JP4464081B2 - ブラックマトリックス用カーボンブラック顔料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶ディスプレイなどの表示材料に使用されるブラックマトリックス形成用のカーボンブラック顔料に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶表示装置、電子表示装置等の液晶ディスプレイは、液晶となる結晶材料を透明な電極間に挟み、電極間に電圧を印加して液晶の分子配列を変えることにより入射光の透過を制御し、反射板と偏光板を組み合わせることにより画像や文字などを表示するものであり、この液晶ディスプレイをカラー化したカラー液晶ディスプレイは、画素ごとに赤、青、緑のカラーフィルターを付けて光の三原色をつくり、各画素の明暗を制御して色の変化を表現するものである。
【0003】
すなわち、カラーフィルターは透明基板上に赤、青、緑の3原色の画素を1絵素とした多数の絵素から構成され、各画素を透過する光量を制御して3原色の加色による発色によってカラー表示を行うものであり、各画素間の漏光を防止してコントラストの向上を図り、色純度の低下を防止するために各画素間の光を遮断するための遮断層(ブラックマトリックス)が形成されている。また、ブラックマトリックスはカラーフィルターに対向する基板上に設けられた液晶の駆動用電極やTFT(薄膜トランジスタ)などのトランジスタを遮光する機能も有している。
【0004】
したがって、ブラックマトリックスには、当然、遮光性に優れていることが要求されるが、その他に、表面が平滑で、層の厚さが薄いこと、導電性が低いことなどが必要とされている。すなわち、表面平滑性が劣り、層厚が厚いと3原色の色パターンを形成する際に凹凸が生じることになり、また導電性が高いと印加電圧により半導体素子が誤作動を起こすなどのおそれがあるためである。
【0005】
このブラックマトリックスには、従来から、(1) フォトリソグラフィ法によるCr、Ni、Alなどの金属薄膜からなるブラックマトリックス、(2) 黒色顔料を分散した黒色有機樹脂膜からなるブラックマトリックス、が用いられてきた。このうち (1)の金属薄膜により形成されたブラックマトリックスは、遮光率や光学濃度が高く解像度に優れている反面、導電性が高く、また光反射率が大きいので反射光による写り込みが生じ易く、表示品位が損なわれる難点があり、更に工程が煩雑なためコストが高くなるなどの難点がある。
【0006】
一方、黒色顔料を感光性樹脂に分散した (2)の黒色有機樹脂膜からなるブラックマトリックスには上記のような難点が少なく、特に、カーボンブラックは黒色顔料として優れた黒色度、遮光性を備えているとともに導電性も低く、ブラックマトリックス用の黒色顔料として好適である。
【0007】
そこで、カーボンブラックを分散した光重合性樹脂組成物を透明基板に塗布してブラックマトリックスを形成する方法やカーボンブラックを含有するインキを透明基板に印刷してブラックマトリックスを形成するなどの方法が開発されている。このブラックマトリックス用のカーボンブラックあるいはカーボンブラックを用いたブラックマトリックスのカーボンブラックの特性を規制するものとして例えば、下記の技術などが開発、提案されている。
【0008】
樹脂中に少なくともカーボンブラックを含むインキにおいて、前記カーボンブラックが、カーボンブラック100g 当たり40〜130mlの吸油量を有し、かつ950℃で7分間加熱したときの揮発減量分が3重量%以上であって、樹脂100重量部に対して10〜50重量部の割合で配合されることを特徴とする液晶カラーフィルター遮光層用インキ(特許文献1)、樹脂中に遮光剤を分散せしめてなる樹脂ブラックマトリックスにおいて、該遮光剤として下記(A)〜(D)のうち少なくとも1つを満たすカーボンブラックを用いることを特徴とする樹脂ブラックマトリックス。但し、(A)PH値が6.5以下、(B)表面のカルボキシル基濃度〔COOH〕が、全炭素原子あたりのモル比で、0.001<〔COOH〕、(C)表面の水酸基濃度〔OH〕が全炭素原子あたりのモル比で、0.001<〔OH〕、(D)表面のスルホン基濃度〔SO3 H〕が、全炭素原子あたりのモル比で0.001<〔SO3 H〕、(特許文献2)。
【0009】
