JP4439786B2 - 還元性雰囲気下の水系殺微生物方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、還元性雰囲気下にある水系、特に製紙工程の古紙回収を含めたパルプの還元漂白処理工程水および該処理水を含むパルプスラリーにおける殺微生物方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、製紙産業においては紙のリサイクルが進展し、古紙の利用が新聞紙から中質・上質紙へと拡大して、再生紙の白色度を上げることが要望されている。
【0003】
紙の白色度を上げるために、通常、パルプの漂白が行われている。パルプの漂白は、これまで塩素、次亜塩素酸ナトリウム(ハイポ)、二酸化塩素等の塩素系漂白処理が主流であったが、周辺環境への配慮から過酸化水素等の酸化剤を用いる漂白と、亜硫酸ナトリウム、ナトリウムハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤を用いる漂白を組み合わせた二段漂白方法へと転換するようになってきた。漂白工程における殺微生物処理は、これまで酸化型の殺微生物剤が主に用いられてきたが、これらは還元雰囲気下にあってはその殺微生物作用が大きく低下し、十分な殺微生物効果が得られず、スライムの発生がみられている。スライムが工程内の壁面や装置に付着すると、スライム付着面下の腐食が発生したり、付着したスライムの一部が剥離して紙製品に再付着して断紙を引き起こし操業の一時停止、成紙中の欠点(欠損部)や汚点の発生等の品質低下などの多大な損失をもたらすので、還元性雰囲気下にある水系におけるスライムの発生抑制、すなわち殺微生物処理の要望が高くなってきた。
【0004】
また、トウモロコシデンプン等のデンプン製造の際、粉体化したデンプンの白色度を調整するために亜硫酸ナトリウムを添加したりする。一般にデンプンを使用した糊液やデンプンスラリーの防腐目的で殺微生物剤が使用されるが、亜硫酸ナトリウムのような還元物質を含むデンプンを使用するとデンプンスラリーが還元性雰囲気となっているため、殺微生物作用が大きく低下し、デンプンスラリーが腐敗しやすい。
【0005】
還元性物質の存在下(還元性雰囲気下)における殺菌方法として各種殺菌剤が提案されている。例えば、有効成分として無水マレイン酸を添加してなる工業的殺菌方法(特開平10−72304号公報)、N,4−ジヒドロキシ−α−オキソベンゼンエタンイミドイルクロライドと無水マレイン酸もしくはその水溶性誘導体を組み合わせて添加する殺菌方法(特開平3−170404号公報)、2,2'−ジヒドロキシ−5,5'−ジクロロジフェニルメタンとイソチアゾリン−3−オン系化合物との包接化合物及びブロム化酢酸エステルを組み合わせて添加する殺菌方法(特開平7−258002号公報)、ジハロゲン化グリオキシム誘導体を添加する殺菌方法(特開平8−20505号公報)、メチレンビスチオシアネートと2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール及び5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと4,5−ジクロロ−1,2−ジチオール−3−オンを組み合わせて添加する殺菌方法(特開平10−36202号公報)、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドとブロム酢酸エステル化合物と2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−ジアセトキシプロパン又は2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノールを組み合わせて添加する殺菌方法(特開平10−67608号公報)、α−クロロベンズアルドキシムと2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)プロパン、1,2,3−トリス(ブロモアセトキシ)プロパン、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−ジアセトキシプロパン及び2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノールのうちのいずれかとメチレンビスチオシアネートを組み合わせて添加する殺菌方法(特開平10−109907号公報)、ベンゾイソチアゾリンとジデシルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドおよびジデシルメチルポリオキシエチルアンモニウムプロピオネートを組み合わせて添加する殺菌方法(特開平11−71211号公報)等が提案されている。