JP4446294B2 - ハードディスク保護層バニッシュ用研磨フィルムおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハードディスク保護層バニッシュ用研磨フィルムおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
通常、ハードディスクドライブは、その使用に際し、モーターによって磁気ディスク基板が回転した時(記録再生時)に磁気ヘッドが浮上し、モーター停止時に、磁気ヘッドは、磁気ディスクに接触するCSS(コンタクトスタートストップ)方式を採用している。この方式により高速摺動による磁気ディスクの摩耗を抑制することが可能となる。また、近年、磁気ディスクの高密度記録化に伴い、記録再生時の磁気ヘッドと磁気ディスクの間隔である磁気ヘッドの浮上量は、益々小さくなってきている。通常、磁気ディスクは、磁性膜を保護するために磁性膜の上にカーボン等の材料からなる保護層を形成する。保護層形成後の磁気ディスクは、表面に突起が存在しており、これが残存していると、記録再生時に磁気ヘッドが突起に衝突しヘッドクラッシュを引き起こす。そのため、保護層を研磨フィルムによってバニッシュ研磨し、表面の突起を除去する。
【0003】
従来の技術においては、研磨フィルムにイオン性不純物が含まれているため、保護層をバニッシュ研磨した際に磁気ディスク表面に発生した微小な摩耗傷にイオン性不純物(特に金属の腐食性の高い塩素イオン)が転移し、腐食等の表面欠陥を促進させていることが問題となっていた。この解決策としては、特開平10−143857号公報に開示されているように、塩素イオン含有量が80μg/m2(=0.008μg/cm2)以下、硫酸イオン含有量が40μg/m2(=0.004 μg/cm2)以下である研磨体を用いた磁気記録媒体の製造方法が提案されている。すなわち、塩素イオンや硫酸イオンのイオン量が少ない研磨体がハードディスクの保護層のバニッシュ研磨に好適であることが提案されていた。イオン量は、一般的に研磨フィルムを超純水中に浸し、超音波処理もしくは熱処理後に超純水中に溶出したイオンの溶出量をイオンクロマト分析にて定量された値であり、バニッシュ研磨の際にハードディスク保護層表面へ転移するイオン量の目安とされている。
【0004】
ハードディスク保護層のバニッシュ用研磨フィルムにおいては、通常、酸化アルミニウムが研磨剤粒子として使用されている。酸化アルミニウムは、その製法上、イオン性不純物が含まれているため研磨フィルム形態においてもイオン性不純物が残留している。これを回避するためには、特定の製法で作製された市販の高純度酸化アルミニウムを研磨剤粒子として使用すれば可能であった。
【0005】
一方、ハードディスク保護層のバニッシュ用研磨フィルムに要求される研磨特性は、ハードディスクの保護層の材質や研磨装置種、研磨条件によって異なるため、低研磨レートから高研磨レートまで非常に広範囲である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、研磨フィルムから被研磨体であるハードディスク保護層表面へ転移するイオン性不純物、特に金属腐食性の高い塩素イオンを低減させるためには研磨剤粒子を特定の製法で作製された高純度酸化アルミニウムのみに限定されてしまう。そのため、ハードディスクの保護層のバニッシュ研磨に好適な研磨特性が低研磨レートから高研磨レートまで広範囲である研磨フィルムを提供することが困難になるといった問題があった。
【0007】
本発明の目的は、ハードディスク保護層のバニッシュ用研磨フィルムにおいて、研磨フィルムからハードディスク保護層表面へイオン性の不純物を転移させることなくバニッシングする加工工程で使用するのに適し、しかも、低研磨レートから高研磨レートまで広範囲に亘る研磨特性を有した研磨フィルムを、通常使用されている安価な研磨剤粒子を使用しても提供できるようにすることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の一つの観点によれば、研磨剤粒子および該研磨剤粒子の表面コーティング剤または結着剤を含む研磨層を有するハードディスク保護層バニッシュ用研磨フィルムにおいて、前記表面コーティング剤または結着剤は、-SO3H、−COOH、−NH2の親水性官能基がいずれか1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一つの実施の形態によれば、前記研磨層における前記ポリウレタン樹脂の量は、前記研磨剤粒子の100重量部に対して、17から40重量部である。
