手段から出力され、この駆動モータ65の正転駆動力が上記ギア機構66、ねじ軸64、連結ピン63、駆動レバー61および駆動軸60を介して中央リンク57に伝達される。これによって上記シートクッション1aが、図11に示す上昇位置から図6に示す下降位置に変位するとともに、このシートクッション1aの下方移動に応じてその座面の後傾角度が次第に大きくなるように変化し、かつ上記シートバック1bが大きく後傾した状態となるように構成されている。
上記運転姿勢調整装置は、図12に示すように、運転席シート1を前後移動させることを指示する主操作スイッチ81と、運転席シート1の座面の上下位置を微調整することを指示する上下位置調整スイッチ82と、運転席シート1の座面の前後位置を微調整することを指示する前後位置調整スイッチ83と、運転席シート1のシートバック1bを傾動変位させてその傾斜角度を調整することを支持するシートバックスイッチ84とを有し、これらがコンソールボックスまたはインストルメントパネル等に設けられたスイッチパネル上に配設されている。
上記主操作スイッチ81の出力信号は主制御手段85に入力され、この主制御手段85において予め設定された基本制御特性に基づき運転席シート1を前後移動させるとともに、その座面の上下位置を調整する制御が実行されるようになっている。また、上記上下位置調整スイッチ82または前後位置調整スイッチ83の出力信号は副制御手段86に入力され、この副制御手段86において、上記運転席シート1の座面を予め設定された第1,第2基準ラインに沿って移動させる制御が実行されるように構成されている。
上記主操作スイッチ81は、操作部が前後方向に押動操作されることにより運転席シート1を前進または後退させることを指示する二方向操作が可能なトグルスイッチ等からなっている。また、上記上下位置調整スイッチ82および前後位置調整スイッチ83は、操作部が上下方向または前後方向に操作されることにより、運転席シート1のシートクッション1aを前後移動または上下移動させることを指示する四方向操作が可能なトグルスイッチ等からなっている。さらに、上記シートバックスイッチ84は、操作レバーが前後方向に押動操作されることにより運転席シート1のシートバック1bだけを独立して傾動変位させることを指示する二方向操作が可能なトグルスイッチ等からなっている。
そして、上記主操作スイッチ81が押動されている間、シート前後位置調整機構2の駆動モータ46を正転または逆転させる作動指令信号が上記主制御手段85から出力されるようになっている。また、この主制御手段85は、上記主操作スイッチ81の操作に応じて運転席シート1の前後位置を調整する際に、これに連動して上記座面調整機構3を作動させることにより、予め設定された基本制御特性に基づき、運転席シート1の座面を昇降させてその上下位置を調整するとともに、上記シートクッション1aおよびシートバック1bを一体的に傾動変位させてその傾斜角度を変化させるように構成されている。
すなわち、上記運転席シート1に着座する運転者が身長の異なる者に乗り換わると、その身長に略比例して運転者の座高、腕の長さおよび足の長さ等が変化するため、これに対応して運転席シート1に着座した運転者のアイポイントIおよび操作ペダル等に対する操作性も変化する。したがって、新たに運転席シート1に着座した運転者は、その安楽姿勢を維持しつつ、ステアリングハンドル20を適正状態で把持できるとともに、アクセルペダル5からなる操作ペダルの踏込ポイント5a等に操作足の拇子球部を適正状態で当接させることができ、かつそのアイポイントIを、例えばフロントガラスの下端部とボンネットの上面とを結ぶように設定された適正ラインLに一致させて前方視界を適正に確保できるように、上記シート前後位置調整機構2および座面調整機構3を作動させて運転席シート1の前後位置等を調整しようとする。
上記運転席シート1には、身長が150cm未満の者から186cm以上の者まで様々な身長を有する運転者が着座する可能性があるため、これらの者が上記運転席シート1に安楽姿勢で着座して適正に運転操作を行い得るように構成する必要がある。例えば、米国において運転席シート1に着座する機会が最も多い考えられる平均身長者Mの身長を、米人男性の平均値に基づいて173cmと設定し、この平均身長者Mの安楽姿勢を統計的に解析した結果、以下のようなデータが得られた。
上記運転席シート1に着座した運転者の安楽姿勢とは、長期間に亘りその着座状態を維持できるとともに、ハンドル操作およびペダル操作等に適した着座姿勢である。具体的には、図13に示すように、操作足の足首角度θ1が85°〜95°程度、膝角度θ2が115°〜135°程度、腰骨部から肩部までの上半身と大腿部との折曲角度θ3が約95°である。また、上記平均身長者Mの場合には、水平線に対して太腿部がなす角度であるサイ角θ4の適正角度が、シートクッション1aの傾斜角度に約1.5°を加算した値であることが、人間工学的実験により確認されている。さらに、上記ステアリングハンドル20を適正に操作することができる肘角度θ5は100°〜130°程度、脇角度θ6は20°〜45°程度であり、かつ上記アクセルペダル5を適正に操作することができる操作足の足裏角度、つまり水平線に対する足裏の傾斜角度θ7は約52°である。
