JP4120253B2 - ナノコンポジット磁石用急冷合金およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種モータ、メータ、センサ、およびスピーカなどに使用されるナノコンポジット磁石用の原料合金に関し、より詳細には、ソフト磁性相であるFe3B型化合物とハード磁性相であるR2Fe14B型化合物(Rは希土類元素)とが磁気的に結合したFe3B/R2Fe14B系ナノコンポジット磁石の製造に用いられる急冷合金に関している。
【0002】
【従来の技術】
現在、R−Fe−B系磁石として、R2Fe14Bなどのハード磁性相と、Fe3B(Fe3.5Bを含む)やα−Feなどのソフト磁性相(高磁化強磁性相)とが磁気的に結合された組織構造を有するFe3B/R2Fe14B系ナノコンポジット型永久磁石が開発されている。ナノコンポジット型永久磁石の粉末は、樹脂材料を用いて所定の形状に固められることによって等方性ボンド磁石として用いられている。
【0003】
ナノコンポジット磁石を製造する場合、出発原料として、非晶質組織、または非晶質相を多く含む組織を有する急冷凝固合金(以下、「急冷合金」と称するる。)を用いることが多い。この急冷合金は熱処理することによって結晶化し、最終的には平均結晶粒径が10-9m〜10-6m程度の微細組織を有する磁性材料となる。
【0004】
結晶化熱処理後における磁性合金の組織構造は、結晶化熱処理前における急冷合金の組織構造に大きく依存する。このため、急冷合金の組織構造(非晶質相の割合など)を決定づける合金溶湯の急冷条件をどのように選択するかが、優れた磁気特性を有するナノコンポジット磁石を作製する上で重要である。
【0005】
従来、上述のような非晶質相を多く含む急冷合金を作製する方法としては、図1に示すような装置を用いた急冷方法が知られている。この方法では、底部に内径1mm以下のオリフィスを有するノズルから、銅などによって形成される回転ロール上に溶融合金を噴射し、これを急冷することによって非晶質化された薄帯状の凝固合金を作製する。
【0006】
このような方法については、これまで、磁性材料を研究する大学や機関によって研究および報告がなされてきた。ただし、ここで用いられている装置は、数10g〜数100g程度の合金をノズル内で溶解し、噴射する実験規模のものに過ぎず、このように処理量の少ない装置ではナノコンポジット磁石用の原料合金を量産することができない。
【0007】
また、処理量を増加させた方法が、例えば、特開平2−179803号公報、特開平2−247305号公報、特開平2−247306号公報、特開平2−247307号公報、特開平2−247308号公報、特開平2−247309号公報、特開平2−247310号公報などに記載されている。
【0008】
この方法では、溶解炉内で溶融した合金溶湯を、底部に噴射ノズルを有した容器内に注ぎ入れた後、容器内の溶湯に一定の圧力を加えることによって溶湯をノズルから回転ロールの表面に向けて噴射させている(以下、この方法を「メルトスピニング法」と呼ぶ)。このように圧力をかけながらノズルを介して溶湯を噴射させることで、比較的速い流速を有する溶湯の条(溶湯の流れ)を回転ロールの最上部付近に略垂直に噴射させることができる。噴射された溶湯は、回転ロールの表面上でパドル(湯溜まり)を形成し、このパドルのロール接触面が急冷され、薄帯状の急冷合金が作製される。
【0009】
上述のメルトスピニング法では、合金溶湯と回転ロールとの接触長さが短いため、回転ロール上では急冷が完了せず、回転ロールから剥離した後の高温状態(例えば700℃〜900℃)の合金が飛行中にも冷却される。メルトスピニング法では、このような冷却工程を行うことによって、各種合金の非晶質化を実現している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、メルトスピニング法の場合、工業量産に対応できる程度(例えば、約1.5kg/分以上)にまで処理量を増加させると、溶湯供給量(溶湯噴射速度)の増加に伴って噴射ノズルの消耗が激しくなる。これによって、処理中に溶湯供給量が変動するため、安定した急冷状態を維持することができなくなる。更には、ノズルにかかる費用が巨額になるという問題も生じる。また、ノズルの径によって溶湯の噴射速度が制約されるので、処理量を増加させることが困難であるという問題もある。
【0011】
また、メルトスピニング法では、比較的高速(例えば周速度20m/秒以上)で回転するロール上に少量の溶湯を噴射することによって、非晶質を多く含む急冷合金を作製している。このため、作製される薄帯状の急冷合金の厚さは典型的には50μm以下となる。このような薄い薄帯状合金は、嵩密度が高くなるように効率良く回収することが困難であった。また、厚さが50μm以下の急冷合金を粉砕して得られる粉末粒子は、扁平な形状を示すため、粉末の流動性が悪く、また、成形工程時の充填密度が低いという問題もあった。
【0012】
一方、急冷合金を作製する方法としては、ストリップキャスト法もまた知られている。ストリップキャスト法では、溶解炉から合金溶湯をシュート(タンディッシュ)上に供給し、シュート上の合金溶湯を冷却ロールと接触させることによって急冷合金を作製する。シュートは、溶湯を一時的に貯湯するように溶湯の流速を制御するとともにその流れを整流し、それにより、冷却ロールへの溶湯の安定した連続供給を実現する溶湯案内手段である。冷却ロールの外周表面に接触した溶湯は、回転する冷却ロールに引きずられるようにしてロール周面に沿って移動し、この過程において冷却される。
【0013】
ストリップキャスト法では、ロール周方向における溶湯とロール外周面との接触長さが比較的長いため、溶湯の冷却はロール上で略完了する。
