JP4446429B2 - 廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、アスベスト廃棄物やダイオキシンを含有した焼却灰などの有害な廃棄物を加熱溶融し、有機成分をガス化し、金属成分と非金属成分を溶融して分離回収し、非金属成分をガラス化・岩石化させることにより無害で再資源化可能とする廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
廃棄物処理のためのプラズマ溶融処理装置におけるアークプラズマは、廃棄物投入時などにおいてプラズマの電圧が上昇したりプラズマの経路が不安定になり、最悪の場合には、アークプラズマが消弧したり、水冷金属電極式のプラズマトーチであれば電流がプラズマトーチ内の電極から外側の筒などの電極以外の金属部分を経由して溶湯に流れるいわゆるダブルアークによって外側の筒などの金属部分が破損したりし、安定な運転の妨げとなる場合がある。そこで、プラズマトーチの外周に耐熱性と電気絶縁性を有するカバーを設ける工夫が考案されているが(例えば、特許文献1参照)、そのカバーは溶融時の高温に耐える必要があり、耐久性に課題がある。
【0003】
また、プラズマ溶融炉の出湯口では、溶湯の温度が炉内よりも50〜100℃程度低くなる傾向があり、溶湯の粘性が上昇し閉塞する現象が問題となっている(例えば非特許文献1参照)。このため、スラグや金属を出湯する管路部分を高周波誘導加熱により加熱する発明(特許文献2参照)や、スラグの出湯口で排ガスの顕熱を利用する発明(特許文献3参照)がなされている。
【0004】
従来の移行形プラズマトーチを用いたプラズマ溶融炉では、1本のプラズマトーチと炉底電極間、複数本のプラズマトーチ間にアークプラズマを発生させる方法(例えば特許文献4,5,6参照)、複数本のプラズマトーチと炉底電極間にアークプラズマを発生させる方法(例えば特許文献7参照)が用いられている。1本のプラズマトーチを用いた場合には、プラズマから周辺に向かうガス流やスラグの湧き出しが生じるため、投入した廃棄物が低温の周辺部へ押しやられる。また、複数のプラズマトーチ間のアークプラズマを発生させる場合、それらの出力を電流で独立に調整することはできない。さらに、複数本のプラズマトーチと炉底電極間にアークプラズマを発生させる場合には、プラズマトーチの中間部を高温とすることを目的としているため、全ての電極に流れる電流が等しくなるように設定されている。
【0005】
スラグは、溶融時には導電性があるものの、凝固すれば導電性が失われて通電不可となり、アークプラズマを発生させることができなくなる。そこで、起動を簡便に行えるようにするため、例えば、溶融処理後に電極を溶融スラグの下部にある金属層に接触させて運転を停止する方法(特許文献8参照)、凝固したスラグの上部に粒状のカーボンを投入しこれを介在してプラズマアークを発生させる方法(特許文献9参照)、炉底電極上に金属をセットし起動させる方法(特許文献10,11参照)が提案されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−27687号公報
【特許文献2】
特開2002−228137号公報
【特許文献3】
特開平6−300234号公報
【特許文献4】
特開平9−49616号公報
【特許文献5】
特開平8−5247号公報
【特許文献6】
特開平8−57441号公報
【特許文献7】
特開2001−324125号公報
【特許文献8】
特開2002−213726号公報
【特許文献9】
特開平10−253266号公報
【特許文献10】
特開2001−324124号公報
【特許文献11】
特開2002−31486号公報
【非特許文献1】
吉野他、「焼却灰主成分の変動が溶融特性とスラグ品質に及ぼす影響」、廃棄物学会論文誌、2002年、Vol.13、No.6、pp.361-369
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、アスベスト廃棄物やダイオキシンに汚染された有害な廃棄物を無害化・資源化する装置をはじめとする廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置では、廃棄物の投入時にアークプラズマが不安定になり安定した状態で処理装置を運転し続けることが困難な場合があり、しかも最悪の場合にはプラズマトーチが損傷してしまうという問題もあった。アークプラズマが不安定になる理由としては、▲1▼アークプラズマの中に冷たい物質が直接入ることによりプラズマの温度が下がり導電性が低下する(プラズマの電気抵抗が高くなる)。これによりアークプラズマの電圧が高くなる。アークプラズマの電圧が電源の電圧を越える場合にはアークプラズマが消えてしまう場合がある。 ▲2▼可燃物などの場合には急激に熱分解が進むため水素、炭素が発生する。これらがアークプラズマの中に巻き込まれると、アークプラズマの物性値(導電率など)が急激に変化してアークプラズマの電圧が変動する。 ▲3▼導電性のないコンクリート塊などが投入されることによってアークプラズマの形が変わることがある。また、アークプラズマの長さが変わることによってアークプラズマの電圧が高くなり不安定になる。 といった理由が挙げられる。また、プラズマトーチが損傷する理由としては、アークプラズマが、トーチ内の電極、ノズル、被加熱物という経路で形成された場合、アークプラズマとノズルと接触する部分に大きな熱負荷がかかるため、アークプラズマに接触したノズルの一部が、接触している時間が長くなれば溶けてしまう(また、場合によっては冷却水が漏れ出す)ということが挙げられる。
