JP4411769B2 - 多気筒内燃機関の異常気筒検出装置 - Google Patents

多気筒内燃機関の異常気筒検出装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される多気筒内燃機関の全気筒(複数の気筒)の中から異常気筒を検出または特定する多気筒内燃機関の異常気筒検出装置に関するもので、特に複数の気筒を有するディーゼルエンジンの各気筒毎に対応して取り付けられた複数個のインジェクタのうち少なくとも1個以上のインジェクタが機能故障を起こしているか否かを判定するディーゼルエンジンにおけるインジェクタ故障検出装置に係わる。
【0002】
【従来の技術】
多気筒内燃機関、例えば複数の気筒を有するディーゼルエンジンは、インジェクタから高圧燃料を気筒内に噴射することによって作動する。特に電子制御方式の4気筒ディーゼルエンジン用蓄圧式燃料噴射制御システムに使用されるディーゼルエンジン用のインジェクタは、一般的に、クランク角度センサおよびカム角度センサの出力を基準にして、上死点(TDC)付近の気筒内圧力が最大を示す位置で高圧燃料を噴射する。その燃料噴射量は、各気筒均一が望ましく、気筒間に噴射量不均量があると、つまり気筒間に燃料噴射量のバラツキがあると、各気筒の爆発行程毎の回転速度変動に偏差(増減)が生じ、ドライバビリティ、騒音、振動、エミッションなど車両の走行状態またはディーゼルエンジンの運転状態に悪影響を及ぼすことになる。
【0003】
通常、各気筒毎に燃料を噴射する複数個のインジェクタには、噴射量個体差がある。つまり、燃料通路や噴孔が比較的に大きく、燃料を比較的に多く噴射するものや、燃料通路や噴孔が比較的に小さく、燃料を比較的に少なく噴射するものが存在するために、4気筒ディーゼルエンジンであれば、4気筒とも気筒内に噴射される燃料噴射量は異なることもある。そのために、インジェクタの噴射量個体差の補正は、比較的にクランク角度センサからのセンサ信号を取り扱い易く、且つ路面ノイズなどの影響をあまり受けない、回転速度の低いアイドリング状態の時に、各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を検出し、各気筒の爆発行程毎の回転速度変動の検出値と全気筒の回転速度変動の平均値とを比較し、この比較判定によって各気筒への燃料噴射量を補償する不均量補償制御を実施している。
【0004】
ここで、インジェクタの無噴射故障は、気筒内に燃料を噴射しない故障のために燃焼によって気筒内圧力は上昇しない。そのために、異常気筒の回転速度変動は大きく減少する。上記の不均量補償制御による補正量は、異常気筒の回転速度変動が他の気筒の回転速度変動と平滑化するように、異常気筒への燃料噴射量を補正するのであるから、異常気筒の補正量は大きく増大する。したがって、インジェクタの無噴射故障時、特定気筒の故障情報が連続して出力されることになる。そして、同一気筒の故障情報が所定のサイクル連続した場合、その気筒を異常気筒であると特定するディーゼルエンジンの異常気筒検出装置(例えば特公平6−97008号公報等の公知技術)が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、従来のディーゼルエンジンの異常気筒検出装置においては、1気筒の無噴射故障が生じた場合、4気筒の平均回転速度から最も偏差の大きい気筒が異常気筒であると診断するようにしている。ここで、1気筒のみ無噴射故障が生じた場合の、ディーゼルエンジンの走行中での実際の回転速度変動を図3に示す。この図3から1気筒のみの無噴射故障であり、他の3気筒が正常に噴射しているにも拘らず、4気筒とも異なった回転速度変動を示す。
【0006】
特にディーゼルエンジンは、圧縮比が大きく、エンジンを安定して運転するために、ガソリンエンジンよりも重いフライホイールを使用している。このため、ディーゼルエンジンは、慣性が大きく、1気筒のインジェクタの無噴射が回転速度へ及ぼす影響は小さい。したがって、上述の公知技術の、4気筒の平均回転速度から最も偏差の大きい気筒が異常気筒であると診断すると、運転条件によっては正常な気筒のインジェクタを故障であると誤検出してしまう可能性があった。
【0007】
また、気筒間の爆発力のバラツキによる回転速度の変動によって発生するエンジン振動を除去するために、上述の公知技術のように、各気筒毎の回転速度変動を検出し、平滑化するように各気筒毎への最適な燃料噴射量を個々に調整する不均量補償制御(気筒間の噴射量補正制御)を行うと、1気筒のインジェクタが必ず無噴射のために燃料噴射量の補正量が収束しない。あるいは、燃料噴射量の補正量の収束に時間が必要となるという問題があった。特に車両走行中では、燃料噴射量の補正量がディーゼルエンジンの出力に直接影響する。燃料噴射量の補正量の収束性が悪いと、各気筒毎の回転速度変動が大きく変化し、その結果、ドライバビリティが悪化するという問題があった。そのため、上述の公知技術は、車両走行中には使用できないという問題があった。
【0008】
さらに、実際の車両走行時においては、粗い路面を車両が走行する際に路面ノイズ(ロードノイズ、車内騒音)が発生する。なお、ロードノイズには、非常に細かな振動を伴うこともある。そのため、実際の車両走行時においては、路面状態によって生じるロードノイズが各気筒の爆発行程毎の回転速度変動に加算される。そして、ディーゼルエンジンは、上述したように、ガソリンエンジンよりも重いフライホイールを使用しているので、慣性が大きいために、1気筒のインジェクタが無噴射故障のとき、その異常気筒と他の正常気筒との間の回転速度変動の偏差は小さい。そのために、ロードノイズの影響が各気筒の爆発行程毎の回転速度変動に加算された場合、上述の公知技術による燃料噴射量の補正量の最大値のみでの故障検出では、誤検出するという問題があった。
特に、インジェクタの故障は、「気筒内に燃料噴射しない無噴射故障」と、「気筒内に燃料がきっぱなしになる過剰噴射故障」との2通りがある。そのために、車両走行中でのインジェクタの故障検出は非常に重要である。
【0009】
【発明の目的】