【0010】
本発明の別の観点によれば、研磨剤粒子および該研磨剤粒子の表面コーティング剤または結着剤を含む研磨層を有するハードディスク保護層バニッシュ用研磨フィルムを製造する方法において、-SO3H、-COOH、-NH2の親水性官能基がいずれか1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂からなる表面コーティング剤と研磨剤粒子とを先に分散、混練することにより調製された研磨塗料を用いて研磨層を形成することを特徴とする。
【0011】
本発明の更に別の観点によれば、研磨剤粒子および該研磨剤粒子の表面コーティング剤または結着剤を含む研磨層を有するハードディスク保護層バニッシュ用研磨フィルムを製造する方法において、-SO3H、−COOH、−NH2の親水性官能基がいずれか1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂以外の表面コーティング剤と研磨剤粒子とを先ず分散、混練し、その後に、-SO3H、−COOH、−NH2の親水性官能基がいずれか1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂からなる結着剤を添加して更に分散、混練することにより調製された研磨塗料を用いて研磨層を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明の一つの実施の形態によれば、前記研磨塗料は、前記研磨層における前記ポリウレタン樹脂の量が前記研磨剤粒子の100重量部に対して、17から40重量部となるように調製される。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態および実施例について、本発明をより詳細に説明するのであるが、その前に、本発明者等が本発明に至った考察過程について説明しておく。
【0014】
本発明者は、ハードディスクの保護層のバニッシュ研磨において、研磨フィルムの形態でのイオン性不純物の溶出量の低減化について鋭意研究を重ねた結果、研磨剤粒子の表面コーティング剤または結着剤として、-SO3H(スルホン基)、−COOH(カルボキシル基)、−NH2(アミノ基)が官能基として1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂を用いて研磨剤粒子の表面に被膜を形成することにより、研磨フィルム形態におけるイオン性不純物の溶出が少ない研磨フィルムが得られることを見出した。
【0015】
現在、市販されている酸化アルミニウムは、アンモニウム明ばんの熱分解法、有機金属加水分解法、エチレンクロルヒドリン法、アルミニウムの水中火花放電法、アンモニウムアルミニウム炭酸塩(AACH)熱分解法、気相酸化法、バイヤー法等の製法で製造されたものである。この中で、有機金属加水分解法で作製された酸化アルミニウムは、最も高純度品が製造し易い方法であり、研磨剤粒子として使用した場合、イオン性不純物の少ない研磨フィルムが得られる。
【0016】
しかしながら、研磨特性は、研磨剤粒子の粒子サイズ、形状等に大きく影響されるため、有機金属加水分解法で作製された酸化アルミニウムのみに研磨剤粒子の選択肢を限定してしまうと、低研磨レートから高研磨レートまで広範囲の研磨フィルムを得ることが困難であった。
【0017】
