JP4456073B6 - 植物栽培基体およびその製造方法 - Google Patents

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本発明は、通常の土壌の代替物として植物の根を包むことで、植物を栽培することに使用可能な人工の植物栽培基体とその製造方法に関する。
このような植物栽培基体の製造方法としては、従来、バーク堆肥やモミガラ堆肥などの保水性充填材に対して、少量のウレタンプレポリマーを水または溶剤に分散させたものを混合し反応、硬化させて製造する方法や、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーを含む懸濁液を反応、硬化させて製造する方法など、各種の方法が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
また、保水性充填材とウレタンプレポリマーとを予め混合しておいて、その混合物に少量の水を加えて反応、硬化させて製造する方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
特公昭56−18165号公報 特開平2−20221号公報 特開2002−165520号公報
しかし、上記特許文献1〜3に記載の方法を含めて、従来から知られている製造方法では、界面活性剤など少量の各種添加剤を別とすると、保水性充填材に混合する主剤が、主としてウレタンプレポリマーに限られており、植物栽培用として必ずしも満足できる基体を製造することができず、この点に改良の余地があった。
すなわち、植物栽培基体には、取り扱いやすさの観点から保形性が要求され、また、植物の根腐されを防止して良好な育成を達成するために適度な吸水性と、さらに適度に空気の保持をするために適度な柔軟性(復元性)も必要とされる。さらに、植物の根が十分に伸長するのに適した硬さも必要である。従来の製造方法では、これら全ての要求を満たす植物栽培基体を製造することは困難であった。
例えば、上記特許文献1〜3に記載の方法では、保水性充填材に対するウレタンプレポリマーの量に上限があるため、得られる栽培基体の保水性充填材の割合が、90〜99重量%(特許文献1)、70〜99重量%(特許文献2)、50〜85重量%(特許文献3)等と、多くなっている。
上記特許文献の一つには、ウレタンプレポリマーの含有量に上限値が設定されている理由として、植物栽培基体自体が硬くなりすぎることが挙げてあり、それによって「植物の根の伸長抵抗が大きくなり生育に悪影響をおよぼす」と記載されている。他方、逆にウレタンプレポリマーが少なすぎると、植物栽培基体に必要な保形性を維持することができず、手で持ったときにボロボロと充填材が落ちたり、崩れてしまうという問題があり、この点にも改良の余地が残されていた。
本発明は、このような従来の問題点に着目したもので、その目的は、植物の栽培に必要とされる吸水性、保形性、柔軟性(復元性)、硬さを兼ね備えた植物栽培基体とその製造方法を提供することにある。
本発明の第1の特徴構成は、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーと、ポリオールを少なくとも反応させて成る植物栽培基体にある。
本発明の第2の特徴構成は、乾燥状態の保水性充填材の割合が15〜60重量%であるところにある。
本発明の第3の特徴構成は、前記ポリオールが、エステル基を含有するポリオールであるところにある。
本発明の第4の特徴構成は、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーを含む懸濁液を反応、硬化させて植物栽培基体を製造する植物栽培基体の製造方法であって、前記懸濁液がポリオールを含み、乾燥状態の保水性充填材の割合が15〜60重量%であるように調製して、そのポリオールを含む懸濁液を反応、硬化させて製造するところにある。
本発明の第5の特徴構成は、乾燥状態の保水性充填材100重量部に対して、ポリオール量が0.1〜300重量部の範囲であるところにある。
本発明の第6の特徴構成は、前記保水性充填材と水とを攪拌混合して第1懸濁液を作製する第1工程と、その第1工程により作製した第1懸濁液に前記ウレタンプレポリマーとポリオールを添加し、攪拌混合して第2懸濁液を作製する第2工程とからなり、前記第2工程により作製した第2懸濁液を反応、硬化させて製造するところにある。
本発明の第7の特徴構成は、前記懸濁液を基体成形用型内で硬化させて製造するところにある。
本発明の第8の特徴構成は、前記植物栽培基体の上面側が、前記基体成形用型の底面側に位置するように硬化させて製造するところにある。