しかし、依然として満足する効果を得るには至っておらず、より有効な殺微生物方法が強く求められている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような事情のもとに本発明の目的は、還元性雰囲気下にある水系、特に製紙工程の古紙回収を含めたパルプの還元漂白処理後の工程水及び該工程水を含むパルプスラリー、白色度の調整に還元剤を含有したデンプンスラリー及びその糊液さらにはこれを含む配合組成物における殺微生物方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、還元性雰囲気下の水系において、(A)特定の4級アンモニウム塩化合物と、(B)特定の殺微生物作用を有する化合物を同時に作用させることで、還元性雰囲気下で優れた殺微生物効果を発揮することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、請求項1に係る発明は、スルホキシル酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオンの1種あるいは2種以上が5〜100mg/l存在する還元性雰囲気下にある水系に、(A)一般式(1)
【0009】
【化2】
【0010】
(式中、R1、R2、R3及びR4の1〜3つがメチル基及び/又はエチル基であり、他が炭素数8〜22のヒドロキシル基および/又はベンゼン環を有していてもよいアルキル基、炭素数が8〜22のアルケニル基及び炭素数が8〜22のアリール基から選ばれる。Xn−は、ラウリン酸、グルタル酸、アジピン酸から選ばれる。2価のカルボン酸アニオンの場合は一部がナトリウム塩あるいはカリウム塩であってもよい。)で表される4級アンモニウム塩化合物と、(B)2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノール、1,2−ビス−(ブロモアセトキシ)−エタン、1,4−ビス−(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1−クロロ−3−ブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、ジクロログリオキシム、α−クロロベンズアルドキシム、2−(p−ヒドロキシフェニル)グリオキシヒドロキシモイルクロリド、メチレンビスチオシアネート、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン及びこれらイソチアゾリン系化合物と金属塩とのコンプレックス、グルタルアルデヒド、o−フタルアルデヒドから選ばれる1種以上を同時に添加することを特徴とする還元性雰囲気下の水系殺微生物方法である。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の還元性雰囲気下にある水系の殺微生物方法において、(A)成分の4級アンモニウム塩化合物が、前記一般式(1)においてR1、R2、R3及びR4の2つがメチル基及び/又はエチル基であり、他の2つが炭素数8〜18の直鎖のアルキル基から選ばれることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1記載の還元性雰囲気下にある水系の殺微生物方法において、((A)成分の4級アンモニウム塩化合物が、ラウリン酸ジデシルジメチルアンモニウム、ラウリン酸ジドデシルジメチルアンモニウム、グルタル酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)、グルタル酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3の何れか記載の還元性雰囲気下にある水系の殺微生物方法において、(B)成分が、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノール、2−(p−ヒドロオキシフェニル)グリオキシロヒドロキシモイルクロライド、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、グルタルアルデヒド、o−フタルアルデヒドから選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明における還元性雰囲気下の水系は、紙パルプ製造業において、古紙回収を含めたパルプの漂白工程における還元漂白処理段の工程水や還元漂白処理後の該工程水を含むパルプスラリーさらにはこれらを含む後工程の工程水及びパルプスラリー、酸化漂白処理後の工程水を還元剤で処理して残存した還元剤含有工程水や該工程水を含むパルプスラリー、還元剤を含有するデンプンを使用して調製されたデンプンスラリー及びそのデンプンスラリーや糊液が存在する工程水、パルプスラリー及びサイズ液、塗工液等の配合組成物、さらにその他の工業分野において硫化水素が混入して還元性雰囲気となった水系も包含する。
【0017】
これらの還元性雰囲気下の水系では、ハイドロサルファイト塩類、チオ硫酸塩類、チオグリコール酸塩類、二酸化チオ尿素等が還元剤として使用され、スルホキシル酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン等として存在している。
【0018】
