JP3766632B2 - ブラックマトリックス用カーボンブラックおよび樹脂組成物 - Google Patents

ブラックマトリックス用カーボンブラックおよび樹脂組成物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示装置用カラーフィルターやプラズマディスプレイなどに用いられるブラックマトリックス用の顔料として、高度の遮光性および黒色度を有し、導電性が低い表面平滑なブラックマトリックスの形成に好適なカーボンブラック、および該カーボンブラックを用いたブラックマトリックス形成用の樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶ディスプレイは、液晶となる結晶材料を透明な電極間に挟み、電極間に電圧を印加して液晶の分子配列を変えることにより入射光の透過を制御し、反射板と偏光板を組み合わせることにより画像や文字などを表示するものであり、消費電力が少なくて済むため、携帯電話、時計、カメラ、各種電気機器などの表示装置として広く使用されている。
【0003】
この液晶ディスプレイをカラー化したカラー液晶ディスプレイは、画素ごとに赤、青、緑のカラーフィルターを付けて光の三原色をつくり、各画素の明暗を制御して色の変化を表現するものである。すなわち、カラーフィルターは透明基板上に赤、青、緑の三原色の画素をつくり、各画素を透過する光量を制御して三原色の加色による発色によってカラー表示を行うものであり、各画素間の漏光を防止し、コントラストおよび色純度の低下を防止するために各画素間の光を遮断するための遮断層(ブラックマトリックス)が形成されている。ブラックマトリックスは、また、カラーフィルターに対向する基板上に設けられた液晶の駆動用電極やTFT(薄膜トランジスタ)などのトランジスタを遮光する機能も有している。
【0004】
したがって、ブラックマトリックスには、当然、遮光性に優れていることが要求されるが、その他に、表面が平滑で、層の厚さが薄いこと、導電性が低いことなどが必要とされている。すなわち、表面平滑性が劣り、層厚が厚いと三原色の色パターンを形成する際に凹凸が生じることになり、また導電性が高いと印加電圧により半導体素子が誤作動を起こすおそれがあるためである。
【0005】
このブラックマトリックスには従来から▲1▼フォトリソグラフィ法によるCr、Ni、Alなどの金属薄膜からなるブラックマトリックス、▲2▼黒色顔料を分散した黒色有機樹脂膜からなるブラックマトリックス、が用いられてきた。このうち▲1▼の金属薄膜により形成されたブラックマトリックスは、遮光率や光学濃度が高く解像度に優れている反面、導電性が高く、また光反射率が大きいので反射光による写り込みが生じ易く、表示品位が損なわれる難点がある。
【0006】
一方、▲2▼の黒色有機樹脂膜からなるブラックマトリックスには上記のような難点が少なく、特に、カーボンブラックは黒色顔料として優れた黒色度を備えているためブラックマトリックス用の黒色顔料として好適である。そこで、カーボンブラックを分散した光重合性樹脂組成物を透明基板に塗布してブラックマトリックスを形成する方法やカーボンブラックを含有するインキを透明基板に印刷してブラックマトリックスを形成する方法などが開発されている。このブラックマトリックス用のカーボンブラックあるいはカーボンブラックを用いたブラックマトリックスのカーボンブラックの特性を規制するものとして、例えば、下記の技術などが開発、提案されている。
【0007】
樹脂中に少なくともカーボンブラックを含むインキにおいて、前記カーボンブラックが、カーボンブラック100g 当たり40〜130mlの吸油量を有し、かつ950℃で7分間加熱したときの揮発減量分が3重量%以上であって、樹脂100重量部に対して10〜50重量部の割合で配合されることを特徴とする液晶カラーフィルター遮光層用インキ(特開平8−262223号公報)、樹脂中に遮光剤を分散せしめてなる樹脂ブラックマトリックスにおいて、該遮光剤として下記(A)〜(D)のうち少なくとも1つを満たすカーボンブラックを用いることを特徴とする樹脂ブラックマトリックス。但し、(A)PH値が6.5以下、(B)表面のカルボキシル基濃度〔COOH〕が、全炭素原子あたりのモル比で、0.001<〔COOH〕、(C)表面の水酸基濃度〔OH〕が全炭素原子あたりのモル比で、0.001<〔OH〕、(D)表面のスルホン基濃度〔SO3 H〕が、全炭素原子あたりのモル比で0.001<〔SO3 H〕、(特開平9−15403 号公報)。
