JP4414673B2 - 摩擦伝動ベルト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベルト本体がプーリに接触するように巻き掛けられて動力を伝達する摩擦伝動ベルトに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のエンジンルームの省スペース化を図るべく、1本のVリブドベルトでエンジンのクランクシャフトからの動力をパワーステアリング、エアーコンプレッサー、オルタネータ等の補機に伝達するサーペンタイン駆動方式が普及している。そのため、かかるVリブドベルトには、高い動力伝達能力が要求される。また、Vリブドベルトには、自動車の乗り心地の追求等によりベルト走行時の静粛性も要求される。そこで、一般に、Vリブドベルトでは、プーリに接触する圧縮ゴム層にベルト幅方向に配向した短繊維が混入されて補強されており、その短繊維がベルト表面から突出していることによりベルト表面の摩擦係数が低減され、低発音性及び耐摩耗性の向上が図られている。
【0003】
特許文献1には、水素添加アクリロニトリルゴムで構成されたVリブドベルトのリブゴム層をリブ根元部とリブ先端部との2層構造とし、リブ根元部を構成する水素添加アクリロニトリルゴムに短繊維を複合し、かつ短繊維をほぼベルト幅方向に配向させ、さらにリブ先端部を構成する水素添加アクリロニトリルゴムに不飽和カルボン酸金属塩を配合することが開示されている。そして、これによれば、使用雰囲気温度の上昇等、過酷な条件下での使用においても優れた耐熱性、耐摩耗性及び耐屈曲疲労性を有し、摩耗故障等のトラブルの発生のない高寿命のVリブドベルトが得られると記載されている。
【0004】
特許文献2には、ベルト長手方向に沿って心線を埋設した接着ゴム層と、圧縮ゴム層を含む弾性体層からなるVリブドベルトであって、接着ゴム層と圧縮ゴム層からなる弾性体層のうち少なくとも圧縮ゴム層にエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物の加硫物を使用し、そのエチレン−α−オレフィンエラストマー中のエチレン含量が60〜75質量%であり、かつ圧縮ゴム層に補強繊維として長さが0.5〜3mmの1種類もしくは2種類以上の短繊維を含み、その短繊維の総添加量がエチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して10〜30質量部であるものが開示されている。そして、それによれば、シーティングの加工性が良好な短繊維含有ゴム組成物およびこの短繊維含有ゴム組成物を少なくとも圧縮ゴム層に用いることにより、優れた屈曲疲労性、耐熱性を有し、かつ耐寒性、耐摩耗性、耐粘着摩耗性を備えた高耐久性を有する動力伝動用ベルトを得ることができると記載されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−63242号公報
【特許文献2】
特開2003−12871号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、Vリブドベルトに用いられる短繊維は、長繊維をカットすることにより製造され、しかも、ゴムとの接着性を付与するための接着処理が施される必要があるため材料単価が高く、これが、ベルト材料コストを高騰させる一つの要因となっている。
【0007】
また、Vリブドベルトは、円筒状金型に未加硫ゴムシート、織布、及び心線といった材料を巻き付けたものを加熱及び加圧することにより製造される。このとき、ベルト本体のリブゴム部を形成する未加硫ゴムシートとしては、円筒状金型への巻き付け方向に対して略垂直に短繊維が配向したものが用いられる。一方、短繊維が一方向に配向した未加硫ゴムシートは、短繊維を含む塊状の未加硫ゴムをカレンダロール等によりシート状に延ばすことにより製造され、このとき、製造される未加硫ゴムシートは、短繊維がシートの長手方向に配向したものとなる。従って、Vリブドベルトの製造に際しては、長尺に形成された短繊維含有未加硫ゴムシートを、その長手方向を金型の巻き付け方向に一致させてそのまま使用することはできず、金型の長さよりもやや短い長さに切断し、両切断端がVリブの両側となるように円筒状金型に巻き付けて使用する必要がある。このように、Vリブドベルトの製造においては、圧延された短繊維配合未加硫ゴムシートをカットする工程が必要であり、これが、ベルト製造コストを高騰させる一つの要因となっている。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、短繊維配合ゴムが用いられていないにも関わらず低発音性が優れる摩擦伝動ベルトを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ベルト本体がプーリに接触するように巻き掛けられて動力を伝達する摩擦伝動ベルトであって、
