JP4448342B2 - 微細結晶硬質皮膜 - Google Patents

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Description

本発明は、結晶粒子径を微細に制御し、優れた機械的特性の得られる硬質皮膜に関するものである。
近年、超硬合金、サーメットまたは高速度工具鋼などを基材とする切削工具や自動車向け摺動部材などの、耐摩耗性改善のニーズが高まっており、これらの部材表面に使用されていた耐摩耗性皮膜の改善が検討されている。
この耐摩耗性皮膜としては、従来から、TiNやTiCN、TiとAlの複合窒化皮膜であるTiAlN等の硬質皮膜を、前記基材上(部材上)にコーティングすることが行われている。
これら耐摩耗性皮膜の耐摩耗性改善は、これまで、主として、第3元素を添加して、皮膜の結晶粒子を微細化し、特性を改善する試みがなされてきた。例えば、切削工具の場合には、TiAlN 皮膜にSiやB を添加することで、耐酸化性が向上すると共に結晶粒子の微細化により高硬度化することが報告されている(特許文献1、2参照)。また、自動車のピストンリングを代表として摺動部材に使用されているCrN 膜にB を添加して、高硬度化することにより耐摩耗性を改善する方法も提案されている(特許文献3参照)。
特開平7-310174号公報 特許2793696 号公報 特開2000-144391 号公報
このような耐摩耗性皮膜中に元素を添加して、皮膜の結晶粒子を微細化する方法では、結晶粒子の微細化の度合いは元素の添加量によって定まり、添加量を変化させることでのみ皮膜の粒子径の制御が可能である。従って、異なる粒子径の皮膜を作製するためには、元素の添加量を変化させたターゲットを複数個作製する必要が生じる。このため、目的に合わせた粒子径のサンプル、即ち、目的に合わせた特性を有する皮膜を作成するのは極めて煩雑となり、実用的な問題がある。
また、高硬度であって耐摩耗性に優れた切削工具用硬質皮膜として、結晶構造が岩塩構造型を主体とするものを好ましい形態とする硬質皮膜も提案されている(特許文献4 、5 、6 、7 参照)。これらの硬質皮膜組成は、例えば、(Tia ,Alb ,Vc )(C1-d Nd )、但し、0.02≦a≦0.3、0.5<b≦0.8、0.05<c、0.7≦b+c、a+b+c=1、0.5≦d≦1(a,b,cはそれぞれTi,Al,Vの原子比を示し、dはNの原子比を示す)などからなる。
一般に岩塩構造型の硬質皮膜はθ−2θ法によるX線回折で測定できる。例えば、(TiAlV)(CN)などの硬質皮膜は、岩塩構造型の結晶構造を有し、岩塩構造型のTiNのTiのサイトにAl、Vが置換して入った岩塩構造型の複合窒化物を構成する。この場合、岩塩構造型のAlN(格子定数4.12Å)は、高温高圧相であり、高硬度物質であるから、岩塩構造を維持しながら(TiAlV)(CN)中のAlの比率を高めれば、(TiAlV)(CN)膜の硬度をさらに高めることができる。
特開2003- 34858 号公報 特開2003- 34859 号公報 特開2003-71610号公報 特開2003-71611号公報
しかし、このような結晶構造が岩塩構造型を主体とする硬質皮膜においても、成膜条件によって、岩塩構造型硬質皮膜の結晶粒子径 (以下、結晶粒径とも言う) が粗大となった場合、高硬度化による耐摩耗性向上には限界がある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、岩塩構造型硬質皮膜の結晶粒子径を微細化させて、硬質皮膜の耐摩耗性などの特性を改善した硬質皮膜を提供することを目的とする。
この目的を達成するための、本発明の微細結晶硬質皮膜の要旨は、立方晶岩塩型構造を有する硬質皮膜層A と、立方晶岩塩型構造以外の結晶構造を有する硬質皮膜層B とが交互に積層された皮膜構造を有し、前記硬質皮膜層A の厚みを硬質皮膜層B の厚みよりも厚くするとともに、一層当たりの前記硬質皮膜層A の厚みが2 〜200nm の範囲であり、一層当たりの前記硬質皮膜層層B の厚みが0.5nm 以上で、かつ一層当たりの前記硬質皮膜層A の厚みの1/2 以下であり、前記硬質皮膜層A をTiAlN とし、前記硬質皮膜層B を非晶質SiN としたことである。
