JP4433900B2 - 鉄基希土類系等方性ナノコンポジット磁石の製造方法 - Google Patents

鉄基希土類系等方性ナノコンポジット磁石の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は鉄基希土類系ナノコンポジット磁石の製造方法に関する。
現在、R−Fe−B系磁石として、R2Fe14Bなどのハード磁性相と、Fe3B(Fe3.5Bを含む)やα−Feなどのソフト磁性相(高磁化強磁性相)とが磁気的に結合された組織構造を有するナノコンポジット型永久磁石(以下、「ナノコンポジット磁石」と称する)が開発されている。
ナノコンポジット磁石を製造する場合、出発原料として、非晶質組織、または非晶質相を多く含む組織を有する急冷合金(「急冷凝固合金」とも称されている。)を用いることが多い。通常、この急冷合金は、急冷直後においては非晶質相を含むため、熱処理によって充分に結晶化され、最終的には平均結晶粒径が1nm〜100nm程度の微細組織を有する磁性材料となる。
ナノコンポジット磁石用の急冷合金を製造する従来の方法によれば、急冷装置内に配置された冷却ロール上に溶湯を供給し、室温まで装置内で冷却する。その後、装置外に急冷合金を取り出した後、500℃〜800℃の一定温度にて60秒〜60分程度の熱処理を施すことにより、永久磁石特性を発現する微細結晶組織を形成する。
結晶化のための熱処理後における磁性合金の組織構造は、結晶化熱処理前における急冷合金の組織構造に大きく依存する。このため、急冷合金中に析出した結晶相の種類および平均サイズや急冷合金中に含まれる非晶質相の割合などが最終的な磁石特性に重要な影響を与える。このような急冷合金の組織構造は、合金溶湯の急冷条件によって変化するため、優れた磁気特性を有するナノコンポジット磁石などの永久磁石を作製するには急冷条件の制御が重要になる。
そのため、この急冷条件の制御方法について種々の検討がなされており、例えば、下記特許文献1において、R−Fe−B系ナノコンポジット磁石用合金の急冷凝固工程に際して合金の冷却速度を調整することによって、X線回折におけるブラッグ反射ピークが0.179nm±0.005nmの結晶面間隔に相当する位置にある準安定相Zを凝固後の原料合金が含有し、しかも、前記ブラッグ反射ピークの強度がハローパターンの最高強度の5%以上200%未満であり、かつ、体心立方型Feの(110)ブラッグ散乱ピークの強度が前記ハローパターンの最高強度の5%未満にする、具体的には、合金の冷却速度を5×104〜5×106℃/秒とし、急冷前の合金の温度Tmから400〜800℃だけ低い温度に合金の温度を低下させることによって、結晶化反応熱を少なくし、それによって微細かつ均質な金属組織を持った磁石粉末を再現性良く効率的に製造するのに適したナノコンポジット磁石用原料合金を得られることが記載されている。
また、下記特許文献2においては、R−Fe−B系ナノコンポジット磁石用合金の急冷凝固工程に際して、103〜105℃/秒の冷却速度で合金の溶湯を急冷することにより、体積比率で全体の60%以上の非晶質相を含む急冷合金を作製し、原料合金の組成を限定することにより、非晶質形成能を向上させ、製造コストの安価なストリップキャスト法での作製が可能な鉄基希土類磁石合金および鉄基希土類合金磁石を提供できることが記載されている。
特開2000−234137号公報 特開2002−80921号公報
しかし、これらは全て冷却過程を制御することにより、結晶化のための熱処理後における磁性合金の組織構造を制御しようとしたものであり、量産レベルで、これらを厳密に制御し、優れた磁気特性を有するナノコンポジット磁石を安定的に供給するのは容易なことではない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、安定して優れた磁気特性を有するナノコンポジット磁石の製造方法を提供することにある。