上記ベルト本体の少なくともプーリ接触部分は、エチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とし、JIS K6253に準じてタイプAデュロメータで計測されるゴム硬度が80以上95未満であり且つ短繊維を含有しないゴム組成物で形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、プーリ接触部分を構成するゴム組成物のゴム成分がエチレン−α−オレフィンエラストマーであって、それ自体の摩擦係数が低いのに加え、ゴム硬度が高いことからベルト表面の摩擦係数が低く、プーリとの摩擦音が低く抑えられるので短繊維配合ゴムが用いられていないにも関わらず、低発音性が優れることとなる。また、短繊維が配合されていないので、材料コスト及び製造コストが低く抑えられることとなる。さらに、短繊維が配合されていると、ゴム硬度が高くなると共に短繊維の界面が亀裂成長の起点となり、屈曲疲労による寿命低下が生じるが、短繊維が配合されていないので、ゴム硬度が高くても耐屈曲疲労性が優れることとなる。しかも、プーリ接触部分を構成するゴム組成物のゴム成分がエチレン−α−オレフィンエラストマーであって、それ自体がベルトを構成するのに十分な強度を有すると共に耐屈曲疲労性が優れる。
【0011】
本発明の摩擦伝動ベルトは、上記エチレン−α−オレフィンエラストマーのエチレン含量が75%未満であることが望ましい。
【0012】
本発明の摩擦伝動ベルトは、上記ベルト本体を構成するエチレン−α−オレフィンエラストマーが有機過酸化物で架橋されていることが望ましい。
【0013】
本発明の摩擦伝動ベルトは、ローエッジタイプのVベルトや平ベルトのようにベルト本体がプーリに接触するように巻き掛けられて動力を伝達するものであれば、特に限定されるものではないが、自動車用途で用いられるVリブドベルトに特に好適である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るVリブドベルトBを示す。
【0016】
このVリブドベルトBは、Vリブドベルト本体10と、Vリブドベルト本体10にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設された心線16と、Vリブドベルト本体10の背面側を被覆するように設けられた背面補強布17と、を備えている。
【0017】
Vリブドベルト本体10は、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)等のエチレン含量が60%以上75%未満のエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とし、そのゴム成分を有機過酸化物で架橋したゴム組成物で形成されており、心線16が埋設された接着ゴム層11と、接着ゴム層11の下側の圧縮ゴム層12と、が積層されて一体となった構成となっている。圧縮ゴム層12には、ベルト内側のプーリに接触して直接に動力を伝達する部分となることから、プーリとの接触面積が広く確保されるようにベルト長手方向に延びる突条のリブ13がベルト幅方向に並列して形成されている。また、従来のものと異なり、圧縮ゴム層12には短繊維が配合されていない。この圧縮ゴム層12は、JIS K6253に準じてタイプAデュロメータで計測されるゴム硬度が80以上95未満である。
【0018】
心線16は、アラミド繊維やポリエステル繊維等の撚り糸で構成されており、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液(以下「RFL水溶液」という)に浸漬した後に加熱する処理及びゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理が施されている。
【0019】
背面補強布17は、経糸及び緯糸からなる平織り等の織布で構成されており、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬して加熱する処理及びVリブドベルト本体10側となる表面にゴム糊をコーティングして乾燥させる処理が施されている。
【0020】
以上のような構成のVリブドベルトBによれば、プーリ接触部分である圧縮ゴム層12を構成するゴム組成物のゴム硬度が高いことからベルト表面の摩擦係数が低く、しかも、圧縮ゴム層12を構成するゴム成分が低摩擦係数のエチレン−α−オレフィンエラストマーであることから、プーリとの摩擦音が低く抑えられるので、短繊維配合ゴムが用いられていないにも関わらず、極めて優れた低発音性を得ることができる。