本発明においては、上記要旨のように、互いに結晶構造の異なる2層の硬質皮膜層を組み合わせて積層構造とすることにより、主相となる立方晶岩塩型結晶構造を有する硬質皮膜層A の結晶粒子径を、簡便かつ任意に、微細に制御する。
すなわち、立方晶岩塩型結晶構造の硬質皮膜層A を、立方晶岩塩型構造を有しない結晶構造の硬質皮膜層B と、交互に、かつ順次成膜 (積層) した場合、この硬質皮膜層B の部分で、その下層となる硬質皮膜層A の結晶成長が一旦中断される。そして、更に、硬質皮膜層A の成膜 (積層) を行なった場合、前記硬質皮膜層B 上より、硬質皮膜層A の新たに結晶成長が始まる。したがって、硬質皮膜層A の結晶粒子径を微細に制御できる。
一方、この硬質皮膜層B を設けないで硬質皮膜層A のみを積層して成膜する場合や、また、成分が違っても、同じ立方晶岩塩型結晶構造の硬質皮膜層A 同士を積層して成膜する場合には、硬質皮膜層A の結晶成長は中断されることなく、成長し続けることとなる。この結果、粗大な結晶粒子径となりやすい。
本発明では、このような硬質皮膜層A の結晶粒子の微細化により、硬質皮膜の高硬度化や耐摩耗性向上など、従来の硬質皮膜にはない優れた特性を得ることが出来る。
先ず、本発明硬質皮膜の要件について、以下に実施態様を説明する。
(硬質皮膜層A の結晶粒径の制御)
スパッタリングやイオンプレーティングで形成した、切削工具や耐摩耗摺動部品向けに多用されているTiN 、CrN あるいはTiAlN などの、通常の硬質皮膜層A は、図2に皮膜結晶の成長形態を模式的に示すように、基板上から核発生後、柱状に成長し、かつその柱状粒子の幅は成長と共に広がる傾向を示す。
これに対して、本発明の場合には、図1に皮膜結晶の成長形態を模式的に示すように、硬質皮膜層B として立方晶岩塩型構造を有しない結晶構造の皮膜を選択して、硬質皮膜層A と交互に積層 (成膜) する。この場合には、各々の硬質皮膜層A の成長は、各硬質皮膜層B を挿入することにより、一旦中断され、各々の硬質皮膜層A は、各硬質皮膜層B 上より、再度核発生及び成長を繰り返す。このため、前記図2と比較すると、膜厚方向及び基板面に対して平行な方向 (横方向) の結晶粒径ともに微細化される。なお、図1 、2 は、硬質皮膜乃至積層皮膜の断面を45000 倍のTEM 観察した結果を簡略化して図面化したものである。
例えば、硬質皮膜層A としてTiAlN 膜を、硬質皮膜層B としてSiN 膜を選択して、層A の厚みを約50nm、層B の厚みを約5nmとして、上記積層構造を作製した場合のTiAlN/SiN 積層皮膜の断面TEM を観察した結果でも、前記図2と比較すると、膜厚方向の結晶粒の成長が各層ごとに中断されており、結晶粒子が微細化していた。このような結晶粒子の微細化により皮膜の高硬度化等の従来皮膜にはない優れた特性を得ることが出来る。
(硬質皮膜層A の膜厚>硬質皮膜層B の膜厚)
硬質皮膜層A の膜厚>硬質皮膜層B の膜厚としたのは、層B の膜厚を層A を超えて形成した場合、硬質皮膜層A の結晶粒子の微細化はされるが、形成された皮膜の特性において、硬質皮膜層B の特性が支配的になるためである。立方晶岩塩型構造を有する硬質皮膜層A は、基本的に耐摩耗性を具備する主相であり、立方晶岩塩型構造以外の結晶構造を有する硬質皮膜層B は、硬質ではあっても、その耐摩耗性は硬質皮膜層A に比して劣る。したがって、硬質皮膜として優れた耐摩耗性を有するためには、硬質皮膜として、立方晶岩塩型構造を有する硬質皮膜層A の特性が支配的になる厚みを確保する必要がある。このため、本発明では、硬質皮膜層A の膜厚>硬質皮膜層B の膜厚とした。
(硬質皮膜層の厚みの態様)
一層当たりの硬質皮膜層A の厚み (膜厚) は2 〜200nm とすることが好ましい。層A の厚みが2 nm未満では、層A の積層数を増しても、硬質皮膜として、立方晶岩塩型構造を有する硬質皮膜層A の特性が支配的になる厚みを確保できない可能性がある。
