JP4443628B2 - 油脂結晶成長抑制剤 - Google Patents

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Description

本発明は、油脂結晶成長抑制剤に関する。より詳しくは、低温下における液体油脂の結晶成長抑制剤、及び該抑制剤を含有する油脂組成物に関する。
一般に、菜種油、米油、大豆油、綿実油等の油脂は常温では液体である。これらの液体油脂は、冷蔵庫や寒冷地等の低温下で保存されることにより、油に含有されるロウ成分や高融点トリグリセリドが結晶化する。その結果、油の流動性が失われたり、白濁や分離が生じたりする等、商品価値が低下するという問題がある。
また、現在、パーム油が油脂産業において注目されており、生産量も大豆油に次ぐ世界第2位の植物油脂の座を占め、油脂産業において不可欠の原料となっている。液体油脂としても、パーム油を配合した油脂組成物が提案されている。しかし、パーム油由来の油脂には、高融点のトリグリセリド成分であるPOP(2−オレオ−1,3ジパルミチン)等が含有されるため、低温で結晶成長が生じることにより、曇りが発生するという問題がある。
これらの問題を解決する為に、液体油脂は、原料油脂に溶剤等を加えて製造されるか、あるいは原料油脂をそのまま冷却して結晶化の原因となる固体脂を析出させた後、これを滴下式、遠心式、ろ過式等の手段によって分離するいわゆるウインタリング処理等を行って分別して製造される。例えば、低温で貯蔵されるマヨネーズやドレッシング類等に使用される液体油脂は、ウインタリング処理の条件を調整することにより、より多くの固体脂を除去したり、原料油脂を予めエステル交換して結晶性を低下させたものをウインタリング処理したりする等の方法によって製造されている。
しかしながら、ウインタリング処理により固体脂を除去する方法は、該処理能力によっては生産性の低下や液体油脂の歩留まりの低下につながりやすく、生産コストの上昇を招きやすい。
パーム油に関しても、ウインタリング処理により、高融点成分パームステアリン、低融点成分パームオレインに分別後、更にパームオレインを高融点成分PMF(palm mid fraction)と低融点成分スーパーオレインに分別することができる。しかし、スーパーオレインは、高融点のトリグリセリド成分がかなり低減されているものの、それでも曇り点は数℃であり、冷蔵庫や寒冷地、また冬場の保存では結晶が析出し、透明性が重要である家庭用油脂等の液体油脂に関しての商品化は困難である。
これに対して、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて、油脂の結晶成長を抑制させる技術が報告されている(特許文献1〜5参照)。また、特許文献6では、優れた可溶化力、乳化力を有するポリグリセリン脂肪酸エステルが開示されている。
特開昭63−79560号公報 特開平9−176680号公報 特開平10−245583号公報 特開2002−212587号公報 特開2004−189965号公報 特開2006−346526号公報
特許文献1〜6に開示されたポリグリセリン脂肪酸エステルをマーガリン等の透明性が要求されない油脂に配合して、該油脂を低温下に保存すると、油脂の結晶析出による外観変化は認められない。しかし、家庭用液体油脂のように透明性が重要となる液体油脂に配合した場合には、結晶成長抑制効果が十分なものではなく、更なる結晶成長抑制剤が求められる。
本発明の課題は、低温下での油脂の結晶成長を抑制する効果に優れ、さらにその効果が持続する油脂結晶成長抑制剤、及び該抑制剤を含有する油脂組成物を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水酸基価が850mgKOH/g以下であり、かつ、構成水酸基に占める1級水酸基の割合が50%以上であるポリグリセリンを用いて得られるポリグリセリン脂肪酸エステルであって、さらに、特定の水酸基価を有するものである場合に、該ポリグリセリン脂肪酸エステルを食用油脂に添加することにより、低温下の油脂における結晶成長を抑制し、曇りを発生しにくくする効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
〔1〕 水酸基価が850mgKOH/g以下であり、かつ、ポリグリセリンの全ての水酸基のうち1級水酸基含有率が50%以上であるポリグリセリンと、脂肪酸とのエステル化物であるポリグリセリン脂肪酸エステルであって、水酸基価が100mgKOH/g以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有してなる、油脂結晶成長抑制剤、ならびに
〔2〕 油脂と、前記〔1〕記載の油脂結晶成長抑制剤を含有してなる油脂組成物であって、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.005〜5重量%である、油脂組成物
に関する。
本発明の油脂結晶成長抑制剤は、低温下での油脂の結晶成長を抑制することができるという優れた効果を奏する。また、透明性が要求される液体油脂に配合しても曇りの発生が抑制され、その効果が持続されることから、該油脂の保存性が向上し、ひいては、商品価値の向上、及びハンドリングの改善に寄与することができる。