本発明の目的は、車両が走行中であっても、ロードノイズの影響の小さい状態を的確に判断することにより、複数個のインジェクタの中から故障インジェクタの検出を精度良く行うことのできる多気筒内燃機関の異常気筒検出装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明によれば、「気筒内に燃料噴射しない無噴射故障」や「気筒内に燃料が噴きっぱなしになる過剰噴射故障」といったインジェクタの機能故障が、下記判定結果が得られた場合発生していると判断される。つまり、多気筒内燃機関の各気筒の燃焼が一巡する1サイクルにおいて、サイクル内偏差検出手段にて検出されたサイクル内偏差が所定値以上であると判定され、さらに、サイクル間偏差検出手段にて検出されたサイクル間偏差が所定値以内であり、且つこの所定値以内であることが所定サイクル連続して検出されたときである。
【0011】
このような許可判定が得られた場合には、車両が走行中であっても、ロードノイズの影響の小さい状態であると的確に判断することができ、且つインジェクタに機能故障が発生している可能性が高いと判断することが可能となる。つまり、サイクル内偏差が所定値以上であると、あるインジェクタにおいて上述の機能故障が発生している可能性が高いと判断され、またサイクル間偏差が所定値以内にあると、ロードノイズによる影響が多気筒内燃機関の回転速度変動に加味されていない状況であると判断されるからである。
したがって、判定結果が得られてから、機能故障が発生しているインジェクタを特定するための故障インジェクタ特定処理の実行許可が許可手段によってなされることによって、確実に故障インジェクタを特定することができる。
【0012】
また、1サイクル内で最大を示した最大回転速度または1サイクル内で最小を示した最小回転速度を示す気筒が、所定サイクル連続して同一の気筒であることを検出し、且つサイクル内偏差検出手段にて検出されたサイクル内偏差が所定値以上であることを検出し、さらに、サイクル間偏差検出手段にて検出されたサイクル間偏差が所定値以内であることを検出していれば、1サイクル周期の回転速度変動うねり(以下1サイクル周期のうねりと略す)が回転速度変動に生じていると予測できるので、車両が走行中であってもロードノイズの影響が無いまたは非常に小さいと判断することができる。
また、サイクル間偏差検出手段は、1サイクル毎の最大回転速度または最小回転速度または平均回転速度または所定のクランク角度の回転速度のサイクル間偏差を検出しているので、ロードノイズが多気筒内燃機関の各気筒の爆発行程毎の回転速度変動に加味されているか否かを確実に判定することが可能となる。
【0013】
また、1サイクル内で最大を示した最大回転速度と1サイクル内で最小を示した最小回転速度とから、1サイクル内での最大回転速度と最小回転速度との偏差であるサイクル内偏差を検出し、そのサイクル内偏差が所定値以上であると判定され、さらに、サイクル間偏差が所定値以内であり、且つこの所定値以内であることが所定サイクル連続して検出されたときには、各気筒に設けられたインジェクタに機能故障が発生していると判断するようになっている。これにより、機能故障を起こしているインジェクタが存在することを確実に検出することができる。
【0014】
また、許可手段は、サイクル間偏差検出手段にて検出されたサイクル間偏差が所定値以内であり、且つこの所定値以内であることが所定サイクル連続して検出されたとき、故障インジェクタ特定処理の実行を許可している。したがって、サイクル間偏差が所定値以内であることを所定サイクル連続して検出することから、確実にロードノイズによる影響が多気筒内燃機関の各気筒の爆発行程毎の回転速度変動に加味されている状態を排除できるため、インジェクタ機能故障が発生していることをより精度良く判定することができ、その状態下で故障インジェクタ特定処理へと移行することが可能となる。
【0016】
請求項に記載の発明によれば、クランク角度センサで検出される所定の凸状歯間の経過時間を測定することで、多気筒内燃機関の各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を時間変化として検出する。すなわち、既存のクランク角度センサのセンサ信号を用いて、各気筒毎の回転速度変動が検出できるため、比較的簡単に各気筒毎の回転速度変動を検出することができる。
【0017】
請求項に記載の発明によれば、許可手段により、故障インジェクタ特定処理の実行許可がなされたとき、1サイクル内での各気筒の爆発行程毎の回転速度変動、または1サイクル内での各気筒の爆発行程毎の燃焼エネルギー、または1サイクル内での各気筒の発生トルクの偏差を気筒間で比較する比較手段により、最も偏差の大きいまたは小さい気筒のインジェクタが故障インジェクタであると特定するようにしている。これにより、1サイクル内での各気筒の爆発行程毎の回転速度変動の偏差、あるいは1サイクル内での各気筒の爆発行程毎の燃焼エネルギーの偏差を用いた場合、複数個のインジェクタの中から機能故障を起こしている故障インジェクタを高精度に特定することが可能となる。
【0018】
さらに、1サイクル内での各気筒の発生トルクの偏差を用いた場合には、実際の各気筒毎のトルクを検出できるため、複数個のインジェクタの中から機能故障を起こしている故障インジェクタの検出を、回転速度変動や燃焼エネルギーの偏差を用いる場合に比べてより精度良く実行することができる。
【0019】
請求項に記載の発明によれば、各気筒に設けられたインジェクタに機能故障が発生しているか否かを判定するときには、気筒間の回転速度変動を平滑化するように各気筒毎への噴射量を個別に調整する気筒間の噴射量補正制御を禁止する。これにより、インジェクタの機能故障の誤検出を防止できるので、インジェクタの機能故障の検出精度を向上することができる。
【0020】
請求項に記載の発明によれば、各気筒に設けられたインジェクタに機能故障が発生していることを視覚表示または聴覚表示する表示手段を設けることにより、多気筒内燃機関が正常な運転状態か異常な運転状態かを早急に運転者等へ報知することが可能となる。
【0021】
【発明の実施の形態】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
〔第1実施例の構成〕
図1ないし図9は本発明の第1実施例を示したもので、図1はディーゼルエンジン用蓄圧式燃料噴射システムの全体構成を示した図である。