【0008】
また、上述したように、非金属性の廃棄物だと溶融時には導電性があるものの凝固してしまえば導電性が失われるという特性があるため、溶融終了後に再起動する場合、特にバッチ式の処理(例えば、毎日昼間だけ運転するような処理)のように起動・停止を頻繁に行なう場合においてより簡便に起動することが望まれている。
【0009】
さらに、溶融処理後に電極を溶融スラグの下部にある金属層に接触させて運転を停止する方法(特許文献8参照)は、高温の溶湯に主電極を挿入するというものであり、金属部が損傷してしまうため金属電極式プラズマトーチには適用できない。黒鉛電極式プラズマトーチの場合では、凝固した溶湯が収縮してしまうため炉内において間隙が形成され、導通が焼失(消失)するおそれがある。加えて、溶融しているスラグや金属が凝固するまで黒鉛の消耗が進むおそれもある。
【0010】
また、凝固したスラグの上部に粒状のカーボンを投入しこれを介在してプラズマアークを発生させる方法(特許文献9参照)は、着火前に黒鉛粒を炉内に敷く必要があり、余分な消耗品が必要になる。また、黒鉛は、プラズマトーチの材料に用いられるものなのでそれを処理するために余分な時間が必要になってしまう。
【0011】
また、炉底電極上に金属をセットし起動させる方法(特許文献10,11参照)は、起動のたびにスラグを除去する作業が必要となるため頻繁に起動・停止を行なう処理装置には不向きであり、連続運転を前提にした大型の炉であって新品の状態あるいは炉内の耐火物を張り替えるような大規模な工事の後の着火に適用されると考えられる。そうすると、この方法を適用できる処理装置の幅が限られてしまうことになる。
【0012】
本発明は、アークプラズマの安定性を損なうことなく安定な運転を可能とする廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法を提供することを目的とし、さらには装置の起動時において簡便に起動することのできる廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法は、溶融対象物たる廃棄物と接触した場合にも溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチ廃棄物の投入口の近傍に配置される一方で、指向性の高いアークプラズマを発生する金属電極式プラズマトーチ溶融処理後の廃棄物の出湯口近傍に配置され、さらにこれら黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくともいずれかと対向する炉底電極と、黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを第1の電源および第1の開閉器を介して結ぶ第1の回路と、金属電極式プラズマトーチと炉底電極とを第2の電源を介して結ぶ第2の回路と、黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを第2の開閉器を介して結ぶ短絡路とを備え、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方が他方のプラズマトーチに対し接近しあるいは遠ざかることを可能とした廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を用い、起動時には、第1の開閉器を開き、第2の開閉器を閉じることにより、短絡路において黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを接続させ、黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方を他方のプラズマトーチに対してアークプラズマを着火可能に接近させて、黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間でアークプラズマを発生させ、溶湯が形成されて金属電極式プラズマトーチと炉底電極との間に電流経路が確立した後には、第2の開閉器を開き、第1の開閉器を閉じることにより、第1の回路において黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを接続させ、廃棄物投入口の近傍に配置された黒鉛電極式プラズマトーチによって投入口近傍の溶湯を加熱制御すると共に、出湯口近傍に配置された金属電極式プラズマトーチによって出湯口近傍の溶湯を加熱制御することを特徴とするものである。
【0014】