【0014】
上述のようにストリップキャスト法ではメルトスピニング法のような噴射ノズルを用いず、シュートを介して回転ロール上への合金溶湯の連続的な供給を行うため、大量生産に適しており、製造コストの低下を実現することが可能である。
【0015】
しかしながら、ストリップキャスト法は、合金溶湯のロールへの供給量が多く、急冷速度も遅くなりやすいため、非晶質化された凝固合金を作製するには不向きである。急冷速度が遅い場合、非晶質相を多く含まない(すなわち、結晶質組織を多く含む)合金が作製され易い。合金組織中に結晶質組織が多く存在すると、後工程の結晶化熱処理時において、すでに結晶質であった部分を核として結晶組織が粗大化するため、優れた磁気特性を有するナノコンポジット磁石を得ることができなくなる。
【0016】
このため、ストリップキャスト法は、完全に結晶化させた金属鋳片を作製するために用いられることが多い(例えば、特開平8−229641号公報)。このようにして得られる急冷合金は、通常、R2Fe14B相を主相とする焼結磁石用の原料合金として利用され、ナノコンポジット磁石用の原料合金として用いることができない。
【0017】
このように、ナノコンポジット磁石用の非晶質組織を多く含む原料合金を、生産性高く、かつ、低コストで作製することは困難であった。
【0018】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、良好な磁気特性を有するナノコンポジット磁石用の急冷合金を安価に提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明によるナノコンポジット磁石用急冷合金は、組成式が(Fe1-mTm)100-x-y-zQxRyMz(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、RはLaおよびCeを実質的に含まない1種以上の希土類金属元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素)で表現されており、組成比率x、y、z、およびmが、それぞれ、15≦x≦25原子%、1≦y≦6原子%、0≦z≦10原子%、および0≦m≦0.5を満足する急冷合金であって、平均厚さが50μmを超え150μm以下であり、厚さの標準偏差が20μm以下である。
【0020】
好ましい実施形態において、前記ナノコンポジット磁石用急冷合金は、非晶質相、および、平均粒径50nm以下の結晶相を含む。
【0021】
本発明によるナノコンポジット磁石用急冷合金の製造方法は、組成式が(Fe1-mTm)100-x-y-zQxRyMz(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、RはLaおよびCeを実質的に含まない1種以上の希土類金属元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素)で表現されており、組成比率x、y、z、およびmが、それぞれ、15≦x≦25原子%、1≦y≦6原子%、0≦z≦10原子%、および0≦m≦0.5を満足する合金の溶湯を用意する工程と、回転する冷却ロールの表面に対して前記合金溶湯を1.5kg/分以上の供給レートで接触させ、それによって平均厚さが50μmを超え150μm以下、厚さの標準偏差が20μm以下である急冷合金を作製する冷却工程とを包含する。
【0022】
好ましい実施形態において、前記冷却工程は、内径1mmを越えるノズルオリフィスを用いて前記合金溶湯を前記冷却ロールの表面に向けて噴射する工程を含む。
【0023】
好ましい実施形態において、前記冷却工程は、案内面が水平方向に対して1〜80°の角度を形成する案内手段上に前記合金溶湯を供給し、前記冷却ロールとの接触領域に前記合金溶湯を移動させる工程を含む。
【0024】
好ましい実施形態において、前記冷却工程は、前記案内手段により、前記合金溶湯の流れを複数条に分離し、各条の幅を前記冷却ロールの軸線方向に沿って所定の大きさに調節することを包含する。
【0025】
好ましい実施形態において、前記急冷合金の作製は減圧雰囲気ガス中で行う。
【0026】
好ましい実施形態において、前記雰囲気ガスの圧力は、圧力0.13kPa以上100kPa以下に調節されている。
【0027】
好ましい実施形態において、前記冷却工程で非晶質相中にFe23B6相が析出した急冷合金を作製する。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明のナノコンポジット磁石用急冷合金は、組成式が(Fe1-mTm)100-x-y-zQxRyMzで表現されている。ここで、TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、RはLaおよびCeを実質的に含まない1種以上の希土類金属元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素である。また、組成比率x、y、z、およびmは、それぞれ、15≦x≦25原子%、1≦y≦6原子%、0≦z≦10原子%、および0≦m≦0.5を満足する。
【0029】
上記の急冷合金は、上記組成の合金溶湯を、冷却ロールの表面に対して1.5kg/分以上の供給レートで接触させ、それによって作製される。
【0030】
本発明で特徴的な点は、急冷合金の平均厚さが50μmを超え150μm以下であり、かつ、合金厚さの標準偏差が20μm以下に調節されていることである。
【0031】