【0022】
本実施例のディーゼルエンジン用蓄圧式燃料噴射システムは、一般にコモンレールシステムと呼ばれており、例えば自動車等の車両に搭載された4気筒のディーゼルエンジン1の運転状態、車両の走行状態および運転者(ドライバー)の操作量(意志)を各種センサにより検出して、多気筒内燃機関の異常気筒検出装置を構成する電子制御方式のコントロールユニット(以下ECUと呼ぶ)9に伝えて、各種センサからのセンサ信号により最適な燃料噴射量および燃料噴射時期を演算し、それぞれを制御する複数個(本例では4個)のインジェクタ(電磁式燃料噴射弁)2および燃料圧送ポンプ3等に指令するように構成されている。
【0023】
ディーゼルエンジン1は、本発明の多気筒内燃機関に相当するもので、シリンダブロック、シリンダヘッドおよびオイルパン等から構成された4サイクル4気筒エンジンである。なお、ディーゼルエンジン1の4個のシリンダ10は、シリンダブロックとシリンダヘッド等により形成されている。そして、各シリンダ10の吸入ポートは、吸気弁(インテークバルブ)11により開閉され、排気ポートは排気弁(エキゾーストバルブ)12により開閉される。また、各シリンダ10内には、連接棒を介してクランク軸13に連結されたピストン14が摺動自在に配設されている。
【0024】
複数個のインジェクタ2は、ディーゼルエンジン1のシリンダブロックに(各気筒#1〜#4に個別に対応して)取り付けられ、各気筒毎のシリンダ10内に高圧燃料を噴射する燃料噴射ノズル、およびこの燃料噴射ノズルの弁体を駆動する電磁弁等のアクチュエータ(図示せず)等から構成された電磁式燃料噴射弁である。なお、インジェクタ2の弁体の開弁時間(噴射期間)が長い程、各気筒毎のシリンダ10内に噴射される燃料噴射量が多くなり、インジェクタ2の弁体の開弁時間(噴射期間)が短い程、各気筒毎のシリンダ10内に噴射される燃料噴射量が少なくなる。
【0025】
燃料圧送ポンプ3は、燃料タンク15から燃料を汲み上げるフィードポンプ16、およびコモンレール17への高圧燃料の圧送量を調整する電磁弁等のアクチュエータ(図示せず)を内蔵する高圧供給ポンプである。そして、燃料圧送ポンプ3は、燃料タンク15から燃料を吸入して加圧し、ECU9より指令された燃料量をコモンレール17に圧送する。このコモンレール17内に蓄圧された燃料の圧力は、燃料圧力検出手段としての燃料圧センサ18によって測定され、ポンプ駆動指令とインジェクタ2の駆動指令とがECU9で算出される。また、燃料タンク15内には、燃料タンク15内の燃料の液面レベルを測定する液面レベルセンサ19が配設されている。
【0026】
コモンレール17は、比較的に高い圧力(コモンレール圧力)の高圧燃料を蓄えるサージタンクの一種で、燃料配管20を経て各気筒毎に対応して取り付けられた複数個のインジェクタ2に接続されている。ここで、本実施例では、コモンレール17から燃料タンク15へ燃料を戻すためのリターン配管21が設けられている。そして、コモンレール17は、コモンレール圧力が限界蓄圧圧力を超えることがないようにプレッシャリミッター22の弁体が開弁して、そのプレッシャリミッター22内の燃料通路およびリターン配管21を経て、コモンレール17内の圧力を逃がせるように構成されている。
【0027】
ECU9には、制御部、演算部やレジスタ部よりなるCPU、制御プログラムや各種データを記憶するためのメモリ(RAM、PROMまたはROM)、および各種センサやアクチュエータとの間で信号の入出力を行うI/Oポート(入出力回路)等の機能を含んで構成される周知のマイクロコンピュータが設けられている。そして、各種センサからのセンサ信号は、A/D変換器でA/D変換された後にマイクロコンピュータに入力されるように構成されている。
【0028】
そして、ECU9は、クランク軸(クランクシャフト)13に取り付けられたクランク角度センサ4、およびカム軸(カムシャフト)23に取り付けられたカム角度センサ5とからのクランク軸回転パルスおよびカム軸回転パルスの信号を基準にして、インジェクタ2の燃料噴射時期や、燃料圧送ポンプ3の燃料圧送期間を決めることで、コモンレール圧力を所定の圧力値に保持する。
【0029】
ここで、クランク角度センサ4は、本発明の回転速度検出手段に相当するもので、ディーゼルエンジン1のクランク軸13に固定された磁性体製のタイミングロータ(シグナルロータ)24、このタイミングロータ24の周面に対向するように配置された電磁ピックアップコイル25、および磁束を発生させる永久磁石(マグネット)等で構成された電磁式回転センサで、クランク軸13の回転角度を検出する。なお、ECU9は、クランク角度信号(NEパルス信号)の間隔時間を計測することによって、エンジン回転速度(NE)を検出する。
【0030】
タイミングロータ24には、所定角度(例えば10°)毎に凸状歯26が複数個形成されている。したがって、タイミングロータ24が回転すると、凸状歯26が電磁ピックアップコイル25に対して接近離反するため、電磁誘導によって電磁ピックアップコイル25からクランク角度信号(NEパルス信号)が出力される。なお、本実施例では、タイミングロータ24の2歯を欠歯として、36−2=34歯を形成している。この欠歯を検出することで、タイミングロータ24の1回転を検出することができる。
【0031】
すなわち、4サイクル4気筒ディーゼルエンジン1の場合には、ディーゼルエンジン1の1周期(1サイクル:吸気行程、圧縮行程、爆発行程、排気行程)、つまりクランク軸13が2回転(720°CA)する間に、68個のクランク角度信号(1パルス10°CA)が発生するように、タイミングロータ24の外周面に、10°(20°CAに相当する)毎に凸状歯26が、上述のように設けられている。
【0032】
そして、ECU9は、クランク角度センサ4のクランク角度信号の間隔時間を計算することで、ディーゼルエンジン1の各気筒の爆発行程毎の瞬時回転速度を算出し、BTDC90°CA〜ATDC90°CA間のクランク角度信号の間隔時間の最大値をこの気筒の瞬時回転速度の最小回転速度として読み込む。また、BTDC90°CA〜ATDC90°CA間のクランク角度信号の間隔時間の最小値をこの気筒の瞬時回転速度の最大回転速度として読み込む。