本発明の油脂結晶成長抑制剤の実質的な有効成分であるポリグリセリン脂肪酸エステルは、水酸基価が850mgKOH/g以下であり、かつ、ポリグリセリンの全ての水酸基のうち1級水酸基含有率が50%以上である特定のポリグリセリンと、脂肪酸をエステル化することにより得られる。
ポリグリセリンはグリセリンの重合物であり、グリセリンを脱水縮合する等して得られる分子内に水酸基とエーテル結合を有している物質をいう。通常、ポリグリセリンはグリセリンをアルカリ触媒下において常圧あるいは減圧下で加熱することにより得られる。また、使用目的によって窒素、水蒸気等の気体を通じて低沸点成分等を除去したり、イオン交換樹脂、イオン交換膜等によって使用した触媒等イオン成分を除去したり、活性炭等吸着剤を用いて色成分、臭成分を除去したり、水素添加等により還元処理を行ったり、あるいはまた、分子蒸留、精留によって分画する等して精製することができる。
なお、グリセリンを原料としてポリグリセリンを製造した場合、脱水縮合に際して分子内縮合が生じ、6員環や8員環等好ましくない副生成物が生じる。本発明においては、これらの副生成物が発生しないように、グリシドール、エピクロルヒドリン、モノクロロヒドリン等を原料として使用して、該副生成物を殆ど含有しないポリグリセリンを調製することができる。
ポリグリセリンの水酸基価は、油脂結晶成長抑制効果の観点から、850mgKOH/g以下であり、840mgKOH/g以下が好ましく、800mgKOH/g以下がより好ましい。作業性及び脂肪酸とのエステル化反応の観点から、750mgKOH/g以上が好ましい。また、ポリグリセリンを2種以上用いる場合は、加重平均することにより求められた水酸基価が上記範囲内であることが好ましく、各ポリグリセリンの水酸基価が上記範囲内であることがより好ましい。なお、本明細書において、「水酸基価」とは基準油脂試験分析法(ピリジン無水酢酸法、2.3.6.2−1996)により測定した値をいう。
ポリグリセリンの水酸基価を調整する方法としては、特に限定するものではない。例えば、グリセリン重合法、グリシドール重合法等に従ってポリグリセリンを調製する場合、重合反応時間の経過と共に水酸基価が低下するため、反応中のポリグリセリンの水酸基価低下過程を確認することにより、水酸基価を調整することができる。
また、ポリグリセリンの全ての水酸基のうち1級水酸基が占める割合(以降、1級水酸基含有率という)は、油脂結晶成長抑制効果の観点から、50%以上であり、55%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。上限値は、特に限定するものではないが、その効果を最大限に発揮させるためには100%以下であることが好ましい。また、ポリグリセリンを2種以上用いる場合は、加重平均することにより求められた1級水酸基含有率が上記範囲内であることが好ましく、用いられる各ポリグリセリンの1級水酸基含有率が上記範囲内であることがより好ましい。なお、本明細書において、「1級水酸基含有率」は、炭素原子及び水素原子の核磁気共鳴スペクトル(NMR)を測定する方法を用いて算出される。
ポリグリセリンの全ての水酸基のうち2級水酸基が占める割合(以降、2級水酸基含有率という)は、油脂結晶成長抑制効果の観点から、50%以下であり、45%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、0%であることがさらに好ましい。なお、ここでいう2級水酸基含有率は、下記式:
2級水酸基含有率(%)=100(%)−1級水酸基含有率(%)
により算出した値のことをいう。
1級水酸基含有率を調整する方法としては、特に限定するものではない。例えば、上記により得られたポリグリセリンに1級水酸基に選択的に反応する試薬、即ち、1級水酸基の保護基となる試薬を反応させて、ポリグリセリンの極性を変化させる。その後、1級水酸基を多く有するポリグリセリンほど極性が低くなることを利用して、1級水酸基を有するポリグリセリンを適宜選択することにより、1級水酸基含有率を調整することができる。なお、選択したポリグリセリンは、当業者に公知の方法に従って、保護基の脱離処理を行うとよい。
1級水酸基に選択的に反応する試薬としては、例えば、t -ブチルジフェニルシリルクロライド、イソブテン、1−トリメチルピリジニウムテトラフルオロボレート、t -ブチルジメチルシリルクロライド、クロロトリフェニルメチル等が挙げられる。
ポリグリセリンと前記試薬との反応比は、所望されるポリグリセリン中の1級水酸基の数にあわせて適宜調整されるが、確実に反応を進行させるため前記試薬を過剰量使用することが好ましい。例えば、前記試薬は、ポリグリセリン1モルに対して、好ましくは2〜10モル、より好ましくは3〜7モル使用される。
ポリグリセリンと前記試薬との反応は、反応の進行及び保護の確実性の観点から、好ましくは−78〜150℃、より好ましくは0〜100℃で行われる。