一般に、急冷合金を加熱することによって得られるナノコンポジット磁石の特性は、加熱前における急冷合金の組織構造に極めて敏感であるため、急冷条件が変化すると、急冷合金の組織が不均一化し、その結果として最終的な磁石特性が劣化しやすいという問題がある。より具体的に言えば、冷却ロールの回転周速度や溶湯供給量を一定に維持したとしても、急冷合金の一部で冷却速度が遅くなりすぎると、その部分に粗大なα−Feが析出し、磁石特性が劣化することがあった。
【0032】
一方、急冷合金の厚さは、急冷合金を粉砕して得られる粉末粒子の形状に影響を与える。すなわち、急冷合金が薄いほど、粉末粒子は扁平化し、粉末の流動性が低下するとともに、最終的な成形密度も低くなる。これに対し、急冷合金を厚く作製すると、粉末粒子の形状は等軸的なものとなるため、粉末の流動性が向上し、成形しやすくなる。しかし、本発明者の実験によると、従来の急冷方法を用いたままで急冷合金を厚く形成すると、急冷合金の厚さばらつきが大きくなることがわかった。このため、粉末流動性を向上させようとして厚さが50μmを超えるような急冷合金を作製した場合、急冷合金中に部分的に粗大化したα−Feが発生し、所望の磁気特性が得られないことになる。
【0033】
なお、このような性質を持つナノコンポジット磁石に対し、単相組織構造を有する急冷磁石の場合は、急冷合金の厚さばらつきが磁石特性に大きな影響を与えることはない。特に合金溶湯の冷却速度を高め、全体が略非晶質化した薄い急冷合金(厚さ50μm以下)を作製する場合は、急冷合金の厚さがばらついたとしても、最終的な磁石特性のばらつきを招くことはほとんどない。
【0034】
本発明者の実験によると、従来用いられてきた内径(直径)1mm以下のノズルオリフィスを用いて本発明の対象とする組成の合金溶湯を噴射し、急冷した場合は、単位時間当たりの溶湯供給量(溶湯供給レート)が不安定になり、急冷合金薄帯の位置によって冷却速度が不均一になる現象が顕著に観察され、その現象の結果として、急冷合金中の組織構造も不均一化することがわかった。また、同様のことが、ノズルからの溶湯噴射圧を低く設定した場合にも観察された。このようにして急冷合金組織が不均一化した場合は、粉砕によって作製される磁石粉末の中で磁石特性がばらつき、磁気特性の劣る粉末粒子が混入する結果、最終的な磁石特性が平均化され、劣化してしまうことになる。
【0035】
上述のように従来の内径が小さなノズルオリフィスを本発明の急冷合金の製造に用いた場合、急冷合金の厚さばらつきが非常に大きくなる理由は、溶湯がノズルオリフィスの狭い通路において内壁面から抵抗を受けるため、溶湯の噴射速度や噴出量が微妙に変動するためであると考えられる。
【0036】
本発明者は、内径1mmを越えるノズルオリフィス(好ましく内径2mm以上)を用いるなどして、冷却ロールへ供給する合金溶湯のレート(供給レート)を従来に比べて大きくするとともに、噴射圧を調節すれば、急冷合金の平均厚さが50μm超150μm以下の範囲にあっても、急冷合金厚さの標準偏差を20μm以下に制御できることを見出した。そして更に、急冷合金厚さの標準偏差を20μm以下に制御すれば、急冷合金中の組織を均一化し、磁石特性を向上させることができることを見出して、本発明を想到するに至った。
【0037】
また、1.5kg/分以上の大きな溶湯供給レートで急冷合金の平均厚さが50μmを下回るようにすると、冷却ロールの周速度を相当に速くする必要があり、略完全に非晶質化した急冷合金が形成される。本発明の対象とするナノコンポジット磁石の場合、完全に非晶質化した急冷合金を熱処理すると、優れた磁石特性を持つナノコンポジット組織を安定して形成することができないという問題がある。熱処理後の磁石特性を評価することにより、急冷合金の平均厚さのより好ましい下限値は55μmであり、更に好ましい下限値は60μmであることがわかった。
【0038】
一方、急冷合金の平均厚さが150μmを超えるように冷却ロールの周速度を制御すると、冷却ロールによる合金溶湯の冷却が充分には達成されず、得られた急冷合金中に析出する鉄基硼化物の平均粒径が50nmを超えるとともに、粒径100nm以上の粗大なα−Feが形成されてしまう。このような結晶質の急冷合金を用いた場合、熱処理工程後に得られる磁石の減磁曲線の角形性に劣化する。以上のことから、急冷合金の好ましい平均厚さは150μm以下である。
【0039】
急冷合金を厚くするほど、冷却速度が低下して、急冷合金中に析出した結晶のサイズが大きくなる。急冷合金に含まれる結晶粒の平均粒径が50nmを超えると、各結晶内に磁壁が存在することになる。その結果、硬磁性相であるNd2Fe14Bの磁化が僅かな減磁界で容易に反転してしまうため、良好な硬磁気特性が得られない。このため、急冷合金中に存在する結晶粒の粒径は50nm以下であることが好ましい。急冷合金の平均結晶粒径のより好ましい上限は30nmであり、更に好ましい上限は20nmである。
【0040】
本発明では、急冷合金の厚さを所定範囲内に制限するとともに、更に、急冷合金の厚さばらつきを抑制することにより、優れた磁気特性の発現に必要な急冷組織を持った急冷合金を提供する。実験によると、急冷合金の厚さの標準偏差は20μm以下であることが好ましい。更に好ましくは17μm以下がよく、より好ましくは15μm以下が良い。
【0041】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0042】
(実施形態1)
[合金溶湯の急冷装置]
本実施形態では、例えば、図1に示す急冷装置を用いて原料合金を製造する。酸化しやすい希土類元素RやFeを含む原料合金の酸化を防ぐため、不活性ガス雰囲気中で合金製造工程を実行することが好ましい。不活性ガスとしては、ヘリウムまたはアルゴン等の希ガスや窒素を用いることができる。なお、窒素は希土類元素Rと比較的に反応しやすいため、ヘリウムまたはアルゴンなどの希ガスを用いることが好ましい。