そこで、本発明者等は、研磨剤粒子の選択肢を広くするために、研磨剤粒子の表面にイオン性不純物の溶出を低減させる機能を付与したコーティング被膜を形成した。コーティング剤は、次の2点の特性を満足する材料でなければならない。第1に、イオン性不純物を溶出させない材料であること。塩素イオンや硫酸イオン等を溶出させる材料の他、イオンとして解離性の高い金属塩やアンモニウム塩等が構造中に含まれている材料も不適である。金属塩やアンモニウム塩等が構造中に含まれている材料が研磨フィルム中に含まれていると、バニッシュ研磨の際に磁気ディスクの保護層表面に転移した金属塩やアンモニウム塩が、更に磁気ヘッドに転移することにより金属製材料である磁極部の導電性を悪化させ、リードライト特性を低下させると考えられているためである。第2に、バニッシュ研磨時に破壊されない被膜を形成できること。バニッシュ研磨時には、加工圧力が掛かるため、弾性変形し易く耐圧性の高い材料でなければならない。これら2点を満足する材料は、酸化アルミニウムの表面に対して相互作用が高く且つ比較的厚い被膜を形成し易い高分子材料である。酸化アルミニウムの表面に対して相互作用が高い高分子材料であるためには酸化アルミニウムの表面が親水性であることを考慮し、親水性官能基が付与されていることが望ましく、その官能基の中でもイオン解離性の高い金属塩やアンモニウム塩等を構造中に含まない親水性官能基が付与されている高分子材料が好適である。更に高分子材料中でバニッシュ研磨時の加工圧力に対して弾性変形し易い材料であるポリウレタン樹脂が最も好適であり、表面コーティングすることによってイオン性不純物の溶出を低減させ且つ研磨時に破壊されにくい柔軟性の高い被膜を研磨剤粒子の表面に形成させた。
【0018】
親水性官能基として、-SO3H、-SO3M(M:アルカリ金属または、-NH4)、-OSO3M、-COOM、-NR3X(R:アルキル基、X:ハロゲン)、−COOH、−NH2、-CN、-OH、-NHCONH2、-(OCH2CH2)n-、-CH2OCH3、-OCH3、-COOCH3、-CS等やこれらの縮合によって生じる種々の官能基等があるが、-SO3H(スルホン基)、−COOH(カルボキシル基)、−NH2(アミノ基)が官能基として1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂(以後、”-SO3H、−COOH、−NH2基付与ポリウレタン樹脂”と略す)でコーティングした研磨剤粒子は、研磨フィルム形態におけるイオン性不純物の溶出が大幅に減少した。このことは、-SO3H、−COOH、−NH2が官能基として1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂が酸化アルミニウム表面でイオン性不純物の溶出を防止する機能を持つ被膜を形成していることを示している。また、これら官能基が付与されているポリウレタン樹脂は、官能基の一部が解離するイオン性高分子であり、例えば、-SO3Hは、部分的に、SO3 -+H+と解離する。イオン性高分子は、研磨剤粒子の表面への被膜形成および支持体上に保持されているため、バニッシュ研磨時にハードディスク保護層表面へこれらイオン性高分子が転移することはない。
【0019】
-NR3X(R:アルキル基、X:ハロゲン)基が付与されたポリウレタン樹脂は、官能基自体に金属腐食性の高い塩素イオン等を溶出させるため、その低減効果は低い。-CN、-OH、-NHCONH2、-(OCH2CH2)n-、-CH2OCH3、-OCH3、-COOCH3、-CS基が付与されたポリウレタン樹脂は、酸化アルミニウム表面に被膜が形成し難いためその低減効果は低い。
【0020】
イオン性不純物の溶出量は、研磨剤粒子の単位重量に対する-SO3H、−COOH、−NH2基付与ポリウレタン樹脂の添加量にも大きな影響を受ける。-SO3H、−COOH、−NH2基付与ポリウレタン樹脂は、表面コーティング剤もしくは結着剤として利用可能であるが、その合計添加重量部がイオン性不純物の溶出量に影響を及ぼす。研磨剤粒子100重量部に対する-SO3H、−COOH、−NH2付与ポリウレタン樹脂の重量部が17重量部より少ないと研磨フィルム形態におけるイオン性不純物の溶出を低減する効果は低い。これはポリウレタン樹脂による被膜は、膜厚を完全に均一に形成できないので、添加量が少ないと被膜が形成されていない研磨剤粒子の表面が存在し、そこからイオン性不純物が溶出してしまうためである。一方、研磨剤粒子100重量部に-SO3H、−COOH、−NH2基付与ポリウレタン樹脂の重量部が40重量部より多い場合、被膜は、より厚く形成されイオン性不純物の溶出防止に対しては有利であるが研磨フィルムの品質安定性に問題が生じる。通常、ハードディスク保護層バニッシュ用の研磨フィルムは、一定幅でスリットされ、ロール状に巻かれた製品形態(以後、”研磨テープ”と略す)となっている。