JP4433082B1 - 神経新生促進剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】安全性が高く低コストで得られ、且つ継続摂取が容易な神経新生促進剤および該組成物を含有する飲食品を提供すること。
【解決手段】式(1):(Gly−X−Y)n(式中、nは正の整数、X,Yはアミノ酸残基を表し、X,Yは同一または異なる任意のアミノ酸残基)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを含有する神経新生促進剤。式(1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであって、分子量が1,500以下のペプチドを50重量%以上含有することが好ましい。また、式(1)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドはコラーゲンまたはゼラチンから得られることが好ましい。前記神経新生促進剤は、哺乳動物の脳の海馬において神経新生を促進する。
【選択図】図1

Description

本発明は、安全性が高く、且つ継続摂取が容易な神経新生促進剤に関する。より詳細には、コラーゲン由来のペプチドを含有する神経新生促進剤に関する。
神経変性疾患は大きな社会問題である。例えば、高齢化社会においての認知症患者の増加や、未だに原因不明であるパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などはその典型例である。また、健常人においても、日常生活でいわゆる物忘れが頻発したり、学習能力が低下したりすることは問題であり、やはり脳における神経変性が一因であると考えられている。これらの疾患や機能低下は、加齢に伴う自然現象であることは確かであるが、ストレスや不安が惹起、あるいは助長することも指摘されている。
さらに、神経変性は気分状態やその結果起こる行動にも関連性があることも指摘されつつある。極端に積極性が低下した引きこもり状態に陥ることや、攻撃性の増大による犯罪がそうである。これらの気分状態を改善するためには、ストレスへの耐性を高めることが必須であるが、近年の脳科学の発展により、神経新生を増やすことが根本的な解決になることが示唆されている。
一方で、現代社会においてはグローバル競争の激化や、受験競争の激化により、学習能力や認知能力および記憶能力を高めたいという上昇志向の要求がある。これらの要求は人類史上、普遍的に存在してはいたのであろうが、特に近年において高まっているものと思われる。これらの脳機能に関する能力を高めるためにも、神経新生を促進することは有効な手段である。
従来、神経新生は胎児期などの発生期においてしか行われないと考えられていたが、ヒトを含む哺乳類の成体の脳においても神経幹細胞が存在しており、側脳室周囲の脳室下帯や海馬の歯状回といった特定の領域において、神経新生が起こることが明らかになった。(非特許文献1)
神経新生促進に関する報告はこれまでにも見当たる。神経新生を増加させる物質として、内因性の各種神経栄養因子があげられる。上皮成長因子(Epidermal growth factor(EGF))、線維芽細胞成長因子(Fibroblast growth factor−2(FGF−2))が該当する。また、肝細胞増殖因子が神経新生を促進することも明らかになっている(特許文献1)。インスリン様成長因子(IGF−1)もまた神経栄養因子であり、インスリンと類似した構造を有し、脳神経系にも作用するホルモンである。IGF−1自体が、神経新生を促進することは公知であるが、そのN末端3残基のペプチドであるGly−Pro−Gluは、神経保護作用は有するが、神経新生を促進する直接的な報告は無い。(非特許文献2)(非特許文献3)(非特許文献4)(特許文献2)。これらの神経栄養因子が、生体内において神経新生を担う重要な因子であることは間違いない。しかしながら、タンパク質である神経栄養因子の脳室内投与による治療は、技術面、安全面、コスト面からも困難であり、当然ながら経口投与での効果も期待できない。
一方、神経栄養因子以外で海馬の神経新生を亢進する薬物としては、バルプロ酸ナトリウムや炭酸リチウムが知られている。(非特許文献5)(非特許文献6)。これらの薬物は抗てんかん薬や抗躁病薬として臨床現場で長年用いられてきたものであるが、最近これらの薬物に神経新生促進作用があることが明らかになったものである。
認知症に対する薬剤であるドネペジルやメンマチンの投与によっても神経新生が促進される。神経新生との関連は不明であるが、不安やストレスを改善する医薬品としては、脳内モノアミン代謝やGABA受容体に作用するものが知られている。具体的には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬やベンゾジアゼピン系と呼ばれる薬剤がある。しかしながら、これらの医薬品には、セロトニン症候群などの副作用も知られており、これらのモノアミン系以外の候補化合物が求められている。加えて、攻撃性の改善には同じくモノアミン系薬剤の他、プロゲステロン類似物質が米国などで利用されている。日本国内では、男性が女性化することに対する倫理的問題点が指摘されており、認可されていない。仮に、同様の薬剤が認可される、もしくは同様の作用を持つ食品が見つかったとしても、モノアミン系薬剤と同様に性機能不全といった副作用が顕在化すると予想される。
いずれにせよ、上述例はいずれも医薬品としての使用になり、副作用などの危険性、継続摂取のコストなど問題は多い。特に神経系に作用する薬剤は副作用が多く、自殺や依存症など社会的にも問題が多いことは事実である。ましてや、健常人が長期に渡り継続的に摂取することは不可能である。
つまり、神経新生による神経変性疾患の治癒、或いは神経新生によるQOL(Quality of Life)の向上を根本的に解決するためには、継続摂取可能な神経新生促進剤が求められているのである。