【0008】
また、黒色顔料としてカーボンブラックを含有するブラックマトリックスにおいて、該カーボンブラックの平均粒子径が40〜300nmであることを特徴とするカラーフィルター用ブラックマトリックス(特開平9−15419 号公報)、黒色顔料としてカーボンブラックを含有するブラックマトリックスにおいて、該カーボンブラックは、950℃における揮発分中のCO及びCO2 から算出した全酸素量が、カーボンブラックの表面積100m2当たり7mg以上であることを特徴とするカラーフィルター用ブラックマトリックス(特開平9−22653 号公報)、平均粒径50〜200nm、DBP吸油量10〜40ml/100g の範囲にあるカーボンブラックを含有することを特徴とするブラックマトリックス用カラーフィルターレジスト(特開平9−80220 号公報)、平均一次粒子径35〜150nm、凝集体径60〜300nm、ジブチルフタレート吸油量30〜90ml/100g のカーボンブラックを樹脂で被覆してなることを特徴とする黒色レジストパターン形成用カーボンブラック(特開平11−80583 号公報)、なども提案されている。
【0009】
更に、全酸素量が15mg/g以上、全酸素量/比表面積が0.10mg/m2 以上であるカーボンブラックを樹脂で被覆処理してなる絶縁性ブラックマトリックス用カーボンブラック(特開平9−95625 号公報)や表面のカルボキシル基濃度〔COOH〕、表面の水酸基濃度〔OH〕、表面のスルホン酸基濃度〔SO3 H〕の少なくとも1つが、全炭素原子あたりのモル比で、0.005より大きいカーボンブラックを遮光剤として含む樹脂からなるブラックマトリックスであって、比抵抗率が、7×104 Ω・cm以上であることを特徴とする樹脂ブラックマトリックス(特開平9−265006号公報)などが提案されている。
【0010】
一般に、ブラックマトリックスには黒色度および遮光性が高く、遮光層の膜厚が薄くても高い遮光率を有し、また遮光層の表面が平滑で、遮光層の導電性が小さいこと、などが必要とされている。
【0011】
そこで、本発明者はこれらのブラックマトリックスに要求される諸性能の向上について別異の観点から研究を行い、窒素吸着比表面積(N2SA)50m2/g以上、DBP吸収量140cm3/100g以下のカーボンブラックを湿式酸化して、X線光電子分光法により測定した全炭素原子当たりの全酸素原子の原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)の値が0.1以上に酸化処理されたカーボンブラック表面の官能基を基幹として、ビニルモノマーを反応させてカチオン重合によりビニルポリマーが化学結合されてなるブラックマトリックス用カーボンブラック顔料(特願2000−257473号)、および、酸化処理されたカーボンブラック表面の官能基をアゾ基に変換して基幹とし、該基幹にビニル基を含むモノマーがラジカルグラフト重合して生成したビニルポリマーが化学結合されてなるブラックマトリックス用カーボンブラック(特願2001−227404号)、を開発、提案した。
【0012】
これらのカーボンブラックを遮光剤として用いたブラックマトリックスは総合的に優れた性能を有しているが、ブラックマトリックスの膜強度が若干不足し、改善する必要性のあることが認められた。そこで、本発明者は酸化処理したカーボンブラック表面のカルボキシル基をカリウム塩(COOK基)に変換して基幹とし、該基幹にエポキシドと環状酸無水物とのアニオン開環交互共重合により生成したポリエステルがグラフト結合されてなるブラックマトリックス用カーボンブラック顔料(特願2001−258986号)を開発した。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
このブラックマトリックス用カーボンブラック顔料を用いることにより、形成したブラックマトリックスの膜強度を向上させることが可能となる。しかしながら、このカーボンブラック顔料を用いて作製した樹脂組成物やインキ組成物は粘度が増大する難点があることが認められた。粘度が増大すると、例えば、樹脂組成物をスロットコータやロールコータにより透明基板に塗布してスピンコートする際、均一に塗布することが難しいため形成したブラックマトリックスの膜厚が不均一化し、遮光性能が低下する問題点がある。
【0014】
本発明者は、この問題点を解消するために鋭意研究を行い、酸化処理によりカーボンブラック粒子表面に生成したカルボキシル基に、エーテル結合、および末端あるいは側鎖にアルコール系水酸基を持つ直鎖状、分枝状あるいは環状の化合物を反応させてエステル結合させると、ブラックマトリックス形成に好適な樹脂組成物やインキ組成物が得られることを確認した。