研磨テープは、ロール状に巻く時のテンションによって研磨層の表面に巻き締め応力が働き、その大きさは、最内周で最大となる。そのため、主に研磨層を構成している研磨剤粒子、表面コーティング剤、結着剤等のうち、弾性変形し易い材料の配合比が高すぎると、巻き締め応力によって研磨剤粒子が結着剤中に埋め込まれてしまう現象(以後、”目潰れ”と呼ぶ)が発生し、巻き締め応力の高いロールの内周部ほどその発生頻度は高い。また、目潰れは、保管環境(特に温度)や保管期間によって経時的に発生する。保管環境(特に温度)や保管期間によって目潰れが発生する研磨テープは、経時的に研磨レートが低下するのでロール間や製造ロット間の研磨特性のばらつきが大きくなり品質安定性が低い。
【0021】
従って、ハードディスク保護層バニッシュ用研磨フィルムにおいて、研磨剤粒子からイオン性の不純物の溶出を防止するために、-SO3H、−COOH、−NH2基付与ポリウレタン樹脂を研磨剤粒子の100重量部に対して17から40重量部の範囲で添加することが有効な手段であり、且つ高い品質安定性を保持するにも有効であると考察できる。
【0022】
次に、本発明の実施の形態および実施例について詳述する。
【0023】
添付図面の図1は、本発明の一実施例としてのハードディスク保護層バニッシュ用研磨フィルムの断面構造を模式的に示している。この図1に示されるように、本実施例の研磨フィルムは、支持体5上に、表面コーティング剤1、研磨剤粒子2および結着剤3からなる研磨層4を形成してなっている。
【0024】
先ず、本発明に使用する表面コーティング剤1について述べる。表面コーティング剤1は、研磨剤粒子2をパッキングすることによって被膜を形成し、研磨剤粒子からのイオン性不純物の溶出を防止するために使用されている。すなわち、ハードディスク保護層をバニッシュ研磨する場合に研磨層からのイオン性不純物の転移を低減させることを目的としている。本発明によれば、この表面コーティング剤には、-SO3H、−COOH、−NH2官能基がいずれか1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂が使用される。柔軟性の高いポリウレタンが基本骨格である樹脂を用いることにより、バニッシュ研磨時に破壊されにくい弾性被膜が形成できる。表面コーティング剤の添加量は、すべての研磨剤粒子の表面に被膜を形成できる量以上添加すればイオン性不純物の溶出量の低減効果は高く、表面コーティング剤そのものを結着剤として使用することもできる。また、-SO3H、−COOH、−NH2基付与ポリウレタン樹脂は、結着剤のみとして使用することも可能である。研磨塗料の作製方法の詳細は、後述するが、表面コーティング剤および結着剤の調合時の添加順序は、表面コーティング剤が先である。-SO3H、−COOH、−NH2基付与ポリウレタン樹脂を添加順序が後である結着剤のみとして使用した場合でも、研磨フィルムのイオン性不純物の溶出を低減する効果は高い。-SO3H、−COOH、−NH2基付与ポリウレタン樹脂を後から結着剤として添加した場合でも研磨剤粒子表面との相互作用が強く、先に添加した樹脂との吸着置換をしコーティング被膜を形成するためである。
【0025】
研磨層において研磨剤粒子100重量部に対する表面コーティング剤の重量部は、17〜40重量部であることが望ましい。前述したように、研磨剤粒子100重量部に対する表面コーティング剤の重量部が17重量部より少ないと、研磨フィルム形態におけるイオン性不純物の溶出を低減する効果は低く、40重量部より多い場合、研磨フィルムの品質安定性に問題が生じるためである。また、-SO3H、−COOH、−NH2官能基3種による低減効果の差異はほとんどない。
【0026】
本発明において用いられる研磨剤粒子2は、現在市販されている酸化アルミニウム粒子であり、いずれの製法で製造されたものも使用することができる。通常、ハードディスク保護層バニッシュ用の研磨フィルムに用いられる研磨剤粒子の平均粒子サイズは、0.1〜4μm程度である。
【0027】