神経促進作用を有する食品素材についての報告は僅かだが開示されている。フラボノイドを有効成分とする哺乳動物の海馬におけるニューロン新生を促進する組成物(特許文献3)、テアニン含有神経細胞新生促進組成物(特許文献4)、脳の器官・海馬の神経細胞増殖に関与しているアラキドン酸(非特許文献7)、ハマウツボ科の植物の抽出物を有効成分とする神経芽細胞増殖剤及び神経突起伸展剤(特許文献5)などがあげられる。しかしながら、いずれも天然界に多量に存在している物質ではなかったり、風味の面で摂取しづらかったり、安定性に欠けるなどの欠点を有していたり、製造コストに問題があったりする。例えば、フラボノイドであるカテキン、アミノ酸誘導体であるテアニンは主に茶に含まれ、工業的にも茶から精製されることが多いが、茶は比較的多量のカフェインを含有しており、カフェインを除くことにコストがかかる。カフェインは刺激が強く禁忌になっている対象者が多い。また、ハマウツボ科の植物は原料資源として限りがある。ところが、天然界に多量に存在しているタンパク質から比較的単純な処理により得られるペプチドであれば、安全性も高く、安定性も高く、また低コストで提供されるものである。しかしながら、脳における神経新生活性を有するこのような性質のペプチドの報告はなかった。
(Gly−X−Y)n(式中、nは正の整数、X,Yはアミノ酸残基を表し、X,Yは同一または異なる任意のアミノ酸残基)に関する報告がある。しかしながら、コラーゲントリペプチド含有皮膚外用剤(特許文献6)は皮膚に対する刺激性や不快感を低減させる作用であり、生体コラーゲン合成促進剤(特許文献7)は生体のコラーゲン合成を促進する作用であり、I型コラーゲン産生促進用組成物(特許文献8)はI型コラーゲンの産生
を促進する作用であり、ヒアルロン酸産生促進剤(特許文献9)はヒアルロン酸の産生を促進する作用である。つまり全て脳における神経新生とは全く関連性のないものである。
以上から、脳における神経新生促進活性を有するこのような性質のペプチドの報告は知られていなかった。
特開2007−284410号公報 特表2007−509169号公報 特開2007−161606号公報 特開2008−169143号公報 特開2008−239505号公報 特開2003−176219号公報 特許第3802721号号公報 特許第4033877号号公報 特開2004−123637号公報 Nature Med.,4:1313−1317,1998 Ann N Y Acad Sci.,692:183−191,1993 Neuropharmacology,47(6):892−903,2004 Brain Res.,922(1):42−50,2001 J Neurosci.,24:6590−6599,2004 Stem cells,26(7):1758−1767,2008 サントリー(株)「Neuro2007」学会発表
本発明の課題は、安全性が高く低コストで得られ、且つ継続摂取が容易な神経新生促進剤を提供することにある。
本発明者らは、神経新生促進作用を有する成分について鋭意検討を重ねた結果、コラーゲン由来のペプチドが優れた神経新生促進作用を有し、さらに抗不安作用、抗うつ作用、脳の発達促進作用などの脳機能改善作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕コラーゲンまたはゼラチンをコラゲナーゼ処理した分解物であって、
Gly−Pro−Arg、
Gly−Pro−Ser−Gly−Asn−Ala(配列番号1)、
Gly−Pro−Val−Gly−Ala−Arg(配列番号2)、
Gly−Pro−Ala−Gly−Pro−Ala(配列番号3)、
Gly−Pro−Hyp、
Gly−Pro−Ile−Gly−Ser−Ala(配列番号4)、
Gly−Pro−Val−Gly−Pro−Ala(配列番号5)、
Gly−Pro−Ser−Gly−Glu−Arg−Gly−Pro−Hyp(配列番号6)、及び
Gly−Leu−Ala−Gly−Pro−Hyp(配列番号7)
で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを含有する神経新生促進剤、
〔2〕分子量が1,500以下のペプチドを50重量%以上含有する前記〔1〕記載の神経新生促進剤、
〔3〕前記コラゲナーゼ処理した分解物を含む水溶液と合成吸着剤SEPABEADS SP850とを混合し、非吸着成分を回収してなる前記〔1〕又は〔2〕に記載の神経新生促進剤、
〔4〕哺乳動物の脳の海馬において神経新生を促進する前記〔1〕〜〔3〕いずれかに記載の神経新生促進剤、
〔5〕脳の発達促進作用を有する前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載の神経新生促進剤、
〔6〕脳機能改善効果を有する前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の神経新生促進剤、
〔7〕脳機能改善効果が、抗不安作用、抗うつ作用であることを特徴とする前記〔6〕記載の神経新生促進剤
関する。
なお、本発明でいう「神経新生」とは、哺乳動物内の幼弱な未分化細胞(例えば神経幹細胞)から神経芽細胞を経て新しい神経(神経細胞)に分化させることをいい、神経細胞に分化する神経芽細胞や未分化細胞の増殖を含む。また、神経新生は、損傷した神経の再生や神経修復を含む。
「神経」には神経中枢(例えば、脳、脊髄等)及び末梢神経(例えば、尺骨神経、橈骨神経、腓骨神経)を含む。単純に生体外での実験においての株細胞(例えばPC12など)に対しての神経突起伸展作用、神経細胞への分化促進作用及び増殖促進作用に留まらない。
本発明により、安全性が高く、継続摂取が可能で、低コストで製造でき、加工適性に優れた神経新生促進剤を提供することにある。より、具体的には、脳機能改善効果である抗不安作用、抗うつ作用、脳の発達促進作用に有用な神経新生促進剤を提供することにある。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、食品として広く一般的に利用されているコラーゲンやゼラチンを分解したペプチドの中でも、特定の規則を有したアミノ酸配列からなるペプチドが哺乳動物の脳の海馬において神経新生を促進する活性を有し、脳の発達促進作用をも有し、抗不安作用、抗うつ作用などの脳機能改善効果を有することを初めて見出し、完成させたものである。
即ち、本発明の神経新生促進剤は、式(1):
(Gly−X−Y)n (1)
(式中、Glyはグリシン残基、nは正の整数、X,Yはアミノ酸残基を表し、X,Yは同一または異なる任意のアミノ酸残基)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドあるいはその塩を含有する。本明細書においては、特に断わらない限り、アミノ酸残基は、L型アミノ酸残基を意味する。