また、黒色顔料としてカーボンブラックを含有するブラックマトリックスにおいて、該カーボンブラックの平均粒子径が40〜300nmであることを特徴とするカラーフィルター用ブラックマトリックス(特許文献3)、黒色顔料としてカーボンブラックを含有するブラックマトリックスにおいて、該カーボンブラックは、950℃における揮発分中のCO及びCO2 から算出した全酸素量が、カーボンブラックの表面積100m2当たり7mg以上であることを特徴とするカラーフィルター用ブラックマトリックス(特許文献4)、平均粒径50〜200nm、DBP吸油量10〜40ml/100g の範囲にあるカーボンブラックを含有することを特徴とするブラックマトリックス用カラーフィルターレジスト(特許文献5)、平均一次粒子径35〜150nm、凝集体径60〜300nm、ジブチルフタレート吸油量30〜90ml/100g のカーボンブラックを樹脂で被覆してなることを特徴とする黒色レジストパターン形成用カーボンブラック(特許文献6)、なども提案されている。
【0010】
更に、全酸素量が15mg/g以上、全酸素量/比表面積が0.10mg/m2 以上であるカーボンブラックを樹脂で被覆処理してなる絶縁性ブラックマトリックス用カーボンブラック(特許文献7)や表面のカルボキシル基濃度〔COOH〕、表面の水酸基濃度〔OH〕、表面のスルホン酸基濃度〔SO3 H〕の少なくとも1つが、全炭素原子あたりのモル比で、0.005より大きいカーボンブラックを遮光剤として含む樹脂からなるブラックマトリックスであって、比抵抗率が、7×104 Ω・cm以上であることを特徴とする樹脂ブラックマトリックス(特許文献8)などが提案されている。
【0011】
また、本発明者は、これらのブラックマトリックスに要求される諸性能の向上について別異の観点から研究を行い、グラフト化によるカーボンブラック粒子表面の改質を図るものとして、窒素吸着比表面積(N2SA)50m2/g以上、DBP吸収量140cm3/100g以下のカーボンブラックを湿式酸化して、X線光電子分光法により測定した全炭素原子当たりの全酸素原子の原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)の値が0.1以上に酸化処理されたカーボンブラック表面の官能基を基幹として、ビニルモノマーを反応させてカチオン重合によりビニルポリマーが化学結合されてなるブラックマトリックス用カーボンブラック顔料(特許文献9)を開発した。
【0012】
更に、酸化処理されたカーボンブラック表面の官能基をアゾ基に変換して基幹とし、該基幹にビニル基を含むモノマーがラジカルグラフト重合して生成したビニルポリマーが化学結合されてなるブラックマトリックス用カーボンブラック(特許文献10)を開発、提案した。
【0013】
【特許文献1】
特開平8−262223号公報
【特許文献2】
特開平9−15403号公報
【特許文献3】
特開平9−15419号公報
【特許文献4】
特開平9−22653号公報
【特許文献5】
特開平9−80220号公報
【特許文献6】
特開平11−80583号公報
【特許文献7】
特開平9−95625号公報
【特許文献8】
特開平9−265006号公報
【特許文献9】
特開2002−69327号公報
【特許文献10】
特開2003−41149号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、ブラックマトリックスには黒色度および遮光性が高く、遮光層の膜厚が薄くても高い遮光率を有し、また遮光層の表面が平滑で、遮光層の導電性が小さいこと、などが必要とされている。
【0015】
そこで、本発明者は、カーボンブラック粒子表面の官能基量とカーボンブラック基本粒子の凝集構造との関連において、カーボンブラック粒子の表面性状の変化によるカーボンブラックを黒色顔料とするブラックマトリックスの性能向上について鋭意研究を行った。
【0016】
すなわち、本発明は液晶表示装置用カラーフィルター、プラズマディスプレイなどに用いられるブラックマトリックス形成用の顔料として、導電性が低く、高度の遮光性を有し、更に露光時の紫外線照射量が低いなどの感光特性にも優れたブラックマトリックス製造に好適なカーボンブラック顔料を提供することを目的として開発されたものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明によるブラックマトリックス用カーボンブラック顔料は、ディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定されるアグリゲートのストークスモード径(Dst)が30nm以上100nm以下およびストークス径分布の半値幅(ΔDst)が20nm以上80nm以下のカーボンブラックを湿式酸化処理したカーボンブラックであって、湿式酸化処理後のカーボンブラックが下記(1)〜(3)