一方、一層当たりの層A の厚みが200nm を超えた場合、結晶粒微細化の効果が低く、硬質皮膜層B を設けないで硬質皮膜層A のみを積層して成膜する場合と大差なくなり、硬質皮膜層B を設ける前に、硬質皮膜層A の結晶成長が生じて粗大な結晶粒子径となりやすい。したがって、従来の結晶成長を中断せずに成長させた硬質皮膜と特性は同等となる可能性がある。このため、望ましくは層A の厚みは100nm 以下、より好ましくは50nm以下とする。
硬質皮膜層B の厚みは0.5nm 以上、好ましくは1nm 以上で、かつ、硬質皮膜層A の厚みの1/2 以下の範囲とすることが好ましい。高硬度、高耐摩耗性を有する硬質皮膜層A の厚みを、特に前記した200nm 以下などに薄厚化した場合には、硬質皮膜全体の特性が大きく層B に影響されるようになる。この影響を無くすためには、前記した、硬質皮膜層A の膜厚>硬質皮膜層B の膜厚の規定に加えて、硬質皮膜層B の厚みを硬質皮膜層A の1/2 以下とすることが好ましい。この点、層B の厚みを層A の厚みの1/5 以下とすることがより好ましい。
ただ、硬質皮膜層B の厚みを0.5nm 未満にした場合、層B の厚みが薄過ぎて、層B の層A に対する結晶粒成長の中断効果が無くなる可能性がある。このため硬質皮膜層A の結晶粒が微細化されない可能性も生じる。この点、層B の厚みは層A の厚みにも関係するが、下限を1nm とする。
(硬質皮膜層A と硬質皮膜層B との積層態様)
本発明硬質皮膜の層の構成としては、基本的には、前記図1に示したような、層A/層B/層A/層B なる、硬質皮膜層A と硬質皮膜層B との交互の積層(層A/層B )を一つの単位として、この単位を複数(多数)繰り返しての積層(多層化)が好ましい。ただ、第三の硬質皮膜層C として、立方晶岩塩型構造を有するが、別の成分組成からなる硬質皮膜層 (別の物質) を選択し、この硬質皮膜層C を間に介在させて、例えば、層A/層B/層C あるいは層B/層A/層B/層C などを一つの単位として、これらの単位を各々組み合わせて積層を行っても良い。また、これ以上の複数の物質を選択しての積層も同様である。これらの単位を各々組み合わせて積層を行っても良い。層A と層B とを一つの単位とする、これら単位の積層数は目的とする硬質皮膜の厚みに合わせて、20〜1000など任意の積層数が選択できる。
(硬質皮膜層A の成分組成)
本発明硬質皮膜の主相である硬質皮膜層A の成分組成は、岩塩構造型結晶構造をとり、高硬度かつ耐摩耗性を有する物質を選択する必要がある。この点、岩塩構造型結晶構造をとる硬質皮膜として、例えば、切削工具や耐摩耗摺動部品向けに多用されているTiAlN の、Ti、Alを含んだ立方晶岩塩型構造を有する窒化物を適用する。この化合物は結晶系として立方晶岩塩型構造を有し、かつ高硬度で耐摩耗性に優れる
TiAlN は耐酸化性に優れ、この耐酸化性が特に要求される切削工具用途向けに好ましい
一般的にも、岩塩構造型の結晶構造の硬質皮膜はθ−2θ法によるX線回折で測定、解析できる。岩塩構造型の硬質皮膜は、このX線回折における(111)面、(200)面、(220)面のピーク強度がそれぞれ高い。例えば、(TiAl)(CN)などの硬質皮膜は、岩塩構造型の結晶構造を有し、岩塩構造型のTiNのTiのサイトにAlが置換して入った岩塩構造型の複合窒化物を構成する。この場合、岩塩構造型のAlN(格子定数4.12Å)は、高温高圧相であり、高硬度物質であるから、岩塩構造を維持しながら(TiAl)(CN)中のAlの比率を高めれば、(TiAl)(CN)膜の硬度をさらに高めることができる。
(硬質皮膜層B の成分組成)
質皮膜層B としては、基本的には、岩塩型立方晶構造を有しない結晶構造の物質であれば、上記した結晶粒微細化効果は発現できる。しかし、本発明硬質皮膜が、切削工具などの高温化で使用される場合や、摺動部品としての要求特性を考慮すると、耐熱性なり、耐磨耗性を有する非晶質SiN が適している。
次に、本発明硬質皮膜の形成方法 (成膜方法) について、以下に実施態様を説明する。