したがって、上記平均身長者Mが、例えば操作足の足首角度θ1を90°、膝角度θ2を125°、腰骨部から肩部までの上半身と大腿部との折曲角度θ3を95°に設定し、かつサイ角θ4を17°に設定して運転席シート1に着座した場合に、平均身長者MのアイポイントImを、約8°の角度で前下がりに傾斜する適正ラインLに一致させることができるとともに、上記肘角度θ5および脇角度θ6が上記範囲内に設定されてステアリングハンドル20を適正に把持することが可能であり、かつ上記操作足の踵部Kmを予め設定された基準位置に載置した状態でアクセルペダル5の踏込ポイント5aに足裏の拇子球部Bmを適正角度θ7(52°)で当接させることが可能な上記シートクッション1aの前後位置、その上下高さおよび傾斜角度を、人体モデルおよび運転姿勢調整装置の設計データ等に基づいて求め、この値を運転席シート1の前後基準位置、その座面の基準上下位置および基準傾斜角度として設定する。そして、上記基準位置に設置された座面上に着座した平均身長者Mのヒップポイント(着座基準点)Hmを、基本制御特性の基準位置として、図17に示すように基準制御特性Pを設定するためグラフ上にプロットする。
上記運転席シート1に着座する運転者が平均身長者Mから、図13の仮想線で示すように、女性ドライバー等からなる低身長者Sに乗り換わった場合、この低身長者Sは、上記ハンドル操作性およびペダル操作性を確保しつつ、アイポイントIsを適正ラインLに一致させ得るように、上記シート前後位置調整機構2および座面調整機構3を作動させて運転席シート1のシートクッション1aを前方に移動させるとともに、これに対応してシートクッション1aの設置高さを上昇させ、かつ水平線に対するシートクッション1aの傾斜角度を減少させる操作を行う。
例えば、150cmの身長を有する低身長者Sが上記運転席シート1に着座した場合には、シートクッション1a上に位置するヒップポイントHsを、上記平均身長者M用の基準位置Hmから所定距離だけ前方に移動させるとともに、これに連動して上記ヒップポイントHsを所定距離だけ上方に移動させ、かつそのサイ角θ4を減少させるようにシートクッション1aの傾斜角度を変化させるように操作する。この操作により、上記平均身長者Mに比べて手の短い低身長者Sの上半身を前方に移動させて上記ステアリングハンドル20を適正状態で把持できるとともに、上記平均身長者Mに比べて座高の低い低身長者SのアイポイントIsを、車体の前部上方側に移動させることにより、適正ラインLに一致させることが可能な上記シートクッション1aの前後位置、上下高さおよび傾斜角度を、人体モデルおよび運転姿勢調整装置の設計データ等に基づいて求め、この値を運転席シート1の最前方位置、その座面の最上方位置および最小傾斜角度として設定する。そして、上記位置に設置された座面上に着座した低身長者Sのヒップポイント(着座基準点)Hsを、基本制御特性の最前方位置として、図17に示すように基準制御特性Pを設定するためのグラフ上にプロットする。
また、上記シートクッション1aの前方移動および上方移動に応じて低身長者Sの操作足が車体の前部上方に移動する傾向があるため、これに対応させて上記膝角度θ2を130°程度に増大させることにより、操作足の足首角度θ1を90°に維持するとともに、足裏の傾斜角度θ7を適正角度(52°)に維持しつつ、上記低身長者Sが操作足の拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることが可能となる。
図14に示すように、上記低身長者Sの踵部Ksから拇子球部Bsまでの距離(15.5cm程度)は、平均身長者Mの同距離(18.0cm程度)に比べて約2.5cm短いため、上記低身長者Sが操作足の足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を上記角度(52°)に維持しつつ、その拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させた状態に維持しようとすると、操作足の踵部Ksを、平均身長者Mの踵部Kmよりも約2cm(=sin52°×2.5cm)だけ上方に位置させる必要がある。
上記実施形態では、上面16が10°〜15°の傾斜角度βで前上がりに傾斜した第2傾斜面部13を上記アクセルペダル5の後方に位置する操作足の踵載置領域に形成したため、運転席シート1に着座した低身長者Sが、図14の仮想線で示すように、操作足の踵部Ksを上記第2傾斜面部13上に載置した状態で、操作足の拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることにより、その踏込操作を適正に行うことが可能である。
一方、図15に示すように、例えば186cmの身長を有する高身長者Tが上記運転席シート1に着座した場合には、シートクッション1a上に位置するヒップポイントHtを、上記平均身長者Mに対応した基準位置Hmから所定距離だけ後方に移動させるとともに、これに連動して上記ヒップポイントHsを所定距離だけ下方に移動させ、かつ上記サイ角θ4を20.0°増大させるようにシートクッション1aの傾斜角度を変化させるように操作する。この操作より、上記平均身長者Mに比べて手の長い高身長者Tの上半身を後方に移動させて上記ステアリングハンドル20を適正状態で把持できるとともに、上記平均身長者Mに比べて座高の高い高身長者TのアイポイントItを、車体の後部下方側に移動させることにより、適正ラインLに一致させることが可能な上記シートクッション1aの前後位置、上下高さおよび傾斜角度を、人体モデルおよび運転姿勢調整装置の設計データ等に基づいて求め、この値を運転席シート1の最前方位置、その座面の最上方位置および最小傾斜角度として設定する。そして、上記位置に設置された座面上に着座した高身長者Tのヒップポイント(着座基準点)Htを、基本制御特性の最後方位置として、図17に示すように基準制御特性Pを設定するためのグラフ上にプロットする。