【0021】
また、圧縮ゴム層12に短繊維が配合されていないので、材料コスト及び製造コストを低く抑えることができる。
【0022】
さらに、圧縮ゴム層12に短繊維が配合されていると、ゴム硬度が高くなると共に短繊維の界面が亀裂成長の起点となり、屈曲疲労による寿命低下が生じるが、圧縮ゴム層12に短繊維が配合されていないので、ゴム硬度が高いにも関わらず、ベルトとして優れた耐屈曲疲労性を発現する。なお、これには、圧縮ゴム層12を構成するゴム組成物のゴム成分がエチレン−α−オレフィンエラストマーであって、それ自体がベルトを構成するのに十分な強度を有すると共に耐屈曲疲労性が優れることも寄与している。
【0023】
次に、上記のように構成されたVリブドベルトBの製造方法を、図2に基づいて説明する。
【0024】
VリブドベルトBの製造では、外周に、ベルト背面を所定形状に形成する成形面を有する内金型と、内周に、ベルト内面を所定形状に形成する成形面を有するゴムスリーブとが用いられる。
【0025】
まず、内金型の外周を背面補強布17となる織布17’で被覆した後、その上に、接着ゴム層11の背面側部分11bを形成するための未架橋ゴムシート11b’を巻き付ける。
【0026】
次いで、その上に、心線16となる撚り糸16’をスパイラル状に巻き付けた後、その上に、接着ゴム層11の内面側部分11aを形成するための未架橋ゴムシート11a’を巻き付け、さらにその上に、圧縮ゴム層12を形成するための未架橋ゴムシート12’を巻き付ける。このとき、圧縮ゴム層12を形成するための未架橋ゴムシート12’として短繊維の配合されたものは使用されない。従って、塊状の未加硫ゴムをカレンダロール等によりシート状に延ばすことにより製造された長尺の未加硫ゴムシートを、その長手方向を金型の巻き付け方向に一致させてそのまま使用することができる。なお、各未架橋ゴムシート11b’,11a’,12’を巻き付ける際には、それぞれ、巻付方向両端部同士は、重ね合わせないで突付けとする。
【0027】
しかる後、内金型上の成形体にゴムスリーブを套嵌してそれを成形釜にセットし、内金型を高熱の水蒸気などにより加熱すると共に、高圧をかけてゴムスリーブを半径方向内方に押圧する。このとき、ゴム成分が流動すると共に架橋反応が進行し、撚り糸16’及び織布17’のゴムへの接着反応も進行する。そして、これによって、筒状のベルトスラブが成形される。
【0028】
そして、内金型からベルトスラブを取り外し、それを長さ方向に数個に分割した後、それぞれの外周を研磨してリブ13を形成する。
【0029】
最後に、分割されて外周にリブ13が形成されたベルトスラブを所定幅に幅切りし、それぞれの表裏を裏返すことによりVリブドベルトBが得られる。
【0030】
図3は、VリブドベルトBを用いた自動車エンジンにおけるサーペンタインドライブの補機駆動用ベルト伝動装置30のレイアウトを示す。
【0031】
この補機駆動用ベルト伝動装置30のレイアウトは、最上位置のパワーステアリングプーリ31と、そのパワーステアリングプーリ31の下方に配置されたACジェネレータプーリ32と、パワーステアリングプーリ31の左下方に配置された平プーリのテンショナプーリ33と、そのテンショナプーリ33の下方に配置された平プーリのウォーターポンププーリ34と、テンショナプーリ33の左下方に配置されたクランクシャフトプーリ35と、そのクランクシャフトプーリ35の右下方に配置されたエアコンプーリ36と、により構成されている。これらのうち、平プーリであるテンショナプーリ33及びウォーターポンププーリ34以外は全てリブプーリである。そして、VリブドベルトBは、リブ13側が接触するようにパワーステアリングプーリ31に巻き掛けられ、次いで、ベルト背面が接触するようにテンショナプーリ33に巻き掛けられた後、リブ13側が接触するようにクランクシャフトプーリ35及びエアコンプーリ36に順に巻き掛けられ、さらに、ベルト背面が接触するようにウォーターポンププーリ34に巻き掛けられ、そして、リブ13側が接触するようにACジェネレータプーリ32に巻き掛けられ、最後にパワーステアリングプーリ31に戻るように設けられている。
【0032】
この補機駆動用ベルト伝動装置30では、本発明のVリブドベルトBが用いられているので、低発音性が極めて優れる。
【0033】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2に係るローエッジタイプのVベルトCを示す。
【0034】