得られた反応物から目的のポリグリセリンを分別する方法は、保護基が導入されたポリグリセリンの化学的及び物理的差を利用して達成することができる。例えば、沸点の差を利用して蒸留、減圧蒸留、分子蒸留等の方法で目的のポリグリセリンを分別することができ、又は水もしくは有機溶剤への溶解度の差を利用して目的のポリグリセリンを分画することもできる。例えば、反応物を水に分散させ、水と混和しない有機溶剤(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、石油エーテル、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、エーテル、酢酸エチル等)で抽出することにより目的のポリグリセリンを分画することができる。この分画方法を使用する場合、水の代わりに水含有エタノール、食塩水、硫酸ナトリウム水溶液等の無機塩の溶液を使用することもできる。水と酢酸エチルを用いて目的のポリグリセリンを分画することが好ましい。
分別されたポリグリセリンの保護基の脱離は、一般の有機合成で行われている方法で行うことができる。例えば、メタノール中でp−トルエンスルホン酸を作用させる方法、酢酸水溶液中で加熱攪拌する方法等により保護基の脱離が達成される。1例として、トリフェニルメチル基をポリグリセリンに導入した場合、得られた反応物に対して約2〜3倍量の酢酸水溶液を加えて、50〜70℃で24時間攪拌することにより、保護基を脱離することができる。
なお、本発明に用いられるポリグリセリンとしては、水酸基価と1級水酸基含有率が所望の値を有するものであれば、合成品を用いても市販品を用いてもよく、合成品又は市販品の水酸基価、及び/又は1級水酸基含有率を前記に従って調整して用いてもよい。
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルのもう一つの構成成分である脂肪酸としては、天然の動植物より抽出した油脂を加水分解し、分離してあるいは分離せずに精製して得られるカルボン酸を官能基として含む物質であれば特に限定するものではない。又は石油等を原料にして化学的に合成して得られる脂肪酸であってもよい。もしくはこれら脂肪酸を水素添加等して還元したものや、水酸基を含む脂肪酸を縮重合して得られる縮合脂肪酸や、不飽和結合を有する脂肪酸を加熱重合して得られる重合脂肪酸であってもよい。これら脂肪酸の選択に当たっては所望の効果を勘案して適宜決めればよい。具体例としては、炭素数6〜22の飽和又は不飽和の脂肪酸、即ち、カプロン酸、カプリル酸、オクチル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘニン酸、エライジン酸、エルカ酸の他、分子中に水酸基を有するリシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸及びこれらの縮合物等が挙げられる。なかでも、作業性の観点から、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、及びオレイン酸が好ましい。また、上記脂肪酸は1種又は2種以上を組み合わせて利用することができるが、脂肪酸が以下の群(1)〜(3)で示される脂肪酸で構成され、かつ群(1)〜(3)で示される脂肪酸の脂肪酸全体における各使用量が下記に示す範囲内であり、群(1)〜(3)の合計重量が100重量%となる、ように混合した混合脂肪酸として使用することが好ましい。
群(1):炭素数8〜12の飽和脂肪酸で構成される群(使用量が45〜70重量%)
群(2):炭素数14〜22の飽和脂肪酸で構成される群(使用量が20〜60重量%)
群(3):炭素数18〜22の不飽和脂肪酸で構成される群(使用量が0〜20重量%)
ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化は、当該分野で公知の方法に従って行われる。例えば、アルカリ触媒下、酸触媒下、又は無触媒下にて、常圧又は減圧下でエステル化することができ、具体的には、ポリグリセリン、脂肪酸、触媒を仕込み、窒素ガス気流下で160〜260℃の温度で遊離脂肪酸がなくなるまで反応させて得ることができる。
なお、得られたポリグリセリン脂肪酸エステルは使用される製品の使用上の要求によってさらに精製してもよい。精製の方法は公知のいかなる方法でもよく特に限定するものではない。例えば、活性炭や活性白土等にて吸着処理したり、水蒸気、窒素等をキャリアーガスとして用いて減圧下脱臭処理を行ったり、又は酸やアルカリを用いて洗浄を行ったり、分子蒸留を行ったりして精製してもよい。
ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は、添加するポリグリセリンと脂肪酸の仕込み比率、反応温度、反応時間、触媒の種類及び添加量等を変化させることにより調整することができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は、80%以上が好ましい。エステル化率が80%未満であると、油脂への溶解性が低下したり、油脂結晶抑制効果が低減したりする場合がある。
