JP4486270B2 - スカート注油構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関のピストンスカートからシリンダ内へ潤滑油を供給するスカート注油構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のディーゼル機関等の内燃機関においてピストンスカートからシリンダ内へ潤滑油を供給するスカート注油構造を、図3に基づき説明する。
【0003】
図3は、内燃機関のピストンのピストンピンより上部の断面を図上左半分を示すものであり、図中に従来のピストンスカートからシリンダ内へ潤滑油を供給するスカート注油構造を示す。
【0004】
図3に示すように、内燃機関のピストン1はその上部のピストンクラウン2の周囲にピストンリング溝3が配され、その下方にピストンスカート4が延在している。なお、図3は、ピストンクラウン2とピストンスカート4を有する部分とが別体となった組立ピストンを例示するが、それらが一体として形成されたピストンであっても本発明に関して同様である。
【0005】
ピストンクラウン2の内部には冷却室5が設けられ、図示しないクランク軸、連接棒、およびピストンピン6等に設けられた給油経路を経て潤滑と冷却のための潤滑油aが供給されている。
【0006】
ピストンスカート4内には冷却室5から下方に向けピストンリング溝3より下方のピストンスカート4の表面に開口する注油孔7が穿孔されており、冷却室5内の潤滑油aが注油孔7からピストンスカート4と図示しないシリンダライナ内面との間に供給され、潤滑と冷却が行なわれる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来のスカート注油構造の場合、注油孔7が冷却室5から下方に向けて設けられているため、クランクの回転に伴いピストン1に上向きの加速度が作用する下死点前後90°の範囲では、冷却室5内の潤滑油aにはピストン1に対して相対的に下方に移動させる慣性力が働き、冷却室5内の潤滑油aは注油孔7から外部へ押し出され十分な注油がなされるが、逆に、クランク軸の回転に伴いピストン1に下向きの加速度が作用する上死点前後90°の範囲では、冷却室5内の潤滑油aにはピストン1に対して相対的に上方に移動させようとする慣性力が働き、冷却室5内の潤滑油aは冷却室5上方に押し上げられるので注油孔7から外部への注油が十分になされず、あるいは注油が中断した。
【0008】
そのためシリンダライナ上部への注油が困難となり、シリンダのシーリングの不足、油幕切れによるスカッフィング、エンジン損傷のおそれがあり、特に着火、燃焼行程とも重なるため、ピストン1の上死点前後においてシリンダに対し十分な注油を行なえないことは問題であった。
【0009】
本発明はかかる問題を解消し、ピストン1の上死点前後においても十分な注油を行ないうるスカート注油構造を提供することを課題とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明は上記の課題を解決するためになされたものであって、その第1の手段として、潤滑油が供給されるピストンクラウン内の冷却室からピストンスカート表面へ注油孔を経由して前記潤滑油を導くスカート注油構造において、前記冷却室の下方に設けられた油溜め、同油溜めの上部から上方に向けて穿孔され前記ピストンスカート表面へ開口する注油孔、前記油溜めの上部と前記冷却室の下部との間を連通して設けられる絞り孔を備えてなることを特徴とするスカート注油構造を提供する。
【0011】
上記第1の手段によれば、下死点前後90°の範囲では、冷却室内の潤滑油にはピストンに対して相対的に下方に移動させようとする慣性力が働き、冷却室内の潤滑油は絞り孔から油溜りへと流れ込み、上死点前後90°の範囲では、油溜り内の潤滑油にはピストンに対して相対的に上方に移動させる慣性力が働き、油溜り内の潤滑油は注油孔から外部へ押し出され、ピストンの上死点前後においてシリンダライナ上部への注油が十分なされ、ピストンの下死点前後においても注油の枯渇が生じない。
【0012】