このVベルトCは、Vベルト本体40と、Vベルト本体40にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設された心線46と、Vベルト本体40の背面側を被覆するように設けられた背面補強布47と、を備えている。
【0035】
Vベルト本体40は、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)等のエチレン含量が60%以上75%未満のエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とし、そのゴム成分を有機過酸化物で架橋したゴム組成物で形成されており、心線46が埋設された接着ゴム層41と、接着ゴム層41の下側の下ゴム層42と、接着ゴム層41の上側の上ゴム層43と、が積層されて一体となった構成となっている。また、従来のものと異なり、下ゴム層42には短繊維が配合されていない。この下ゴム層42は、JIS K6253に準じてタイプAデュロメータで計測されるゴム硬度が80以上95未満である。
【0036】
心線46は、アラミド繊維やポリエステル繊維等の撚り糸で構成されており、Vベルト本体40に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する処理及びゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理が施されている。
【0037】
背面補強布47は、経糸及び緯糸からなる平織り等の織布で構成されており、Vベルト本体40に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬して加熱する処理及びVベルト本体40側となる表面にゴム糊をコーティングして乾燥させる処理が施されている。
【0038】
以上のような構成のVベルトCによれば、プーリ接触部分である下ゴム層42を構成するゴム組成物のゴム硬度が高いことからベルト表面の摩擦係数が低く、しかも、下ゴム層42を構成するゴム成分が低摩擦係数のエチレン−α−オレフィンエラストマーであることから、プーリとの摩擦音が低く抑えられるので、短繊維配合ゴムが用いられていないにも関わらず、極めて優れた低発音性を得ることができる。また、短繊維が配合されていないので、材料コスト及び製造コストを低く抑えることができる。
【0039】
(その他の実施形態)
上記実施形態1ではVリブドベルトB、上記実施形態2ではVベルトCとしたが、特にこれに限定されるものではなく、その他のVベルトや平ベルトなどの摩擦伝動ベルトであってもよい。
【0040】
上記実施形態1及び2では、Vリブドベルト本体10及びVベルト本体40を構成するエチレン−α−オレフィンエラストマーを有機過酸化物で架橋したものとしたが、特にこれに限定されるものではなく、硫黄による加硫により架橋したものであってもよい。
【0041】
【実施例】
Vリブドベルトについて行った試験評価について説明する。
【0042】
(試験評価用ベルト)
以下の例1〜11のVリブドベルトを作成した。それぞれの構成は表1にも示す。
【0043】
<例1>
ベースのゴム成分としてエチレン含量58%のEPDMを用い、このEPDM100質量部に対し、カーボンブラック75質量部(HAF:40質量部、FEF:35質量部)、パラフィン系オイルの軟化剤14質量部、ステアリン酸1質量部、酸化亜鉛5質量部、老化防止剤3質量部、架橋剤としての硫黄1.5質量部、加硫促進剤4質量部及び長さ1mmのナイロン短繊維25質量部を配合してなるゴム組成物により圧縮ゴム層を形成した上記実施形態1と同様の構成のVリブドベルトを例2とした。圧縮ゴム層のゴム硬度は85であった。なお、接着ゴム層もベースのゴム成分がEPDMであるゴム組成物で形成した。
【0044】
<例2>
ベースのゴム成分としてエチレン含量60%のEPDMを用い、このEPDM100質量部に対し、カーボンブラック75質量部(HAF:40質量部、FEF:35質量部)、パラフィン系オイルの軟化剤14質量部、ステアリン酸1質量部、酸化亜鉛5質量部、老化防止剤3質量部、架橋剤としての硫黄1.5質量部及び加硫促進剤4質量部を配合してなるゴム組成物により圧縮ゴム層を形成した上記実施形態1と同様の構成のVリブドベルトを例2とした。圧縮ゴム層のゴム硬度は78であった。なお、接着ゴム層もベースのゴム成分がEPDMであるゴム組成物で形成した。
【0045】
<例3>
カーボンブラックのFEFの配合量を40質量部としたことを除いて例2と同一構成Vリブドベルトを例3とした。圧縮ゴム層のゴム硬度は80であった。
【0046】
<例4>
カーボンブラックのFEFの配合量を60質量部としたことを除いて例2と同一構成Vリブドベルトを例4とした。圧縮ゴム層のゴム硬度は89であった。