本発明に用いられる結着剤3は、研磨剤粒子2を支持体5上に保持するために用いられ、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂や、これらを混合して使用することができる。また、前述したように、本発明で表面コーティング剤1として使用している-SO3H、−COOH、−NH2基付与ポリウレタン樹脂を結着剤3としても使用することもできる。
【0028】
上記の熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂、アクリル−ポリエステル系樹脂、純アクリル系樹脂、変性アクリル系樹脂、塩ビ系樹脂、塩ビ酢ビ系樹脂、ニトロセルロース−アクリル系樹脂、アルキッド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ニトリルゴム、シリコンゴム、ニチレン塩ビゴム系樹脂、フッ素ゴム系樹脂、その他水溶性樹脂、エマルジョン系樹脂等が使用できる。
【0029】
熱硬化性樹脂としては、ポリエステル系樹脂、アクリポリオール系樹脂、アクリル−ウレタン系樹脂、ポリエステル−ウレタン系樹脂、変性アクリルポリオールウレタン系樹脂、アクリル−キレート硬化型樹脂、エポキシまたはエポキシペンダントアクリル樹脂、ポリオルガノシロキサン樹脂、各種UV硬化型樹脂、ウレタン化油系樹脂、湿気硬化ポリウレタン樹脂、フッ素系樹脂等が使用できる。ただし、これらの希釈液としてイオン性材料が使用されている場合や、イオン性不純物が多い材料は適さない。
【0030】
研磨剤粒子2の100重量部に対する表面コーティング剤1と結着剤3を合わせた量は、17〜60重量部であることが望ましい。表面コーティング剤1と結着剤3を合わせた量が17重量部の場合は、結着剤3は使用されておらず、表面コーティング剤だけで研磨剤粒子2を支持体5上に保持している。60重量部より多い場合、特に結着剤として熱可塑性樹脂を用いた場合、前述したような目潰れが発生し易くなり、品質安定性に問題が生じる。
【0031】
研磨層4は、表面コーティング剤1と研磨剤粒子2と結着剤3から構成され、必要ならば添加剤等も含まれる。研磨層4の形成は、研磨塗料を支持体の上に塗布することによって行なわれる。研磨層4の厚みは、特に、制限はないが、通常、3〜20μm程度に形成する。
【0032】
次に、研磨塗料の製法について説明する。最初に、表面コーティング剤1と研磨剤粒子2、希釈溶液等を含む前処理研磨塗料の分散、混練を行なう。このとき、結着剤3やその他添加剤等は添加しない方が好ましい。効率よく研磨剤粒子の表面に被膜を形成するためである。分散、混練を行う装置としては、例えば、ボールミル、振動ミル、アトライタ、ビーズミル、サンドミル、パールミル、ロールミル、ディスクキャビテーションミキサー、ステーターローター、ケデーミル、コロイドミル、パグミキサー、ブラネタリーミキサー、Zブレードミキサー等の各種分散機、混練機を利用でき、更にその他の分散機、混練機も利用可能であり、特に制限はない。その後、結着剤3、必要であれば、各種添加剤を攪拌しながら均一に混ぜて最終組成に調整する。最初の前処理塗料の分散、混練時は結着剤3やその他添加剤等は添加しない方が好ましいが、必要に応じて材料の添加順序を適宜変更することは可能である。
【0033】
支持体5上へ研磨層4を形成する方法としては、通常の研磨フィルムの作製法がそのまま使用できる。具体的な研磨塗料の塗布方法として、正回転ロールコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、ブレードコート法、ロッドコート法、エアドクターコート法、カーテンコート法、ファウンテンコート法、キスコート法、スクリーンコート法、スピンコート法、キャストコート法、スプレイコート法、押出コート法、粉体コート法、電着コート法等が利用でき、更にその他の方法も利用可能である。
【0034】
本発明に用いられる支持体5には、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリイミドフィルム等の各種プラスチックフィルムが使用でき、更にその他のプラスチックフィルムも使用可能であり、特に制限はない。また、支持体5の厚みは、磁気ヘッドの材質種や加工装置によって異なり、通常、25μmもしくは50μmのものが汎用されるが、特に制限はない。
【0035】
次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。