(2)第2の手段としては、潤滑油が供給されるピストンクラウン内の冷却室からピストンスカート表面へ注油孔を経由して前記潤滑油を導くスカート注油構造において、前記冷却室の下方に設けられた油溜め、同油溜めの上部から上方に向けて穿孔され前記ピストンスカート表面へ開口する注油孔、前記油溜めの下部と前記冷却室の下部との間を連通して設けられる給油孔を備えてなることを特徴とするスカート注油構造を提供する。
【0013】
上記第2の手段によれば、下死点前後90°の範囲では、冷却室内の潤滑油にはピストンに対して相対的に下方に移動させようとする慣性力が働き、冷却室内の潤滑油は給油孔から油溜りへと流れ込み、上死点前後90°の範囲では、油溜り内の潤滑油にはピストンに対して相対的に上方に移動させる慣性力が働き、油溜り内の潤滑油は注油孔から外部へ押し出され、ピストンの上死点前後においてシリンダライナ上部への注油が十分なされ、ピストンの下死点前後においても注油の枯渇が生じない。
【0014】
(3)また、第3の手段として、第2の手段のスカート注油構造において、前記油溜めの下部と前記ピストンスカート表面との間を連通する通気孔を備えてなることを特徴とするスカート注油構造を提供する。
【0015】
第3の手段によれば、第2の手段の作用に加え、蓋に開けた通気孔により、上死点前後に給油孔内の潤滑油が冷却室に戻ろうとする動きに連れて起こるおそれのあるサイホン現象による逆流が防止され、また注油孔からの注油を妨げる油溜り内の負圧が防止される。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1に基づき本発明の実施の第1形態にかかるスカート注油構造を説明する。図1は、前述の図3中A部分に相当する本発明の要部の断面説明図である。
【0017】
図1において図3と同じ部分には同じ符号を付し説明を省略し、図3の従来例と異なる点を主に説明する。
【0018】
図1に示すように本実施の形態においては、冷却室5の下面に絞り穴8を介してピストンスカート4内に油溜り9が設けられ、油溜り9の上部からピストン1の上方に向け斜めにピストンスカート4の表面に達する注油孔10が穿孔されている。
【0019】
そして、注油孔10が開口する位置に合わせてピストンスカート4の表面にはピストンスカート4を巡る注油溝11が設けられている。
【0020】
かかる構造により、本実施の形態のスカート注油構造においては、クランク軸の回転に伴いピストン1に上向きの加速度が作用する下死点前後90°の範囲では、冷却室5内の潤滑油aにはピストン1に対して相対的に下方に移動させようとする慣性力が働き、冷却室5内の潤滑油aは冷却室5下方に押し下げられるので絞り穴8から油溜り9へと潤滑油aが流れ込む。
【0021】
クランク軸の回転に伴いピストン1に下向きの加速度が作用する上死点前後90°の範囲では、油溜り9内の潤滑油aにはピストン1に対して相対的に上方に移動させる慣性力が働き、油溜り9内の潤滑油aは注油孔10から外部へ押し出され、注油溝11を巡り、ピストンスカート4とシリンダライナ内面との間に満遍なく十分な注油がなされる。
【0022】
この時、油溜り9内の潤滑油aには冷却室5へ戻る方向の力も働くが、絞り穴8を通過する抵抗より注油孔10を通過する抵抗のほうが少ないので、一部の潤滑油aの戻りは生じても注油孔10からの注油が十分なされる。
【0023】
また、ピストン1の下死点前後においては、絞り穴8から油溜り9へ流れ込んだ潤滑油aがさら注油孔10へと流出し注油の枯渇ということはなく、ピストン1の上死点前後にピストンスカート4とシリンダライナ内面上部との間に十分注油された潤滑油aの流下もあり、潤滑、冷却上の問題はない。
【0024】
したがって、本実施の形態のスカート注油構造によれば、ピストン1の上死点前後においてシリンダライナ上部への注油が十分なされ、ピストン1が下死点前後においても注油の枯渇が生じないので、従来のスカート注油構造で問題となったピストン1の上死点前後においてのシリンダライナ上部への注油不足ないし枯渇による、シリンダのシーリングの不足、油膜切れによるスカッフィング、エンジン損傷等の問題が解消される。
【0025】
次に図2に基づき本発明の実施の第2形態にかかるスカート注油構造を説明する。図2(a)は、前述の図3中B部分に相当する本発明の要部の断面説明図である。図2(b)は(a)中C−C矢視側面図である。