本発明の第9の特徴構成は、前記保水性充填材が、ピートモス、ココピート、オガクズ、ヤシガラ、モミガラ、モミガラ堆肥、バーク堆肥、パーライト、バーミキュライト、親水性発泡樹脂粉砕物の中から選ばれた少なくともひとつの充填材を含んでいるところにある。
本発明の第10の特徴構成は、上述した第4から第9のいずれかの特徴構成として記された製造方法により製造された植物栽培基体であって、吸水率が25〜75%、硬さが20〜40N、復元力が4〜10Nであるところにある。
本発明の第1の特徴構成によれば、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーとポリオールを少なくとも反応させることにより、植物の栽培に好適な吸水性、保形性、柔軟性(復元性)などを同時に兼ね備えた新規な植物栽培基体を得ることができる。
本発明の第2の特徴構成によれば、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーと、ポリオールを少なくとも反応させて成る植物栽培基体を得るにあたり、乾燥状態の保水性充填材の割合が15〜60重量%となるように調整することにより、植物の栽培に好適な吸水性、保形性、柔軟性(復元性)、硬さなどを同時に兼ね備えた新規な植物栽培基体を得ることが可能になった。
本発明の第3の特徴構成によれば、添加するポリオールとして、エステル基を含有するポリオールを使用することによって、植物の栽培に好適な吸水性、保形性、柔軟性(復元性)、硬さを兼ね備えた、新規な植物栽培基体をより効果的に得ることができる。
本発明の第4の特徴構成によれば、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーを含む懸濁液を反応、硬化させて植物栽培基体を製造する植物栽培基体の製造方法で、反応、硬化させる懸濁液がポリオールを含み、なおかつ乾燥状態の保水性充填材の割合が15〜60重量%となるように調製することにより、植物の栽培に必要な吸水性、保形性、柔軟性(復元性)、硬さを兼ね備えた植物栽培基体を製造することが可能となったのである。
すなわち、後述する実験結果からも明らかなように、本発明者らが種々の実験を行った結果、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーを含む懸濁液を反応、硬化させるに際し、その懸濁液にポリオールが含まれていると、製造される植物栽培基体の硬さを軽減し、保形性を高め、しかも、吸水性を飛躍的に向上させるという新知見を得たのである。
そして、その新知見に基づいて種々の実験をさらに重ねたところ、例えば、植物栽培基体に必要な保形性を維持するために、保水性充填材に対するウレタンプレポリマーの量を従来の方法に比べて極端に多くしても、適当量のポリオールを入れておけば、硬くなり過ぎて根の伸長が阻害されることもなく、また、吸水性も復元性も確保することができ、その結果、吸水性、保形性、柔軟性(復元性)、および、植物の根の伸長に適した硬さを兼ね備えた植物栽培基体を得ることができるに至ったのである。
本発明の第5の特徴構成によれば、乾燥状態の保水性充填材100重量部に対して、ポリオール量が0.1〜300重量部の範囲にあるので、上述した吸水性、保形性、および、柔軟性(復元性)、硬さの全てにおいてより一層優れた植物栽培基体を確実に製造することができる。なお、これは、製造方法として、保水性充填材を乾燥させて用いることを意味しているものではなく、強制的に乾燥させた保水性充填材100重量部を基準とした、ポリオールの添加量を述べているのに過ぎない。
本発明の第6の特徴構成によれば、まず、第1工程において、保水性充填材と水とを攪拌混合して第1懸濁液を作製するので、その第1懸濁液においては、保水性充填材が十分な量の水を保水することになる。
そして、次の第2工程において、第1懸濁液にウレタンプレポリマーとポリオールを添加し、攪拌混合して第2懸濁液を作製し、その後、その第2懸濁液を反応、硬化させるので、保水性充填材の周りにある水が硬化に寄与し、その結果、植物栽培基体の組織が均一化されて、植物の栽培に必要な吸水性や保形性、さらには、柔軟性(復元性)、硬さを全体にわたってほぼ均一に備えた植物栽培基体を製造することができる。
本発明の第7の特徴構成によれば、懸濁液を基体成形用型内で硬化させて製造するので、所望する形状の植物栽培基体を容易に製造することができる。