【0036】
− NH 2 基付与ポリウレタン樹脂を添加した研磨フィルムと未添加の研磨フィルムの塩素イオン溶出量
実施例1では、高親水性官能基である−NH2(アミノ)基が付与されたポリウレタン樹脂の添加による研磨フィルムの塩素イオン溶出防止効果について検討を行った。比較例1〜3では、末端−OH基のみが付与されたポリウレタン樹脂およびポリウレタン以外の樹脂を添加した研磨フィルムの塩素イオン溶出防止効果について検討を行った。
【0037】
研磨フィルムの材料について説明する。研磨剤粒子としては、実施例1および比較例1〜3すべて気相法で作製された平均粒子サイズ約0.4μmの酸化アルミニウム(住友化学(株)製、商品名:スミコランダムAA-04)を用いた。塩素イオン不純物の含有量は、数百μg/mgと非常に多い。
【0038】
実施例1の表面コーティング剤としては、アミノ基が付与されたポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン(株)製、試作品)(以下、”ポリウレタン1”と略す)を用いた。比較例1〜3の表面コーティング剤としては、それぞれ末端水酸基のみで高親水性官能基が付与されていないポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン(株)製、商品名:N-3022)(以下、”ポリウレタン2”と略す)、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂(日信化学(株)製、商品名:ソルバインA)(以下、”塩ビ酢酸ビ1”と略す)、エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ(株)製、商品名:エピコート1009)(以下、”エポキシ1”と略す)を用いた。
【0039】
実施例1および比較例1〜3の結着剤は、それぞれの表面コーティング剤をそのまま用いた。支持体は、実施例1および比較例1〜3すべて厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人(株)製)を用いた。
【0040】
次に、研磨層の形成方法について説明する。最初に研磨剤粒子100重量部に対して12.5重量部の表面コーティング剤(未使用の場合は結着剤)のラッカー液に研磨剤粒子を攪拌しながら添加した。次いで希釈有機溶剤を添加して粘度調整し、ビーズミル分散機を用いて分散した。分散終了後、各々必要量の結着剤を添加し、最後に希釈有機溶剤を加えて塗料粘度が300〜700cps程度に調整し、研磨塗料を作製した。研磨塗料の支持体上への塗布方法は、ナイフコート法で行い、乾燥後の厚さが約5μmになるように研磨層を形成した。最終的な研磨フィルムの項像は、厚さが25μmの支持体(ポリエチレンテレフタレートフィルム)上に厚さが約5μmの研磨層を形成した構造となっている。
【0041】
塩素イオンの溶出量の測定は、ダイオネクス社製のイオンクロマト分析装置(RD-500)を用いた。研磨フィルム(12.7mm幅×1m長)を50mlの超純水中に浸し、15分超音波処理した後に溶出した塩素イオンを定量測定し、研磨フィルム単位面積当たりのイオン量を算出した。
【0042】
図3に示す表−1に、実施例1、比較例1〜3に使用した表面コーティング剤と結着剤の添加量(研磨剤粒子100重量部に対する添加重量部)および単位面積当りの塩素イオン溶出量をまとめて示す。
【0043】
この表−1から分かるように、ポリウレタン1を用いた場合である実施例1の塩素イオン溶出量は、研磨剤粒子が同じであるにも関わらず、これら以外の樹脂を用いた比較例1〜3と比べて、1/6以下であった。アミノ基が付与されているポリウレタン樹脂を添加することにより、これら樹脂を添加していない場合と比較し、研磨フィルム単位面積当りの塩素イオン溶出量が大幅に低減したことが分かる。
【0044】
− NH 2 基付与ポリウレタン樹脂とこれら以外の樹脂を混合添加した研磨フィルムの塩素イオン溶出量
実施例2〜5では、−NH2基が付与されたポリウレタン樹脂とこれら以外の樹脂を混合添加した研磨フィルムの塩素イオン溶出防止効果について検討を行った。比較例4では、末端水酸基のみが付与されたポリウレタン樹脂を実施例2〜5と同量添加した研磨フィルムの塩素イオン溶出防止効果について検討を行った。