【0033】
そして、ECU9は、これらの計算を各気筒毎に行った後に、図2および図3に示したように、各気筒毎の最大回転速度と各気筒毎の最小回転速度との回転速度差を計算することで、各気筒毎の燃料噴射に同期して発生する各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を検出または算出する。ここで、図2は低負荷、低回転での走行時に全気筒が正常なディーゼルエンジンの各気筒の爆発行程毎の回転速度変動の挙動を示した図で、図3は第1気筒#1で無噴射故障が発生したときの各気筒の爆発行程毎の回転速度変動の挙動を示した図である。
【0034】
そして、カム角度センサ5は、ディーゼルエンジン1のカム軸23に固定された磁性体製のタイミングロータ(シグナルロータ)27、このタイミングロータ27の周面に対向するように配置された電磁ピックアップコイル28、および磁束を発生させる永久磁石(マグネット)等で構成された電磁式回転センサで、カム軸23の回転角度を検出する。タイミングロータ27には、所定角度毎に凸状歯29が複数個配置されている。
【0035】
また、ECU9は、アクセルペダルの踏込み量(アクセル開度)を測定するアクセル開度センサ30、およびディーゼルエンジン1の冷却水温度を検出する冷却水温センサ31等からセンサ信号を入力するように構成されている。そして、ECU9は、アクセル開度センサ30の検出値であるアクセル開度(ACCP)とクランク角度センサ4からのクランク角度信号より検出(演算)したエンジン回転速度(NE)と冷却水温センサ31の検出値である冷却水温度(THW)から燃料噴射量を算出し、算出した燃料噴射量を達成するために、運転状態毎にコモンレール17内の燃料圧力から算出された開閉指令で各インジェクタ2を駆動する。これにより、ディーゼルエンジン1が運転される。
【0036】
なお、ECU9は、車両の走行速度(車速)を測定するための車速センサ32から車速信号が入力するように構成されている。ここで、インジェクタ2を開弁するために用いられた燃料は、リリーフ配管としてのリターン配管33を経て燃料タンク15へ戻される。そのリターン配管33には、燃料温度を測定する燃料温度センサ34が搭載されている。この燃料温度センサ34は、検出精度を上げるために各インジェクタ2のリターン配管33の集合部分にできるだけ近い位置に搭載するのが望ましい。
【0037】
ディーゼルエンジン1の運転中に、シリンダ10内で燃焼した排気ガスは、排気管35を通り、バリアブルノズルターボ(VNT)36のタービンの駆動源となった後に、触媒(図示せず)、マフラー(図示せず)を経て排出される。上記のバリアブルノズルターボ36の制御は、吸気圧センサ47の信号とVNT駆動量センサ37の信号とに基づいて行われる。過給された吸入空気は、吸気管38を経てシリンダ10内へ導入される。そして、吸気管38の途中には、絞り弁(スロットルバルブ)39が配設され、このスロットルバルブ39の開度は、ECU9からの信号により作動するアクチュエータ40によって調節される。
【0038】
また、本実施例の吸気管38には、排気管35を流れる排気ガスの一部の排気再循環ガス(EGRガス)を吸気管38へ導く排気ガス還流管41が接続されている。そして、排気ガス還流管41の入口には、排気ガス再循環装置用バルブ(EGRバルブ)42が設置され、排気ガス還流管41の途中には、EGRガスを冷却するためのEGRガスクーラ43が設置されている。したがって、シリンダ10内に吸い込まれる吸入空気は、エミッションを低減するために運転状態毎に設定された排気ガス還流量(EGR量)になるようにEGRバルブ42の開口度を制御され、排気管35からの排気ガスとミキシングされることになる。なお、EGR量は、吸気量センサ44と吸気温センサ45とEGRバルブ開口度センサ46からの信号で、所定値を保持できるようにフィードバック制御している。
【0039】
〔第1実施例の故障検出方法〕
次に、本実施例のディーゼルエンジン1のインジェクタ故障検出方法を図1ないし図9に基づいて簡単に説明する。ここで、図4および図5はディーゼルエンジン1のインジェクタ故障検出方法を示したフローチャートである。
【0040】
イグニッションスイッチがON(IG・ON)されて、ディーゼルエンジン1が始動すると、図4のルーチンが起動する。そして、先ずステップS1において、ディーゼルエンジン1の運転状態がアイドル状態であるか否かを判定する。なお、アイドル回転速度は、例えば850rpm程度である。
そして、アイドル状態であると判定されると、ステップS2へ進んで、車速が「0km/h」であるか否かが判定され、車両が停止状態であるかどうかを判定する。
【0041】
上記ステップS2にて、車速が「0km/h」である場合、ステップS3に進み、気筒間の回転速度変動を平滑化するように各気筒毎への噴射量を個別に調整する気筒間の噴射量補正制御(不均量補償制御)を行う。この気筒間の噴射量補正制御では、ディーゼルエンジン1の各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を検出し、全気筒の回転速度変動の平均値と各気筒毎の回転速度変動の検出値とを比較して、この比較結果によって各気筒への噴射量を補正する。
【0042】
次に、ステップS4に進み、上記ステップS3にて実行された気筒間の噴射量補正制御における各気筒への燃料噴射量の補正量が所定範囲以内か否かを判定する。この判定結果がNOの場合、つまり補正量が所定範囲内であれば、再度ステップS1へ戻る。
【0043】
一方、ステップS4にて判定結果がYESの場合、つまり補正量が所定範囲外である場合には、ステップS5のインジェクタ故障気筒検出1へと進む。このステップS5にて、上記ステップS4にて予め設定された所定範囲の範囲外と判定された補正量が適用される気筒を異常気筒として検出する。
上記ステップにより、この異常気筒のインジェクタ2が無噴射故障または過剰噴射故障等の機能故障を起こしていると判断し、本ルーチンを終了する。
【0044】
また、ステップS1、S2にて、NOと判定されたときは、車両が走行中であると判断され、ステップS6に進み、上記ステップS3にて実行されていた気筒間噴射量補正制御を停止する。なお、この場合においても、気筒間の噴射量補正量の計算は継続しても良い。