本発明の還元性雰囲気下の水系は、スルホキシル酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン等の還元性物質の1種あるいは2種以上が、5〜200mg/L存在する水系であり、好ましくは5〜100mg/Lであり、より好ましくは5〜50mg/Lである。
【0019】
本発明の(A)成分の4級アンモニウム塩化合物は、下記一般式(1)で表された4級アンモニウム塩化合物である。
【0020】
【化3】
【0021】
一般式(1)において、R1、R2、R3及びR4のうち1〜3個はメチル基及び/又はエチル基であり、その他は炭素数が8〜22のヒドロキシ基および/又はベンゼン環を有していてもよいアルキル基、炭素数が8〜22のアルケニル基及び炭素数が8〜22のアリール基から選ばれる。
【0022】
炭素数が8〜22のヒドロキシ基および/又はベンゼン環を有していてもよいアルキル基としては、2−エチルへキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヤシアルキル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、12−ヒドロキシルステアリル基、ステアリル基、イソステアリル基、ベヘニル基、オレフィンのオキソ法−水添により得られた分岐の炭素数10〜18のアルキル基などがある。炭素数が8〜22のアルケニル基としては、ジイソブチレン基、オキソ法により得られる炭素数10〜18の内部オレフィンのアルケニル基、オレイル基、リノレイル基などであり、炭素数が8〜22のアリール基としてはエチルフェニル基などがある。
【0023】
このうち、好ましくはR1、R2、R3及びR4のうち2つはメチル基及び/又はエチル基であり、他の2つは炭素数が8〜18のアルキル基、例えばオクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、イソステアリル基である。更に、より好ましくはR1、R2、R3及びR4のうち2つはメチル基であり、他の2つはデシル基、ドデシル基、テトラデシル基である。
【0024】
R1、R2、R3及びR4が、メチル基、エチル基で構成されれば、本発明の効果は得られない。また、R1、R2、R3及びR4の1〜3個がメチル基及び/又はエチル基で構成され、その他が炭素数8未満のアルキル基によって構成されても本発明の効果を得ることができない。更に、R1、R2、R3及びR4が炭素数8未満のアルキル基によって構成されても本発明の効果を得ることができない。R1、R2、R3及びR4の1〜3個がメチル基及び/又はエチル基で構成され、その他が炭素数22を越えると、該4級アンモニウム塩化合物の水溶性が低下して本発明の効果が得られない。
【0025】
一般式(1)におけるXn−は、ラウリン酸、グルタル酸、アジピン酸から選ばれる。また、2価カルボン酸の場合には、一部がナトリウム塩あるいはカリウム塩の形であってもよい。
【0026】
(A)成分の4級アンモニウム塩化合物の具体例としては、ラウリン酸オクチルトリエチルアンモニウム、ラウリン酸デシルトリメチルアンモニウム、ラウリン酸ステアリルトリエチルアンモニウム、ラウリン酸ジドデシルジメチルアンモニウム、ラウリン酸ジドデシルジエチルアンモニウム、ラウリン酸ジステアリルジメチルアンモニウム、グルタル酸オクチルトリメチルアンモニウムナトリウム、グルタル酸デシルトリメチルアンモニウムナトリウム、グルタル酸トリメチルステアリルアンモニウムカリウム、グルタル酸ジデシルジメチルアンモニウムナトリウム、グルタル酸ジデシルジエチルアンモニウムナトリウム、グルタル酸ジデシルジメチルアンモニウムカリウム、グルタル酸ジドデシルジメチルアンモニウムナトリウム、グルタル酸ジドデシルジエチルアンモニウムナトリウム、グルタル酸ビス(ジオクチルジメチルアンモニウム)、グルタル酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)、グルタル酸ビス(ジデシルジエチルアンモニウム)、グルタル酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)、グルタル酸ビス(ジドデシルジエチルアンモニウム)、アジピン酸オクチルトリメチルアンモニウムナトリウム、アジピン酸デシルトリエチルアンモニウムナトリウム、アジピン酸トリメチルステアリルアンモニウムナトリウム、アジピン酸ジメチルジオクチルアンモニウムカリウム、アジピン酸ジデシルジメチルアンモニウムナトリウム、アジピン酸ジデシルジエチルアンモニウムナトリウム、アジピン酸ジドデシルジメチルアンモニウムナトリウム、アジピン酸ジドデシルジエチルアンモニウムナトリウム、アジピン酸ビス(ジオクチルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジデシルジエチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジドデシルジエチルアンモニウム)等がある。このうち、好ましくはラウリン酸ジデシルジメチルアンモニウム、ラウリン酸ジドデシルジメチルアンモニウム、グルタル酸ジデシルジメチルアンモニウムナトリウム、グルタル酸ジドデシルジメチルアンモニウムナトリウム、グルタル酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)、グルタル酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ジデシルジメチルアンモニウムナトリウム、アジピン酸ジドデシルジメチルアンモニウムナトリウム、アジピン酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)であり、より好ましくは、ラウリン酸ジデシルジメチルアンモニウム、ラウリン酸ジドデシルジメチルアンモニウム、グルタル酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)、グルタル酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)である。これらの(A)4級アンモニウム塩化合物は単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
本発明の(B)成分は、殺微生物効果を有する化合物であり、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノール、1,2−ビス−(ブロモアセトキシ)−エタン、1,4−ビス−(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、ジクロログリオキシム、α−クロロベンズアルドキシム、2−(P−ヒドロオキシフェニル)グリオキシロヒドロキシモイルクロライド、メチレンビスチオシアネート、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン及びこれらイソチアゾロン系化合物と金属塩とのコンプレックス、グルタルアルデヒド、o−フタルアルデヒドであり、これらのうちで好ましくは、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノール、2−(p−ヒドロキシフェニル)グリオキシロヒドロキシモイルクロリド、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、グルタルアルデヒド、o−フタルアルデヒド、より好ましくは2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノール、2−(p−ヒドロオキシフェニル)グリオキシヒドロキシモイルクロリドである。これらの単独使用でもよいが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0028】
これら(B)成分の化合物は、非還元性雰囲気下の水系で高い殺微生物効果を有しているが、還元性雰囲気下では殺微生物効果が低下する化合物で、予想外にも(A)4級アンモニウム塩化合物との併用で還元性雰囲気下であってもより高い殺微生物作用を発揮する。
【0029】
本発明の還元性雰囲気下の水系殺微生物方法は、特に限定されるものではなく、(A)成分と(B)成分を個別に対象とする還元雰囲気下の水系に添加する方法、あるいは(A)成分と(B)成分を混合した状態で添加する方法の何れでも良い。
【0030】
(A)成分と(B)成分を混合した状態で添加する方法では、(A)成分と(B)成分を水、水と水溶性有機溶剤の混合溶剤、水溶性有機溶剤、水溶性有機溶剤と非水溶性有機溶剤との混合溶剤、非水溶性有機溶剤の中から適宜選択して溶解して使用される。
【0031】
水溶性有機溶剤としては、アセトン等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、N−メチルピロリドン、2−メチルピロリドン等のピロリドン類、γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン等のラクトン類、ジエチルカーボネート、ジオキサン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0032】
非水溶性有機溶剤としては、ポリプロピレングリコール等のグリコール類、プロピレンカーボンート等のカーボネート類等がある。
【0033】
また、必要により、界面活性等を添加することがあるが、本発明はこれらの添加を制限するものではない。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤が好ましい。
【0034】
本発明の殺微生物方法における(A)成分と(B)成分の使用比率は、重量比で9:1〜1:9、好ましくは7:3〜3:7、より好ましくは7:3〜5:5の範囲である。
【0035】