廃棄物の投入時にはアークプラズマが不安定になりやすいことから、本発明の運転方法に用いる廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置では、廃棄物の投入口近傍に廃棄物や溶湯と接触しても溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチを配置し、プラズマトーチと廃棄物の接触に注意を払わなくて済むようにしている。また、このように黒鉛電極式プラズマトーチを採用した場合にはこの黒鉛電極式プラズマトーチと溶湯までの間隔(ギャップ長)を短くして運転することが可能となり、短ギャップ長の運転により、アークプラズマの長さの変動を抑え、アークプラズマの不安定性を回避することが可能となる。
【0015】
その一方で、出湯口近傍にはアークプラズマの指向性が高い金属電極式プラズマトーチを配置することにより出湯口近傍の溶湯を的確に加熱できるようにしている。溶融が完了した出湯口近傍は比較的凹凸の少ない液面となっており、廃棄物投入口におけるような廃棄物等との接触という問題がない。そこで、この出湯口ではアークプラズマの指向性と加熱効率に優れた金属電極式プラズマトーチにより出湯口近傍の溶湯を的確にかつ効率的に加熱し、溶湯の温度を高めて凝固を防止し、出湯口が閉塞しないようにしている。これにより、本発明によればアークプラズマの不安定性を回避した上で尚かつ出湯を容易とし、安定した運転を行うことが可能となっている。また、本発明によれば、金属部の損傷、黒鉛の消耗の進展、余分な消耗品の準備といった問題がなく、かつ、起動のたびにスラグを除去する作業が必要ないため頻繁に起動・停止を行なう処理装置にも好適である。
【0016】
本発明においては、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチをそれぞれ独立して加熱制御することが好ましい。こうした場合、廃棄物の投入、溶湯の出湯、溶融の進行等の諸状況に応じて精緻に加熱エネルギーを制御することが可能となり、エネルギー効率の高い運転が行えるようになる。また、これに加えて冷却水供給、ガス供給についてもそれぞれ独立に制御することによりエネルギー効率の更なる向上が可能となる。本願の請求項1に係る廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法では、黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを第1の電源および第1の開閉器を介して結ぶ第1の回路と、金属電極式プラズマトーチと炉底電極とを第2の電源を介して結ぶ第2の回路とを備え、黒鉛電極式プラズマトーチには第1の電源から電力を供給し、金属電極式プラズマトーチには第2の電源から電力を供給して、黒鉛電極式プラズマトーチによって投入口近傍の溶湯を加熱制御すると共に、金属電極式プラズマトーチによって出湯口近傍の溶湯を加熱制御するようにしている。
【0017】
また本発明において、黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを第1の電源および第1の開閉器を介して結ぶ第1の回路と、金属電極式プラズマトーチと炉底電極とを第2の電源を介して結ぶ第2の回路と、黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを第2の開閉器を介して結ぶ短絡路とを備え、起動時には、第1の開閉器を開き、第2の開閉器を閉じることにより、短絡路において黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを接続させ、黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方を他方のプラズマトーチに対してアークプラズマを着火可能に接近させて、黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間でアークプラズマを発生させ、溶湯が形成されて金属電極式プラズマトーチと炉底電極との間に電流経路が確立した後には、第2の開閉器を開き、第1の開閉器を閉じることにより、第1の回路において黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを接続させ、廃棄物投入口の近傍に配置された黒鉛電極式プラズマトーチによって投入口近傍の溶湯を加熱制御すると共に、出湯口近傍に配置された金属電極式プラズマトーチによって出湯口近傍の溶湯を加熱制御するものであることが好ましい。起動時には、短絡路において黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを接続させて黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極と同電位にすることにより他のプラズマトーチ(金属電極式プラズマトーチ)と黒鉛電極式プラズマトーチ間にアークプラズマを発生させることが可能となる。溶湯の形成後は、第1の回路において黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを接続させることにより電力の供給を独立に制御できるプラズマトーチとしての運転が可能となる。