本発明の第8の特徴構成によれば、植物栽培基体の上面側が、基体成形用型の底面側に位置するように硬化させて製造するので、植物栽培基体の上面が美麗に仕上がり、例えば、観賞用植物を植栽するための植栽容器に植物栽培基体を収納して使用するような場合、人の目にとまる上面が美麗となって商品価値が向上し、さらに、植物栽培基体の上面に移植用の切り目を入れる場合には、切れ目を容易に入れることができる。
本発明の第9の特徴構成によれば、保水性充填材が、ピートモス、ココピート、オガクズ、ヤシガラ、モミガラ、モミガラ堆肥、バーク堆肥、パーライト、バーミキュライト、親水性発泡樹脂粉砕物の中から選ばれた少なくともひとつの充填材を含んでいるので、植物の栽培に必要な吸水性を確保することができ、また、栽培対象となる植物の種類などに応じて適宜選択したり、或いは、上記のグループに含まれる充填材から複数種類を選択し
て適宜の割合で混合して用いることによって、栽培対象となる植物に必要な吸水性を維持しながら、且つ、製造費のコストダウンをも図ることができる。
本発明の第10の特徴構成によれば、上述した第4から第9のいずれかの特徴構成として記された製造方法により製造された植物栽培基体であって、吸水率が25〜75%、硬さが20〜40N、復元力が4〜10Nであるから、上述した吸水性、保形性および、柔軟性(復元性)、硬さの全てにおいて優れた植物栽培基体となる。
本発明による植物栽培基体とその植物栽培基体の製造方法について、その実施形態を図面および実験結果を参照しながら説明する。
この植物栽培基体は、例えば、植栽容器を水に浮揚させながら植栽する植栽装置に使用することができ、その浮揚式植栽装置は、図1および図2に示すように、植物栽培基体1を収容する植栽容器2、植栽用の水Wを貯留する貯水容器3、ならびに、植栽容器2の浮揚姿勢を維持する植栽具4などを備え、植物栽培基体1に植えた植物Pを育成するように構成されている。
植栽容器2は、貯留された水Wの水面付近に浮揚するように、水よりも小さな比重を有する例えば中空樹脂などにより、有底の円筒状を呈するように形成されており、その底部の中心付近には浸水孔2aがほぼ垂直方向に貫通形成されている。
植栽具4は、植物Pが成長して重心が上方へ移動しても、図1、2に示された植栽容器2の姿勢を維持するためのもの、言い換えれば、植物Pの転倒を防止するためのものである。植栽具4の上端縁からは、合計4つの姿勢維持用の係止部4aが、外向き上方へ向かって斜めに突設されている。植栽具4を貯水容器3の中に収納するように載置すると、これらの係止部4aが貯水容器3の開口縁に係止され、これによって、植栽具4はその上縁部がほぼ水平になるように位置保持され、同時に、植栽具4の底面と貯水容器3の底面との間に水Wを受け入れる空間が形成される。そして、植栽具4の周部と底部には、水Wの通流を許容する通水孔4bが設けられている。また、係止部4aのひとつには、植物Pの品種名などを表示する表示具6が、チェン5を介して取り付けられている。
この浮揚式の植栽装置によれば、貯留水Wに植栽容器2を浮揚させることにより、貯留水Wが浸水孔2aを介して常に植物栽培基体1に供給され、植物栽培基体1に植えた植物Pの成長を促進する。そして、植物Pが成長して質量が増すと、それに伴って貯留水Wに対する植栽容器2の沈下量が大きくなるので、より多量の水Wを植物栽培基体1に供給可能となり、結果として、常にその時の植物Pの成長速度に見合った量の水Wを供給して植物Pを育成するように構成されている。
そして、植栽具4が水Wに浮揚する植栽容器2の姿勢を正しく維持しているので、植物Pが成長して重心が上方または側方へ移動しても、植栽容器2の浮揚姿勢は安定よく維持されて、植物Pの転倒が防止されるのである。
本発明による植物栽培基体1は、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーを含む懸濁液を硬化させることによって作製されるが、その特徴は、前記懸濁液がポリオールを含んでいることにある。
本発明の植物栽培基体は、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーと、ポリオールを少なくとも反応させてなり、乾燥状態の保水性充填材の割合が15〜60重量%である植物栽培基体である。
尚、上記の保水性充填材の割合は、添加する水の重量を分母に含まない次式(式中の添加量はいずれも重量部)によって算出された値である。また、本実施例中では、自然に含水した状態の保水性充填材を基準にした含水状態の保水性充填材の割合と、強制的に脱水した後の保水性充填材を基準にした乾燥状態の保水性充填材の割合との両方を算出している。実際の植物栽培基体1の製造時には、業者より納入された自然に含水した状態の保水性充填材が用いられる。