上記した微細結晶粒子を有する硬質皮膜を形成する方法としては、例えば、図3 に示すように、複数のスパッタリング蒸発源2 、3 を組み合わせて、基板1 上に、各硬質皮膜層A とB とを各々形成する方法がある。この場合、例えば、スパッタリング蒸発源2 からの蒸発物2aとして硬質皮膜層A 成分を、スパッタリング蒸発源3 からの蒸発物3bとして硬質皮膜層B 成分を、基板1 上に蒸着する。
また、図4 に示すように、複数の電子ビーム蒸発源5 、6 を用いて、基板1 上に、各硬質皮膜層A とB とを各々形成する方法がある。形成する方法等がある。この場合、例えば、電子ビーム7 による電子ビーム蒸発源5 からの蒸発物5aとして硬質皮膜層A 成分を、電子ビーム7 による電子ビーム蒸発源6 からの蒸発物6bとして硬質皮膜層B 成分を、基板1 上に蒸着する。
ただ、本発明では、後述する図5 に示すように、アーク蒸発源を用いて硬質皮膜層A の成分を、スパッタリング蒸発源を用いて硬質皮膜層B の成分を、各々蒸発させ、反応性ガスを含む雰囲気中で本発明の皮膜を形成する方法が最も好ましい。
その理由を層A としてTiN 、層B としてSiN とした場合を例として説明する。前記図3に示したスパッタリング蒸発源2 、3 の組み合わせの場合、方法としてはTiN 及びSiN をターゲットとして使用する場合と、Ti、SiをターゲットとしてスパッタリングガスのArと反応性ガスの窒素の混合ガス雰囲気中で交互にスパッタリングを行う方法が考えられる。各層A とB との厚みは各々のスパッタリング蒸発源の作動時間あるいは前面にあるシャッターを用いて成膜時間を制御することにより可能である。しかし、スパッタリング法では成膜レートが遅いため、層B の5倍程度の膜厚が必要な層A を形成するのに時間がかかり、効率的とは言えない。
また、前記図4 に示した電子ビーム蒸発を利用した場合には、Ti、Siを各々電子ビーム蒸発原5 、6 に溶解させて、各層A とB とを形成する。電子ビーム法では電子ビーム蒸発原5 、6 (坩堝) 中の蒸発材料の残量により、蒸発レートが変化するために、各々の層の膜厚制御が困難である。
これに対して、図5 に示す成膜装置では、チャンバ8 内に、基板1 を複数個( 図5 では4 個対称に) 回転盤9 上に配置し、その周囲に円周状(円周上)に、スパッタリング蒸発源2 、3 とアーク蒸発源5 、6 とを、スパッタリング蒸発源2 、3 同士、アーク蒸発源5 、6 同士、各々対向して配置している。そして、スパッタリング蒸発源とアーク蒸発源とは、互いに隣り合うように交互に配置されている。なお、各蒸発源の配列数は自由に選択できる。
そして、回転盤9 の回転により、各基板1 を回動させて、基板1 が交互にアーク蒸発源5 、6 とスパッタリング蒸発源2 、3 の前を通過するようにしている。この場合、回転盤9 や基板1 の方を回転させずに、アーク蒸発源5 、6 とスパッタリング蒸発源2 、3 の方を、基板1 の回りを回転するようにしても良く、要は、成膜する基板を、前記アーク蒸発源とスパッタリング蒸発源との間で、順次相対的に移動させる手段を有していれば良い。
また、他の態様として、図5のように、スパッタリング蒸発源2 、3 とアーク蒸発源5 、6 とを、チャンバ8 内に、円周状には配置せず、直線状など直列的に交互に配列し、成膜する基板を、前記アーク蒸発源とスパッタリング蒸発源との間で、順次相対的に移動させても良い。
そして、チャンバ8 内の反応性ガスを含む雰囲気中で、アーク蒸発源5 、6 を用いて硬質皮膜層A の成分を、スパッタリング蒸発源2 、3 を用いて硬質皮膜層B の成分を、各々蒸発させて、交互にかつ順次基板1 上に積層させ、本発明の硬質皮膜を形成する。
層A としてTiN 、層B としてSiN とした場合を例とすると、本発明では層A の成分であるTiをアーク蒸発源5 、6 で蒸発させ、層B の成分であるSiをスパッタリング源2 、3 で蒸発させる。そして、スパッタリングガスのAr+反応ガスの窒素中で成膜を行い、上記した通り、基板1 を回動させて、基板が交互にアーク蒸発源とスパッタリング蒸発源の前を通過するようにすることにより、TiN とSiN とを、交互にかつ順次基板上に積層させ、本発明のTiN +SiN の積層構造硬質皮膜を容易に形成できる。