【0018】
また、本発明の運転方法に用いる廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置においては、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方が他方のプラズマトーチに対し接近しあるいは遠ざかることが可能であることが好ましい。こうした場合、プラズマ溶融処理装置の起動時において黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間隔を調節することによってアークプラズマがより発生しやすい状況とすることができる。
【0019】
また、請求項2記載の発明は、溶融対象物たる廃棄物と接触した場合にも溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチ廃棄物の投入口の近傍に配置される一方で、指向性の高いアークプラズマを発生する金属電極式プラズマトーチ溶融処理後の廃棄物の出湯口近傍に配置され、さらにこれら黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくともいずれかと対向する炉底電極と、一部が炉底電極に接続されると共に廃棄物の溶湯の液面レベルよりも上位であって少なくともスラグが付着しない高さとなるように炉の内壁に沿って投入口側に延びるように設置された導電性耐火物と、黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを第1の電源を介して結ぶ第1の回路と、金属電極式プラズマトーチと炉底電極とを第2の電源を介して結ぶ第2の回路とを備え、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方が導電性耐火物に対し接近しあるいは遠ざかることを可能とした廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を用い、起動時には、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方を導電性耐火物に対してアークプラズマを着火可能に近接させて、プラズマトーチのいずれか一本と導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させ、溶湯が形成されてプラズマトーチの他方と炉底電極との間の電流経路が確立した後には、廃棄物投入口の近傍に配置された黒鉛電極式プラズマトーチによって投入口近傍の溶湯を加熱制御すると共に、出湯口近傍に配置された金属電極式プラズマトーチによって出湯口近傍の溶湯を加熱制御すること特徴とするものである。溶融処理の終了後、プラズマ溶融炉内の温度が低下すると凝固したスラグが炉底電極を覆ってしまい電気を流すことができなくなるが、このように炉底電極と電気的につながっている導電性のある耐火物を設置しておけば、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の起動時には、プラズマトーチのいずれか1本とこの導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させることにより簡便に起動することが可能となる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1〜図6に本発明の一実施形態を示す。本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1は1台(1機)あたりにつきプラズマトーチが2本設けられているものであり、具体的には、アークプラズマが不安定になりやすい廃棄物の投入口4側には黒鉛電極式プラズマトーチ2が配置され、凹凸のない平面的な溶湯14が形成される出湯口5側には金属電極式プラズマトーチ3が配置されている(図1参照)。黒鉛電極式プラズマトーチ2は、金属電極式プラズマトーチ3に比べれば溶湯14への伝熱効率は劣るものの、電極が消耗式であるため廃棄物や溶湯14と接触しても溶融処理を継続できるという利点がある。一方の金属電極式プラズマトーチ3は、ノズルなどの金属部分の破損を防止するためには廃棄物や溶湯14と接触するような運転は避けなければならないものの、ガス流とノズルによる熱ピンチ効果によって高い指向性を持つアークプラズマを発生でき、高い加熱効率の達成を可能とするものである。
【0022】
なお、本発明の実施形態の説明中における「廃棄物」は溶融する前のもので、金属、不燃物、可難燃物(可燃物および難燃物)のいずれか1つ以上から構成される。これを高温で処理すると可難燃物はすす又はガスになり、金属と不燃物が溶けた状態となる。金属と不燃物のいずれか1つ以上が溶ければ「溶湯」となる。不燃物が溶けて固まったものは「スラグ」となり、このスラグが溶ければ「溶融スラグ」となる。また、溶融時には比重の違いにより下部に溶融金属、上部に溶融スラグとなる2層構造になる。