【0045】
そして、ステップS7に進み、車両が定常走行中であるか否かを判定する。この判定は、例えば、アクセル開度センサ30のセンサ値であるアクセル開度(ACCP)が所定値を継続しているか否かを検出することによって判定される。なお、ステップS7において、車両が定常走行中でないと判定された場合には、再度ステップS1へ戻る。
【0046】
また、ステップS7において、車両が定常走行中であると判定された場合には、図5のステップS8〜ステップS14の処理によって、インジェクタ2の機能故障が発生しているか否かを判定し、インジェクタ2の機能故障が発生していると判断されたときには、複数個のインジェクタ2の内のどのインジェクタ2が機能故障しているかを特定する故障インジェクタ特定処理への許可を行う。
【0047】
本実施例では、ステップS8にて、先ずディーゼルエンジン1の各気筒の爆発行程毎の最大回転速度および最小回転速度を検出する。これは、図2に示すように、第1気筒#1〜第4気筒#4の爆発行程毎の最大回転速度max1〜max4および最小回転速度min1〜min4を、クランク角度センサ4からの出力値を用いて検出する。なお、各回転速度の添字は気筒番号を示す。
【0048】
次に、ステップS9に進み、上記ステップS8にて求めた各気筒毎の最大回転速度(max1〜max4)の中で、1サイクル内で最大を示した気筒の1サイクル最大回転速度Maxiを検出(算出)する。これと同時に、ステップS8で求めた各気筒毎の最小回転速度(min1〜min4)の中で、1サイクル内で最小を示した気筒の1サイクル最小回転速度Miniを検出(算出)する。ここで、上記Maxi、Miniの添字iは、第iサイクルを示している。また、上記1サイクルとは、本実施例では4気筒4サイクルエンジンを採用しており、第1〜第4気筒の各気筒の燃焼が一巡する期間である720°CAを示す。なお、爆発順序は、例えば図2に示すように、#1→#3→#4→#2である。
【0049】
次に、上述のMaxi、Miniは、具体的には下記数1の最大値選択および数2の最小値選択にて検出される。
【数1】
Figure 0004411769
なお、図3で示すサイクルでは、Maxiは第2気筒の最大回転速度max2が選択される。
【数2】
Figure 0004411769
なお、図3で示すサイクルでは、Miniは第3気筒の最小回転速度min3が選択される。
【0050】
次に、ステップS10に進み、ステップS9にて検出された1サイクル最大回転速度Maxiあるいは1サイクル最小回転速度Miniのどちらかを使用し、Maxi(あるいはMini)を示した気筒が所定サイクル(例えば、3サイクル)連続して同一気筒であるか否かを検出する。なお、この判定結果がNOの場合には、再度ステップS1へと戻る。
【0051】
一方、ステップS10にて、Maxi(あるいはMini)を示す気筒が所定サイクル連続して同一気筒であることが検出されたならば、ステップS11へ進む。
ここで、ステップS10にてYESと判定されるときには、同一の気筒でMaxi(あるいはMini)が所定サイクル連続して検出されることとなるため、ディーゼルエンジン1の回転速度変動に1サイクル(720°CA)周期の変動が発生していると判断できる。
【0052】
次に、ステップS11では、上記ステップS9にて検出されたMaxi(あるいはMini)を使用して、サイクル間偏差ΔMiを算出する。具体的には、下記数3の算出式を用いて、今回のサイクル(第iサイクル目)での1サイクル最大回転速度Maxiと前回のサイクル(第i−1サイクル目)での1サイクル最大回転速度Maxi−1との偏差を求めることにより、上記ΔMiを算出する。
【数3】
Figure 0004411769
【0053】
なお、ΔMiを1サイクル最小回転速度Miniを用いて算出するときには、下記数4の算出式の如く、今回および前回のサイクルにおける1サイクル最小回転速度を用いれば良い。
【数4】
Figure 0004411769
【0054】
そして、ステップS12に進み、上記ステップS11にて算出したサイクル間偏差ΔMiを用いて、このΔMiが所定サイクル連続して所定値(例えば、10rpm)内であるか否かを判定する。なお、この判定結果がNOである場合には、再度ステップS1へ戻る。
【0055】
一方、ΔMiが所定サイクル連続して所定値内であることが検出されたならば、ステップS13へ進む。
ここで、ステップS12にてYESと判定されるときには、サイクル間偏差ΔMiが所定値以内である状態が所定サイクル連続して検出されることとなるため、ディーゼルエンジン1の回転速度変動に、路面振動等によって発生するロードノイズの影響が加味されることで数サイクルにわたる長周期の変動成分が重畳した状態ではないことを判断できる。
【0056】
さらに、上記ステップS10およびステップS12でともにYESと判定された状態では、Maxi(あるいはMini)を示す気筒が同一であることが所定サイクル連続し、且つΔMiが所定値内であることが所定サイクル連続している状態となっているため、ディーゼルエンジン1の回転速度変動には、ロードノイズによる影響が極めて小さい1サイクル(720°CA)周期のうねりが発生していると判断できる。
【0057】
そして、ステップS13では、上記ステップS9にて検出された1サイクル中の1サイクル最大回転速度Maxiおよび1サイクル最小回転速度Miniとから、このサイクル内におけるサイクル内偏差Δiを下記数5の算出式にて算出する。
【数5】
Figure 0004411769
【0058】
そして、次のステップS14にて、ステップS13にて算出されたサイクル内偏差Δiが、所定値(例えば、10rpm)以上であるか否かを判定する。なお、NOと判定されたならば、1サイクル内で大幅な回転速度変動偏差が発生しないこととなるから、インジェクタ2の機能故障が発生していないと判断され、ステップS1へと戻る。
【0059】
一方、ステップS14にて、Δiが所定値以上であると判定された場合には、1サイクル内において、ある気筒におけるインジェクタ2の無噴射故障、あるいは噴きっぱなし故障が発生している可能性があると判断できる。