このような、アーク蒸発源とスパッタリング蒸発源とを組み合わせて配置し、基板をこれらアーク蒸発源とスパッタリング蒸発源の前面を順次移動乃至通過させて、アーク蒸発源により硬質皮膜層A の成分を、スパッタリング蒸発源により硬質皮膜層B の成分を、交互にかつ順次基板上に積層させる皮膜形成方法は、前記図3 、4 の皮膜形成方法に比して以下の利点がある。
特に、アーク蒸発はスパッタリング蒸発に比べて成膜レートが速い。このため、アーク蒸発源により硬質皮膜層A の成分を成膜することで、層B の5倍程度以上の膜厚が必要な層A を高速に成膜出来る。また、スパッタリング蒸発源はアーク蒸発源よりも成膜レートの調整が容易であり、非常に小さい投入電力(例えば0.1 kW )から作動するために、層B などの薄膜の皮膜層の厚みを正確に制御できる特性がある。
更に、これらアーク蒸発とスパッタリング蒸発との特性を組み合わせることで、アーク蒸発源とスパッタリング蒸発源の投入電力の比により、層A と層B の厚みの比率を好ましい範囲に設定した後に、基板の回転数 (回動速度、移動速度) を変化させることで、任意に層A +層B の繰り返しの周期を決定可能である。また、層A の厚み、即ち結晶粒子径を任意に設定可能である。
ここで、図5 に示す成膜装置は、アーク蒸発源及びスパッタリング蒸発源ともに、各々具備する磁場印加機構11により発生および制御される磁場10を利用している。即ち、図5 に示した成膜装置は、磁場印加機構11により発生および制御される両蒸発源の磁場10同士が、お互いにつながるように成膜する態様を示している。
これに対して、図6 に示す成膜装置は、図5 の成膜装置において、磁場印加機構11により発生および制御される両蒸発源の磁場10同士が、お互いにつながらず、独立している態様を示している。
図5 の成膜装置のように、両蒸発源の磁場10同士が、お互いにつながっている場合、両蒸発源からのイオンの指向性が向上し、基板へのイオン照射を増加させ、より特性に優れた皮膜を形成することが可能となる。
即ち、同一成膜チャンバ8 内の磁場10(磁力線)は閉じた状態(閉磁場構造)となっており、前記蒸発源からの放出電子が、この閉磁場構造内にトラップされ、基板1と同じくアノードとなるチャンバ8に安易に誘導されない。この結果、放出電子の濃度が高まり、スパッタリングガスや反応性ガスとの衝突が多くなり、高効率でガスのイオン化を実施することができる。
一方、図6 の成膜装置のように、両蒸発源の磁場10同士が、お互いにつながらず、独立している場合、同一成膜チャンバ8 内の磁場10(磁力線)は開いた状態(開磁場構造)となっており、前記蒸発源からの放出電子は、各々の磁場10(磁力線)の方向に沿って、速やかに(安易に)、チャンバ8に安易に誘導さる。この結果、放出電子の濃度が薄まり、スパッタリングガスや反応性ガスとの衝突が少なくなり、ガスのイオン化効率が低くなる。即ち、両蒸発源からのイオンの指向性が緩慢となって、基板へのイオン照射量が減り、皮膜特性あるいは成膜効率を阻害する可能性が高くなる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
層B の結晶構造の影響を以下に調査した。即ち、層A として結晶構造が立方晶岩塩型構造の材料を選択し、層B として、結晶構造が同じ立方晶岩塩型構造の材料や、異なる結晶構造を有する材料を選択した場合の、結晶粒の微細化効果の有無を確認した。
具体的には、前記図3に示す2元のスパッタリング蒸発源2、3を有するスパッタリング成膜装置を用いて、表1に示す積層構造を有する皮膜を形成した。基板1としては硬度測定用の超硬合金(表面を鏡面研磨したもの)を用いた。この基板を前記図3の装置に導入後、基板温度を400〜500℃程度に加熱しながら、3×10-3Pa以下の真空に排気し、Arイオンによるクリーニング(圧力0.6Pa 、基板電圧500V、処理時間5分)を実施後、順次成膜を行った。