前記式中、X,Yのアミノ酸残基としては、グリシン残基を除くアミノ酸残基の種類は、特に限定されず、通常は、天然に存在するアミノ酸(グリシンを除く)のアミノ酸残基、具体的には、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、プロリン残基、ヒドロキシプロリン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、メチオニン残基、セリン残基、トレオニン残基、システイン残基、グルタミン残基、アスパラギン残基、チロシン残基、リシン残基、アルギニン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基のいずれのアミノ酸残基であってもよい。
また、前記式中、nは1〜7であることが好ましい。
また、本発明で用いるペプチドの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、リジン、オルニチン等の有機塩基との塩が挙げられる。本発明の有効成分である式(1)で表されるペプチドまたはその塩は、水和物、各種溶媒和物として、または結晶多形の物質として単離される場合もあり、本発明にはこれらの単離されたものおよび混合物の全てが包含される。
本発明で用いるペプチドまたはその塩は、前述したコラーゲンまたはゼラチンを含む原料から公知の方法によって製造することもできるし、ペプチドをコードするDNAを含有する形質転換体を培養することによっても製造することができる。また、公知のペプチド合成法に準じて製造することもできる。
例えば、本発明の神経新生促進剤は、前記式(1)で表されるペプチドまたはその塩を有効成分として含有しているものであればよく、例えば、コラーゲンまたはゼラチンをコラゲナーゼ処理した分解物であってもよい。原料となるコラーゲンは、特に限定されず、I型からXIII型のコラーゲンのいずれをも用いることが可能であり、これらの混合物である混合型のコラーゲンを用いることもできる。現実的には、コラーゲンは、各種の動物や魚類から得られる、混合型のコラーゲンを用いることが想定されるが、このコラーゲンの出所となる動物(例えば、牛、豚等)や魚類(例えば、ヒラメ、サケ、イワシ、マグロ等)の種類や、コラーゲンの抽出部位も、骨、皮、腱、ウキブクロ(魚類)等が可能である。
これらの成分からのコラーゲンの抽出・精製は、通常公知の方法を用いて行うことができる。具体的には、例えば、骨、皮、腱、ウキブクロ等のコラーゲンを含有する組織を粉砕した後、水洗、希塩溶液による抽出、酸あるいはアルカリ溶液による抽出、ペプシン,トリプシンやヒアルロニダーゼ等の酵素による抽出を行い、塩析や透析等の公知の精製手段を施して、コラーゲンを精製して得ることができる。また、通常公知の方法により、「再生コラーゲン」として得ることも可能である。また、市販のコラーゲンを、原料として用いることも可能である。
そして、ゼラチンは、上述のコラーゲンを、水で加熱抽出して得られる水溶性タンパク質である。本発明においては、通常公知の方法により製造したゼラチンを原料として用いることも可能であり、市販品を用いることも可能である。
本発明に用いるペプチドは、上述のようにして得られるコラーゲンまたはゼラチンに、コラゲナーゼを作用させて製造することができる。
コラゲナーゼとしては、特に限定されないが、クロストリジウム・ヒストリティカム(Clostridium histolyticum)、ストレプトミセス・パルブラス(Streptomyces parvulus)等の細菌、放線菌または真菌等由来で、コラーゲン特有のアミノ酸配列〔(Gly−A−B)n(式中、A、Bは、グリシン残基を除くアミノ酸残基を表し、互いに同一であっても、異なってもよく、nは、正の整数を表す):以下、このアミノ酸配列を、「特有アミノ酸配列」ともいう)〕のグリシン残基のアミノ基末端側を、特異的に切断するコラゲナーゼを用いることで、この特有アミノ酸配列のペプチドを豊富に含むコラゲナーゼ分解物を得ることが可能であり、好ましい。また、ここで用いるコラゲナーゼは、天然物として得られるコラゲナーゼは勿論のこと、例えば、タンパク工学的な手法で改変して得られる、上記の特異性を有する改変コラゲナーゼであってもよい。
上記のA,Bがとりうる、グリシン残基を除くアミノ酸残基の種類は、特に限定されず、通常は、天然に存在するアミノ酸(グリシンを除く)のアミノ酸残基、具体的には、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、プロリン残基、ヒドロキシプロリン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、メチオニン残基、セリン残基、トレオニン残基、システイン残基、グルタミン残基、アスパラギン残基、チロシン残基、リシン残基、アルギニン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基のいずれのアミノ酸残基であってもよい。
また、本発明に用いられ得るペプチドは、通常公知の方法、例えば、特開平7−82299号公報や特開平9−176196号公報に記載されている方法に準じて、遊離またはキトバール等の固定化担体に固定化されたコラゲナーゼを、バッチ法、カラム法またはこれらの方法を組み合わせ、好ましくは、反応温度を40〜45℃に設定して、前記コラーゲンまたはゼラチンと接触させることで製造することができる。
コラゲナーゼ分解物は、上述の方法に従い、これを製造してそのまま用いてもよいが、各種基材に配合してもよい。配合量や基材の種類は特に限定されるものではなく、適時設定すればよい。基材としてはたとえば、錠剤、カプセル等の経口投与基材が好ましい。なお、コラゲナーゼ分解物として市販品を用いることも可能である。