【0023】
本実施形態における黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3は、図1に示すようにいずれも細長の棒状であり、プラズマ溶融炉13の炉壁を貫くように(より具体的には天井壁を上下に貫くように)設置されている。また、いずれのプラズマトーチ2,3も上下方向(軸方向)と旋回方向に自由に駆動できる機構を有し、プラズマ溶融炉13へ挿入された部分(プラズマ溶融炉13内に突出している部分)が旋回可能かつ上下動可能となっている。旋回させる駆動機構の一例を示せば、例えばX方向とY方向とに独立に駆動できる2つのステージ19,20から成りプラズマトーチ2,3の上部に取り付けられる機構が挙げられる(図5参照)。このような機構の場合、X方向とY方向とに独立して駆動可能なので円運動(旋回運動)ができ、更には、いずれか一方を動かさなければ前後動(または左右方向への動き)だけの動きも可能となる。さらに、黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3の少なくとも一方は前後方向(この場合の前後方向とは廃棄物投入口4と出湯口5とを結ぶ方向のことで、例えば図1でいえば左右の方向)に移動するための機構を有しており、他方のプラズマトーチに接近しあるいはこのプラズマトーチから遠ざかることが可能となっている。この場合の前後動は、上述した旋回機構がある場合には旋回範囲を前後動の範囲より広くすることにより対応可能である。
【0024】
また、本実施形態では黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3への冷却水とガスの供給およびその制御を以下のように行っている(図6参照)。すなわち、ガスについては、供給装置15から減圧弁16、ヘッダー17、流量計18を通じて黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3とに続く供給系統を利用して供給を行っている。ヘッダー17はガスを分岐するためのもので例えば両端を塞いだパイプのようなものを用いることができる。ここでいう供給装置15の具体例はボンベであるが、ガスの代わりに空気が使用される場合にはコンプレッサー、窒素が使用される場合には窒素製造装置などがボンベの代わりに用いられる。黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3とで使用するガスが異なる場合には、「供給装置15→減圧弁16→流量計18→プラズマトーチ」という供給系統が2つ準備されることになる。また、冷却水も、特に図示しないが上述したガスの供給・制御と同じように冷却水供給装置からヘッダーを通して分岐され、流量計を通して各プラズマトーチに供給される。このような供給系統により供給されるガスあるいは冷却水は、プラズマ溶融炉13内において溶湯が形成されていると否とにかかわらずその供給量等を独立して制御することが可能である。なお、黒鉛電極式プラズマトーチ2はプラズマガスが無くても運転ができるのでこの黒鉛電極式プラズマトーチ2に対するガスの供給系統は省略することが可能である。
【0025】
プラズマ溶融炉13の炉底には電極(本明細書ではこの電極を「炉底電極」と称している)6が設けられている(図1参照)。この炉底電極6は、黒鉛電極式プラズマトーチ2および金属電極式プラズマトーチ3のうち少なくともいずれか一方と対向するように設置されている。例えば本実施形態における炉底電極6は金属電極式プラズマトーチ3寄りに配置されてこの金属電極式プラズマトーチ3と対向している(図1参照)。
【0026】
黒鉛電極式プラズマトーチ2、金属電極式プラズマトーチ3、炉底電極6にはアークプラズマを発生させるための電源が接続されている(図1参照)。本実施形態の場合は、黒鉛電極式プラズマトーチ2と炉底電極6とを結ぶ第1の回路の途中に第1の電源7と第1の開閉器12を設け、さらに、金属電極式プラズマトーチ3と炉底電極6とを結ぶ第2の回路の途中に第2の電源8を設けている(図1参照)。なお、電源7,8はここで示しているように別個とされる他、例えば電源装置の中身で共通で使える部分があるような場合には単一の電源装置によって構成し、それぞれを制御することも可能である。また、第1の電源7および第1の開閉器12と並列の短絡路9を設け、この短絡路9の途中に第2の開閉器11を設けている(図1参照)。このような回路を備えた本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1によれば、プラズマトーチに供給する電力を以下のように独立に制御することができる。
【0027】