【0043】
図1の装置は、真空または不活性ガス雰囲気を保持し、その圧力を調整することが可能な原料合金の溶解室1および急冷室2を備えている。図1(a)は全体構成図であり、図1(b)は、一部の拡大図である。
【0044】
図1(a)に示されるように、溶解室1は、所望の磁石合金組成になるように配合された原料20を高温にて溶解する溶解炉3と、底部に出湯ノズル5を有する貯湯容器4と、大気の進入を抑制しつつ配合原料を溶解炉3内に供給するための配合原料供給装置8とを備えている。貯湯容器4は原料合金の溶湯21を貯え、その出湯温度を所定のレベルに維持できる加熱装置(不図示)を有している。
【0045】
急冷室2は、出湯ノズル5から出た溶湯21を急冷凝固するための回転冷却ロール7を備えている。
【0046】
この装置においては、溶解室1および急冷室2内の雰囲気およびその圧力が所定の範囲に制御される。そのために、雰囲気ガス供給口1b、2b、および8bとガス排気口1a、2a、および8aとが装置の適切な箇所に設けられている。特にガス排気口2aは、急冷室2内の絶対圧を30kPa〜常圧(大気圧)の範囲内(好ましくは100kPa以下)に制御するため、ポンプに接続されている。溶解室1の圧力を変化させることにより、ノズル5から出る溶湯の噴射圧を調節することができる。
【0047】
溶解炉3は傾動可能であり、ロート6を介して溶湯21を貯湯容器4内に適宜注ぎ込む。溶湯21は貯湯容器4内において不図示の加熱装置によって加熱される。
【0048】
貯湯容器4の出湯ノズル5は、溶解室1と急冷室2との隔壁に配置され、貯湯容器4内の溶湯21を下方に位置する冷却ロール7の表面に流下させる。出湯ノズル5のオリフィス径は、2.0mm以上4.0mm以下の範囲内(例えば2.8mm)に設定される。溶湯21の粘性が大きい場合、溶湯21は出湯ノズル5内を流れにくくなり、急冷合金の厚さばらつきを招きやすいが、本実施形態では、オリフィス径を従来に比べて拡大するとともに、急冷室2を溶解室1よりも充分に低い圧力状態に保持しているため、溶解室1と急冷室2との間に大きな圧力差(10kPaを超える差圧)が形成され、溶湯21の出湯がスムーズに実行される。本実施形態で用いる装置によれば、合金溶湯の供給レートを1.5〜10kg/分に設定することができる。供給レートが10kg/分を超えると、溶湯急冷速度が遅くなり、粗大なα−Feが析出するという不都合が生じる。合金溶湯の更に好ましい供給レートは3〜7kg/分である。
【0049】
冷却ロール7は、Cu、Fe、またはCuやFeを含む合金から形成することが好ましい。CuやFe以外の材料で冷却ロールを作製すると、急冷合金の冷却ロールに対する剥離性が悪くなるため、急冷合金がロールに巻き付くおそれがあり好ましくない。冷却ロール7の内径は例えば300〜500mmである。冷却ロール7内に設けた水冷装置の水冷能力は、単位時間あたりの凝固潜熱と出湯量とに応じて算出し、調節される。
【0050】
[急冷法]
まず、前述の組成式で表現される原料合金の溶湯21を作製し、図1の溶解室1の貯湯容器4に貯える。次に、この溶湯21は出湯ノズル5から減圧Ar雰囲気中の水冷ロール7上に出湯され、冷却ロール7との接触によって急冷され、凝固する。合金溶湯の冷却速度は、1×102〜108℃/秒とすることが好ましく、1×102〜1×106℃/秒とすることが好ましい。
【0051】
合金の溶湯21が冷却ロール7によって冷却される時間は、回転する冷却ロール7の外周表面に合金が接触してから離れるまでの時間に相当し、その間に、合金の温度は低下し、凝固する。
【0052】
本実施形態では、ロール表面速度を5m/秒以上15m/秒以下の範囲内に調節し、かつ、雰囲気ガスによる二次冷却効果を高めるために雰囲気ガス圧力を13kPa以上にする。
【0053】
なお、本発明で用いる合金溶湯の急冷法は、上述の片ロール法に限定されず、ノズルオリフィスによる流量制御を行なわない急冷方法であるストリップキャスト法を用いてもよい。ストリップキャスト法による場合は、ノズルオリフィスを用いないため、溶湯供給レートを大きくし、かつ、安定化しやすいという利点がある。しかし、冷却ロールと溶湯との間に雰囲気ガスを巻き込みやすく、急冷面側での冷却速度が不均一する可能性がある。このような問題を解決するには、冷却ロールが置かれた空間の雰囲気圧力を上述した範囲に低下させ、雰囲気ガスの巻き込みを抑制する必要がある。
【0054】
(実施形態2)
次に、ストリップキャスト法を用いる第2の実施形態を説明する。
【0055】
本実施形態では、周速度5m/秒以上20m/秒未満で回転する冷却ロール上に、単位接触幅あたりの供給レートを1.2kg/分/cm以上3.0kg/分/cm以下にして溶湯を連続的に供給する。このように設定することにより、非晶質組織が60体積%以上を占める永久磁石粉末用原料合金を作製できる。
【0056】
本実施形態では、適切な溶湯供給レートの範囲を、上述のように単位接触幅あたりの供給レートで規定している。ストリップキャスト法の場合、溶湯は冷却ロールの軸線方向に沿って所定の接触幅を有するように冷却ロールと接触するが、溶湯の冷却条件は上記単位接触幅あたりの溶湯供給レートに大きく依存するからである。なお、単位接触幅あたりの供給レートとは、典型的には、溶湯を案内するためのシュート上に供給される溶湯の供給レート(単位:kg/分)を、シュートの排出部の幅(すなわち、溶湯の接触幅)(単位:cm)で除算したものを表している。なお、シュートの排出部が複数ある場合には、シュートに供給される溶湯の供給レートを、各排出部の幅の合計で除算したものを表す。
【0057】