また、上述の方法に従い製造したコラゲナーゼ分解物あるいはその市販品を、さらに種々の樹脂を用いて精製することによって、低分子ペプチドの濃度を高めた画分を得ることもできる。使用する樹脂としてはたとえば、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、多孔性樹脂、特殊樹脂(キレート樹脂、合成吸着剤、蛋白分離剤)等が挙げられるが、回収した画分の脱塩処理工程が不要であることから、合成吸着剤を用いるのが好ましい。合成吸着剤としてはたとえば、芳香族(スチレン‐ビニルベンゼン)系、芳香族系修飾型、アクリル(メタクリル)系等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。吸着した有機物の溶離には、酸、アルカリまたは種々の有機溶媒、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコールや酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン等のケトン類を用いることできるが、これらに限定されるものではない。また、これらの有機溶媒は単独または2種類以上を混合して用いてもよく、これらと水あるいは酸、アルカリとの混合溶媒としてもよい。なお、経済性と安全性の点からは、エタノールまたはエタノール水溶液を用いて溶離するのが好ましい。精製は、バッチ法あるいはカラム法にて行うことができる。回収した画分は減圧または限外ろ過により濃縮し、さらに必要に応じて溶媒を完全に除去して乾固するか凍結乾燥を行ってもよい。
同様に、コラゲナーゼ分解物あるいはその市販品を、有機溶媒や無機塩により沈殿分離させる方法で精製することによって、低分子ペプチドの濃度を高めた画分を得ることもできる。
上記の方法等で、コラーゲンやゼラチンをコラゲナーゼで分解し各種手法で精製した場合、ペプチドの消化管内における吸収率や吸収速度の上昇、血液脳関門の通過性の向上、熱やプロテアーゼに対する安定性の向上、ペプチド自体の活性の上昇、単位重量あたりのモル数の増加など様々な観点から、分子量が1,500以下のペプチドを50重量%以上含有していればよい。
特に、上記の方法で精製された場合、前記式(1)で表されるペプチドとしては、XがPro又はLeuであるペプチドが含まれる。中でも、式(1)で表されるペプチドとしては、Gly−Pro−Arg、
Gly−Pro−Ser−Gly−Asn−Ala(配列番号1)、
Gly−Pro−Val−Gly−Ala−Arg(配列番号2)、
Gly−Pro−Ala−Gly−Pro−Ala(配列番号3)、
Gly−Pro−Hyp、
Gly−Pro−Ile−Gly−Ser−Ala(配列番号4)、
Gly−Pro−Val−Gly−Pro−Ala(配列番号5)、
Gly−Pro−Ser−Gly−Glu−Arg−Gly−Pro−Hyp(配列番号6)
Gly−Leu−Ala−Gly−Pro−Hyp(配列番号7)
等が挙げられる。
前記のペプチドについては、単一のものであっても、2種類以上が混合されてもよい。中でも、2種類以上のペプチドが混合された神経新生促進組成物では、得られた組成物中に最も含量の高いペプチドは、Gly−Pro−Hypであり、ペプチド中にGly−Pro−Hypが5.0重量%以上含まれることが望ましい。
また、本発明で用いられるペプチドまたはそれらの塩は、公知のペプチドの合成法に従って製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。
また、合成反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶等を組み合わせて本発明で用いられるペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られるペプチドが遊離体である場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
また、本発明で用いられるペプチドを遺伝工学的な手法で製造することもできる。例えば、前記ペプチドをコードする塩基配列を含有するポリヌクレオチド、好ましくはDNAを作製して行うことができる。DNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、前記した原料由来のcDNA、前記した原料由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。
前記のポリヌクレオチドは、例えば、DNAリガーゼ、制限酵素等の公知の方法を用いてベクターに組み込み、次いでそのベクターを宿主細胞中で増幅させることも可能である。ベクター、宿主細胞等については公知のものであれば特に限定はない。培養した宿主細胞から本発明のペプチドを分離精製することで、本発明に用いられるペプチドを大量に得ることができる。分離精製方法としては、公知の方法であれば特に限定はない。
以上のようにして得られるペプチドまたはその塩(以下、本発明のペプチド等と略す)は、神経新生促進剤中の有効成分として使用することができる。
本発明の神経新生促進剤は、哺乳動物の脳の中でも、海馬における神経新生を促進するものが好ましい。海馬における神経新生を促進することで、抗不安作用、抗うつ作用、抗健忘作用、記憶向上作用、学習能力向上作用など海馬が担っている情動、記憶、学習および認知に関する機能を広く改善あるいは向上させるという利点がある。なお、脳の海馬における神経新生の促進は、後述の実施例に記載の方法を用いて確認することができる。
また、本発明の神経新生促進剤は、脳の発達促進作用を有することが好ましい。脳の発達促進作用とは、脳全体重量を増大させる作用をいい、本発明の神経新生促進剤を継続的に投与することで、発現される。具体的には、後述の実施例に記載の方法を用いて確認することができる。
また、本発明の神経新生促進剤は、哺乳動物の抗不安作用、抗うつ作用などの脳機能改善を目的に使用することができる。
抗不安作用や抗うつ作用を有する向精神薬などの薬剤としては、従来から種々の合成系の試薬が市販されているが、いずれも中枢神経系に脳神経に作用して、生物の精神活動に何らかの影響を与えて、例えば不安、緊張といった症状を緩和する作用を有する。しかしながら、これらの市販薬は、投薬を誤ると睡眠作用、幻覚作用などの種々の副作用を伴うことも報告されている。特に、不安、うつなどの症状は診断自体が客観的に判別しにくいことや、投薬には熟練を要するという問題がある。
これに対して、本発明の神経新生促進剤は、天然物であるコラーゲンを構成するペプチドに由来するものであり、これらが食品として利用されていることからも、副作用の点で安全性に優れるという利点がある。