(1)カーボンブラック粒子の外部表面積(STSA)が50m2 /g以上、
(2)カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基量を外部表面積(STSA)で除した値が1.0μmol/m2 以上、
(3)カーボンブラック粒子表面のヒドロキシル基量を外部表面積(STSA)で除した値が4.0μmol/m2 以下、
の特性を有してなることを構成上の特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明のブラックマトリックス用カーボンブラック顔料には、ディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定されるアグリゲートのストークスモード径(Dst)が30nm以上100nm以下およびストークス径分布の半値幅(ΔDst)が20nm以上80nm以下のカーボンブラックが適用される。なお、ストークス径分布のモード径(Dst)および半値幅(ΔDst)は下記の方法によって測定した値である。
【0019】
JIS K6221(82)5「乾燥試料の作り方」に基づいて乾燥したカーボンブラック試料を少量の界面活性剤を含む20容量%エタノール水溶液と混合してカーボンブラック濃度0.1kg/m3 の分散液を作製し、これを超音波で十分に分散させて試料とする。ディスクセントリフュージ装置(DCF;英国 Joyes Lobel 社製)を100s-1の回転数に設定し、スピン液(2重量%グリセリン水溶液、25℃)を0.015dm3 加えた後、0.001dm3 のバッファー液(20容量%エタノール水溶液、25℃)を注入する。次いで、温度25℃のカーボンブラック分散液0.0005dm3 を注射器で加えた後、遠心沈降を開始し、同時に記録計を作動させて図1に示す分布曲線(横軸;カーボンブラック分散液を注射器で加えてからの経過時間、縦軸;カーボンブラックの遠心沈降に伴い変化した特定点での吸光度)を作成する。この分布曲線より各時間Tを読み取り、次式(数1)に代入して各時間に対応するストークス相当径を算出する。
【0020】
【数1】
【0021】
数1において、ηはスピン液の粘度(0.935×10-3Pa・s)、Nはディスク回転スピード(100s-1)、r1 はカーボンブラック分散液注入点の半径(0.0456m)、r2は吸光度測定点までの半径(0.0482m)、ρCBはカーボンブラックの密度(kg/m3 )、ρ1 はスピン液の密度(1.00178kg/m3 )である。
【0022】
このようにして得られたストークス相当径と吸光度の分布曲線(図2)における最大頻度のストークス相当径をアグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とし、最大頻度の1/2値における大小2点のストークス相当径の差をアグリゲートの半値幅ΔDst(nm)とする。
【0023】
本発明においてアグリゲートのストークスモード径(Dst)が30nm以上100nm以下およびストークス径分布の半値幅(ΔDst)が20nm以上80nm以下のカーボンブラックを適用するのは、ストークスモード径(Dst)が30nm未満およびストークス径の半値幅(ΔDst)が20nm未満のカーボンブラックでは形成したブラックマトリックスの遮光性が十分でなく、一方、ストークスモード径(Dst)が100nmを越え、およびストークス径の半値幅(ΔDst)が80nmを越えると、ブラックマトリックス形成用の樹脂組成物を作製する際に粘度が増大して、形成したブラックマトリックスの平滑性が失われるためである。
【0024】
本発明のブラックマトリックス用カーボンブラック顔料は、このアグリゲートのストークスモード径(Dst)が30nm以上100nm以下およびストークス径分布の半値幅(ΔDst)が20nm以上80nm以下のカーボンブラックを湿式酸化処理してカーボンブラック粒子表面に官能基を生成させ、カーボンブラック粒子の外部表面積および外部表面積当たりの官能基量を特定したものである。
【0025】
酸化処理として湿式酸化処理するのは、カーボンブラック粒子表面にカルボキシル基などの官能基を効率よく生成させるためである。酸化剤としては、例えばペルオキソ2硫酸塩、ペルオキソ2硼酸塩、ペルオキソ2炭酸塩、ペルオキソ2リン酸塩などのペルオキソ2酸塩が好適に用いられ、ペルオキソ2酸塩としてはアルカリ金属塩やアンモニウム塩などが好ましい。