本発明による鉄基希土類系ナノコンポジット磁石の製造方法は、組成式がT100-x-y-zxyz(但し、TはFe、Co、およびNiからなる群から選択された少なくとも1つであり、主としてFeを含む元素、Qは、Bおよび/またはC、Rは少なくとも1種の希土類元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、Au、およびPbからなる群から選択された少なくとも1種の元素)で表現され、組成比率x、y、およびzが5<x≦30at%、1≦y<11at%、および、0≦z≦10at%を満足する合金の溶湯を用意する工程と、前記溶湯を冷却して凝固させる急冷工程とを含む鉄基希土類系ナノコンポジット磁石の製造方法であって、前記急冷工程は、回転する冷却ロールの表面に前記溶湯を接触させ、前記溶湯を200℃以上800℃以下の範囲に含まれる温度まで急冷することによって急冷合金を形成する第1冷却工程と、前記急冷合金の温度が200℃未満に低下する前に、前記急冷合金を500℃以上800℃以下の温度範囲に含まれる温度で0.5秒以上3600秒以下のあいだ保持する温度保持工程と、前記急冷合金を200℃未満の温度まで冷却する第2冷却工程とを含む。
好ましい実施形態において、前記温度保持工程は、前記急冷合金を前記温度範囲に含まれる温度に保持する際、前記急冷合金の温度を70℃/分以下の冷却速度で低下させる工程および/または前記急冷合金の温度を50℃/分以下の昇温速度で上昇させる工程を含む。
好ましい実施形態において、前記第1冷却工程は、前記溶湯の温度を5×103℃/秒以上7×105℃/秒以下の冷却速度で低下させる工程を含む。
好ましい実施形態において、前記第2冷却工程は、前記急冷合金の温度を0.5℃/秒以上の冷却速度で低下させる工程を含む。
好ましい実施形態において、前記温度保持工程は、400℃以上1000℃以下の温度に加熱された部材で前記急冷合金に熱を供給する工程を含む。
好ましい実施形態において、前記急冷工程は、前記急冷合金が前記冷却ロールから離脱した後、前記第2冷却工程を開始する前に、前記急冷合金を各々が長さ100mm以下の部分に破断する工程を含む。
好ましい実施形態において、前記温度保持工程は、前記冷却ロールと同一槽内に設置された熱処理炉にて行われる。
好ましい実施形態において、前記合金の溶湯を回転する冷却ロール表面に対して接触させる工程は、案内面が水平方向に対して傾斜した案内手段上に前記溶湯を供給し、前記案内面を流れてきた溶湯を、管状孔を介して前記冷却ロールとの接触領域に供給する工程を含む。
好ましい実施形態において、前記第2冷却工程後における前記急冷合金は、平均結晶粒径が10nm以上100nm未満のR2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、Fe−B相を含む軟磁性相とが同一金属組織内で共存するナノコンポジット構造を有する。
本発明によれば、単調に冷却される従来の急冷工程では安定的に得ることが極めて困難であった優れたナノコンポジット磁石組織が安定的に形成される。また、結晶化熱処理を行なわなくとも、優れたナノコンポジット磁石構造を有する急冷合金(ナノコンポジット磁石)が得られるため、工程時間が短縮され、量産性が向上する。
本発明では、まず、組成式がT100-x-y-zxyzで表現され、組成比率x、y、およびzが5<x≦30at%(原子%)、1≦y<11at%、および、0≦z≦10at%を満足する合金の溶湯を用意する。ここで、TはFe、Co、およびNiからなる群から選択された少なくとも1つであり、主としてFeを含む元素、Qは、Bおよび/またはC、Rは少なくとも1種の希土類元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、Au、およびPbからなる群から選択された少なくとも1種の元素である。
次に、上記合金の溶湯を冷却して凝固させる急冷工程を実行する。この急冷工程は、図1に示すように、合金溶湯を200℃以上800℃以下の範囲に含まれる温度まで急冷する第1冷却工程と、第1急冷工程で凝固した合金(急冷合金)を500℃以上800℃以下の温度範囲に含まれる温度で0.5秒以上3600秒以下のあいだ保持する温度保持工程と、その急冷合金を200℃未満の温度(例えば室温(RT))まで冷却する第2冷却工程とを含む。
従来の急冷工程は、図2に示すように、溶湯温度から室温程度まで単調に降温することによって行なわれていた。この場合は、その後に結晶化のための熱処理が行なわれるのが通常であった。
次に、図3および図4を参照して、上記の急冷工程の違いによって急冷合金の組織構造に重大な差異が生じる理由を説明する。