その上、上述したように、ステップS10、S12が成立して、ロードノイズによる影響が極めて小さい1サイクル(720°CA)周期のうねりが、ディーゼルエンジン1の回転速度変動に発生していると判断されているため、この状態でステップS14にて、Δiが所定値以上であると判定されたときには、上記1サイクル周期のうねりが所定値以上であると判断することができる。したがって、インジェクタ2の機能故障(例えば、無噴射故障)が発生していると確実に判断できる。
【0060】
そして、ステップS14にてYESと判定された場合、図4のステップS15の故障インジェクタ特定処理へと進む。つまり、上述のステップS8〜S14におけるインジェクタ機能故障検出処理によって、インジェクタ2の機能故障が発生していると判断されたならば、上記ステップS15における故障インジェクタ特定処理の実行を許可するのである。
【0061】
ここで、例えば1気筒のインジェクタが無噴射故障しその気筒で失火が生じた場合、各気筒での燃料噴射に同期した回転速度変動、すなわち、各気筒の爆発行程毎の回転速度変動に、720°CAに代表される1サイクル周期のうねりが発生する(図7参照)。また、ロードノイズによる影響を受けると、10Hz以下の更に大きなうねりが、ディーゼルエンジン1の回転速度変動に加算されることが我々の実験の結果分かっている(図6参照)。
【0062】
すなわち、720°CAに代表される1サイクル周期のうねりが観察され、且つその1サイクル周期のうねりがサイクル間で変動が無いことが観察された場合には、インジェクタが1本機能故障(例えば無噴射)しており、且つロードノイズの影響が無い可能性が非常に高いと予測できることを、我々は鋭意研究によって見い出した。
【0063】
そして、上述の1サイクル周期のうねりがサイクル間で変動がない状態、つまり、インジェクタ2の機能故障が発生している状態を、図5のステップS8〜S14におけるインジェクタ機能故障検出処理にて判断できるのである。
【0064】
次に、上記インジェクタ機能故障検出処理にて、インジェクタ2の機能故障が発生していると判断されると、上述したように、図4のステップS15における故障インジェクタ特定処理への実行が許可される。この故障インジェクタ特定処理は、以下のような演算・比較処理によって故障インジェクタを備える異常気筒を特定しても良い。例えば、ある気筒の爆発行程毎の回転速度変動偏差が他の気筒の爆発行程毎の回転速度変動偏差に比べて所定値以上大きい、または小さい場合にその気筒を異常気筒として特定する。あるいはある気筒の瞬時回転速度の最大値または最小値の偏差が他の気筒の瞬時回転速度の最大値または最小値の偏差に比べて所定値以上大きい、または小さい場合にその気筒を異常気筒として特定する。
【0065】
すなわち、各気筒への燃料噴射に同期して発生する回転速度変動の最大値と最小値との偏差で、気筒毎の燃焼エネルギーを求め、各気筒間で比較し最も偏差が大きい、または小さい気筒を異常気筒と特定する。ここで、インジェクタ2の故障診断方法として、計算は実行しているが実際に制御していない噴射量補正量が最も大きな気筒を異常気筒と診断しても良いことは言うまでもない。
【0066】
〔第1実施例の特徴〕
ここで、ディーゼルエンジン1の各気筒のシリンダ10内への燃料噴射量が同一噴射量の時には、各気筒の爆発行程毎の回転速度変動は、図2に示したように、同じ挙動を示している。すなわち、各気筒の瞬時回転速度の最大値と最小値との偏差(回転速度変動)は、同じ挙動を示している。
【0067】
しかし、複数個のインジェクタ2の中で無噴射故障を起こしている故障インジェクタが存在する場合には、無噴射故障を起こしている異常気筒(故障気筒)内に燃料を噴射しないため、燃焼が生じることはなく、気筒内圧力も上昇しない。そのために、1サイクルにおける各気筒の爆発行程毎の回転速度変動は、図3に示したように、1サイクル内の最大回転速度を示す気筒(図3では気筒#2)の最大回転速度(Maxi)と1サイクル内の最小回転速度を示す気筒(図3では気筒#3)の最小回転速度(Mini)とのサイクル内偏差ΔMiの大きい挙動を示す。
また、ロードノイズの影響が、ディーゼルエンジン1の回転速度変動に重畳した場合、図6に示したような、10Hz以上の大きな周波数の回転速度変動が加味される。
【0068】
我々発明者は、ロードノイズが無い状態で、1気筒のインジェクタ2の無噴射故障が生じた場合、サイクル間偏差の無い720°CAのうねりが回転速度変動に生じることを見い出した。つまり、クランクアングル(CA)に対応する回転速度の関係が連続することになる(図7参照)。この720°CA周期のうねりのある回転速度変動が連続して観察できた場合には、ロードノイズの影響が極めて小さいと予測することができる。そして、▲1▼1サイクル内における最小回転速度(Mini)と最大回転速度(Maxi)とのサイクル内偏差Δiを算出し、このΔiが所定値(例えば10rpm)以上であることが検出された場合には、インジェクタ2の機能故障(無噴射故障または過剰噴射故障等)、あるいは燃焼不良、あるいは噴射量制御系の不具合が発生している可能性が高いと判断できる。
【0069】
▲2▼1サイクル内で最大回転速度(Maxi)または最小回転速度(Mini)を示す気筒を検出し、その気筒が所定サイクル連続して同一気筒であることを検出し、且つ▲3▼サイクル間の最大回転速度(Maxi)または最小回転速度(Mini)のサイクル間偏差ΔMiが所定値(例えば10rpm)内であることを検出していれば、1サイクル周期の安定したうねりが回転速度変動に生じていると予測できるので、自動車等の車両が走行中であってもロードノイズの影響が無いまたは非常に小さいと判断することができる。
【0070】
以上、▲1▼、▲2▼、▲3▼の3つの条件が所定サイクル連続した時には、ロードノイズの影響が無く、且つインジェクタ2の機能故障が生じている可能性が高い状態であると予測することができる。上記の3つの条件が成立した時に、複数の気筒の中から異常気筒を特定することで、自動車等の車両が走行中であっても、ロードノイズの影響を受けることなく、精度良く異常気筒(故障気筒)を検出することができる。言うまでもなく、▲1▼、▲2▼、▲3▼の成立順序は変化しても良く、3つの条件全てが成立することが必要である。