単位接触幅あたりの溶湯供給レートが大きすぎると、冷却ロールによる溶湯の冷却速度が低下し、その結果、非晶質化が促進せずに結晶化組織を多く含む急冷合金が作製されてしまいナノコンポジット磁石に適した原料合金を得ることができなくなってしまう。また、溶湯供給レートが小さすぎると、ストリップキャスト法では、冷却ロールに対して溶湯を適切な状態で接触させることが困難になる。このため、本発明では、単位接触幅あたりの供給レートを0.3kg/分/cm以上5.2kg/分/cm以下に設定している。
【0058】
また、後述するように、例えば、接触幅約2cmの接触部を3箇所設ける接触形態で溶湯を冷却ロールに接触させる場合、供給レートを約0.5kg/分/cm以上に設定することによって、約3kg/分以上の処理量を実現することができる。
【0059】
このように、上記特定範囲の周速度で回転する冷却ロールに対して上記特定範囲の供給レートで溶湯を供給することによって、ストリップキャスト法を用いた場合にも、厚さぱらつきの少ない急冷合金を生産性高く作製することができる。ストリップキャスト法では、メルトスピニング法のように製造コストを著しく増加させるノズルを使用しないので、ノズルにかかるコストが不必要となり、また、ノズルの閉塞事故によって生産が停止することもない。
【0060】
その後、得られた急冷合金に対して、約550℃〜約750℃の温度域にて、結晶化させるための熱処理(以下、「結晶化熱処理」と呼ぶこともある)を施すことにより、α−Fe相またはFe3B型化合物の1種または2種からなるソフト磁性相とR2Fe14B型結晶構造を有する化合物とが共存する結晶組織が90%以上を占め、平均結晶粒径が10nm〜50nmである、良好な磁気特性を有するナノコンポジット型永久磁石を得ることができる。
【0061】
以下、図面を参照しながら本実施形態を説明する。
【0062】
図2は、本実施形態に係る、ストリップキャスト法により急冷合金を作製するための急冷装置を示す。急冷装置は、その内部を真空状態もしくは不活性ガス雰囲気での減圧状態にすることができるメインチャンバ30と、このメインチャンバ30に開閉可能なシャッタ48を介して接続されるサブチャンバ50とを備える。
【0063】
メインチャンバ30の内部には、合金原料を溶解するための溶解炉32と、溶解炉32から供給される合金溶湯23を急冷・凝固させるための冷却ロール34と、溶解炉32から冷却ロール34に溶湯23を導く溶湯案内手段としてのシュート(タンディッシュ)36と、凝固して冷却ロール34から剥離した薄帯状の合金を回収するための回収手段40とが設けられている。
【0064】
溶解炉32は、合金原料を溶融することによって作製した溶湯23をシュート36に対して略一定の供給量で供給することができる。この供給量は、溶解炉32を傾ける動作を制御することなどによって、任意に調節することができる。
【0065】
冷却ロール34は、その外周面が銅などの熱伝導性の良好な材料から形成されており、内径30cm〜100cmで幅が15cm〜100cmの寸法を有する。冷却ロール34は、不図示の駆動装置によって所定の回転速度で回転することができる。この回転速度を制御することによって、冷却ロール34の周速度を任意に調節することができる。急冷装置による冷却速度は、冷却ロール34の回転速度などを選択することにより、約102℃/秒〜約2×104℃/秒の範囲で制御可能である。
【0066】
シュート36の端部36aは、冷却ロール34の最頂部とロールの中心とを結ぶ線に対してある程度の角度θを持った位置に配置される(0°<θ<180°、好ましくは0°≦θ≦90°)。シュート36上に供給された溶湯23は、端部36aから冷却ロール34に自重によって供給される。なお、シュート36の溶湯案内面が水平方向に対して形成する角度(傾斜角度)は、1〜80°の範囲内に設定することが好ましい。本実施形態では、角度θを40°に設定するとともに、シュート36については、水平方向に対する溶湯案内面の傾斜角度を20°に設定している。
【0067】
シュート36は、セラミックス等で構成され、溶解炉32から所定の流量で連続的に供給される溶湯23を一時的に貯湯するようにして流速を遅延し、溶湯23の流れを整流することができる。シュート36に供給された溶湯23における溶湯表面部の流れを選択的に堰き止めることができる堰き止め板を設ければ、整流効果を更に向上させることができる。
【0068】
シュート36を用いることによって、冷却ロール34の胴長方向(軸線方向)において、一定幅にわたって略均一な厚さに広げた状態で、溶湯23を供給することができる。シュート36は上記機能に加え、冷却ロール34に達する直前の溶湯23の温度を調整する機能をも有する。シュート36上における溶湯23の温度は、液相線温度よりも100℃以上高い温度であることが望ましい。溶湯23の温度が低すぎると、急冷後の合金特性に悪影響を及ぼす初晶が局所的に核発生し、これが凝固後に残存してしまうことがあるからである。シュート36上での溶湯滞留温度は、溶解炉32からシュート36に注ぎ込む時点での溶湯温度やシュート36自体の熱容量などを調節によって制御することができるが、必要に応じてシュート加熱設備(不図示)を設けても良い。
【0069】
図3は、本実施形態で用いるシュート36を示す。このシュート36は、冷却ロール34の外周面に対向するように配置された端部36aにおいて、所定の間隔W2だけ離して設けられた複数の排出部36bを有している。この排出部36bの幅(出湯幅)W1は、好適には0.5mm〜30mmに設定され、より好適には0.7mm〜20mmに設定される。本実施形態では、出湯幅W1を10mmに設定している。
【0070】