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価は、ポリグリセリンと脂肪酸の仕込み比率(重量%)を変えることにより調整することができる。水酸基価が100mgKOH/gより大きくなると、油脂に対して不溶となったり、油脂結晶抑制効果が十分に発揮できなかったりする。従って、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価は、100mgKOH/g以下であり、80mgKOH/g以下が好ましく、60mgKOH/g以下がより好ましく、30mgKOH/g以下がさらに好ましい。また、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化における反応の確実性の観点から、5mgKOH/g以上が好ましい。
ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は、油脂への溶解性及び油脂結晶成長抑制効果の観点から、1〜7が好ましく、1〜6がより好ましい。なお、ここでいうHLB値は、下記式:
HLB=20×(1−S/A)
(式中、S:エステルのけん化価、A:構成脂肪酸の酸価である)
により算出した値のことをいう。
かくして本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルが得られる。本発明の油脂結晶成長抑制剤は、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを実質的な有効成分として含有するが、本発明の効果を損なわない範囲で、当該分野で公知のその他の添加剤を含有してもよい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、油脂結晶成長抑制剤中、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは実質的に100重量%である。
本発明はまた、油脂と、該油脂結晶成長抑制剤を含有する油脂組成物を提供する。
油脂、即ち、ポリグリセリン脂肪酸エステルにより結晶成長が抑制される油脂としては、パーム油、パームオレイン、大豆油、菜種油、キャノーラ油、米油、コーン油、綿実油、オリーブ油、紅花油、ごま油、ひまわり油、カカオ脂等の食用油脂及びこれらの調合油等、動植物油からエステル交換や分別結晶等の方法により製造された食用油脂であれば特に限定するものではない。
ポリグリセリン脂肪酸エステルの組成物中の含有量は、油脂結晶成長抑制効果の観点から、0.005〜5重量%が好ましく、0.010〜3重量%がより好ましい。0.005重量%以上であれば十分な油脂結晶抑制効果が得られ、また5重量%以下であれば油脂の結晶化を促進することもないことから適応可能な油脂が限定されない。なお、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、水酸基価が100mgKOH/g以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルを2種以上組み合わせて用いてもよい。その場合の総含有量は、上記範囲内であることが好ましい。
また、本発明の油脂組成物は、前記油脂及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するものであれば、当該分野で公知の添加剤を含有することができる。
以下、本発明を実施例、及び比較例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
〔1級水酸基含有率の測定〕
ポリグリセリン中の1級水酸基と2級水酸基の割合は、核磁気共鳴装置(13C−NMR)におけるスペクトル分析にて決定する。
ポリグリセリン500mgを重水2.8mLに溶解し、ろ過後、ゲートつきデカップリングにより13C−NMR(125MHz)スペクトルを取得する。ゲートデカップルド測定手法では、ピーク強度は炭素数に比例する。1級水酸基と2級水酸基の存在を示す13C化学シフトはそれぞれメチレン炭素(CHOH)が63ppm付近、メチン炭素(CHOH)が71ppm付近であり、2種それぞれのシグナル強度の分析により、1級水酸基と2級水酸基の存在比を算出する。但し、2級水酸基を示すメチン炭素(CHOH)は、1級水酸基を示すメチレン炭素に結合するメチン炭素にさらに隣接するメチレン炭素ピークと重なり、それ自体の積分値を得られないため、メチン炭素(CHOH)と隣り合うメチレン炭素(CH)の74ppm付近のシグナル強度により積分値を算出する。
実施例1(合成例1)
温度計、ジムロート及び攪拌装置を付けた3つ口フラスコに、太陽化学社製のポリグリセリン(グレートオイルKT−1)200g及びピリジン600mLを加えた。ここへ1級水酸基に選択的に反応する試薬であるクロロトリフェニルメチル(和光純薬社製)370gを加えて100℃で1時間攪拌し、室温(25℃)まで冷却後さらに24時間攪拌した。その後、反応液を減圧下で蒸留してピリジンの大部分を除去した。得られた反応物は水800mLを加えて分液ロートに移し、酢酸エチル400mLで抽出した(抽出回数:3回)。酢酸エチル層を合わせて濃縮し、得られた残渣156g及び酢酸300gを温度計、ジムロート及び攪拌装置を付けた3つ口フラスコに加えて、120℃で8時間加熱還流してトリフェニルメチル基を脱離後、精製して、ポリグリセリンAを得た。得られたポリグリセリンAの水酸基価は840mgKOH/g、1級水酸基含有率は52.5%、2級水酸基含有率は47.5%であった。