【0026】
湿式酸化処理は、これらの酸化剤水溶液中にカーボンブラックを入れて攪拌混合および加熱することにより行われ、酸化処理の度合いは酸化剤水溶液の濃度、カーボンブラックの添加量、処理温度、処理時間などを適宜に設定することにより制御することができる。
【0027】
湿式酸化処理は強い酸化処理であるため湿式酸化処理によりカーボンブラック粒子の表面には微細なポアが形成され易く、例えば、窒素吸着比表面積(N2 SA)で測定される比表面積は湿式酸化処理により1.10〜1.15倍程度に増大する。この比表面積の増大は、官能基が生成する表面だけでなく、官能基の生成に関与しない表面をも増大することになる。一方、通常のカーボンブラック比表面積は界面活性剤の1種である Cetyl Tri-methyl Ammonium Bromide(CTAB)吸着比表面積で規定される場合が多い。しかし、湿式酸化処理により生成したカーボンブラックの表面には、通常のカーボンブラックの数十から数百倍のカルボキシル基やヒドロキシル基が形成される。このため、CTAB法に使用する界面活性剤とカーボンブラックの官能基とが相互作用を起こすことが考えられる。このため、正確な比表面積を測定することは困難である。
【0028】
そこで、本発明者は湿式酸化処理によるカーボンブラック粒子表面に生成する官能基量を的確に評価するために、外部表面積(STSA)に着目した。すなわち、外部表面積(STSA)で表される値は、微細なポア、例えば20オングストローム以下の微細ポアを含まない外部表面積を測定するものであるから、湿式酸化処理前後での表面積の増大が実質的に認められないことを確認した。したがって、外部表面積(STSA)で表される表面積を基準にすれば、湿式酸化処理前後でのカーボンブラック粒子の単位表面積当たりの官能基量を的確に評価することが可能となる。
【0029】
そして、本発明のブラックマトリックス用カーボンブラック顔料は、湿式酸化処理後のカーボンブラックが下記(1)〜(3)
(1)カーボンブラック粒子の外部表面積(STSA)が50m2 /g以上、
(2)カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基量を外部表面積(STSA)で除した値が1.0μmol/m2 以上、
(3)カーボンブラック粒子表面のヒドロキシル基量を外部表面積(STSA)で除した値が4.0μmol/m2 以下、
の特性を有することを特徴とする。
【0030】
カーボンブラック粒子の外部表面積(STSA)を50m2 /g以上と特定するのは、外部表面積(STSA)が50m2 /g未満であると溶媒に分散させた際に、分散液中におけるカーボンブラックのアグロメレートの平均粒径が大きくなり、ブラックマトリックスの黒色度および光遮蔽力が低下し、結果的に遮光層の膜厚を厚くすることとなるためである。なお、上述したように湿式酸化処理前後における外部表面積(STSA)の変化は実質的に認められない。
【0031】
湿式酸化処理によりカーボンブラック粒子表面には官能基が生成するが、本発明は生成する官能基のうち、カルボキシル基およびヒドロキシル基の生成量を、外部表面積(STSA)当たりカルボキシル基量として1.0μmol/m2 以上に、また、ヒドロキシル基量として4.0μmol/m2 以下に、特定するものである。
【0032】
湿式酸化処理後のカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基量が、1.0μmol/m2 を下回る場合にはブラックマトリックス形成用の樹脂組成物を作製する際に、界面濡れ性が悪化して溶媒中への分散性が低下し、樹脂組成物の粘度上昇を招くことになるためである。更に、形成したブラックマトリックスの絶縁不良の原因にもなる。
【0033】
湿式酸化処理後のカーボンブラック粒子表面のヒドロキシル基量が、4.0μmol/m2 を越えると、ブラックマトリックス形成用の樹脂組成物を硬化してブラックマトリックスを形成する際に、光重合開始剤から発生するラジカルを捕捉するため硬化反応が遅くなり、極端な場合には硬化が完了しない場合もあるためである。
【0034】
なお、これらの特性は下記の方法によって測定される。
(a)外部表面積(STSA);
自動比表面積測定装置(島津製作所製、Gemini 2375 )を用いて、ASTM D5816−99 “Standard Test Methods for Carbon Black−External Surface Area by Multipoint Nitrogen Adsorption ”に記載の方法に準拠して測定する。