【0015】
本発明は上記の知見に基づいて完成したものであり、その目的は、ブラックマトリックス形成用の黒色顔料として、高度の遮光性および黒色度を有し、導電性が低く、平滑性、絶縁性、膜強度などに優れたブラックマトリックスの形成に好適なカーボンブラックおよび樹脂組成物を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明によるブラックマトリックス用カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA)50m2/g以上、DBP吸収量140cm3/100g以下のカーボンブラックが湿式酸化により、X線光電子分光法により測定した全酸素原子と全炭素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)の値が0.1以上に酸化処理されて生成したカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基に、エーテル結合、および末端あるいは側鎖にアルコール系水酸基を持つ直鎖状、分枝状あるいは環状の化合物がエステル化反応により結合されてなることを構成上の特徴とする。
【0017】
また、本発明によるブラックマトリックス形成用の樹脂組成物は、上記のカーボンブラックを2〜20wt%、溶媒を60〜96wt%、樹脂を2〜20wt%の量比で混合した組成からなることを構成上の特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
まず、本発明のカーボンブラックには窒素吸着比表面積(N2SA)50m2/g以上、DBP吸収量140cm3/100g以下の特性のものが適用される。窒素吸着比表面積(N2SA)が50m2/g未満であると、溶媒に分散させた際に分散液中におけるカーボンブラックの平均粒径が大きくなり、形成したブラックマトリックスの黒色度および光遮蔽力が低下し、遮光層の膜厚が厚くなるためである。但し、好ましくは300m2/g以下のものが用いられる。また、DBP吸収量が140cm3/100g以下のカーボンブラックを用いるのは、140cm3/100gを越えると、樹脂などの溶媒に混合した場合粘度が増大して遮光層の平滑性が損なわれるためである。なお、好ましくはDBP吸収量は110cm3/100g以下のものが用いられる。
【0019】
本発明のブラックマトリックス用カーボンブラックは、上記の窒素吸着比表面積(N2SA)50m2/g以上、DBP吸収量140cm3/100g以下の特性を有するカーボンブラックを対象として、湿式酸化処理によりカーボンブラック粒子表面に官能基を生成させ、生成した官能基のうちカルボキシル基に、エーテル結合、および末端あるいは側鎖にアルコール系水酸基を持つ直鎖状、分枝状あるいは環状の化合物をエステル化反応により結合させてなるものである。
【0020】
カーボンブラックの湿式酸化処理は、酸化剤として、例えばペルオキソ2硫酸塩、ペルオキソ2硼酸塩、ペルオキソ2炭酸塩、ペルオキソ2リン酸塩などのペルオキソ2酸塩あるいはペルオキソ酸が好適に用いられ、ペルオキソ2酸塩としてはアルカリ金属塩やアンモニウム塩などが好ましい。湿式酸化処理は、これらの酸化剤水溶液中にカーボンブラックを入れて攪拌、混合することにより行われる。
【0021】
酸化処理の度合いは、酸化剤水溶液の濃度、カーボンブラックの添加量、反応温度、反応時間などを適宜に設定することにより制御し、具体的にはX線光電子分光法により測定した全酸素原子と全炭素原子の原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)の値が0.1以上となるように湿式酸化処理する。
【0022】
すなわち、XPSやESCAなどのX線光電子分光法により測定される全酸素原子と全炭素原子の原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)の値は、カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基の生成量に関連し、この値が0.1未満の場合にはカルボキシル基の生成量が少ないために、エーテル結合、および末端あるいは側鎖にアルコール系水酸基を持つ直鎖状、分枝状あるいは環状の化合物とのエステル化反応が均一に進行せず、ブラックマトリックス形成用の樹脂組成物を調製する際に溶媒への分散性が低下して、ブラックマトリックスの遮光性能の低下を招くことになる。なお、オゾンなどの気相酸化ではこの値を0.1以上に効率よく酸化処理することが難しいため、湿式酸化処理が適用される。