また、(A)成分と、(B)成分の添加量は、水質、温度など該水系の工程条件、生存微生物の種類、微生物数、スライムの発生の程度、添加頻度などによって大きく異なるので一律に定められるものではないが、対象とする処理水系に対して、(A)成分と、(B)成分を、通常、各々0.1〜500mg/L、好ましくは1〜200mg/L、より好ましくは5〜100mg/Lで添加される。(A)成分、(B)成分の添加量が0.1mg/Lより少ないと本発明の効果が得られない場合があり、また、500mg/Lより多いと、効果は充分にあるが、添加量の割には効果が大きくなく、経済的にみて不利になることがある。
【0036】
(A)成分、(B)成分の水系への添加方法は、特に限定されるものではなく、例えば通常の薬品注入ポンプを用いて、連続的あるいは間欠的に添加される。また、(A)成分、(B)成分の添加箇所は、障害が発生している箇所あるいは工程を考慮して適宜選択、決定されるものであり、特に限定されるものではないが、通常、障害が発生している箇所あるいは工程に直接、添加するか、その上流に添加される。
【0037】
本発明の殺微生物方法は、対象とする水系のpHの影響が小さく、pH4の酸性域からpH10以下のアルカリ性域まで適用することができる。
【0038】
本発明の効果を妨害しない範囲において、他の殺微生物剤、界面活性剤を併用したり、あるいは消泡剤、スケールコントロール剤等その他工程添加剤と共に使用したりすることがあるが、本発明はこれら薬品の添加については何ら制限するものではない。
【0039】
【実施例】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0040】
〔(A)成分(4級アンモニウム化合物)〕
(以下、「重量%濃度水溶液」を「%」とする)
(以下、「アセトン(20%)−水(80%)水溶液」を「アセトン−水溶液」とする。)
A−1:ラウリン酸ジデシルジメチルアンモニウム〔試薬、東京化成(株)製〕を0.5%アセトン−水溶液として用いた。
A−2:ラウリン酸ジドデシルジメチルアンモニウム〔試薬、東京化成(株)製〕を0.5%アセトン−水溶液として用いた。
A−3:グルタル酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)〔試薬、関東化学(株)製〕を0.5%水溶液として用いた。
A−4:グルタル酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)〔試薬、関東化学(株)製〕を0.5%水溶液として用いた。
A−5:アジピン酸ジデシルジメチルアンモニウムナトリウム〔試薬、東京化成(株)製〕を0.5%水溶液として用いた。
A−6:アジピン酸ジドデシルジメチルアンモニウムカリウム〔試薬、関東化学(株)製〕を0.5%水溶液として用いた。
A−7:アジピン酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)〔「オスモリンDA−50」(商品名)、三洋化成工業(株)製〕を0.5%水溶液として用いた。
A−8:アジピン酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)〔試薬、関東化学(株)製〕を0.5%水溶液として用いた。
A−9:(比較例で使用)酢酸へキシルトリメチルアンモニウム〔試薬、関東化学(株)製〕を0.5%水溶液として用いた。
A−10:(比較例で使用)塩化ベンザルコニウム〔試薬、関東化学(株)製〕を0.5%水溶液として用いた。
【0041】
〔(B)成分〕
B−1:2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド〔「DBNPA」(商品名)、ケミクレア(株)製〕を0.5%N−メチルピロリドン溶液として用いた。
B−2:5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンとの混合物〔「ゾーネンF」(商品名)、ケミクレア(株)製〕を0.5%水溶液として用いた。
B−3:オルトフタルアルデヒド〔「OPA」(商品名)、昭和加工(株)製〕を0.5%水溶液として用いた。
B−4:グルタルアルデヒド〔「アキュカー550」(商品名)、ユニオンカーバイド社製〕を0.5%水溶液として用いた。
B−5:4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−イソチアゾリン−3−オン〔「クラリックス4000」(商品名)、ローム&ハース社製〕を0.5%水溶液として用いた。
B−6:2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール[「BNPD」(商品名)、ナガセ化成(株)製]を0.5%水溶液として用いた。
B−7:2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノール[「ジブニロール」(商品名)、ケイアイ化成製]を0.5%N−メチルピロリドン溶液として用いた。
B−8:1,2−ビス−(ブロモアセトキシ)−エタン[「BBAE」(商品名)、ケミクレア(株)製]を0.5%N−メチルピロリドン溶液として用いた。