この成膜時に、金属膜を形成する場合は純Ar雰囲気中で、窒化物を形成する場合はArと窒素の混合ガス(混合比65:35)雰囲気中で、炭窒化物の場合はArと窒素とメタンの混合ガス(混合比65:30:5)雰囲気中で、全圧力は0.6Paと一定として、各々成膜した。
層A と層B との厚みは、各々のスパッタリング蒸発源2、3を作動させる時間で調節したが、層Aの厚みは50nm、層Bの厚みは10nmで一定とし、層Aと層Bとの繰り返し(積層単位)を合計で50層積層し、約3000nmの厚みの皮膜を形成した。成膜後の供試材に関して、皮膜の断面を45000倍のTEM観察を実施し、前記図1に見られるような結晶粒の微細化効果の有無を確認した。そして、この効果がある場合は○、効果が無い場合は×と評価した。これらの結果を表1に示す。
表1に示すように、番号が1〜4の比較例の場合、層A として、結晶構造が立方晶岩塩型構造の材料を選択しているものの、層B として同じく結晶構造が立方晶岩塩型構造の材料を選択している。このため、層A と層B の間で結晶粒成長の分断は生じることなく、結晶粒は連続的に成長しており、結晶粒の微細化効果が無いことが確認された。
これに対して、番号が11の発明例と5〜10および12、13の参考例の場合、層B として、層A と異なる結晶構造を有する材料を選択した場合、前記図1に見られるように、層A 、B 間で結晶は連続的に成長しておらず、結果として層A の結晶粒は層A の厚み程度(50nm)まで微細化されていた。また、比較例4の層B に用いたAlN は、六方晶B4型構造が安定な材料であるが、本実施例のように、岩塩型構造の層A の材料と積層した場合、形成された皮膜中ではAlN 層は岩塩型構造となり、層A の結晶粒微細化の効果は認められなかった。
以上の結果から、立方晶岩塩型構造の層A からなる積層構造硬質皮膜を成膜する際には、層B として、立方晶岩塩型構造の層A と異なる結晶構造を有する材料を選択しないと、結晶粒の微細化効果が無いことが確認された。
この実施例1の結果を基に、層B の結晶構造の影響を更に詳細に調査した。即ち、層A としてTiAlN 、CrN 、TiN などの岩塩立方晶構造の硬質皮膜材料を選択し、層B としてCu、Co、SiN 、BNなどの岩塩立方晶構造以外の結晶構造を有する材料や、CrN 、MoN 、WN、TaN 、AlN 、などの岩塩立方晶構造を有する材料を選択した場合、あるいは層B を設けない場合の、結晶粒の微細化効果の有無と皮膜硬度を確認した。
具体的には、前記図3に示す2元のスパッタリング蒸発源2、3を有するスパッタリング成膜装置及び前記図5に示すアークとスパッタリングとの複合成膜装置を併用して、表2に示す積層構造を有する皮膜を形成した。基板としては実施例1と同じ硬度測定用の超硬合金(鏡面研磨)を用いた。上記両装置共に基板を装置に導入後、基板温度を400〜500℃程度に加熱しながら、3×10-3Pa以下の真空に排気し、Arイオンによるクリーニング(圧力0.6Pa 、基板電圧500V、処理時間5分)を実施後、各成膜を行った。
図3に示すスパッタリング成膜装置の場合には、成膜時に窒化物を形成する場合はArと窒素の混合ガス(混合比65:35)雰囲気中で、炭窒化物の場合はArと窒素とメタンの混合ガス(混合比65:30:5)雰囲気中で、全圧力0.6Paとして成膜し、層A と層B の厚みは各々の蒸発源を作動させる時間で調節した。
図5に示す複合成膜装置の場合には、成膜時に窒化物を形成する場合はArと窒素の混合ガス(混合比50:50)雰囲気中で、炭窒化物の場合はArと窒素とメタンの混合ガス(混合比50:45:5)雰囲気中で、全圧力2.66Paとして成膜した。層A と層B の厚みは各蒸発源に投入する電力比で決定し、層A +層B の厚みの比率は基板の回転周期で決定した。膜厚はほぼ3μm で一定とした。なお層A はアーク蒸発源にて、層B はスパッタリング蒸発源にて形成した。