前記神経新生促進剤は、哺乳動物の脳機能改善のために使用する場合は、常套手段に従って、その有効量をヒトまたは非ヒトの哺乳動物に対して投与することができる。この場合、経口投与となる。
口投与する場合、その目的のよっていろいろな基材を選択でき、前述したとおり、錠剤、カプセル等が挙げられる。本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等が挙げられる。このような固体組成物においては、一つまたはそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば、ショ糖、乳糖、ぶどう糖などの各種糖類、マンニトール、ソルビトールなどの各種糖アルコール、さらにはヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、各種でんぷん等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、繊維素グリコール酸カルシウムのような崩壊剤、ラクトースのような安定化剤、グルタミン酸またはアスパラギン酸のような溶解乃至溶解補助剤を含有してもよい。場合によっては、香料、甘味料などといった添加物も使用できる。また、錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤の顆粒は、必要により、ショ糖などの糖類、マルチトールなどの糖アルコールで糖衣を施したり、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどでコーティングを施したりすることもできる。または胃溶性もしくは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。また、製剤の溶解性を向上させるために、公知の可溶化処理を施すこともできる。
ペプチド等の投与量は被検体の年齢、体重、症状、治療効果、投与ルート等により異なり、これらを考慮して適宜設定されるが、例えば、ヒトであれば通常成人一日当たり、経口投与で10mg〜30g、好ましくは100mg〜10gが好適であり、これを1日1回あるいは2〜数回に分けて投与される。投与量は予防目的やその他の種々の条件によって変動するので、上記投与量範囲より少ない量で十分な場合もある。被検体がヒト以外の哺乳動物であれば上記のヒトに準じて投与量を調整すればよい。
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等)に対して投与することができる。
また、本発明の神経新生促進剤は、他の脳機能改善効果を有するといわれている化合物や素材と組み合わせて使用することも可能である。この場合、相加効果に留まらず、相乗効果までもが生じることが考えられる。このような化合物や素材の例として、脳の栄養源であるブドウ糖、神経系に作用するカフェイン等のプリン誘導体、脳の構成成分であるフォスファチジルセリン、フォスファチジルコリン、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸等の脂質、血流改善作用を有するイチョウ葉エキスなどの組成物、補酵素であるピロロキノリンキノン(PQQ)、コエンザイムQ10(CoQ10)などがあげられる。組み合わせ方は何ら制限されるものではなく、期待する効果の程度、味などの呈味面、コスト、加工適性や安定性などから適したもの1種以上を組み合わせて用いることができる。
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これにより本発明を限定するものではない。
実施例1:各種試料の作製
各種実験を行うにあたり、被験試料と対照試料の2種類を用意した。双方ともに、共通のゼラチンを用いた。
(被験試料の作製と分析)
豚皮ゼラチン(ルスロ社製)2.0kgに水20Lを加え、加温溶解した。コラゲナーゼタイプI(ワシントン社製)20gを加え、37℃で1時間酵素反応を行った。反応終
了後、反応液を100℃で5分間加熱し、酵素を失活させ、0.45μmのフィルターでろ過した。このろ液を合成吸着剤SEPABEADS SP850(三菱化学社製)を用いて分画した。合成吸着剤5kgとろ液5Lを混合し、1時間撹拌した後、静置して上清をろ過および回収した。その後、10Lの水を加えて撹拌した後、静置して上清をろ過および回収した。この操作を計3回行った。その後、20%(v/v)エタノール水溶液を加えて撹拌した後、静置して上清をろ過および回収した。この操作を計3回行った。回収したろ液を減圧下のロータリーエバポレーターで濃縮し、エタノールを除去した後、凍結乾燥を行ってペプチド粉末を得た。これを被験試料とした。
得られた被験試料の分子量分布を調べた。AKTApurifierおよびSuperdex Peptide 10/300 GL(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより検出を行なった。その結果、分子量1500以下のペプチドが50重量%以上含まれていることが確認できた。
さらに、被験試料中に含まれる複数のペプチドの一部を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により単離し、プロテインシーケンサー(アプライドバイオシステムズ社製)により構造決定したところ、
Gly−Pro−Arg、
Gly−Pro−Ser−Gly−Asn−Ala(配列番号1)、
Gly−Pro−Val−Gly−Ala−Arg(配列番号2)、
Gly−Pro−Ala−Gly−Pro−Ala(配列番号3)、
Gly−Pro−Hyp、
Gly−Pro−Ile−Gly−Ser−Ala(配列番号4)、
Gly−Pro−Val−Gly−Pro−Ala(配列番号5)、
Gly−Pro−Ser−Gly−Glu−Arg−Gly−Pro−Hyp(配列番号6)
Gly−Leu−Ala−Gly−Pro−Hyp(配列番号7)
であり、確かに(Gly−X−Y)nの構造を有していた。また、被験試料中に最も含量の高いペプチドは、Gly−Pro−Hypであり、被験試料中に8.0重量%含まれていた。
(対照試料の作製と分析)