【0035】
(b)カルボキシル基;
0.976mol/dm3 炭酸水素ナトリウム0.5dm3 の中にカーボンブラック2〜5g を添加して6時間振盪した後、カーボンブラックを反応液から濾別し、濾液に0.05mol/dm3 塩酸水溶液を加えた後、pHが7.0になるまで0.05mol/dm3 水酸化ナトリウム水溶液にて中和滴定試験を行ってカルボキシル基を定量する。
【0036】
(c)ヒドロキシル基;
2,2 ′-Diphenyl-1-picrylhydrazyl(DPPH)を四塩化炭素中に溶解して濃度5×10-4mol/dm3 の溶液を作製し、該溶液にカーボンブラックを0.1〜0.6g 添加し、60℃の恒温槽中で6時間攪拌する。その後、反応液からカーボンブラックを濾別し、濾液を紫外線吸光光度計によりヒドロキシル基を定量する。
【0037】
本発明のブラックマトリックス用カーボンブラック顔料は、酸化剤水溶液中にカーボンブラックを分散させて、酸化剤水溶液の濃度、カーボンブラックの添加量、処理温度、処理時間などを適宜に設定して酸化処理を施し、酸化処理後のカーボンブラック分散液は限外濾過膜により分散液中に残存する塩を分離した後、濃縮し、必要に応じて濾過を行い、更に乾燥機で乾燥したのちミキサー等により粉砕して製造される。
【0038】
本発明のブラックマトリックス用カーボンブラック顔料は、溶媒および樹脂と混合して樹脂組成物を調製し、樹脂組成物をスピンコータにより透明基板に塗布してフォトレジストする方法、あるいは、印刷インキとして透明基板に印刷するなどの方法で樹脂膜を被覆し、焼き付けすることによりブラックマトリックスが形成される。
【0039】
溶媒としては、例えばメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、ベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラハイドロフラン、N-メチル-2- ピロリドン、 N,N′- ジメチルホルムアミド、 N,N′- ジメチルアセトアミド、 N,N′- ジメチルスルホキシドなど樹脂の溶解性やカーボンブラック顔料の分散性に支障を来さない限り、種々の溶媒を使用することができる。
【0040】
また、樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、クリプタル樹脂、エポキシ樹脂、アルキルベンゼン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、メタクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、など耐熱性、流動性、カーボンブラック顔料の分散性に悪影響を与えない限り、各種の樹脂が用いられる。
【0041】
ブラックマトリックス形成用の樹脂組成物は、本発明のカーボンブラック顔料と、上記の溶媒および樹脂とを混合することにより調製される。混合比としては例えば、カーボンブラック顔料2〜20重量%、溶媒60〜96重量%、樹脂2〜20重量%の割合で調合される。
【0042】
カーボンブラック顔料が2重量%未満であると形成したブラックマトリックスの遮光性が低くなり、一方20重量%を越えるとブラックマトリックスの膜厚が厚くなるためである。また、溶媒が60重量%未満であると流動性が著しく低下するために均一な膜厚のブラックマトリックスの形成が困難となり、96重量%を越えると遮光性の低下が著しくなるためである。また、樹脂が2重量%未満であるとブラックマトリックスの膜強度が低下し、20重量%を越えると樹脂組成物の粘度が増大して膜厚の制御が困難となるためである。
【0043】
更に、光重合開始剤を樹脂組成物に対して0.5〜40重量%の割合で添加することが好ましい。光重合開始剤の添加割合が0.5重量%未満では形成したブラックマトリックスの光感度が十分でなく、一方、40重量%を越えると結晶析出による膜硬度の低下が生じるためである。
【0044】