【0023】
本発明のブラックマトリックス用カーボンブラックは、このようにして湿式酸化処理によりカーボンブラック粒子表面に生成したカルボキシル基に、エーテル結合、および末端あるいは側鎖にアルコール系水酸基を持つ直鎖状、分枝状あるいは環状の化合物がエステル化反応により結合されたものである。
【0024】
エステル化反応は、上記の湿式酸化処理を施したカーボンブラックを容器に入れ、その中にエーテル結合、および末端あるいは側鎖にアルコール系水酸基を持つ直鎖状、分枝状あるいは環状の化合物および縮合剤を加えて所定温度に所定時間、攪拌混合して反応させることにより、下記 (1)〜(5) 式に示す反応式にしたがってエステル化反応が進む。次いで、未反応溶液をエバポレータで回収したのち真空乾燥して本発明のブラックマトリックス用カーボンブラックが得られる。なお、 (1)〜(5) 式において、R1 は水素、メチル基、エチル基、芳香族炭化水素など、R2 は炭素数1〜4の2価の炭化水素基(例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基など)を示し、nは1〜5である。
【0025】
【化1】
Figure 0003766632
【0026】
【化2】
Figure 0003766632
【0027】
【化3】
Figure 0003766632
【0028】
【化4】
Figure 0003766632
【0029】
【化5】
Figure 0003766632
【0030】
エーテル結合、および末端あるいは側鎖にアルコール系水酸基を持つ直鎖状化合物としては、例えば、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシメトキシ)エタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-(イソペンチルオキシ)エタノール、2-フェノキシエタノール、2-(ベンジルオキシ)エタノール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが、また、分枝状化合物としては、1-メトキシ-2- プロパノール、1-エトキシ-2- プロパノール、環状化合物としては、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、などが例示される。
【0031】
また、縮合剤としては、例えば塩化水素、濃硫酸、フッ化硼素などの無機酸、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド、1-イソプロピル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド過塩素酸塩、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N-(3- ジメチルアミノプロピル)-N-エチルカルボジイミド塩酸塩、メト-P- トルエンスルホン酸-1- シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドなどのカルボジイミド類、塩化チオニル/N-メチル-2 -ピロピドン、塩化チオニル/N,N-ジメチルホルムアミド、塩化チオニル/ピリジンなどがある。また、縮合剤を用いずにDean-Stark水分離器などを用いる共沸蒸留法やソックスレー抽出器に無水硫酸マグネシウムやモレキュラーシーブ5Aなどの乾燥剤を入れて、溶媒を乾留させて縮合を行うなどの手法を用いてもよい。
【0032】
本発明のブラックマトリックス用の樹脂組成物は、このカーボンブラックを2〜20wt%、溶媒を60〜96wt%、樹脂を2〜20wt%の量比で混合、分散した組成からなる。
【0033】
溶媒としては、例えばメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、ベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラハイドロフラン、N-メチル-2- ピロリドン、 N,N′- ジメチルホルムアミド、 N,N′- ジメチルアセトアミド、 N,N′- ジメチルスルホオキシドなど樹脂の溶解性やカーボンブラックの分散性に支障を来さない限り、種々の溶媒を使用することができる。