豚皮ゼラチン2.0kgに水20Lを加え、加温溶解した。プロテアーゼN「アマノ」G(天野エンザイム社製)20gを加え、55℃で1時間酵素反応を行った。反応終了後、反応液を100℃で10分間加熱し、酵素を失活させ、0.45μmのフィルターでろ過した。このろ液をについてエタノールを用いた沈殿法により分画した。ろ液:エタノールを体積比3:2の割合でよく混合し、4℃で一晩静置した後、10,000rpm、4℃で15分間遠心した。上清を回収し、減圧下のロータリーエバポレーターで濃縮し、エタノールを除去した後、凍結乾燥してペプチド粉末を得た。これを対照試料とした。
得られた被験試料の分子量分布を調べた。AKTApurifierおよびSuperdex Peptide 10/300 GL(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いたゲルろ過クロマトグラフィー(溶媒:1×PBS)により検出を行なった。その結果、分子量1500以下のペプチドは僅かで、この対照試料の平均分子量は5000前後であることが確認された。使用した酵素は微生物由来の混合物であり、基質特異性が低いことから、ペプチドのN末端アミノ酸はGlyに特定されないものである。
また、得られた被験試料と対照試料ではアミノ酸組成はほぼ同等で、栄養学的な差異はないといえた。
実施例2:試料の投与方法と飼育方法
5週齢のC57BL/6J雄マウス32匹を2群に分け、各16匹ずつに被験試料、対照試料を飲用水に5重量%となるように混合させて、自由摂取させた。3週間摂取させ、8週齢より実験を開始した。実験開始後も摂取は継続させた。摂食量、摂水量、体重には、2群間で有意な差は見られなかった。これらの結果を図1〜3に示す。図1はマウス各群の餌の摂取量、図2はマウス各群の水溶液の摂取量、図3はマウス各群の体重をそれぞれ示す。
実施例3:抗不安効果の検討1
不安に対する被験試料の効果を調査するため、オープンフィールド試験を行った。
(実験設計)
測定機器:小原医科産業社製 ImageJ OF2 for Open field test
オープンフィールド試験では、30cmの高さの壁に囲まれた50×50cmの広く明るい開かれた場所(オープンフィールド)にマウスを置き、マウスの動いた軌跡や滞在時間を記録し、その行動を観察する。マウスは、広い場所や明るい場所を忌避し、周囲の壁に沿って移動する性質(接触走性)を示す。接触走性は、不安様行動として捉えられ、不安感が低下したマウスは、オープンフィールドの中央に滞在する時間が長くなる。解析には、Image Jをもとに作られたImage J XX(O’Hara & Co.,Ltd.)を使用した。Image Jは米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)において作製されたフリーウエアhttp://rsb.info.nih.gov/ijより入手可能である。
(統計的分析)
各データは、平均値±標準偏差(means±SD)で表した。各群のデータには、SPSS 15.0J for Windows(登録商標、以下同じ)を使用し、2群間の平均値の比較には対応のないt検定を行った。また、被験試料と対照試料、それぞれについての測定時間内の行動の変化についての比較には、二元配置の分散分析を用い、各時点において対応のないt検定によって2群間の比較を実施し、いずれも5%未満をもって有意と判定した。
(結果)
8週齢の雄マウスをオープンフィールドに入れ、その行動を10分間観察した。被験試料摂取マウス、対照試料摂取マウスについてそれぞれ12匹を試験した。中央領域に滞在した時間に有意な差は見られず、移動距離も2群間で差はなかったが、図4に示すように、試験時間(10分)内に移動した回数は、有意に被験試料摂取マウスが多かった。被験試料摂取マウスは、活発で活動的であり、不安様行動が減少していることを示している。この結果から、被験試料には抗不安作用があることが明らかになった。
実施例4:抗不安効果の検討2
不安に対する被験試料の効果を調査するため、明暗選択試験を行った。
(実験設計)
測定機器:小原医科産業社製 ImageJ LD1 for Light / dark transition test
明暗選択試験では、連結した2つの白・黒の装置内にマウスを入れ、マウスが明暗の箱を往来した回数や軌跡を記録し、活動量や情動性を測定する。マウスは、暗い場所を好む性質を示すが、明箱と暗箱を自由に行き来できるようにした装置内でのマウスの活動量や往来回数などにより、不安感を評価する。不安感が低下したマウスは、明箱に滞在する時間が長くなる。解析には、Image Jをもとに作られたImage J XX(O’Hara & Co.,Ltd.)を使用した。Image Jは米国国立衛生研究所において作製されたフリーウエアhttp://rsb.info.nih.gov/ijより入手可能である。
(統計的分析)
各データは、平均値±標準偏差(means±SD)で表した。各群のデータには、SPSS 15.0J for Windowsを使用し、2群間の平均値の比較には対応のないt検定を行った。また、被験試料と対照試料、それぞれについての測定時間内の行動の変化についての比較には、二元配置の分散分析を用い、各時点において対応のないt検定によって2群間の比較を実施し、いずれも5%未満をもって有意と判定した。
(結果)
明箱を500luxに調整し、8週齢の雄マウスを暗箱に入れ実験を開始し、その行動を10分間観察した。被験試料摂取マウス、対照試料摂取マウスについてそれぞれ12匹を試験した。図5に示すように、被験試料摂取マウスは、対照試料摂取マウスと比較し、全体の試験時間(10分)内を通して、明箱内での移動距離が長く、6〜7分の間では有意差が見られた。よって、オープンフィールド試験同様に、被験試料摂取マウスは、活発で活動的であり、また、不安様行動が減少していることを示している。この結果からも、被験試料には抗不安作用があることが明らかになった。
実施例5:抗不安効果の検討3
不安に対する被験試料の効果を調査するため、高架式十字迷路試験を行なった。
(実験設計)
測定機器:小原医科産業社製 ImageJ EP1 for Elevated plus maze