すなわち、加熱・溶融時においては第1の回路の第1の開閉器12を閉じて第2の開閉器11を開けばよい。こうした場合、黒鉛電極式プラズマトーチ2に対しては第1の電源7が電力供給し、金属電極式プラズマトーチ3に対しては第2の電源8が電力供給するというように電力系統が複数となり、第1の電源7と第2の電源8によってそれぞれのアークプラズマ2,3を独立に制御することが可能である。したがって、廃棄物投入口4からの廃棄物投入量、溶湯14の出湯量、溶融の進行等といった溶融処理状況に応じて各プラズマトーチ2,3におけるアークプラズマを調整し加熱制御を行うことができる。
【0028】
また、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の起動時においては、第1の開閉器12を開き、第2の開閉器11を閉じることによって、第2の電源8→金属電極式プラズマトーチ3→黒鉛電極式プラズマトーチ2→第2の開閉器11→炉底電極6→第2の電源8というように周回する1本の直列の電流経路を形成することができ(図2参照)、これにより、黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3との間でアークプラズマを発生させることが可能となる(なお、図2〜図4では電流経路を矢印で表している)。この際、上述した前後動可能な機構により一方あるいは両方のプラズマトーチを前後動させて両プラズマトーチ2,3間の距離をアークプラズマの着火に必要な距離まで狭めることにより、両プラズマトーチ間にアークプラズマを発生させ、プラズマ溶融炉13内で凝固したスラグを溶融することができる。このようにして溶融したスラグ(溶湯)は再び導電性を発揮する。したがって、第2の電源8→金属電極式プラズマトーチ3→溶融スラグ(溶湯)→炉底電極6→第2の電源8という電流経路が確立し、この状態で第2の開閉器11を開き黒鉛電極式プラズマトーチ2を炉底電極6から切り離したとしても金属電極式プラズマトーチ3は安定した状態でアークプラズマを発生し続けることができる(図3参照)。この状態で第1の開閉器12を閉じれば上述したように黒鉛電極式プラズマトーチ2にも第1の電源7から電力を供給してアークプラズマを発生させることができる(図4参照)。
【0029】
以上のような構成の本実施形態の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1によれば、廃棄物投入口4の近傍におけるアークプラズマの不安定性を回避すると同時に、出湯口5の近傍ではスラグ(溶湯)を的確に加熱昇温して出湯時における閉塞を防止することができ、これによりプラズマ溶融炉を安定した状態で運転することが可能となる。また、これらプラズマトーチ2,3へ供給する電力、更には冷却水やガスを独立に制御することにより、廃棄物の投入、溶湯14の出湯、溶融の進行等の状況に応じた精緻な制御ができ、エネルギー効率の高い運転を行うことができる。
【0030】
しかも、廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の起動時においては、前後に配置された両プラズマトーチ2,3間でアークプラズマをいったん発生させて凝固スラグを溶融し、導電性を取り戻させた後で各プラズマトーチ2,3を独立して加熱制御するというように、凝固スラグの導電性がないことを前提とした起動方法を確立している。このため、起動時において簡易に起動することが可能となっている。
【0031】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では簡易な起動を実現するための一手法として黒鉛電極式プラズマトーチ2と金属電極式プラズマトーチ3との間にアークプラズマを発生させる場合について説明したがこれとは別の手法を採用することもできる。以下、別の起動手法を採用した本発明の他の実施形態を示す(図7参照)。導電性耐火物10は、図示するようにその一部が炉底電極6と接続されることによってこの炉底電極6と同電位となっているもので、更に本実施形態の場合には、溶湯14の液面レベルより上位であって少なくともスラグが付着しない高さとなるようにプラズマ溶融炉13の内壁に沿って廃棄物投入口4側に延びるように設置されている。また、この導電性耐火物10と黒鉛電極式プラズマトーチ2の先端との距離は、炉底電極6と金属電極式プラズマトーチ3の先端との距離と同程度となっている。この導電性耐火物10に好適な材料・材質としては、例えば黒鉛、カーボンを含有した耐火物(MgO-C、ドロマイト-C、Al2O3-SiC-C、Al2O3-MgO-C)が挙げられる。廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1の起動時においては、この導電性耐火物10と黒鉛電極式プラズマトーチ2との間でアークプラズマを発生させることができ、これによって廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置1を簡便に起動することが可能となっている。なお、ここでは導電性耐火物10と黒鉛電極式プラズマトーチ2との間でアークプラズマを発生させるようにした例を説明したが、これとは逆に導電性耐火物10と金属電極式プラズマトーチ3との間でアークプラズマを発生させても起動を簡便に行うことができる。
【0032】