【0047】
<例5>
カーボンブラックのFEFの配合量を100質量部としたことを除いて例2と同一構成Vリブドベルトを例5とした。圧縮ゴム層のゴム硬度は95であった。
【0048】
<例6>
ベースのゴム成分としてエチレン含量58%のEPDMを用いたことを除いて例4と同一構成Vリブドベルトを例6とした。圧縮ゴム層のゴム硬度は87であった。
【0049】
<例7>
ベースのゴム成分としてエチレン含量69%のEPDMを用いたことを除いて例4と同一構成Vリブドベルトを例7とした。圧縮ゴム層のゴム硬度は89であった。
【0050】
<例8>
ベースのゴム成分としてエチレン含量74%のEPDMを用いたことを除いて例4と同一構成Vリブドベルトを例8とした。圧縮ゴム層のゴム硬度は91であった。
【0051】
<例9>
ベースのゴム成分としてエチレン含量75%のEPDMを用いたことを除いて例4と同一構成Vリブドベルトを例9とした。圧縮ゴム層のゴム硬度は95であった。
【0052】
<例10>
硫黄及び加硫促進剤の代わりに有機過酸化物2.5質量部を架橋剤として配合したことを除いて例7と同一構成Vリブドベルトを例10とした。圧縮ゴム層のゴム硬度は89であった。
【0053】
<例11>
ベースのゴム成分としてクロロプレン(CR)を用い、このCR100質量部に対し、カーボンブラック100質量部(HAF:40質量部、FEF:60質量部)、セバシン酸誘導体の可塑剤5質量部、ステアリン酸1質量部、酸化亜鉛5質量部、老化防止剤3質量部、酸化マグネシウム4質量部を配合してなるゴム組成物により圧縮ゴム層を形成した上記実施形態1と同様の構成のVリブドベルトを例11とした。JIS K6253に準じてタイプAデュロメータで計測される圧縮ゴム層のゴム硬度は80であった。なお、接着ゴム層もベースのゴム成分がCRであるゴム組成物で形成した。
【0054】
【表1】
【0055】
(試験評価方法)
<ベルト屈曲寿命>
図5は、VリブドベルトBの耐久評価用のベルト走行試験機50のレイアウトを示す。このベルト走行試験機50は、上下に配設されたプーリ径120mmの大径のリブプーリ(上側が従動プーリ、下側が駆動プーリ)51,52と、それらの上下方向中間の右方に配されたプーリ径45mmの小径のリブプーリ53とからなる。小径のリブプーリ53は、ベルト巻き付け角度が90°となるように位置付けられている。
【0056】
例1〜10のそれぞれのVリブドベルトBについて、3つのリブプーリ51〜53に巻き掛け、且つ834Nのセットウェイトが負荷されるように小径のリブプーリ53を側方に引っ張り、雰囲気温度23℃の下で駆動プーリである下側のリブプーリ52を4900rpmの回転速度で回転させるベルト走行試験を実施した。そして、ベルトが破損するまでの時間を計測し、その時間をベルト屈曲寿命とした。
【0057】
<損失摩耗量>
例1〜10のそれぞれのVリブドベルトについて、上記のベルト走行試験において100時間走行後のベルトの質量を計測し、走行前の質量と比較することによりベルト摩耗量を体積として算出した。
【0058】
<音圧>
例1〜10のそれぞれのVリブドベルトについて、上記のベルト走行試験において300時間走行後にスリップ音の測定を行った。
【0059】
(試験評価結果)
試験結果を表1に示す。なお、圧縮ゴム層を短繊維配合ゴムで形成した例1を従来技術の基準として評価指標とすることができる。
【0060】
カーボンブラックののFEFの配合量が異なる例2〜5を比較すると、FEFの配合量が多くなるに従ってゴム硬度が高くなっており、ゴム硬度が78である例2では、例1と比較してベルト屈曲寿命は同等であるものの音圧が高くて摩耗量が多く、ゴム硬度が95である例5では、例1と比較して音圧が低くて摩耗量も例2と比較して少ないもののベルト屈曲寿命が極端に短いことが分かる。これは、ゴム硬度が低いと、ベルト表面の摩擦係数が高くなってプーリとの摩擦音が大きくなり、ゴム硬度が高いと、ベルト本体の耐屈曲性能が低くなるためであると考えられる。また、ゴム硬度が80である例3及びゴム硬度が89である例4では、いずれも音圧が例1と同等であり、摩耗量も例2に比較して少なく、ベルト屈曲寿命も例1と同水準であるといえる。
【0061】
EPDMのエチレン含量が異なる例4及び例6〜9を比較すると、エチレン含量が高くなるに従ってゴム硬度が高くなっており、エチレン含量が74である例8では、ゴム硬度が91であって例1と比較して屈曲寿命が優れると共に音圧が低く且つ摩耗量も少なく、エチレン含量が75である例9では、ゴム硬度が95であって例1と比較して音圧が低く摩耗量も少ないもののベルト屈曲寿命が極端に短いことが分かる。
【0062】