図3は、本発明の好ましい実施形態における急冷工程で合金が経験する温度変化のプロファイル(以下、「冷却経路a」と称する)と、急冷工程中に析出する結晶相との関係を模式的に示すグラフである。一方、図4は、従来の急冷工程で合金が経験する温度変化のプロファイル(冷却経路b〜e)と、急冷工程中に析出する結晶相との関係を模式的に示すグラフである。図3および図4は、希土類元素Rの組成比率yが比較的小さい(3≦y<6at%)場合のグラフである。
図3からわかるように、冷却経路aによる場合、時刻t1〜t2の期間、合金温度が所定範囲(500℃以上800℃以下)の温度に保持されるため、Nd2Fe14B相の析出領域を通過する時間が長くなり、Nd2Fe14B相析出が支配的に進む。その結果、急冷工程後、微細なNd2Fe14B相とFe3B相とが同一金属組織内に混在したナノコンポジット磁石構造を有する急冷合金が得られる。この場合、最初にFe3B相が析出し、その後にNd2Fe14B相が析出するため、略同サイズ(例えば直径20nm程度)のFe3B相およびNd2Fe14B相が同一金属組織内に混在するナノコンポジット磁石組織が形成される。急冷合金中には非晶質相はほとんど残存しないため、結晶化の熱処理を行なわなくとも、優れたナノコンポジット磁石特性を発揮する磁石が作製できる。なお、希土類元素Rの組成比率が6≦y<11at%の関係を満足する場合は、液相状態の合金溶湯から最初にNd2Fe14B相が析出するが、温度保持工程を行なうことにより、図3に示す場合と同様に、Nd2Fe14B相の析出領域を長く通過する。このため、Nd2Fe14B相の粒界または亜粒界にFe3B相が析出したナノコンポジット磁石組織が形成される。
本発明によれば、希土類元素Rの組成比率が比較的小さく、3≦y<6at%の場合であっても、急冷合金中に含まれる結晶相(Fe3B相およびNd2Fe14B相)の体積比率は40%以上(例えば80%程度)となる。また、希土類元素Rの組成比率が6≦y<11at%の関係を満足する場合は、急冷合金中に含まれる結晶相(主にNd2Fe14B相)の体積比率は60%以上(例えば90%程度)にも達する。
これに対し、図4に示す従来の急冷工程における冷却経路b〜dでは、いずれの場合も合金温度が単調に低下している。冷却経路bによる場合、冷却速度が相対的に高いため、得られる急冷合金は、略全体が非晶質相から構成されることになる。非晶質の急冷合金からナノコンポジット磁石を作製するには、結晶化のための熱処理を行なう必要があるが、結晶化に伴う自己発熱により、最適な熱処理条件を実現することが難しい。そのため、結晶化熱処理によっては、各構成相の結晶粒径を制御できず、組織が不均一化してしまうため、最終的に良好な磁気特性が得られない。
冷却経路cによって得られる急冷合金は、Fe3B相が非晶質相中に析出した組織構造を有することになるが、上記の結晶化熱処理に伴う問題は冷却経路bの場合と同様である。冷却速度が更に低い冷却経路dによる場合は、微細なNd2Fe14B相とFe3B相とが混在した組織構造が得られるが、Nd2Fe14B相の析出量は不充分であり、また、冷却速度の制御が難しいために組織構造が大きくばらつくという問題がある。このため、Nd2Fe14B相析出領域を通過する時間を長くしようとして、冷却速度を更に低下させた冷却経路eを辿ると、Fe析出領域を最初に通過するため、Feが多く析出した急冷合金が形成され、最終的なナノコンポジット磁石の特性は劣化してしまう。
このように従来の方法では、良質のナノコンポジット磁石を再現性良く量産することが難しいが、本発明による場合は、急冷工程の途中に温度保持工程を挿入することにより、優れたナノコンポジット磁石組織を有する急冷合金を再現性良く得ることが可能になる。
本発明における温度保持工程は、一時的に冷却速度を低下させる工程である。好ましい実施形態では、回転する冷却ロールの表面と接触して温度を急激に低下させた合金の薄帯が冷却ロールの表面から離れた後、温度保持工程を行なう。この温度保持工程は、合金薄帯が冷却ロールの表面から離れた後、本来であれば雰囲気ガスとの接触や赤外放射によって更に抜熱されるところを、後述する加熱手段を用いて抜熱の抑制、または加熱を行なうことによって実現する。温度保持工程では、厳密に一定の温度に保持する必要はない。