また、上記シートクッション1aの後方移動および下方移動に応じて高身長者Tの操作足が車体の後部下方に移動する傾向があるため、これに対応させて上記膝角度θ2を120°程度に減少させることにより、足首角度θ1を90°に維持するとともに、足裏の傾斜角度θ7を約52°の適正角度に維持しつつ、上記高身長者Tの拇子球部Btをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることが可能となる。
なお、図16に示すように、上記高身長者Tの踵部Ktから拇子球部Btまでの距離(19.5cm程度)は、平均身長者Mの同距離(18.0cm程度)に比べて約1.5cm長いため、上記高身長者Tが操作足の足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を上記角度に維持しつつ、その拇子球部Btをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させた状態に維持しようとすると、操作足の踵部Ktを、上記平均身長者Mの踵部Kmよりも約1.2cm(=sin52°×1.5cm)だけ下方に位置させる必要がある(図16の仮想線参照)。しかし、図16の実線で示すように、高身長者Tの足裏傾斜角度θ7を適正角度(52°)から4°程度減少させて約48°に変化させることにより、高身長者Tが操作足の踵部Ktを、上記第1傾斜面部12の後方に位置する略水平なフロアマット面21上に載置した状態で、その拇子球部Btをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることが可能である。
また、上記足裏の傾斜角度θ7が52°から48°に変化するのに対応して操作足の足首角度θ1が90°よりも大きくなる傾向があるが、上記足裏傾斜角度θ7の減少に対応して膝角度θ2を120°よりも小さくして膝を曲げ気味状態とすることにより、上記足首角度θ1が適正範囲を超えて大きくなること、例えば95°以上となることを防止することができる。さらに、上記操作足の拇子球部Btをアクセルペダル5の踏込ポイント5aよりもやや上方に位置させるようにすれば、上記足首角度θ1の変化を、より効果的に抑制できるという利点がある。
次いで、上記推奨ラインPの前端位置Hsと後端位置Htとの間を、例えば8等分する等により、運転席シート1に着座する運転者の身長を4.5cm程度に設定された基準長さを単位として順次、増大させた場合における運転席シート1の前後位置を求めた後、所定の身長を有する各運転者がそれぞれ安楽な着座姿勢を維持しつつそのアイポイント(視点高さ)を適正ラインLに一致させることができるとともに、その足裏の最適位置(拇子球部)を操作ペダルの踏込ポイントに当接させることが可能な上記シートクッション1aの前後位置、上下高さおよび傾斜角度を、人体モデルおよび運転姿勢調整装置の設計データ等に基づいて求めるとともに、この値に対応した各運転者のヒップポイントを、図17に示すグラフ上にプロットして連続させることにより、上記基本制御特性Pを設定する。
上記のように運転席シート1の前後位置を調整するシート前後位置調整機構2と、運転席シート1の座面の少なくとも上下位置を調整する座面調整機構3と、運転席シート1に着座した運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル5等からなる操作ペダルとを備えた車両において、上記運転席シート1の前後位置を調整する際に、これに連動して上記座面調整機構3を作動させることにより、予め設定された基本制御特性Pに基づき、運転席シート1の座面を昇降させてその上下位置を調整するように制御する主制御手段85を設けたため、運転席シート1に着座した運転者の運転姿勢を容易かつ適正に調整できるという利点がある。
すなわち、上記運転者の身長が変化すると、これに略比例して運転者の座高および足の長さ等が変化することにより、運転席シート1に着座した運転者のステアリングハンドル20および操作ペダルに対する操作性と、アイポイントIの高さ等とが変化するため、上記運転席シート1に着座した運転者が安楽姿勢で着座した状態で、ステアリングハンドル20を適正に操作できるとともに、操作ペダルを適正に操作できるように、上記シート前後位置調整機構2を作動させて上記運転席シート1の前後位置を調整する。
上記運転席シート1の前後位置を調整する操作に連動して上記座面調整機構3を作動させることにより、予め設定された基本制御特性Pに基づき、運転席シート1の座面を昇降させてその上下位置を調整する制御を、上記主制御手段85において実行することにより、運転席シート1に着座した運転者の大多数は、その安楽姿勢を維持して着座した状態で、上記ハンドル操作性およびペダル操作性を維持しつつ、そのアイポイントIを適正ラインLに一致させて前方視界を適正に確保する操作を、それぞれ効果的に実行できることが、発明者等が行った実験により確認されている。