【0034】
また樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、グリプタル樹脂、エポキシ樹脂、アルキルベンゼン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、メタクリル酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエステル樹脂、など耐熱性、流動性、カーボンブラックの分散性に支障を来さない限り、各種の樹脂が用いられる。
【0035】
本発明のブラックマトリックス用樹脂組成物においてカーボンブラックを2〜20wt%、溶媒を60〜96wt%、樹脂を2〜20wt%の量比に設定するのは、カーボンブラックが2wt%未満であると形成したブラックマトリックスの遮光性が低くなり、一方20wt%を越えるとブラックマトリックスの膜厚が厚くなるためである。また、溶媒が60wt%未満であると流動性が著しく低下するために均一な膜厚のブラックマトリックスの形成が困難となり、96wt%を越えると遮光性の低下が著しくなるためである。また、樹脂が2wt%未満であるとブラックマトリックスの膜強度が低下し、20wt%を越えると樹脂組成物の粘度が増大して膜厚の制御が困難となるためである。
【0036】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。
【0037】
〔カーボンブラック試料の作製〕
実施例1〜3、比較例4〜6
窒素吸着比表面積(N2SA)およびDBP吸収量が異なるカーボンブラックを用いて、カーボンブラック100g を濃度1.0mol/dm3 のペルオキソ2硫酸ナトリウム水溶液3dm3 に添加し、回転数0.12 s-1で攪拌しながら、60℃の温度で10時間、湿式酸化処理した。その後、限外濾過膜(旭化成社製、AHP-1010、分画分子量 50000)で酸化反応液中に残存する過剰の塩を精製分離し、更に濃縮精製した。次いで、この精製液を110℃で16時間真空乾燥した後、ミキサーで粉砕して酸化処理したカーボンブラック試料85g を得た。
【0038】
セパラブルフラスコ(容量 2000cm3)に、上記の酸化カーボンブラック試料を20g 、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを400cm3 入れ、超音波洗浄器を用いて窒素雰囲気中300rpm の回転数で60分間攪拌混合した。次いで、この分散液中に、N,N ′−ジシクロヘキシルカルボジイミド2.9g をジプロピレングリコールモノメチルエーテル40cm3 に溶解させた液を添加し、60℃の温度で12時間反応させた。
【0039】
反応後、エバポレーターを用いて未反応のジプロピレングリコールモノメチルエーテルを回収したのち、真空乾燥機に入れて110℃で16時間乾燥してジプロピレングリコールモノメチルエーテルを完全に除去した。このようにして、カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基にジプロピレングリコールモノメチルエーテルがエステル化反応によりエステル結合したブラックマトリックス用カーボンブラック試料を作製した。
【0040】
実施例4
実施例2のジプロピレングリコールモノメチルエーテルに代えて、2-メトキシエタノールを使用した他は、全て実施例2と同じ方法によりカーボンブラック試料を作製した。
【0041】
比較例1〜3
実施例1〜3に使用したカーボンブラックと同じカーボンブラックを用い、実施例1〜3と同じ酸化処理を施して、カーボンブラック試料とした。
【0042】
比較例7〜9
実施例1〜3に使用したカーボンブラックと同じカーボンブラックを用い、カーボンブラック150g をオゾン処理器中に入れて、オゾン発生機(日本オゾン社 (株) 製 IOT-4A6)により、発生電圧200V、オゾン発生量5mg/sの条件で5時間保持してオゾンによる気相酸化処理した他は、実施例1〜3と同じ方法でカーボンブラック試料を作製した。
【0043】
比較例10
セパラブルフラスコ(容量 2000cm3)に、実施例2と同じカーボンブラックを実施例2と同一の方法で酸化処理したカーボンブラック試料20g 、ヘキサメチルリン酸トリアミド400cm3 、クレゾール20g を入れ、超音波洗浄器を用いて窒素雰囲気中300rpm の回転数で60分間攪拌混合した。次いで、この分散液中に、N,N ′−ジシクロヘキシルカルボジイミド2.9g をヘキサメチルリン酸トリアミド40cm3 に溶解させた液を添加して、実施例2と同じ方法により、クレゾールをエステル結合させたブラックマトリックス用カーボンブラック試料を作製した。