光重合開始剤としては、例えばベンジル、ジアセチルなどのα−ジケトン類、ベンゾインなどのアシロイン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのアシロインエーテル類、チオキサントン、2,4-ジエチルキサントン、チオキサントン -4-スルフォン酸などのチオキサントン類、ベンゾフェノン、4,4'- ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'- ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、アセトフェノン、p-ジメチルアセトフェノン、α,α'-ジメトキシアセトキシアセトフェノン、2,2'- ジメトキシ-2- フェニルアセトフェノン、p-メトキシアセトフェノン、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-1- プロパンなどのアセトフェノン類、アントラキノン、1,4-ナフトキノンなどのキノン類やトリブロモメチルフェニルスルフォン、フェナンシルクロライド、トリス(トリクロロメチル)-s- トリアジン、p-メトキシフェニル-2,4- ビス(トリクロロメチル)-s- トリアジン、2-(p-ブトキシスチリル)-5- トリクロロメチル-1,3,4- オキサジアゾール、9.10- ジメチルベンズフェナジン、9-フェニルアクリジン、チオキサントン/アミン、ベンゾフェノン/ミヒラーズケトン、ベンジルジメチルケタール、ヘキサアリールビイミダゾール/メルカプトベンズイミダゾールなどが例示される。
【0045】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。
【0046】
〔ブラックマトリックス用カーボンブラック顔料の作製〕
実施例1〜6、比較例1〜3
アグリゲートのストークスモード径(Dst)およびストークス径分布の半値幅(ΔDst)が異なるカーボンブラックを用いて、カーボンブラック300gを濃度1.5mol/dm3 の過硫酸ナトリウム水溶液3500cm3 に添加し、0.12s-1で攪拌しながら、333Kで10時間反応を行った。反応終了後、限外濾過膜(旭化成製、AHP-1010、分画分子量 50000)で、酸化反応液中に残存する過剰の塩を精製分離し、濃縮精製した。次いで、この精製液を383Kで16時間真空乾燥し、更にミキサーで粉砕してカーボンブラック試料270gを得た。
【0047】
比較例4〜11
実施例3〜6に使用したカーボンブラックと同じカーボンブラックを用い、酸化剤に過酸化水素水溶液を用いて濃度を30重量%(比較例4〜7)及び10重量%(比較例8〜11)と変えて酸化処理を行い、カルボキシル基量およびヒドロキシル基量の異なるカーボンブラック顔料を作製した。
【0048】
比較例12〜15
実施例3〜6に使用したカーボンブラックと同じカーボンブラックを用い、カーボンブラック150gをオゾン処理器中に入れて、オゾン発生機(日本オゾン製 IOT-4A6)により、発生電圧200V、オゾン発生量18g/hの条件で5時間処理してオゾンによる気相酸化処理を行って、カルボキシル基量およびヒドロキシル基量の異なるカーボンブラック顔料を作製した。
【0049】
このようにして作製したカーボンブラック顔料について、使用したカーボンブラック(CB)のストークスモード径(Dst)、ストークス径分布の半値幅(ΔDst)および酸化処理後の外部表面積(STSA)、カルボキシル基量、ヒドロキシル基量を表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
〔ブラックマトリックス形成用樹脂組成物の調製〕
製造した上記のカーボンブラック顔料16gと、溶媒としてシクロヘキサノンを64g、樹脂としてメタクリル酸樹脂を20g、光重合開始剤としてイルガキュア−907(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を3gの割合で軽く混合した後、ホモジナイザーにより微分散させてブラックマトリックス形成用の樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物の粘度、表面張力および樹脂組成物中のカーボンブラック粒子凝集体(アグロメレート)の粒径を下記の方法により測定し、その結果を表2に示した。
【0052】
粘度;
回転振動式粘度計(山一電機製、VM-100A-L )を用いて、温度298Kにおける粘度を測定した。
【0053】
表面張力;
表面張力測定装置(協和界面科学社製)を用いて、温度298Kにおける表面張力を測定した。
【0054】
粒径;
ヘテロダインレーザドップラー方式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製UPA model 9340)を用いて測定した。測定は、樹脂組成物中のカーボンブラック粒子凝集体の粒度分布の累積度数分布曲線から50%累積度数の値を平均粒径、99%累積度数の値を最大粒径として求めた。なお、測定時、粘度調整の溶媒としてはシクロヘキサノンを用いた。