特に、上記実施形態では、シート前後位置調整機構2および座面調整機構3等からなるシート調整機構により、運転者のスイッチ操作に応じて自動的に運転席シート1を前後移動させる際に、これに連動して運転席シート1の座面を昇降させてその上下位置を調整するとともに、シートクッション1aの傾斜角度と、シートバック1bの傾斜角度とを同時に変化させるように構成したため、運転席シート1の前後移動距離およびその座面の昇降距離が大きくなるのを抑制しつつ、運転席シート1に着座した運転者の座高に対応してそのアイポイントIを適正ラインLに一致させる操作を容易かつ適正に行うことができる。
例えば、運転席シート1に着座する運転者が高身長者Tから低身長者Sに乗り換わり、この低身長者Sの座高が低いことに起因して運転席シート1を前後移動させるとともに、運転席シート1の座面を上昇させる操作を行った場合に、これと連動して上記シートクッション1aおよびシートバック1bの傾斜角度を、低身長者Sの上半身を起立させる方向に変化させることにより、前下がりに傾斜した上記適正ラインLに低身長者のアイポイントIsを効果的に一致させることができる。この結果、上記運転席シート1およびその座面を大きく移動させることなく、運転者の視界を確保するように運転姿勢を迅速かつ適正に調整できるという利点がある。
そして、上記運転席シート1に着座した運転者のごく一部の者は、長年の運転スタイルや身体的特徴等に応じ、そのアイポイントIを上記適正ラインLよりも上方または下方に位置させることを望む場合がある。例えば、スポーツ走行を好む運転者は、そのハンドル操作性をおよびペダル操作性を確保するために、上記基本制御特性Pに基づいて運転席シート1の前後位置およびその座面を昇降変位させる操作を行った後に、アイポイントIを適正ラインLよりも下方に位置させて腰高感を回避することを望む場合がある。また、逆に車体の前部下方に対する視認性を向上させことを意図して、上記基本制御特性Pに基づく操作を行った後に、アイポイントIを適正ラインLよりも上方に位置させることを望む運転者も存在する。
本発明に係る運転姿勢調整装置では、上記主制御手段85による制御動作の終了後に、運転者による上下位置調整スイッチ82の操作に応じて上記座面調整機構3を作動させることにより、運転席シート1の座面を昇降させて上記基本制御特性Pよりも上方または下方に位置させるとともに、これに連動して上記シート前後位置調整機構2を作動させることにより、運転席シート1の座面を後方または前方に移動させるように微調整する副制御手段86を設けたため、運転席シート1に着座した運転者の安楽姿勢および上記ハンドル操作性およびペダル操作性を維持しつつ、そのアイポイントIを適正ラインLの上方または下方に位置させる操作を実行できるという利点がある。
例えば、運転席シート1に着座した運転者が、そのアイポイントIを適正ラインLの上方に位置させることを意図して、上下位置調整スイッチ82を操作することにより座面調整機構3を作動させ、上記基本制御特性Pに基づいて設定された上下位置よりも上方に運転者のヒップポイントHを移動させるとともに、アイポイントIを適正ラインLの上方に移動させる微調整操作が行われた場合に、これに連動して上記シート前後位置調整機構2を作動させることにより、運転席シート1の座面(ヒップポイントH)を予め設定された第1基準ラインに沿って斜め後方に移動させる制御を上記副制御手段86において実行するように構成されている。
また、運転席シート1に着座した運転者が、そのアイポイントIを適正ラインLの下方に位置させることを意図して、上下位置調整スイッチ82を操作することにより座面調整機構3を作動させ、上記基本制御特性Pに基づいて設定された上下位置よりも下方に運転者のヒップポイントHを移動させるとともに、アイポイントIを適正ラインLの下方に移動させる微調整操作が行われた場合に、これに連動して上記シート前後位置調整機構2を作動させることにより、運転席シート1の座面(ヒップポイントH)を予め設定された第1基準ラインに沿って斜め前方に移動させる制御が上記副制御手段86において実行するようになっている。
この実施形態では、図18および図19に示すように、上記第1基準ラインQを、運転席シート1に着座した運転者の膝部Nを支点に運転席シート1の座面、具体的には運転席シート1に着座した乗員のヒップポイントHを揺動変位させる方向に設定している。そして、上記運転者による上下位置調整スイッチ82の操作に応じ、この運転者の膝部Nを支点に運転席シート1の座面を揺動変位させてその上下位置を調節するように、上記座面調整機構3およびシート前後位置調整機構2の両方をそれぞれ所定の比率で作動させる制御が、上記副制御手段86において実行されるようになっている。
すなわち、上記上下位置調整スイッチ82の操作に応じて座面調整機構3のみを作動させることにより、運転席シート1に着座した運転者のヒップポイントHを昇降させるように構成した場合には、上記座面調整機構3の前部リンク53および後部リンク55の揺動方向に対応して、図18および図19の破線Q1で示すように、上記ヒップポイントHの上昇時にはこのヒップポイントHが斜め前方に移動し、かつヒップポイントHの下降時にはこのヒップポイントHが斜め後方に移動する。この方向にヒップポイントHが移動すると、運転席シート1に着座した運転者の膝部Nも、図19の破線Q1で示すように、斜め方向に移動することにより、上記運転者の足首角度θ1および足裏角度θ7が顕著に変動するため、アクセルペダル5等からなる操作ペダルに対する操作性が悪化することが避けられない。