シュート36上に供給された溶湯23は、冷却ロール34の軸線方向Aに沿って、幅W1と略同一幅を有した状態で冷却ロール34に接触する。その後、冷却ロール34に出湯幅W1で接触した溶湯23は、冷却ロール34の回転に伴って(冷却ロール34に引き上げられるようにして)ロール周面上を移動し、この移動過程において冷却される。なお、溶湯漏れを防止するために、シュート36の端部36aと冷却ロール34との間の距離は、3mm以下に設定されることが好ましい。隣接する排出部間の間隙W2は、好適には、0.1mm〜2mmに設定される。
【0071】
このようにして冷却ロール34の外周面における溶湯接触部(溶湯冷却部)を複数の箇所に分離すれば、冷却ロール34に供給する単位時間あたりの溶湯量を大きくしながら、各溶湯流れ毎に略均一な条件で冷却が可能になる。その結果として、50μmを超える厚さの急冷合金を作製したとしても、厚さばらつきが低減され、その結果、非晶質組織を60体積%以上含む急冷合金を安定的に作製することが可能である。
【0072】
再び図2を参照する。冷却ロール34の外周面上で凝固された合金溶湯23は、帯状の凝固合金23aとなって冷却ロール34から剥離する。剥離した凝固合金23aは、回収装置40において破砕され回収される。
【0073】
回収装置40は、薄帯状の凝固合金23aを破砕するための回転ブレード42を備えている。回転ブレードは、例えば、ステンレス鋼などから形成された複数の羽根を有し、不図示の駆動装置によって500〜1000rpm程度の速さで回転させられる。冷却ロール34を剥離した薄帯状の凝固合金23aは、ガイド部材44によって、回転ブレード42へと導かれる。ストリップキャスト法を用いた本実施形態で作製される凝固合金23aは比較的厚い(50μm〜150μm)ため、従来のメルトスピニング法によって得られる比較的薄い凝固合金よりも、回転ブレード42による破砕が容易である。
【0074】
また、帯状の凝固合金23aは上述のように比較的厚いため、回転ブレード42によって破砕された凝固合金25の形状は、アスペクト比がより1に近づけられている。従って、破砕後の凝固合金25を嵩密度が高い状態で回収容器46内に収容することができる。凝固合金25は、好適には、少なくとも1g/cm3の嵩密度で回収される。これにより、回収作業の効率化を図ることができる。
【0075】
所定量の破砕凝固合金25が貯められた回収容器46は、ベルトコンベアなどの移動手段(不図示)によって、サブチャンバ50へと送られる。このとき、シャッタ48が開放される前の段階において、サブチャンバ50の内部を予めメインチャンバ30と同様の真空下または不活性ガスを用いた減圧下にしておくことが望ましい。これによりメインチャンバ30内の真空状態または減圧状態を維持することができる。メインチャンバ30から回収容器46が運び出された後、シャッタ48は閉じられ、メインチャンバ30の気密性が保たれる。
【0076】
その後、サブチャンバ50内において、不図示の装置によって、回収容器46には蓋52が被せられる。このようにして、回収容器46内に密封された破砕合金25は、開閉可能なシャッタ54を開けて外部へと運び出される。
【0077】
以上説明してきたように、本実施形態では、特定組成を有する合金溶湯を図2に示した急冷装置を用いて、ストリップキャスト法により急冷・凝固し、薄帯状の合金を作製する。合金溶湯は、真空下もしくは不活性ガス雰囲気での減圧下において、周速度5m/秒以上20m/秒未満で回転する冷却ロールに対し、単位接触幅あたりの供給レートが0.3kg/分/cm以上、5.2kg/分/cm以下で供給される。このようにして、60体積%以上の非晶質組織を有する急冷合金を作製することが可能である。このような高い割合で非晶質組織を有する原料合金に対して結晶化熱処理を行えば、磁気特性の良好なナノコンポジット型磁石を作製することができる。
【0078】
上述のように、冷却ロールの周速度を5m/秒以上20m/秒未満に設定した理由は、ロール周速度が5m/秒未満であると、急冷合金の厚さが150μmを超えてしまい、また、冷却能力の不足により60体積%以上の非晶質組織を含む急冷合金が得られない。一方、冷却ロールの周速度を20m/秒以上にすると、急冷合金の厚さが50μm以下となる。
【0079】
前述のように、本実施形態において単位接触幅あたりの供給レートを5.2kg/分/cm以下にしている理由は、供給レートが5.2kg/分/cmを超えると、所定の冷却速度が得られず、非晶質を60体積%以上含む急冷合金を作製することができないからである。単位接触幅あたりの供給レートの適切な範囲は、ロール周速度、ロール構造などに応じて異なり得るが、4.0kg/分/cm以下であることが好ましく、3.0kg/分/cm以下であることが更に好ましい。
【0080】
また、ロール周速度が5m/秒以上の場合、単位接触幅あたりの供給レートが0.3kg/分/cmより小さいと、均一な厚さを有する平均厚さ50μm超の急冷合金を得ることができない。
【0081】
なお、シュート(タンディッシュ)の形状や、溶湯排出部の幅と本数、溶湯供給レートなどを適切に選択することによって、得られる薄帯状急冷合金の厚さ及び幅が適正範囲内になるようにすることも重要である。均一な組織を得るためには、冷却速度を幅方向にわたって均一化することも必要であり。そのためには薄帯状急冷合金の幅を5mm〜40mmの範囲内に設定することが好ましい。
【0082】
チャンバ内を不活性ガスを用いて減圧状態にしている場合、鋳造時の不活性ガス雰囲気圧力が高すぎると、冷却ロールが高速回転しているときに、ロール周辺の不活性ガスの巻き込みが生じ、安定した冷却状態が得られない。一方、雰囲気圧力が低すぎると、ロールより離れた薄帯状合金が、不活性ガスによって速やかに冷却されないため、結晶化が進んでしまい、非晶質を多く含む合金を作製できない。この場合には、結晶化熱処理後に得られる合金の磁気特性が低下する。これらのことから、不活性ガス圧力は0.13kPa〜100kPaに調整することが好ましい。