従来の急冷方法による場合、急冷合金の温度は、冷却ロールの表面から離れた後、500℃以上800℃以下の温度範囲を通過して500℃未満に低下してゆくが、本発明では、500℃以上800℃以下の温度範囲における冷却を抑制するため、急冷工程中に一時的に急冷合金の加熱(熱の供給)を行なう点に際立った特徴点を有しているといえる。
このような温度保持工程を行なう場合、急冷工程後にいったん室温まで温度が低下した急冷合金に対して結晶化熱処理を行なう場合と異なり、求める金属組織を再現性良く得ることができる。また、従来の方法によれば、冷却速度の僅かな変化で最終的な磁石特性が大きく左右されたのに対し、本発明によれば、特性ばらつきの少ないナノコンポジット磁石を量産することが可能になる。
以下、図5を参照しながら、本発明によるナノコンポジット磁石の製造方法に好適に用いられる急冷装置100の構成を説明する。
図5の装置は、真空又は不活性ガス雰囲気を保持できる槽内に、溶解装置10、冷却ロール16、粉砕機22、およびドラム式加熱装置24を備えている。
より詳細には、溶解装置10は、合金溶湯をタンディッシュ14に供給するための湯口12を有しており、傾動可能に支持されている。タンディッシュ14は、溶解装置10の湯口12から注がれた溶湯を整流しながら、回転する冷却ロール16の表面に供給するように傾斜した案内面を有している。
粉砕機22は、モータ20によって回転し、冷却ロール16で急冷された合金を破砕する。粉砕機22の下方には、傾斜したプレート状の投入ガイド18が配置されている。投入ガイド18は、破砕された急冷合金を受け、ドラム式加熱装置24の内部に案内する。
ドラム式加熱装置24は、投入口および排出口を供えた円筒形状を有しており、中心軸の周りに回転することにより、内部の急冷合金を攪拌しながら均一性に優れた熱処理を実現する。温度保持工程が終了した後、急冷合金は、ドラム式加熱装置24の排出口から回収され、そのまま、装置内で室温まで冷却される。
以下、図5の急冷装置100を用いて行なう急冷工程の一例を説明する。
まず、合金の溶湯を蓄えた溶解坩堝12を傾動することにより、溶湯をタンディッシュ14に供給する。合金は、前述の組成を有している。
溶湯は、タンディッシュ14によって整流されてから、回転する冷却ロール16の表面に接触する。好ましい実施形態では、案内面が水平方向に対して5〜70°だけ傾斜するようにタンディッシュ14の配置を調節する。タンディッシュ14の先端部には、案内面を流れてきた溶湯に絞り効果を付与する少なくとも1つ(好ましくは複数)の管状孔が設けられている。案内面上を流れてきた溶湯は、管状孔の内部を通過してから、冷却ロール16の表面に供給されるため、比較的速い速度で回転する冷却ロール16の表面上にも安定したパドルを形成することが可能になる。
図6は、溶解坩堝10からタンディッシュ14を介して冷却ロール16の表面に溶湯が供給され、急冷される様子を示している。溶解坩堝10の周囲には高周波コイルが巻かれており、溶解坩堝10の内部に投入された原料合金を加熱溶融するために用いられる。なお、図では、簡単化のため、管状孔の記載は省略している。
合金溶湯が冷却ロール16上にあるときの冷却速度(第1冷却工程における冷却速度)は、冷却ロール16の回転速度を調整することによって制御される。第1冷却工程における冷却速度は、5×103℃/秒〜7×105℃/秒の範囲に設定されることが好ましい。この冷却速度が5×103℃/秒未満になると、冷却ロール16から離脱する前に結晶化し、直後に行なう温度保持工程で結晶粒径の制御ができなくなってしまう。また、このときの冷却速度が7×105℃/秒を超えると、温度保持工程に移る時点の合金は略完全な非晶質状態になるため、温度保持工程における加熱条件などの最適化が困難となる。
冷却ロール16を離れた直後の急冷合金は、急冷装置100内の粉砕機22により、各々が長さ100mm以下のサイズに破断される。これにより、ドラム式加熱装置24による温度保持工程を効果的に実行することができる。粉砕機22による破砕を急冷装置100内で実行することにより、工程の効率が向上するとともに、均一な熱処理が可能となるという利点が得られる。破断された急冷合金の破片の平均サイズは、0.5mm〜30mmの範囲にあることが好ましい。なお、急冷合金の破断は、ドラム式過熱装置24の内部において温度保持工程中に行なっても良い。