【0045】
研磨フィルムの材料について説明する。実施例2〜5および比較例4の研磨剤粒子は、すべて実施例1と同様である。
【0046】
実施例2〜4の表面コーティング剤は、実施例1と同様であるポリウレタン1を用いた。実施例5および比較例4の表面コーティング剤は、前述した比較例1と同様であるポリウレタン2を用いた。
【0047】
実施例2〜5に用いた結着剤は、それぞれ順にポリウレタン2、塩ビ酢酸ビ1、エポキシ1、ポリウレタン1を用いた。比較例4に用いた結着剤は、ポリウレタン2である。
【0048】
実施例2〜5および比較例4に用いた支持体は、すべて前述した支持体と同様である。研磨層の形成方法、塩素イオンの溶出量の測定方法も前述した方法と同様である。
【0049】
図4に示す表−2に、実施例2〜5、比較例4に使用した表面コーティング剤と結着剤の添加量(研磨剤粒子100重量部に対する添加重量部)および単位面積当りの塩素イオン溶出量をまとめて示す。
【0050】
この表−2から分かるように、表面コーティング剤もしくは結着剤としてポリウレタン1を用いた場合である実施例2〜5の塩素イオン溶出量は、研磨剤粒子が同じであるにも関わらず、ポリウレタン1を用いていない比較例4に比べて、すべて約1/4であった。
【0051】
表面コーティング剤もしくは結着剤としてアミノ基が付与されたポリウレタン1を添加することにより、これら樹脂を添加していない場合と比較し、研磨フィルム単位面積当りの塩素イオン溶出量が大幅に低減したことが分かった。
【0052】
− NH 2 基付与ポリウレタン樹脂の添加量が異なる研磨フィルムの塩素イオン溶出量と品質安定性
実施例6〜9、比較例5〜7では、−NH2基付与ポリウレタン樹脂の添加量が異なる研磨フィルムの塩素イオン溶出防止効果および品質安定性について検討を行った。
【0053】
研磨フィルムの材料について説明する。実施例6〜9および比較例5〜7の研磨剤粒子は、すべて実施例1と同様である。実施例6〜9、比較例5〜7の表面コーティング剤および結着剤は、すべて実施例1と同様であるポリウレタン1を用いた。
【0054】
実施例6〜9、比較例5〜7に用いた支持体は、すべて前述した支持体と同様である。研磨層の形成方法、塩素イオンの溶出量の測定方法も前述した方法と同様である。
【0055】
品質安定性の評価について説明する。研磨フィルムを12.7mm幅×100m長のロール形態にし、温度50℃、湿度90%の環境下に1週間放置した。放置前に対する放置後の研磨能力の低下率から品質安定性の評価を行った。
【0056】
図5に示す表−3に、実施例6〜9、比較例5〜7に使用した表面コーティング剤と結着剤の添加量(研磨剤粒子100重量部に対する添加重量部)および単位面積当りの塩素イオン溶出量、品質安定性の評価結果をまとめて示す。
【0057】
添付図面の図2は、研磨フィルムの塩素イオン溶出量とポリウレタン1の添加量との関係を示す。この図2のグラフから分かるように、ポリウレタン1の合計添加量の増加に伴い、研磨フィルムの塩素イオン溶出量は減少し、研磨剤粒子100重量部に対する添加量が17重量部以上の場合、塩素イオン溶出量は著しく低減した。
【0058】
一方、図5の表−3に示されるように、研磨剤粒子100重量部に対するポリウレタン1の合計添加重量部が40以下である実施例10〜12は、研磨能力の低下はほとんど発生していないのに対し、ポリウレタン1の合計添加重量部が40より多い比較例6〜7は、著しく研磨能力の低下が起こった。
【0059】
これらの実施例6〜9および比較例5〜7の結果から、研磨剤粒子100重量部に対して−NH2基が付与されたポリウレタン樹脂を表面コーティング剤または結着剤として17〜40重量部添加することにより、塩素イオンが不純物として多く含まれている研磨剤粒子を使用した場合でも、塩素イオン溶出量が少なく、且つ品質安定性の高い研磨フィルムを得ることが可能となった。
【0060】
-SO 3 H 、− COOH 基付与ポリウレタン樹脂の添加量が異なる研磨フィルムの塩素イオン溶出量