上記で得られたポリグリセリンA60g、表1に示す脂肪酸の混合物(以下、混合脂肪酸と記載)180g及び触媒として水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価25mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルAを得た。なお、混合脂肪酸には、群(1)の脂肪酸として、炭素数8〜12の飽和脂肪酸、即ち、カプリン酸、及びラウリン酸からなる群より選択される1種類以上を含有する脂肪酸(太陽化学社製)を、群(2)の脂肪酸として、炭素数14〜22の飽和脂肪酸、即ち、ミリスチン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸からなる群より選択される1種類以上を含有する脂肪酸(太陽化学社製)を、群(3)の脂肪酸として、炭素数18〜22の不飽和脂肪酸、即ち、オレイン酸(太陽化学社製)を使用した。
実施例2(合成例2)
ポリグリセリン(グレートオイルKT−1)の代わりに、太陽化学社製のポリグリセリン(グレートオイルKT−2)を用いる以外は、合成例1と同様にして、水酸基価803mgKOH/g、1級水酸基含有率62.1%、2級水酸基含有率37.9%の精製したポリグリセリンBを得た。その後、得られたポリグリセリンB60g、表1に示す混合脂肪酸180g、水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価18mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルBを得た。
実施例3(合成例3)
ポリグリセリン(グレートオイルKT−1)の代わりに、太陽化学社製のポリグリセリン(グレートオイルKT−3)を用いる以外は、合成例1と同様にして、水酸基価790mgKOH/g、1級水酸基含有率63.0%、2級水酸基含有率37.0%の精製したポリグリセリンCを得た。その後、得られたポリグリセリンC64.8g、表1に示す混合脂肪酸175.2g、水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価35mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルCを得た。
実施例4(合成例4)
合成例3と同様にして、ポリグリセリンCを得た。その後、得られたポリグリセリンC63.6g、表1に示す混合脂肪酸176.4g、水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価15mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルDを得た。
実施例5(合成例5)
合成例3と同様にして、ポリグリセリンCを得た。その後、得られたポリグリセリンC67.2g、表1に示す混合脂肪酸172.8g、水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価24mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルEを得た。
実施例6(合成例6)
ポリグリセリン(グレートオイルKT−1)の代わりに、太陽化学社製のポリグリセリン(グレートオイルKT−X)を用いる以外は、合成例1と同様にして、水酸基価766mgKOH/g、1級水酸基含有率71.9%、2級水酸基含有率28.1%の精製したポリグリセリンDを得た。その後、得られたポリグリセリンD64.8g、表1に示す混合脂肪酸175.2g、水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価13mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルFを得た。
比較例1(合成例7)
ポリグリセリン(グレートオイルKT−1)の代わりに、太陽化学社製のポリグリセリン(グレートオイルKT−4)を用いる以外は、合成例1と同様にして、水酸基価1077mgKOH/g、1級水酸基含有率45.8%、2級水酸基含有率54.2%の精製したポリグリセリンEを得た。その後、得られたポリグリセリンE42g、表1に示す混合脂肪酸198g、水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価22mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルGを得た。
比較例2(合成例8)
ポリグリセリン(グレートオイルKT−1)の代わりに、太陽化学社製のポリグリセリン(グレートオイルKT−5)を用いる以外は、合成例1と同様にして、水酸基価988mgKOH/g、1級水酸基含有率46.3%、2級水酸基含有率53.7%の精製したポリグリセリンFを得た。その後、得られたポリグリセリンF46.8g、表1に示す混合脂肪酸193.2g、水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価23mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルHを得た。