粉砕された急冷合金は、ドラム式加熱装置24で所定温度範囲内に保持される。この温度保持工程は、一種の熱処理であり、ドラム式加熱装置24により急冷合金の温度低下が抑制される。急冷合金の温度は、冷却ロール16の表面から離れた後、一時的に200〜500℃の範囲内の温度レベルにまで低下しても良いが、ドラム式加熱装置24から熱を受け取り、少なくとも0.5秒以上の期間は、500℃〜800℃の範囲に含まれる温度を示す状態に保持される。保持温度が500℃未満になると、磁気特性発現に十分なNd2Fe14B相の析出が行われず、良好な磁気特性が得られない。また保持温度が800℃を超えると、結晶粒の成長が著しく、不均一組織となるため、良好な磁気特性が得られない。保持温度のより好ましい範囲は、600〜750℃であり、温度保持時間のより好ましい範囲は、5秒〜20分である。
なお、冷却ロール16の表面を離れた後、温度保持工程を行なうまでの間において、急冷合金の温度を200℃未満に低下させることは好ましくない。このため、急冷合金は、冷却ロール16の表面から離れた後、30秒以内にドラム式加熱装置24に投入されることが好ましい。
図5に示す急冷装置100を用いて本発明を実施する場合、第1冷却工程は、合金溶湯が冷却ロール16の表面と接触した時に開始し、冷却ロール16の表面から離れるまで継続する。第1冷却工程の後に行なう温度保持工程は、急冷合金がドラム状加熱装置24の内部に収容されているときに行なわれる。
以下、図7および図8を参照して、温度保持工程をより詳しく説明する。
図7に示す例では、時刻t1で第1冷却工程S1が完了した後、直ちに温度保持工程S2が開始されているが、図5に示すような装置を用いる場合は、急冷合金が冷却ロール16の表面から離れた後、ドラム状加熱装置24の中に移動するまでにかかる時間だけ、温度保持工程S2の開始時期が遅れる。このように温度保持工程S2の開始が遅れると、その間に急冷合金の温度が低下することになるが、その温度が200℃を下回らなければ、問題はない。例えば保持温度を650℃に設定している場合において、温度保持工程S2の開始直前における急冷合金の温度が600℃に低下することが起こり得る。このような場合、温度保持工程S2の少なくとも初期において、急冷合金をドラム状加熱装置24で加熱し、650℃を目指して昇温する。このとき、一時的に650℃を超える温度に達する場合があるが、大きな問題はない。
急冷合金が冷却ロールの表面から離れた後、ドラム式加熱装置24に投入されるまでの時間は、例えば0.1〜10秒の範囲に設定されることがより好ましい。
前述したように、本発明における「温度保持工程」とは、急冷合金の温度を厳密に一定レベルに保持する場合のみを意味するのではなく、冷却工程の途中における一定期間、冷却速度を自然放冷の場合よりも意図的に低下させることにより、500℃以上800℃以下の温度範囲を通過する時間を長くすることを広く意味するものとする。
一般に、合金溶湯を冷却ロールで急速に冷却することによって急冷合金を作製する場合、冷却ロールから離れた急冷合金は、大気雰囲気や搬送部材との接触によって抜熱される。したがって、温度保持工程を行なうには、このような自然な冷却(抜熱)に反して熱を急冷合金に供給することが必要になる。この意味で、本発明の「温度保持工程」は、冷却途中に行なう一種の熱処理工程として機能する。
また、凝固合金の温度を一定に保持しようとしても、現実には多少の温度変化が不可避である。例えば、30℃/分以下の冷却速度で生じる緩やかな冷却や、20℃/分以下の昇温速度で生じる極めて 緩やかな昇温が生じていても、通常の冷却工程に比べれば略一定の温度に保持されていると認められる。図8は、温度保持工程S2で、合金温度が緩やかに低下している例(実線)や、温度が増減している例(破線)を模式的に示している。このような場合でも、本発明の効果は充分に得られ、保磁力を増大させることが可能である。
温度保持工程後に行う第2冷却工程(図7および図8では、参照符号「S3」で示す部分)では、常温(室温程度)まで60℃/分以上の冷却速度で凝固合金を冷却することが好ましい、比較的大きな冷却速度で合金を冷却することにより、結晶粒の成長を充分に抑制することができる。第2冷却工程は、雰囲気ガスとの接触による自然な冷却で足りる場合もあるが、凝固合金に冷却ガスを吹き付けたり、冷却部材を接触させたりすることにより、積極的な冷却処理を行なっても良い。