これに対し、上記のように運転者による上下位置調整スイッチ82の操作に応じて上記座面調整機構3およびシート前後位置調整機構2の両方を作動させることにより、図18の破線Q1で示すように、運転席シート1の座面を昇降させて上記ヒップポイントHを基本制御特性Pよりも上方または下方に位置させるとともに、これに連動して図18の仮想線Q2で示すように、運転席シート1の座面を後方または前方に移動させるように微調整する制御を上記副制御手段86において実行するように構成した場合には、運転席シート1に着座した運転者の膝部Nが移動するのを抑制しつつ、上記ヒップポイントHを基本制御特性Pに対応した位置の上方または下方に移動させるとともに、これに対応して上記アイポイントIを適正ラインLの上方または下方に位置させように微調整できるという利点がある。
特に、上記実施形態に示すように、運転席シート1に着座した運転者の膝部Nを支点に運転席シート1の座面、具体的には運転席シート1に着座した乗員のヒップポイントHを揺動変位させる方向に設定された上記第1基準ラインQに基づき、上記座面調整機構3およびシート前後位置調整機構2の両方をそれぞれ所定の比率で作動させるように構成した場合には、運転席シート1に着座した運転者の膝部Nを全く移動させることなく、上記運転者のアイポイントIを好みに応じて適正ラインLの上方または下方に移動させることができる。したがって、上記主制御手段85による制御動作に応じて適正値に設定された運転者の足首角度θ1および足裏角度θ7を正確に保持することにより、アクセルペダル5等からなる操作ペダルに対する操作性を良好状態に維持できるという利点がある。
なお、上記実施形態に示すように、運転席シート1に着座した運転者の膝部Nを移動させることなく、図19の実線Qで示すように、上記ヒップポイントHを基本制御特性Pに基づいて設定された位置の上方または下方に移動させる操作を行った場合には、この動作に対応して運転席シート1に着座した運転者の膝角度θ2および肘角度θ5が変化することになるが、この膝角度θ2および肘角度θ5は、足首角度θ1および足裏角度θ7等に比べて自由度が大きく、上記膝角度θ2および肘角度θ5が多少変化しても運転者の安楽姿勢が損なわれたり、ペダル操作性が損なわれたりする等の弊害が生じる可能性は低い。
しかし、上記膝角度θ2および肘角度θ5が変化することに起因して運転者が違和感を受けた場合には、上記前後位置調整スイッチ83を操作してシート前後位置調整機構2を作動させることにより、運転席シート1の座面を前後移動させるとともに、これに連動して上記座面調整機構3を作動させることにより、予め設定された第2基準ラインに沿って斜め方向に移動させる制御を上記副制御手段86において実行すれば、上記違和感を解消することが可能である。
図20および図21に示すように、上記第2基準ラインRは、約8°の角度で前下がりに傾斜した方向、つまり運転席シート1に着座した運転者のアイポイントIの適正ラインLと平行に設定されている。そして、上記運転者による前後位置調整スイッチ83の操作に応じ、運転席シート1の座面(ヒップポイントH)を上記アイポイントIの適正ラインLと平行に移動させてその前後位置を調整するように、上記シート前後位置調整機構2および座面調整機構3の両方をそれぞれ所定の比率で作動させる制御が上記副制御手段86において実行されるように構成されている。
すなわち、前後位置調整スイッチ83の操作に応じて上記シート前後位置調整機構2のみを作動させることにより、運転席シート1に着座した平均身長者MのヒップポイントHmを前後移動させるように構成した場合には、上記シートスライドロアレール41の傾斜角度に対応して、上記ヒップポイントHを前進させる際に、図20の破線R1で示すように、ヒップポイントHが斜め上方に移動する。また、ヒップポイントHを後退させる際には、上記破線R1に沿ってヒップポイントが斜め下方に移動することになる。このように上記ヒップポイントHが移動すると、これに対応して図21の破線R1で示すように、運転席シート1に着座した運転者のアイポイントIも上記の方向に変位するため、上下位置調整スイッチ82の操作に応じて上記適正ラインLの上方または下方に位置させたアイポイントIの高さが、好みの位置からずれることが避けられない。
これに対し、上記のように運転者による前後位置調整スイッチ83の操作に応じて上記シート前後位置調整機構2および座面調整機構3の両方を作動させることにより、図20の破線R1で示すように、運転席シート1の座面を前後移動させるとともに、これに連動して仮想線R2で示すように、運転席シート1の座面を上方または下方に移動させるように微調整する制御を上記副制御手段86において実行するように構成した場合には、図21に示すように、運転者のアイポイントIの昇降変位を抑制しつつ、上記運転席シート1の座面(ヒップポイントH)を前後移動させることにより、運転者の膝角度θ2が大きく変化することに起因した違和感を効果的に解消できるという利点がある。
特に、上記実施形態に示すように、アイポイントIの適正ラインLと平行に設定された上記第2基準ラインRに沿って、運転席シート1の座面、具体的には運転席シート1に着座した乗員のヒップポイントHを移動させる方向に、上記シート前後位置調整機構2および座面調整機構3の両方をそれぞれ所定の比率で作動させるように構成した場合には、図21の実線Rで示すように、運転者のアイポイントIと適正ラインLとの関係を全く変動させることなく、上記運転席シート1の座面を好みに応じて前後移動させることができる。したがって、上記上下位置調整スイッチ82の操作に応じて上記適正ラインLの上方または下方に位置させたアイポイントIの高さを、好みの位置に正確に維持しつつ、上記運転席シート1の座面を前後移動させることにより、上記膝角度θ2等が変化することに起因した違和感を確実に解消できるという利点がある。