(数1) 保水性充填材の割合(%)={保水性充填材添加量/(保水性充填材添加量+ウレタンプレポリマー添加量+ポリオール添加量)}×100
本発明において、ポリオールを添加することにより、得られる植物栽培基体の硬さを軽減し、保形性も高め、しかも、吸水率を飛躍的に向上させることができる。
尚、植物栽培基体の保水性充填材の割合を、乾燥状態の保水性充填材を基に算出して、15〜60重量%にすることにより、本願がその目的とする、適度な柔軟性(復元性)、硬さ、保形性、吸水性を兼ね備えた植物栽培基体とすることができる。
すなわち、乾燥状態の保水性充填材の割合が15重量%に満たない場合は、相対的に保水性充填材が少な過ぎて、吸水性を上げるために多量のポリオールが必要となったり、ポリウレタンフォーム特有の弾力性(復元力)の強いものとなってしまうからである。また、60重量%を越えると、保形性が悪くなり本願の目的を果たし難くなる。
保水性充填材の種類としては、水分を植物Pの根が吸収しやすい状態で保有できるものであれば使用可能であり、例えば、ピートモス、ココピート、オガクズ、ヤシガラ、モミガラ、モミガラ堆肥、バーク堆肥、水苔、コーヒーの搾りカスなどのような植物性繊維質からなるもの、ロックウール、パーライト、バーミキュライトのような無機質のもの、及び、親水性発泡樹脂粉砕物を含むグループの中から選ばれたひとつまたは複数の充填材を使用することができる。
これら充填材のなかでも、特に、優れた保水性を備え、嵩密度が比較的小さく、分散性が良いために発泡させた際に均一な組織を得やすく、しかも、入手容易な点から考慮して、ピートモス、ココピート、オガクズ、ヤシガラ、モミガラ、モミガラ堆肥、バーク堆肥、パーライト、バーミキュライト、親水性発泡樹脂粉砕物の中から選ばれたひとつまたは複数の充填材を使用するのが好ましい。
ウレタンプレポリマーは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーであり、具体的には、イソシアネート化合物とポリオールを反応させて得られる化合物である。
イソシアネート化合物としては、粘度による取り扱いの観点から、トルエンジイソシアネートが好ましい。
ポリオールとしては、ウレタンプレポリマーの水との反応性を高めるために、比較的エチレンオキサイドの含有量の多いものが好ましい。また、分子量や官能基数、あるいはエチレンオキサイドの含有量の異なる2種以上のポリオールを選択し混合して使用することもできる。ただし、植物栽培基体の吸水性が低下するおそれがあるため、疎水性基を有するポリオールは好ましくない。
本発明による植物栽培基体を製造する方法には、例えば、下記の第1〜第3の方法がある。
(第1の方法)
ウレタンプレポリマーを水に分散させた後、保水性充填材とポリオールを混合して硬化させる方法。
(第2の方法)
保水性充填材とウレタンプレポリマーとを攪拌混合した後、水とポリオールを混合して硬化させる方法。
(第3の方法)
保水性充填材と水とを混合攪拌して懸濁液を作製し、その懸濁液にウレタンプレポリマーとポリオールを混合して硬化させる方法。
第1の方法は、水の量あるいはウレタンプレポリマーの活性度合いの如何によっては水糊状となり、保水性充填材と均一に混合するのが難しくなるため、使用するウレタンプレポリマーが限定される傾向がある。
第2の方法は、保水性充填材とウレタンプレポリマーとを混合するのに特殊な攪拌機が必要となり、また、保水性充填材の周りが全て樹脂で覆われて、植物の根が伸長できないほど硬くなる可能性がある。
第3の方法は、第1や第2の方法における不都合がなく、その点から最も好ましい方法と言える。
すなわち、第3の方法の特徴は、保水性充填材と水とを攪拌混合して第1懸濁液を作製する第1工程と、その第1工程により作製した第1懸濁液にウレタンプレポリマーとポリオールを添加し、攪拌混合して第2懸濁液を作製する第2工程とからなり、その第2工程により作製した第2懸濁液を硬化させて製造する点にある。
この第3の方法によれば、第1工程において、保水性充填材が水で濡らされて十分な量の水を保水することになる。そして、次の第2工程では、第1工程で得られた第1懸濁液にウレタンプレポリマーとポリオールを添加し、攪拌混合するので、保水性充填材の周りにある水とウレタンプレポリマーとが反応して、植物栽培基体の組織が均一化されるのみならず、ポリオールの添加によって、植物の栽培に必要な吸水性や保形性、さらには、柔軟性(復元性)、硬さを備えた植物栽培基体を製造することができる。