【0083】
[組成の限定理由]
QはB(ほう素)またはC(炭素)の1種または2種である。Bは、ナノコンポジット型永久磁石材料の主相であるソフト磁性相であるFe3Bなどの鉄基硼化物とハード磁性相であるR2Fe14Bに必須の元素である。Bの組成比xが15〜25原子%の範囲から外れると永久磁石特性が発現しないため、Bの組成比xについては15≦x≦25原子%であることが好ましい。なお、本明細書において「Fe3B」は、Fe3Bと識別しにくいFe3.5Bも含むものとする。
【0084】
更に、Bの組成比xが15原子%を下回ると、溶湯の非晶質生成能が低下し、本発明のようにストリップキャスト法によって急冷合金を作製する場合には、非晶質相が十分に形成されない。このような急冷合金を結晶化熱処理しても、良好な磁石特性を発現する金属組織は得られない。なお、原子比率でBの50%までをCで置換しても磁気特性および金属組織に影響はなく許容される。
【0085】
希土類元素Rは、永久磁石特性を発現するために必要なハード磁性相であるR2Fe14Bに必須の元素である。本発明でのRは、PrおよびNd、Dy、Tbの1種または2種以上を含むことが好ましい。ただし、アモルファス生成能や結晶化温度を調整する目的で、これら以外の他の希土類元素で一部を置換してもよい。Rの組成比yは1原子%を下回ると保磁力発現の効果が少なく好ましくない。一方、Rの組成比yが6原子%を超えると、ハード磁性相であるR2Fe14Bが生成されず保磁力が著しく低下してしまう。これらのことから、Rの組成比yについては1≦y≦6であることが好ましい。
【0086】
上記元素の含有残余をFeで占め、また、Feの一部をCoで置換することで減磁曲線の角形性が改善され最大エネルギー積(BH)maxを向上させることができる。
【0087】
更に、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素Mを添加しても良い。これらの添加元素Mの組成比率zが10原子%を超える場合、磁化の低下を招来するため、好ましい範囲は0≦z≦10原子%である。より好ましいzの範囲は、0.3≦z≦5原子%である。
【0088】
【実施例】
以下の表1に示す合金組成を有するように、純度99.5%以上のB、Fe、Co、Cr、およびNdの材料を用いて総量が10kgとなるように秤量し、アルミナ製坩堝内に投入した。
【0089】
【表1】
【0090】
アルミナ製坩堝は、底部に内径2.5mmのオリフィスノズルを有しているため、上記原料はアルミナ製坩堝内で溶解された後、合金溶湯となってオリフィスノズルから下方に排出されることになる。原料の溶解は圧力が35kPaのアルゴン雰囲気下において高周波加熱法を用いて行った。本実施例では溶湯温度を1500℃に設定した。
【0091】
また、実施例では噴射圧(差圧)が30kPaとなり、比較例では噴射圧が10kPaとなるように合金溶湯の湯面をアルゴンガスで加圧することによって、オリフィスの下方15mmの位置にある銅製ロールの外周面に対して溶湯を噴出させた。ロールは、その外周面の温度が室温程度に維持されるように内部が冷却されながら高速で回転する。このため、オリフィスノズルから噴出した合金溶湯はロール周面に接触して熱を奪われつつ、周速度方向に飛ばされることになる。合金溶湯はオリフィスノズルを介して連続的にロール周面上に噴出するため、急冷によって凝固した合金は薄帯状に延びたリボンの形態を持つことになる。
【0092】
本実施例で採用する回転ロール法(単ロール法)の場合、冷却速度はロール周速度および単位時間当たりの溶湯流下量によって規定される。この溶湯流下量は、オリフィス径と溶湯圧力とに依存する。本実施例では、溶湯供給レートを1.2〜3.0kg/分とし、ロール表面速度を5〜9m/秒に設定した。
【0093】
これに対して比較例では、内径2.5mmのノズルオリフィスに代えて内径1mmのノズルオリフィスを用い、しかも、噴射圧を低くすることによって、溶湯供給レートを1.0kg/分程度に下げ、ロール表面速度を4〜7m/秒に設定した。
【0094】
こうして得られた急冷合金の厚さを測定した結果を表2に示す。厚さの測定は、両球面のマイクロゲージを用い、急冷合金薄帯の100個の断片のそれぞれについて行った。各断片のサイズは、長さ:5〜20mm×幅2mm程度であった。
【0095】
【表2】
【0096】
表2の測定結果からわかるように、実施例の厚さばばらつき(標準偏差)は、比較例に比べて非常に小さい。こうして得られた急冷合金の組織をCuKαの特性X線によって調べたところ、何れの試料についても、ハローパターン中にFe23B6の回折ピークが観察された。これにより、急冷合金中には、アモルファス相中に微細なFe23B6が存在していることを確認した。
【0097】
次に、上記の急冷合金をアルゴンガス中で熱処理した。650℃にて急冷合金を10分間保持した後、室温まで冷却した。その後、振動型磁力計を用いて各試料の磁気特性を測定した。下記の表3は、この測定結果を示している。
【0098】
【表3】
【0099】
表3からわかるように、実施例の残留磁束密度Brは、比較例の残留磁束密度Brに比べて格段に高い値を示していた。
【0100】
次に、熱処理後の構成相の変化をCuKαの特性X線により調べたところ、熱処理前に見られたハローパターンは消失し、実施例でも比較例でも、Nd2Fe14BとFe3Bを含むナノコンポジット組織が形成されていることを確認した。
【0101】