さらに、例えば、平均的な人体モデル等に比べて、手足は長いが、座高が低いという身体的特徴を有する運転者が、ハンドル操作性およびペダル操作性に応じて運転席シート1の前後位置を設定した際に、そのアイポイントIが適正ラインLよりも下方に位置するような事態が生じた場合、あるいはその逆の事態が生じた場合においても、上記主制御手段85による制御動作の終了後に、上記座面調整機構3を作動させて運転席シート1の座面を昇降させるとともに、これに連動して上記シート前後位置調整機構2を作動させて運転席シート1の座面を後方または前方に移動させる微調整を、副制御手段86において行うことにより、上記運転者のアイポイントIを適正ラインLに一致させることにより、前方視界を適正に確保できるという利点がある。
なお、必要に応じて上記シートバックスイッチ84を操作し、運転席シート1のシートバック1bを傾動変位させてその傾斜角度を調整する制御を上記副制御手段86において実行することにより、運転者の好みに対応させてその着座姿勢を、さらに適正に調整できるという利点がある。
また、上記実施形態では、運転席シート1に着座した運転者の操作足により踏み込み操作されるブレーキペダル4およびアクセルペダル5からなる操作ペダルが車室前部に配設された運転姿勢調整装置において、運転席シート1に着座した運転者の足元部に位置する車体フロア部8上に運転席用フロアマット11を敷設するとともに、この運転席用フロアマット11に、上面15,16が前上がりに傾斜した第1,第2傾斜面部12,13を設けることにより、前方に至るほど厚みが大きくなる膨出部を形成し、この第1,第2傾斜面部12,13からなる膨出部を、上記操作ペダルの後方に位置する操作足の踵載置領域に配設したため、運転席シート1に着座した運転者が操作ペダルを適正に操作できるように、簡単な構成で運転姿勢を容易かつ適正に調整することができる。
例えば、図4等に示すように、ブレーキペダル4の後方に上記第1傾斜面部12を設けるとともに、アクセルペダル5の後方に上記第2傾斜面部13を設け、かつ上記第1傾斜面部12の前後寸法を第2傾斜面部13の前後寸法よりも短く設定した場合には、運転席シート1に着座した高身長者T等によるペダル踏み換え操作等に悪影響を与えることなく、運転席シート1に着座した低身長者Sが、図13の仮想線で示すように、操作足の踵部Ksを上記第2傾斜面部13上に載置した状態で、拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることにより、その踏込操作を適正に行うことができるという利点がある。
すなわち、150cm台の身長を有する3名の被験者と、160cm台の身長を有する6名の被験者と、170cm台の身長を有する3名の被験者とにより、それぞれの平面視における通常の踵載置位置がどのようになるかを調査したところ、図22に示すようなデータが得られた。このデータから、150cm台の身長を有する被験者では、アクセルペダル5の後方側であって、その比較的に前方寄りの位置に通常の踵載置位置が集中し、170cm台の身長を有する被験者では、ブレーキペダル4とアクセルペダル5との間の後方側であって、その比較的に後方寄りの位置に通常の踵載置位置が集中し、かつ160cm台の身長を有する被験者では、その踵載置位置が広範囲に分散していることが分かる。
これは、足裏寸法の短い低身長者Sは、図23に示すように、踵部Ksの載置位置を大きく移動させなれば、アクセルペダル5の操作状態からブレーキペダル4の操作状態へとペダルの踏み換え操作を行うことができないので、通常時にはアクセルペダル5を容易に操作し得るように、アクセルペダル5の後方側に通常の踵載置位置を設定することが多いためである。これに対して足裏寸法の長い高身長者Tは、図24に示すように、踵部Ktの載置位置を大きく移動させることなく、アクセルペダル5の操作状態からブレーキペダル4の操作状態へとペダルの踏み換え操作を行うことが可能であるため、この踏み換え操作を容易に行い得るようにすることを意図して、ブレーキペダル4とアクセルペダル5との間の後方側に、通常の踵載置位置を設定するためであると考えられる。
したがって、上記実施形態に示すように、第1傾斜面部12よりも前後寸法の大きい上記第2傾斜面部13を平面視でアクセルペダル5の踏込ポイント5aよりも後方側に位置する部位に形成することにより、その上面16をアクセルペダル5の踏込ポイント5aに向けて前上がりに傾斜させた構成とした場合には、高身長者T等に比べて足裏寸法の短い低身長者Sが、操作足の踵部Ksを上記第2傾斜面部13上に載置した状態で、足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を適正角度に維持しつつ、その拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることができる。このため、低身長者Sが操作足の踵部Ksをフロア面から離間させた状態で、アクセルペダル5の踏込操作を行うことに起因して微妙なペダル操作が不可能となったり、足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7が適正角度から大きくずれることに起因してアクセルペダル5の迅速な踏込操作が困難となったりすることなく、上記アクセルペダル5を容易かつ適正に踏込操作できるという利点がある。