形成した皮膜の機械的特性の硬度評価はマイクロビッカース硬度計(荷重25gf)で測定した。また、層A 、層B の結晶構造は、皮膜断面の45000倍のTEM 観察より解析し、層A 、層B の膜厚及び結晶粒の大きさを断面TEM 像より決定して、層A の結晶粒微細化の効果の有無を実施例1と同様に評価した。これらの評価結果を表2に示す。
表2から分かるように、発明例21参考例20、24〜27、29のように、層A としてTiAlN 、CrN 、TiN などの岩塩立方晶構造の硬質皮膜材料を選択し、層B としてCu、Co、SiN 、BNなどの岩塩立方晶構造以外の結晶構造を有する材料を選択した場合のみ、結晶粒の微細化効果およびそれに伴う皮膜硬度の顕著な増加が認められる。
これに対し、比較例14〜19のように層B を設けない場合、比較例22、23、28のように層B として岩塩立方晶構造を有する材料を選択した場合、結晶粒の微細化効果が無く、皮膜硬度も比較的低い。
次に、岩塩立方晶構造以外の結晶構造を有する材料からなる層B の厚みの、層A に対する結晶粒の微細化効果への影響について調査した。
成膜装置として上記実施例2と同様のスパッタリング装置および複合成膜装置を使用し、同様の条件で供試材を作製した。層A としては岩塩型立方晶構造を有する材料の代表として高硬度を有する(Ti0.5Al0.5)N 、CrN およびTiN を選択し、層B としてSiN 、BNおよびCuを選択した。SiN 、BNおよびCuの層の形成には各々Si、B4C およびCuターゲットを使用した。
そして、層A の厚みを30nmで一定とし、層B の厚みを0.2 〜100 nmの範囲で変化させて、結晶粒の微細化効果への層B の厚みの影響を調査した。成膜後の供試材に関しては、実施例2と同様に、硬度測定および断面TEMによる結晶粒の微細化の有無を確認した。これらの結果を表3に示す。
表3における、層B の厚み以外の条件が同じである、番号30〜36、37〜43、44〜50の各グループ内での比較において、各グループのいずれの場合に於いても、層B の厚みが0.5 nmより小さい0.2 nmである、番号30、37、44の例の場合、結晶粒の微細化は生じていなかった。このため、層B の厚みは、最低でも、この0.2nmを超える、0.5nm程度以上の厚みを有することが好ましい。
また、表3において、逆に、層Aに対する層Bの厚みが、層Aの厚みの1/2を超えて、相対的に大きい、番号35、36、または42、43、あるいは49、50の場合、形成された皮膜全体の特性として層Bの特性が支配的となる。この結果、各グループ内の層Aに対する層Bの厚みが比較的小さい例である、31〜34、または38〜41、あるいは45〜48との比較において、顕著な硬度増加の効果が認められなくなる。従って層Bの厚みは層Aの厚みの1/2以下が好ましいことが分かる。
次に、層Aの厚みの、硬質皮膜の結晶粒微細化や硬度への影響を調査した。
成膜装置としては、実施例2で使用した図5の複合成膜装置を用い、層Aとして(Ti0.5Al0.5)N 、層B としてSiN を実施例2と同様の条件で形成した。層B の厚みを2nmで一定とし、層Aの厚みを1〜300nmの範囲で変化させた供試材を作成した。供試材に関しては、実施例2と同様に、硬度測定および断面TEMによる結晶粒の微細化を確認した。これらの評価結果を表4に示す。
表4から、層Aの厚みが、層Bの厚み2nmに対して、1nmと薄い番号51の例の場合、皮膜全体として層Bの特性が支配的になり、結晶粒は微細化するものの、他の番号52〜55などの例に比して、硬度は逆に低下している。一方、層Aの厚みが200nmを超える番号53の例の場合、結晶粒微細化効果が無く、結晶粒の大きさが従来品に近くなるために、硬度はほぼ従来品と同等となる。したがって、層Aの厚みは、2〜200nmの範囲にすることが好ましい。
次に、層B として選択する材料の種類による、耐酸化性向上効果を、硬質皮膜の酸化開始温度により調査した。
成膜装置としては、前記実施例2でも使用した図5の複合成膜装置を用い、層A として(Ti0.5Al0.5)N を層B としてSiN 、BN、MoN およびTiを白金箔(0.1mm 厚さ)形成した。層A および層B の膜厚は30および2nmで一定とし、層A+層B の単位で合計約90層の積層を行い皮膜を形成した。