【0026】
図2において前述の図3、図1と同じ部分には同じ符号を付し説明を省略し、異なる点を主に説明する。
【0027】
図2に示すように本実施の形態においては、ピストンリング溝3より下方のピストンスカート4内に油溜り9’が設けられ、冷却室5の下面から油溜り9’の下部まで通じる給油孔12が穿孔されている。油溜り9’の上部からはピストン1の上方に向け斜めにピストンスカート4の表面に達する注油孔10’が穿孔されている。
【0028】
そして、注油孔10’が開口する位置に合わせてピストンスカート4の表面にはピストンスカート4を巡る注油溝11’が設けられている。
【0029】
本実施の形態において油溜り9’の設け方に特段の限定はないが、図示のようにピストンスカート4の側面に開いた室を設け、ボルト13で蓋14を締結し油溜り9’を形成すれば加工を容易になすことができる。また15は蓋14に開けられた通気孔である。
【0030】
かかる構造により、本実施の形態のスカート注油構造においては、クランク軸の回転に伴いピストン1に上向きの加速度が作用する下死点前後90°の範囲では、冷却室5内の潤滑油aにはピストン1に対して相対的に下方に移動させようとする慣性力が働き、冷却室5内の潤滑油aは冷却室5下方に押し下げられ、給油孔12を通り油溜り9’へと潤滑油aが流れ込む。このとき本実施の形態では前述の実施の第1形態のように絞り孔を経由しないのでピストン1の1回転毎の油溜り9’への給油量が多くとれ、油溜り9’を大きくとって十分な注油量を確保することができる。
【0031】
クランク軸の回転に伴いピストン1に下向きの加速度が作用する上死点前後90°の範囲では、油溜り9’内の潤滑油aにはピストン1に対して相対的に上方に移動させる慣性力が働き、油溜り9’内の潤滑油aは油溜り9’の上部から注油孔10’を通り外部へ押し出され、注油孔11’を巡り、ピストンスカート4とシリンダライナ内面との間に満遍なく十分な注油がなされる。
【0032】
この時、油溜り9’内の潤滑油aには冷却室5へ戻る方向の力も働くが、冷却室5からの給油孔12は油溜り9’の下部に連通しているので、給油孔12内の潤滑油aが一部戻っても、油溜り9’内の大分の潤滑油aは注油孔10’から外部へ流れ出て注油孔10’からの注油が十分なされる。なお、蓋14に開けた通気孔15により、上死点前後に給油孔12内の潤滑油aが冷却室5に戻ろうとする動きに連れて起こるおそれのあるサイホン現象による逆流が防止され、また注油孔10’からの注油を妨げる油溜り9’内の負圧を防止するので、潤滑油aのピストンスカート4表面への注油がより確実になる。
【0033】
また、ピストン1の下死点前後においては、給油孔12から油溜り9’へ流れ込んだ潤滑油aがさら注油孔10’へと流出し注油の枯渇ということはなく、ピストン1の上死点前後にピストンスカート4とシリンダライナ内面上部との間に十分注油された潤滑油aの流下もあり、潤滑、冷却上の問題はない。
【0034】
したがって、本実施の形態のスカート注油構造によれば、ピストン1の上死点前後においてシリンダライナ上部への注油が十分なされ、ピストン1が下死点前後においても注油の枯渇が生じないので、従来のスカート注油構造で問題となったピストン1の上死点前後においてのシリンダライナ上部への注油不足ないし枯渇による、シリンダのシーリングの不足、油膜切れによるスカッフィング、エンジン損傷等の問題が解消される。
【0035】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内でその具体的構造、構成に種々の変更を加えてもよいことは言うまでもない。
【0036】
【発明の効果】
(1)請求項1の発明によれば、スカート注油構造を、潤滑油が供給されるピストンクラウン内の冷却室からピストンスカート表面へ注油孔を経由して前記潤滑油を導くスカート注油構造において、前記冷却室の下方に設けられた油溜め、同油溜めの上部から上方に向けて穿孔され前記ピストンスカート表面へ開口する注油孔、前記油溜めの上部と前記冷却室の下部との間を連通して設けられる絞り孔を備えてなるように構成したので、下死点前後90°の範囲では、冷却室内の潤滑油にはピストンに対して相対的に下方に移動させようとする慣性力が働き、冷却室内の潤滑油は絞り孔から油溜りへと流れ込み、上死点前後90°の範囲では、油溜り内の潤滑油にはピストンに対して相対的に上方に移動させる慣性力が働き、油溜り内の潤滑油は注油孔から外部へ押し出され、ピストンの上死点前後においてシリンダライナ上部への注油が十分なされ、ピストンの下死点前後においても注油の枯渇が生じないため、ピストンのシリンダライナ上部への注油不足ないし枯渇による、シリンダのシーリングの不足、油膜切れによるスカッフィング、エンジン損傷等の問題が解消される。