なお、ポリオールの添加量が多い場合は、第1懸濁液に先ずポリオールを添加し、攪拌混合して第2懸濁液として、その後、ウレタンプレポリマーを添加し、攪拌混合しても良い。
上記の第1〜第3のいずれの方法を採用した場合でも、最終的には、スラブ方式またはモールド方式によって硬化させて植物栽培基体を製造することになる。
スラブ方式は、幅広で厚板状に長く連続した大きなブロック(スラブ)状に、反応、硬化させる方法で、硬化して得られたこのブロックを所定の形状に裁断して植物栽培基体を作製することになる。
モールド方式は、下型のみの基体成形用型、または、下型と上型からなる基体成形用型を使用してその型内で反応、硬化させる方法である。モールド方式は、硬化後に裁断する必要がほとんどなく、また、裁断時にその裁断面から保水性充填材が崩れ落ちるおそれもないため、スラブ方式に比べて有利である。
さらに、モールド方式を採用する場合、植物栽培基体の上面側が下型の底面側に位置するように硬化させるのが好ましい。
すなわち、下型のみの基体成形用型を使用する場合には、硬化によって得られる植物栽培基体の上方にスキンと呼ばれる膜状の硬化層ができ、また、下型と上型からなる基体成形用型を使用する場合には、上型に設けたガス抜き孔から反応ガスと共に原料の一部が流出して硬化する。従って、いずれのタイプの型を用いた場合も、上面側は美麗で円滑な面に仕上がり難い。
それに対して、底面側は、いずれのタイプの型(モールド)を用いた場合でも、美麗で円滑な面に仕上がるので、植物栽培基体の上面側が下型の底面側に位置するようにして硬化させることにより、植物栽培基体の上面を美麗に仕上げて商品価値の向上を図ることができる。また、植物栽培基体の上面側が下型の底面側に位置するように硬化させると、出来上がった植物栽培基体の上面に植物移植用の切れ目を入れる場合にも、植物栽培基体の上面にスキンが形成されていないので、切れ目を容易かつ良好に入れることができる。
つぎに、保水性充填材に対するウレタンプレポリマーやポリオールの混合比率について言及する。
各種の実験を行った結果、ウレタンプレポリマーの添加量としては、乾燥状態の保水性充填材の割合が15〜60重量%となる範囲で、乾燥状態の保水性充填材100重量部に対して、50〜300重量部程度に添加することが好ましいことが判った。特に、添加後30分以内に反応、硬化が完了するような反応性を有するウレタンプレポリマーを選択し、これを乾燥状態の保水性充填材100重量部に対して120〜200重量部程度の添加量で用いることが好ましいことが判明した。
尚、ウレタンプレポリマーが50重量部未満であると、植物栽培基体が、ボロボロと崩れ易くて保形性が不良となる。次に、ウレタンプレポリマーが300重量部を越えると、相対的に保水性充填材の割合が減ることにより、得られる栽培基体の吸水性が不良となる。また、ウレタンプレポリマーが300重量部を越えると、樹脂強度が強くなったり、弾性の高い、高反発弾性のウレタンフォームのようになってしまい、その弾性ゆえに植物の根が伸びにくく良好な生育結果を得られなくなる。
次に、ポリオールの添加量に関しては、乾燥状態の保水性充填材100重量部に対して、0.1〜300重量部の範囲が好ましい。この範囲内であれば、植物栽培基体の吸水率を自由にコントロールすることができる。尚、ポリオールの添加量が0.1重量部未満であると、吸水率の上昇は期待できず、300重量部を越えると、仮にそれ以上添加しても吸水率はほとんど変化しないことが判明した。
また、水の添加量は、特に制限されないが、乾燥状態の保水性充填材100重量部に対して、80〜2000重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは、300〜1500重量部である。
ここで、乾燥状態の保水性充填材100重量部を基準量として、ウレタンプレポリマー、ポリオール、水の添加量について言及したが、製造方法として保水性充填材を乾燥させて用いることを意味するものではないことは前述の通りである。
また、本発明の製造方法を利用して、保水性充填材以外の充填剤、例えば、肥料、抗菌剤、顔料、整泡剤、界面活性剤など、ウレタンフォーム製造に使用される従来公知の添加物を用いることもできる。
次に、このような本発明による製造方法により製造した植物栽培基体の物性について、種々の面から行った検討の結果について言及する。
前述したように、本発明の植物栽培基体の吸水率は、ポリオールの添加量に比例して高くなる。すなわち、他の原材料添加量を一定にしてポリオールの添加量だけを変化させると、吸水率の値を自由に調節することができる。この吸水率の値を選択することにより、通常の栽培方法のための植物栽培基体から、水栽培のような特殊な栽培方法のための植物栽培基体などまで、簡単に対応可能となる。