以上の結果より、優れた低発音性及びベルト耐屈曲性を有するVリブドベルトを得るためには、圧縮ゴム層のゴム硬度として80以上95未満とするのが妥当であると考えられる。また、エチレン含量については、配合にも拠るが、上記結果からはエチレン含量が75未満であることが好ましいと考えられる。
【0063】
架橋系が異なる例7と例10とを比較すると、硫黄架橋系の例7と有機過酸化物架橋系の例10とは、ベルト屈曲寿命が同等であるものの、後者の方が音圧が低くて摩耗量が少ないことが分かる。従って、優れた低発音性を有するVリブドベルトを得るためには、架橋系として硫黄架橋系よりも有機過酸化物架橋系の方が好ましいと考えられる。
【0064】
例11は圧縮ゴム層のゴム成分をCRとしたものであるが、例1と比較して、ゴム硬度が低く、音圧が高く、ベルト屈曲寿命も短く、損失摩耗量も多い。従って、圧縮ゴム層を短繊維を含有しないCRで形成したのでは、低発音性等の性能が優れたVリブドベルトを得ることができないことが分かる。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、プーリ接触部分を構成するゴム組成物のゴム成分がエチレン−α−オレフィンエラストマーであって、それ自体の摩擦係数が低いのに加え、ゴム硬度が高いことからベルト表面の摩擦係数が低く、プーリとの摩擦音が低く抑えられるので短繊維配合ゴムが用いられていないにも関わらず、優れた低発音性を得ることができる。
【0066】
また、短繊維が配合されていないので、耐屈曲疲労性が優れると共に、材料コスト及び製造コストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係るVリブドベルトの斜視図である。
【図2】Vリブドベルトの使用材料(a)及び全体構成(b)を併せて示す図である。
【図3】実施形態1の補機駆動用ベルト伝動装置のレイアウトを示す図である。
【図4】本発明の実施形態2に係るVベルトの斜視図である。
【図5】ベルト耐久試験用のベルト走行試験機のレイアウトを示す図である。
【符号の説明】
B Vリブドベルト
C Vベルト
10 Vリブドベルト本体
11,41 接着ゴム層
11a 内面側部分
11b 背面側部分
11a’,11b’,12’ 未架橋ゴムシート
12 圧縮ゴム層
13 リブ
14,44 短繊維
15,45 ポリオレフィン樹脂
16,46 心線
16’ 撚り糸
17,47 背面補強布
17’ 織布
30 補機駆動用ベルト伝動装置
31 パワーステアリングプーリ
32 ACジェネレータプーリ
33 テンショナプーリ
34 ウォーターポンププーリ
35 クランクシャフトプーリ
36 エアコンプーリ
40 Vベルト本体
42 下ゴム層
43 上ゴム層
50 ベルト走行試験機
51〜53 リブプーリ
Claims (5)
- ベルト本体がプーリに接触するように巻き掛けられて動力を伝達する摩擦伝動ベルトであって、
上記ベルト本体の少なくともプーリ接触部分は、エチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とし、JIS K6253に準じてタイプAデュロメータで計測されるゴム硬度が80以上95未満であり且つ短繊維を含有しないゴム組成物で形成され、
上記ゴム組成物は、HAFカーボンブラックとFEFカーボンブラックとが配合されており、後者の配合量がゴム成分のエチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して40〜60質量部であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。 - 請求項1に記載された摩擦伝動ベルトにおいて、
上記エチレン−α−オレフィンエラストマーは、エチレン含量が75%未満であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。 - 請求項1に記載された摩擦伝動ベルトにおいて、
上記ベルト本体を構成するエチレン−α−オレフィンエラストマーが有機過酸化物で架橋されていることを特徴とする摩擦伝動ベルト。 - 請求項1に記載された摩擦伝動ベルトにおいて、
上記ベルト本体がVリブドベルト本体であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。 - 請求項1乃至4のいずれかに記載された摩擦伝動ベルトにおいて、
上記エチレン−α−オレフィンエラストマーがEPDMであることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
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