また、上記低身長者Sがブレーキペダル4をゆっくりと操作する場合には、操作足の踵部Ksを上記第1傾斜面部12上に移動させることにより、その足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を略適正角度に維持しつつ、操作足の拇子球部Bsをブレーキペダル4の踏込ポイント4aに当接させて適正にこれを操作できるという利点がある。しかも、上記アクセルペダルの後方に形成された第2傾斜面部13に比べて上記第1傾斜面部12の前後寸法が短く設定されているため、低身長者Sがブレーキペダル4を急操作する場合には、操作足の踵部Ksが上記第1傾斜面部12の後端に干渉するのを効果的に防止しつつ、その拇子球部Bsをブレーキペダル4の踏込ポイントに当接させて急ブレーキ操作を行うことができる。
一方、高身長者Tの場合は、図15および図16に示すように、操作足の足裏傾斜角度θ7を減少させるとともに、膝角度θ2を小さくすれば、その踵部Ktを下方に移動させることなく、操作足の拇子球部Btをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに対して容易かつ適正に当接させることが可能である。したがって、ブレーキペダル4の後方に位置する第1傾斜面部12の前後寸法を、上記アクセルペダル5の後方に位置する第2傾斜面部13よりも短く設定することにより、上記高身長者Tが操作足の踵部Ktを載置する踵載置領域を上記第2傾斜面部13の後方に位置する略水平なフロアマット面21(非膨出部)上に設定しても、上記アクセルペダル5の踏込操作性に悪影響が与えられることはない。しかも、高身長者Tが操作足の踵部載置する踵載置領域を略水平な車体フロア部8により構成することにより、高身長者Tに対して操作足の踵部Ktを載置すべき位置を容易に認識させることができる。
さらに、高身長者Tの場合には、上記ブレーキペダル4およびアクセルペダル5の間の後方側部、つまり上記第1傾斜面部12の後端部よりも後方側で、かつ第2傾斜面部13の側方側部に、操作足の踵部Ktを位置させた状態で、上記アクセルペダル5およびブレーキペダル4に対する踏み換え操作を行うことができるため、このペダル踏み換え操作が上記第1,第2傾斜面部12,13により阻害されるという事態の発生を効果的に防止できるという利点がある。
また、上記実施形態では、ブレーキペダル4の後方に位置する第1傾斜面部12の上面15からなる傾斜面の水平面に対する傾斜角度αを、上記アクセルペダル5の後方に位置する第2傾斜面部13の上面16からなる傾斜面の傾斜角度βよりも大きく設定したため、上記第1傾斜面部12の高さを維持しつつ、その前後寸法を効果的に短くすることができる。したがって、この第1傾斜面部12の後端部に近接した位置に、操作足の踵部を載置する可能性がある中身長者による上記アクセルペダル5またはブレーキペダル4に対する踏込操作が、上記第1傾斜面部12の存在に起因して阻害されるという事態を生じるのを防止できるという利点がある。しかも、上記のように低身長者Sがブレーキペダル4を操作する場合には、上記第1傾斜面部12からなる運転席用フロアマット11の膨出部上に、操作足の踵部Ksを載置することにより、足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を適正角度に維持しつつ、その拇子球部Bsをブレーキペダル4の踏込ポイント4aに当接させることができる。
さらに、上記実施形態に示すように、ブレーキペダル4の後方に位置する第1傾斜面部12と、上記アクセルペダル5の後方に位置する第2傾斜面部13との間に、両者をなだらかに接続する接続部14を形成した場合には、通常時に上記第2傾斜面部13上に操作足の踵部Ksを載置した低身長者Sが、上記アクセルペダル5に対する操作状態からブレーキペダル4に対する操作状態に移行させる際に、このペダル踏み換え操作を上記接続部14に沿ってスムーズに実行できるという利点がある。
なお、上記運転席用フロアマット11に設けられた第1,第2傾斜面部12,13からなる膨出部の後端に円弧状の連設部を設ける等により、この第1,第2傾斜面部12,13と、その後方の略水平面(車体フロア部8)とを緩やかに連続させることもできる。しかし、上記実施形態に示すように(図3および図4参照)、第1,第2傾斜面部12,13と車体フロア部8との間に、車幅方向に延びる谷折状の折曲部17,18を形成した場合には、上記第1,第2傾斜面部12,13と車体フロア部8との境界部を運転席シート1に着座した運転者に認識させることが可能である。したがって、上記谷折状の折曲部17,18を基準として何れの位置に操作足の踵部を載置すべきかを運転者に対して適格に把握させることができる。
また、上記実施形態では、運転席用フロアマット11の厚みを変化させることにより、上記第1,第2傾斜面部12,13を運転席用フロアマット11と一体に形成した例について説明したが、図25に示すように、運転席用フロアマット11aの下方に、これとは別体に形成された傾斜面形成用部材22,23を配設することにより、上面15a,16aが前上がりに傾斜した傾斜面部12a,13a等からなる膨出部を形成することも可能である。