【0055】
【表2】
【0056】
〔ブラックマトリックスの形成〕
調製した樹脂組成物を、トリクロロエチレンで超音波洗浄した厚さ1.1mmの硼珪酸透明ガラス基板上に、スピンコーターを用いて0.06s-1の回転速度で塗布した後、温度393Kのホットプレート上で120秒間加熱処理した。次いで、線幅が20μm(ブラックマトリックスになる部分が20μm)のマスクを介して紫外線を照射して樹脂組成物を硬化した。その後、富士フィルムオーリン社製現像液FHD−5に浸漬し、流量8.33cm3 /s、吐出圧0.098MPaでシャワー洗浄して現像し、非露光部の黒色樹脂層を除去した。最後に、表面温度523Kのホットプレート上で1時間加熱してブラックマトリックスパターンを形成した。
【0057】
このようにして形成したブラックマトリックスについて、下記の方法により測定評価を行い、その結果を表3に示した。
【0058】
紫外線照射量;
露光装置(ウシオ電機社製)を用いて樹脂組成物が硬化する紫外線照射量を測定した。
【0059】
光学的濃度(OD値);
マクベス濃度計(コルモーゲン社製、RD-927)を用いて透過光学的濃度(OD値)測定し、膜厚1μm 当たりの光学的濃度を求めた。
【0060】
膜厚;
触針式膜厚計(テンコール社製 α−ステップ)により観察して、膜厚を測定した。
【0061】
体積固有抵抗;
ガラス基板をクロム蒸着基板に変更した以外は、ブラックマトリックスと同じ方法で塗膜を形成し、硬化した塗膜上に面積0.28cm2 (S)の円形電極を銀ペーストにより形成し、この電極と対向電極であるクロム蒸着面との間に一定電圧発生装置(ケンウッド社製 PA36-2A レギュレーテッド DC パワーサプライ)を用いて一定の電圧(100V)を印加し、膜に流れる電流(I)を電流計(アドバンテスト社製 R644C デジタルマルチメーター)にて測定した。次に、黒色膜の膜厚(d)cmを測定し、下記式から体積固有抵抗Rを求めて、その対数値(log10R)を算出した。
R(Ω・cm)=(V・S)/(I・d)
【0062】
膜硬度;
JIS K5400「鉛筆ひっかき試験」の方法に準拠して測定した。
【0063】
表面粗さ;
SPM(走査型プローブ顕微鏡、AFM モード SII社製 SPI-3100 )にて表面を観察し、表面の粗さを測定した。
【0064】
【表3】
【0065】
表1〜3より、アグリゲートのストークスモード径(Dst)が32〜92nmおよびストークス径分布の半値幅(ΔDst)が21〜74nmのカーボンブラックを過硫酸ナトリウム水溶液で湿式酸化処理して、外部表面積(STSA)が57〜140m2 /g、カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基量1.5〜14.9μmol/m2 、ヒドロキシル基量1.8〜3.9μmol/m2 の特性を有する実施例1〜6のカーボンブラック顔料を用いて調製した樹脂組成物は、粘度が約15mPa・s程度と低く、樹脂組成物中のカーボンブラックのアグロメレートの粒径も小さいことが分かる。
【0066】
そして、この樹脂組成物は300mJ/cm2 程度の紫外線照射量で硬化し、形成したブラックマトリックスは光学的濃度、膜厚、体積固有抵抗、膜硬度、表面粗さなど良好なレベルにあることが認められる。また、現像後に得られるブラックマトリックスパターンの非露光部にブラックマトリックス層の残存は確認されなかった。
【0067】
これに対し、カーボンブラック顔料のストークスモード径(Dst)が29nmおよびストークス径分布の半値幅(ΔDst)が19nmと小さい比較例1、ストークスモード径(Dst)が147nmおよびストークス径分布の半値幅(ΔDst)が118nmと大きい比較例2、湿式酸化処理後の外部表面積(STSA)が小さい比較例3では、調製した樹脂組成物の粘度は約40mPa・sと高く、樹脂組成物中のアグロメレートの粒径も大きいことが分かる。そして、形成したブラックマトリックスは光学的濃度および表面粗さが極めて悪いものであった。
【0068】
また,湿式酸化処理後のカーボンブラック粒子表面のヒドロキシル基量が4.5〜4.8μmol/m2 の比較例4〜7は、調製した樹脂組成物の粘度が極めて高く、アグロメレートの粒径も大きいものであり、ヒドロキシル基量が多いために2000mJ/cm2 以上の紫外線を照射しても樹脂が硬化せず、ブラックマトリックスを形成することができず、ブラックマトリックスとしての諸特性(光学濃度、膜厚、体積固有抵抗、膜硬度、表面粗さ)の測定は不能であった。