【0044】
このようにして作製したブラックマトリックス用カーボンブラック試料について、エステル化反応前の酸化処理した段階のカーボンブラック試料について、S-Probe ESCA 2803 型(Surface Science Instruments 社製)を用いて酸素結合エネルギーの強度および炭素結合エネルギーの強度を測定し、全酸素原子と全炭素原子の原子比を求めた。測定は有姿状態の試料表面についてワイドスキャン測定(定性分析)を行い、検出された元素の高分解測定(状態分析)を行った。なお結合エネルギーは、C−C、C−Hを284.6 eVして基準化した。得られた結果を、表1に示した。
【0045】
【表1】
Figure 0003766632
【0046】
〔樹脂組成物の調製〕
カーボンブラック試料16g 、シクロヘキサノン64g 、メタクリル酸樹脂20g を軽く混合した後、ホモジナイザーによりカーボンブラックを微分散させてブラックマトリックス形成用の樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物の粘度、表面張力および樹脂組成物中のカーボンブラック粒子凝集体の粒径を下記の方法により測定し、その結果を表2に示した。
【0047】
粘度;
回転振動式粘度計(山一電機株式会社製、VM-100A-L )を用いて、温度25℃における粘度を測定した。
【0048】
表面張力;
協和界面科学社製表面張力測定装置を用いて、温度25℃における表面張力を測定した。
【0049】
粒径;
ヘテロダインレーザドップラー方式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製UPA model 9340)を用いて測定した。測定は、樹脂組成物中のカーボンブラック粒子凝集体の粒度分布の累積度数分布曲線から50%累積度数の値を平均粒径、99%累積度数の値を最大粒径として求めた。なお、測定時、粘度調整の溶媒としてはシクロヘキサノンを用いた。
【0050】
【表2】
Figure 0003766632
【0051】
〔ブラックマトリックスの形成〕
調製した樹脂組成物を、トリクロロエチレンで洗浄した透明ガラス板上にスピンコーターを用いて回転数0.06 s-1で塗布し、常温で30分間保持したのち120〜250℃のホットプレート上で120秒間処理した。次いで、500W超高圧水銀灯を用い、ブラックマトリックスパターンの描かれたフォトマスクを通して100mJ/cm2のエネルギーを塗膜上から照射した。その後、炭酸ナトリウム0.05%、エマルゲンA−60(花王製)0.4%からなる現像液(25℃)を用いて、流量8.33cm3/s 、吐出圧0.098MPaでシャワー洗浄を60秒間行った。水洗後、表面温度250℃のホットプレート上でポストベークしてブラックマトリックスを形成した。
【0052】
このようにして形成したブラックマトリックスについて、下記の方法により測定評価を行い、その結果を表3に示した。
【0053】
光学的濃度(OD値);
マクベス濃度計(コルモーゲン社製、RD-927)を用いて測定し、膜厚1μm 当たりの光学濃度を求めた。
【0054】
膜厚;
膜断面をSEM(電子顕微鏡、日立製作所製 S-2100B)により観察して、膜厚を測定した。
【0055】
表面粗さ;
SPM(走査型プローブ顕微鏡、AFM モード SII社製 SPI-3100 )にて表面を観察し、表面の粗さを測定した。
【0056】
体積固有抵抗;
ガラス板をクロム蒸着基板に変更した以外は、ブラックマトリックスと同じ方法で塗膜を形成し、硬化した塗膜上に面積0.28cm2(S)の円形電極を銀ペーストにより形成し、この電極と対向電極であるクロム蒸着面との間に一定電圧発生装置(ケンウッド社製 PA36-2A レギュレーテッド DC パワーサプライ)を用いて一定の電圧(100V)を印加し、膜に流れる電流(I) を電流計(アドバンテスト社製 R644C デジタルマルチメーター)にて測定した。次に、黒色膜の膜厚(d) cmを測定し、下記式から体積固有抵抗Rを求めて、その対数値(log10R)を算出した。
R(Ω・cm)=(V・S)/(I・d)
【0057】
膜硬度;
JIS K5400「鉛筆ひっかき試験」の方法に準拠して測定した。
【0058】
【表3】