これら一連の工程は、真空または不活性ガス雰囲気中て行なうことが好ましい。図5に示す装置では、第1冷却工程、温度保持工程、および第2冷却工程を大気から仕切られたチャンバー内で実行しているが、第2冷却工程の後半では急冷合金の温度は相当に低いレベルに低下しているため、大気に接しても酸化などによる品質劣化の問題は少ない。このため、第2冷却工程の一部または全部は、チャンバーの外部で行なっても良い。
第2冷却工程が終了した時点における(as−spun)急冷合金では、R2Fe14B型結晶構造を有する化合物相が充分に析出しており、その粒界にはFe−B(鉄基硼化物)相も形成されている。このため、結晶化のための熱処理を付加的に行なう必要ないが、僅かに残る非晶質層を結晶化するため、熱処理を追加しても良い。
なお、温度保持工程は、図5に示すような急冷装置100によって行なう場合に限定されず、他の方法で行なっても良い。
従来、急冷装置内で作製された急冷合金の温度が室温程度まで低下した後、急冷装置から取りだされた後、更に結晶化のため、室温から結晶化温度まで加熱し、その後に冷却する工程が必要であったが、本発明によれば、室温から結晶化温度まで加熱する工程が不要になるため、工程時間が大幅に短縮できるとともに、熱処理に消費するエネルギーが大幅に削減される利点もある。
[組成]
希土類元素Rは、希土類金属の1種または2種以上である。希土類元素Rの組成比率が1at%未満では、R2Fe14B型結晶構造を有する化合物相が十分に析出しないため、硬磁気特性が得られない。また、希土類元素Rの組成比率が11at%以上になると、鉄および鉄基硼化物が析出しにくくなるため、ナノコンポジット組織が形成されず、高い磁化が得られない。このため、希土類元素Rの組成比率は1at%以上11at%未満の範囲内に設定され、3at%以上9.5at%以下の範囲内に設定されることが好ましい。希土類元素Rの組成比率の最も好ましい範囲は、4at%以上9.2at%以下である。
B(硼素)の組成比率が5at%以下になると、液体急冷法を用いても過冷却液体状態が得られず、表面の平滑性が高い急冷合金が得られにくい。また、Bの組成比率が30at%を超えると、R2Fe14B型化合物相が析出せず、硬磁気特性が得られない。このため、Bの組成比率は5at%超30at%以下の範囲内に設定する。Bの組成比率の好ましい範囲は、7at%以上20at%以下であり、さらに好ましい範囲は10.5at%以上20at%以下である。
なお、Bの50%(原子比率)までをCで置換しても磁気特性および金属組織に影響を与えないため許容される。
実質的にFeから構成されるTは、上述の元素の含有残余を占める。Tの含まれるFeの一部は、Coおよび/またはNiで置換されても所望の硬磁気特性を得ることができる。しかし、これらFe以外の金属元素のFeに対する置換量が50%(原子比率)を超えると、0.5T以上の残留磁束密度Brを得ることができなくなる。このため、置換量は0%〜50%の範囲内に限定することが好ましい。なお、Feの一部をCoで置換することにより、保磁力HcJを向上させるとともに、R2Fe14B相のキュリー温度を上昇させることができるため、耐熱性が向上する。Coによる置換量の好ましく範囲は、0.5%以上15%以下である。
上記元素を有する合金組成に、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、Au、および/またはPbからなる添加元素Mを加えてもよい。このような元素の添加により、磁気特性が向上する他、最適熱処理温度域を拡大する効果が得られる。ただし、添加量が10at%を超えると、磁化の低下を招くため、添加量は0at%〜10at%に限定することが好ましい。添加量の更に好ましく範囲は、0.1at%〜5at%である。
本発明によって製造されるナノコンポジット磁石は、安定して優れた磁気特性を発揮し、種々の永久磁石に用いられる。特に樹脂と混合して作製されるボンド磁石に用いられ、多様な形態を持つ磁石として工業製品に利用される。