B−9:1,4−ビス−(ブロモアセトキシ)−2−ブテン[「BBAB」(商品名)、ケミクレア(株)製]を0.5%N−メチルピロリドン溶液として用いた。
B−10: 1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン[「ブロミサイド」(商品名)、グレートレークスケミカル社製]を0.5%水溶液として用いた。
B−11:ジクロログリオキシム[「DCO」(商品名)、純正化学(株)製]を0.5%N−メチルピロリドン溶液として用いた。
B−12:α−クロロベンズアルドキシム[「CBO」(商品名)、バイエル社製]を0.5%N−メチルピロリドン溶液として用いた。
B−13:2−(p−ヒドロキシフェニル)グリオキシヒドロキシモイルクロリド[「HP−100」(商品名)、ケイアイ化成(株)製]を0.5%N−メチルピロリドン溶液として用いた。
B−14:メチレンビスチオシアネート[「MBT」(商品名)、ケミクレア(株)製]を0.5%N−メチルピロリドン溶液として用いた。
B−15:2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン[「スケーン8」(商品名)、ローム&ハース社製]を0.5%N−メチルピロリドン溶液として用いた。
B−16:1,2―ベンゾイソチアゾリン−3−オン(「プロクセルプレスペースト(D)」(商品名)、ゼネカ(株)製)を0.5%水溶液として用いた。
【0042】
〔殺微生物試験に用いた微生物〕
微生物1:グラム陰性菌のシュードモナス エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa:IFO−12689)
微生物2:胞子形成菌のバシルス スブチルス(Bacilus subtils:IAM−1633)
微生物3:グラム陽性菌であるスタフィロコッカス アウレウス(Staphlococcus aureus:IAM−12082)
微生物4:グラム陰性菌で多糖類を産生し、スライム形成力が高いキサントモナス カンペストリス(Xanthmonascampestris:IFO−13551)
微生物5:カビのトリコデルマ ビリデ(Trichoderma virde:IFO−5720)
微生物6:酵母のサッカロミセス セルビシエ(Sacharomyces cerevisiae:IAM−4274)
〔殺微生物試験1〕
細菌用平板培地(グルコース1.0g、ペプトン5.0g、イーストエキストラクト2.5g、寒天18gを蒸留水1Lに溶解させ、pHを6.8に調整したもの)を用い、平板培地にて、シュードモナス エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa:IFO−12689)(微生物1)が対数増殖期になるように25℃にて1〜2日間培養を行なった。滅菌水100mL中に対数増殖期にある菌株をl白金耳入れた後、還元性物質として亜硫酸ナトリウムをSO3 2−濃度:5mg/L、50mg/L、100mg/Lになるように添加し、さらにpH6に調整した。次に(A)4級アンモニウム塩化合物:A−1〜A−8:0.1mlと(B)殺微生物剤:B−1〜B−15:0.1mlを添加し、30℃、30分間振盪した後、コロニーカウント法により菌数(個/mL)の測定を行なった。結果を表1〜3に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
従来の殺微生物剤は、還元性物質がSO3 2−濃度として50mg/L存在すると殺微生物効果は著しく低下した。一方、本発明の殺微生物方法では、還元性物質が100mg/L存在しても、従来の殺微生物剤に比べて高い殺微生物効果が得られた。
【0047】
〔殺微生物試験2〕
グラム陰性菌のシュードモナス エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa:IFO−12689)(微生物1)を殺微生物試験1において用いたのと同じ平板培地にて対数増殖期になるように25℃にて1〜2日間培養を行なった。300ml三角フラスコに滅菌水100mLを入れ、これに対数増殖期にある菌株をl白金耳入れた後、ナトリウムハイドロサルファイト(還元性物質)をSO3 2− に換算した濃度として50mg/Lとなるように添加し、pH8に調整した。同様に、他の300mL三角フラスコに滅菌水100mLを入れ、二酸化チオ尿素(還元性物質)をスルホキシル酸に換算した濃度として50mg/Lになるように添加し、pHを8に調整した。次に(A)4級アンモニウム塩化合物:A−1を0.1mlと(B)殺微生物剤:B−1を0.1ml添加し、30℃、30分間振盪した後、コロニーカウント法により菌数(個/mL)の測定を行なった。同様に(A)4級アンモニウム塩化合物:A−1をA−3、A−5、A−7に置き換え、(B)殺微生物剤:B−1をB−3、B−4、B−5、B−7、B−13に置き換えて殺微生物試験を行った。結果を表4に示した。
【0048】
【表4】
【0049】