吸水率の目安としては、通常の栽培方法では、吸水率が50%〜75%のものを用いるのが良く、水栽培のような特殊な栽培方法では、25%〜55%のものを用いるのが良い。
すなわち、本発明によれば、ポリオールの添加量を変えるだけで、植物栽培基体の吸水率を自由にコントロールすることができるので、栽培対象となる植物に応じて、適切な吸水率を有する植物栽培基体を容易に製造することができるのである。
また、植物栽培基体が有する硬さについては、20〜40Nの範囲内が適切であり、他方、復元力については、4〜10Nの範囲内が適切である。なお、復元力とは、植物栽培基体が、受けた荷重をゼロにしようとして撥ね退ける力のことである。
すなわち、植物はその成長につれて根が張ってゆき、遂には鉢などの容器内が根でいっぱいになる。その際、いわゆるフライアビリティー(friability)の大きい、言い換えれば、不可逆圧縮特性の高い、植物栽培基体であると、根が栽培基体そのものを押しつぶしてしまって、空気供給の源である多孔質空間が消失することになる。
したがって、植物栽培基体はある程度の復元力(4N以上)を持つ方がよく、しかし、10Nを越えると、根が巻き付こうとしても、根の巻き付き力を撥ね退けてしまって良好な成長を妨げるので、復元力については、4〜10Nの範囲内が適切である。
つぎに、本発明の効果確認のために行った各種の実験についてその一部を説明する。
図3の表は、従来公知の方法を含めて、ポリオールを添加せずに製造した植物栽培基体の試料(比較例1〜7)の評価結果を示し、図4の表は、本発明による方法で製造した植物栽培基体の試料(実施例1〜10)の評価結果を示す。
なお、実施例および比較例の試料の製造には、下記の原料を使用した。
保水性充填材としては、ピートモス(三省物産(株)製の商品名:ツールブソン(細粒)、電子水分計(株式会社長計量器製作所製の型番:MC−30MB)によって測定された含水率は約40重量%)を使用。
ウレタンプレポリマーとしては、グリセリンにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとを60/40の割合でランダム付加重合させた分子量約3400のポリオール((株)三井武田ケミカル製の商品名:アクトコールEP−505S)1000gと、イソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製の商品名:コロネートT−80)525gとを、4つ口フラスコ内にて窒素気流下、80±2℃で2時間反応させて得た、イソシアネート基(NCO)が11〜13%のウレタンプレポリマーを使用。
ポリエステル系ポリオールとしては、ポリエステル変性ポリエーテルポリオールとポリエーテルポリオールとの混合物((株)三井武田ケミカル製の商品名:アクトコール3p56b)を使用。
ポリエーテル系ポリオールとしては、(株)三井武田ケミカル製の商品名:アクトコールMN3050Sを使用。
実施例および比較例の試料は図3と図4に示した配合処方に従い、下記の方法で作製した。尚、図3と図4には、含水状態の保水性充填材を100重量部とした場合の配合量が示されている。
適当な容器に水と保水性充填材とを入れて攪拌混合することにより第1懸濁液を調整し、つぎに、この第1懸濁液に、ウレタンプレポリマーとポリオールとを加えて更に攪拌混合したものを第2懸濁液とし、これを、下型のみの基体成形用型内に流し込んだ。第2懸濁液が基体成形用型内で、反応、硬化した後、型の上縁を超える部分は裁断し、均一な植物栽培基体の試料を得た。
基体成形用型としては互いに形状や寸法の異なる、以下の第1型、第2型、第3型の3種類の型を用意した。
第1型の内面形状は、截頭四角錐形状(四角錐台、すなわち、四角錐の頂点側を水平に切り落とした形状)を呈しており、その上端面は4.5cm角の矩形形状で、下端面は3cm角の矩形形状で、高さは5cmである。
第2型の内面形状は、同様に截頭四角錐形状を呈しており、その上端面は3.5cm角の矩形形状で、下端面は2.5cm角の矩形形状で、高さは4cmである。
第3型の内面形状は、下端部ほど小径となる截頭錐体形状を呈しており、その上端面は7cm角の矩形形状、下端面は直径6cmの円形形状、高さは6.5cmである。
尚、各実施例および比較例に基づいて得られた植物栽培基体の試料に対する評価方法は、下記のとおりである。
保形性、吸水率、硬さ、復元力の測定には第1型を用いて截頭錐体形状に成形した試料を採用した。