Figure 0003766632
【0059】
表1〜3より、窒素吸着比表面積(N2SA)が50m2/g以上、DBP吸収量が140cm3/100g以下のカーボンブラックを、ペルオキソ2硫酸ナトリウム水溶液で湿式酸化して全酸素原子/全炭素原子の原子比を0.1以上に酸化処理し、生成したカルボキシル基と、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルをエステル化反応させてエステル結合させた実施例1〜3、および、2-メトキシエタノールをエステル化反応させてエステル結合させた実施例4のカーボンブラックから調製した樹脂組成物の粘度が低く、樹脂組成物中のカーボンブラック凝集粒子径も低位にあり、これらの樹脂組成物で形成したブラックマトリックスは光学的濃度、膜厚、表面粗さ、体積固有抵抗、膜硬度など、いずれも良好なレベルにあることが認められる。
【0060】
これに対して、比較例1〜3は実施例1〜3と同じカーボンブラックを用い、同じ酸化処理を施したものであるが、実施例1〜3のようにジプロピレングリコールモノメチルエーテルとのエステル化反応をさせていないので、調製した樹脂組成物の粘度、表面張力も高く、カーボンブラック粒子凝集体も大きいことが認められる。そして、形成したブラックマトリックスも実施例1〜3に対比して、光学的濃度、膜厚、表面粗さ、体積固有抵抗、膜硬度などいずれも劣ることが判る。
【0061】
また、窒素吸着比表面積(N2SA)およびDBP吸収量のカーボンブラック特性が本発明で特定した要件を外れる比較例4〜6では、実施例1〜4に比べて形成したブラックマトリックスの光学的濃度が低く、表面粗さも若干大きくなることが認められる。
【0062】
オゾンによる気相酸化を施した比較例7〜9は酸化処理が不充分なため、実施例1〜4に比べて全酸素原子/全炭素原子の原子比が著しく低く、調製した樹脂組成物は粘度が高く、表面張力、カーボンブラック粒子凝集体も大きいものである。その結果、形成したブラックマトリックスは光学的濃度、膜厚、表面粗さ、体積固有抵抗、膜硬度のいずれも劣ることが判る。
【0063】
比較例10は、実施例2と同じカーボンブラックを実施例2と同一の方法で酸化処理したカーボンブラック試料にクレゾールをエステル化反応させた場合であるが、実施例2に比較して調製した樹脂組成物は粘度が高く、また表面張力、カーボンブラック粒子凝集体も大きく、形成したブラックマトリックスは光学的濃度、膜厚、表面粗さ、体積固有抵抗、膜硬度のいずれも劣るものである。
【0064】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明のブラックマトリックス用カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA)およびDBP吸収量が特定範囲にあるカーボンブラックを湿式酸化して全酸素原子と全炭素原子との原子比を0.1以上に酸化し、生成したカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基に、エーテル結合、および末端あるいは側鎖にアルコール系水酸基を持つ直鎖状、分枝状あるいは環状の化合物をエステル化反応によりエステル結合させた構造を特徴とし、このカーボンブラックを分散させた本発明のブラックマトリックス用樹脂組成物は粘度が低く、この樹脂組成物によれば遮光性、表面平滑性、膜強度などに優れ、体積固有抵抗が高く絶縁性に優れ、膜厚が薄くても高い遮光率を示すブラックマトリックスの形成が可能となる。

Claims (2)

  1. 窒素吸着比表面積(N2SA)50m2/g以上、DBP吸収量140cm3/100g以下のカーボンブラックが湿式酸化により、X線光電子分光法により測定した全酸素原子と全炭素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)の値が0.1以上に酸化処理されて生成したカーボンブラック粒子表面のカルボキシル基に、エーテル結合、および末端あるいは側鎖にアルコール系水酸基を持つ直鎖状、分枝状あるいは環状の化合物がエステル化反応により結合されてなることを特徴とするブラックマトリックス用カーボンブラック。
  2. 請求項1のカーボンブラックを2〜20wt%、溶媒を60〜96wt%、樹脂を2〜20wt%の量比で混合した組成からなるブラックマトリックス用樹脂組成物。
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