【0071】
ここで、1サイクル周期の安定したうねりが回転速度変動に生じていることを検出する場合には、各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を周波数分析することで検出することが可能である。しかし、周波数分析は、ECU9への計算負荷が大きく、現実的ではない。そのために、本実施例では、計算負荷が小さく、簡便に1サイクル周期の安定したうねりが回転速度変動に生じていることを検出する方法を提案している。
【0072】
特定の気筒でインジェクタ2の無噴射故障が生じている場合、図8に示すように、720°CA周期のうねりが回転速度変動に生じる。このとき、1サイクル内で最大回転速度または最小回転速度を示す気筒は、サイクル毎で同じはずである。そのために、1サイクル内で最大回転速度または最小回転速度を示す気筒が同一気筒であることが所定サイクル以上連続して検出された場合には、720°CA周期のうねりが回転速度変動に生じていると推定することができる。これにより、簡便に計算負荷の増加無しで、720°CA周期のうねりを検出できる。
【0073】
また、ロードノイズが回転速度変動に影響を及ぼしていれば、10Hz以下の振動数、つまり大きな周期のうねりが回転速度変動に加算されることになる(図6参照)。そして、ロードノイズの影響があるか否かは、サイクル間の最大回転速度(Maxi)または最小回転速度(Mini)のサイクル間偏差ΔMiを検出することによって検出できる。その検出方法として、サイクル間の回転速度の平均値または積算値を算出し、サイクル間で比較する方法が考えられるが、平均値または積算値をサイクル間で比較する方法は、差が明確に現れ難い。つまり、他の正常な気筒の回転速度も加えて平均化するのはその出力の精度を低下させる可能性がある。
【0074】
そのために、最大回転速度(Maxi)または最小回転速度(Mini)のみで、サイクル間偏差を算出する方法を用いると、精度良くサイクル間偏差を検出できるのは明らかである。つまり、連続して同一気筒が最大回転速度(Maxi)または最小回転速度(Mini)を示したときのサイクル間偏差が所定値以下であることを検出することで、精度良くサイクル毎の回転速度変動を検出することができる。
【0075】
〔第1実施例の効果〕
本実施例のディーゼルエンジン1のインジェクタ故障検出方法においては、インジェクタ2が故障すると、720°CAの大きなうねりが回転速度変動に付加されることに着目することで、720°CAの安定したうねりが回転速度変動に生じていることを観察できる場合、インジェクタ2が必ず機能故障(例えば無噴射故障または過剰噴射故障)しており、且つロードノイズの影響が小さい可能性が高い運転状態であると的確に予測することができる。このときに、インジェクタ2の機能故障の検出を行うことにより、複数個のインジェクタ2の中から故障インジェクタの検出を高精度に実施することができる。
【0076】
また、既存のクランク角度センサ4の出力信号(クランク角度信号)を用いて、指定した所定の凸状歯26間の経過時間を測定することで、各気筒毎の回転速度変動を時間変化として検出することができる。これにより、既存のクランク角度センサ4のセンサ信号を使用できるために、比較的に簡単に各気筒毎の回転速度変動を検出することができる。したがって、インジェクタ故障検出のロジック回路を簡便化できる効果を備える。
【0077】
また、インジェクタ2の機能故障の検出を行う場合、気筒間の噴射量補正制御を行うと誤検出につながる。そのために、インジェクタ2の機能故障の検出を行う場合には、気筒間の噴射量補正制御を停止または禁止させることで、インジェクタ2の機能故障の検出精度を向上することができる。なお、以上の記述は無噴射故障で説明したが、噴きっぱなしによる過剰噴射故障の時も同様に検出できるのは言うまでも無い(図9参照)。
【0078】
以上、異常気筒、例えば特定気筒のインジェクタ2の機能故障の検出を実行するか否かを判定する条件を記載した。次に、更なる故障インジェクタを特定する方法について記載する。ディーゼルエンジン1の各シリンダ10内では、各インジェクタ2からの燃料噴射によって燃焼が生じるが、一般的には回転速度変動ははずみ車やフライホイール等の慣性に大きく依存することが知られている。
【0079】
特に、各気筒の燃焼エネルギーは、{(dmaxi/dθ)2 −(dmini/dθ)2 }(但し、i=1,2,3,4(気筒番号))で近似できる(図2参照)。その気筒毎の燃焼エネルギーを算出し、気筒間で比較することで、他の気筒と最も偏差の大きい気筒を、異常気筒と特定することができる。そして、上述した異常気筒の特定処理を実行するか否かを判定する3つの条件が成立していれば、ロードノイズの影響が無い状態で、各気筒の燃焼エネルギーを検出することができるので、高精度に故障インジェクタの検出を実施することができる。
【0080】
そして、各気筒の燃焼エネルギーの検出に当たり、筒内圧センサ等の気筒別発生トルクを推定する気筒別発生トルク推定手段を利用しても良い。各気筒毎に発生する実際のトルクを推定するために、高精度に故障インジェクタの検出を実施することができる。
【0081】
〔第2実施例〕
図10および図11は本発明の第2実施例を示したもので、図10および図11はディーゼルエンジン1のインジェクタ故障検出方法を示したフローチャートである。
【0082】
本実施例では、図11に示したように、第1実施例とはステップS11、S12が異なるのみであり、上記ステップS11、S12に代わるステップS111、S121について説明する。
【0083】
このステップS111では、先ず、1サイクルの平均回転速度を算出する。具体的には、一般的な4気筒ディーゼルエンジンであれば、180°CA間の時間変化を各気筒毎の回転速度として算出しているため、この回転速度情報を利用する。そして、1サイクル内の算出された各気筒の回転速度を平均化することによってサイクル内の平均回転速度を算出する。
そして、このサイクル内平均回転速度と、次回のサイクルで算出されるサイクル内平均回転速度との偏差をサイクル間偏差ΔM’iとして算出する。
【0084】