高架式十字迷路試験では、高い場所に設置された十字状のステージに実験動物を置いてその行動を観察する。十字状のステージの対称的な位置にある2つのプラットフォームには壁が装着されており(クローズドアーム)、残り2つの対照的な位置にあるプラットフォームには壁がない(オープンアーム)つくりとなっている。アームの長さは一辺45cm、幅5cmで、クローズドアームの壁の高さは15cmである。マウスは、高所における恐怖と狭い場所を好む性質から、通常は、ほとんどの時間をより安全なクローズドアームで過ごすが、不安感の低下したマウスは、オープンアームに滞在している時間が長くなる傾向を示す。それぞれのアームにマウスが行った回数や滞在期間を記録し、不安感を定量的に比較する。解析には、Image Jをもとに作られたImage J XX(O’Hara & Co.,Ltd.)を使用した。Image Jは米国国立衛生研究所において作製されたフリーウエアhttp://rsb.info.nih.gov/ijより入手可能である。
(統計的分析)
各データは、平均値±標準偏差(means±SD)で表した。各群のデータには、SPSS 15.0J for Windowsを使用し、2群間の平均値の比較には対応のないt検定を行った。また、被験試料と対照試料、それぞれについての測定時間内の行動の変化についての比較には、二元配置の分散分析を用い、各時点において対応のないt検定によって2群間の比較を実施し、いずれも5%未満をもって有意と判定した。
(結果)
照明を300luxに調整し、8週齢の雄マウスを高架式十字迷路のプラットフォームの中央に置いて実験を開始し、その行動を10分観察した。被験試料摂取マウス、対照試料摂取マウスについてそれぞれ12匹を試験した。図6に示すように、被験試料摂取マウスは対照試料摂取マウスと比較し、クローズドアームに滞在した時間が有意に少なかった。また、図7に示すように、被験試料摂取マウスは対照試料摂取マウスと比較し、クローズドアームに滞在した時間の割合も有意に少なかった。よって、オープンフィールド試験、明暗選択試験同様に、被験試料摂取マウスは、不安様行動が減少していることを示している。この結果からも、被験試料には抗不安作用があることが明らかになった。
実施例6:被験試料摂取マウスの抗うつ作用
うつ様行動に対する被験試料の効果を調査するため、テールサスペンション試験を行った。
(実験設計)
測定機器:小原医科産業社製ImageJ TS1 for Tail suspension test
テールサスペンション試験では、天井のフックにマウスの尻尾を引っ掛け、マウスを逆さ吊りにし、マウスが手を動かさない状態(無気力状態)の回数と時間を記録し、うつの度合いを評価する。装置はマウスが逃げられない構造になっているため、時間が経つとマウスは逃避行動を止めてしまう。これには、あきらめの心理的背景が反映されているものと考えられている。従って、不動時間を測定することによって、うつ状態の程度を定量的に比較することができる。解析には、Image Jをもとに作られたImage J XX(O’Hara & Co.,Ltd.)を使用した。Image Jは米国国立衛生研究所において作製されたフリーウエアhttp://rsb.info.nih.gov/ijより入手可能である。
(統計的分析)
各データは、平均値±標準偏差(means±SD)で表した。各群のデータには、SPSS 15.0J for Windowsを使用し、2群間の平均値の比較には対応のないt検定を行った。また、被験試料と対照試料、それぞれについての測定時間内の行動の変化についての比較には、二元配置の分散分析を用い、各時点において対応のないt検定によって2群間の比較を実施し、いずれも5%未満をもって有意と判定した。
(結果)
照明を20luxに調整し、8週齢の雄マウスを天井のフックに尻尾を引っ掛けて実験を開始し、その行動を5分観察した。被験試料摂取マウス11匹、対照試料摂取マウス12匹を試験した。不動時間の割合に差は見られなかったものの、図8に示すように、被験試料摂取マウスは、対照試料摂取マウスと比較し、時間を追うごとに、中心点からの移動距離が有意に大きくなっており、すなわち、対照試料摂取マウスの方が、より早く逃避行動をあきらめていると言え、被験試料摂取マウスは、うつに対して耐性が高いことを示している。この結果から、被験試料には抗うつ作用があることが明らかになった。
実施例7:脳の発達促進作用
脳の発達に対する被験試料の効果を調査するため、脳重量測定を行った。
(実験設定)
被験試料摂取マウスおよび対照試料摂取マウスの脳を取り出して、重量を比較した。また、体重を測定し、体重に対する脳重量比を比較した。
(統計的分析)
各データは、平均値±標準偏差(means±SD)で表した。各群のデータには、SPSS 15.0J for Windowsを使用し、2群間の平均値の比較には対応のないt検定を行い、5%未満をもって有意と判定した。
(結果)
9週齢の被験試料摂取マウスおよび対照試料摂取マウスから脳組織を摘出し、脳重量と体重について比較した。被験試料摂取マウス、対照試料摂取マウスについてそれぞれ8匹を試験した。図9に示すように、対照試料摂取マウスと比較し、被験試料摂取マウスは、有意に脳重量が増加した。また、体重においては、2群間で差は見られず、体重に対する脳重量の比を見ても、被験試料摂取マウスの方が大きい値を示した。この結果から、被験試料摂取マウスの脳は、対照試料摂取マウスに対し有意に大きくなっていると言えた。
よって、被験試料には、脳の発達促進作用があることが明らかになった。
実施例8:被験試料摂取マウスの海馬における神経新生
被験試料の、神経新生に対する効果を検討した。海馬は神経細胞の新生(神経新生)が特に盛んな領域であり、顆粒細胞層(海馬歯状回の神経細胞層)の拡大は神経新生の増大によるものと考えられている。そこで、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(5−bromo−2’−deoxyuridine;BrdU)を用いて、分裂細胞を特異的に検出し、その細胞密度を定量的に比較した。
(実験設計)