本発明の殺微生物方法によれば、ナトリウムハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素が存在しても、従来の殺微生物剤に比べて顕著な殺微生物効果があることが確認された。
【0050】
〔殺微生物試験3〕
微生物2を殺微生物試験1において用いた方法と同様に平板培地にて対数増殖期になるように25℃にて1〜2日間培養を行なった。200mL三角フラスコに滅菌水100mLに入れ、次に対数増殖期にある微生物2〜4の各々の菌株をl白金耳取り、三角フラスコ内の滅菌水中に入れて細菌供試懸濁液とした。この微生物懸濁液に亜硫酸ナトリウムをSO3 2−濃度50mg/L添加し、pHをそれぞれ4、7、10に調整し、(A)4級アンモニウム塩化合物:A−1:0.1mlと(B)殺微生物剤:B−1、B−3、B−4、B−5、B−7、B−13の中の1種を0.1ml添加し、30℃、30分間振盪した後、コロニーカウント法により菌数(個/mL)の測定を行なった。同様にして、微生物3及び微生物4を培養し細菌供試懸濁液を作り、カビである微生物5:トリコデルマ ビリデ(Trichoderma virde:IFO−5720)及び酵母である微生物6:サッカロミセス セルビシエ(Sacharomycescerevisiae:IAM−4274)では、各々の菌株をPDA平板培地(田辺製薬(株)製)で25℃、3日間培養した後、白金耳にて表面をかきとり、200mL三角フラスコ中の滅菌水100mLに入れ、振盪して菌(及び酵母)懸濁液を作った。得られた微生物3〜6の細菌(及びカビ、酵母)供試懸濁液を用いて、微生物2と同様にして(A)4級アンモニウム塩化合物:A−4、A−6、A−7、A−8の各々と(B)殺微生物剤:B−1、B−3、B−5、B−7、B−13を組合せで殺微生物効果試験を行った。結果を表5〜9に示した。
【0051】
【表5】
(微生物2:バシルス スブチルス対する殺微生物試験結果)
【0052】
【表6】
(微生物3:スタフィロコッカスアウレウス対する殺微生物試験結果)
【0053】
【表7】
(微生物4:キサントモナス カンペストリス対する殺微生物試験結果)
【0054】
【表8】
(微生物5:トリコデルマ ビリデ対する殺微生物試験結果)
【0055】
【表9】
(微生物6:サッカロッミセスセルビシエ対する殺微生物試験結果)
【0056】
本発明の殺微生物方法は、還元性雰囲気下、pH=4〜10の広い範囲で高い殺微生物効果を示していることが判る。
【0057】
【発明の効果】
還元性雰囲気下にある水系において、従来十分な殺微生物効果が得られなかった製紙工程の古紙回収を含めたパルプの還元漂白段を含む漂白工程及び当該漂白工程後のパルプやパルプスラリー、更にはデンプンスラリー調整工程における微生物障害による操業の停止等の弊害を防止し、操業安定化、生産性の向上、製品の品質向上に大きく寄与することができる。
Claims (4)
- スルホキシル酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオンの1種あるいは2種以上が5〜100mg/l存在する還元性雰囲気下にある水系に、(A)一般式(1)(式中、R1、R2、R3及びR4の1〜3つがメチル基及び/又はエチル基であり、他が炭素数6〜22のヒドロキシル基および/又はベンゼン環を有していてもよいアルキル基、炭素数が8〜22のアルケニル基及び炭素数が8〜22のアリール基から選ばれる。Xn−は、ラウリン酸、グルタル酸、アジピン酸から選ばれる。2価のカルボン酸アニオンの場合、一部がナトリウム塩あるいはカリウム塩であってもよい。)で表される4級アンモニウム塩化合物と、
- (A)成分の4級アンモニウム塩化合物が、前記一般式(1)においてR1、R2、R3及びR4の2つがメチル基及び/又はエチル基であり、他の2つが炭素数8〜18の直鎖のアルキル基から選ばれる請求項1記載の還元性雰囲気下の水系殺微生物方法。
- (A)成分の4級アンモニウム塩化合物が、ラウリン酸ジデシルジメチルアンモニウム、ラウリン酸ジドデシルジメチルアンモニウム、グルタル酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)、グルタル酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジデシルジメチルアンモニウム)、アジピン酸ビス(ジドデシルジメチルアンモニウム)から選ばれる1種以上である請求項1記載の水系殺微生物方法。
- (B)成分が、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2,2−ジブロモ−2−ニトロ−1−エタノール、2−(p−ヒドロオキシフェニル)グリオキシロヒドロキシモイルクロライド、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、グルタルアルデヒド、o−フタルアルデヒドから選ばれる1種以上である請求項1〜3のいずれか記載の水系殺微生物方法。
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