更に、熱処理後の微細金属組織を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観測したところ、実施例では、平均粒径50nm以下の程度の結晶粒が略均一なサイズで形成されていた。これに対して比較例では、平均結晶粒径のばらつきが大きかった。表4に、各試料における平均結晶粒径および結晶粒径の標準偏差を示す。
【0102】
【表4】
【0103】
表4からわかるように、比較例に比べて、実施例では組織が微細かつ均一化している。これは、合金溶湯を冷却して急冷合金を作製する際、実施例では均一な冷却が行われたためである。
【0104】
【発明の効果】
本発明によれば、厚さを所定範囲内に設定するとともに厚さばらつきを低減することにより、流動性および磁石特性が共に優れたナノコンポジット磁石の粉末を得るのに好適な急冷合金が量産的に供給される。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態において急冷合金を製造する方法に用いる装置の全体構成例を示す断面図であり、(b)は急冷凝固が行われる部分の拡大図である。
【図2】本発明の第2の実施形態において急冷合金を製造する方法に用いる装置の全体構成例を示す断面図である。
【図3】図2の装置に好適に用いられるシュートの構成を示す図である。
【符号の説明】
1b、2b、8b、および9b 雰囲気ガス供給口
1a、2a、8a、および9a ガス排気口
1 溶解室
2 急冷室
3 溶解炉
4 貯湯容器
5 出湯ノズル
6 ロート
7 回転冷却ロール
21 溶湯
22 合金薄帯
23 合金溶湯
23a 帯状の凝固合金
30 メインチャンバ
32 溶解炉
34 冷却ロール
36 シュート(タンディッシュ)
40 回収手段
42 回転ブレード
44 ガイド部材
48 シャッタ
50 サブチャンバ
Claims (7)
- 組成式が(Fe1-mTm)100-x-y-zQxRyMz(TはCo、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、Rは1種以上の希土類金属元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素)で表現されており、組成比率x、y、z、およびmが、それぞれ、
15≦x≦25原子%、
1≦y≦6原子%、
0≦z≦10原子%、および
0≦m≦0.5
を満足する急冷合金であって、
平均厚さが50μmを超え150μm以下であり、厚さの標準偏差が20μm以下であり、かつ非晶質組織が60体積%以上を占めるナノコンポジット磁石用急冷合金。 - 非晶質相、および、平均粒径50nm以下の結晶相を含む、請求項1に記載のナノコンポジット磁石用急冷合金。
- 組成式が(Fe1-mTm)100-x-y-zQxRyMz(TはCo、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、Rは1種以上の希土類金属元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素)で表現されており、組成比率x、y、z、およびmが、それぞれ、15≦x≦25原子%、1≦y≦6原子%、0≦z≦10原子%、および0≦m≦0.5を満足する合金の溶湯を用意する工程と、
回転する冷却ロールの表面に対して前記合金溶湯を1.5kg/分以上の供給レートで接触させ、それによって平均厚さが50μmを超え150μm以下、厚さの標準偏差が20μm以下であり、非晶質組織が60体積%以上を占める急冷合金を作製する冷却工程と、
を包含し、
前記冷却工程は、
メルトスピニング法により、内径2mm以上のノズルオリフィスを用いて前記合金溶湯を前記冷却ロールの表面に向けて10kPaを超える噴射圧で噴射する工程を含むナノコンポジット磁石用急冷合金の製造方法。 - 組成式が(Fe1-mTm)100-x-y-zQxRyMz(TはCo、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、Rは1種以上の希土類金属元素、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ni、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素)で表現されており、組成比率x、y、z、およびmが、それぞれ、15≦x≦25原子%、1≦y≦6原子%、0≦z≦10原子%、および0≦m≦0.5を満足する合金の溶湯を用意する工程と、
回転する冷却ロールの表面に対して前記合金溶湯を1.5kg/分以上の供給レートで接触させ、それによって平均厚さが50μmを超え150μm以下、厚さの標準偏差が20μm以下であり、非晶質組織が60体積%以上を占める急冷合金を作製する冷却工程と、
を包含し、
前記冷却工程は、
ストリップキャスト法により、案内面が水平方向に対して1〜80°の角度を形成する案内手段上に前記合金溶湯を供給し、前記冷却ロールとの接触領域に前記合金溶湯を移動させる工程と、
を含み、
前記案内手段により、前記合金溶湯の流れを複数条に分離し、各条の幅を前記冷却ロールの軸線方向に沿って所定の大きさに調節する、ナノコンポジット磁石用急冷合金の製造方法。 - 前記急冷合金の作製は、減圧雰囲気ガス中で行う請求項3または4のいずれかに記載の製造方法。
- 前記雰囲気ガスの圧力は、圧力0.13kPa以上100kPa以下に調節されている請求項5に記載の製造方法。
- 前記冷却工程において、非晶質相中にFe23B6相が析出した急冷合金を作製する請求項3から6のいずれかに記載の製造方法。
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