次に、ステップS121に進み、上記ΔM’iが所定サイクル連続して所定値以内であるか否かを判定する。この実施例では、上述の如く、既存のエンジン回転信号を使用することができるために、新たな計算は不要となるという利点がある。
【0085】
〔変形例〕
本実施例では、多気筒内燃機関として4気筒のディーゼルエンジン1を適用した例を説明したが、多気筒内燃機関として2気筒、6気筒または8気筒以上のディーゼルエンジンを採用しても良い。また、多気筒内燃機関として2気筒以上のガソリンエンジンを採用しても良い。この場合には、インジェクタ等の電磁式燃料噴射弁は、各気筒の吸気ポートよりも上流側の吸気管に取り付けられる。
【0086】
さらに、上述のインジェクタ機能故障検出処理によって、インジェクタ2に機能故障が発生していると判断されたときには、運転者等へその故障発生の旨を伝達するための、視覚表示または聴覚表示するランプやブザーを備えるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】ディーゼルエンジン用蓄圧式燃料噴射システムの全体構成を示した概略構成図である(第1実施例)。
【図2】低負荷、低回転での走行時に全気筒が正常なディーゼルエンジンの各気筒の爆発行程毎の回転速度変動の挙動を示した図である(第1実施例)。
【図3】第1気筒#1で無噴射故障が発生したときの各気筒の爆発行程毎の回転速度変動の挙動を示した図である(第1実施例)。
【図4】ディーゼルエンジンのインジェクタ故障検出方法を示したフローチャートである(第1実施例)。
【図5】ディーゼルエンジンのインジェクタ故障検出方法を示したフローチャートである(第1実施例)。
【図6】各気筒毎の回転速度変動にロードノイズを原因とする大きなうねりが加算した状態の挙動を示した図である(第1実施例)。
【図7】各気筒毎の回転速度変動に1サイクル周期のうねりが加算した状態の挙動を示した図である(第1実施例)。
【図8】各気筒毎の回転速度変動に720°CA周期のうねりが生じた状態の挙動を示した図である(第1実施例)。
【図9】異常噴射気筒を有するディーゼルエンジンの各気筒毎の回転速度変動の挙動を示した図である(第1実施例)。
【図10】ディーゼルエンジンのインジェクタ故障検出方法を示したフローチャートである(第2実施例)。
【図11】ディーゼルエンジンのインジェクタ故障検出方法を示したフローチャートである(第2実施例)。
【符号の説明】
1 ディーゼルエンジン(多気筒内燃機関)
2 インジェクタ
4 クランク角度センサ(回転速度検出手段)
9 ECU(多気筒内燃機関の異常気筒検出装置)
10 シリンダ
13 クランク軸
26 凸状歯

Claims (5)

  1. 各気筒毎に燃料を噴射するインジェクタが取り付けられた多気筒内燃機関の異常気筒検出装置において、
    前記多気筒内燃機関の各気筒の爆発行程毎の最大回転速度および最小回転速度を検出する回転速度検出手段(ステップS8)と、
    前記各気筒の爆発行程毎の最大回転速度の中で前記各気筒の燃焼が一巡する1サイクル内で最大を示した最大回転速度または前記各気筒の爆発行程毎の最小回転速度の中で前記各気筒の燃焼が一巡する1サイクル内で最小を示した最小回転速度を検出する手段(ステップS9)と、
    前記1サイクル内で最大を示した最大回転速度または前記1サイクル内で最小を示した最小回転速度を示す気筒が所定サイクル連続して同一の気筒であることを検出する手段(ステップS10)と、
    前記1サイクル毎の前記最大回転速度または前記最小回転速度または前記多気筒内燃機関の全気筒の回転速度変動の平均値である平均回転速度または所定のクランク角度の回転速度のサイクル間偏差を検出するサイクル間偏差検出手段(ステップS11)と、
    前記1サイクル内で最大を示した最大回転速度と前記1サイクル内で最小を示した最小回転速度とから、前記1サイクル内での最大回転速度と最小回転速度との偏差であるサイクル内偏差を検出するサイクル内偏差検出手段(ステップS13)とを備え、
    前記サイクル内偏差検出手段にて検出された前記サイクル内偏差が所定値以上であると判定され、さらに、前記サイクル間偏差検出手段にて検出された前記サイクル間偏差が所定値以内であり、且つこの所定値以内であることが所定サイクル連続して検出されたときには、前記各気筒に設けられたインジェクタに機能故障が発生していると判断し、この機能故障が発生しているインジェクタを特定する故障インジェクタ特定処理の実行を許可する許可手段を備えたことを特徴とする多気筒内燃機関の異常気筒検出装置。
  2. 前記回転速度検出手段は、前記多気筒内燃機関のクランク軸の回転角度を検出するクランク角度センサを有し、
    このクランク角度センサで検出される所定の凸状歯間の経過時間を測定することで、前記各気筒の爆発行程毎の回転速度変動を時間変化として検出することを特徴とする請求項1に記載の多気筒内燃機関の異常気筒検出装置。
  3. 前記許可手段により、前記故障インジェクタ特定処理の実行が許可されたとき、前記故障インジェクタ特定処理は、前記1サイクル内での各気筒の爆発行程毎の回転速度変動、または前記1サイクル内での各気筒の爆発行程毎の燃焼エネルギー、または前記1サイクル内での各気筒の発生トルクの偏差を気筒間で比較する比較手段により、最も偏差の大きいまたは小さい気筒のインジェクタが故障インジェクタであると特定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多気筒内燃機関の異常気筒検出装置。
  4. 前記各気筒に設けられたインジェクタに機能故障が発生しているか否かを判定するときには、気筒間の噴射量補正制御を禁止することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の多気筒内燃機関の異常気筒検出装置。
  5. 前記各気筒に設けられたインジェクタに機能故障が発生していることを視覚表示または聴覚表示する表示手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の多気筒内燃機関の異常気筒検出装置。
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