実施例10〜13および比較例8〜9では、表面コーティング剤および結着剤として高親水性官能基であるカルボキシル基、スルホン基が付与されたポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン(株)製、試作品)(以下、それぞれ順に”ポリウレタン3”、”ポリウレタン4”と略す)を用いた。研磨剤粒子種、支持体種、作製方法、構成についてはすべて前述したものと同様である。
【0061】
図6に示す表−4に、実施例10〜13および比較例8〜9の表面コーティング剤および結着剤の添加量および単位面積当りの塩素イオン溶出量を示している。この表−4から分かるように、カルボキシル基またはスルホン基が付与されたポリウレタン樹脂が研磨剤粒子100重量部に対して17重量部以上添加している研磨フィルムは、これら添加量の少ない比較例8〜9と比較して塩素イオン溶出量が大幅に減少していた。
【0062】
また、カルボキシル基またはスルホン基が付与されたポリウレタン樹脂は、前述した実施例に用いたアミノ基が付与されたポリウレタン樹脂と同様に研磨フィルムの塩素イオン溶出量を低減させる効果が高いことが示されている。
【0063】
これらの実施例1〜13および比較例1〜9の結果から、研磨剤粒子100重量部に対して-SO3H、−COOH、−NH2の親水性官能基がいずれか1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂を表面コーティング剤または結着剤として17〜40重量部添加することにより、塩素イオンが不純物として含まれている研磨剤粒子を使用した場合でも、塩素イオン溶出量が少なく、且つ品質安定性の高い研磨フィルムを得ることが可能となった。すなわち、研磨剤粒子である酸化アルミニウムを特定の製法で製造されたものに限定する必要がなくなった。
【0064】
【発明の効果】
ハードディスク保護層のバニッシュ用研磨フィルムにおいて、研磨フィルムからハードディスク保護層表面へイオン性の不純物を転移させることなくバニッシングする加工工程で使用するのに適した研磨フィルムを低研磨レートから高研磨レートまで広範囲に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例としてのハードディスク保護層バニッシュ用研磨フィルムの断面構造を模式的に示す図である。
【図2】研磨フィルムの塩素イオン溶出量と研磨剤粒子に対するポリウレタン1の添加量の関係を表すグラフを示す図である。
【図3】本発明による実施例1および比較例1〜3の評価結果をまとめ表−1を示す図である。
【図4】本発明による実施例2〜5および比較例4の評価結果をまとめた表−2を示す図である。
【図5】本発明による実施例6〜9および比較例5〜7の評価結果をまとめた表−3を示す図である。
【図6】本発明による実施例10〜13および比較例8〜9の評価結果をまとめた表−4を示す図である。
【符号の説明】
1 表面コーティング剤
2 研磨剤粒子
3 結着剤
4 研磨層
5 支持体
Claims (2)
- 研磨剤粒子および該研磨剤粒子の表面コーティング剤または結着剤を含む研磨層を有するハードディスク保護層バニッシュ用研磨フィルムを製造する方法において、-SO3H、-COOH、-NH2の親水性官能基がいずれか1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂からなる表面コーティング剤と研磨剤粒子とを先に分散、混練することにより調製された研磨塗料を用いて研磨層を形成することを特徴とする製造方法。
- 研磨剤粒子および該研磨剤粒子の表面コーティング剤または結着剤を含む研磨層を有するハードディスク保護層バニッシュ用研磨フィルムを製造する方法において、-SO3H、−COOH、−NH2の親水性官能基がいずれか1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂以外の表面コーティング剤と研磨剤粒子とを先ず分散、混練し、その後に、-SO3H、−COOH、−NH2の親水性官能基がいずれか1つもしくは2種以上付与されたポリウレタン樹脂からなる結着剤を添加して更に分散、混練することにより調製された研磨塗料を用いて研磨層を形成することを特徴とする製造方法。
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