【0069】
一方、湿式酸化処理後のカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基量が0.8〜0.9μmol/m2 と少なく、ヒドロキシル基が3.7〜3.8μmol/m2 である比較例8〜11では、調製した樹脂組成物の粘度が著しく上昇してゲル化し、ブラックマトリックスを形成することができなかった。
【0070】
なお、オゾンによる気相酸化処理を施した比較例12〜15では、カーボンブラック粒子表面に生成したカルボキシル基量が極めて少ないために、形成したブラックマトリックスは光学的濃度が低く、膜硬度も小さく、表面粗さが大きく表面平滑性に劣るものであった。
【0071】
なお、表4には実施例5のカーボンブラックを用いて、酸化処理後の官能基量を窒素吸着比表面積(N2 SA)当たりの値として求めた参考例1、および酸化処理後の官能基量をCTAB当たりの値として求めた参考例2を示した。この場合、N2 SAおよびCTABの誤差によりカルボキシル基量あるいはヒドロキシル基量が過大な値や過小な値をとる。このため、正確なカーボンブラックの比表面積当たりの官能基量を定めることが困難である。
【0072】
【表4】
【0073】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明のブラックマトリックス用カーボンブラック顔料は、ディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定されるアグリゲートのストークスモード径(Dst)が30nm以上100nm以下およびストークス径分布の半値幅(ΔDst)が20nm以上80nm以下のカーボンブラックを湿式酸化処理し、湿式酸化処理後のカーボンブラックが、
(1)カーボンブラック粒子の外部表面積(STSA)が50m2 /g以上、
(2)カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基量を外部表面積(STSA)で除した値が1.0μmol/m2 以上、
(3)カーボンブラック粒子表面のヒドロキシル基量を外部表面積(STSA)で除した値が4.0μmol/m2 以下、
の特性を有することを特徴としている。また、このカーボンブラック顔料を用いて調製した樹脂組成物は低粘度であり、少ない紫外線照射量で硬化してブラックマトリックスを形成することが可能である。そして、形成したブラックマトリックスは光学的濃度、膜厚、体積固有抵抗、膜硬度、表面粗さなど良好なレベルにあり、更に、現像後に得られるブラックマトリックスパターンの非露光部にブラックマトリックス層が残存することもない。したがって、本発明によれば液晶表示装置用カラーフィルター、プラズマディスプレイなどに好適に用いられるブラックマトリックス形成用のカーボンブラック顔料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Dstの測定時におけるカーボンブラック分散液を加えてからの経過時間とカーボンブラックの遠心沈降による吸光度の変化を示した分布曲線である。
【図2】Dstの測定時に得られるストークス相当径と吸光度の関係を示す分布曲線である。
Claims (1)
- ディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定されるアグリゲートのストークスモード径(Dst)が30nm以上100nm以下およびストークス径分布の半値幅(ΔDst)が20nm以上80nm以下のカーボンブラックを湿式酸化処理したカーボンブラックであって、湿式酸化処理後のカーボンブラックが下記(1)〜(3)
(1)カーボンブラック粒子の外部表面積(STSA)が50m2 /g以上、
(2)カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基量を外部表面積(STSA)で除した値が1.0μmol/m2 以上、
(3)カーボンブラック粒子表面のヒドロキシル基量を外部表面積(STSA)で除した値が4.0μmol/m2 以下、
の特性を有してなることを特徴とするブラックマトリックス用カーボンブラック顔料。
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