形成した皮膜に対して、1000℃までの温度範囲で酸化増量を測定し、耐酸化性を調査した。耐酸化性の調査には熱天秤を使用し、乾燥空気中で、4℃/分の昇温速度で1000℃まで加熱し、酸化による重量増加から酸化開始温度を決定した。これらの評価結果を表5に示す。
表5から分かる通り、層B としてSiN を選択した発明例58およびBNを選択した参考例59の場合、層B を設けない従来材相当の比較例57や、岩塩型結晶構造の比較例60の酸化開始温度850 ℃に対して、900 ℃まで酸化開始温度が増加している。したがって、皮膜構造に、層B としてSiN およびBNを選択した場合、SiN 、BNは硬度を増加させるだけではなく、耐酸化性も向上することが分かる。なお、層BとしてTiを選択した参考例61は層A の結晶粒微細化効果はあるものの、酸化開始温度は比較的低い。
次に、成膜条件の違いとして、アーク蒸発源およびスパッタリング蒸発源の磁力線をつなげた場合と、各々の蒸発源の磁力線が繋がらない場合、各々にて皮膜を形成した場合の影響を調査した。成膜は、これまでの実施例と同様の要領で、層A として(Ti0.5Al0.5)N 、CrN を30nm、層B としてSiN 、BNを3nm 、層A+層B の単位で合計約90層の積層で形成した。
この成膜には、図5の複合成膜装置を用いたが、比較のために、図5 のアーク蒸発源およびスパッタリング蒸発源の磁力線同士をつなげた配置と、図6 のこれら各々の蒸発源の磁力線同士が繋がらない配置とで、各々成膜して、その特性を比較調査した。これらの評価結果を表6に示す。なお、図5 と図6 の装置との成膜条件は、実施例2 の図5 の装置の成膜条件と同じ条件とした。
表6から分かる通り、磁力線同士をつなげた (図5 の) 場合の番号62、64の例は、磁力線同士をつなげない (図6の) 場合の番号63、65の例に比較して(62と63同士、64と65同士)、耐酸化性に関して特性はほぼ同等であるが、硬度が高い。これらの結果から、図5 のように、磁力線同士をつなげた成膜の方が、イオン密度の増加により、より高硬度の皮膜が形成可能であることが分かる。
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以上説明したように、本発明の硬質皮膜は、岩塩構造型硬質皮膜の結晶粒子径を微細化させて、硬質皮膜の耐摩耗性などの特性を改善できる。したがって、超硬合金、サーメットまたは高速度工具鋼などを基材とする切削工具や自動車向け摺動部材などの、耐摩耗性皮膜に適用できる。
本発明硬質皮膜の積層構造を模式的に示す断面図である。 従来の硬質皮膜を模式的に示す断面図である。 本発明硬質皮膜を成膜する装置の一態様を示す説明図である。 本発明硬質皮膜を成膜する装置の別の態様を示す説明図である。 本発明硬質皮膜を成膜する装置の別の態様を示す説明図である。 本発明硬質皮膜を成膜する装置の別の態様を示す説明図である。
符号の説明
A :岩塩型結晶構造を有する硬質皮膜層、B :硬質皮膜層、1:基板、
2 、3 :スパッタリング蒸発源、4:シャッター、5 、6 :電子ビーム蒸発源
7:電子ビーム、8:チャンバ、9:回転盤、10: 磁場、11: 磁場印加機構

Claims (1)

  1. 立方晶岩塩型構造を有する硬質皮膜層A と、立方晶岩塩型構造以外の結晶構造を有する硬質皮膜層B とが交互に積層された皮膜構造を有し、前記硬質皮膜層A の厚みを硬質皮膜層B の厚みよりも厚くするとともに、一層当たりの前記硬質皮膜層A の厚みが2 〜200nm の範囲であり、一層当たりの前記硬質皮膜層層B の厚みが0.5nm 以上で、かつ一層当たりの前記硬質皮膜層A の厚みの1/2 以下であり、前記硬質皮膜層A をTiAlN とし、前記硬質皮膜層B を非晶質SiN としたことを特徴とする微細結晶硬質皮膜。
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