保形性について:一般的に想定される取り扱いによって、植物栽培基体の試料(以下、単に試料と称す)が崩れたり試料から保水性充填材が多く脱落するものは(×)、試料が崩れはしないが、試料から保水性充填材が少々脱落するものは(△)、試料が崩れもせず、保水性充填材の脱落がほとんど見られないものは(○)とし、目視により確認した。
吸水率について:80℃のオーブンで重量変化率が1%以内におさまるまで乾燥させた試料の乾燥重量をM1(g)とする。そして、内面の寸法が100×100×50(mm)のステンレス製の容器内に水深が1cmとなるように蒸留水を入れ、その容器内に試料を置いて24時間放置した後で容器内から引き揚げた試料の総重量M2(g)を測定し、M2よりM1を引くことにより、吸水重量(g)=(M2−M1)を求める。水の比重を1とすると、吸水体積(cm)=(M2−M1)となる。これを試料の全体積(型の体積に基づいて算出)から樹脂体積(試料の比重を1として上記M1より算出)を引いた値で除することで、次式により吸水率を算出した。
(数2) 吸水率(%)={(M2−M1)/(試料の全体積−M1)}×100
ただし、比較例6と7については、吸水性が非常に小さく、24時間放置した後にも、試料の上面まで水を吸い上げていなかったため、最大吸水量を測定するために、試料の上面より30分間散水して吸水させた後、さらに水深が1cmの容器内に24時間放置した後の重量を測定してM2(g)とした。
以下、硬さと復元力の測定には、吸水率測定の方法で十分に吸水させた状態の試料を用いた。
硬さについて:JIS−K6400のフォーム硬さ測定用装置を用いて、試料を上端面が下にくるように試験機の台上の中央に置き、加圧板を用いて5N(0.5kgf)の荷重をかけたときの試料厚さを0.1mmまで読み取り、それを初めの厚さとした。つぎに、加圧板を毎分300±20mmの速さで、初めの厚さの50±2.5%に相当する距離だけ押しこみ、静止後、20秒経過したときに示される荷重を1N(0.1kgf)まで読み取り、この値を硬さとした。
復元力について:JIS−K6400のフォーム硬さ測定用装置を用いて、試料を上端面が下にくるように試験機の台上の中央に置き、加圧板を用いて5N(0.5kgf)の荷重をかけたときの試料厚さを0.1mmまで読み取り、それを初めの厚さとした。つぎに、加圧板を毎分300±20mmの速さで、初めの厚さの50±2.5%に相当する距離だけ押しこんだ時の荷重G1を1N(0.1kgf)まで読み取り、静止後20秒経過した時の荷重G2を1N(0.1kgf)まで読み取り、G1−G2の値を復元力(試料が荷重をゼロにしようと撥ね退けようとする力)とした。
栽培評価は、各比較例と実施例について、1日に1〜2回の潅水を行う通常栽培方法と、水深が常に0.5〜1cmに保たれた栽培容器内で栽培する水栽培方法とで行った。試料としては、前記第2型を用いて截頭錐体形状に成形したものを採用し、栽培評価は、各植物栽培基体の試料にほぼ同様の生育状態のペチュニアを植栽し、一定期間(1〜3ケ月間)栽培を行った後で、植物体の新鮮重(地下部切断直後の地上部の植物体重量)によって行った。
最も植物体の生育が良かった試料、すなわち、所定の栽培期間経過後における植物体の新鮮重が最も大きかった試料を◎と評価し、この◎を付された試料で得られた新鮮重を100とした場合に、80〜100に相当する新鮮重が得られた試料を○と評価し、同様に、50〜80に相当する新鮮重が得られた試料を△、50未満に相当する新鮮重しか得られなかった試料を×と評価した。
その結果、通常栽培方法では、実施例1および7が最も生育が良く、つぎに、実施例2および8の生育が良好であった。水栽培では、実施例4および5が最も生育が良く、つぎに、実施例2、3および6の生育が良好であった。
因みに、実施例4の上述の寸法(截頭錐体形状)の試料に、バーベナ、トレニア、フクシア、インパチエンス、バラ、ビオラ、バコバ、プラティア、リナリア、ロベリア、ベゴニア、ネメシア、ポインセチア、シクラメン、カランコエ、セダム、ミューレンベキア、ペペロミア、オリズルラン、リシマキア、トラディスカンチア、ヘデラ、プレクトランサス、コリウス、プミラ、ビレア、ヒポエステス、ハートカズラ、グリーンネックレス、どんぐり、センセベリア、クレソン、ミント、バジル、カモミール、ラベンダーを植栽し、1〜3ケ月間水栽培を行った結果、いずれの植物も良好な生育結果を示した。
さらに、第3型を用いて所定の截頭錐体形状に成形した実施例4の試料に植栽されたペチュニアを1ケ月間水栽培を行った結果、均一な発根が認められ、良好な生育を示した。