【0037】
(2)請求項2の発明によれば、スカート注油構造を、潤滑油が供給されるピストンクラウン内の冷却室からピストンスカート表面へ注油孔を経由して前記潤滑油を導くスカート注油構造において、前記冷却室の下方に設けられた油溜め、同油溜めの上部から上方に向けて穿孔され前記ピストンスカート表面へ開口する注油孔、前記油溜めの下部と前記冷却室の下部との間を連通して設けられる給油孔を備えてなるように構成したので、下死点前後90°の範囲では、冷却室内の潤滑油にはピストンに対して相対的に下方に移動させようとする慣性力が働き、冷却室内の潤滑油は給油孔から油溜りへと流れ込み、上死点前後90°の範囲では、油溜り内の潤滑油にはピストンに対して相対的に上方に移動させる慣性力が働き、油溜り内の潤滑油は注油孔から外部へ押し出され、ピストンの上死点前後においてシリンダライナ上部への注油が十分なされ、ピストンの下死点前後においても注油の枯渇が生じないため、ピストンのシリンダライナ上部への注油不足ないし枯渇による、シリンダのシーリングの不足、油膜切れによるスカッフィング、エンジン損傷等の問題が解消される。
【0038】
(3)請求項3の発明によれば、請求項2に記載のスカート注油構造において、前記油溜めの下部と前記ピストンスカート表面との間を連通する通気孔を備えてなるように構成したので、請求項2の発明の作用効果に加え、蓋に開けた通気孔により、上死点前後に給油孔内の潤滑油が冷却室に戻ろうとする動きに連れて起こるおそれのあるサイホン現象による逆流が防止され、また注油孔からの注油を妨げる油溜り内の負圧を防止するので、潤滑油のピストンスカート表面への注油がより確実になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の第1形態にかかるスカート注油構造の説明図であり、図3中A部分に相当する本発明の要部の断面図である。
【図2】本発明の実施の第2形態にかかるスカート注油構造の説明図であり、(a)は図3中B部分に相当する本発明の要部の断面図、(b)は(a)中C−C矢視側面図である。
【図3】従来のディーゼル機関等の内燃機関におけるスカート注油構造の説明図であり、内燃機関のピストンのピストンピンより上部の図上左半分の断面図である。
【符号の説明】
1 ピストン
2 ピストンクラウン
3 ピストンリング溝
4 ピストンスカート
5 冷却室
6 ピストンピン
7 注油孔
8 絞り孔
9、9’ 油溜り
10、10’ 注油孔
11、11’ 注油溝
12 給油孔
13 ボルト
14 蓋
15 通気孔
Claims (3)
- 潤滑油が供給されるピストンクラウン内の冷却室からピストンスカート表面へ注油孔を経由して前記潤滑油を導くスカート注油構造において、前記冷却室の下方に設けられた油溜め、同油溜めの上部から上方に向けて穿孔され前記ピストンスカート表面へ開口する注油孔、前記油溜めの上部と前記冷却室の下部との間を連通して設けられる絞り孔を備えてなることを特徴とするスカート注油構造。
- 潤滑油が供給されるピストンクラウン内の冷却室からピストンスカート表面へ注油孔を経由して前記潤滑油を導くスカート注油構造において、前記冷却室の下方に設けられた油溜め、同油溜めの上部から上方に向けて穿孔され前記ピストンスカート表面へ開口する注油孔、前記油溜めの下部と前記冷却室の下部との間を連通して設けられる給油孔を備えてなることを特徴とするスカート注油構造。
- 請求項2に記載のスカート注油構造において、前記油溜めの下部と前記ピストンスカート表面との間を連通する通気孔を備えてなることを特徴とするスカート注油構造。
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