比較例3(合成例9)
ポリグリセリン(グレートオイルKT−1)の代わりに、太陽化学社製のポリグリセリン(グレートオイルDE−1)を用いる以外は、合成例1と同様にして、水酸基価886mgKOH/g、1級水酸基含有率61.3%、2級水酸基含有率38.7%の精製したポリグリセリンGを得た。その後、得られたポリグリセリンG52.8g、表1に示す混合脂肪酸187.2g、水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価30mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルIを得た。
比較例4(合成例10)
合成例9と同様にして、ポリグリセリンGを得た。その後、得られたポリグリセリンG168.0g、群(2)の脂肪酸であるステアリン酸72.0g、水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価571mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルJを得た。
比較例5(合成例11)
合成例3と同様にして、ポリグリセリンCを得た。その後、得られたポリグリセリンC74.4g、表1に示す混合脂肪酸165.6g、水酸化ナトリウム0.1gを300mL容の四ツ口フラスコに入れ、窒素気流下で生成水を除去しながら250℃で反応させ、水酸基価110mgKOH/gのポリグリセリン脂肪酸エステルKを得た。
Figure 0004443628

試験例1(結晶成長抑制効果)
パームオレイン30重量%と大豆油70重量%を配合して調合油を調製し、この調合油に、得られたポリグリセリン脂肪酸エステル(油脂結晶成長抑制剤)を0.3重量%となるよう添加して、攪拌溶解して油脂組成物(実施例7〜12及び比較例6〜10)を調製した。得られた油脂組成物は目盛り付き試験管に充填して密閉後、5℃の恒温槽中に保存して、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、及び3ヶ月保存後の結晶析出状態を目視で観察し、以下の評価基準に従って、結晶成長抑制効果を評価した。結果を表2に示す。なお、析出した結晶は、試験管底部に沈殿するため、結晶析出量は、例えば、保存後の試験管を静置して、充填物の上端と析出結晶の上端が示す目盛りをそれぞれ読み取り、充填物全体が占める目盛り長さを100%とした場合の、析出結晶が占める目盛り長さの割合(%)を算出して求めることができる。また、参考例1として、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加しない油脂組成物、即ち、調合油のみについても同様の評価を行った。
〔結晶成長抑制効果の評価基準〕
5:結晶析出が認められず、組成物は透明
4:結晶析出が認められる(析出量は系全体量に対して10%未満)
3:結晶析出が認められる(析出量は系全体量に対して10%以上、30%未満)
2:結晶析出が認められる(析出量は系全体量に対して30%以上、50%未満)
1:結晶析出が認められる(析出量は系全体量に対して50%以上)
Figure 0004443628
表2より、特定のポリグリセリンを用いたポリグリセリン脂肪酸エステルを食用油脂に添加することにより、油脂結晶成長が抑制され、さらにその効果が持続されていることも分かる。また、実施例7〜12の結果より、ポリグリセリンの水酸基価、1級水酸基含有率及びポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価が前記範囲内であれば、ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が異なるものであっても、油脂結晶成長抑制効果が発揮されることが判明した。
本発明の油脂結晶成長抑制剤は、油脂に添加することにより、油脂結晶成長を抑制することができることから、冷蔵庫や寒冷地などでの油脂保存性を向上させることができ、透明性が重要であるサラダ油等の液体油脂に好適に用いられる。

Claims (2)

  1. 水酸基価が850mgKOH/g以下であり、かつ、ポリグリセリンの全ての水酸基のうち1級水酸基含有率が50%以上であるポリグリセリンと、脂肪酸とのエステル化物であるポリグリセリン脂肪酸エステルであって、水酸基価が100mgKOH/g以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有してなる、油脂結晶成長抑制剤。
  2. 油脂と、請求項1記載の油脂結晶成長抑制剤を含有してなる油脂組成物であって、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.005〜5重量%である、油脂組成物。
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