細胞分裂を分裂細胞では、DNAの複製が盛んに行われているが、化学標識された核酸をマウスに投与することによって、インビボ(in vivo)で体内のすべての分裂細胞を標識することができる。核酸類似物質としては、BrdUを用いることにより、DNA合成時にチミジンと間違えて取り込まれ、分裂細胞の染色体DNAが特異的に標識される。BrdUを体重あたり100g/kgとして腹腔内投与し、2時間後にマウスをPBS液で還流、パラホルムアルデヒド溶液を用いて固定した。この操作によって、2時間の間で分裂した細胞がin vivo標識される。海馬領域について200μmおきに厚さ40μmの冠状切片を作製し、抗BrdU抗体を用いた免疫染色を行う。BrdU陽性細胞である分裂細胞は蛍光により同定する。同時にsyto13greenを用いて細胞核を染色し、海馬歯状回の顆粒細胞層を可視化する。神経前駆細胞は顆粒細胞下層(subgranular zone,SGZ)に多く存在することから、BrdU陽性細胞はこの領域で見出される。そのため、顆粒細胞層に沿って、BrdU陽性細胞数を計測することによって、分裂細胞の密度を求めることができる。分裂細胞の密度としては、顆粒細胞下層の単位長さあたりのBrdU陽性細胞の数とし(細胞数/mmSGZ)、これは同一固体の海馬のどの部分においてもほぼ一定である。また、ダブルコルチン(Doublecortin;Dcx)を用いて、未熟神経細胞の免疫組織染色も同時に行った。実験は、飼育9週齢目の雄マウスを用いて行った。
(統計的分析)
各データは、平均値±標準偏差(means±SD)で表した。各群のデータには、SPSS 15.0J for Windowsを使用し、2群間の平均値の比較には対応のないt検定を行い、5%未満をもって有意と判定した。
(結果)
被験試料摂取マウス、対照試料摂取マウスについてそれぞれ8、6匹を使用した。マウスの海馬を含む領域を200μmおきに冠状切片を得て(領域:海馬の吻側末端から600μmの位置に始まって1400μmの位置まで)、1個体あたり4切片を実験に用いた。抗BrdU抗体による免疫組織染色とsyto13greenによる核染色、Dcx免疫染色の3重染色を施し、各切片の左右の海馬歯状回について写真を撮った(一片あたり8枚の画像)。LSM Image Browser(Carl Zeiss MicroImaging社製)を使用し、取得した画像から顆粒下細胞層(SGZ)の距離を測定し、その後、ImageJソフトを使用して画像解析を行い、可視にてBrdU陽性細胞数をカウントした。図10に、被験試料摂取マウスおよび対照試料摂取マウスの海馬歯状回におけるBrdU陽性細胞の免疫染色画像(白黒)を示す。各画像の右上に挿入された図は、同一領域の核染色画像(緑色)である。緑色示された顆粒細胞層より下の細胞層が顆粒細胞下層(SGZ)であり、神経前駆細胞が多く存在している。被験試料摂取マウス、対照試料摂取マウス共にBrdU陽性細胞の多くが顆粒細胞下層に存在しているが、被験試料摂取マウスの方が、対照試料摂取マウスよりBrdU陽性細胞が一定の領域に集中して存在していることが分かる。画像解析ソフトを使用して、細胞数をカウントする場合、光量の閾値、面積を設定して、その閾値・面積以上のものカウントする仕組みとなっているが、被験試料摂取マウスの画像のようにBrdU陽性細胞が一箇所に集中して存在する場合、複数の細胞があったとしても、画像解析ソフトのカウントは「1」となってしまい、正確性を欠くことから、今回は可視にて陽性細胞をカウントした。これらの画像を元に、各個体からBrdU陽性細胞の密度(BrdU陽性細胞数/mmSGZ)の平均を求めたのが、図11である。この解析によって、被験試料摂取マウスは対照試料摂取マウスと比較して、海馬歯状回の顆粒細胞下層における分裂細胞の密度が有意に高いことが判明した。このことから、被験試料は、海馬において神経細胞増殖を有意に亢進していることが明らかになった。また、顆粒細胞下層における分裂細胞のほとんどは神経前駆細胞であることから、神経新生が盛んになっていると考えられる。すなわち、被験試料は、神経新生を促進することが明らかとなった。
図1は、マウス各群の餌の摂取量を示すグラフである。 図2は、マウス各群の水溶液の摂取量を示すグラフである。 図3は、マウス各群の体重を示すグラフである。 図4は、オープンフィールド試験における移動回数を示すグラフである。 図5は、明暗選択試験における移動距離を示すグラフである。 図6は、高架式十字迷路試験におけるクローズドアームに滞在した時間を示すグラフである。 図7は、高架式十字迷路試験におけるクローズドアームに滞在した時間の割合を示すグラフである。 図8は、テールサスペンション試験における中心からの移動距離を示すグラフである。 図9は、脳重量測定値を示すグラフである。 図10は、各群マウスの海馬歯状回におけるBrdU陽性細胞の免疫染色画像(白黒)を示し、各画像の右上に挿入された図は、同一領域の核染色画像(緑色)を示すグラフである。 図11は、各個体からBrdU陽性細胞の密度(BrdU陽性細胞数/mmSGZ)の平均を求め、二群間で比較したグラフである。

Claims (7)

  1. コラーゲンまたはゼラチンをコラゲナーゼ処理した分解物であって、
    Gly−Pro−Arg、
    Gly−Pro−Ser−Gly−Asn−Ala(配列番号1)、
    Gly−Pro−Val−Gly−Ala−Arg(配列番号2)、
    Gly−Pro−Ala−Gly−Pro−Ala(配列番号3)、
    Gly−Pro−Hyp、
    Gly−Pro−Ile−Gly−Ser−Ala(配列番号4)、
    Gly−Pro−Val−Gly−Pro−Ala(配列番号5)、
    Gly−Pro−Ser−Gly−Glu−Arg−Gly−Pro−Hyp(配列番号6)、及び
    Gly−Leu−Ala−Gly−Pro−Hyp(配列番号7)
    で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを含有する神経新生促進剤。
  2. 分子量が1,500以下のペプチドを50重量%以上含有する請求項1記載の神経新生促進剤。
  3. 前記コラゲナーゼ処理した分解物を含む水溶液と合成吸着剤SEPABEADS SP850とを混合し、非吸着成分を回収してなる請求項1または2記載の神経新生促進剤。
  4. 哺乳動物の脳の海馬において神経新生を促進する請求項1〜3いずれかに記載の神経新生促進剤。
  5. 脳の発達促進作用を有する請求項1〜4いずれか記載の神経新生促進剤。
  6. 脳機能改善効果を有する請求項1〜5のいずれか記載の神経新生促進剤。
  7. 脳機能改善効果が、抗不安作用、抗うつ作用であることを特徴とする請求項6記載の神経新生促進剤
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