しかし、上記実施形態に示すように運転席用フロアマット11の厚みを変化させることにより、上記第1,第2傾斜面部12,13からなる膨出部を運転席用フロアマット11と一体に形成した場合には、運転席シート1に着座した運転者の足元部に位置する車体フロア部上に上記運転席用フロアマット11を敷設するだけで、上記第1,第2傾斜面部12,13を、ブレーキペダル4およびアクセルペダル5からなる操作ペダルの後方に位置する操作足の踵載置領域に容易かつ適正に形成できるという利点がある。
また、上記運転席用フロアマット11等の下面および上記車体フロア部8の上面に相対応する面ファスナーを設け、この面ファスナーの係止力を利用して上記運転席用フロアマット11等を車体フロア部8に着脱可能に取り付け、あるいは図26に示すように、車体フロア部8の上面に突設された係止ピン28を、運転席用フロアマット11bの複数個所に形成された係止孔29…に対して選択的に係合する等により、上記運転席用フロアマット11dを車体フロア部8に対して着脱可能に取り付けるように構成してもよい。
上記のように構成した場合には、アクセルペダル5等からなる操作ペダルを踏込操作する操作足の踵載部となる膨出部30が形成された上記運転席用フロアマット11bを、運転席シート1に着座した運転者の足裏寸法または使用者の好みに応じた位置に取り付けることができる。したがって、例えば平均身長者Mに比べて足裏寸法の短い低身長者Sがその踵部Ksを、上記運転席用フロアマット11dに形成された膨出部30の傾斜面31上に載置した状態で、操作足の足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を適正角度に維持しつつ、その拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることができるように、上記膨出部30の前後位置を変化させることができる。
特に、運転席用フロアマット11dの複数個所に形成された係止孔29…を車体の前後方向に配列する等により、車体フロア部8に対する上記運転席用フロアマット11bの前後位置を変更可能に構成した場合には、運転席シート1に着座する運転者の足裏寸法に応じて上記運転席用フロアマット11bの前後位置を変更することにより、操作足の踵部載置高を変化させることができる。したがって、上記傾斜面31の傾斜角度をそれほど大きな値に設定することなく、簡単な構成で上記踵部載置高さを操作足の足裏寸法に応じて適正かつ効果的に調整することができるため、低身長者S、平均身長者Mまたは高身長者Tのいずれであっても、操作足の踵部を傾斜面31上に載置した状態で、足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を適正角度に維持しつつ、その拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることにより、これを適正に操作できるという利点がある。
すなわち、運転席シート1に低身長者Sが着座する場合には、上記運転席用フロアマット11bを、図26の仮想線で示す平均身長者M用の基準位置から、図26の実線で示すように、車体の後方側に移動させることにより、低身長者Sが操作足の踵部Ksを傾斜面31の上に載置することができるように、その踵載置部の上下位置を適正かつ効果的に調整することができる。このため、上記傾斜面31の傾斜角度を例えば25°以上の大きな角度に設定したり、上記膨出部30を昇降変位させるための駆動機構を設けたりすることなく、その足裏寸法の如何に拘わらず、全ての運転者が操作足の踵部を上記傾斜面31上に載置した状態でペダル操作を適正に行い得るように、上記踵載置部の上下位置を容易に調整できるという利点がある。
なお、図27に示すように、水平な上面32を有する複数の段部を前上がりの階段状に配設することにより、前方に至るほど厚みが大きくなる膨出部33を運転席用フロアマット11cに形成し、あるいは図28に示すように、上面34が前下がりに傾斜した複数の段部を前上がりの鋸刃状に配設することにより、前方に至るほど厚みが大きくなる膨出部35を運転席用フロアマット11dに形成した構造としもよい。このように構成した場合には、上記膨出部33,35上に載置された操作足の踵部が、ペダル操作時に作用する反力に応じて後方に滑り落ちるのを効果的に防止しつつ、足裏寸法に応じて上記踵部の前後位置を変化させることにより、その載置高さを適正に調整できるという利点がある。
また、上記ブレーキペダル4およびアクセルペダル5等からなる操作ペダルの踏込ポイント5a等よりも後方に位置する操作足の踵載置領域に、昇降可能な可動フロアを設けとともに、この可動フロアを昇降駆動するフロア昇降機構を設け、運転者の足裏寸法に応じて上記可動フロア部を昇降変位させるように構成してもよい。このように構成した場合には、運転席シート1に着座する運転者が、低身長者S、平均身長者Mまたは高身長者Tのいずれであっても、操作足の踵部を傾斜面31上に載置した状態で、足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を適正角度に維持しつつ、その拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることにより、これを適正に操作できるという利点がある。