また、特に図示はしないが、上述した実施形態のように2本のプラズマトーチ2,3を前後2箇所に配置する他、更に別のプラズマトーチを配置して合計3本以上としても構わない。このように3本以上のプラズマトーチを用いる場合、廃棄物投入口4の近傍と出湯口5の近傍に配置されたプラズマトーチ以外のプラズマトーチには、黒鉛電極式または水冷金属電極式のいずれかを用いる。
【0033】
【発明の効果】
以上の説明より明らかなように、請求項1記載の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法は、黒鉛電極式プラズマトーチの高い安定性と金属電極式プラズマトーチの高い加熱能力という両者の特長を活かす組合せ及び配置としたことにより、アークプラズマの不安定性を回避するとともに出湯口近傍の溶湯を的確に加熱して出湯口が閉塞してしまうのを防止することが可能となっている。このため、アークプラズマの安定性を損なうことなく安定した運転を行うことが可能となっている。
【0034】
また、黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを第1の電源および第1の開閉器を介して結ぶ第1の回路と、金属電極式プラズマトーチと炉底電極とを第2の電源を介して結ぶ第2の回路とを備え、黒鉛電極式プラズマトーチには第1の電源から電力を供給し、金属電極式プラズマトーチには第2の電源から電力を供給して、廃棄物投入口の近傍に配置された黒鉛電極式プラズマトーチによって投入口近傍の溶湯を加熱制御すると共に、出湯口近傍に配置された金属電極式プラズマトーチによって出湯口近傍の溶湯を加熱制御するようにしているので、廃棄物の投入、溶湯の出湯、溶融の進行等の諸状況に応じて精緻に加熱エネルギーを制御することが可能となることから、エネルギー効率の高い運転を行うことができる。これに加えて、冷却水供給、ガス供給についてもそれぞれ独立に制御することによりエネルギー効率の更なる向上が可能となる。
【0035】
また、起動時には、第1の開閉器を開き、第2の開閉器を閉じることにより、短絡路において黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを接続させ、黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方を他方のプラズマトーチに対してアークプラズマを着火可能に接近させて、黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間でアークプラズマを発生させ、溶湯が形成されて金属電極式プラズマトーチと炉底電極との間の電流経路が確立した後には、第2の開閉器を開き、第1の開閉器を閉じることにより、第1の回路において黒鉛電極式プラズマトーチと炉底電極とを接続させ、廃棄物投入口の近傍に配置された黒鉛電極式プラズマトーチによって投入口近傍の溶湯を加熱制御すると共に、出湯口近傍に配置された金属電極式プラズマトーチによって出湯口近傍の溶湯を加熱制御するというように、凝固したスラグには導電性がないことを前提とした起動方法を確立しており、簡易に起動することが可能である。
【0036】
また、請求項1記載の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法によると、装置の起動時において黒鉛電極式プラズマトーチと金属電極式プラズマトーチとの間隔を調節することによってアークプラズマがより発生しやすい状況をつくることができる。
【0037】
さらに請求項2記載の廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法によると、装置の起動時に、黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方を導電性耐火物に対してアークプラズマを着火可能に近接させて、プラズマトーチと導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させるようにしているので、簡便に起動することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の一実施形態を示す概念図である。
【図2】廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の起動時における電流経路を示す図である。
【図3】黒鉛電極式プラズマトーチを炉底電極から切り離した後の電流経路を示す図である。
【図4】図3に示した廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置において、更に第1の電源から黒鉛電極式プラズマトーチに電力供給した状態を示す図である。
【図5】プラズマトーチを旋回させる駆動機構の一例を示す概略図である。
【図6】黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチへのガス供給系統の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示す概念図で、プラズマ溶融炉内に導電性耐火物を備えた廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を表したものである。