ところで、図3の表は、従来技術の延長線上でウレタンプレポリマーの割合を徐々に増加させて、植物栽培に必要な適度の保形性と吸水率を併せ持つ基体が得られるか否かを検証した結果である。この表より、単に従来技術による基体に対して、ウレタンプレポリマーの割合を増やすだけでは、必要な保形性と吸水率を併せ持つ基体は得られないことが理解される。
尚、図4の表において、実施例1と実施例2は、添加するポリオールとして、ポリエステル系ポリオールを用いた場合と、ポリエーテル系ポリオールを用いた場合とで、得られる物性にどのような差異が生じるかを検証することを一つの目的として検討が実施されている。これによって、保形性と吸水率の両方において、ポリエステル系ポリオールの方がポリエーテル系ポリオールよりも優れていることが理解される。
また、実施例3〜10は、ウレタンプレポリマーの量を120重量部に固定して、保水性充填材およびポリオールの添加量の違いが吸水率に与える影響を検証することを一つの目的として検討が実施されている。実施例4〜10により、ポリオールの添加量を増やすにしたがって吸水率も上昇することが理解される。但し、実施例9と10より、ポリオール添加量の上限は170重量部までであり、それ以上増やしても、吸水率の顕著な上昇は期待できないことが理解される。
尚、含水状態の保水性充填材を基に算出した保水性充填材割合も、図3及び図4に参考のために付け加えておく。
土壌の代替物として植物の根を包むことで、植物を栽培することに使用可能な人工の植物栽培基体とその製造方法に関する発明であり、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーと、ポリオールを少なくとも反応させて成る、乾燥状態の保水性充填材の割合が15〜60重量%であることを特徴構成とすることで、植物の栽培に必要とされる吸水性、保形性、柔軟性(復元性)、硬さを同時に兼ね備えた植物栽培基体とその製造方法が提供された。
[図1]植物栽培基体を使用する浮揚式植栽装置の斜視図である。
[図2]植物栽培基体を使用する浮揚式植栽装置の断面図である。
[図3]植物栽培基体の実験結果を示す図表である。
[図4]植物栽培基体の実験結果を示す図表である。
符号の説明
1 植物栽培基体
2 植栽容器
3 貯水容器
4 植栽具
P 植物
W 貯留水

Claims (10)

  1. 保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーと、ポリオールを少なくとも反応させて成る植物栽培基体。
  2. 乾燥状態の前記保水性充填材の割合が15〜60重量%である請求項1に記載の植物栽培基体。
  3. 前記ポリオールが、エステル基を含有するポリオールである請求項1又は2に記載の植物栽培基体。
  4. 保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーを含む懸濁液を反応、硬化させて植物栽培基体を製造する植物栽培基体の製造方法であって、
    前記懸濁液がポリオールを含み、乾燥状態の保水性充填材の割合が15〜60重量%であるように調整して、そのポリオールを含む懸濁液を反応、硬化させて製造する植物栽培基体の製造方法。
  5. 乾燥状態の保水性充填材100重量部に対して、ポリオール量が0.1〜300重量部の範囲である請求項4に記載の植物栽培基体の製造方法。
  6. 前記保水性充填材と水とを攪拌混合して第1懸濁液を作製する第1工程と、その第1工程により作製した第1懸濁液に前記ウレタンプレポリマーとポリオールを添加し攪拌混合して第2懸濁液を作製する第2工程とからなり、前記第2工程により作製した第2懸濁液を反応、硬化させて製造する請求項4又は5に記載の植物栽培基体の製造方法。
  7. 前記懸濁液を基体成形用型内で反応、硬化させて製造する請求項4から6のいずれか一項に記載の植物栽培基体の製造方法。
  8. 前記植物栽培基体の上面側が、前記基体成形用型の底面側に位置するように反応、硬化させて製造する請求項4から7のいずれか一項に記載の植物栽培基体の製造方法。
  9. 前記保水性充填材が、ピートモス、ココピート、オガクズ、ヤシガラ、モミガラ、モミガラ堆肥、バーク堆肥、パーライト、バーミキュライト、親水性発泡樹脂粉砕物の中から選ばれた少なくともひとつの充填材を含んでいる請求項4から8のいずれか一項に記載の植物栽培基体の製造方法。
  10. 請求項4から9のいずれか一項に記載の製造方法により製造された植物栽培基体であって、
    吸水率が25〜75%、硬さが20〜40N、復元力が4〜10Nである植物栽培基体。
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