本発明による急冷工程における合金温度の時間変化を示すグラフである。 従来例の急冷工程における合金温度の時間変化を示すグラフである。 本発明の好ましい実施形態における急冷工程で合金が経験する温度変化のプロファイル(以下、「冷却経路a」と称する)と、急冷工程中に析出する結晶相との関係を模式的に示すグラフである。 従来の急冷工程で合金が経験する温度変化のプロファイル(冷却経路b〜e)と、急冷工程中に析出する結晶相との関係を模式的に示すグラフである。 本発明の実施に好適に用いられる急冷装置100の構成を示す図である。 図5の急冷装置100における冷却ロールの動作を示す斜視図である。 急冷工程中における合金の温度と経過時間との関係の一例を模式的に示すグラフである。 急冷工程中における合金の温度と経過時間との関係の他の例を模式的に示すグラフである。
符号の説明
10 溶解装置
12 湯口
14 タンディッシュ
16 冷却ロール
18 投入ガイド
20 モータ
22 粉砕機
24 ドラム式加熱装置
100 急冷装置

Claims (6)

  1. 組成式がT100-x-y-zxyz(但し、TはFe、Co、およびNiからなる群から選択された少なくとも1つであり、主としてFeを含む元素、Qは、Bおよび/またはC、Rは少なくとも1種の希土類元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、Au、およびPbからなる群から選択された少なくとも1種の元素)で表現され、組成比率x、y、およびzが5<x≦30at%、1≦y<11at%、および、0≦z≦10at%を満足する合金の溶湯を用意する工程と、
    前記溶湯を冷却して凝固させる急冷工程と、
    を含む鉄基希土類系ナノコンポジット磁石の製造方法であって、
    前記急冷工程は、
    回転する冷却ロールの表面に前記溶湯を接触させ、前記溶湯を200℃以上800℃以下の範囲に含まれる温度まで急冷することによって急冷合金を形成する第1冷却工程と、
    前記急冷合金の温度が200℃未満に低下する前に、前記急冷合金を500℃以上800℃以下の温度範囲に含まれる温度で0.5秒以上3600秒以下のあいだ保持する温度保持工程と、
    前記急冷合金を200℃未満の温度まで冷却する第2冷却工程と、
    を含み、
    前記急冷工程は、前記急冷合金が前記冷却ロールから離脱した後、前記急冷合金を各々が長さ100mm以下の部分に破断する破断工程を含み、
    前記温度保持工程は、回転するドラム式加熱装置で前記破断された急冷合金を攪拌しながら前記急冷合金に熱を供給する工程を含み、
    前記第1冷却工程から前記温度保持工程は、大気から仕切られた状態で実行される、鉄基希土類系ナノコンポジット磁石の製造方法。
  2. 前記温度保持工程は、前記急冷合金を前記温度範囲に含まれる温度に保持する際、前記急冷合金の温度を30℃/分以下の冷却速度で低下させる工程および/または前記急冷合金の温度を20℃/分以下の昇温速度で上昇させる工程を含む請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記第1冷却工程は、前記溶湯の温度を5×103℃/秒以上7×105℃/秒以下の冷却速度で低下させる工程を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記第2冷却工程は、前記急冷合金の温度を60℃/秒以上の冷却速度で低下させる工程を含む、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 前記合金の溶湯を回転する冷却ロール表面に対して接触させる工程は、案内面が水平方向に対して傾斜した案内手段上に前記溶湯を供給し、前記案内面を流れてきた溶湯を、管状孔を介して前記冷却ロールとの接触領域に供給する工程を含む請求項1に記載の製造方法。
  6. 前記第2冷却工程後における前記急冷合金は、平均結晶粒径が10nm以上100nm未満のR2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、Fe−B相を含む軟磁性相とが同一金属組織内で共存する構造を有する、請求項1からのいずれかに記載の製造方法。
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