【符号の説明】
1 廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置
2 黒鉛電極式プラズマトーチ
3 金属電極式プラズマトーチ
4 廃棄物投入口
5 出湯口
6 炉底電極
7 第1の電源
8 第2の電源
9 短絡路
10 導電性耐火物
11 第2の開閉器
12 第1の開閉器
13 プラズマ溶融炉
14 溶湯

Claims (2)

  1. 溶融対象物たる廃棄物と接触した場合にも溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチ前記廃棄物の投入口の近傍に配置される一方で、指向性の高いアークプラズマを発生する金属電極式プラズマトーチ溶融処理後の廃棄物の出湯口近傍に配置され、さらにこれら黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくともいずれかと対向する炉底電極と、前記黒鉛電極式プラズマトーチと前記炉底電極とを第1の電源および第1の開閉器を介して結ぶ第1の回路と、前記金属電極式プラズマトーチと前記炉底電極とを第2の電源を介して結ぶ第2の回路と、前記黒鉛電極式プラズマトーチと前記炉底電極とを第2の開閉器を介して結ぶ短絡路とを備え、前記黒鉛電極式プラズマトーチおよび前記金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方が他方のプラズマトーチに対し接近しあるいは遠ざかることを可能とした廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を用い、
    起動時には、前記第1の開閉器を開き、前記第2の開閉器を閉じることにより、前記短絡路において前記黒鉛電極式プラズマトーチと前記炉底電極とを接続させ、前記黒鉛電極式プラズマトーチと前記金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方を他方のプラズマトーチに対してアークプラズマを着火可能に接近させて、前記黒鉛電極式プラズマトーチと前記金属電極式プラズマトーチとの間でアークプラズマを発生させ、
    溶湯が形成されて前記金属電極式プラズマトーチと前記炉底電極との間に電流経路が確立した後には、前記第2の開閉器を開き、前記第1の開閉器を閉じることにより、前記第1の回路において前記黒鉛電極式プラズマトーチと前記炉底電極とを接続させ、前記廃棄物投入口の近傍に配置された前記黒鉛電極式プラズマトーチによって前記投入口近傍の溶湯を加熱制御すると共に、前記出湯口近傍に配置された前記金属電極式プラズマトーチによって前記出湯口近傍の溶湯を加熱制御することを特徴とする廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法
  2. 溶融対象物たる廃棄物と接触した場合にも溶融処理の継続が可能な黒鉛電極式プラズマトーチ前記廃棄物の投入口の近傍に配置される一方で、指向性の高いアークプラズマを発生する金属電極式プラズマトーチ溶融処理後の廃棄物の出湯口近傍に配置され、さらにこれら黒鉛電極式プラズマトーチおよび金属電極式プラズマトーチの少なくともいずれかと対向する炉底電極と、一部が前記炉底電極に接続されると共に前記廃棄物の溶湯の液面レベルよりも上位であって少なくともスラグが付着しない高さとなるように炉の内壁に沿って前記投入口側に延びるように設置された導電性耐火物と、前記黒鉛電極式プラズマトーチと前記炉底電極とを第1の電源を介して結ぶ第1の回路と、前記金属電極式プラズマトーチと前記炉底電極とを第2の電源を介して結ぶ第2の回路とを備え、前記黒鉛電極式プラズマトーチおよび前記金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方が前記導電性耐火物に対し接近しあるいは遠ざかることを可能とした廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置を用い、
    起動時には、前記黒鉛電極式プラズマトーチおよび前記金属電極式プラズマトーチの少なくとも一方を前記導電性耐火物に対してアークプラズマを着火可能に近接させて、前記プラズマトーチのいずれか一本と前記導電性耐火物との間でアークプラズマを発生させ、
    溶湯が形成されて前記プラズマトーチの他方と前記炉底電極との間の電流経路が確立した後には、前記廃棄物投入口の近傍に配置された前記黒鉛電極式プラズマトーチによって前記投入口近傍の溶湯を加熱制御すると共に、前記出湯口近傍に配置された前記金属電極式プラズマトーチによって前記出湯口近傍の溶湯を加熱制御すること特徴とする廃棄物処理用プラズマ溶融処理装置の運転方法
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